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トップページモバマス > ワタシが如何にして美穂さんの前でボクに戻ってしまうのか

1: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:43:55 ID:lPa


※それなりに百合です。なので、多少のキャラ崩れを含みます。
※独自設定が多量にあります。



2: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:44:26 ID:lPa


「幸子ちゃん、そこに正座をして」

 自宅に帰ってきた途端に、突然美穂さんにそんなことを言われたので当然ボク──こほん、ワタシは困惑した。正座って、ここは玄関なんですが。玄関前で帰りを待っていてくれたという意味で考えると凄く嬉しいんですけれど、いや、とは言え玄関で正座はさすがにちょっと。
 しかし、どうにもワタシは美穂さんに逆らうことができないので、とりあえず靴を脱いで正座をしようとすると、座布団を玄関に敷いてくれた。天使ですか。
 どうでもいいですが、美穂さんのエプロン姿がとても可愛い。天使ですね。

 美穂さんは正座をするワタシに顔を近づけてきて、じっと目を見据える。
 まっすぐな眼差しに、ちょっと顔を逸らしたくなる。よくわからない気恥ずかしさが半分と、ナニかをしでかしてしまいそうだ、という自己抑制のために。
 ナニカって何か、なんでしょうね。


3: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:45:00 ID:lPa


 美穂さんが通う大学と同じ、都内の大学に入学が決まって以来、ワタシと美穂さんは同居を始めたが、一緒に暮らし始めてからこんなことは初めてのことだ。
 いや、エプロン姿でお出迎え、ということ自体は珍しくはないんですけどね。
 卒業に必要な単位も十分に取得できていて、アイドル、女優としての活動が安定しているから就職活動も必要ない美穂さんには時間的な余裕が比較的、一年生であるワタシと比べてあるので、ご飯を作って待っていてくれるということはよくあることです。羨ましいでしょう。

 ただ、さすがに自宅に帰ってきた途端に正座をさせられる、なんてことは初のことでした。
 記憶している限りでは、人生において初めてであることは間違いないかと。


4: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:45:30 ID:lPa


「幸子ちゃん、なんで正座させられているかわかる?」

 口調はけっしてキツくない。状況だけを整理して考えてみれば、語気は荒く強くなりそうなものですが、美穂さんの言い方は優しく諭すときのようなものである。なんとなく、優しいお母さんになりそうだな、と思った。

「そうですね……正座している姿もカワイイからですかね?」

「幸子ちゃんはいつでもどんなときでも可愛いけど、違うよね?」

 もちろん、そんな理由ではないだろうなとは思ってはいた。ワタシがカワイイのはもちろんのことですが、美穂さんはそんなことと正座が繋がる突飛な思考回路をしているような人ではない。
 もしかするとこの広い世界ではそんな人もいるのかもしれないですが、少なくとも美穂さんは違います。


転載元:ワタシが如何にして美穂さんの前でボクに戻ってしまうのか
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1502088235/

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5: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:46:13 ID:lPa


 考えてみると心当たりが……まあ、ないわけではない。正直、大有りです。

 腕時計を見てみる。時間は既に午後の十時、シンデレラの魔法が解ける時間まであと二時間だと考えれば、少し遅いかもしれない。子供であれば、早苗さんに補導されてしまうこともあるだろう。
 もちろんワタシは子供ではないので補導なんてされませんが。結局十四歳の頃から一切身長が伸びず、142,sはズッ友であり永遠のユニットとなっていますけれど、子供と勘違いはされません。

 確かに、少し帰りが遅くなってしまった自覚はあります。朝出掛ける際には講義だけなので早く帰るとも伝えていましたから、そういう意味では美穂さんが怒るのもわからない話ではないです。
 とはいえ、急な仕事で遅くなることだってよくあるわけなんだから、そのたびにこんなことをしてきたわけではないので、やっぱり時間だけが理由ではない、というのも推測はつきます。

 あるとすれば、遅くなった理由──つまり、急に友人に誘われてサークルの飲み会に行ったこと自体、なんでしょう。


6: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:46:47 ID:lPa


「……未成年なのに飲み会に行ったことは反省してます。あ、でも、お酒は一滴も飲んでいないので!」

「幸子ちゃんと最初に一緒にお酒を飲むのは私だからね。でもそれは、正座をしてもらっている理由とは少し違うかな」

 どうやら違ったらしい。しかし、少し違うと言っているので、当たらずとも遠からず、ということなのかもしれない。
 ちなみに、美穂さんはかなりの酒豪で、何杯飲んでも顔が少し赤らむくらいでほぼシラフと変わらないです。あの楓さんとサシで飲み合ってもけっして負けていないと評判なので、本当に凄い。
 さすが九州女子、熊本女子。けど、なんとなく同じ熊本出身の蘭子さんはすぐに潰れてしまいそうなイメージですね。


7: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:47:25 ID:lPa


 少し違う、か──うん、さっぱりわかりませんね!
 てっきり良識的な美穂さんのことですから、未成年の身でありながら飲み会という行事に参加してきたこと自体を咎めるつもりだとばかり思っていました。
 一滴も飲んでいないことはカワイイ自分自身に誓って断言できることではありますが、しかし、参加してしまった以上はいくら口で誓ってみたところで本当かどうかは真相は闇の中ですし。

 ………………。素直に、聞くべきか。

「ごめんなさい、美穂さん。全然わかりません!」

 正座のまま頭を下げるその姿はまさしく土下座だ。カワイイワタシの土下座なんてそう見れないものです。土下座をするワタシもカワイイですね!
 なんて、この場で言えるわけがない。さすがに、土下座をしてそんなことを言えるほどに肝は座っていない──いや、或いは十四歳の頃のワタシであれば言っていた可能性があるけれども、良くも悪くも、年を重ねてしまっていた。
 年齢を重ねるごとに当時持っていた無敵とも言える万能感は落ち着きを見せるものらしく、ワタシだってその例外ではなかった。ボクがボクでなくなったように、ワタシがワタシになったように。
 なんてことはない、単純なことだ。
 空気を読む、ということが自然とできるようになっただけのことです。

 もちろん、ワタシがカワイイことは間違いない、疑いようのない事実ですが。


8: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:48:08 ID:lPa


 恐る恐る顔を上げてみる。美穂さんの顔にあるのは、怒りか、呆れか。美穂さんのことだから、仕方ないなあ、と困り笑いだろうか。なんて、軽い反応を期待していた。しかし、そんなワタシの予想は、予想もしないものに裏切られる。
 ──美穂さんの表情に浮かんでいたものは、困惑そのものだった。
 答えられなかったことに対する失望でもなく、怒りでもない。困惑。答えがわからないことに対するものだろうか。いや、それなら怒りが混じるはずだ。

「……あの、美穂さん?」

 たまらず、声をかける。しかし反応はなく、ふむ、と美穂さんは首をかしげてから、「まあいいや」と呟いて、

「あ、正座はもういいよ。そうだ、お夜食があるの。塩辛のパスタなんだけどね、これがすっごい自信作なんだ!」

 と、言った。
 夜食に塩辛パスタという絶妙なチョイスは、なんとも美穂さんらしい。美味しそうだと想像したらお腹の虫がと鳴ったので、美穂さんは楽しそうに笑った。
 飲み会ではお酒は飲まず、烏龍茶と枝豆をひたすら処理する機械と化していたので夜食は大変にありがたかった。

 ……しかし、結局美穂さんが何に対して、どんな気持ちを抱いていたのかわからないまま、微妙なモヤモヤを抱えて、ワタシは夜は過ごすことになるらしい。
 軽いノリと、あまり気にしていなさそうな様子から、大したことではなかったのかもしれないし、はたまた、そもそもなんでそんな怒っていたのかもすっかり忘れてしまっただけなのかもしれない。
 ぽやぽやした美穂さんなら、そんなにはおかしくない気もする。なんて。


9: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:48:51 ID:lPa






「ということがあってね。幸子ちゃんがわからないって言って、そういえば何がこんなにむかっとしちゃうのかなあ、ってなったんだ。お腹がすいてたのかも」

「美穂。それって、嫉妬じゃないの?」

「シット?」

 先日、幸子ちゃんが飲み会に参加してきた日のことをマスカレ定例会議(という名のお喋り会)で話題にしてみたところ、加蓮ちゃんが思いがけない言葉を出したので、発音がおかしくなった。
 オーマイゴッド、シットだぜ。
 みたいな感じ。……ニュアンスは伝わるはず、だよね?
 私の発音がどこかツボに入ったのか李衣菜ちゃんは、

「あはははははげほげほ! うぇ」

 大笑いをして、ムセていた。顔も真っ赤で、すっかりできあがっている。
 定例会議という名のお酒を飲む場は今日も李衣菜ちゃんが真っ先に潰れてしまいそうだ。いつものことだけど。ロックだからウイスキーはロックで、というのが李衣菜ちゃんのポリシーらしい。
 李衣菜ちゃんのロックの定義は、素敵だと思っているものだとは知っているけど、とは言えたまに定義ズレをしている気がする。岩ってロックだよね、みたいな。
 お酒はちびちびと、お猪口にちょこっとで味わいながら楽しむに限ります。


10: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:49:32 ID:lPa


「もう、李衣菜ちゃん。ちょっと飲み過ぎですよ?」

「ええー、そんなことないよー」

「そんなことありますっ。ほら、お水を飲んでください」

 キッチンからおつまみとコップ一杯のお水を持ってきたエプロン姿の智絵里ちゃんが李衣菜ちゃんを諭す。
 大学入学から始めた同居生活も四年目となった二人は、さすがに板についている。まるで長年連れ添った夫婦のようだ、とは加蓮ちゃんの言葉だ。

 それにしても、嫉妬って、と思ったけど、ちょっとだけ考えてみて。
 なるほど、と思った。少しだけ納得のいく考えが浮かんだ。
 わからなくはないかもしれない。

 幸子ちゃんと一緒に暮らしだして、私たちとは違う人たち、新しい、大学でのお友達との付き合い。知らない誰かと仲良くしているということに、どこか面白くない気持ちがあったのかもしれない。
 仲の良いお友達が、違うお友達と楽しくしているとモヤモヤしてしまうということは、往々にしてよくあることだ。
 それはそれでこう、私自身のちっちゃな心に自己嫌悪してしまうけども……新しい環境に馴染んでいく幸子ちゃんを認められないということなのだから。


11: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:50:13 ID:lPa


「うふふ、幸子ちゃんと美穂ちゃんは仲良しですからねぇ。それに、独占欲というものは誰にでもあるものですよ。ね、智絵里ちゃん?」

「そ、そうかもしれないね?」

「思い出しますねぇ、あの日の智絵里ちゃん。一人相撲で慌てている姿は、おもしろ、もとい可愛らしかったですよ」

「ま、まゆちゃん! おこるゆ!?」

 智絵里ちゃんとまゆちゃんの李衣菜ちゃんを巡ったいざこざという名の、よくできたコントのような勘違い劇のことは、智絵里ちゃんにとっては少し恥ずかしい出来事として記録されてるみたい。
 まあ、わからなくもない。というか、それはそうだよね、としか言えない。
 何せあんな目立つところで、あんな凄いことを言っちゃったのだから。智絵里ちゃんの、いざというときの性根の座りかたは、熊本女子から見ても凄い。


12: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:50:50 ID:lPa


 それはともかく。

 幸子ちゃんへの独占欲というものを私が持っているという事実に、ストンと落ちてくるものがあるのと同時に、やはり自分に対する嫌な思いや、幸子ちゃんへの罪悪感というものを感じてしまう。 
 この間は私の身勝手な感情のせいで幸子ちゃんには悪いことをしてしまった。
 お詫びになるかわからないけれど、今度何か美味しいご飯を作ってあげよう。それから、ごめんなさいも一緒に。

「あーあ、私も奈緒や凛にたまにはヤキモチ妬かれてみたいなー。幸子が羨ましいよ、愛されちゃって」

「あ、愛されてって! 変な言い方しないでくださいっ。も、もう、加蓮ちゃん、あまりからかうとダメなんだから」

「あはは、ごめんごめん。美穂は昔も今も、変わらず反応が可愛いなぁ」

 一切悪びれない謝りかたに、溜め息を吐く。まったく、昔も今も、加蓮ちゃんのこういうところは変わらない。
 からかわれてばかりの私だ。それが嫌だというわけではなくて、恥ずかしさの反面、楽しくもあるのだけど。

「ん、焼き餅ー? 私は砂糖たっぷりの砂糖醤油がいいなー!」

「李衣菜ちゃん、アイドルがそんなもの食べてたら太りますよ?」

「じゃあまゆちゃんのお餅食べるー」

「だ、だめです李衣菜ちゃん! 食べるならせめて私の──そ、そんな大きくないかもしれないけれど……っ」

 とりあえず、みんな飲み過ぎです。


13: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:51:30 ID:lPa






「このあいだはごめんね。少し嫉妬しちゃってたみたい。嫉妬というか、独占欲というか。幸子ちゃんは私だけの幸子ちゃんでもないのにね」

 あくる日のことだった。美穂さんが食事中に、何気なく謝ったのだから、ワタシは頭にはてなマークを浮かべていた。
 何のことか──美穂さんから謝られるようなことをされた記憶が一切なかったので、むしろ何かやらかしているとすればこちらだとすら思っているのに。
 嫉妬とか、独占欲とか。果たして美穂さんにはおよそ似つかわしくない言葉が出てきていた気がするが、恐らくそれはワタシの希望的観測でしかない。美穂さんにヤキモチを妬かれたい願望だ。
 ぷくっと頬を膨らまして「幸子ちゃんは私のものだもん」なんて、そんなことを言う美穂さんはワタシが寝る前に何度もしてきたような、ただの妄想だ。
 まったく、ボクのカワイさは美穂さんも惹き付けてしまいましたか、自分のカワイさが怖くなっちゃいますよ。……なんてこと、昔のワタシであれば言っていたかもしれないなあ、と漠然と思った。

「ええっと、美穂さん。すみませんが全力でほっぺたをひっぱたいてもらってもよろしいですか?」

「突然どうしたの幸子ちゃん!?」


14: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:52:16 ID:lPa


「いえ、今が夢かどうか確認したくて」

「たぶん確認するにしても、軽くつねったりとか、もう少し痛くないやりかたがあると思うけどなあ……」

 ちょっとやそっとの衝撃では覚めなさそうだったので。

「美穂さんから嫉妬なんて言葉が出てくるなんて、なんだからしくないと思いまして……その、どうしてまた」

「どうしてと言われると、その……怒らないでね?」

 モジモジとしながら顔を下に向けて、上目遣いにこちらを見ながら、『怒らないでね?』なんて言うので、ワタシは、

「も、もちろんですよ!」

 無駄に大きく返事をしてしまった。
 無性に庇護欲の湧いてくる姿が、どうにも愛くるしい。年上であるということを忘れてしまうほどの、小動物的な可愛さには、カワイイことに自負のあるワタシをしても、やはり美穂さんは可愛いなと思わされてしまう。
 作らない自然な可愛さを持っていて、そのくせにしっかりとした芯が一本まっすぐに通った人なのだから、反則だ。
 そんな美穂さんだから、嫉妬なんて言葉は意外でしかなかったし、どんな理由であれ、笑うなんてことはないと断言できるのだけど。


15: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:52:58 ID:lPa


「えっと……幸子ちゃんってやっぱり可愛いし、人気者だし、だから大学でもお友達たくさんできてるよね」

「そうですねぇ。やっぱりカワイイですから、仕方ないですね。ふふ、これもカワイくて人気者なワタシの宿命です」

「うん。仕方ないことだし、それは喜ばしいことだよね。だけど、私は幸子ちゃんのこと、他の人たちに取られちゃうみたいでイヤだなーって、思ったみたい」

「…………」

「加蓮ちゃんやまゆちゃんにアドバイスをもらって、わかったの。勝手な独占欲だったんだなあって。だから、その、ごめんなさい!」

 ………………………………。
 正直なところを言いますと、あまり理解が追い付いていなかった。なので一度頭の中をゆっくりと整理をした。
 なるほど、なるほど。美穂さんはワタシが取られてしまうのが嫌で、嫉妬してしまい、思わず怒ってしまった。

 やっぱり夢ですねこれ!!


16: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:53:27 ID:lPa


 さて、そろそろ目を覚まさないと。鈍器はどこでしょうか、カワイクない目の覚ましたかたですが、このままでは幸せで二度と目覚めない可能性があります。
 お、そういえばいい感じに角のある机ですねこれ。これにしましょう。
 せーのっ。

「幸子ちゃん、何してるの!?」

「のおおぅ……も、ものすごく痛いです……! 最近の夢は凄いですね、痛みも感じるなんてぇ……!」

「夢は科学と違って昔も今も変わらないと思うけれど!?」

 机の角に向けて思いきりよく腕をぶつけてみたが、物凄く痛かった。頭でいこうかと思ったが、躊躇したのは英断だった。下手をしなくても流血事故だ。
 いえ、これが夢だったらそんなことも問題にはならなかったんですが。


17: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:54:07 ID:lPa

「さ、幸子ちゃん……そんな、机を殴って夢を疑うほどに怒ってた……?」

 夢を疑うほどに怒っていたというフレーズはなかなか聴けないですね、と思いましたが、しかし、はてさて、怒ったかと聞かれるとそんなことはなかった。
 確かに戸惑いはあったかもしれないけれども、怒りを覚えるというようなことは一切なかったのだ。むしろちょっと、誇らしさすら感じるかもしれない。
 嬉しくもあり、誇らしくもある。
 美穂さんのような、誰にでも優しくて誰に対しても親しくなれる、親しまれる人の“特別”になれているのだ。だとしたら、それはとても嬉しいことでしょう。
 誰かの特別にならなければ、みんなの特別にもなれない。アイドルというのは誰からも愛される、特別な存在なのだ。

 などというのは、もちろん、ただの照れ隠しです。建前のようなものです。

 単純に、美穂さんがワタシのために嫉妬してくれてるとか、もうそれ絶対舞い上がっちゃいますよね。鼻歌交じりにリリックを刻みながらダンスするくらい。
 フッフーンフフーンフンフンフフーンフレデーリーカー♪


18: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:54:50 ID:lPa


「フフ──、げふげふごほおうぇ」

 うっかり鼻歌を本当に歌いかけてしまったので無理やり止めたら気管支に何か入ったのか勢いよく咽せてしまった。

「だ、大丈夫? お水いる?」

「い、 いえ、大丈夫です。嫉妬する美穂さんも可愛いな、と考えていたら何かの拍子に咽せただけなので」

「どういう拍子なのとツッコムべきなのか、嫉妬する私が可愛いと言われたことに対してどう反応すべきなのかわからないんだけど……」

 ワタシの発言に戸惑う美穂さん。何かの拍子ってなんなんでしょうね。
 しかし、どう反応すべきか──それはまあ、ワタシにはわからないです。いや何かの拍子に関しては軽く流しておいてもらって結構なんですけど。
 でも、ワタシの結論は変わらずひとつだけ、明確に決まっています


19: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:55:27 ID:lPa

「美穂さんは可愛いです。そしてワタシは……いえ、“ボク”は怒っていない。つまりはそういうことです」

 美穂さんにとってワタシが特別になっていたように、ワタシにとっても美穂さんは特別な人だから──そう、これはそんな証だ。
 いつか忘れた、子供っぽいからと封じてしまった何かを、美穂さんの前でだけは見せることにしよう。
 飾らないままの、いつかのボクを。
 カワイイボクを、美穂さんに。

「フフーン! カワイイボクを独り占めしたいだなんて、美穂さんは贅沢ですねぇ。いいです、カワイイボクは許してあげます! さあ、ボクのことをカワイがってください!」

 …………………………。
 いや、うん。さすがにちょっと、この年齢でこれって恥ずかしいですけどね!


20: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:56:05 ID:lPa



 あれから幸子ちゃんは、たまに昔の幸子ちゃんのように振る舞うようになりました。懐かしい、出会った頃のような幸子ちゃん。とってもカワイイので動画に撮影しているので、今度編集して卯月ちゃんや響子ちゃんにも自慢しようかな。
 なんて、少しいじわるなことも思い付いたり、ただ、カワイイと思っているのは本当だから、自慢をしたいというのも少し本音だったり。
 特別な人にだけ見せる飾らない姿、ということらしいけれど、時折恥ずかしそうにしているのを見ると、やっぱり幸子ちゃんも年相応に、昔の姿が恥ずかしく感じるくらいに大人になったんだなあって、ちょっとお姉ちゃん気分になった。

 結局のところ、実のところ。
 幸子ちゃんのことを私がどう思っているのか。それについては正直に言えばよくわかっていない。独占欲があったことは間違いなくても、なんでそんな執着していたのか、わからなかった。
 私は幸子ちゃんのことを妹のように思っているのか、親友のように思っているのか、もしくはそれ以外の何かなのか。
 でも、何だったとしても、そんなに関係はないことだと思う。

 だって──そうだ。

「美穂さーん、洗濯物仕舞いましたよ」

「うん、ありがとう幸子ちゃん」

 それなりに今が楽しくて、幸せだ。
 それは明日も、きっとその先も。


21: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:56:19 ID:lPa

おわり。


22: 名無しさん@おーぷん 2017/08/07(月)15:59:24 ID:lPa

先月の月末で幸子が引けたので、これはみほさちを書かないといけないなあと思っていたら気がついたら八月だった。


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