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トップページグリマス > 【ミリマス】私が貴方に送った言葉

1: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 21:48:18.48 ID:UdHDSlcF0

ミリマスのSSです。

可奈のメモリアルコミュ4で存在が出てきた音楽教室の先生視点の話になります。
可奈以外のアイドルの出番は少な目です。
BC及びミリシタの話が混在していたり、若干改変した部分や独自解釈などもありますのでご了承ください。




2: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 21:53:15.73 ID:UdHDSlcF0


「スマイルンルン~♪ らんらららーん~♪ 笑顔に~なって~♪」

「―――」

「っ!」

何かを言おうとしたところで目が覚めた。

「またなのね」

最近よく夢に見る歌。だけど一度としてその一言は言えていないし、何て言おうとしていたのかも思い出せない。

だけどなぜこの夢を見るかは分かる。

忘れようとした私の過ち。それを忘れてしまうことを現実が許してくれなかったからだ。

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3: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 21:58:48.60 ID:UdHDSlcF0

「「「先生、さようならー!」」」

「さようならー。また来週ね!」

生徒の見送りを終えた後、教室内の片づけを始める。

「はあ」

思わず溜息がこぼれた。

細々と続けてきた合唱教室。そこへの入会希望者が最近増えてきたからだ。

それが私の指導力が認められたことに対する結果だったら喜ばしいものだろう。

けれど実際は違う。

最近売り出し中のアイドル、矢吹可奈が昔通っていたという話がかつての生徒による口コミで広まってしまったことによるものだ。

彼女はとても楽しそうに歌うらしい。

自分の子供もアイドルになれるかもしれないと考えた親、そうでなくてもアイドルを同じ教室に通わせたいと思ったミーハーな親に加えて、伸び伸び子供が楽しく過ごせると親まで様々な期待を抱いて子供たちを連れてくる。

その期待がすごく重い。だって私が最後に彼女へ送った言葉は最低のものだったのだから。


4: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:00:26.01 ID:UdHDSlcF0

確かに可奈ちゃんは確かにこの教室に通っていた。

彼女は本当に歌が好きな子だった。

大してうまくないけれど思いがこもった歌を本当に楽しそうに歌っていた。

そんな彼女が愛おしくどうにか上達させてあげたいと他の子よりも熱心に指導してしまったのが1つ目の過ちだった。

贔屓だという批判、時間をかけても彼女の歌をほとんど上達させられない手腕への懐疑。

まだ駆け出しでそれらの声に反論できるだけの実績も自信もなかった私は2つ目の過ちを犯した。

「あなたは向いていない」

堪え切れなかった私は小学生の女の子に対して最低で最悪の言葉を吐いたのだった。

それは私が彼女に送った最後の言葉になった。

次の回から彼女は教室に来ることなく、親が退会しますと告げに来た。

だから私のおかげで今の彼女があるなんて口が裂けても私は言えないし、彼女を見る資格すらない。


5: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:02:39.75 ID:UdHDSlcF0

彼女には他にも才能があった。

明るく活発な性格はみんなに好かれていた。

運動能力も高いし、何らかのスポーツをやれば結果を残せたと思う。

一度見せてもらった絵もとても上手だった。

音楽のジャンルで見たって、音程は外しがちだけどリズム感自体は悪くなく、楽器の演奏ならきっと上手くできるだろう。

責任を負うことから逃げた私はアドバイス一つする勇気もわかなかったけれど彼女なら他にいくらでも選べるだけの才能があった。

だからこれは間違ってない。彼女のためでもあるんだ。

そんな言い訳を自分に言い聞かせていて封じ込めたつもりだった。


6: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:04:20.86 ID:UdHDSlcF0

そして私は可奈ちゃんのデビューを知った後も一度たりとも彼女のステージを見に行ったことがない。

たまにそういう人もいるが音楽のプロの端くれとして見世物としての側面が強いアイドルなんて興味ないとか、そんな理由ではない。

むしろ笑顔を、涙を、たくさんの感動をくれる存在で大好きだ。

346プロ、315プロ、961プロ、283プロなど今でもステージを見に行くことはたくさんある。

昔は765プロのステージも頻繁に見に行っていた。今の劇場ができてからもしばらくは。

39プロジェクトが始まり、毎週のようにデビューしていく少女たち一人一人をすごくワクワクしながら見ていた。

みんな魅力的で個性があって次はどんな子が見られるのだろうかと楽しみにしていた。

そんなある日、いつものようにステージの最後に次にデビューする子の紹介映像が流れた時までは。

小学生の時の姿しか知らないはずなのに名前が出る前に一目でわかった。私が見捨てたあの子だと。

いつもは最後まで見る紹介映像を途中で抜け出し、荒い息で私は逃げ出すように退場した。

それから二度と765プロのライブに行ったことはない。765プロのメンバーがTVに映ると可奈ちゃんが出てないときですらチャンネルをすぐ変えた。

万一にも彼女の歌を聞いてしまうことが怖かった。それが想像以上のものだったとしてもその逆だとしても。


7: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:06:31.13 ID:UdHDSlcF0

「来てくれてありがとう」

「いえ、オーナーにはお世話になりましたから」

ある日、私はとあるライブハウスに来ていた。今でこそ合唱講師一本で楽器に触れることはなくなったけれど、学生時代友人たちとバンドを組んでおり、その際に何度も演奏させてもらった場所だ。

「今回で閉店してしまうのが本当に残念です」

「みんなそうやって惜しんでくれるのがうれしいよ」

私たちに限らず多くのバンドがここで演奏してきた。

中にはクイーンガゼルのようにメジャーデビューしたものもある。

オーナーが高翌齢ということもあり、閉店することになったけれど惜しむ人も多く、ラストライブにはここで演奏してきた多くのバンドが出演者や観客として集まっていた。


8: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:08:31.53 ID:UdHDSlcF0

「できれば君たちにも参加してほしかったんだけれどね」

「もう無理ですよ。ここしばらくはみんなで集まっても飲み会にしかなりませんし。私だって何年もギターに触ってすらいません」

今でも大切に取っておいているけれど合唱の教室を開くということ、そしてバンドの仲間以外と一緒にやる気持ちになれなかったこともあり、ずっと仕舞ったままになっている。更に私以外のメンバーは仕事が忙しく本日来ることすらできてない。

あの頃の気持ちも熱もろくに思い出せないし、きっともうギターに触ることはないだろう。

「そうかい。でも気が向いたらまたやってみてほしいな。君たちのライブも好きだったよ」

「ありがとうございます。っとそろそろ最後のバンドですね」

「実は次の子たちがラストライブを企画してくれたんだけどね。実はアイドルなんだ」


9: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:12:45.76 ID:UdHDSlcF0

「アイドル?」

ここでかつて演奏していた人の中には伝説級のアイドルになった人もいるけど、彼女たちが来たならもっと話題になってるから違うはず。誰だろう。

「演奏の方はまだまだまだ初心者だけどね、気持ちのこもった歌を歌うんだ。そういえば君は昔からアイドル好きだったよね。気に入ると思うよ。いやもしかしたら知っているかもね」

バンドもやってるアイドルはいくつかあるけど初心者ということはおそらくその方面での知名度は高くないのだろう。でも、それでまだそんなに縁のないはずのここの閉店を惜しんでくれるような子たちならきっと素敵なアイドルなんだろう。

「さて! 名残惜しいけどラストライブもこれで見納め! 次が最後のバンド、ラストライブを企画してくれた≡君彩≡で『パンとフィルム』です!」

「え?」

そのバンドの真ん中でギターを弾き始めたのは可奈ちゃんだった。


10: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:16:01.00 ID:UdHDSlcF0

『パンとフィルム』とても素敵な歌だった。未熟だけど一生懸命なのが伝わる演奏、そして想いがこもった歌声。

だけど

―最後の言葉消えないままで―

一フレーズが頭から消えない。

私が傷つけたその一言の重みを突きつけられたようで。

別に不自然なフレーズではない。

そもそも私のことを今でも覚えているかも分からないし、仮に引きずっていたとしても仲間と歌う曲にそんな怨念を込めた歌詞を入れないだろう。

だからきっと偶然だ、自意識過剰なだけだ。

「どうしたんだい? 終わってから様子が変だよ」

「あ、いえとても素敵な演出で思わず昔の自分たちを思い出してしまって」

それも嘘ではない。

≡君彩≡は演出として昔のライブ映像や楽屋のサインを流してくれていた。その中には私たちのものもあったのだから。

彼女は、可奈ちゃんは、それが私たちだと分かっていて流してくれたのだろうか。偶然だろうか。

私は疑問と胸に刺さった痛みがで頭がいっぱいになっていた。

この後起こりうることに考えが回らないほどに。


11: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:19:24.25 ID:UdHDSlcF0

「オーナーさん! ありがとうございました」

「あっ!?」

ライブが終わってしばらく後、オーナーのもとへ来てしまった。もう私が会ってはいけないと思っていた子が。

「可奈ちゃん……」

ここに留まっていたら企画者の一人である彼女がオーナーに挨拶に来てもおかしくない。

まして彼女が演出担当だったらしいのだから。

「はれっ!? 先生!?」

私を見て驚く可奈ちゃん。ああやっぱりあの映像は私と分からないまま流してくれてたのか。

「お疲れ様。おや? 知り合いだったのかい?」

「ええ、昔ちょっと」

オーナーになんて説明すればいいのか分からず私、戸惑うばかりの可奈ちゃん、私たちの関係性がつかみ切れず割り込んでいいのか躊躇うオーナー。沈黙が流れる。


12: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:21:23.77 ID:UdHDSlcF0

そんな中、一人の男性が近寄ってきて頭を下げた。

「今回もお世話になりました。可奈もお疲れ・・・?」

反応的に765プロの関係者、おそらくプロデューサーだろうか。彼もその場の空気の重さに気が付いたらしく言葉が途切れた。そう思ったとき、可奈ちゃんが彼の手を引いた。

「あ、あの先生、少し待っててください! プロデューサーさん。ちょっと来てください!」

「え、どういうことだ。まだ挨拶中じゃ。おい! 可奈!」

そのまま彼は可奈ちゃんに引っ張られていった。

「んー。どういうことなのかね」

「えっとそれは」

どう説明するか悩んでいる間に可奈ちゃんが戻ってきた。プロデューサーの後ろに隠れながら。


13: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:23:22.95 ID:UdHDSlcF0

「先ほどは失礼しました。以前うちの矢吹がお世話になったようで。ほら、可奈」

どこまで説明したかは分からない。だけど私たちの関係性は把握したらしい。私に向かって頭を下げたプロデューサーが可奈ちゃんに何かを促す。

「あ、あの! 先生、これを!」

可奈ちゃんが恐る恐る何かを差し出してきた。

「何?」

「よ、よかったら見に来てください!」

「え?」

渡されたのは……ライブのチケット?

「矢吹の次回のセンター公演のチケットです。ぜひともあなたに見に来てほしいと」

どうして? 私なんかきっと思い出したくもなかっただろうに。


14: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:25:17.67 ID:UdHDSlcF0

「おや羨ましいね。僕は招待してもらえないのかい」

回答に困る私を見て話を繋ぐためだろうか。オーナーが悪戯顔で入り込んできた。

「あ、オーナーさんごめんなさい! え、えっとプロデューサーさん!」

「来ていただけるなら当然喜んで。こちらをどうぞ」

プロデューサーのこの手際の良さは私に渡した時点でlこうなることも想定済みだったのかもしれない。

「オーナーさんが来てくれるのも楽しみにしています! じゃあ失礼します!」

私同様彼女もいっぱいいっぱいだったらしい。あっという間にその場から逃げ出していった。

「おい、可奈! ああもう。申し訳ありません。後でもう一度挨拶させてください!」

そしてプロデューサーも可奈ちゃんを追いかけていった。


15: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:27:29.78 ID:UdHDSlcF0

「ははは。慌ただしいね。それで君たちはどういう関係なんだい?」

笑いながらオーナーに尋ねられる。

「実は昔、私の合唱教室に来てたんですけど向いてないってやめさせてしまったんです」

一瞬誤魔化そうと考えたけれど、結局言ってしまった。最近の夢もあって一人で抱えているのがきつかった。

「なるほど。それは気まずくなるのも無理はないね。それで彼女のライブはどうするつもりだい?」

「それは……。きっと私を恨んでるでしょうから」

きっと建前で渡してくれただけだ。見に来てくださいなんて思ってもないはず。そう自分に言い聞かせる。

「行きたいんだね」

「そんなことは……」

ない、とは言い切れなかった。今の彼女がどうなっているか見たいという未練、恨まれてないと思いたい身勝手な願い。それらの想いが私の中で渦巻く。

「きっと彼女は恨みでこんなことをする子じゃないと思うよ。本当に先生に聞いてほしいから渡したんだ」


16: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:29:36.08 ID:UdHDSlcF0

「さてここまでライブを見てみてどうだい?」

結局私はオーナーと一緒に可奈ちゃんのライブを見に来ていた。

「やっぱり来るべきではなかった、そう思います」

最後の曲の前に一度アイドル達が引っ込んだわずかな時間でも、私は後悔していた。

「つまらなかったかい?」

「いえ、とても素晴らしいライブです。私が私でさえなければ最高に楽しんでたと思います」

「それなら素直に楽しめばいいじゃないか」

それはできない。

「聞いたでしょう。さっきの『オリジナル声になって』」

「ああ、歌が大好きだという気持ちがこれ以上なく伝わってくる曲だったね」

「それほど彼女にとって大切なものを一度私は彼女から奪ったんです」

許されるわけがない、許されたとしても私が自分を許してはいけない。

「考えすぎだと思うけどねえ」


17: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:36:37.35 ID:UdHDSlcF0

「最後までは聞いていきますが、二度と彼女の視界に入らないように気を付けます」

『Clover Days』という曲を仲間と一緒に歌う姿で共に笑って歩いていける仲間も見せてもらえた。今更私なんて彼女の道に必要ない。

いや、そもそも私が必要だった時なんてなかったのかもしれない。

進むべき道をふさいでしまったけれど私なんかのところに通わなくなってよかったはずだ。

そんなことを考えている間に準備のために降りた幕が再度開いた。

そこに立っていたのは以前ライブハウスで見かけた≡君彩≡のメンバー。ピアノもあるし、きっとあのときのように演奏しながら歌うのだろう。


18: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:42:17.18 ID:UdHDSlcF0

「さて次が最後の曲なんだけど」

しばらくトークを行った後、ピアノの子、確か恵美ちゃんが話をまとめて次の曲の入る気配を見せるけれど何かあるらしい。

「本当だったら私たち3人の曲なんですけど。今回、私のわがままで一人で歌わせてもらいます!」

「むふふぅ! ここでしか聞けないかもしれない可奈ちゃん特別ソロバージョンですよーっ! お楽しみに! それでは」

サプライズに会場が沸く。765プロは元々それぞれの曲を他のメンバーが歌うことが非常に多かった。

それは今でも続いていたらしい。

オリメンも魅力的だけど、一期一会の特別な場だからこそ聞けるこういった歌を楽しみにする人も多い。

しかもそれが今回限りかもしれないと言われればなおさら盛り上がる。

「聞いてください! 『ReTale』!」


19: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:46:39.97 ID:UdHDSlcF0

以前ライブハウスで聞いた『パンとフィルム』よりも切なく恋を歌ったその曲。

まだ幼さが残る彼女らしくない感情が込められたその歌はまるで彼女が本当に恋をしてきたようで。

誰に? 同級生? プロデューサー? いや

「もしかして?」

自分には向いてない、愛されてないかもしれない。そうだとしても彼女がずっと恋してきた相手は

「好きだよ その言葉でまた始めよう」

【歌】なのかもしれない。

そしてその恋を彼女は決して諦めないのだろうきっと。私なんかに奪われても。


20: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:52:08.50 ID:UdHDSlcF0

私は彼女にもバンドにも最後まで向き合えなかったし、代わりに抱きしめようとすることもできなかった。その思いが胸に突き刺さる。

それでも目を逸らさず最後まで聞くのがせめてもの私の贖罪。

そう考えていた時に可奈ちゃんがこちらを向いた。

何か次の歌詞に意味があるのだろうか。恨みの言葉か、離別の言葉か、思わず身構えた。

だけどその唇から漏れた歌詞はその真逆の言葉だった。

「ありがとう その言葉で高く跳べる」


21: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 22:57:24.93 ID:UdHDSlcF0

「あっ」

そうだ。最近夢で何度も思い返す彼女の歌。

―スマイルンルン~♪ らんらららーん~♪ 笑顔に~なって~♪―

それは落ち込んでいた私を可奈ちゃんが励ますために歌ってくれていたものだった。

勇気づけられた私があなたに送った言葉は

―ありがとう―

その一言で彼女はすごくニコニコしてまた歌ってくれて。

まさかそんなもので私を許してくれるとでも彼女は言うのだろうか。

最後までその曲を聴き終えた私の目から涙が零れ落ちた。


22: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:02:27.14 ID:UdHDSlcF0

「みなさんアンコールありがとうございます!」

アンコールの声に応えて本日参加したメンバーが再度出てくる。

「アンコールの前に今日は私の公演ってことで少しだけ私の話をさせてください」

そういって彼女は会場を見渡す。

「実は隠していたけど私歌があんまり上手じゃないんです」

知ってるー、隠せてないよー、そんな声が彼女に返ってくる。

「あーもうみんなひーどーいです!」

「そう思うならもっと上手くなりなさい」

「志保ちゃんまでー!」

仲間にまで茶々を入れられて膨れる可奈ちゃんを見て会場中に笑い声が響く。


23: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:04:56.24 ID:UdHDSlcF0

「だからたくさん挫折したり回り道したこともあったんです」

けれども彼女の真剣な言葉に会場の空気も変わる。

「歌を教えてくれた人に向いてないって言われたり、オーディションで落ちたり、歌の練習や勉強をするなって言われたり」

恨まれていない。そのことが分かっても過去の自分の行動を晒されているようで思わず身体が固まりかけた。けれどそれは私だけではなかったらしい。

「ちょっと可奈! 私だってあれは反省してるのにお客さんの前で持ち出さないでよ!」

志保ちゃんが慌てて抗議していた。

「え? 最後のやつが志保ちゃんだなんて私」

「「あ!」」

「あ、あわわわ。ちょっと今の聞かなかったことにしてください!」

「そ、そうです。え、えっと今のはカットで」

二人とも大慌てで主張するけれど当然録画でもない生の会場でそんなことは通じるわけなく

「かなりんしほりん。手遅れだよ。観念してそのときのこと話しちゃおう」


24: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:06:21.07 ID:UdHDSlcF0

「にゃはは。あのときはいろいろあったよね」

「それにそのおかげで可奈さんは新しい歌い方を覚えることができたんですよね」

「え、ありさの知らない話なんですけど!? 聞かせてください!」

他のメンバーにもどんどん話を掘られていき、観念したように可奈ちゃんと志保ちゃんも話を続ける。

「あのですね。そのときの私ちょっとだけ技術が身についたことばかりに目が言って自分の歌い方を忘れていたんです」

「そのことに気が付いてほしかったけど私もうまく伝えられなくて」

「それで喧嘩しちゃったけどみんなが相談に乗ってくれて志保ちゃんに認めてもらえる歌を歌えるようになったんです!」

「可奈一人だけではなく、私たちCloverのユニットとしても困ったらみんなと話し合う、当たり前だけど大切なことに気が付くことができました」

「だから、きっと私たちの喧嘩は無駄な事なんかじゃなかったんです」


25: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:09:23.95 ID:UdHDSlcF0

「それに昔歌が向いてないって言われたことも」

そういってまた一瞬だけ彼女は私の方を見た、気がした。

「その時私は一度歌をやめちゃったけどそこで楽器に触れることができました。きっとそれがあったから≡君彩≡でバンドをやることにつながったんだなって。それに歌が大好きだってことも再確認することができました」

ああそうか。引きずっていないわけがない。だけど全部を受け入れて今の彼女はここまで進んできたのか。こんな私でさえも。

「シアターの仲間が言っていました。回り道の途中で本当に好きな事や新しい自分に出会えるって。回り道もいいものだって。だからきっと全部が今の私を作ってくれているんです。なので伝えたいんです! 友達、仲間、スタッフの皆さん、今まで関わってきたすべての人、そしてもちろんファンの皆さんに!」

そう言いながら可奈ちゃんはステージ全体を見渡し満面の笑みを浮かべて叫ぶ。

「『ありがとう』って! 最後の曲は」


「「「「「「『Thank you!』」」」」」」


26: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:11:24.54 ID:UdHDSlcF0

「あの……私のライブ、どうでしたか?」

「素晴らしかったわ」

「とてもよかったよ」

「オーナーさんはどうでした?」

「最高だったさ。ラストライブの時といい、本当にいいものを見せてもらったよ」

「わーい! あ、あの、先生! 私、最近思い出したことがあるんです」

「向いてないって言ったこと? あの時は――」

「違うんです。それはそれで忘れられなかったんですけど……」

「っ……」

「あ、いえそのことを言いたかったんじゃなくてですね」

「じゃあ何?」

「昔私の歌を聞いて先生が『ありがとう』って言ってくれたんです。それがとてもうれしくて。もしかすると歌でみんなに笑顔になってほしい、私がそう考えるようになったきっかけの一つだったのかなって。覚えていますか?」

「……忘れちゃったわ」

「えええええええ! でもいいです。それならまた先生にニコニコになってもらいますから! だからまた私のライブに来てください」

「ええ、また来るわ」

「僕もまた見に来るよ」

「わーい! ありがとうございます! あ、あの片づけがあるのでこれで失礼します!」


27: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:14:45.20 ID:UdHDSlcF0

「どうだい。来てよかっただろう?」

「はい」

「それにしても忘れたって本当かい?」

「どうでしょうね」

オーナーの問いかけにとぼけて見せる。

こんな私でも可奈ちゃんのために出来たことがあった。けれどそれを人前で認める資格があるとは思えない。

だからいつか彼女に自信をもって向き合える時が来る時まで思い出したその感情は私の中に仕舞っておこう。


28: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:16:07.86 ID:UdHDSlcF0

あれから私は生徒の保護者たちに可奈ちゃんが通っていたときのことを話した。

それで失望した親御さんは当然いて来なくなった生徒もいるけれど、それでもこの教室が好きだと言ってくれる子供たちが今でも通ってくれている。


29: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:18:23.27 ID:UdHDSlcF0

「今更かな」

本日はが休みのある日、可奈ちゃんのライブを聴いて懐かしくなってしまっていたギターを教室に持ち出していた。

「先生! こんにちは!」

調律をしている途中に誰も来ないはずの教室に突然声が響く。

「あれ? どうしたの。今日はお休みよ」

「あ、そうだった! 忘れてた!」

どうやら生徒の一人が間違えてきてしまったらしい。

どうしようかと考えていると私の手元を見て興味津々に近づいてきた。

「あれ? 先生ギター弾けるの?」

「昔やっていたのよ」

そう答えた私に目をキラキラさせて食いつく。

「わー! 聞かせて聞かせて!」

「ん-。久々だからヘタクソだったらごめんね」


30: ◆iGEcIiQPPHZy 2021/08/15(日) 23:20:06.47 ID:UdHDSlcF0

純粋に笑って大好きな音楽を楽しんでいたあの頃を思いだしながら弾く。

「わー。すごかった! ありがとう! 先生の演奏大好き!」

可奈ちゃんの言った通りだ。自分の音楽で喜んでくれる人がいることはとても嬉しい。

昔の私もただ歌うことが、楽器を弾くことが楽しくて、それを楽しんでくれた人たちが見たかった。

「あなたも聞いてくれてありがとう」

また昔の仲間とバンドをやれることがあるかは分からない。

もしかすると一人ぼっちでの再スタートになるかもしれない。

かつてお世話になったライブハウスもない。

それでもまた始めてみよう。

私もあの子と同じで音楽が好きだから。





転載元:【ミリマス】私が貴方に送った言葉
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1629031698/

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