1: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 18:28:28.50 ID:QFvfrLAg0
莉嘉、みりあ、美嘉回だったアニマス17話、「Where does this road lead to?」を
美嘉、そして美嘉P目線でもう一つの物語として書いてみました。
それではゆっくりと。
2: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 18:31:44.45 ID:QFvfrLAg0
「…ちょっと、プロデューサー!次の化粧品のタイアップの話…あれ、ホントなの?」
少女が一人、誰も居ない会議室でどこかへ電話をかけている。
その声はいらだちを見せながらもどこか震えて聞こえる。
『本当も何も、上の決定だよ…!』
電話に応対するは青年の声。
少女の声と比較して震えてはいないもののこちらもいら立っていることが分かる。
「決定って…!何も言わなかったわけ?!」
『言うも何も、俺だって決まったとしか言われてないんだよ』
「なにそれ!プロデューサーでしょ!担当アイドルの…急な変更なのに…!」
『お前なあ…!俺だって戸惑ってんだよ…俺だけじゃない、
会社全体が常務の突然の指示でばたついてる』
「…どうしてこんな大事なこと、プロデューサーの口から直接聞けないの?!
プロデューサーが納得したんだったら、アタシだって…」
『納得って…仕事なんだぞ、遊び半分じゃ周りに迷惑かけるだけだろ…!』
「そんなの…!」
「だから、そういう時に寄り添ってくれるのがプロデューサーじゃないの?!
アタシたち、そうやってここまでやってきたんじゃないの?!」
『…!』
少女の剣幕に、電話先の青年は何も言い返せない。
…少女の声は、それでも震えていて、今にも泣きだしそうだった。
電話先の青年はそれに気づいているのか、いないのか…
何も言えないの?」
『いや…そんなことは…』
3: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 18:37:46.68 ID:QFvfrLAg0
「…何もないじゃん!
莉嘉のとこのプロデューサー、必死になって走り回ってるんだよ!」
その言葉で、これまでたじろぐだけだった彼の表情がスっと変わる。
『…それこそ…関係ないだろ、なんであいつが今出てくるんだよ』
「同じプロデューサーだから言ってんじゃん!
なんでプロデューサーは何もしてくれないのかって聞いてるのに」
『同じじゃないだろ…!』
「…え?」
『同じじゃないだろって!何でもかんでも他人と比べるなよ!』
青年が初めて声を荒げて少女に反論する。
『そんなにあいつが良いなら部署変われよ!』
はっとしたように顔を上げた少女の目には大粒の涙が浮かんでいた。
「…分かった。もう何も言わない」
『おい…美嘉』
「わがまま言ってごめんなさい」
『おいって…』
「プロデューサーの言うとおりだね。周りに迷惑をかけちゃう…
…アタシがこんなんじゃ、いつまでたっても加蓮と奈緒がデビュー出来ない」
『いや…それは』
「二人には、他の子には、ちゃんと向き合ってあげてね。プロデューサー」
その名を最後に呼び、少女はそっと電話を切った。
誰も居ない、もう夕日すら落ちようとする暗い会議室で、
少女の静かに涙する声が響いた。
4: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 18:39:47.49 ID:QFvfrLAg0
少女の名前は、城ヶ崎美嘉。
彼女の所属する346プロを代表するトップアイドルの一人。
これまで女子高生のカリスマとしてひた走ってきた彼女に訪れた突然の転機。
青年は、そのプロデューサー。
城ヶ崎美嘉をデビュー当時からプロデュースし、兄妹のように支え合ってきた二人に訪れた突然の転機。
これは、彼女と彼を取り巻く、もう一つの物語。
8: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 19:01:25.28 ID:QFvfrLAg0
冬が近づいて華やぐ街。美嘉の広告ポスターがでかでかと貼り出された。
本来の美嘉とは大きく異なる、大人向けのメイクと服装に身を固めたその表情は、
美嘉自身が求めた表情ではないのか、どこかうつろに見えてしまう。
街の輝きに、どこか溶け込んで、負けてしまって見えるのは、
これまで二人三脚でやってきた担当プロデューサーとしてのひいき目だろうか。
常務の動きはとにかく早かった。俺が、美嘉とまともに話を出来ないうちに、
あっという間に社内の関係スタッフをまとめ、スポンサーへの根回しを行い、
自分の標榜する新たな「城ヶ崎美嘉」に対するバックアップを徹底的に行った。
…その企画力、実行力という意味では、見事としか言いようが無かった。
…あれからしばらく経ったが、
今まで、兄妹や友達のように接してきたことがまるで嘘のように、
美嘉とは事務的な話しか出来ないでいる。
それでも彼女はプロとして、与えられた仕事を着実にこなしていた。
だからこそ、だろうか。
美嘉の路線変更の評判は、成果は…悪くなかった。
ただ、本人はその評判を喜ぶこともなく、
悲壮感すら漂う必死の覚悟でレッスンに挑んでいると、
現場マネージャーから告げられても、俺は声をかけられないでいた。
あの日以来のひび割れた関係は、俺を臆病にさせていた。
そして早くも、化粧品タイアップの第2弾撮影を行うとの伝達が下りてきた。
9: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 19:07:47.12 ID:QFvfrLAg0
会社の決定、分かってる。
路線変更の意味…分かってる…。きっと。
第2弾撮影の企画案に目を通しながら、美嘉と口論になった日のことを思い浮かべる。
…俺は、あそこで何と言えばよかったのだろうか。何が言えたのだろうか。
会社の決定は事実だ。
美嘉個人だけの話じゃない。常務は全てのプロジェクトを解体すると宣言した。
並行して、個人レベルでの路線変更も余儀なくされたアイドルも多くいる。
俺一人が、俺一人で何が出来るんだよ…
プロデュース業務への影響は、甚大だった、当たり前だ。
それでも俺は、与えられた役割を全うしている、
つもりだった。
11: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 19:22:06.99 ID:QFvfrLAg0
シンデレラプロジェクト・プロデューサー。
美嘉の口から、あいつが出てくるとは思わなかったな…
結局のところプロデュースというものは、極めて孤独で、個人に依るものだ。
当然、プロデューサー同士でも方針や思いは、異なることが当たり前だ。
同期入社であるあいつとは、新入社員当時のころから、徹底的に馬が合わなかった。
はっきり言えばお調子者で後先考えず進む俺と、
静かで黙々と物事を進めるあいつとでは合うはずも無かった。
それでも同期でもとりわけ出世の早かったあいつは、若くして次々とプロジェクトを任され、
それを成功させ、前途有望なアイドルやモデルの担当となり…
だけど、それは長くは続かなかった。
あいつは、失敗した。
12: ◆4L0B/P2YzYpZ 2017/03/05(日) 19:27:15.52 ID:QFvfrLAg0
あいつのやり方が間違っていたのか、ただ合わなかったのか、俺は知らない。
でも、あいつの元をアイドルたちが去って行ったのは事実。
瞬く間にその事実は社内に知れ渡り…
それからめっきり社内でその名前を聞くことは無くなった。
同期とはいえ、最初の研修以降付き合いがあるわけでもなかったし、
そもそもセクションも違っていたから、顔を合わせることもなく、その名を忘れるのは早かった。
シンデレラプロジェクト。
会社の肝いりで始まった大型プロジェクト。
それを担当するのがあいつ、と人伝いで聞かされた時には、驚きとともに怒りがこみ上げたのを覚えている。
…なんであいつなんだ?失敗したのになんで?なんであいつばっかり、なんで、なんで…
男の嫉妬がださいのは分かってる、頭では。
でも感情は分かってくれなかった。なんでなんでなんで…
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