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トップページモバマス > 渋谷凛「バードストライク」

1: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:49:41.91 ID:4Bdl7bcD0


「ねぇ、プロデューサー。恋、って何か。説明できる?」

イヤホンを外し、空中に言葉を放り投げるように訊ねてみる。

それから数秒の沈黙が流れたあとに、空中からではなく隣から「恋?」と返ってきた。





2: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:50:22.41 ID:4Bdl7bcD0


「うん、恋」

「それは、あの?」

「どれのことを言ってるのかわからないけど、私が言ってるのは、魚でも、色とかの濃淡でも、来るの命令形でもない、恋」

「……説明、っていうのは?」

話が読めない、といった顔で彼はソファの上で胡坐をかいて、腕を組む。

「ぼんやり考えてたんだけど、わかんなくなって」

「恋が?」

「うん。どういうものなのかな、って」

「誰かを好きになること、なんて単純な話ではないんだよね?」

「うん。言葉の意味を知りたいわけではなくて、漠然と、こう……どういうものなんだろう、と思って」

わけのわからない質問だろうな、と我ながら思う。

けれども、気になってしまったものはどうにもならず、加えて自身の力では解決できそうにないのだから、誰かの知恵を借りるほかなかった。

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3: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:51:08.12 ID:4Bdl7bcD0


「とりあえず、現状で凛が抱えてる疑問を教えて欲しいかなぁ。しっかり言語化できなくてもいいから」

「んー。まず思ったのは、どこにあるのかな、っていうのが最初で」

「どこ、ってのは恋っていう存在……っていうか概念? の所在ってこと?」

「うん」

「……たぶん、だけど、下?」

「下?」

「そう。俺たちより、下」

「どういうこと?」

「だって言うだろ。恋に落ちる、とか。溺れる、とか」

「あー。言われてみれば」

「だから、俺たちより下。それも結構」

なるほど、と得心する。

この理屈で言えば、恋とは自分とはそれなりに離れた場所にあるもので、なおかつ下方にあるものなのかもしれない。


4: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:51:43.59 ID:4Bdl7bcD0


「溺れる、ってことはさ、液体で、そこそこ深いんだよね」

私がそう言えば、プロデューサーは「たぶん」と漏らし、「足がつかない」と続けた。

足がつかないくらいの深さで、自分たちよりはるか下にあって、液体。

なんとなく夜の海を思い浮かべて、ああこれは確かに恐ろしいものだ、と思う。


5: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:52:13.46 ID:4Bdl7bcD0


「まとめると、こうだ」

「うん」

「俺たちは飛んでて、何らかの外的要因で、墜落する。その先が、恋」

「うん。私もそれでしっくりきたかも」

「力になれてよかった」

「恋は航空事故だったんだね」

「そう。不測の事態なわけだ」

さてと、と呟いて彼は立ち上がる。

私が「どこ行くの?」と問うと「頭回してたら、甘いもの欲しくなって。ああ、凛のもあるよ。貰い物だけど」と笑う。


6: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:52:55.16 ID:4Bdl7bcD0


「貰い物?」

「うん。鳩サブレ」

「食べるの、久しぶりかも」

「俺も」

彼が紙袋から箱を取り出して、包装をやや雑に剥いていく。

やがて鳩の形をしたビスケットが姿を現して、プロデューサーはそれを「じゃん」と、軽く掲げた。


7: ◆TOYOUsnVr. 2020/04/02(木) 00:55:02.66 ID:4Bdl7bcD0



「そういえば、飛行機ってさ。鳥が一匹当たっただけで、墜落することもあるんだって」


鳩サブレを一羽、手に取って、口へと運ぶ前に何気なく彼へ言葉を投げる。

彼はわかっているのか、わかっていないのか「え? ああ、らしいなぁ」と言った。




おわり


転載元:渋谷凛「バードストライク」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1585756181/

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