スポンサーリンク

トップページシャニマス > 【シャニマスss】夏露に溶けた恋【八宮めぐる】

1: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:20:10 ID:ELM

めぐるの失恋話です。
自分なりにめぐるのイメージを固めて書いたつもりですが、解釈違いを恐れるばかりです。
でも書きたいことは全部書いたんで自己満足しています。
相変わらず話の展開は趣味全開ですが、少しでもめぐるの魅力が引き出せていたら嬉しいです。
よろしければぜひ。



2: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:20:33 ID:ELM

【さよならは言わない】



 むかし、昔のお話です。 

 手を伸ばした先の山が溢れてしまいそうな、そんな静かな海岸に一匹、白鳥が舞い降りました。

 白鳥はその身を美しい女の姿に変えると、羽のような衣を松に休ませ、水浴びをしています。

 その姿はまるでこの世のものとは思えないほど流麗で、そして物哀しいものでした。

 波が打ち上がるときに、彼女の体の分だけ、波の位相がばらばらに崩れていきます。

 強め合っていた波は解けて。弱め合っていた波は絡まって。

 時計の針が回るように、きれいに整列していた波は均され消えていってしまいます。

 薄く開かれたまなこには、青黒く染まった海のかけらと、砂の思い出だけが映っています。

 それはまさに、誰かを想い焦がれる少女の姿そのものだったのです。

スポンサーリンク



3: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:20:51 ID:ELM

○ 
 
 その姿を、遠くでのぞき見ていた男がいました。

 その男は、羽衣の色を冠に、伝説上の存在を尾に据えた、力強い名を持つ男でした。

 しかし、その男の目は彼女に全く奪われてしましました。

 どうにかして、あの美しい女をこの世のものへと貶めたい。

 その男の心に飛来した感情が如何なものなのかは、その男自身にしかわかりません。

 しかし結果として男は天女の衣を盗み出してしまいました。

 家の箪笥の奥に乱暴に羽衣を押し込み、ぼろきれのような服を被せると、衣の輝きはゆっくりと失われていきます。

 そしてしばらくして、羽衣から輝きがすっかり消えてしまった頃、男はごくりと唾を飲み込み、おづおづとした手つきで、箪笥を閉じました。
 
 さて、水浴びを終えた天女は、自らの羽衣が失われていることに気づき、慌てふためき涙を流します。

 泣き疲れ弱り切った女の肩を、優しく抱く者がいました。

 その男は、この上ない高揚感の表面に一抹の後悔を降り注いだような表情を浮かべ言いました。

「どうしたんだい、あんた。泣くことなんかあるのかい。」

「ああ、ああ。柔らかなお人。私の大事な羽衣がなくなってしまったのです。羽衣がないと、私は帰るべき場所に帰れないのです。」

「なんだと、そりゃあ大変だ。よしわかった。俺も一緒に探そうじゃあないか。」

「ああ、ああ。優しいお人。なんと感謝の言葉を申せば良いのでしょう。およそこの世全ての愛があなたのもとにあるに違いありません。」

「しかしまずは冷えた身体を温めねばなるまいよ。この近くに俺の家がある。温かいものを出してやろう。」

「ああ、ああ。愛しいお人。私、この優しさをいつまで経っても忘れません。たとえ羽衣が見つからなかったとしても、私はそれに代わる大切なものを見つけたのかもしれません。」


4: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:21:07 ID:ELM


 ただ声をかけただけ。男が天女にしたことは、たったそれだけなのです。
 でも本当にそれだけで、彼女は彼に、恋をしてしまったのです。
 なぜ彼なのかわからない。でも、今彼女の目に映っているのは彼の姿だけなのでした。
 ──彼女にとって、その出会いはそれほどまでに唐突で。それほどまでに盲目で。それほどまでに、無垢なものだったのです。

 もちろん、羽衣が見つかることはありませんでした。
 天女は、その悲しみを忘れたことはひと時もありませんでした。
 しかし、それ以上に彼女は優しさに包まれ、この世界での命を営んだのです。


5: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:21:20 ID:ELM

○ 
 
 それからと言うもの。男と天女は一つ屋根の下、仲睦まじく過ごしました。
 子宝にも恵まれ、玉のような男の子と、絹のような女の子を一人ずつ授かりました。

 天女は、歳をとりませんでした。
 男は、歳を経るにつれ、彼女の変わらない美しい姿が自分に与えられた罰なのだと思い、悩み苦しむようになりました。
 しかしそのどんな瞬間も、天女は男の傍で彼を労り続けました。
 それは優しさに対する当然の報いだと。
 それは私があなたからもらった喜びの、ほんの一部にしか過ぎないのですと。

 天女は笑って、そう言うのです。

 天女は、男を愛しました。
 息子を愛しました。娘を愛しました。
 隣人を、干魃に苦しむ者を、横暴な権力者を、そして優しき者を愛しました。
 彼と過ごしたこの世界を、愛しました。

 飛ぶように駆け抜けた遠い日のことを、愛したのです。


6: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:21:33 ID:ELM

○ 
 
 どれほどの月日が過ぎたでしょうか。

 逞しく育った息子は隣の村で漁師の首領として多くの子どもの憧れになっています。
 美しく育った娘は都の貴族の妃に召し上げられ、華美に過ぎず、しかし幸せな毎日を送っています。

 男と天女は、海岸添いにぽつんとたたずむ一軒家、あの家で二人暮らしています。
 天女は相変わらず、美しい姿のまま。その姿に一切の陰りはありません。
 男は、とうとう寝たきりになってしまっていました。
 その呼吸も絶え絶えになっています。
 数え切れない皺が刻まれた目尻から、最後にたまった涙がつうと、線になって枯れていきます。
 「最後に」と男は言いました。
 「一人になったら、箪笥の奥を覗いてご覧なさい」と。
 「鳥が羽ばたくのを、もう一度見せておくれ」と告解するように言葉をつげ、息を引き取りました。

 あんなに楽しかったのに。
 あんなに優しかったのに。
 あんなに幸せだったのに。

 男は最後に、悔いるように、悲しむように、謝るように。
 さよならとは遂に告げずに、この世を去っていきました。


7: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:21:47 ID:ELM

○ 

 天女は三日三晩泣きはらしました。
 その声は家々を超え、村々を超え、都の娘の元まで届いたと言います。
 誰もが彼女を励しました。誰もが彼女を慰めました。
 しかし、そんなことはまるで意味のないことだったのです。
 ただ一人、あの人だけがそばにいてくれればよかったのに。
 なぜ私は──と、天女はかつての自分のありかを一心に見据え、思いました。

 あの人と共に過ごせたのに。
 あの人と同じ時を過ごせたのに。
 あの人と並んで命を消費できなかったのは何故なのかと。

 失意のまま、天女は男の最後の言葉を思い返し、箪笥の一番下の段を開けました。
 彼女が本当に彼のことを無垢に愛し続けていたかったのなら、それを開けるべきではなかったのかもしれません。
 しかし彼女は開けてしまいました。でもそんな彼女のことを、誰が責められるでしょうか?
 何かが眠っていることを、期待していたのです。
 彼が自分に残した明日が残っていることを、彼女は望んでいたのです。
 しかし、そこに眠っていたのは、ぼろきれのような服。
 そしてその下に秘された──彼女が遠い昔に無くしたはずの羽衣が、あのときの姿のままで眠っていました。


8: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:22:00 ID:ELM


 彼女は理解しました。
 何故、彼は自分と過ごした幸せな記憶に包まれたまま、最後の瞬間を迎えなかったのかを。
 彼女は理解しました。
 この幸せだった日々は仕組まれたもので、作られたもので、最初から間違っていたのだと。
 彼女は理解しました。
 でもそんな日々の中にも、間違えようのない優しさが溢れていたと。
 ──そう、思いたかった。

 ──彼女が羽衣を纏うとその姿は瞬く間に白鳥へと変わり、空へと飛び立っていきました。
 その白鳥の右羽には悲哀を。左羽には慈愛をのせ。
 白鳥はこの世から去っていきました。 

 そうして天(そら)はやがて、ある感情を知ったのです。

 憎みながらも優しく。
 悲しいけれど嬉しく。
 羨みながらも慈しむ。


 そんな、矛盾(うらはら)の感情のことを知ったのです。
 


9: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:22:15 ID:ELM

【こころ】



 降り続く雨は止んで、夏の空に変わった。
 青く高く澄んで、心が飛んで行ってしまいそうな空の先に、白い入道雲がもくもくと立ち上っている。

 立ち並ぶブティックのガラスに映った、長い夏、その一瞬の光景(ポートレート)。
 ふと振り返ってみても、わたしのページのありかは人混みに紛れて見えないまま。溶けていったのか飛んで行ったのか、それすら判断がつかない。
 こころの空白に問う。わたしは何を探していたのか。
 わたしはこの風景のどこに、何を求めているんだろう────。


10: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:22:29 ID:ELM


 
「──……プロデューサー!」
「めぐる!? 奇遇だな、こんなところで」
「うん! 今ね、学校の友達と一緒にウィンドウショッピングしてるの。プロデューサーは?」
「俺? ……まあ野暮用ついでに、買い出しだよ。最近暑くなってきたから、事務所にも麦茶パックとか置いとこうかなって」
「ああ、最近急に暑くなったよねー。……え、ってことはプロデューサー、今日休みなの!?」
「そ、そんなに驚くことか……?」
「えっ……あ、ご、ごめん……なんかプロデューサーが休んでる時って見たことなかったから……」
「……いや、一応毎週休みはもらってるからな……?」
「そ、そうなんだ……。でも、スーツじゃないプロデューサー、結構新鮮かも」
「ん? ああ、確かにそうかもしれないな……?」
「ふーん……へー……ふむふむ……」
「ど、どうした?」
「……ううん。似合ってるなーって。ね、その服どこで買ったの? 全体的に綺麗目のコーデだよね。そのパンツも、春に出た新しいやつ?」
「おお、本当によく気付くな。
 服自体は行きつけの服屋があってさ。そこのマネキン一体買いみたいな感じで買ってるんだよ。好みで買うとろくなことにならないからな。昔こっぴどく怒られた事があって──」
「あはは、何それ──ん、昔?」
「ああ、大学時代、友達と遊び行ったときにさ。ダサい、ダサいって言われまくったんだよ。」
「────。」
「でもさ、地方から上京してきて一年やそこらでファッションセンスなんて身につかないよなぁ。大体高校時代はずっと制服かジャージだったし……ん、めぐる?」
「──……プロデューサーが、わたしぐらいの歳だった時……」
「──……めぐる……?」
「────見てみたいかも! ねえねえ、昔の写真とかない? 卒業アルバムとか! 今度事務所持ってきて、みんなで見ようよ!」
「ええっ!? い、いいよ。そんなに面白いものじゃないって」
「むー……面白くなくても、いいんだけど……それに、せっかく昔のことを思い出す機会だしさ!」
「……まあ。思い出って、思い返した時に初めて意味を持つのは確かだよな。
 ……でも、自分の中で完結してればそれで十分さ。何より、見られたら恥ずかしい写真とかたくさんあるんだよ! 文化祭の時とか……」
「えー、何それ。ますます知りたくなっちゃうじゃん!……あ、ごめん電話……友達からだ。」
「ほら、今日は友達と遊んでるんだろ? そっちはそっちでちゃんと楽しまなきゃ。
 ……最近、あまり休みも作ってあげられてないし……」
「ううん。それだけプロデューサーにお世話になってるって事でしょ! 
 ……じゃあ、ごめん。わたし、行かなきゃ」
「ああ。楽しんでおいで」
「──……プロデューサー」
「?」
「……今度、アルバム持ってきてみんなで見ようね! わたしも持ってくるから、約束ね!」
「……はいはい。気が向いたら、な。」


11: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:22:41 ID:ELM



 呆れたように微笑むあなたの顔は、いつも見ている顔よりもずっと柔らかかった。
 あなたのそんな笑顔を、初めて見た気がする。
 それを知れて嬉しかったのと同時に、今まで知らなかったことを、少しだけ残念に思う。
 でも、これからずっと一緒にいるから。
 だから、まだわたしの知らないあなたを、わたしはこれから、もっともっといっぱい知る事ができるって。
 わたしのこころは、そんな喜びでいっぱいだった。


12: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:22:52 ID:ELM



 友達と合流し、再び心をときめかせるだけのウィンドウショッピングへと舞い戻る。
 傘の水を一度だけ切り、小脇に抱える。
 新緑の風が少しだけ涼やかに肌に触れる。水が溶けたような、そんな香りがした。
 意味もなく後ろを振り返るけど、もちろんそこにあなたの姿はない。探しに行けばきっと見つかるはずだ。何せたった数分前まで一緒にいたんだから。
 ──それは身体の距離ではなく。精神の距離ですらなく。こころの距離のこと。
 こんなに回りくどくしか表現できない事が少しもどかしくはあるけれど、でもそれが大事なことのような気がした。
 唐突に、ねえ。これ、どう。なんて声をかけられ、小走りで駆けていく。
 クーラーで冷やされた店内の温度が、ひりついた肌の温度をなぞりあげるように掬い取って行った。


13: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:23:04 ID:ELM

【たしかなこと】



 昼とも夜ともつかない、夏の酉二刻。
 空は灰色に沈んで、でもまだ太陽の残り香を色濃く感じる時間。
 都会の喧騒から少しだけ離れた、山の麓のそのまた奥の、ひっそり静かな田舎町。

 踏み切り前で立ち止まるわたし達。
 ぽつんと一つ佇む街灯が、できる限りの力を振り絞って、か弱く辺りを照らしていた。
 三両編成の小さい電車が通り過ぎていくのを、わたし達は言葉を結ばずに見送る。
 小石が風に煽られ線路とぶつかり、からり、と金属音が小さく響いた。
 踏み切りが上がる。
 さあ、いこうと。彼の声が聞こえた気がした。でも本当は、ここに音なんかなくて。
 ────彼が頭頂部の少し後ろから撫で上げてくれた、その感触こそがわたしが聞いた声の正体。
 緑に染まった信号は、次はいつ赤く色付くのだろうか────。


14: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:23:15 ID:ELM



 かえるの声が聞こえる。この時期にしてはだいぶ早い。慌てん坊なかえるもいたものだな、なんて実際の年齢よりもずっと若そうな声色で、あなたがわたしに話しかけてくる。
 わたしは、うんと返すのが精一杯で。でも、あなたはそれをわかってくれているから、耳を澄ませてごらん、なんて言った。
 ぎーこ、ぎーこと。小さな歌が聞こえる。
 その歌に返信はない。しかしそれを意にも介さず、ぎーこ、ぎーこと再び奏でられていく。
 それを聞く誰かはいない。一人だけの、孤独な合唱。
 届かせたい誰かがいるのに、その誰かは眠ったまま────目覚めた時には、きっともう、そこに自分の姿はない。
 それでも、あのかえるは──このかえるは歌うだろう。悲しさからではなく。寂しさからではなく。祈りと、希望を持って歌うだろう。

 夏夜の音色は、そう思わせるには十分なくらい、輝きをはらんでいた。


15: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:23:30 ID:ELM



 辺りはすっかり暗くなった。ぽつん、ぽつんと街灯が等間隔で佇んでいて、その周り数メートルの半径を持った空間だけがぼんやりとした解像度を持つ。その間、もしくは世界の大部分の輪郭は夜に溶けて、隣の何かと同化している。
 光だけでなく。
 声も。匂いも。手触りも。言葉にする事ができるすべての対象に等しく成り立っている。
 想いは雲のように波めいて、わたしのこころがほんの少し下に落ちたまま熱を持つ。
「めぐる」
と、自分の名前が呼ばれただけなのに、びくりと体全体が震える。「なに」と返したその言葉に、わたしの感情はうまく隠せていただろうか。

「今日の撮影、びっくりするくらい上手だったよ。たくさん練習した成果が出てたと思う」
「そ、そうかな……うん、ありがと! プロデューサーにそう言ってもらえるのが、わたし、一番嬉しいかも!」

 はは、なんて小さく笑うあなた。/──本当のことは、きっと伝わらない──


16: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:23:46 ID:ELM

「俺は身内みたいなものだからさ。でも、監督さんだってすごく褒めてくれてたぞ。
 難しい役なのに、物語に入り込むだけじゃなくて、そのキャラクターの呼吸をしてるって。
 真乃や灯織とも、よく一緒に練習してたもんな」
「うん。二人にもたくさん手伝ってもらって、たくさんアドバイスもらったんだ」
「ああ。……いい友達がいて、よかったな。めぐる」
「……うん」

 俯き加減の自分に見えるのは、わたしの足だけだった。
 目をあげられない。夜だけど、夜だから、あなたの顔がよく見えてしまう。

「そういえば、いつだったか一回だけ、俺も手伝わせてもらったっけ」
「えへへー。そうそう! あれはね、えっと……確か、台本もらって二回目のお稽古の後だったかな! 事務所に帰ってきてー、コーヒー入れてー……」
「お、そんなこと、よく覚えてるな」
「うん! 確かね、プロデューサーが『たまには』っていってコーヒーに砂糖入れて飲んでたの。珍しいなーって思ったから、覚えてた!それにプロデューサーの演技がすごくうまくって……”どうしたんだい、あんた。泣くことなんかあるのかい。” だっけ。」
「はは、一応プロデューサーだからな? 少しぐらいはアイドルと一緒に練習できるように、こっちも頑張らなきゃってことさ」
「でも、それがすっごく意外で、わたし、笑っちゃったなぁ……『練習にならないよー』って。思い出した?」
「ああ、確かそうだったな……俺も久しぶりに演技のレッスンでもつけてもらおうかな、はづきさんに」
「……はづきさんのお仕事、また増えちゃうねー。」
「あー……事務仕事は任せっきりに仕事も多いしな、特に領収書関係とか……」
「ちゃんとしなきゃダメだよー。前も真乃と灯織とご飯ご馳走になった時、レシートもらい忘れてたでしょ?」
「ああ、そんなこともあったなぁ……まあ、担当してるアイドルたちが空腹のままなんて、そんなの見過ごせないからさ。いいんだよ、それは」
「むーっ! レシートもらい忘れた言い訳にはなってないでしょー?」
「はは、バレたか。めぐるはちゃんとしてるなぁ」


17: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:24:12 ID:ELM

 ……とくん。跳ねた鼓動の名前は知らない。
 なんでもない会話。今後のプロデュースの方針とか、数年後の目標とか、明日の撮影のプランとか、そんな話じゃなくて。思い出の蕾に水をあげるような、足踏みみたいな時間。
 金桃色の花が咲くかのよう。光がなくても、その色だけは不自然なほど鮮明に見える。

 気づくと、かえるの歌は聞こえない。代わりに数多の虫の鳴く声が積み重なって聞こえる。
 それは、同じ夏の同じ場所の同じ音に違いないのだけど。
 でもなぜか、なくなってしまった音ばかりが無性に恋しくなって、わたしは右足を一回小さく蹴り上げる。息をほっと吐いて、夜空を見上げる。
 今日は月が出ていない。
 代わり、と言ってはなんだけど。
 でも、代わりに星が満天に輝いていた。

「…………。」
「……なんか、考え込むことでもあったか?」
「え、あ、ううん! えっとごめん、ぼぅっとしてた、なに?」
 ぼうっとしていたことは本当だ。
 でも彼の言った言葉は、きちんと聞き取れていた。
 それでもわざと、効いていなかったようなふりをする。
 そのわざとらしさが、バレていなければいいな。きっとバレていないと思うけど。

「……──なんかあったら、すぐに相談してくれよ。
 俺は、めぐるのプロデューサーなんだからさ。
 めぐるが困っていること、悩んでいることを解決できるようにサポートするのが、俺の仕事なんだから」

 遠慮なんかしなくていいんだと。
 自分のことを大切ににしろよと。
 きっとあなたは心の底からそう言うのだろう。
 顔がよく見えない。わたしの反応を待っているから、あなたは何もしゃべらない。


18: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:24:27 ID:ELM

 夜闇に薄く膜が張られる。
 爪を立てれば千切れそうなそれに心を伸ばす。ぐい、とゴムのように伸びてからしばらくして、氷のように冷たい感触を残して落ちていく。
 夜に場違いな飛行機の音が聞こえる。ぴかり、ぴかりと一定の周期で光るそれは、流れ星の落ちる速度よりずっと速いのだろう。少なくとも、見た目にはそう思う。

 ああ、あなたはこんなにも優しいのだから。
 わたしが一人で泣いている時、あなたはきっと隣にいてくれるのでしょう。
 そばに、近くに、一緒にいてくれるのでしょう。
 それが───訳もわからず、ただ無性に、寂しかった。
 
 だからわたしも、嘘のようで、でもよく考えれば本当のことを口にした。
「だいじょーぶだよー……」
 
 チチチチ、と草木の影から虫が鳴いている。どこか近くに、水が流れる音もする。
 都会の街は一秒一秒変わっていく。
 この夜も変わってはいくのだろうけど、でもそれでも、ずっとずっとゆっくりにしか変わらない。動いてくれない。動かないでいてくれる。今のままでずっと、いてくれる。
 それが何より大切なことなんだと、この時のわたしはそう思っていなかった気がする。
 
 たしかなことなんて、後になってから初めてわかるものなんだって。
 全部終わって振り返ってみたら、そう思う。


19: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:24:56 ID:ELM

【伝えたい事があるんだ】



 とある地方の、少しだけ高級なホテル。
 今日は、出演した映画の舞台挨拶廻り。

 こう言ってしまえば簡単だけど、午前と午後にそれぞれ出演した映画館同士の距離は、電車にして片道二時間もかかるような距離だ。山を超える必要があるため仕方がないことではあるが、移動を全て終えた夜にはどっぷりと疲れが押し寄せる。
 ホテルのフロントでチェックインを済ませ、ロビーで明日の予定の再確認。残った力を振り絞って、アイドルとしてのわたしを保ち続ける。それももう、今日はあと少し。

「つっ……かれたぁー……」
「お疲れ様、めぐる。今日はもうゆっくり休むか?」
「んーん……なんか、食べに行きたい……」
「……まぁ、岩手まで来て夕食がコンビニご飯ってのも風情がないからな。じゃあ、一緒に行くか?」
「んー……? え、え!? いいの!?」
「いいのも何も……ダメな理由なんてないだろ」
「……プロデューサー、監督さんとかと一緒にお酒飲みに行くと思ってた……」
「はは、付き合いはまた何度だってあるさ。……でも今日はこの日しかないからな。事前に空けておいたんだよ」
「もしわたしが『寝る』って言ったら、プロデューサーはどうするつもりだったの……?」
「ん? その時は……コンビニ飯、だったろうな」

 冗談っぽく笑うあなたの顔を見て、ため息が出たのはなんでなんだろう。
 あなたがそれに気づかなくてよかった。気づかれても説明できないから。
 もう、ダメだよー、なんて言いつつ、本当のところ何を考えているのかは自分でもわからない。
 喉の奥が熱く擽(くすぐ)られたような気がして面映ゆい。


20: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:25:13 ID:ELM

「じゃあ、着替えたらまたこのロビーに集合な」なんて言って別れる。
 部屋に入り、綺麗に整っているベッドに体を横たえる。
 天井は染みひとつ無く真っ白で、目を閉じたときに反転するその色も、やっぱり混じり気のない色。

 少し眠気が襲ってきたところで、いけない、と思って起き上がる。
 カーテンを開けると、街の鼓動が見える。
 小さな光が、血流みたいに立ち止まらず動いている。大きな光が心臓みたいに力強く拍動している。
 あの夏の夜とはまるで違う。でもたしかに、わたしはこの夜にだって生きている。
 
 いつもより少しだけ重い腰をベッドから上げ、スーツケースから緩いサイズのTシャツを取り出す。
 もし──わざとわたしが時間をかけて着替えたら、プロデューサーはわたしのせいで、わたしだけを待つんだろうな、などと邪な考えが頭に浮かぶ。
 Tシャツの袖を、両手でぎゅうと握りしめる。
 足元灯からの光だけでは十分な明るさではないけれど、鏡に自分の姿が映し出される。
 今の私をなんと呼べばいいんだろうなんて──鏡の自分と目線で会話する。
 答えはもちろん、出なかった。


21: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:25:26 ID:ELM



 わたしがロビーに着くと、プロデューサーは何やらフロントで話をしているみたいだった。
 プロデューサー、とわたしが声をかけると、彼は左手を軽く上げてわたしの動きを静止させたあと、ありがとうと言って話を切り上げる。

 早かったな、なんて言うけれど、実際はあなたを待たせている。
 だけど、ごめんねなんて言葉は今は避(よ)しておこう。でしょー、なんて少し高めの声を出して、あなたの腕を取る。
 昔はこうするとよく叱られてしまったのを思い出す。
 アイドルなんだから、と言うあなたの頬が少し赤く染まっていたのを憶えている。
 最近は、こらこら、なんて簡単にあしらわれてしまうけど、それはそれで居心地が良かった。安心できるようになった、と言えばいいのだろうか。お互いに。
「じゃあ行こうか」と言って、わたしの頭をくしゃりとひと撫でしてからぱっと入り口の方へ歩き出す。うん、と言ってわたしは、あなたの背中を追っていく。


22: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:25:56 ID:ELM



「ここまっすぐ行ったところに、美味いイタリアンがあるみたいなんだ。さっき席が空いてるか聞いてみてもらったら、空いてるって言うから、予約してもらった」
「イタリアンかー。何食べようかなー」
「めぐるはナポリタンとか好きそうだよな。後、ピザとか好きだろ?」
「むー。わたし、そんなにお子様舌じゃないもーんだ」
「お、そうか? じゃあめぐるが食べたいもの、言ってごらん」
「えっとねー、……まずは……ピザ、かなぁ?」
「ほら、やっぱり。」
「ち、違うよー! イタリアンって言ったらピザはお決まりってだけ。他のもっとオトナっぽいモノも好きだもん!」
「はは。例えば、何かあるか?」
「えっとー……うーん……あっ、白いチーズとトマトのやつ!」
「カプレーゼか?」
「えっと、多分それ! イタリアの国旗に似てるやつだよね!」
「はは、たしかにそうだな」


23: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:26:11 ID:ELM

 ……とくん。跳ねた鼓動の名前を、わたしは知ろうとしない。
 先日の闇行く道の景色とは全く違う光景が広がっている。
 妖輝に灯るネオンライト。びかびかと主張するLED照明の信号。スマートフォンの小さな画面に張り出された真っ白な明かりがあちらこちらで蠢いている。
 誰かの声が電柱に跳ね返ってこだまする。夜でも周りの物々はしっかりとその姿を表している。
 空を見上げても、星は見えない──かろうじて月が、紅く儚く見えるだけ。

 ここでは虫の声は聞こえない。
 もちろんかえるの声も聞こえない。ああ、あの子の声は、誰かに届いただろうか。
 わたしはこの無機質な街の中でたった一人だ────。隣にいる、彼を除いて。

「……ねえ、プロデューサー」
 何か、話そうと思った。
「ん、どうした?」
 理由はないけれど。
「わたし、今回の役で、たくさん考えたけどわからないことがあるんだ。」
 時間を埋めたいと思った。
「ん、どこだい?」
 あなたとわたしの間にある、全部の空白を。
「なんで、天女は最後に帰っちゃったのかなぁ……」
 わたしとあなたの思い出で、埋めたかった。


24: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:26:37 ID:ELM

「ああ──たしかに、なんでだろうな。いろんな解釈が考えられると思う。
 ……めぐるは、どう思ってるんだ?」
「最後天女は、すごく悲しかったのかなって……プロデューサーは、どう思う……?」
「……うん。俺も、哀しかったんだと思う。」
「あんなに、楽しく毎日を過ごしてたのに、それでも悲しかったのかな……?」
「……たぶんな。哀しさは、楽しさでは埋められないから」
「……そうなのかな。」
「いや、ごめん。今のはだいぶ、俺個人の考えが入り込んじゃってる気がするな」
「……そうだとしたら、それって、すごく、すごく悲しいな……」
「──……めぐる──?」
「だって、楽しい時も、怒ってる時も、嬉しい時も。たくさんあったと思うんだ。二人だけの毎日。みんなとの出来事。振り返った後で笑っちゃうような、一つ一つが光っている思い出──。
 あんなにいっぱいあったのに、ぜんぶぜんぶ、思い出すのが辛くなっちゃうとしたら……」
「──……。」
「そんなの、ヤダな……──。」

 もし想いに色があるとしたなら、悲しみの色はきっと水色だ。
 今、この瞬間も次から次へと思い出に変わっていく。
 その想いが全部滲んでいってしまうとしたら────
 たしかなことなんて何もないんじゃないかって、そう思えてしまうのが、とてもこわい。

「……そうだな。俺もそれは、すごく辛い」
「プロデューサーも……?」
「うん。例えばさ、こうしてめぐると話してる時間が、いつか哀しさと一緒に思い出してしまうのは、すごくもったいないよな。」
「……うん。」
「……でも、だから白鳥は飛んだんだよ。」
「え────?」
「哀しさが昨日までを塗りつぶしてしまうなら、誰かにしてあげられることは、明日の約束だけなんだよ。
 だから男は言ったんだ。『自分がいなくなった後の未来で、約束をしよう』って。」
「そこにはもう、それを叶えられる自分はいないのに──?」
「うん。でも、それが彼女にしてやれる全てのことで、最後のことだったから。
 きっと、男が何も言わなかったら、天女はもっと哀しい気持ちで羽衣を見つけたか、それか何一つすがるものも無く、毎日を過ごすことになったと思うよ。それは彼の罪を知ることと、どちらが辛いのかな──。
 ……だから、最後。身勝手を反省するとか、贖罪とか、もちろんそんな意味もあったと思うけど──何より、男は天女のことを愛してたから。だから、何か彼女のために残したかったんじゃないかな。」
「愛してた、から──。」
「きっとね。天女も、男を愛してたから最後に飛んだのさ。それが男と交わした最後の約束──哀しみの色が何も無い、二人で過ごす明日だったから。」


25: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:26:52 ID:ELM

 ……プロデューサーは、いつに無く饒舌に語り出し、そしてはたと話が終わった。
 違うと思いたい箇所もある。そうじゃないと思う部分もある。
 でも、もしそうだとしたら────その想いこそが、愛なのだろう。

 ああ、とわたしの心にすとんと、何かが落ちた気がする。
 わたしは、わかった気がする。
 自分のこころをあんなにも回りくどくしか表現できなかったのかを。
 わたしは、わかった気がする。
 夏の夜露に濡れる、一匹だけのかえるの歌が、あんなにも心に残ったのかを。
 わたしは、わかった気がする。
 ゆっくりとあなたのことを思い続ける、特別でない今が、どうして大切だったのかと。
 ────わたしはようやく、わかったんだ。


26: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:27:12 ID:ELM

「ねえ、プロデューサー」
「今日はたくさん聞いてくるな。いいぞ、なんだ?」

 ……とくんと跳ねる鼓動の名前を、ようやくわたしは知った。

「プロデューサーは、自分の見れない明日を見させてあげたい人って、いる?」
「……………………いない、かな。」

 不自然な沈黙。
 ここでの沈黙が何を意味するかは、同じ言葉を百回繰り返すよりずっと明確だった。
 痛いほど伝わった彼の深層心理。もう決着はついているのはわかっている。
 でも、それでも。
 それでも、それでも、それでも。

 それでも、こころを叫ばずにはいられない。

 伝えずにはいられない。

 何に代えても伝えたいことだから。

 そうするべきものなんだって、わかってしまったから。

 他の誰でもないあなたのことが────好きだから。


27: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:27:30 ID:ELM

 なぜあなたでなければいけないのかわからない。

 でも、あなたしか見えない。

 ────そんな、恋をしたから。


28: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:27:44 ID:ELM

「……わたしじゃ、ダメかな────?」

 なるべく自然に。なるべく明るく。なるべくわたしらしく、伝えた。

「────うん。
 ────めぐるの見る明日を、俺のせいで狭めたりはしたくないんだ。
 めぐるにはもっとずっと、広くて青い空が待ってるから」

 なるべく自然に、なるべく明るく、続けた。

「────その言い方は、ズルいよ────。」
「────大人だからな。」

 なるべく自然に、繋いだ。

「────だいすき。」

 最後の言葉に、返答はなかった。


29: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:27:57 ID:ELM



 夕食は、わたしがこれまでに食べた全てのイタリアンの中でもいちばんの味だった。
 そこでも、他愛ない話をたくさんした。
 アイドルのこと。学校のこと。友達のこと。家族のこと。
 いっぱいいっぱい話をして、いっぱいいっぱい笑った。

 帰りに、プロデューサーが「ちょっといいか」と言って、コンビニに寄った。
 彼にしては珍しい。三分もしないうちに出てきた彼の手には、ビールが三本入った袋が下げられていた。
「ビールって美味しいの」なんて子供にしかできない質問をする。「ジュースのほうがおいしい」なんて、彼も子供みたいな返答をする。
「いつか一緒に、お酒飲みたいなぁ」なんて憧れが口をついて出てしまう。
「大人になったらな」と彼は言った。
 それはやっぱり、ちょっとズルいなと感じた。


30: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:28:17 ID:ELM



 ホテルの部屋に着く。
 夕食時にしか着ていないこの服を綺麗に畳んで、スーツケースの中にしまい込む。
 同時にお出かけ用のシャンプーセットを取り出し、ユニットバスに半分までお湯を溜めてシャワーを浴びる。

 シャワーの温度は思っていたよりだいぶ熱い。
 流れ落ちるものは、それよりも少しだけ熱かった。
 
 夜はさらに深く、暗くなっていく。
 深く、深く──そして、とうとうこの街すら眠りについた頃。
 一人、わたしは恋について想う。

 気づかないままに形作られて。
 気づいたときには失っていて。
 

 わたしの恋は、失うために生まれてきたかのよう。


 顔を両手で覆い、目を閉じる。
 ベッドの上で、くるりと背中を丸め、掛け布団で全身を包む。
 深く息を吸い、深く息を吐く。それを何度か繰り返すうちに、嗚咽がわずかに混ざるようになった。
 ああ、ああ。独りになりたいなんて思ったことはないはずなのに。でも、今のわたしの顔は、あの人に見られたくはない。『なんでもなんて、言えないよ』と、彼の言葉を思い返しながら、少しだけ笑って呟く。

 でも、たしかにわたしの恋は、羽を広げて飛んだのだ。
 それが今は誇らしい。
 どんな空であっても、その先に何があっても、わたしはわたしに気づくことができたんだ。
 そんな想いを抱えながら、胸に手を当て眠りにつく。

 ────あなたに恋をして、本当によかった。


31: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:28:37 ID:ELM

【大好きな君に】



 遠くの街並みが夏に烟(けぶ)っている。
 今年初めての、かんかん照りの太陽。本格的な夏の始まりを告げる、風鈴の音と打ち水の跡。
 夏の日が灼けついていく。そんなある休日の午後。
 白い雲が遠くに高々と立ち上っている、緑の街の一角(ひとかど)。


32: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:28:50 ID:ELM



「──……プロデューサー!」
「めぐる!? 奇遇だな、こんなところで。……また、友達と遊びに来てるのか?」
「ううん。……今日は、一人で映画を見にきてるんだ」
「一人でか。それはまた珍しいな……もしかして、『羽衣伝説』?」
「うん。どうしても、お客さんとして見たかったんだ。」
「……そうか。うん、いろいろ得るものはあると思うよ。……でも、俺が言うのもなんだけど、たまにはアイドルのことを忘れて遊んだり、休んだりしていいんだからな?」
「……うん、ありがと、プロデューサー。……そう言えば、プロデューサーは今日お休み……じゃないよね」
「ああ。これからテレビ局で打ち合わせがあるんだけど、ちょっと時間を余らせてるから暇つぶしに、な」
「うわー、大変だね、日曜日なのに……」
「まあ、この業界だから。気にすることはないさ」
「……ありがとね」
「……気にするなって」
「気にするよ。わたし達のために、頑張ってくれてるんだもん」
「……プロデューサー、だからな」
「……うん。プロデューサー、だもんね」
「……さ、上映時間、そろそろだろ。行きな」
「え? あ、本当だ、行かなきゃ! じゃあね、プロデューサー! お仕事頑張ってね!」
「ああ。めぐるも、しっかり休んでな」
「──プロデューサー!」
「────?」


33: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:29:05 ID:ELM


 
「また行こうね」と言って別れた。
 どこに、なのかはあえて言わなかった。
 わかってくれるかな。わかってくれたら嬉しいけど、わかっていなかったらまたおしゃべりできるから、それも嬉しいな。

 三両編成の列車に乗って、踏み切りを越えて、畦道を歩いて。
 かえるの歌は、今度こそたくさんの声が重なっているような気がするんだ。
 それを聞いてあげたら、きっとあの子の歌も、届くと思うから。
 またいつか、二人であの夜に行こう。
 
 ──あの街灯に、灯りがともる頃。


34: 名無しさん@おーぷん 20/05/16(土)15:33:24 ID:ELM

以上です。
めぐるを曇らせるな、とは思いつつ「しかしそれはそれとして見たい」と思ったので書きました。自給自足です。
また、各節のタイトルは全て小田和正さんの曲から採りました。よろしければこれらも聞いてみてください。

毎回変なssばかり書いて喜んでいます。
最近はこんなの書いてました(最近の三つです。一つは渋のリンクですが、よかったらぜひ。)

【シャニマス・モバマスss】透明を盗んで【浅倉透・辻野あかり】


【モバマスss】ラバーソウルを弾ませて【宮本フレデリカ】


【モバマスss】Logical code【一ノ瀬志希】(pixivのみ)


転載元:【シャニマスss】夏露に溶けた恋【八宮めぐる】
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1589610010/

スポンサーリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
米や※または#の後に数字を入力するとコメント欄へのアンカーが表示できるかも。