101 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/23(水) 23:54:04.77 ID:QPEGrBHno
第四十五夜 お地蔵様
莉嘉「……やー……。こわいなー」
美嘉「怖いっていうか、気色悪いのもあるよね。あーっと、次のコーナーはアイドル百物語。今回はアタシのお話だよ★」
茄子「前回の莉嘉さんは、なかなかぞくっとするお話でしたが、美嘉さんはどうです?」
美嘉「うーん。どうかな? 今回は、怨念とかそういうのは、ないよ」
小梅「い、一応、事前に聞かせてもらったけど……怖いお話、ではない、かな」
ほたる「なるほど……。すると、不思議な系統のお話ですかね」
美嘉「あー、うん。そうかな」
莉嘉「へー。どんなのかなー」
茄子「まずは聞いてもらいましょうか。では、どうぞお聞きください」
莉嘉「お姉ちゃん、よろしくぅっ☆」
美嘉「はいよー★」
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小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season 4 第四十四夜
シリーズスレ
白坂小梅のラジオ百物語
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102 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/23(水) 23:54:39.21 ID:QPEGrBHno
103 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/23(水) 23:55:46.85 ID:QPEGrBHno
ここに二人ともいるからわかると思うけど、莉嘉とアタシはちょっと齢が離れてるんだよね。
まあ、大人になったら、五歳くらい大したことないんだろうけど★
いま言いたいのは、莉嘉が生まれた時には、もうアタシはそれなりに物心つきかけてたってこと。
莉嘉が生まれたときは、そりゃあ嬉しかったよ。
お姉ちゃんになるっていうのも……あー、晴れがましいっていうの?
そういう感覚だったしさ。
それに、赤ん坊の莉嘉ったら、ちっちゃくて、くしゃくしゃで、ぷにっぷにだったしね★
いたっ。
こら、照れくさいからってアタシを叩かないの!
まったく……。
ともかく、莉嘉は可愛かったし、実際、子供なりにかわいがってたつもりだよ。
いや、まあ、五歳児だから、せいぜいなでたりするくらいだけど。
104 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/23(水) 23:58:19.51 ID:QPEGrBHno
でもさ、やっぱり寂しい気持ちもあるんだよね。
それまでは、子供はアタシ一人なわけだから、んーと……言うなれば、世界の中心みたいなもんでしょ?
子供が感じ取れる狭い世界だけど、その時のアタシにとっては重要なものには違いないわけ。
そこに莉嘉も加わると……なにしろ赤ん坊だからね。
親はアタシにも注意を向けてはくれてるけど、やっぱり莉嘉の世話が大変で、そっちに意識がいくことが多いんだよね。
ほったらかしにされたわけじゃないし、うちの親は結構気を遣ってくれてたと思うよ。
お姉ちゃんだからって理不尽にされることも、世間一般に比べて少なめだったと思うし。
さっきも言ったように、お姉ちゃんになるってこと自体がアタシにとっても嬉しいことで、自分でも不満に気づいてなかったとこあったしね。
でも、やっぱり苛々が出ちゃったんだろうね。
ある時……たしか莉嘉の夜泣きが激しい時期かな。おじいちゃんの家に一人で泊まりに行かされたことがあったんだ。
そこで、ちょっとしたことで、かんしゃく起こしちゃって。
105 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/23(水) 23:59:55.45 ID:QPEGrBHno
なんでだったのかとか、具体的になにしたかとかはさっぱり忘れちゃってるんだけど……。
少し収まったところで、おばあちゃんがアタシを床の間に連れて行ったんだよね。
そうして、床柱を見ろ、って言うの。
部屋のほうからは見えにくい、陰になってるところ。
たしか、その頃のアタシの頭の位置よりはちょっと上くらいにあったんじゃないかな。
すると、そこにお地蔵様がいたんだ。
木の瘤みたいなところに、穏やかな顔のお地蔵様が彫ってあったの。
『これは、うちを建ててくれた大工さんが彫ったんだよ』
おばあちゃんの説明によると、瘤の形が見栄え良くなくて、見えにくい裏側にしたものの、ちょっと気になってたらしいんだよね。
大工さんが。
そこで、お地蔵様を彫り込んだらしいんだ。
いま考えると……こう、洒落てるよね。
粋っていうのかな?
106 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/24(木) 00:01:19.07 ID:krkNCegTo
それで、おばあちゃんはこう言うの。
これまで、これがあることを知ってたのはその大工さんと、おじいちゃんとおばあちゃんだけだった。
これからはアタシとおばあちゃんたちの秘密だよって。
それで、アタシの機嫌はすっかりなおったよ。
だって、うちの親も知らない秘密をおばあちゃんたちと共有できたんだもん。
もちろん、それは赤ん坊な莉嘉も知らないことで……。
まあ、あれだね、『特別』をまた手に入れて、満足したんだよね。
それから、おじいちゃんの家に行くたびに、こっそりそのお地蔵様を見ては、なんとなく嬉しくなってた。
こう、頬をくっつけてみたりしてね。
そうするとさ、すっごい良い香りがするんだよね。
なんだっけ、オイルでもある……。
ああ、そうそう。白檀の香り。
床柱自体は別にそんな香りしないんだけどね。
そのお地蔵様が彫ってある瘤だけが、そんな香りだったんだ。
107 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/24(木) 00:02:53.99 ID:krkNCegTo
手を合わせたりとかじゃなく、なんか……もっと身近ななにかだった気がするな。うん
さて、これだけだとただの思い出話だよね。
不思議な話はここから。
おじいちゃんの家に行くたびにそのお地蔵様に頬をくっつけて良い香りに包まれるのが習慣になった頃からだったと思う。
なにか危ないことがあると、その香りがふっと漂ってくるようになってさ。
たとえば、車が間近をすっ飛ばしていく直前に香りがして、そっちに体を寄せたら無事だったとか。
そこまでじゃなくても、鉄棒で頭ぶつけそうな時にその香りがして、慌てて手を握り直したりとか。
なんなのかなー、って思ってたけど、極めつけは、中学入ってすぐの頃……。
ちょうどいまの莉嘉くらいの時に起きたこと。
108 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/24(木) 00:04:21.97 ID:krkNCegTo
放課後の校庭に、変質者が乱入してきたことがあったんだよね。
なんか、入ってきたきっかけ自体は、男子がからかったりとかしたせいっぽいんだけど……。
ただ、入ってきてからは、なにかわけのわからないことをわめきながら、女の子を追いかけ回してた。
で、追いかけられた女の子が、アタシ。
もうさ、泡みたいなの噴き出しながら、すごい勢いで突進してくるわけ。
当然、アタシも逃げまくるし、先生たちが校舎を飛び出て、こっちに向かってるのは見えてたんだけど……。
どうも間に合いそうになかったんだよね。
ヤバっ! って思いながら必死で逃げてたら、いきなり背後で轟音が聞こえたんだ。
メリメリ! メキメキ!!
……ってね。
振り返ってみたら、そいつが、倒れた木の下敷きになってる。
アタシもその横を駆け抜けたはずの立派な大木が、そいつを押しつぶしてたんだ……。
109 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/24(木) 00:05:06.83 ID:krkNCegTo
もう、ボーゼンってやつ。
しかも、念のためにって親まで呼ばれて家に帰ってみたら、またオドロキ。
なんと、おじいちゃんの家のあの床柱の瘤が、その日、急に破裂したって電話があってさ。
アタシになにかあったんじゃないかって、おばあちゃんが心配してかけてきたらしいんだけど……。
まさにドンピシャだよね。
お地蔵様が守ってくれた……なんてはっきり言うほどの実感はないけど……。
でも、なんだかあのお地蔵様の顔と、あの香りは、アタシにとって忘れられないものになってる。
110 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/24(木) 00:06:19.43 ID:krkNCegTo
莉嘉「えー、あのなんか崩れてるとこ? あれ、そうだったんだー」
美嘉「そうそう。まあ、いまは穴しか残ってないけどね」
茄子「加護、というやつでしょうかね。地蔵菩薩は子供の守り神ですし」
ほたる「賽の河原で、子供たちを鬼から守ってくれるんでしたっけ」
小梅「そ、そういう伝説も、あるね」
美嘉「そうなんだ。そういうのは良く知らないけどねー」
莉嘉「でもいいなー。そういうの」
美嘉「いやあ……。襲われたりとかしないのが一番だよ?」
莉嘉「それはそうだけど……」
茄子「守ってくれるというなら、いまは、スタッフの方たちもいますしね」
小梅「ぷ、プロデューサーさんたちが……守ってくれる、よ」
莉嘉「あー、それもそっかー」
111 : ◆E31EyGNamM [saga] :2013/10/24(木) 00:07:04.99 ID:krkNCegTo
ほたる「でも、なんだか素敵です。白檀の香りが……っていうのは」
美嘉「それは……うん。あの香りは、とっても心地よかったよ」
莉嘉「うーん、やっぱりうらやましいぞー」
小梅「……ふふ」
美嘉「ま、このあたりでアタシの話は終わりにして、そろそろ次のコーナーに行ってみよっか」
莉嘉「あ、莉嘉か。えっとね、次のコーナーは、カケーにまつわる因縁話を……」
第四十五夜 終
113 : VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL) [sage] :2013/10/24(木) 00:27:25.95 ID:z/hlDJ3G0
心温まる話で良かった
乙です
転載元:小梅「白坂小梅のラジオ百物語」Season4
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1381326554/
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五歳離れてるっていうのも仲のいい理由なんだろうね
双方難しい年頃だけどいい子達だよホント
そして、姉妹ヶ崎は可愛い
たまこういう不思議な話があるから、このSSは更に面白い
首狩地蔵とか六番目の地蔵とか
こういうほんわかする話も良いな
と言う戯言は置いておいても、彫った大工さんに
おじいちゃんおばあちゃんが信心して大切に扱ってたから、
いいものが宿ったんだろうね。
畑道から峠のドライブコース、立派な屋根つきも有れば
道造り中に草むらから発掘されたり(オイ
アッチコッチに在る割に、こういう救う話から
頭捥いだDQNをフルボッコにしたりとか、
結構どっち方面にもエネルギッシュだってのは思うんだがw
道祖神は、塞(さい)の神あるいはは障(さえ)の神と言って、外界の病や悪をそこで遮るためのもの。
ここまでは見知った人が住む土地、こっちからは異界、という強力な結界の守護者。
アグレッシブなお地蔵様の話は、たぶん、こちらに起因している。