195 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:49:36.06 ID:lAj7ClbDo
第三十八夜 桜
茄子「……さて、本日は次のコーナーにて終わりとなります」

ほたる「最後のコーナーは……アイドル百物語、です」

小梅「きょ、今日で第三シーズンが終わりだから……これが、最後」

茄子「それにしても第三シーズンも終わりですか。早いですね」
ほたる「でも……次の第四シーズンでようやく百物語も半分なんですよね?」
小梅「うん……。次のシーズン終わりで、ちょうど五十個だから……」
茄子「まだまだ先は長いですね。ずいぶんいろいろなお話を聞いてきた気もしますが」
ほたる「ええ、怖い話も、寂しい話も、面白い話もありましたね……」
小梅「うん……楽しい。ふふ」
茄子「さて、それでは今回はどんなお話なんでしょう?」
前スレ
小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season 3 第三十七夜
シリーズスレ
白坂小梅のラジオ百物語
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196 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:50:28.56 ID:lAj7ClbDo
小梅「きょ、今日は、あいさんにお話を聞いたんだけど、あいさんらしい……お話だと思った」
ほたる「東郷……あいさんですね?」
小梅「あ、うん。そう」
茄子「東郷さんといえば、いろんな意味でかっこいい方ですよね」
小梅「うん……。それに、気を遣って……くれる」
ほたる「細やかそうですよね」
茄子「そんなあいさんらしいお話、ということですか」
ほたる「楽しみですね……。では、お聞きください」
197 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:50:56.16 ID:lAj7ClbDo
198 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:52:01.34 ID:lAj7ClbDo
やあ、小梅君。
怪談だったね。
……うん。
では、はじめようか。
これは、私がまだ髪を長くしていた頃の話だ。
そうだな、小学生……だったかな。
その日は週末で、休みの日だったはずだ。
早朝、私は散歩に出た。
実を言うと、前日に、父が家に知り合いを招いていてね。
普段とは違う雰囲気なもので、幼い私ははしゃぎまわってしまったのさ。
その結果、その頃にしてもずいぶん早くに寝付いてしまったんだ。
おかげで妙に早く起きてしまった私は、悪戯心を出して早朝の散歩としゃれこんだわけさ。
199 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:53:26.27 ID:lAj7ClbDo
そうはいっても遠くまで行くほど分別がついてなかったわけじゃない。
せいぜい朝ご飯までには戻れるように、私は近所を歩き回った。
そうして、公園に近づいたところで、見知らぬ老婦人が向こうから歩いてくるのに気づいた。
実に上品な様子でね。絣模様の着物を、こう……ぱりっと着こなしていらした。
それだというのに、その肩に桜の枝を担いでいるのが、妙な気持ちにさせたものさ。
いや、季節がおかしかったわけじゃない。
桜真っ盛りの頃だったよ。
父が知り合いを招いたというのも、花見にかこつけたものだったしね。
でも、満開の桜の枝を担ぐなんてね。
そもそも、桜の枝は折るものじゃない。
そうだろう?
こんなしっかりとした老婦人が……という気持ちが、私の胸をぎゅっと切なくさせたのさ。
200 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:54:10.69 ID:lAj7ClbDo
『あの』
だから、私は勇気を出して話しかけた。
『桜の枝を折るのはよくないと……思います』
婦人は私の言葉にびっくりしたように目を見開くと、次いで実に穏やかな笑みを浮かべたものだ。
『ええ、ええ。お嬢さんの言うとおり』
でもね、と彼女は続けた。
『これは、取り返してきたものなの』
とね。
不思議そうな私に、婦人は続けた。
『雨風ならば耐えられましょう。けれど、大勢で根を踏み、幹を揺らし、花見と称するだけでも、本当はつらいことなの』
彼女は悲しそうに言っていたよ。
201 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:55:30.57 ID:lAj7ClbDo
『まして、見ていない人のために持って行こう、なんて言って枝を折っては家に持ち帰る人に至っては、ね』
だから、取り返して回っているのよ、と彼女は笑ったものだ。
取り返すと言っても、どうやってそんなことを?
『興味がおありなら、見ていても構いませんよ』
疑問に思っている私を前に婦人は言って、とある家の前に立った。
家の扉をじっと見ながら、担いだ枝を、左右に三度振る。
それだけして、また歩き出す。
私は、黙って後を追いかけたよ。
どういうことか、さっぱりだったからね。
婦人はまた別の家の前に立ち、同じように枝を振る。
そこで、気づいた。
202 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:56:58.62 ID:lAj7ClbDo
老婦人が、先ほどより若返ってはいないか?
肌の張りが戻るどころか、身長すら変わっているように見える。
私はごしごしと目をこすったよ。
だが、見間違いではなかった。
五軒目を終えた時には、もう、老婦人ではなく……。
そうだね、いまの私くらいの女性に変じていた。
『これで、終わり』
彼女がそう言った途端、強い風が吹いた。
目を開けていられないほどの突風が過ぎ去ったときには、女性も、桜の枝も、もうどこにもなかったよ。
花びら一枚も、そこには残っていなかった。
わけがわからないまま、私は家に帰った。
朝ご飯に遅れるわけにはいかないからね。
203 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:57:51.52 ID:lAj7ClbDo
この話の結末を耳にしたのは、その日の昼食時の事だ。
井戸端会議で近所の噂を仕入れてきた母が教えてくれたのさ。
実は、そのしばらく前に、公園の桜の中でも一番の大木の……しかも最も見目いい枝が折られていたんだそうだ。
ところが、その朝になって、まるで折られたような痕もなく元に戻っていたらしい。
不思議なこともあるもんだねと言い合う両親を前に、私は一人秘密を知っているというそのことに奇妙な喜びを抱いて口をつぐんでいたものさ。
204 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:58:29.86 ID:lAj7ClbDo
ほたる「なんとも……しっとりしたお話ですね」
茄子「なるほど、あいさんらしい素敵なお話でした」
小梅「う、うん」
ほたる「なんだか、ほっとしますよね」
小梅「うん。でも……なにかの精は、怒らせると怖そうでも、ある」
茄子「たしかに……。やはり何事にも敬意をもって接するべきでしょうね」
ほたる「ううむ……」
小梅「じゃ、じゃあ、次のシーズンの……お話……」
205 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 21:59:18.58 ID:lAj7ClbDo
ほたる「ええと、次回からは第四シーズンということで……。偶数シーズンはゲストさんもいらっしゃるんですよね?」
茄子「その通り。なんと、次回はお二人もゲストさんが来てくれます」
小梅「じ、次回は、しょーちゃ……星輝子さんと輿水幸子さんが、来てくれ……ます」
ほたる「三人でパーソナリティをやられるということで、私と茄子さんは……一回お休みですね」
茄子「はい。次にお会いするのは第四十夜となりますね」
小梅「ちょっと……緊張する。楽しみだけど」
ほたる「イレギュラー、ですからね」
茄子「ともあれ、今シーズンはここまでとなります。では、小梅さん。第四シーズンを前に一言」
小梅「色んなお話で、あなたたちが知らない世界に……連れていってあげる。あの子も早く、って言ってるから。また、ね」
第三十八夜 終
206 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/09/18(水) 22:00:11.47 ID:lAj7ClbDo
そんなわけで、第三シーズン終了です。
おつきあいいただきまして、どうもありがとうございました。
小梅ちゃんも言ってますが、まだ半分にも達していないので、これからもがんばっていきたいと思っております。
第四シーズンのスレは九月後半か、十月頭くらいに立てられたらいいですね。
では、また。
207 : 以下、新鯖からお送りいたします [sage] :2013/09/18(水) 22:11:55.46 ID:HLSBhxAro
乙乙!
楽しませて貰ったよ
208 : 以下、新鯖からお送りいたします [sage] :2013/09/18(水) 22:15:59.21 ID:HfPS0HB2O
乙でした
次も待ってます
209 : 以下、新鯖からお送りいたします [sage] :2013/09/18(水) 22:57:54.63 ID:nPnsMh4bo
乙!
いやぁ、楽しかった
更新確認するのが日課になるような、あってほしいスレだったぜ
続きも待ってるよー!
210 : 以下、新鯖からお送りいたします:2013/09/18(水) 23:20:17.86 ID:JLQPTn/J0
乙!
シーズン1からずっと追ってたけど、次シーズンでもう半分か。
なんだかあっという間に感じるな~。
次シーズンもまた楽しみに待ってます。
ところで『取り戻した』ってことはその家からなにかを奪ってるってことだよな……
まあ先に手を出したんだから、自業自得なんだろうが。
211 : 以下、新鯖からお送りいたします [sage] :2013/09/18(水) 23:46:41.93 ID:J1BH8BcF0
良い話でした
シーズン4も楽しみにしてます
転載元:小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season3
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1377432933/
コメント
コメント一覧
桜は折ったらいかんよ。そのままにしておけば来年も綺麗な花を咲かせるんだから
期待
次のシーズン完走して半分なのか、まだ長いなと感じるかもう半分かと思うかは人それぞれかな
俺は前者だけどシーズン5が終わったら「もうこれしか残ってないのか」ってなるだろうなあ
新春アイプロ的には早苗さんが微妙にピンチだったりするのかな
そしてしっとりしたいい話だった
冒頭の一問一答であいさんの回答の後に
ちょっと素のテンションになった小梅ちゃんが
小「き、嫌わないから、大好きだから
あ「ありがとう。私も小梅君の事が大好きだよ。
小「えへへ…
まで妄想して話に入りきれなかった。
小梅ちゃん…恐ろしい娘!
キレイで、不思議で、怖い。
あいさんは相変わらずイケメン。
とりあえず、ありがとう。