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トップページグリマス > 【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】

1: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:38:58.25 ID:ArvRQigk0

※初めに

この作品は「アイドルマスターミリオンライブ!」
各CDシリーズ(MTG・T○等)の劇中劇ドラマパートを下地にしたジョジョパロです。
何を言っているのかわからねーと思うが俺にもわからん。
設定やらキャラ造形やら諸々フリーダムなことになってますが、ミリオン劇中劇のノリで楽しんでいただけたらこれ幸い。




2: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:40:12.34 ID:ArvRQigk0

物語の始まりはいつもこうだ。

『むかしむかしあるところに、ひとりのしょうじょがいました』

これは、一歩を踏み出せなかった、今を生きる一人の少女の物語である。



まつりの奇妙な冒険 

PART:Charlotte・Charlotte ――九条まつりはお姫様に憧れる――

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3: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:40:42.78 ID:ArvRQigk0

●九条まつり!大和撫子に会う その①●

「イルミルミルミルミルミルミルミルミルミネーショーン♪」

「鏡よ鏡よ鏡さん」

「世界で一番きゅーと! な女の子はだあれ?」

「そ・れ・は」

「この『九条(くじょう)まつり』なのです!」


4: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:41:21.39 ID:ArvRQigk0

まつり「ヒラヒラのスカートにフワフワのお姫様ヘアー。もちろんリボンも忘れてはいけないのです、キュッと」

まつり「これで今日もまつりはびゅーりほー! なお姫様なのです!」


5: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:42:04.88 ID:ArvRQigk0

フリフリのロリータファッションに身を包んだ少女の名は『九条まつり』。
 
近代精神が産声を上げた19世紀より続く伝統ある名家にしてGHQによる財閥解体を逃れた日本有数の企業グループ『九条』の娘である。
 
彼女の物語は、部屋に備え付けられた大きな姿見鏡の前から始まる!


6: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:42:54.56 ID:ArvRQigk0

「あ、お嬢様」

「どこかへおでかけですか」
 
 まつりが部屋から出ると、二人のメイドが彼女を出迎える。
 
 メイドたちは鏡合わせのように瓜二つな双子の姉妹だった。


7: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:43:26.52 ID:ArvRQigk0

まつり「ごきげんよう、亜樹(あき)、真樹(まき)。まつりはちょっとお散歩に出かけてくるのです」

亜樹「はあ、お散歩、ですか」

真樹「今日はお天気もよろしゅうございますからね。お気をつけて」

まつり「はいなのです。お留守番、よろしくお願いするのですよ」


8: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:44:02.53 ID:ArvRQigk0

真樹「お、お嬢様!」

まつり「ほ?」

真樹「そ、その、体のお加減はいかがでございますか」

まつり「……」

まつり「はいほー! ふぁいんさんきゅー! なのです!」

まつり「それではいってくるのです」


9: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:44:35.11 ID:ArvRQigk0

亜樹・真樹「……」

亜樹「おいたわしやまつりお嬢様。『あの日』以来すっかりお人が変わってしまって。九条の後継者は気が狂ったなんて噂も流れる始末」

真樹「ちょっと亜樹! お嬢様に向かってなんてことを!」

亜樹「亜樹が言ったんじゃないよ! でもそうじゃなくても今のお嬢様は……。奥様は奥様で『今はそっとしておきなさい』なんて仰ってるし……」

真樹「きっと何かお考えがあってのことなんだろうけど……。真樹は心配だよ……」


10: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:45:18.41 ID:ArvRQigk0

まつり「アラモ♪アラモ♪」
 
 街の雑踏の中を、まつりは鼻歌混じりで歩く。

 ロリータファッションで鼻歌を歌いながら歩く姿は嫌でも人目を引くが、まつりに気にした様子はない。


11: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:45:44.85 ID:ArvRQigk0

まつり「お日様サンサンでポカポカの陽気なのです」

まつり「これで大きな湖やお花畑があればきっとわんだほーに素敵な景色なのです」

 まつりがスクランブル交差点で足を止めると、ウザいくらいに元気な声が空から降ってきた。


12: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:46:13.38 ID:ArvRQigk0

『1億2千万の乃之ちゃんファンのみんな~~~~~っ! 赤根崎乃之(あかねざきのの)ちゃんだよォォォーーーーーーーーーー!』

『今日はみんなにビッグニュースッ! なんと! 乃之ちゃんの新しいアルバムが発売だああァァァーーーーーーーーーーーーーーーー!』

 街頭のビジョンには今をときめく人気アイドルの弾けた笑顔が大写しになっている。

 まつりはそれを見上げて一瞬だけ眩しそうに目を細めたが、

まつり「乃之ちゃんも今や立派なお姫様、なのです」

 すぐに笑顔に戻って、また鼻歌混じりに歩き始めた。


13: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:46:51.13 ID:ArvRQigk0

まつり「ほ?」

まつり「なんだか駅前広場の方が妙に騒がしいのです」

 人だかりの後ろから背伸びしてみると、外国人らしき少女とガラの悪い男たちが対面で話している。

 少女の怯えた表情は、どう好意的に見ても『仲良しこよしでお話』という雰囲気ではなかった。


14: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:47:20.44 ID:ArvRQigk0

バンドマン「だからよォォ~~~ここは俺たちのバンドのショバなんだよなァァ~~~」

異国の少女「あの……私……」

バンドマン「おっと泣くんじゃあないぜ。いいかい? 悪いのはお嬢ちゃんの方なんだぜ~~。義理を通さないのは人間の信頼関係を壊すよなァ~~?」

異国の少女「で、でも、ちゃんと許可は……」

バンドマン「ポリ公にかああ~~~ッ!」

異国の少女「……ッ!」


15: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:48:00.96 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ンなこたぁオレたちにゃあ関係ねえんだよオオォォォーーーーーッ!」

異国の少女「キャッ!」

 バンドマンに突き飛ばされ、少女が倒される。

『おいさすがにヤバいんじゃないか?』『サイテーっ』

 野次馬の声がひそひとと飛び交うも、いかにも『ヤバいチンピラ』然とした男たちに立ち向かっていくものはいない。

バンドマン「ん? なんだぁ~こいつは」


16: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:48:33.33 ID:ArvRQigk0

 少女が倒れた拍子に、何かが彼女のバッグから飛び出した。

 バンドマンが目ざとくそれを拾い上げる。

バンドマン「けっ、ただの『手鏡』じゃねーかっ。オイッ! こんなくだらねーものよりちゃんとショバ代を」

異国の少女「か、返して……」

バンドマン「あ?」

異国の少女「返してください! それは私の大切な――!」

バンドマン「……!(ピキピキ」


17: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:49:06.12 ID:ArvRQigk0

バンドマン「クソガキが口答えしてるんじゃねーーーーーっ!」

 男はまるでタバコでもポイ捨てするかのように、手鏡を無造作に放り投げた。

 カシャンと音を立てて、手鏡は再び地面に転がった。

異国の少女「ああ!?」

異国の少女「ひ、酷い……!」

バンドマン「酷いのはお嬢ちゃんの方なんだぜ……。イイコにしてりゃあショバ代だけでちゃあああんと信頼関係が築けたのによォォ~~~~」

バンドマン「ガキの分際でオレを見下しやがってーーーーっ!」


18: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:49:33.59 ID:ArvRQigk0

 男をただのガラの悪いバンドマンだとみなせるのはここまでだった!

 なんとバンドマンは、懐から本物の『ナイフ』を取り出したのである!

『キャアアア!』『け、警察だ警察!』『お、お前助けに行けよ!』『ムチャ言うな! ありゃヤバい目してるぜ……逆上したら絶対やるって目だな』


19: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:50:05.47 ID:ArvRQigk0

バンドマンの仲間「お、おい! さすがにそれはやりすぎだぜっ」

バンドマン「うるせえッ! テメーらは下がってろ!」

バンドマンの仲間「うっ……!」

 バンドマンはナイフを片手に舌なめずりする。

 いかにも小悪党のやりそうな下劣な行為だったが、まだ年端も行かぬ少女に恐怖を喚起させるにはそれでも十分だった!


20: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:50:33.55 ID:ArvRQigk0

異国の少女「ひっ……!」

バンドマン「ケケッ」

バンドマン「オレを見下すやつはゆるさねーっ。悪いことをしたツケは払わなきゃなあ」

異国の少女「だ……」

異国の少女「誰か……」

バンドマン「世の中の『ルール』を教えてやるぜェーーーーーッ!クソガキがァーーーーーッ!」

異国の少女「きゃあーーーーーッ!」


21: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:51:10.23 ID:ArvRQigk0

異国の少女「ひっ……!」

バンドマン「ケケッ」

バンドマン「オレを見下すやつはゆるさねーっ。悪いことをしたツケは払わなきゃなあ」

異国の少女「だ……」

異国の少女「誰か……」

バンドマン「世の中の『ルール』を教えてやるぜェーーーーーッ!クソガキがァーーーーーッ!」

異国の少女「きゃあーーーーーッ!」


22: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:51:38.22 ID:ArvRQigk0

「はいほー!」


23: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:52:09.21 ID:ArvRQigk0

バンドマン「……あ?」

まつり「今日はポカポカいい天気なのです」

まつり「こんなわんだほー!な日に怖い顔は似合わないのです」

まつり「さあ、まつりと一緒に皆がニコニコになれる魔法の言葉を唱えるのです。大きな声で、さん、はい、」

まつり「はいほーーー!」

バンドマン「なんだてめーーはーーーッ! イカれてんのかーーーーーッ!」


24: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:52:45.48 ID:ArvRQigk0

バンドマン「いい気になってでしゃばりやがってーーーっ! これはこのガキとオレたちの問題だぜ、すっこんでな! さもねえと」

まつり「さっきあなたは『ポリ公に』と言いましたが」

バンドマン「あ?」

まつり「このような駅前広場で路上ライブをする際は基本的に『土地の所有者』に許可を得るのです。もちろんここも。『ポリ公』ではないのです」


25: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:53:11.21 ID:ArvRQigk0

バンドマン「そ、それがどうしたァーーーーーッ」

まつり「ここで路上パフォーマンスをしたことがある人なら誰もが知ってることなのです」

まつり「『義理』や『ルール』を大事にするお兄さんがまさか『許可』を得たことがないなんてことはないのです……ね?」

バンドマン「ぐ…ぐぐ……」

バンドマン「ウダウダ言ってんじゃねーーーーーーっ! このヴォケがッ!!」

まつり「ほ?」


26: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:53:39.43 ID:ArvRQigk0

バンドマン「とことん見下してくれたなイカれ女がァーーーーーーーーッ! まずはてめーからぶち殺すことに決めたぜーーーーーっ!」

異国の少女「や、辞めて!」

異国の少女「私のことはいいから逃げて! 逃げてください!」


27: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:54:07.57 ID:ArvRQigk0

まつり「うーん」

まつり「いい人も悪い人もみんなニコニコ、なんてそんな奇跡のような魔法」

まつり「やっぱり、なかなか『本物のお姫様』のようにはいかないのです」


28: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:54:34.81 ID:ArvRQigk0

バンドマン「そのトンチキな面にナイフぶち立ててやらァァーーーーーーーっ!」

異国の少女「ダメぇぇーーーーーーーっ!」

まつり「だからここは一つ」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


29: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:55:02.44 ID:ArvRQigk0

まつり「この九条まつり流の『魔法』の」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「すーぱーお披露目タイムなのです!」

 ドギャン!!


30: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:55:32.96 ID:ArvRQigk0

バンドマン「くたばりやが――」

 ドグシャア!!


31: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:56:03.96 ID:ArvRQigk0

バンドマン「へ」

異国の少女「え」

まつり「……」


32: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:56:39.95 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ぎ、」

バンドマン「ぎゃあああァァァァーーーーーーーーーーーーーー!?」

異国の少女「……!? ???」


33: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:57:16.91 ID:ArvRQigk0

 まつりを貫こうとしていたナイフは、まるであらかじめ爆弾でもセットしてあったかのように突如として砕けた。

 それを握った男の右手ごと!

 バンドマンの男、異国の少女、そして野次馬……誰一人としてこの不可解な光景を理解するものはいない。


34: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:57:47.23 ID:ArvRQigk0

 しかし!

 我々はこの『魔法』を知っている!

 いや! この『破壊力』とまつりの『そば』から現れたこの『拳の幻影』を知っている!


35: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:58:25.17 ID:ArvRQigk0

バンドマン「いでえェエエーーーーーーーーーーーっ! あ、ががっ、ががーーーっ! て、テメー! お、俺に何をしやがったーーー!?」

まつり「ほ? さっきから何を慌てているのです?」

バンドマン「と、とぼけてんじゃねーーーーーーっ! 俺の右手がぁあああーーーーーー!」

まつり「右手? 右手がどうかしたのです?」

バンドマン「バキバキに砕けてッ! 砕け…………へ?」

まつり「お兄さんは怪我なんてしてないのです。…………ね?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


36: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:58:59.92 ID:ArvRQigk0

バンドマン「なっ、なんでェーーー!? 俺は確かに……! お、お前らも見てただろ!?」

まつり「そ・れ・と」

まつり「ブスリ!」

バンドマン「ひ!? う、うわああああああーーーーーー!」


37: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 10:59:26.18 ID:ArvRQigk0

バンドマンの仲間「なあああ!? こ、こいつ! マジに刺しやがったーーっ!?」

バンドマン「ああああああ……あ、あれ……?」

バンドマン「な……」

バンドマン「なんともないッ!?」


38: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:00:04.81 ID:ArvRQigk0

まつり「なんちゃって、なのです」

まつり「はい、お返ししておくのです」

バンドマン「……!?」

バンドマンの仲間「お、おい……お前のそれ……なんか……おかしくないか……?」


39: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:00:30.93 ID:ArvRQigk0

バンドマン「え……ハッ!?」

バンドマンの仲間「お前のナイフ、まるで『アイスの棒』か『医者がベロを抑えるときに使うアレ』みてーになってるぜーーーっ!?」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


40: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:01:42.98 ID:ArvRQigk0

バンドマン「――ッ???」

まつり「ところでお兄さん」

バンドマン「ひ!?」

まつり「まつりは昨日も今日も明日もとーってもお暇なのですが」

まつり「まだ一緒にお喋りしてくれるのです?」

バンドマン「ヒィィィーーーーー!?」


41: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:02:10.77 ID:ArvRQigk0

バンドマンの仲間A「や、やべえよこの女! なんかわからんがとことんやべえ臭いがプンプンしやがるぜーーッ」

バンドマンの仲間B「おそろしいーーッバケモノーーっ」

まつり「ほ? 行ってしまったのです」

まつり「それとまつりはバケモノではなく姫なのです。失礼しちゃうのです」


42: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:02:42.55 ID:ArvRQigk0

 まつりが首を傾げて、バンドマンたちの背中を見送っていると、通報を受けた警官たちが慌ただしく駆け寄ってきた。

警官A「こらーっ! 何をやっとるかーーっ!」

警官A「女の子が絡まれてると聞いて来てみたらあんな男どもを相手に無茶して! 何かあったらどーする!?」

まつり「ほ? おまわりさん、まつりたちはちょっとお話をしていただけなのです。ね?」


43: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:03:09.38 ID:ArvRQigk0

警官A「お話って君ねえ!」

まつり「おまわりさん、もう何もかも済んだことなのです……ね?」

警官B「あー、オホンオホン!」

警官B「どうやらそのようだな。ワシらもパトロールに戻らんと」


44: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:03:38.37 ID:ArvRQigk0

警官A「(はあ? いいんですかい?)」

警官B「(バーカ! ありゃ『九条』の跡取りだ! そんなことも知らんのかお前は!)」

警官A「(ゲェ!? それって頭がおかしくなったって噂の……)」

警官B「(わかったらゴチャゴチャ言わんと話合わせとけ! 行くぞ!)」

 警官たちはまつりに愛想笑いを向けながら、そそくさと去っていった。

 野次馬たちも徐々に散らばっていき、駅前広場は健全な騒々しさを取り戻していた。


45: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:04:13.86 ID:ArvRQigk0

異国の少女「あ、あの!」

異国の少女「助けていただいて本当にありがとうございます」

異国の少女「私のためにあんな危険な目に合わせてしまって……なんとお詫びしたらよいものか……」


46: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:04:48.88 ID:ArvRQigk0

異国の少女「でも……」

まつり「あなたの方こそ大丈夫なのです?」

異国の少女「え? あ、はい、おかげさまで……」

まつり「それは何よりなのです……あ、そうそう」

まつり「あなたも落とし物なのです」


47: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:05:14.36 ID:ArvRQigk0

異国の少女「ありがと……ああ!?」

異国の少女「そ、そんな……」

まつり「ほ? ……あ」

 手鏡にはヒビが入っていた。

 バンドマンの乱暴な扱いからいって無理からぬことだったが、異国の少女は自分が襲われていたことよりも鏡が割れたことのほうが一大事と言わんばかりに取り乱していた。


48: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:05:41.75 ID:ArvRQigk0

まつり「大切なものだったのです?」

異国の少女「これは曾祖母から祖母、祖母から母、そして私へと代々受け継がれてきた、いわば『血統と絆』の証だったんです……」

異国の少女「それを、私が……」

 少女は体を震わせ、その瞳からは涙が滲み出ていた。


49: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:06:08.37 ID:ArvRQigk0

まつり「あなたのせいじゃないのです」

異国の少女「いいえ! 私がもっと注意していれば、私が、もっと、大事に持っていれば……」

まつり「(暴漢に絡まれた時でさえ泣かなかったのに)」

まつり「……」


50: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:06:35.38 ID:ArvRQigk0

まつり「お嬢さん、あなたはとってもらっきー! なのです」

異国の少女「え?」

まつり「何を隠そうこの九条まつりは『魔法使い』なのです」

異国の少女「??」


51: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:07:09.58 ID:ArvRQigk0

まつり「嘘ではないのですよ。ちょっと借りるのです」

まつり「こうして鏡に手をかざして、魔法の呪文を唱えるのです。『イルミイルミルルミネーション☆』」

異国の少女「る、るみるみ?」


52: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:07:37.13 ID:ArvRQigk0

まつり「さあ、あとはお立ち会い」

まつり「月の光の不思議な力が鏡に伝わって……ほら!」

 まつりが手鏡から手を放すと……、


53: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:08:08.35 ID:ArvRQigk0

異国の少女「Wow!」

異国の少女「し、信じられません!」

異国の少女「鏡が『直って』ます! あんなに大きなヒビが入っていたのにキズひとつない!」

異国の少女「それどころか、まるで磨いた後のようにピカピカです!」


54: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:08:37.58 ID:ArvRQigk0

まつり「ね? 本当だったでしょう?」

異国の少女「すごいです! 先ほどのことも私の目の錯覚かと思いましたが……」

異国の少女「まるで『シャーロット・イン・ザ・ミラー』に出てくる魔法みたいです!」

まつり「……ほ?」


55: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:09:13.12 ID:ArvRQigk0

まつり「鏡の中のシャーロット(シャーロット・イン・ザ・ミラー)』を知っているのです?」

異国の少女「もちろん! 私の祖国の子どもは誰もが夢中になるとっても素敵な絵本で……はっ!?」

異国の少女「す、すみません。あまりに驚いたからついはしゃいじゃって……はしたないです」

異国の少女「申し遅れました、私は『エミリー・ランカスター』といいます。改めて、助けていただいてありがとうございました」


56: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:09:54.09 ID:ArvRQigk0

まつり「エミリー……」

エミリー「? どうかなさいましたか?」

まつり「いいえ、可愛いあなたにピッタリの素敵なお名前なのです」


57: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:10:24.23 ID:ArvRQigk0

まつり「まつりは九条まつりなのです。見ての通りお姫様なのですよ」

エミリー「日本のお姫様! まあ! ということはまつりさんは皇族関係のやんごとなきお方なのですね! お会いできて光栄です!」

まつり「ほ、ほ? これは予想外の反応なのです。そこはやんわりと否定しておくのですよ」

エミリー「あれ? でもさっき魔法使いと」

まつり「それはそれ、これはこれ、なのです」


58: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:10:53.27 ID:ArvRQigk0

まつり「エミリーちゃんはここで路上ライブをしていたのです?」

エミリー「そうなんです。実は私、立派な『大和撫子』を目指して修行中の身でして」

まつり「ほ? 大和、撫子?」

エミリー「あの、まつりさん。お会いしたばかりの上に助けていただいた後に差し出がましいとは思いますが」

エミリー「ぜひ、私の舞台を見ていってくださいませんか?」


59: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:11:30.63 ID:ArvRQigk0

 意外にも、異国の少女が披露したのは『和』の色を前面に出した全編日本語のバラード曲だった。

 歌も、踊りも、まつりの目から見ればまだまだ拙く、未熟。

 しかし、そんなこととは無関係に、まつりはエミリーのステージから目を離せなかった。


60: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:12:02.61 ID:ArvRQigk0

 彼女の振舞いには人を惹き付ける『華』があった。

 彼女の歌には聞く者の心を癒やす『優しさ』があった。

 何よりも、舞台とも言えぬ場所で精一杯パフォーマンスを披露する彼女の瞳には『光』があった。暗闇の旅路で夜空の星を見上げるような『夢』と『希望』があった。

 素通りされて然るべき無名の少女の路上ライブに、しかし行き交う人々は知らず、一人、また一人と足を止め、魅入る。

 舞台上で花咲く笑顔に惹かれるように、ギャラリーの間にも次々と笑顔が広がっていく。


61: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:12:30.38 ID:ArvRQigk0

エミリー「ご清聴、誠にありがとうございました! エミリー・ランカスターでした!」

 パフォーマンスを終えて多くの喝采を浴びるエミリーの笑顔に、

まつり「――――――――」

 まつりは拍手も忘れて、『在りし日の面影』を見出さずにはいられなかったのだった。


62: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:13:03.86 ID:ArvRQigk0

 時を同じくして――。

「…………」

 遠くからエミリーのライブを見つめる濁った視線があった。

バンドマン「…………チッ」

バンドマン「ちくしょーー……」


63: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:13:34.09 ID:ArvRQigk0

バンドマン「面白くねーぜ、クソッ、クソッ!」

バンドマン「俺はただスカッとしたかっただけなのによぉぉーーーー」

バンドマン「あんな女どもにまで見下されるなんて、スカッとするどころか余計イラつくじゃねーかヴォケがッ!」

 ガン! ガラガラガラ!


64: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:14:01.73 ID:ArvRQigk0

『ねえ、何アレヤバくない?』『シッ! 目ぇ合わせるな』

 バンドマンが蹴飛ばしたゴミ箱が虚しい音を立てて転がる。

 散らばったゴミは、彼の心の内そのものであるかのようだった。

バンドマン「…………」

バンドマン「どいつもこいつも俺を見下しやがって……!」


65: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:14:36.58 ID:ArvRQigk0

バンドマン「俺の才能にはもっと称賛の目が向けられるべきなんだ、あんなゴミを見るような目じゃねーーっ」

バンドマン「そうだ! 世の中のボケどもから万雷の拍手が送られるべきはあんなガキのパフォーマンスじゃねーーっ、俺のサウンドの方なんだッ!」


66: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:15:03.77 ID:ArvRQigk0

「才能に自信があるのか?」

バンドマン「……へ」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


67: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:15:31.59 ID:ArvRQigk0

 『男』は、まるでずっとそこにいたかのように現れた。

 仕立ての良い『黒のスーツ』を無理なく着こなし、背筋の通った洗練された立ち姿は、ゴミがぶちまけられた路地裏の暗さにそぐわないようでいて、その実一体化するように違和感なく溶け込んでいた。

 『影』のような男は、まるで業務連絡でも読み上げるように、淡々と言葉を続ける。


68: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:16:10.45 ID:ArvRQigk0

「『自分』を『信じる』……言葉にするのは簡単なことだが」

「無闇に己を卑下せず、それでいて決して驕り高ぶらず、『過不足』なく自分を肯定し、貫けるとしたら……」

「それだけで十分、『才』。見込みある人間と言えよう」

「君はどうなんだ?」


69: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:16:38.03 ID:ArvRQigk0

バンドマン「い、いきなり何言ってんだテメーはぁーーー!」

バンドマン「テメーも俺を見下すのか?」

バンドマン「ゆるさねーっ、俺を見下すやつは誰だろーと許さ――」

 ドボォ!!

バンドマン「ぐげっ――!」


70: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:17:05.07 ID:ArvRQigk0

 『スーツ姿の男』から現れた『幻の手』がバンドマンの額をえぐり、『宝石』のようなものを頭に埋め込んでいく!

「君を『プロデュース』してやろう」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


71: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:17:37.20 ID:ArvRQigk0

「この世の法則は『等価交換』。もし君の才能が私のプロデュースに過不足無く見合うものなら」

「君の才能が君自身信じるだけの大きなものなら」

「私が与えた『ピース』は君を新たなる段階へと引き上げる」


72: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:18:15.34 ID:ArvRQigk0

 男の声が聞こえているのかいないのか、バンドマンは虚ろな目で何事かをつぶやき、やがて薄汚れた路地裏に倒れ込んだ。

「……」

 早くもバンドマンに興味を無くしたかのように、スーツ姿の男は首を背ける。

「『Lesson1』だ。――――まつり君」

 その視線の先には遠く、異国の少女と連れ立って歩くお姫様のような少女の姿があった。


73: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:18:43.84 ID:ArvRQigk0

●九条まつり!大和撫子に会う その②●

 まつりはエミリーを連れて近くのファミレスを訪れていた。

エミリー「やっぱり申し訳ないです……。たくさん助けていただいたのにその上甘味を御馳走だなんて……」

まつり「大丈夫なのですよ。まつりは暇とお金だけはたくさん持て余してるのです」


74: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:19:10.94 ID:ArvRQigk0

エミリー「そ、そうなのですか? でも……」

まつり「無理やり連れてきたのはまつりなんだから、エミリーちゃんは遠慮なんてしなくていいのです。それに」

まつり「まつりはエミリーちゃんともっと仲良くなりたいのです。ね?」

エミリー「……! はい!」

エミリー「私ももっとまつりさんとお話がしたいです!」


75: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:19:37.70 ID:ArvRQigk0

まつり「大和撫子というのは『アイドル』のことだったのですね」

まつり「エミリーちゃんはどうしてアイドルに?」

エミリー「両親、特に父が日本贔屓で、幼い頃からこの国の素晴らしさを聞かされてきました」

エミリー「そして以前、神社で舞を奉じるアイドルの凛とした美しさを見て、私の心にさわやかな風が吹くのを感じました。その時から不肖エミリー・ランカスターは」

エミリー「『大和撫子』に憧れるようになったのです!」


76: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:20:07.04 ID:ArvRQigk0

エミリー「……まだ公式初舞台も踏んでいない新参者ですが」

まつり「つまり、デビュー前の新人さんなのです? でもさっきのステージはそうとは思えないほど堂々としててとってもわんだほー! だったのです」

エミリー「い、いえ、私なんてまだまだ未熟者です! うう……お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

まつり「そんなことはないのです。エミリーちゃんは将来立派なお姫様になれるのですよ。この九条まつりが保証するのです」


77: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:20:35.79 ID:ArvRQigk0

エミリー「お姫様、ですか? でも私は大和撫子に」

まつり「『お姫様』と『大和撫子』は同じ場所を目指しているのです。少しばかりアプローチの仕方が違うだけなのですよ、きっと」

エミリー「はあ……。まつりさんのお話はちょっと難しいです」


78: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:21:30.29 ID:ArvRQigk0

まつり「ところでずっと気になっていたのですが……エミリーちゃんには『プロデューサー』はついていないのです?」

エミリー「プロデューサー……ですか?」

まつり「さっきの現場はエミリーちゃん一人だったのです。もしちゃんとエミリーちゃんの面倒を見てくれる人がいたなら、危ない目にも合わなかったかもしれないのです」

エミリー「そうですね……。一応予定を管理してくださる方はいますが、何分私の所属事務所はごく小規模なものですから。私のような新人に付きっきりというわけにはいかないのだと思います」


79: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:22:07.07 ID:ArvRQigk0

まつり「そうなのですか。むむむ、それはわんだほーに由々しき事態なのです」

エミリー「まつりさん、プロデューサーとはそんなに大事なものなのでしょうか」

まつり「もちろんなのです!」


80: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:22:36.42 ID:ArvRQigk0

まつり「アイドルにとってプロデューサーは例えるならお姫様を守るナイト! 諏訪彩花ソロ曲の作詞作曲を手掛ける松井洋平! 井口達也の原作に対する歳脇将幸の『チキン』! 女の子が輝き、立派なお姫様になるためのお手伝いをしてくれる一蓮托生のパートナーなのです!」

エミリー「そ、それほどまでに……! 今まであまり困ったことはなかったのですが……。なんだかちょっと不安になってきました」


81: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:23:04.15 ID:ArvRQigk0

まつり「大丈夫なのですよ。きっとすぐにでもエミリーちゃんを見初めた素敵なナイト様が迎えに来てくれるのです。ね?」

エミリー「だといいのですが……いえ! つまりはどなたかの目に留まるように精進あるのみ、ということですよね!」

まつり「ぐっど! その意気なのです!」


82: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:23:34.38 ID:ArvRQigk0

エミリー「それにしてもまつりさんはアイドルにとてもお詳しいのですね……ハッ!?」

エミリー「まつりさんは『お姫様』なんですよね」

まつり「ほ?」

エミリー「ひょっとして同業のお方、それもご先輩だったりするのでしょうか!?」

まつり「…………」


83: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:24:01.17 ID:ArvRQigk0

まつり「まつりはお姫様で魔法使いですが、アイドルではないのです」

まつり「ただ、まつりの身内がアイドルだったから、ちょっと知る機会があっただけなのです」

エミリー「まあ、ご家族が! 素敵です! 今もご活躍されているのですか?」


84: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:24:31.26 ID:ArvRQigk0

まつり「……いえ」

まつり「『姉』はもう、アイドルは、辞めちゃったのです」

エミリー「……そう、なんですか」

まつり「………………」


85: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:25:22.89 ID:ArvRQigk0

店員「お待たせいたしました。『花咲夜の贈り物~和甘味三種盛り合わせ~』と『娼婦風スパゲティ』でございます」

エミリー「あ、ありがとうございます」


86: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:25:58.12 ID:ArvRQigk0

まつり「さあさあエミリーちゃん、立派なお姫様になるなら甘くてフワフワしたものをたくさん食べないといけないのです」

エミリー「そうなんですか? あれ? でもまつりさんの方は」

まつり「まつりは生まれたときからお姫様だからいいのです」

エミリー「なるほど、まつりさんはもう遥か高みにおられるのですね、尊敬します! それでは、いただきます」

エミリー「ん~♪ 苺の甘みと絡み合った抹茶の苦味が芳醇な香りとなって鼻から抜けて……はう~……幸せでしゅ……♪」

まつり「すぐにでもお仕事が来そうなわんだほーな食レポなのです」


87: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:26:32.51 ID:ArvRQigk0

エミリー「さっきのまつりさんの『魔法』、あのような力は初めて見ました。あれはどういった仕組みなのでしょう?」

まつり「魔法……、ああ、あれは……そうですね、むむむ」

エミリー「ああいえ! お答えしにくいことでしたら別に構わないんです、ちょっと興味が湧いただけで……。私ったらまたはしたないことを……」


88: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:27:00.67 ID:ArvRQigk0

まつり「…………エミリーちゃん」

 スゥゥゥ…
 ドン!!

まつり「『これ』、見えるのです?」


89: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:27:27.66 ID:ArvRQigk0

エミリー「……え? 何がですか?」

まつり「……いえ、なんでもないのです」

 スゥゥゥ……

エミリー「??? まつりさん?」

まつり「実はまつりにもよくわからないのです」

エミリー「え?」


90: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:27:57.05 ID:ArvRQigk0

まつり「ある日、突然さっき見せたようなことが出来るようになったのです」

まつり「わかるのは、まつりの魔法は『破壊されたものを治せる』ということだけ」

エミリー「『治す』……」


91: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:28:30.16 ID:ArvRQigk0

まつり「今までに同じような力を使える人には会ったことがないのです」

まつり「(『これ』が見える人も)」

まつり「だから、これが本当に魔法なんて呼べるようなものなのかも――」

エミリー「すごいです! とっても素敵な力だと思います!」



92: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:28:58.51 ID:ArvRQigk0

まつり「……ほ? ……素敵?」

まつり「気味が悪い、とは思わないのです?」

まつり「お話の中の魔法使いは悪い人もたくさんいるのです」


93: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:30:51.69 ID:ArvRQigk0

エミリー「とんでもない!」

エミリー「まつりさんがいなければ私はどうなっていたかわかりません」

エミリー「運良くこの身は無事だったとしても、割れてしまった大切な手鏡を前にただ途方に暮れるしかなかったでしょう」

エミリー「赤の他人であるはずの私を助けてくださったまつりさんの魔法は、私にとってこの世のどんなものよりも強くて優しい力です」

まつり「……優しい、力……」


94: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:31:19.62 ID:ArvRQigk0

エミリー「何度でも言わせてください。本当にありがとうございました。まつりさんは私の恩人です」

まつり「……………」

まつり「エミリーちゃん」

まつり「まつりは、『あの日』からずっと、この力の意味を考えてきたのです」


95: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:31:55.25 ID:ArvRQigk0

エミリー「え?」

まつり「『優しい力』。そんな風には考えたこともなかったのです」

まつり「私の『魔法』は、本当にそうやって誰かを……、」

まつり「………………?」


96: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:32:23.51 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさん?」

まつり「エミリーちゃん、頭に糸くずが……」


97: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:32:50.39 ID:ArvRQigk0

 まつりには、エミリーの金髪に紛れる『糸』の煌めきが見えたような気がした。

エミリー「え? 糸くず? どこですか?」

まつり「ほら、そこ、に…………!?」


98: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:33:20.61 ID:ArvRQigk0

 僅かな違和感はゾッと肌が粟立つようなおぞましさに!

 今までけっこう呑気してたまつりに、一気に緊張が走る!

まつり「(違う!!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


99: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:33:48.11 ID:ArvRQigk0

まつり「(こ……、これは…………!)

まつり「(糸くずなんてものじゃあないッ!)」

まつり「(エミリーちゃんに『糸』が絡みついている! どうして気付かなかった!?)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


100: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:34:14.85 ID:ArvRQigk0

まつり「(いいえ、エミリーちゃんだけじゃない)」

まつり「(私にも、奥のテーブルにも、天井から床まで……!)」

まつり「(『糸』は……)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(この店内の至るところに張り巡らされているッ!)」


101: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:35:12.99 ID:ArvRQigk0

エミリー「ま、まつりさん? どうしたのですか? いきなり怖い顔をされて」

まつり「……!?」

まつり「エミリーちゃん……この糸が…見えていないのです……?」

エミリー「糸……?」

まつり「(見えていない!)」

まつり「(エミリーちゃんだけじゃなく、店の中の誰にもッ!)」


102: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:35:45.43 ID:ArvRQigk0

まつり「(何が何だか分からないけれど)」

まつり「(この糸は、何かマズイ!)」

まつり「伏せてエミリーちゃん!」

エミリー「へ? ……キャッ!?」

 キョトンとするエミリーを、まつりは有無言わさず床へ押し倒す。

 二人が床に倒れた一瞬の後、『それ』は起こった!

 ギュワワワ~~~~~~ン!!!


103: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:36:22.57 ID:ArvRQigk0

 耳障りな音色がまつりの耳朶を打つと、遅れて店中から次々と音が炸裂した!

 テーブルの料理がぶち撒けられ、グラスや照明が割れ、誰も座っていない椅子の足が折れる!

 それらはすべて、糸が走っていた場所だった!


104: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:36:50.85 ID:ArvRQigk0

まつり「(い、今のは……!)」

まつり「(張られた糸に衝撃波のようなものが伝って……そこに触れていたものを破壊した!)」

まつり「(そしてなんてこと! 糸に触れていたのは、『もの』だけではない!)」


105: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:37:18.58 ID:ArvRQigk0

『キャアアアアアッ!』

『いってえええっ! な、なんだこりゃあああ!』

『いきなり血が、血がァァ!!』

 昼下がりの穏やかな空気に包まれていた店内は一転、次々とものが破壊され、人々が傷つき、悲鳴と怒号が飛び交う阿鼻叫喚の様相を呈していた!


106: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:37:46.69 ID:ArvRQigk0

まつり「怪我はないのです? あればすぐに治すのです」

エミリー「ま、まつりさん……!? 一体何が……!」

まつり「わかりません。わかりませんが……」

まつり「こいつはわんだほーに危険な状況であることは間違いないのです!」


107: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:39:27.62 ID:ArvRQigk0

エミリー「そ、そんな……!」

まつり「エミリーちゃん、絶対にまつりから離れないでいて欲しいのです。ね?」

エミリー「……っ!(コクン)」


108: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:39:54.22 ID:ArvRQigk0

まつり「(さて、どうしたものかしら?)」

まつり「(怪我人も出てるみたいだから治療にいきたいところだけど……)」

まつり「(今はエミリーちゃんがいる。一刻も早くこの子の安全を確保しなければ)」

まつり「(幸い重傷者はいないみたい。救急車を呼べばあとはなんとかしてくれるはず)」


109: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:40:23.06 ID:ArvRQigk0

まつり「というわけでエミリーちゃん」

エミリー「え?」

まつり「スタコラ逃げるのですよ!」

エミリー「は、はい!」


110: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:40:57.42 ID:ArvRQigk0

 既に出入り口に殺到している人々にまつりたちも続く。

 が、

まつり「――――ッ!?」

 まつりはブレーキを掛けるように唐突に足を止めた。


111: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:41:34.11 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさん!? どうしたのですか、私たちも早く逃げないと!」

 まつりは出入り口の扉を凝視したまま動かない。

 いや、動けない。

 外への脱出口は、格子状に編まれた糸で塞がれていたのだ!

 しかし、それ以上にまつりの足を留めさせるもの、それは!

まつり「(偶然や、ましてや自意識過剰なんかじゃあ断じてない!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


112: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:42:04.59 ID:ArvRQigk0

まつり「(今、私たちが出ていこうとする瞬間に合わせて糸が張られた!)」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

まつり「(まさか……)」

まつり「(狙いは、私たち!?)」


113: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:42:34.57 ID:ArvRQigk0

『おい、こんなところに突っ立てるんじゃあねーぜ!』

『ど、どいて! 邪魔よ!』

 糸は先ほどのように衝撃波を発することもなく、逃げようとする人々をすんなりと素通りさせる。

 それがかえって不気味!

 目の前の光景は、まつりの懸念を裏付るものに他ならない!

 さらに周りを見渡して、まつりは戦慄する。


114: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:43:01.49 ID:ArvRQigk0

まつり「くっ……!」

 既に糸は、出入り口だけでなく窓やカウンター正面のガラス張り……外にアクセス出来そうな場所を全て塞いでいた。


115: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:43:35.82 ID:ArvRQigk0

エミリー「ま、まつりさん……」

 エミリーには、『糸』が不気味に張られた異様な光景は見えない。

 しかし、強張ったまつりの表情を見て、エミリーも直感で理解した。

 自分は、自分たちは、逃げることすらままらない、袋小路の真っ只中にいるのだと。

 ナイフを持った暴漢にも怯まなかったまつりでさえも、この状況に恐怖しているのだと。


116: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:44:06.16 ID:ArvRQigk0

まつり「わんだほー」

 だが、この少女は!

 この物語の主人公『九条まつり』は!

 囚われた檻の中でただ己の運命を嘆くだけのか弱いお姫様などではない!


117: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:44:54.94 ID:ArvRQigk0

まつり「逃げ道は全部塞がれたのです」

まつり「どうやらこの『何か』はどうあってもまつりたちを無事に店から出す気はないみたいなのです。万事休すってやつなのです」


118: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:45:23.50 ID:ArvRQigk0

 言葉とは裏腹に、まつりは至って冷静だった!

 それどころか、小首を傾げ、頬に人差し指を添える彼女特有の所作は、『余裕と不敵さ』さえ漂わせていた!


119: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:45:49.44 ID:ArvRQigk0

まつり「理想は素敵な王子様が白馬に乗って助けに来てくれること。でも今はちょっと期待できそうにないので……」

まつり「自分で、檻から出るのです!」


120: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:46:16.22 ID:ArvRQigk0

 そう言うやいなや、まつりはエミリーの手をとって駆け出した、が、

エミリー「ま、まつりさん!? どこへ行くんですか!?」

 エミリーが戸惑いの叫びをあげるのも無理はなかった。なぜならば、

エミリー「そちらは、『壁』です!!」


121: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:46:50.55 ID:ArvRQigk0

 エミリーの忠告にも構わず、まつりは出入り口に殺到する客を避けながら、明後日の方向へひた走る。

 まつりがある種の確信とともに、一瞬だけ振り向くと、

まつり「……! わんだほー!」

 案の定、背後から無数の『糸』が追いかけてくる!


122: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:47:22.29 ID:ArvRQigk0

 さらにスピードを上げたまつりに手を引かれるエミリーは、足が縺れそうになりながらも必死で走る。

 エミリーにとっては絶望しかない『行き止まり』に向かって!

エミリー「まつりさん! ――まつりさんってばッ!」

まつり「大丈夫なのですよエミリーちゃん。何も問題は無いのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


123: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:47:55.30 ID:ArvRQigk0

エミリー「何がですか!? 逃げる方向が違います!」

まつり「いいえ、こちらで合っているのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「これがまつりたちの、『逃走経路』なのですッ!」

 ドギャン!!


124: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:48:22.55 ID:ArvRQigk0

まつり「はいほーーッ!!」

 ドゴォ!!


125: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:48:50.31 ID:ArvRQigk0

 エミリーは、三度、まつりの『魔法』に驚愕することになる!

エミリー「え、ええーーー!?」

 エミリーには見えない『拳の幻影』が、丈夫な壁をまるで重機のようにいとも容易くブチ抜く!

 先ほど店内で起こった破壊がちっぽけに思えるほどの、まるで規模の違うパワー。

 しかしまつりの作る『逃走経路』はここからが本番だった!


126: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:49:18.52 ID:ArvRQigk0

まつり「さあ、急いで『穴』から出るのです」

まつり「壁が『直る』のですよ」

 ドリュリュリュリュウン…

 ピッタァァッ!!


127: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:49:45.29 ID:ArvRQigk0

エミリー「こんなにあっという間に……」

まつり「これでしばらくは時間が稼げるのです」

まつり「エミリーちゃん、もう少し頑張れるのです?」

エミリー「は、はい! もちろんです!」

まつり「わんだほー。では、お転婆プリンセスたちの逃避行、始まり始まり、なのです」

まつり「お姫様がエスコートするのは本当はあべこべなのですがそうも言ってられないのです」


128: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:50:24.26 ID:ArvRQigk0

 『その男』は、レストランから道路を挟んだ向かい側のカフェから、まつりの『魔法』を目撃していた。

「逃れやがった……。俺の包囲網から無傷で逃れやがったぞ……」

「あの反応……やはりあのイカれ女は俺の『弦』が見えている……。それに……」

「遠目ではあるが……確かに見たぞ」


129: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:50:53.02 ID:ArvRQigk0

「奴が向かった先の壁が突然ぶっ壊れて、そして一瞬で元に戻ったッ!」

「同じだ……俺の右手と……! あれは俺の勘違いなんかじゃあなかったってことだッ!」

「『能力』! あのイカれ女も俺と同じ『能力』を持っている!」


130: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:51:23.13 ID:ArvRQigk0

「……」

「ク……、クックック……」

「なら、俺はあの女と同じ土俵に立ったということ」


131: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:52:07.01 ID:ArvRQigk0

「さっき好き放題やられたのはノーカンだ。あのイカれ女が卑怯な手ェ使いやがったってだけだからなあ~~~。俺の才能が目覚めた今なら、同じ能力を持っている今なら! あんなイカれ女に負けるはずがねーーっ!」

「俺のサウンドにビビってひれ伏した客どもがその証拠! 心地いいぜ~~。あんな風にわーきゃー騒がれたことは一度もなかった。ようやく世の能なしどもが俺の才能に気づいたってわけだ!」



132: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:52:32.78 ID:ArvRQigk0

「今日は門出だ。約束されていたこの俺のスター街道のな!」

「俺自身の手で祝ってやるぜ~~。まずは俺を見下していい気になってやがるあのクソ女どもを血祭りにあげてなぁ~~っ。ヒ、ヒヒ! ヒヒヒヒヒ!」


133: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:53:00.50 ID:ArvRQigk0

●シャルロット・シャーロット その①●

 まつりはエミリーを連れて人気の少ない港まで逃れていた。

 もしも本当に狙いが自分たちなら、無関係の人たちまで巻き込んでしまう恐れがあった。

 まつりの想定する敵は、そのような蛮行を平気で侵す者だ。


134: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:53:41.87 ID:ArvRQigk0

まつり「エミリーちゃん、落ち着いて聞いて欲しいのです」

まつり「さっきのお店で起こったことは、ひょっとしたらまつりの魔法と同じ力によるものなのかもしれないのです」

エミリー「同じ、力……?」

まつり「まつりにはお店の中にびっしりと張られた『糸』が見えていたのです。それが、あの破壊をもたらした」

まつり「そしてここからが大事なのですが……」

まつり「あの力の持ち主は、明らかにまつりとエミリーちゃんに『悪意』を持っているのです」

エミリー「――っ!」


135: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:54:25.65 ID:ArvRQigk0

まつり「(私個人への悪意なら立場上想定できることではあるけれど)」

まつり「(『糸』は、『他はついで』という感じで、私と……エミリーちゃんを中心に張られていた)」

まつり「(そうなる心当たりなら、嫌というほどある)」

エミリー「……私が、演奏集団の方たちと揉めたことと関係があるのでは?」

まつり「……」

まつり「今日が初対面であるまつりたちが一緒に襲われる動機といえばあの諍い、もっと言えばまつりたちに強い恨みを持ちそうな人物は、ナイフを振り回したあのバンドマンただ一人なのです」


136: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:55:03.62 ID:ArvRQigk0

エミリー「……」

エミリー「本当に、」

まつり「え?」

エミリー「本当に、すみません」

まつり「エミリーちゃん? ど、どうして謝るのです?」

エミリー「私のせいで……私を助けたばかりに……本来無関係なまつりさんまで危険な目に巻き込んでしまって……」

エミリー「私……なんてお詫びしたらいいか……」

まつり「それは違うわ!」

エミリー「!」


137: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:55:38.88 ID:ArvRQigk0

まつり「私があなたを助けたのは他ならぬ私の意思。あの場面で傍観者を気取ることは九条の、そしてこの私の信条にもとること。だから、私は自分から無関係でいることを辞めたの」

 面食らった様子のエミリーに、まつりは首を傾げて頬に人差し指を添えながら笑う。

まつり「それに、おまわりさんの言う通り、まつりがあの人を刺激したから余計な恨みを買っちゃったのかもしれないのです。だから、巻き込まれたのはエミリーちゃんの方とも言えるのです」

エミリー「そ、それは違……」

まつり「はいストップ! なのです」

エミリー「!」


138: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:56:10.64 ID:ArvRQigk0

まつり「ここで『違う違う』と言い合ってもしょうがないのです。重要なのは、これからどうするかということ。だから、お互い謝るのはなしにするのです。ね?」

エミリー「……はい!」


139: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:56:36.87 ID:ArvRQigk0

まつり「(そう、問題はこれからのこと)」

まつり「(このままエミリーちゃんを一人で帰すわけにはいかない。所属事務所とご家族に話を通して私の家で保護する必要がある)」

まつり「(でも長期戦は避けなければならない。エミリーちゃんの生活に支障が出るし、そうじゃなくてもいつ襲われるかわからないストレスなんて、そう長く耐えられるものでもない)」

まつり「(顔がわかっているのは幸いね。公園には監視カメラもあるし、彼ほど目立つ存在なら近辺のスタジオや路上ライブできそうな場所を当たればすぐ見つかるはず。『九条』の名前の使い所かしら)」


140: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:57:03.24 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさん」

まつり「はいなのです。エミリーちゃん、今後についてなのですが」

エミリー「まつりさんは、本当に頼りになるお方です」

まつり「……え?」


141: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:57:31.76 ID:ArvRQigk0

エミリー「私を助けてくれたときも、たった今も、まつりさんはいつも恐怖することなく、危険に立ち向かおうとされています」

エミリー「それに引き換え、私は、何も出来なくて……」

エミリー「悔しいです、情けないです……! 私も……まつりさんのような『勇気』が……」

エミリー「『強さ』が欲しい……!」


142: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:58:00.25 ID:ArvRQigk0

 ――――――まつりは本当に強くて頼りになるね


143: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:58:26.51 ID:ArvRQigk0

まつり「――――」

 フラッシュバックした『在りし日の思い出』は、自然とまつりの口を動かそうとしていた。

 悔し涙を流すエミリーに投げかける言葉を紡ぐべく。

まつり「エミリーちゃん、あなたは――」


144: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:58:57.08 ID:ArvRQigk0

 ギュワワワ~~~~~~ンッ!

 プシュッ


145: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 11:59:39.06 ID:ArvRQigk0

「――――――え」

 まつりとエミリーは、自分たちの間に飛び散った『それ』を、まるでスーパースロー再生されたものでも見ているように、ただ呆然と眺めていた。

 一瞬遅れて、理解の追いついたまつりが目を見開く。

エミリー「き、」

 そしてエミリーは飛び散ったものの正体を、

 己の手首から『血』が吹き出ている現実を、激痛とともに思い知った!

エミリー「きゃあああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


146: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:00:14.37 ID:ArvRQigk0

まつり「エミリーちゃん、エミリーちゃんッ! ――ッ!?」

 まつりの『心の目』は、血に紛れるかすかな煌めきを捉えた。

まつり「こ……」

まつり「これはッ!」


147: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:00:40.24 ID:ArvRQigk0

 まつりは己の迂闊さを呪った!

 エミリーの手首に、『糸』が巻き付いていたのだ!

 『糸』は目をこらしてようやく見えるかというほどの細さだったが、それは紛れもなく、レストランに張られていたのと同じものだった!


148: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:01:10.49 ID:ArvRQigk0

エミリー「あ、あああああああああああ!」

まつり「落ち着いて! 傷は浅いのです! いいえ、深くたって私が――!」

「傷が浅い? そいつは困るなぁ~~~~~~」

まつり「!?」


149: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:02:05.53 ID:ArvRQigk0

 まつりの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んで来る。

 振り向いた先では『糸の塊』が不気味に蠢いている。

「追跡に気づかれないように限界まで細くしたとはいえ、やはりあの程度じゃあパワー不足って感じか」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ


150: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:02:39.48 ID:ArvRQigk0

「結構気合入れて『演奏』したのにちょっぴり手首を傷つけただけとはな~~~」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

まつり「(『線』が固まって……)」

まつり「(『立体』に!)」


151: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:03:07.34 ID:ArvRQigk0

 まつりの目の前で、糸は徐々に『形』を為していく。

 最初は腹、次に胸、腕、そして顔!

 糸の塊は『人型』を形成し、腕を組んで下卑た笑みとともにまつりを見下ろしている。

 下半身は足の代わりに無数の糸が垂れ下がっていて、クラゲかタコを連想させる。

 だが、そんな不気味な外見よりも異質な点。

 まるで『亡霊』か『立体映像』だかが漂っているように、糸の像の向こう側が透けて見えた!


152: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:03:33.59 ID:ArvRQigk0

まつり「(この『像(ビジョン)』……この『エネルギーの形』……)」

まつり「(やはり私と同じ能力!)」


153: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:04:13.56 ID:ArvRQigk0

糸の像「まっ! かなりコツは掴めてきたからよぉ~~~」

まつり「!」

糸の像「次は、確実に『始末』出来るぜぇ」

糸の像「行けッ! 『弦』ども!」

 糸の像は二人に向かって下半身の糸を伸ばした!

 束ねられた糸はまるで魚の群れを狙う投網のように、まつりたちを飲み込もうと襲いかかる!


154: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:05:02.97 ID:ArvRQigk0

まつり「…………」

 だが、まつりは逃げようとも隠れようともせず、ただ佇む!

 拳は強く握りしめられ、向かってくる糸を瞬きもせず見据えるその目には、氷のような冷静さと揺らめく炎のような輝きを讃えていた!

 まつりの瞳の中で青く燃える光の名、それは『怒り』!

まつり「ほッ!!」

 ドコドコドコドコ!!


155: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:05:34.73 ID:ArvRQigk0

 まつりが繰り出した『幻の拳』が周囲の地面を叩く!

 破壊されたアスファルトは淡い光に包まれ、即座に修復される。

 まつりとエミリーを守るドーム状の『シェルター』に形を変えて!

糸の像「何っ! 俺の『弦』を防ぎやがった……ハッ!?」


156: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:07:08.69 ID:ArvRQigk0

 ドゴォ!

 ガラガラガラ……

糸の像「うう……!」

 内側からシェルターを破壊して歩み出たまつりは、『糸の像(ビジョン)』を一瞬恐怖させるほどの『スゴみ』を放っている!

 像が怯んだ隙をつき、『拳の幻影』がシェルターに阻まれ行き場を無くしていた糸を鷲掴みにする。

糸の像「しまっ……!」


157: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:08:26.92 ID:ArvRQigk0

まつり「やああああああッ!」

 『拳』が糸を思いっ切り引っ張り、『糸の像』を引き寄せる!

 そして怒れる主人の心に応えるように、まつりの『魔法』は自らを真の姿へと変えた!

 ドギャン!!


158: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:09:11.33 ID:ArvRQigk0

まつり「はいほーーーーッ!!」

 ドゴォ!!!

糸の像「グゲェーーーーッ!」

 まつりの『そば』から現れた『人型の幻影』が、その右拳で『糸の像』を思い切り殴りつける!

 ふっ飛ばされた『糸の像』は、形を保てなくなったように再び『立体』から『線』へと四散した。


159: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:09:41.69 ID:ArvRQigk0

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

 『それ』はまつりが『魔法』と呼ぶものであり、まつりの『心』そのものであり、常にまつりの『そばに立つ』もの。

 『それ』は玉座に冷厳と君臨する『女王』のようでもあり、まつりというお姫様に付き従う忠実な『ナイト』のようでもある。

 『それ』の頭上では陽光を受けたティアラが煌めき、精悍な体つきにはある意味似つかわしくない純白のドレスを風向きとは無関係に靡かせる。

 女性らしい顔つきの上半分はバイザーのようなものに覆われ表情こそわかりにくいものの、『それ』は主たるまつりと同じく、全身から『悪に立ち向かう意志』を漲らせていた!


160: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:10:13.79 ID:ArvRQigk0

 ズキュン!!

エミリー「! 怪我が……!」

 まつりのそばに立つ『幻影』がエミリーの手を優しく握ると、血が吹き出ていたのが嘘のように、エミリーの傷が塞がり痕跡もなくなった。

まつり「少し離れていてください。ちょっと危ないのです」

エミリー「え? で、でも……ハッ!?」


161: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:10:54.53 ID:ArvRQigk0

エミリー「ま、まさかまつりさん……今私が怪我をしたのは、さっきのお店と同じことが起こったのでは……! 恐れていたとおり、あの演奏者の男が、襲ってきたのでは……!」

エミリー「そしてあなたは、こんな危険な力を振るう人と、戦おうとしている!」

エミリー「そんなのダメです! いくらまつりさんでも無茶です! もう私のためにあなたが危険に晒されるのは……!」

まつり「エミリーちゃん。さっきあなたは『まつりが巻き込まれた』と言ったのです」

まつり「ぐっど。百万歩譲ってその通りだとするのです」

エミリー「……!?」


162: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:11:39.41 ID:ArvRQigk0

まつり「だけど、『巻き添えの逃避行』は既に、『私自身の戦い』に変わっているのです」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「あの男はエミリーちゃんを怖がらせるだけじゃ飽き足らず、まるで道端のゴミ箱を蹴っ飛ばすように、なんの躊躇もなく傷つけたッ!」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「これ以上あの男がエミリーちゃんの身を脅かそうと言うのなら……」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨


163: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:12:07.03 ID:ArvRQigk0

まつり「今ここで、倒さなければならない!」

 ドォォォーーーーーz__ン


164: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:12:41.41 ID:ArvRQigk0

まつり「すたんだっぷ、なのです。糸くずさん」

まつり「今のは手応えがイマイチだったのです」

 まつりに応えるように、バラバラになっていた糸が固まっていく。

糸の像「な、なんてパワーだ……。あとちょっと『弦』になるのが遅かったらやられていた……」

糸の像「イカれ女! それが、テメーの『スタンド能力』かッ!」


165: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:13:15.30 ID:ArvRQigk0

まつり「……ほ? 『何』能力ですって?」

糸の像「だがよぉぉ……今ので俺を仕留められなかったのはテメーの失敗だぜぇ……」

糸の像「テメーのスタンドはそんなに遠くにはいけねえようだなぁーーっ。じゃなきゃすぐさま追撃に来たっていいはずだもんなぁーーっ!」

 『糸の像』がニタリと笑う。

 対するまつりは表情を変えず、ただ黙して糸の像を睨みつける。


166: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:13:46.53 ID:ArvRQigk0

糸の像「それにさっき見せたように俺のスタンドは『弦の回避』も出来る! 単純なパワーでは俺を捉えることは出来ない!」

糸の像「つまり、同じ土俵に立っちまえば俺の方に分があるってことなんだなぁ!」

糸の像「ドゥー・ユー・アンダスタンンンドウ! さっきいい気になって俺をコケにしたこと、後悔させてやるぜーーーっ!」


167: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:14:23.14 ID:ArvRQigk0

まつり「わんだほー。とてもわかり易い解説だったのです」

まつり「解説ついでに一つ確認させて欲しいのです」

まつり「あなた、さっきエミリーちゃんに絡んできたバンドマンの人でいいのです?」

糸の像「だったらどーしたッ! そうさッ、俺は『ゼビ』! 才能が目覚めた今、すぐにでもこの名前がワールドワイドに知れ渡るぜーーー!」

まつり「ほ? 案外あっさり認めてくれるのです。それに聞いてもいないのにお名前まで」

バンドマン「おかしいか? いーや、全然おかしくねえなぁーー!」


168: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:14:52.14 ID:ArvRQigk0

バンドマン「俺の『スタンド』のやったことは無能のポリ公どもなんぞにはわかりゃしねぇーー。ってことはよぉ……」

バンドマン「ここでテメーらを始末して口を封じさえすりゃ、この先何をやっても誰にもバレねえってことじゃあねえか! ケケケ!」

 馬鹿笑いする糸の像だが、


169: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:15:19.29 ID:ArvRQigk0

まつり「ふむふむ、なるほど完璧な計画なのです」

 それに冷や水を浴びせるように、まつりは小首を傾げて頬に人差し指を添えながら、目を細めて笑う。

まつり「不可能という点に目をつむれば……ね?」


170: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:15:48.40 ID:ArvRQigk0

バンドマン「……何?」

まつり「かくいうまつりにも計画があったのです」

まつり「でもそれは『長期戦』かつ『あなたを探さなければならない』という問題があったのです。考えるだけでゲンナリしちゃうのです。でも――」

まつり「わんだほー、ここであなたを倒せば、一気に全てが解決しちゃうのです」


171: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:16:17.41 ID:ArvRQigk0

バンドマン「何だぁーーーーっ!? この期に及んでまだイキがる気か、このヴォケが!」

バンドマン「許さねえ…もう一秒たりともテメーがいい気になるのを許しちゃおけねえ……」

バンドマン「泣いて土下座して侘びたところでもうおせぇーーー! 覚悟しやがれ、イカれ女っ!」


172: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:16:44.28 ID:ArvRQigk0

まつり「口を慎みなさい、卑劣漢。覚悟が必要なのはそちらの方よ」

まつり「あなたはこの九条まつりが直々に叩きのめす」


173: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:17:10.67 ID:ArvRQigk0

●シャルロット・シャーロット その②●

 まつりは『幻影』をそばに控えさせながら、『糸』に向かって駆け出す!

バンドマン「ケッ! 生意気にも向かってくるか! 俺の考えた通りみてーだなーっ」


174: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:17:38.45 ID:ArvRQigk0

まつり「(確かに)」

まつり「(私の『魔法』――バンドマンの男は『スタンド能力』と呼んでいた――はせいぜい1~2メートルくらいしか私から離れられない)」

まつり「(あの糸の『スタンド』はどうやらそうではない。『スタンド』にはそれぞれ『射程距離』があるということ!)」


175: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:18:29.81 ID:ArvRQigk0

バンドマン「けどよぉ、その他大勢のファンごときがステージ上のスターに近付くなんざ、恐れ多いにもほどがあるんじゃあねえかぁ!?」

 まつりが嫌な予感とともに目線を下げると、敵スタンドの糸状の下半身は地面に向かって伸びていた!

まつり「――ッ!」

 まつりがスタンドの力を利用して遮二無二飛び退くのと同時、

 ギュワワワ~~~~~~ン!!

 耳障りな騒音とともに、地面の上でクモの巣状に広がっていた糸に衝撃波が走る!

 なんとかかわせたものの、まつりの態勢は大きく崩れる。


176: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:19:01.73 ID:ArvRQigk0

バンドマン「隙だらけだぜ!」

 まつりの元へ、『これが本命』と言わんばかりに、太く束ねられた糸の群れが襲いかかる!

まつり「なんの! なのです!」

 まつりのスタンドも負けじと両拳で応戦を試みる。

 高速のラッシュは鞭のようにしなる無数の糸を尽く弾き飛ばしていく。


177: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:19:31.00 ID:ArvRQigk0

バンドマン「チィ……!」

バンドマン「やはりパワーもスピードもテメーのスタンドの方が上……だが」

バンドマン「そんなことはハナっから想定内なんだよ、バカが!」

 まつりがハッとして目をこらすと、いつの間にかスタンドの右足に、エミリーの手首を傷つけたものと同じくらい細い糸が巻き付いている。


178: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:19:56.14 ID:ArvRQigk0

まつり「(『本命の本命』はこっち――!)」

 即座に糸を外そうとするも、『一手』遅れたまつりよりもバンドマンの方が早かった!

バンドマン「太く束ねた糸の中に一本だけ極細の糸を紛れさせた! そしてくらえ!」

 ギュワワワ~~~~~~ン!


179: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:20:23.48 ID:ArvRQigk0

まつり「ッ! あああッ!」

 糸の衝撃波がまつりのスタンドを傷付けると、体の同じ箇所に激痛が走り、血が吹き出した。

まつり「――痛ッ!」

 苦痛に顔を歪ませながらも、まつりは思考を止めることなくフル回転させる。


180: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:20:51.00 ID:ArvRQigk0

まつり「(スタンドが傷つけばそれを『心のパワー』で動かす自分自身――いわば『本体』にも返ってくる、か……。あまり気持ちのいい話ではないけれど……)」

まつり「(だんだん『ルール』がわかってきた! 同時に私がやるべきことも!)」

まつり「(倒すべきは『本体』の方だわ! 糸のスタンドに攻撃が通じにくいのなら、本体を直接叩く!)」

まつり「(私とは違うタイプみたいだけれど、同じ『スタンド能力』である以上、射程距離にも限界があるはず!)」

まつり「(そして対応や狙いの正確さから考えて、きっとバンドマンは近くで私達を見ている! なんとかして『本体』を探し出さなくては!)」


181: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:21:20.13 ID:ArvRQigk0

 まつりがさらなる決意を固めたとも知らず、糸のスタンドは満足げに下卑た笑いを漏らす。

バンドマン「ンッン~~~~♪ 実に! スガスガしい気分だッ!」

バンドマン「欲を言えばもうちょい悲鳴とかあるといいんだけどなぁーーーーーっ。ま、ノリの悪いクソ客がいるのもライブの常だもんなぁ!」

バンドマン「んーーーー♪ そうだなあ、俺のこの『才能』にも名前が必要だな」


182: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:22:21.16 ID:ArvRQigk0

バンドマン「どんなものにもそれにふさわしい『名前』があるもんだもんなぁーっ。バンドや曲みてえによぉ~~~」

バンドマン「『ゼビ』って芸名を思いつくには一晩かかっちまったが、今の俺には自然とイカしたのがピーンと降ってくるはずだぜ。ん~~~~~~」

 ドリュデドリュデドリュドリュドリュラドギュギララ

 糸のスタンドが己の下半身をギターの『弦』のようにしてかき鳴らす。

バンドマン「! ククク……」


183: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:22:50.76 ID:ArvRQigk0

バンドマン「降ってきたぜ~~。俺の才能を表現するスンバラシイのがよぉ~~~」

バンドマン「『ガストノッチ』ッ! 絶好調な俺にピッタリな最高の名前だぜッ!」

 ドギュギュウウゥゥウン(うっとり)


184: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:23:16.85 ID:ArvRQigk0

まつり「ほ?」

まつり「最高の絶好調というのはかよわい女の子の足にかすり傷を付けることを言うのです?」

まつり「これなら転んで膝を擦りむいた時の方が痛かったのです」

バンドマン「なんで最近の女ってやつはこうも生意気なんだ?」


185: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:23:48.62 ID:ArvRQigk0

バンドマン「まあいい。どれだけ減らず口を叩こうがダメージがあることには変わりがねえ」

バンドマン「これでお前はもう素早い動きが出来ないッ!」

バンドマン「あとは俺に狩られるだけのプルプル足震わせる小鹿も同然なんだよォォォーーーーーー!」

 勝ち誇った笑みでまつりを見下ろす糸のスタンド。

 右足から血を流して膝をつくまつり。

 バンドマンの言葉は両者の構図を正しく言い表しているようでもある。


186: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:24:16.26 ID:ArvRQigk0

 スタンドが見えないエミリーは、傷ついたまつりを目にして、もはや言葉すら挟めずにいた。

 なぜならば、

エミリー「(どうして)」

エミリー「(あなたはどうして、そこまで強くあれるのですか……?)」

 傷ついてなお、まつりの瞳には精神的動揺とは無縁の、『青く燃える勇気』が燦然と輝き続けていた!

 この気高き姿を前に、エミリーはまつりの戦いを留めさせる言葉を持たなかった!


187: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:24:43.76 ID:ArvRQigk0

バンドマン「もういつでもお前を倒せる状態になったんだしよぉ……。テメーだけに構っててもしょーがねーよなぁ……」

 糸のスタンドの言葉よりも早く、まつりは既に行動を開始していた!

 『ゲス野郎』のおキマリの発想などお見通しとでもいう風に!

エミリー「――え!?」

 『エミリーの元』へ、糸とまつりが競うように疾走る!


188: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:25:10.76 ID:ArvRQigk0

バンドマン「――! ふん! ならまとめてくたばれや!」

 右足の痛みに顔をしかめながらも、まつりは力を振り絞って足を動かす。

まつり「はいほーーーーッ!」

 糸の進路上に立ちふさがったまつりのスタンドが足元のアスファルトを割り、瓦礫が淡い光を纏って宙に浮かぶ。


189: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:25:46.84 ID:ArvRQigk0

バンドマン「はん! また石の壁で糸を防御しようってか?」

バンドマン「バカの一つ覚えが! そんなもんこうするだけだボケ!」

 糸の群れはまつりを避けるように軌道を変え、蛇のようにエミリーの元へ向かう。


190: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:26:15.73 ID:ArvRQigk0

まつり「ほ!」

 だがまつりはそれを読んでいたかのように、スタンドの手刀で糸の一本を断ち切る。

 他の糸はそれに構うことなく、なおもエミリーに襲いかかるが、

まつり「させないのです!」

 まつりはラッシュの要領で残っていた糸を全て掴み取った!


191: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:26:42.97 ID:ArvRQigk0

バンドマン「自ら掴むとはバカなやつ! さっきと違っていつでも攻撃の準備は出来てるんだぜ!」

バンドマン「『ガストノッチ』!」

 ギュワワワ~~~~~~ン!


192: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:27:10.97 ID:ArvRQigk0

まつり「――――ッッ!」

 スタンドを通して衝撃波のダメージがまつりの両腕を伝う。それはドレスの肩口まで裂くほどだったが、

バンドマン「んなっ……!?」

 それでもまつりは、歯を食いしばりながら決して糸を手放さなかった!


193: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:27:36.61 ID:ArvRQigk0

まつり「防御なんてすっとろいこと……」

まつり「最初から考えてないのです!」

 まつりは糸を掴んだ拳を自ら破壊した地面に叩きつける。

 その部分の修復は、まだ終わっていなかった!

まつり「アスファルトを『糸ごと』直す!」


194: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:28:11.10 ID:ArvRQigk0

 ギュギュウゥゥゥン…

 ピタァァッ!

バンドマン「な、」

バンドマン「何ィィーーーーーーーー!?」

 糸のスタンドは下半身の部分を地面に縫い付けられるようにして身動きを封じられる。

バンドマン「ヒィィィ! う、動けねェ!」


195: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:28:42.13 ID:ArvRQigk0

まつり「まるで昔のデパートの屋上にあったっていうアドバルーンみたいなのです」

まつり「あんまり可愛くないからお客さんが逆に離れていきそうですが」

まつり「さて、これでゆっくりと本体が探せるのです。エミリーちゃん、行きましょう」

エミリー「は、はい……。……!」


196: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:29:51.33 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさん、酷い怪我です……」

まつり「ほ? 大丈夫なのです。ちょっと見た目が派手なだけなのです。あんまりパワーのない能力で良かったのですよ」

エミリー「でも……! あ、そ、そうですよ! まつりさんの『魔法』で治せばいいのでは?」

まつり「くればーな名案なのです! では、悪い人を懲らしめた後でゆっくり治すのです」

まつり「そこで神妙にしているのですよ。大人しくしていれば悪いようにはしないのです」

バンドマン「く、くくく……」

まつり「?」

バンドマン「ギャーーーーーーーーーッハッハッハッハ~~~~~~! なァんてなァァ~~~~~!」


197: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:30:18.66 ID:ArvRQigk0

 敵スタンドは下半身の部分を切り離して地面の拘束から脱出すると、即座に新たな糸を生み出して瞬く間にまつりを縛り上げる!

エミリー「きゃああああっ!?」

エミリー「そ、そんな! まつりさん! まつりさーーーーーん!」


198: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:30:45.24 ID:ArvRQigk0

 エミリーにはまつりがまるで不可視の糸によって空に磔になっているように見える。

 その非現実的な光景は恐怖と絶望以外の何物でもなかった!

バンドマン「どマヌケが! あんな程度で俺を捕らえたつもりになりやがって!」

バンドマン「ギターと同じよ! 『弦』の部分なんていくらでも替えがきく消耗品に過ぎねーんだぜッ!」

まつり「く、ううう……!」

バンドマン「アドバルーンになるのはテメーの方だったなァァー! 俺様の偉大さを宣伝するためのよォォーーーーーッ!」


199: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:31:18.69 ID:ArvRQigk0

 糸のスタンドはギリギリとまつりの全身を締め上げる。

 首を締め付ける力を四肢よりも弱くしたのはまつりの悲鳴と命乞いを聞きたいという最低の発想からであったが、まつりは苦しげに喘ぎながらも決してバンドマンの思う通りにはならなかった。

 その点は少しばかり不満だったものの、しかし糸のスタンドは愉快げに口の端を歪める。

バンドマン「ウププ! クケッ! ウプップププププ!」

バンドマン「いい気になってたヤツの足元を掬ってやると今の俺みてーに笑顔が心の底からこみ上げてくるよなあ? 幸せってのはこういうことを言うんだろーなあーー!」


200: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:31:49.43 ID:ArvRQigk0

エミリー「お願い! 近くで見ているんでしょう? あなたの望みはなんでも聞きますから! だからもうやめて!」

バンドマン「ヒーーッヒッヒッヒ! ああァ~~~~心に染みる最高の歓声だぜ~~」

バンドマン「テメーもこのガイジンと同じくらいの可愛げがありゃちっとは俺様も優しくなれたかもしれねえのになあ。実に残念だァ~~~」


201: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:32:16.58 ID:ArvRQigk0

バンドマン「次の攻撃で最後だ」

バンドマン「じっくり準備して最大のパワーで演奏してやる。そうすりゃあおめえ……」

バンドマン「完璧にイッちまうかもなァァァァーーーーーーーーーーッ! 『マイケル・ジャクソン』を前にしたファンのようによォォォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 糸のスタンドは狂ったように笑いながらメチャクチャなリフを弾き出す。本命のメインフレーズの前フリというように!


202: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:32:48.04 ID:ArvRQigk0

エミリー「ごめんなさい……ごめんなさい……。もう……許して……。まつりさんを……まつりさんを……傷つけないで……」

まつり「エミリー……、ちゃん……」

エミリー「! まつりさん!」

まつり「許しを…乞う…、だなんて…、そんなことをエミリーちゃんが、する、必要、…全然…ない、のです」

エミリー「でもこのままじゃまつりさんが……まつりさんが……!」

まつり「エミリー、ちゃん」

まつり「『鏡の中のシャーロット』の結末を、覚えているのです?」


203: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:33:41.96 ID:ArvRQigk0

エミリー「……!? 今そんなことを話している場合では…………ッ!」

まつり「…………」

 まつりの目があまりにも真剣だったので、エミリーは危機的状況にはそぐわない質問に答えてしまった。

エミリー「主人公のシャルロットは……鏡の中のシャーロットが消えてしまったことで、一番のお友達とお別れをしなければなりませんでした」

エミリー「とても悲しくて…寂しい幕引きだったと思います…」

まつり「でもシャルロットは……『一歩を踏み出す』勇気と強さを……シャーロットに貰ったのです」


204: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:34:10.42 ID:ArvRQigk0

まつり「確かに寂しいけれど……決して悲しいだけの物語では……なかったのです」

まつり「今日までのまつりは……シャーロットを失ってもまだ屋根裏部屋に閉じこもって……窓からお花畑を眺めることしか出来ない……弱いままのシャルロットだったのです」

まつり「でも、エミリーちゃん」

まつり「あなたのおかげで、まつりは少しだけ前に進める気がするのです」


205: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:34:42.19 ID:ArvRQigk0

エミリー「…………え?」

まつり「私は『あの日』からずっとこの力の意味を考えていた。大切なものを救えなかったこの力は、『呪い』や『悪霊』に過ぎないのではないかと怯えたこともあった」

まつり「そんなまつりの力を、エミリーちゃんは『優しい』と言ってくれたのです」

まつり「本当に、本当に、救われたのです」


206: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:35:09.03 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさん……」

まつり「それにエミリーちゃんは『強さが欲しい』、なんて言ったけれど」

まつり「あなたは既に、それを手にしているのです」


207: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:35:47.55 ID:ArvRQigk0

まつり「恐い目にあった後だというのに挫けることなくステージをやり切った『勇気』、自分の笑顔で他の誰かをも笑顔に変えてしまえる『強さ』」

まつり「こんなことが出来る女の子が弱いなんて、有り得ないのです」

まつり「エミリーちゃんはもう、立派な『アイドル』なのです」

まつり「あなたに『勇気』と『強さ』を分けてもらったまつりが保証するのです」


208: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:36:24.67 ID:ArvRQigk0

 エミリーが返す言葉を持たないでいると、(彼女に聞こえていないのは不幸中の幸いだったが)唐突に耳障りなリフがピタリと止んだ。

 『最後のフレーズ』の準備が出来たのだ!

バンドマン「フゥゥゥゥ……かなりテンションが上がってきたなァァァ……」

バンドマン「今なら『ジミヘン』だってチビッちまうくらいのヤバいプレイが出来るぜェーーーっ!」

バンドマン「アー・ユー・レディィィィーーーーーーーッ! スタンドパワーを全開で最大出力だ!」

バンドマン「遺言考えるくらいの時間を与えてやった慈悲に感謝するんだな、イカれ女!」


209: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:36:53.69 ID:ArvRQigk0

まつり「最大出力?」

まつり「それは…辞めておいたほうが……いいのです」

バンドマン「ああん?」

まつり「まだ気が付かないのです?」

まつり「あなたが独りよがりの演奏をしていた時間はまつりが遺言を考えるのではなく」

まつり「あなたが頭を冷やして反省する最後のチャンスだったことに」


210: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:37:21.90 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ふぅ~~~~~」

バンドマン「今更強がってどうする? ムカつく通り越してもはや哀れだぜェ~」

バンドマン「手も足も出ないそのザマでイキがろうと俺様の勝利はもう決まっているゥゥゥーーーーーーーーーーーーーッ!」

バンドマン「テメーの身の程知らずを後悔してくたばりやがれーーーーッ!」

バンドマン「『ガストノッチ』ッ!!」


211: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:37:49.74 ID:ArvRQigk0

 ギュゴゴゴガガワワワワワワ~~~~~~~~~~~~ン!!

 もはや『騒音』の域を超えた『音の暴力』とともに、より強烈な衝撃波が走った!
 
「あああああああああああああああああああああああああッ!!」


212: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:38:16.42 ID:ArvRQigk0

 エミリーにはスタンドの発する音は聞こえない。

 だが、耳をつんざくような絶叫が辺りに響き、エミリーは思わず目と耳を塞いでしまった。

 やがて絶叫が止み、辺りが静寂を取り戻す。

 目を開いたとき、そこにあるのはボロボロに傷ついた少女の姿。

 狂いそうな想像に苛まれながら、エミリーが恐る恐る目を開けると、

エミリー「……?」

エミリー「……………………え!?」


213: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:38:43.91 ID:ArvRQigk0

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「結局」

まつり「ちっともお話が通じなかったのです」

まつり「みんなニコニコ、笑顔の魔法はとっても難しいのですよ」

まつり「ね? エミリーちゃん」


214: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:39:10.67 ID:ArvRQigk0

 まつりはさっきまでと変わらない様子で、小首を傾げながらエミリーにウインクを向けていた!

 何がなんだか理解できないエミリーだったが、もし彼女に『スタンド』が見えていたなら、何が起こったかなど一目瞭然だっただろう!

バンドマン「……ッ! …………ッ!(パクパク」

 ボロボロに傷ついて姿を保つのもやっとの、息も絶え絶えになっている糸のスタンドの有様が見えさえすれば!


215: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:39:53.80 ID:ArvRQigk0

まつり「糸を切り離せようが関係ないわ」

まつり「あらかじめ切っておいた『糸』を治した。あなたが自ら糸を切断して張り直した瞬間に」

まつり「そしてあなたの体に治りに戻った糸を上半身に巻き付けておいたのよ。ちゃんとあなた自身にも衝撃波が通じるように」

まつり「自分が張ったものではない細い糸は、離れた場所からスタンドを操作しているあなたには気づけなかったようね」

バンドマン「………………!」

まつり「こちらが手も足も出せないのなら、あなた自身にトドメのスイッチを押してもらうまで」


216: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:40:23.39 ID:ArvRQigk0

まつり「さて、声はこちらの方から……」

 エミリーを連れてまつりが軽い足取りで、港に積み上げられたコンテナの一つに向かう。

 その影には、スタンドと同じく言葉を発するのもままならない様子で地べたに這いつくばる一人の男の姿があった。

それは紛れもなく、エミリーを襲ったあのバンドマンの暴漢だった!


217: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:40:52.77 ID:ArvRQigk0

バンドマン「か……は……ぐ……ううう…………!」

まつり「はいほー、お兄さん。改めてお久しぶりなのです。ところで」

まつり「あなたが並べ立てた笑顔のお話ですが……こうして今のあなたを見下ろしてもちっとも笑顔なんて湧いてこないのです」

まつり「やっぱりあなた、最初から最後までエミリーちゃんの足元にも及んでいないのですよ」


218: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:41:19.79 ID:ArvRQigk0

●シャルロット・シャーロット その③●

まつり「さあて、おまわりさんに突き出す前に聞いておくのです」

まつり「あなたのバックにいる人物について……ね?」

エミリー「? それはどういう……」


219: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:41:54.87 ID:ArvRQigk0

まつり「このお兄さんはエミリーちゃんに絡んできた時点では明らかにまつりの力が見えていなかったのです。つまりこの短時間で能力を身に着けたということ」

まつり「それ自体はまつりたちへの恨みがわんだほーなみらくるを起こした、と強引に解釈できるとしても……」

まつり「『スタンド能力』、と言いましたか。彼はどうやってこの力のことを知ったのでしょう? まつりなんて力の名前すら知らなかったというのに」

エミリー「あ……!」

まつり「答えは簡単。彼に『スタンド能力』のことを教えた『何者か』がいるのです」

バンドマン「…………ッ!」

まつり「そして恐らくその『何者か』は、彼が『スタンド使い』になった経緯にも関わっていると見るのが自然!」


220: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:42:30.61 ID:ArvRQigk0

まつり「素直に話してくれますよね? 話してくれたらまつりもあなたも皆はっぴー! なのです。……ね?」

 まつりのスタンドがバンドマンに触れると、ボロボロだった体が瞬く間に全快する。

 目を白黒させて驚いたのもつかの間、まつりのスタンドが放つ『スゴみ』を前にして、バンドマンは媚びたような笑みを浮かべた。

バンドマン「わ…わかった、話す、話すよ……。別に奴に義理立てする必要はねーし口止めもされてねーからなぁ~。へ、へへ……」

バンドマン「そうだ……俺の『スタンド能力』の才能が目覚めたのは、あの『スーツの男』の『プロデュース』のおかげだ」

まつり・エミリー「『プロデュース』……?」


221: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:42:56.86 ID:ArvRQigk0

 バンドマンは駅前広場から逃走した後に起こったことを話した。

エミリー「なんだか……俄には信じがたい不気味なお話ですね……」

バンドマン「テメーらがほら話と思おうがどうだっていいがなぁ~~。俺の話はこれが全てさ」

まつり「……」


222: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:43:32.53 ID:ArvRQigk0

まつり「その『スーツの男』というのは……いくつくらいの人だったのです?」

バンドマン「さあな。『二十代の若者』にも見えたし『枯れたおっさん』のようにも思えたぜ。ま、何かを頭にぶち込まれたせいか意識がモーローとしてたし、顔をよく見る前に俺は気を失っちまったがよぉ~~」

まつり「………………」

エミリー「……? まつりさん?」

まつり「(『プロデュース』……『等価交換』……)」

まつり「(まさか、ね)」


223: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:44:18.45 ID:ArvRQigk0

 まつりが黙考にふけっている中、バンドマンもまた、思考を巡らせていた。

 もちろん『自分の行いへの反省』だとか『怪我を直してもらった情けへの感謝』だとか、そのような良心や謙虚さの類とは無縁の考え!

 ここまで追い詰められてなお、バンドマンはまだ『バラ色の未来』を諦めていなかった!

 その悪党特有のハングリー精神を以て、男はついに『逆転への一手』を見出す!


224: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:44:46.25 ID:ArvRQigk0

バンドマン「…………!」

バンドマン「(こ…こいつは……!)」

バンドマン「(へへ……! ツイてるぜ……!)」

バンドマン「(こんなところにマンホールがあるじゃあねえか!)」

バンドマン「(そしてこのマンホールは……)」

バンドマン「(ガイジンの足元の排水口と繋がっているッ!)」


225: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:45:36.90 ID:ArvRQigk0

バンドマン「(『弦』が届きさえすれば! ガイジンの方を捕らえて人質にして一気に形勢逆転だ!)」

エミリー「これからどうしましょう……?」

まつり「ふーむ、そうですね。『スーツの男』の存在がとっても気になるところですが、とりあえずまつりの家……もといお城に来てほしいのです。お時間は大丈夫なのです?」

エミリー「もちろんです! ……あ、いけない、その前に事務所と家族に連絡をしないと!」

バンドマン「(バカめ! 完全に油断しきってやがる! その間に……)」

バンドマン「(『弦』は排水口の出口まで来た! ……や…やった! 届いたぞ!)」

バンドマン「(ヒヒヒ! やはり俺は『持っている』ッ! そりゃそうだ、神が未来のスターを見捨てるわけはねェェーー!)」

バンドマン「(結局最後に笑うのはこのゼビ様ってわけだ!)」


226: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:46:03.24 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ギヒヒヒ終わったァーーーーッ!」

エミリー「え――?」

バンドマン「今だッ! 『ガストノッ』――」

 ボゴォオ!!


227: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:46:30.26 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ッ!? ぷげえッ!?」

バンドマン「(――え!?)」

バンドマン「(な、なんだこのスピード、は、速すぎ――)」

バンドマン「ぐぎゃあああああーーーーーーーーっ!」


228: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:47:09.74 ID:ArvRQigk0

 糸がエミリーを捕らえるよりも一瞬速く、まつりのスタンドはバンドマンの顔面に拳を叩き込んでいた!

 それは紙一重なれど、まつりとバンドマンを天と地ほどに隔てる決定的な差!

 フッ飛んだバンドマンを見つめるまつりの視線は、養豚場の豚でも見るかのように冷ややかだった!

まつり「本当に」

まつり「とことん予想の下の下をいってくれる、救いようなくつまらない悪党なのです」


229: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:47:36.63 ID:ArvRQigk0

バンドマン「あ…ががが……ッ」

まつり「けれど」

まつり「そんなあなたもたった一つだけ良いことを言ったのです――『どんなものにもそれにふさわしい名前がある』」


230: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:48:02.86 ID:ArvRQigk0

まつり「私は、屋根裏部屋を出ることに決めたわ」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「『シャーロット』に勇気と強さを貰った『シャルロット』のように」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「手にしたこの力が何も救えない『呪い』ではなく、誰かを笑顔に出来る『魔法』になれると信じて、私のそばに立つもう一人の私を」

 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨

まつり「『シャルロット・シャーロット』――――そう呼ぶ」

 ドォォーーーーz_ン


231: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:48:42.98 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ひ、ヒィィィィーーーーーーーーーー!」

まつり「ほ?」

 バンドマンは吹っ飛ばされて距離が空いたのを良いことに、脱兎の如く逃げ出す!

 小悪党のちっぽけなハングリー精神は、まつりの一撃でいとも簡単に折れきっていた!


232: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:49:09.48 ID:ArvRQigk0

エミリー「ああ、そ、そんな! まだあんな元気が! ここで逃げられたら、またいつ襲われるか……!」

まつり「のーぷろぶれむ、なのですよ」

エミリー「え?」

まつり「すでに、『直す』ことは終わっているのです」


233: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:49:41.85 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ハア……ハア……!」

バンドマン「じ、冗談じゃねえ! 俺はただいい気になってるあのクソ女どもをシメてやれりゃあそれでよかったのに!」

バンドマン「こんなはずじゃなかった! こんなはずじゃなかったッ! ちくしょう!」

バンドマン「だが、なんとかしてここを逃げ切れりゃあまたチャンスはいくらでも! そうだ、逃げ切れば……、」


234: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:50:09.22 ID:ArvRQigk0

バンドマン「逃げ、切れ……!?」

バンドマン「な、何だぁーーーーー!? 前に進めねえ! い、いや、それどころか……」

エミリー「Wow! まるで釣り竿に引っ張られるお魚のように、こちらに戻ってきます!」


235: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:50:36.35 ID:ArvRQigk0

まつり「『シャルロット・シャーロット』」


まつり「さっき殴り飛ばしたとき、ついでに『ベルトのバックル』も壊しておいたのです。ゴツゴツしててまつりの趣味には合わないですが、これを直してあげれば――」

まつり「ベルトは、あの男ごと直りに戻ってくるのです!」


236: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:51:21.49 ID:ArvRQigk0

バンドマン「ま、待て、待ってくれッ! ちょっとした悪ふざけだったんだッ!」

バンドマン「そう、新しく買ったギターを試すような、そんな他愛もない出来心だったんだよぉぉ~~~! だからマジになるなって! な!?」

まつり「わんだほーに面白い冗談なのです」

まつり「ぜーんぜん笑顔にはなれませんが」

まつり「それに、最初に言ってあるのです」

まつり「『叩きのめす』、と」


237: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:51:55.96 ID:ArvRQigk0

バンドマン「う、」

バンドマン「うわあああぁぁあああああああぁぁぁーーーーーーーーーっ!!」


238: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:52:54.68 ID:ArvRQigk0

 これは『魔法』を解く物語――。

 『夢』と『魔法』に溢れたおとぎ話の中でお姫様になれるのが少女たちの特権ならば、

 『現実』と『おとぎ話』の間で明日を歩む勇気と強さを育むのが少女たちの義務である。

 やがて大人へとなる少女たちは、『フェアリーテイル』だけでは生きられない。
 
 だから、いつか『魔法』は解かれなければならない。

 今を生きるための力をくれる『魔法』が、人を過去へと縛り付ける『呪い』へと変わる前に。



 私の名前は『九条まつり』。

 これは、大人になろうとしている、ある一人の少女のお話。


239: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:53:41.06 ID:ArvRQigk0

「ルミルミルミルミルミルミルミルミ
  

  ルミルミルミルミルミルミルミルミルミ
   

   ルミルミルミルミルミルミルミルミルミ!!!」


240: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:54:58.70 ID:ArvRQigk0

 ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ!!

バンドマン「ぐげごがぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」
 
 『シャルロット・シャーロット』と名付けられたまつりのスタンドは、高らかに産声を上げるように、超高速のラッシュをバンドマンに叩き込む!

 そして『ゲス野郎への怒り』と『九条まつりの誇り』を込めて繰り出されたトドメの一撃は、バンドマンの描いた『完璧な計画』を完全に打ち砕いたのだった!



まつり「イルミネーション(光らせちゃうわ)」

 バアァァーーーーーーz__ン


241: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:56:10.80 ID:ArvRQigk0

●九条まつりの冒険●

まつり「今度こそりたいあ! なのです」

まつり「まずはおまわりさんよりもお医者さんのお世話になるのですよ」


242: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:56:38.08 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさん!」

まつり「おっと、あまり見ないほうがいいのですよ」

エミリー「いえ、私なら平気です。それよりもまつりさん」

まつり「ほ? ケガのことなら気にしなくていいのですよ。こんなのまつりの魔法で」

エミリー「まつりさんの魔法ではご自分の怪我は治せないのでしょう?」

まつり「ほ、ほ?」

エミリー「出来るのでしたらとっくの前にやってるはずですから」

まつり「う……バ、バレバレだったのです?」


243: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:57:07.95 ID:ArvRQigk0

エミリー「まつりさんはご自分の意思を貫かれました。だから、もう謝罪はしません」

まつり「そうですそうです、ごめんなさいなんて最初からいらないのですよ。ね?」

エミリー「やはりまつりさんへの言葉はこれに限ります」

エミリー「『ありがとうございます』」

まつり「ほ? 別にお礼もいらないのですよ? まつりはエミリーちゃんの言う通りまつりの意思で」

エミリー「まつりさんは言ってくれました。私は『勇気』と『強さ』を持っていると」

まつり「――!」


244: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:57:34.83 ID:ArvRQigk0

エミリー「やっぱりまつりさんのおっしゃることは難しくて、自分では全然実感出来ないんですけど」

エミリー「でも、まつりさんの言う『人を笑顔に出来るアイドル』。とっても素敵だと思いました!」

エミリー「きっとこれこそ、私の憧れる『大和撫子』に違いありません!」

エミリー「私、頑張ります! 今はまだ初舞台も踏んでいない新人ですが……」

エミリー「まつりさんのお言葉に見合うような、立派な『大和撫子』になるために」

エミリー「もっともっと、精進してみせます!」


245: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:58:01.68 ID:ArvRQigk0

 エミリーの言葉には『夢』があった。

 それはバンドマンの語る空虚な絵空事などとは根本から違う、『未来への希望』だった。

 まつりの顔に、エミリーの笑顔に釣られるように同じ表情が浮かんできた。

 まつりはエミリーの持つ強さを確信し、彼女の語る『黄金のような夢』を心から祝福した。

まつり「ようこそ、『アイドルの世界』へ」

まつり「なんて、ね?」


246: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:58:27.42 ID:ArvRQigk0

バンドマン「う……うう……」

まつり「ほ? まだ意識があったのです? なかなかタフなのです」

エミリー「……?」

エミリー「まつりさん、何か……様子がおかしくありませんか?」

まつり「え?」

 パキ


247: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:58:55.68 ID:ArvRQigk0

まつり「…………?」

 パキパキパキ

まつり「――な!?」

 この期に及んで信じがたいことが起こった!

 倒れ伏すバンドマンの体が、まるで水晶と化すように固まっていく!

まつり「こ、これは――! 一体!?」

エミリー「あ…ああ……!」

 パキパキパキ


248: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:59:30.04 ID:ArvRQigk0

 人が人ならざるものに変貌していく、悪夢のように不気味な光景!

 まつりが瞠目し、エミリーが顔を青褪めさせる前で、バンドマンの結晶化はどんどん進行していく!

バンドマン「う……ああ……」

 パキパキパキパキ

バンドマン「う、嘘だ……」

バンドマン「お…俺には……才能が……ビッグな才能が…あるはず……なん、だ……!」

 パキパキパキパキパキ


249: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 12:59:58.30 ID:ArvRQigk0

 バンドマンが救いを求めるように結晶化した右腕を伸ばす。

 そこにヒビが入ったのを見て、まつりはとっさにエミリーの目を手で覆った。

 息を呑むまつりの前で、バンドマンの右腕はガラス細工のようにあっさりと砕け散ったのだった。

まつり「――ッ!」

まつり「『シャルロット・シャーロット』!」

 ズキュン!!


250: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:00:24.43 ID:ArvRQigk0

 まつりはとっさに治療を試みるが、

まつり「な、」

まつり「『治せない』ッ!」

まつり「(私の『スタンド』は破壊されたものを治す能力。ただ腕が千切れただけなら治せないことはないはず!)」

まつり「(まるで『命の終わり』、あるいは『世界からの消滅』だわ! この世から失われたものは私の能力でも決して治せない!)」


251: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:00:55.05 ID:ArvRQigk0

 まつりが為すすべもなく立ち尽くしている間にも、バンドマンの体はみるみるうちに崩れ落ちていく。

 しかしバンドマンは苦痛すら感じていないように、ひたすらうわ言をつぶやき続けるのみ。

バンドマン「嘘だ……嘘だ……あ…ああああ……!」

 パキパキパキパキパキパキパキ

バンドマン「あ」

 パキィ…

 サラサラサラ……

 やがてバンドマンの体は完全に崩れ去って砂となり、まもなく風と一緒になった。


252: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:01:24.30 ID:ArvRQigk0

まつり「……」

エミリー「まつりさん……彼は……」

 まつりが首を横に振ると、エミリーは全身から力が抜けたようにその場に崩れ落ちそうになる。

 慌ててまつりが抱きとめると、

エミリー「あの人には確かに酷いことをされました……。まつりさんのこともたくさん傷つけて……」

エミリー「でも、だからといってこんな終わり方……」

エミリー「まつりさん、私、怖いです……。とてもとても……怖いです……」


253: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:01:53.06 ID:ArvRQigk0

 エミリーは、崩れ去ったバンドマンのために泣いていた。

 恐怖も多分にあろうが、その涙には確かに、『いなくなった者への悲しみと弔い』が込められていた。

まつり「(本当に優しい子なのね)」

まつり「エミリーちゃん、とにかく行きましょう。まつりのお城でティータイムなのです。それでちょっと一息入れましょう。ね?」

エミリー「……(コクン)」


254: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:02:24.43 ID:ArvRQigk0

まつり「(とりあえず目の前の危機は退けたけど、とてもドス黒い気分だわ)」

まつり「(何か、知らぬうちに日常が侵食されていくような、少しずつヘドロに足を取られていくような、そんな嫌な感じ)」

 まつりたちがその場を去ろうとしたその時、

 ドスッ


255: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:02:50.92 ID:ArvRQigk0

「――――――――――え?」

 まつりは一瞬、目の前で起こったことが理解できなかった。

 バンドマンとの戦いの最中ですら決して冷静さを失わなかったまつりの思考が吹き飛ぶほどの光景。


 『腕』がエミリーの胸を背後から貫いていた!


256: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:03:16.66 ID:ArvRQigk0

エミリー「――――――――――――あ、」

エミリー「まつ、り、さ――――――」

 腕が引き抜かれると、エミリーはそのまままつりの方へ倒れ込む。

まつり「う、」

まつり「うわああああああーーーーーーーーーーーッ!」


257: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:03:51.79 ID:ArvRQigk0

まつり「ば、バカなッ! エミリーちゃん! エミリーちゃんッ!」

まつり「――――ハッ!」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 倒れたエミリーの背後には、『人』が立っていた。

 いや、正確にはそれは『人型』なだけで人間にしては異様な外見。

 全身は青白い陶器のように無機質な質感で、人間の目に当たる部分には眼球の代わりに宝石が埋め込まれている。それも右側だけに。


 『それ』は、紛れもなく人型のエネルギー――『スタンド』だったッ!

 その『スタンド』は右手に光り輝く宝石のようなものを持っていた。


258: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:04:25.01 ID:ArvRQigk0

「コノ『ピース』ノ輝キ……」

「素晴ラシイ」

「磨ケバ光ル『才能』ヲ持ッテイルダケデナク、『心』ソノモノガ夢ヲ目指ス少女ノ『純粋さ』ト『ひたむきさ』ニ満チテイル」

 『スタンド』はまつりに目を向ける。

 宝石の隻眼からは、人間らしい感情など伺いようもない。

「君トノ出会イモ大イニ影響シテイルヨウダナ。『Lesson1』ノ成果トシテハ申シ分ナイ」


259: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:04:52.90 ID:ArvRQigk0

まつり「ああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 まつりは激昂のままに『シャルロット・シャーロット』を叩き込もうとするが、

『ガアッ! ガアッ! ガアァッ!』

まつり「ッ!? 何!?」

まつり「突然『カラスの群れ』がッ! それにこの異様な凶暴さは……!」

 無数のカラスが狂ったようにまつりに襲いかかる!

 たまらず拳の矛先をカラスの群れに変えると、目の前では更に異様な現象が起こった!


260: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:05:28.13 ID:ArvRQigk0

まつり「く、『空間』が……」

まつり「『裂けた』ッ!?」

 まつりがカラスに足止めされている間に、『スタンド』は空間の裂け目に歩み寄る。


261: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:05:55.04 ID:ArvRQigk0

「『スダンド使いハ引カレ合ウ』」

「マタ会ウコトモアルダロウ。君自身ノ言ッタ通リ、君ガ前ニ進ムトイウノナラ」

 そう言い残したきり、『スタンド』は空間の裂け目の中に消え、まもなく裂け目自体も何事もなかったようにピタリと閉じてしまった。

 カラスの群れがどこかに飛び去ると、後には不気味な静寂さだけが残された。


262: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:06:31.78 ID:ArvRQigk0

まつり「どうして……!」

 だが、まつりは気を取り直すどころか、ますます焦燥を深めていた!

 今の一連の不可解な出来事が丸っきり些事だというように!

まつり「すでに『シャルロット・シャーロット』は完璧にエミリーちゃんを治し終わっている!」

まつり「いいえ、そもそも怪我なんてしていなかった! どこにも体に異常はない! なのにどうして……」

まつり「どうして、目を覚まさないのよォォーーーーーーーーーーーッ!」


263: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:06:58.75 ID:ArvRQigk0

 まつりの冷静さは今や完全に崩壊していた!

 傷一つ無い体とまるで安らかな夢の中を揺蕩うように目を閉じた顔。


 今のエミリーは、まつりの最も忌むべき記憶と鏡像のように似ていたのだ!


264: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:07:29.00 ID:ArvRQigk0

 カラン……

 何かが地面に落ちるような音がした。

 地面に目を向けると、それはエミリーが大切にしていた手鏡だった。

まつり「――!」

 まつりはその手鏡が、まるでエミリーからこぼれ落ちた『命』そのものであるかのような恐怖を覚えた。

 その忌まわしい想像を打ち消すように首を振り、手鏡を拾い上げるべく、エミリーを横たえて手を伸ばそうとしたその時だった!


265: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:08:02.39 ID:ArvRQigk0

「ソノ鏡ヲ拾ッタノナラバ……『九条まつり』」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

「アナタノ運命ハ、決定的ニ変ワルコトニナル」

「『コマドリのルビア』ノイナイ非日常ヲ」

「『奇妙な冒険』ノ旅路ヲ、歩ムコトニナル」

 ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 

「覚悟ガ決マラナイノデアレバ……鏡ヲ拾ウノハ辞メナサイ」


266: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:08:32.54 ID:ArvRQigk0

 手鏡の守護者のように突如出現した存在、それもまた『スタンド』だった!

 敵意や悪意を持った様子はなく、『鏡のスタンド』はただまつりに語りかけていた。

 だからまつりも言葉を返した。

 己自身に言い聞かせて、覚悟とするように!


267: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:09:05.06 ID:ArvRQigk0

まつり「…………」

まつり「私は、とても多くのものを借りている」

まつり「そして今日、また一つ借りが増えたわ」

まつり「エミリーちゃんには『勇気』と『強さ』を貰った! それは今の私に最も必要だったもの!」


268: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:09:31.62 ID:ArvRQigk0

まつり「『借り』は返さなければならない! ならば今日貰った『一歩を踏み出す』勇気と強さは、エミリーちゃんを助けるための歩みに使われるべきだわ!」

まつり「それがこの九条まつりの『運命』! 私の運命は私自身の手で選択するッ!」


269: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:09:57.72 ID:ArvRQigk0

 まつりは昨日までの自分を振り切るように、迷いなく手鏡を掴み取る。

 それが、少女時代のように長くて短い、九条まつりの冒険の幕開けだった。


 ←To Be continued


270: ◆nzxhv4bDzU 2020/03/07(土) 13:17:50.99 ID:ArvRQigk0

・シャルシャロドラマのカップを治すシーンってクレイジー・Dっぽいな
・まつりのスタンドは絶対に近距離パワー型だよな

この2つの妄想が結びついたらこうなった。すっげー長いな!いやほんとどうしてこんなことに。
余談ですがいわゆる「素まつり」の口調はシャルシャロドラマでまつりが演じたシャルロットに寄せてます。

それではお疲れさまでした。
ここまでお読みいただきありがとうございました。




転載元:【ミリマス】まつりのスタンドお披露目タイムなのです!【ジョジョパロ】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1583545137/

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コメント

コメント一覧

    • 1 名無し春香さん
    • 2020年03月12日 03:06
    • ええやん
    • 2 名無し春香さん
    • 2020年04月13日 21:37
    • 続きを所望する!
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