高森藍子「えーっと……」ポチポチ

藍子「あ、これ……ふふっ、懐かしい♪」
北条加蓮「ん~~~」ノビ

加蓮「……ん? 何してんの、藍子」
藍子「あっ、加蓮ちゃん。スマートフォンの容量がまたいっぱいになっちゃって、ちょっと整理していたんです」
加蓮「ふうん。藍子はよく写真を撮るから大変だね」
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藍子「思い出した時に見たくなる写真は、スマートフォンに入れたままにしているんです」
藍子「初めて事務所に来た時とか、初めて着たLIVEの衣装とか……」
加蓮「そうなんだ。ふふっ、藍子らしい」
藍子「あと、こんなのとかっ。つい、懐かしくなっちゃいました」
加蓮「んー? どれどれ……あ、私だ」
加蓮「これって確か……わ~、懐かし~! これってアレでしょ、私と藍子が初めてカフェで喧嘩した時の――」
藍子「そうですそうです。私もよく覚えてて――あの時は、いろいろびっくりしちゃいましたっ」
加蓮「あ、あはは、そだね……うん、だいたい私のせいだ」
藍子「いえいえ。あれは、お互いのせいってことで」
加蓮「……だね」
加蓮「懐かしいなぁ。もう、だいぶ前のことだよね……」
藍子「最初は偶然でしたよね。確か、アニバーサリーLIVEのちょっと後くらいに、たまたま加蓮ちゃんがカフェにやってきて――」
いらっしゃいませ。何名様ですか?
北条加蓮「1人」
かしこまりました。ではこちらに
加蓮「はーい。……ん?」
加蓮「…………んん?」
「~♪ ~~♪ ~~……あれ?」
加蓮「……あー、店員さん。ゴメン、知り合いがいた」
加蓮「こんにちは、藍子ちゃん。……え、1人?」
藍子「はい。そうですよ」
加蓮「そ……」
藍子「…………」
加蓮「…………」
藍子「……ええと??」
藍子「い、いえいえっ。のんびりしていただけなので」
加蓮「そう。私も何か頼もっかな…………」ジー
藍子「……?」
加蓮「ううん、何も。頼んだの、コーヒーだけ?」
藍子「あ、いえ、ショートケーキも。もう、食べちゃいましたけど」
藍子「加蓮ちゃんは、何を注文しますか?」
加蓮「何を注文すると思う?」
藍子「……えっ」
加蓮「あ。……ええと、ごめん、そのー……」
藍子「…………」
加蓮「…………」
加蓮「甘いのはちょっと苦手かも……いや、そうだね。藍子ちゃん、何か注文してよ。私が好きそうな……ううん、私が食べたそうにしているのを」
藍子「わ、私が注文するんですか。ええと。ひ、ヒントを!」
加蓮「ヒント。ヒントかぁ……。昼下がりだから、ガッツリとはいきたくないかな。ちょっとだけでいいや」
藍子「うーん……」
藍子「あ、ですよねっ。ここ、ほんのちょっとだけ、アロマを焚いているみたいで」
加蓮「それでか。そーいえばこの辺にカフェあったかなって。お客さんもあんまりいないんだ」
藍子「できたのも、最近みたいですから。私も少し前に見つけたばっかりです」
加蓮「たまにはこういうのもいいかな。……ふふっ。キャラじゃないか」
藍子「そんなことないですよ。加蓮ちゃんにも、きっとお似合いです」
藍子「じゃあ、そんなオシャレな加蓮ちゃんには……すみませーん」
加蓮「おっ。お手並み拝見かな」
藍子「えっと、あたたかいレモンティーと、この……ミニプレーンワッフルを、おひとつずつ」
加蓮「…………え?」
藍子「はいっ。お願いしますね。……ええと、あの、加蓮ちゃん? こんな感じで……いいですか?」
藍子「え?」
加蓮「ドンピシャ。メニューぱらぱらって見てたけど、レモンティー飲もうって思ってたし、プレーンワッフルっていうの気になってた」
藍子「そうなんですか?」
加蓮「うん。……え、何、アンタって人の心とか読める人?」
藍子「む、むりですよそんなの。なんとなく選んだだけですから」
加蓮「なんとなくでドンピシャって逆に怖いんだけど……」
加蓮「ズル?」
藍子「加蓮ちゃんがここのところ、レモンティーをよく飲んでいたのは見ていたので」
加蓮「ああ、それでね」
藍子「それに、ボーカルレッスンの後なら、喉にもいいかな、と」
加蓮「……え? あれ、レッスンの後って言ったっけ、私? 確かにレッスン帰りだけど」
藍子「それは……お疲れみたい、だったから」
藍子「たまたま思い出しただけですよ。たまたま」
加蓮「しっかし意外と見られてるもんだね。……お、レモンティー来た。いただきまーす。ごくごく」
藍子「……加蓮ちゃんのことは、ちょっと気になっていましたから」
加蓮「ごくご……ん?」
加蓮「え?」
藍子「え?」
加蓮「それってつまり、私のことをずっと見てて……?」
藍子「ずっとではないですけれど……その、なんとなく気になっちゃって」
加蓮「ご、ゴメン藍子ちゃん、今ちょっと話かけてこないで……真面目に生きてこなかった自分に後悔しているとこ……」
藍子「ええ? 加蓮ちゃん、だって、いつもすっごく真面目にやってるって……アニバーサリーLIVEの前に、マストレさんに言われましたもん。加蓮ちゃんを見習って限界まで挑戦だ! って」
加蓮「藍子ちゃん」ズイッ
藍子「ひゃっ!」
藍子「ど、どっちも嫌に決まってますそんなの! なにがなんだか分かりませんけど、ちょっと落ち着いてくださいっ。ほら、プレーンワッフル来ましたよ、ワッフ……店員さん!? 逃げないでください! 店員さん!? 気持ちはすごく、すっごく分かりますけどー!」
加蓮「……」
藍子「……なんか、ごめんなさい」
加蓮「……ううん、こっちこそゴメン。目立っちゃったし」
藍子「ま、まあ、あんまりお客さんもいませんでしたので……」
加蓮「店員に思いっきり変な目で見られたけど……」
藍子「あはは……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……あの、レモンティー、おいしいですか?」
加蓮「疲れた時にはね。すっごく疲れてるからね今」
藍子「あ」
加蓮「身に染みるってこういうこと言うんだね」
藍子「……ごめんなさい」
藍子「……そうなんですか。ちょっとイメージと違いました」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
藍子「?」
加蓮「ううん、なんでもない。ワッフルもーらおっ。ぱく。……お、おお?」
藍子「おいしいですか?」
加蓮「おいしい。これすごくおいしい。ちょっと食べてみなって」
藍子「はいっ。ぱく。……、…………」モグモグ
藍子「………………」モグモ...
加蓮「……ダメだった?」
藍子「……私には、ちょっと合わないかも」
加蓮「合わないかぁ。ゴメン」
藍子「い、いえ。謝られることでは。私は……もっとこう、分かりやすく甘い方が」
藍子「そう、そんな感じです。じゃあ、加蓮ちゃんは」
加蓮「ビターチョコ派。ま、そもそも甘い物がそこまでなんだけどね」
藍子「さっき言っていましたね」
加蓮「あれ? でも飲んでたのってコーヒーだよね?」
藍子「あ、別に苦いのがってことじゃないんです」
藍子「さすがに、ブラックは飲めませんけどね」
加蓮「よく分からないけど、ま、まあいっか。ワッフルうまー」
藍子「うまー?」
加蓮「うまー」
藍子「あはっ」
加蓮「ふふっ」
加蓮「頼んじゃおっかな。すみませーん! ……うん、プレーンワッフルもう1つ。藍子ちゃんは? 何か食べる?」
藍子「私は……ううん、今はいいです。ケーキを食べたので、おなががいっぱい」
加蓮「そっか。じゃあワッフルだけで」ワクワク
藍子「……そんなにおいしかったんですか?」
加蓮「すっごく。藍子ちゃんには合わないっぽいけどね」
加蓮「そんなもん?」
藍子「あ、そうだ。写真、撮ってもいいですか?」
加蓮「写真……って、私の?」
藍子「はい。えっと……はい、じゃーん♪」
加蓮「コンパクトカメラ……。もしかして、結構するやつ?」
加蓮「ふうん。思い出か……」
藍子「……? あの、やっぱり、だめですか? ……ごめんなさい。いきなりなんて、よくないですよね……」
加蓮「……いや、そういうんじゃなくて、ちょっと思い出って言葉……………………撮るなら、可愛く撮ってよ?」
藍子「あ……はいっ! まかせてください。いっぱい撮っちゃいますね!」
加蓮「う、うん。……びっくりした。そんな大きい声とか出すんだ……」
藍子「?」
藍子「あはっ。いい笑顔……ぱしゃっ」
加蓮「レモンティーでもいい具合に合うね。さすが藍子ちゃんチョイス。……んー♪」
藍子「加蓮ちゃん、すっごく幸せそう……♪」パシャパシャ
加蓮「…………」
藍子「…………♪」パシャパシャ
藍子「はいっ」
加蓮「照れる」
藍子「あはっ、私のことは、カメラマンさんだと思って。あんまり気にしないでくださいっ」
加蓮「いやカメラマンだと思えって言われても……撮影とかやったことないもんな……」
藍子「…………へ? え、やったことないんですか?」
藍子「え、ええ……? だって加蓮ちゃん、あんなにオシャレなのに」
加蓮「ファッションはちょっとこだわりたいし、LIVEの衣装とかは譲れないかな……でもさ、なんかモバP(以下「P」)さんが持ってくる仕事とか、つれてってくれる営業とかって、LIVE系ばっかりで。あ、理由は聞いたことあるよ?」
藍子「Pさんは、なんて?」
加蓮「今の私はこうするべきだ、って。Pさんのことは信頼してるけど、ちょっと意味が分からないかなー」
加蓮「言うって?」
藍子「撮影のお仕事がやりたい、って。Pさんなら、きっと――」
加蓮「え?」
藍子「え?」
藍子「あ、あれ?」
加蓮「まあ……1つだけやってみたいのはあるんだけどね……」
藍子「じゃあ、それをお願いしちゃえば――」
加蓮「あれは……そのうちね。それに、私から言うのはちょっと癪っていうか……いや一応ちょっとだけアピールはしてなくもないんだけど」
加蓮「あれって撮影の仕事がやりたいっていうより、Pさんを試してる意味合いが強いからなぁ……」
加蓮「……って、なんでこんな話してるんだろ私」
加蓮「うん。ホントにささやかなのをね。気づかれてないかな、やっぱ」
藍子「それってもしかして、髪型のことですか? ほらっ、いつも変えてる」
加蓮「……………………へ?」
藍子「あ、ちがうんですね。ごめんなさ」
加蓮「ちょい、ちょい待って。ストップ。……え? え? 何? なんでそんなに見抜けるの? 今すごいびっくりしたんだけど」
加蓮「え、え」
藍子「私、加蓮ちゃんが事務所にいるって分かる時は、いつも予想しているんですよ。今日の髪型は何かなって」
加蓮「……」
藍子「当たったことは1回もありませんけどね、あははは……」
加蓮「…………」アタマカカエ
加蓮「違う。いや違わないけどちょっと違う。そうじゃなくて。うん、大丈夫だから、電話とかはいらないから、うん、いらない」
藍子「ええと、じゃあ、いったい」
加蓮「とにかくその、ちょっと待って、ちょおっと整理させ……、……すー、はー…………うん。ええとさ藍子ちゃん。どんだけ見てたの、私のこと」
藍子「さっき言ったじゃないですか。いつもフラフラになってて心配だから、つい目で追っちゃう、って」
藍子「そういえば……そうですね。いつの間にか、見ていたのかもしれません。フラフラになるとか、関係なく」
加蓮「……」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「……なんだろ。いや、そのさ……割とマジで引くよ……」
藍子「ええっ」
藍子「ひゃっ」
加蓮「なんなのそれ……いやホントになんなのそれ! あーもー……なんなのそれっ!」
藍子「か、加蓮ちゃんはすごく魅力的ですよ? 女の子の私から見ても、それはもうとっても」
加蓮「やめて!」
藍子「ひゃうっ!」
藍子「み、みのきけん??」
加蓮「いやもうアンタ何がやりたいのよ、どうしたいの!?」
藍子「どうしたいって……私は別に……あ、でも、加蓮ちゃんはいつも大変そうだから、なにか、私にできることがあるならお手伝いしたいな……なんて」
加蓮「…………」
藍子「ご迷惑ですか……?」
藍子「はい」
加蓮「えっとさ…………これ私どうしたらいんだろ……?」
藍子「ど、どうするって」
加蓮「えーとね、ごめん、少し……その、時間くれない?」
藍子「お時間ですか? 今日は予定がないので、私は大丈夫ですよ」
藍子「……? 加蓮ちゃんのお話なら、しっかり聞きますよ? あの、私でよろしければ」
加蓮「だからそういうのは今ちょっとストップ。……あーもー、やっててバカバカしくなってくるホント……なんでこう……あー」
藍子「…………加蓮ちゃん?」
藍子「あ、はい。お散歩の時に見つけたカフェに入ったり、ファンのみなさんが教えてくれた場所に行ってみたり」
藍子「ここも、散歩していたらたまたま見つけちゃったんですっ」
加蓮「また微妙に危なっかしいことを。じゃあさ……えっと……もし、また1人でカフェに行くってことがあったら、よければ、誘ってくれる?」
藍子「……!」
藍子「はいっ! ぜひ、お誘いします!」
加蓮「……あ、うん、お願い」
藍子「加蓮ちゃん、次のオフはいつですか? 私は来週からなら……よいしょ。ええと、こことここと、あとこの日も空いてますっ」
加蓮「ちょ、ちょっと待……え、えと、じゃあこの日なら」
藍子「はい。では、楽しみにしていますね。ふふっ」
加蓮「……私も私で、けっこーイメージと違う感じだなぁ、これ……。……ふふっ」
――数日後 同じカフェ(過去編)――
藍子「えっと……あ、いました! こんにちは、加蓮ちゃん! よいしょ」
加蓮「こんにちは、藍子。ふふっ、テンション高いね」
藍子「すごく楽しみにしていましたから、今日のこと。おかげで、お仕事も絶好調です」
加蓮「そういえばトレーナーさんが言ってたなぁ。藍子がぐんぐん伸びてる、だから見習えって。いや、何を見習えって話なんだけど」
藍子「前とは逆ですね。ほらっ、前は、私が加蓮ちゃんを見習えって言われましたから」
加蓮「そういえばそうだね。ふふっ、これで借りは返したかな」
藍子「借りとかじゃないですよー」
加蓮「あ、それこの子。うん、ありがとー」
藍子「……へ? まだ私、注文していないのに」
加蓮「ついでにもう1つ、借りは返しとく。プレーンワッフルがすごくおいしかったから」
藍子「あっ……加蓮ちゃん、そんな、いいのに」
加蓮「次の時にでもまた選んでよ」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「次は藍子が先に来て、私が食べたそーにしてるのを注文して。そしたら、私がお金を出すから」
藍子「はいっ! じゃあ、じっくり考えちゃいます。加蓮ちゃんの笑顔が、また撮れるようにっ」
藍子「慣れですよ、慣れ」
加蓮「はいはい。……しんみりした話はさっさと済ませたいし先に言っとくけどさ」
藍子「……? はい」
加蓮「前の。ごめん、藍子が信じられなかった」
藍子「私を、ですか?」
加蓮「まー……いろいろあって、加蓮ちゃんはねじれにねじれた女の子になっちゃいました。なので前は、ちょっと藍子のことが信じられなかったかも」
藍子「それは……いえ、私も、いきなりすぎましたから」
加蓮「あ、それもある」
藍子「ごめんなさい……」
加蓮「いやでもいいって。嬉しかったことは嬉しかったし」
加蓮「藍子」
藍子「はい」
加蓮「抹茶ゼリーを頼んでみたけど、どう? 要望に沿えれた?」
藍子「あっ、はい! 今、すっごく食べたかったんです。ばっちりです!」
加蓮「そっかそっか。よかった。ふふっ」
藍子「さすが加蓮ちゃんですね」
加蓮「いや、ぶっちゃけ言えば私も前の藍子と同じでズルしたんだけどね」
藍子「え? 私、事務所で抹茶ゼリーなんて食べてましたっけ」
加蓮「ううん。Pさんから聞いた」
藍子「Pさんから!?」
加蓮「最近、藍子が食べたそーにしてる物とかなかった? って」
藍子「そんなの私よりズルじゃないですか!」
藍子「うー……」
加蓮「Pさんと言えばさ。最近ちょっとうっとうしい」
藍子「へ? 珍しいですね、加蓮ちゃん。いつもPさんと、仲が良さそうなのに」
加蓮「そんなことないって。最近は過保護がうっとうしいのなんの」
藍子「ああ、アニバーサリーの時みたいな……。それだけ、愛されてるってことですよ」
加蓮「どーだか」
加蓮「ふーん、うらやましいんだ」
藍子「あっ……」
加蓮「ふふっ。抹茶ゼリー、一緒に食べてるのが私でごめんね?」
藍子「べ、べつに、そういうんじゃ……うー」
加蓮「顔はそうじゃないって言ってるけど?」
加蓮「ほら、抹茶ゼリー、もっと食べたら?」
藍子「あ、はいっ。いただきます、加蓮ちゃん」
加蓮「はーい。さて、私も何か注文しよっと」
藍子「はむっ。んー、おいしいっ♪ 加蓮ちゃんも一口、どうですか?」
加蓮「それをやって前回、藍子が苦い顔になったのを思い出すとねー」
藍子「あ、えっと」
藍子「……そうですね。加蓮ちゃんは加蓮ちゃんの、私は私の、好きなもので」
加蓮「Pさんの話?」
藍子「えっ? ……も、もう、そうじゃなくて!」
加蓮「あははは。顔真っ赤」
藍子「……もー」
藍子「楽しかったですよね、アニバーサリーLIVE」
加蓮「うん。すごく。……でも正直、はっきりとは覚えてないんだよね」
藍子「あんなに盛り上がったのに?」
加蓮「なんかすごかった、ってばっかりで。終わりの頃とか意識あったか怪しいもん私」
藍子「ああ……」
加蓮「そういえばあの頃から、Pさんの過保護がひどくなった気がする」
加蓮「む。藍子はPさんの味方なんだ」
藍子「あれを見てしまうと、誰だってそうなると思いますよ」
加蓮「なんかやったっけ、私」
藍子「後半に、加蓮ちゃんのソロパートがあったじゃないですか」
加蓮「あったあった」
加蓮「………………何か見たとは思うけど、うん、覚えてないや」
藍子「そうでしょうね。あの時の加蓮ちゃん、目が虚ろで、顔もまっしろだったから、私、思わず悲鳴をあげちゃったんです。ちょっとだけですけどね」
加蓮「うわぁ……」
藍子「春菜ちゃんに心配されたことを、よく覚えていますから。緊張した時はメガネです! って、なぜか青ブチの眼鏡をすすめられちゃいましたけど」
加蓮「そこはほら、春菜だもん」
藍子「歌鈴ちゃんは一緒にびっくりしていました」
加蓮「それもほら、歌鈴ちゃんだし」
藍子「起こすのにちょっぴり苦労しちゃいました」
加蓮「反省会の時、後半パートがバタバタしてたってPさん言ってたっけ。それが原因か。……あれ? 原因って私?」
藍子「はい、そうですね」
加蓮「うわぁきっぱり言う」
藍子「あの時からですよ。加蓮ちゃんが、心配になり始めたというか、つい気になっちゃうようになったのは」
加蓮「あー、うん……」
藍子「あの時はすぐに私たちの舞台だったので、声はかけられませんでしたけど……あの時、加蓮ちゃん、控え室に戻れたんですか? ずっと気になってて」
加蓮「気になるも何も、ラストでみんなで歌った時にいたじゃん、私」
藍子「いましたけど……」
加蓮「でもさ、どうやって控え室に行ったのかは覚えてないかな。気づいたら控え室で、しかもあのラストの出番まであと5分だったからね」
藍子「そんな、また不安になることを……」
藍子「……加蓮ちゃん、いつもつらそうにしてるけど……その、何かあるんですか?」
加蓮「病気」
藍子「……」
加蓮「……やっぱりって思った?」
藍子「…………ちょっぴり」
藍子「今は、大丈夫なんですか?」
加蓮「うん。一応、たまに行ってる。親がうるさくて」
藍子「…………」
加蓮「……あ、変に気を遣ったりしないでよ? そーいうのあんまり好きじゃないから」
藍子「あ、はい……。……って、体力がないのならなおさら無茶したらだめじゃないですか! なんでいつもフラフラになるまで!」
藍子「もう……。だからPさんも、過保護になるんじゃ」
加蓮「まあねー。なにかあれば身体は大丈夫か喉は大丈夫か、あげく夜は腹出して寝てないかって。セクハラでしょ、セクハラ」
藍子「でも、加蓮ちゃん、なんだか嬉しそう」
加蓮「……まあ…………見られてないよりは」
藍子「ふふっ」
藍子「じゃあ、バテないようにがんばりましょう。私も、応援しますから」
加蓮「ありがと」
藍子「そういえば加蓮ちゃん」
加蓮「ん?」
藍子「結局、Pさんとお話はしたんですか?」
加蓮「話はよくするけど」
加蓮「あ、それね。一応。なんか、ちょっと驚かれた」
藍子「びっくりしたんですか」
加蓮「え? そうなの? って」
藍子「うーん……」
加蓮「ほら、私って昔から入院してた……っていうのはずっと前にPさんに話してたんだけどさ」
加蓮「だからその……身体とか、あまり見せたくないって思ってたんじゃないか、なんて」
加蓮「変な話だよね。だったらそもそもアイドルにならないし、手術痕があるって訳でもないし。別に外見にコンプレックスなんてないよ?」
藍子「あはは……ちょっとPさんの気持ちも分かっちゃいます」
加蓮「どうしていらない気遣いばっかりするんだろうね、人って」
藍子「そうですね……」
藍子「それで、LIVEの仕事や営業ばかりを?」
加蓮「そゆこと。それで撮影の件だけど、近いうちにそういう仕事を探してみるって、とりあえずは」
藍子「じゃあ、楽しみが1つ、増えましたね」
加蓮「うん。あ、そうだ。もしかしたら藍子にも関係するのかな」
藍子「私に?」
藍子「要求、ですか」
加蓮「普段からいろいろ無茶をさせてるからって、ちょっと申し訳無さそうだったな」
藍子「なるほど……」
加蓮「ってことで、藍子ももっとワガママ言っていいと思うよ。Pさん、その方が喜ぶんじゃないかな」
藍子「じゃあ、考えておきますね。――あ、1つありました」
藍子「加蓮ちゃんに無茶させないでください、って」
加蓮「……いや、あのね? そーいうんじゃなくて自分のことをね? ほら、抹茶ゼリーをおごってほしいとか、一緒に散歩してほしいとか」
藍子「それもとっても幸せだと思いますけど、今、最初に思いつくのは、やっぱり加蓮ちゃんのことですから」
加蓮「……損するタイプってよく言われない?」
藍子「え? そんなことありませんけど……」
藍子「あ、それなら、食べ物ではなくて飲み物を……さっきからずっとお話してるから、あはっ、のどがかわいちゃって」
加蓮「じゃあ……よし、この挑戦メニュー『激辛ペッパードリンク』を」
藍子「そんなの飲めませんっ!」
加蓮「あ、無理? 藍子ならいけると思ったのに」
藍子「無理ですよ!」
藍子「なんでそんなイメージなんですか!」
加蓮「パッショングループだし」
藍子「そういうものじゃないと思いますっ」
加蓮「あ、そうだ。イメージと言えば……っと、先に頼んじゃって。私メロンソーダ」
藍子「はぁい。すみませーん……はい。メロンソーダと」
藍子「ミルクティーを1つずつ!」
加蓮「ちぇ」
藍子「はい、お願いしますっ!」
藍子「…………加蓮ちゃん」ジトー
加蓮「藍子。アイドルも日常も、挑戦が大切だよ、挑戦が」
加蓮「あ、ゴメン、私お医者さんから激辛って名前のつく飲み物を飲むなって言われてるから」
藍子「むぅ……じゃあしょうがないです」
加蓮「……え? 今ので信じるの?」
藍子「え?」
加蓮「え?」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「今の?」
加蓮「ミルクティーを頼むあたりは藍子なんだけどさ」
藍子「はあ」
加蓮「たまに……あれ? 藍子ってこんな子だっけ? ってなる」
藍子「私も、そうかもしれないです」
藍子「はい。加蓮ちゃんは、いつもがんばっていて、お疲れになってるって感じでしたから」
加蓮「照れるね」
藍子「半分くらいは褒めてませんっ」
加蓮「あちゃ」
藍子「私、加蓮ちゃんのことを見ていた時から、ずっと心配だったんですよ。いつもソファで息を切らしていたり、歩くのも難しそうだったりって」
藍子「いつか倒れてしまうのでは、なんてハラハラしていましたから」
藍子「加蓮ちゃん!」
加蓮「はいはい、ごめんごめん。でも気になってるなら声かけてくればいいのに。そんなに私、話しかけにくいことしてた?」
藍子「きっかけを探していたら、いつもそこにいないから」
加蓮「そんな礼儀みたいなのとかどーでもいいのになー」
藍子「はい。加蓮ちゃんと話していて、それはよく分かりました」
藍子「いたずらっ子」
加蓮「シニカルと言ってほしいなー」
藍子「とにかく、私の中で加蓮ちゃんは真面目な人ってイメージがあったんです。それなのに、こんなにイタズラがお好きとは」
加蓮「失望した?」
藍子「そういうんじゃないですけど……」
藍子「あんまり、いじわるしないであげてください。……あ、きましたね。はい、メロンソーダ」
加蓮「ありがとー。ごくごく……うん、すっぱい」
藍子「すっぱいですか」
加蓮「うん。すごくすっぱい」
藍子「緑色が濃いですね」
加蓮「濃いね」
加蓮「緑色は許すって。ほら、某配管工の兄より弟の方が好きだからって」
藍子「ああ、じゃあ、赤いから激辛の飲み物は止められているんですね」
加蓮「……藍子」
藍子「はい」
加蓮「お願い、ちょっとでいいから疑って……! こっちの頭が痛くなってきた…………!」
加蓮「なんで冗談じゃないって思うの!?」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」ゴクゴク
藍子「私は、うす味のほうが……」
加蓮「あー。ジャンクフードとか食べそうにないね、藍子は」
藍子「そうですね……。加蓮ちゃんはよく食べてますよね。ハンバーガーとか、ピザとか」
加蓮「ピザってジャンクフードになるのかな」
藍子「え、違うんですか?」
藍子「あー」
加蓮「あれ、イギリスだっけ」
藍子「たぶんイタリアですよ。確かに、そうなのかも」
加蓮「でも私的にはジャンクフードだけどね」
藍子「……じゃあ、なんで言ったんですか」
藍子「んぐんぐ……うん、とってもおいしいです……♪」
加蓮「そっか。よかった」
藍子「あはっ」
加蓮「ずずーっ」
藍子「はふぅ……」
藍子「……」
加蓮「ごくごく……」
藍子「ふわあ……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「んー」
藍子「ほへー」
藍子「……」
加蓮「……やっぱりちょっとお腹すいた」
藍子「なにか注文しますか?」
加蓮「一品まではいらないかな。なんか食べたいのある? そっから分けてくれれば」
藍子「そうですね……今度はさっぱりしたものを。サラダでいいですか?」
藍子「えっ」
加蓮「あー……でもたまにはいっか。うん。サラダにしよっサラダに」
藍子「はいっ。すみませーん」
藍子「あ、そうだ、思い出しました。私、加蓮ちゃんにご相談が……」
加蓮「なに?」
藍子「実はですね。私、今度、SRランクのお仕事をもらうことになったんです」
加蓮「……へ? マジ?」
藍子「はいっ」
加蓮「そっか。やっと藍子にも来たんだね。おめでと」
藍子「はいっ!」
藍子「……」
加蓮「……で、相談って?」
藍子「あ、そうでした。まだ詳しいことは決まっていないんですけれど、たぶん、カフェでの撮影になると思うんです。Pさんが、そう言っていて」
加蓮「藍子の独壇場じゃん」
加蓮「うん」
藍子「撮影用に、小物を用意してくるように、って」
加蓮「小物?」
藍子「数とか、種類とかは自由で。でも、いいものがなかなか思いつかないんです」
加蓮「ふうん」
加蓮「……いや、だからさ、私は撮影仕事ってろくにやったことないから、聞かれても答えようがないんだけど」
藍子「でも、加蓮ちゃんはオシャレだから……何か、思いつきませんか?」
加蓮「何かって……服とかアクセとかそういうの?」
藍子「そう。そうです。なにがいいのでしょうか」
藍子「ぼ、冒険ですか」
加蓮「こう、肩をぐいっと出したり」
藍子「わ、わ、加蓮ちゃん、ここお店ですお店っ」
加蓮「大げさな。これくらい出してる子なんてたくさんいるでしょ。あとはおへそをちらっと見せてみたり」
藍子「あ、ああいうのはちょっとはずかしくて」
藍子「あまり着たこともないので……たぶん、私が着たら不自然になっちゃうと思います」
加蓮「確かに今日の服も、ぶかぶかのモコモコだもんね。暑くないの?」
藍子「私、寒がりな方なので。加蓮ちゃんはどっちですか?」
加蓮「私? まぁ……どっちも別には」
藍子「強いんですね」
藍子「あ」
加蓮「それに比べたらね。……ああうんごめん、返しにくいの振っちゃって」
藍子「い、いえ。そうだ。寒い日にはお風呂が楽しみになっちゃいますよね」
加蓮「つい1時間とか入っちゃったり?」
藍子「ええと……2時間ちょっとくらい入っていたことがあって」
加蓮「うわ」
加蓮「ゆっくり眠れるでしょ、そーいう時って」
藍子「……次の日に、寝坊しちゃいました」
加蓮「あ、なんか藍子っぽいねそれ」
藍子「お母さんからも、よく呆れられちゃいます。もっとてきぱき動けるといいのに」
加蓮「てきぱき?」
藍子「てきぱき」
藍子「あ、いま笑いましたね!」
加蓮「ふふっ。ごめんごめん。藍子がそのままの顔でてきぱき動いているのを想像したら、うぷっ」
藍子「加蓮ちゃんひどいっ」
加蓮「いや逆に想像してみてよ。例えば……うん、私がこの顔でクッキー食べるのに30分かかったり、ご飯を食べるのに1時間かかってたりしたらどうよ」
藍子「……うーん………………うくっ」
加蓮「ほら、笑った」
加蓮「ほーらほら自分に正直になりなさいってー」
藍子「うくくっ、だって、おかしっ、加蓮ちゃんが、あははっ」
藍子「……ぷはっ。し、失礼しました。見苦しいところを」
加蓮「楽しそうに笑ってる姿のどこが見苦しいのよ。そんなこと思う奴がいたら私がはっ倒すし、藍子だって葬式顔の人を撮るより笑顔でご飯をぱくついている子を撮る方が楽しいでしょ?」
藍子「それはもちろん、そうですけど」
加蓮「ね」
加蓮「アイドルが何言ってんだか」
藍子「あ、あは」
加蓮「じゃあ手鏡でも持ち歩いてみるとかどう?」
藍子「あ、最近は1つ、いつも持ち歩いているんです」
加蓮「おっ」
加蓮「ちっちゃい猫がついてる」
藍子「可愛いでしょっ。お散歩していた時、見つけた雑貨屋さんで買ったんです」
加蓮「へー……うわっ。近くで見るとギョロ目だ」
藍子「そこがまた、かわいいんです」
加蓮「そ、そう?」
加蓮「櫛?」
藍子「はい。くしです」
加蓮「こっちも猫柄?」
藍子「かわいいですよね、ねこさんっ」
加蓮「可愛いよね」
加蓮「狐」
藍子「……え?」
加蓮「狐」
藍子「……ええと」
加蓮「あはは、ごめんごめん。そのポカーンとした顔が見たかった」
藍子「もうっ……」
藍子「見たことあるんですか?」
加蓮「うん。ぼけっとしてる目がすっごく可愛くてねー。藍子、見たことない?」
藍子「私はないです。東京には、あまりいないみたいで」
加蓮「いるところにはいるって。私も東京の人間だよ」
藍子「あはっ、私の探し方が下手なのかもしれません」
藍子「その時は、ぜひ見せてくださいっ」
加蓮「事務所まで肩に乗せて来ようか。なんなら仕事先にも」
藍子「あはっ、とっても可愛いと思いますよ」
加蓮「狐がね」
藍子「加蓮ちゃんも」
藍子「とっても楽しそうです……って、あ」
加蓮「ん?」
藍子「わ、忘れてました。私たち、撮影の小物について話しているんでした」
加蓮「あっ。……さっきの猫の鏡とか櫛でよくない? 藍子らしいじゃん」
藍子「うーん……」
藍子「それに、ねこさんだと……その、いろんな方がやってますから」
加蓮「それもそうだね。いや敢えてそこは喧嘩を売っていくとか」
藍子「はじめてのSRランクのお仕事でそれは、ちょっとハードル高すぎますっ」
加蓮「むぅ」
加蓮「猫」
藍子「そうじゃないですっ」
加蓮「んー。考えてみると難しいなぁ。あ、サラダなくなった……た、食べだしたらお腹空いてこない?」
藍子「え? ……そういえば、そうですね。また注文しちゃいましょうか」
加蓮「テキトーにつまめる物がいいなぁ。ピザでいい?」
藍子「はい。すみませーん!」
加蓮「……」モグモグ
藍子「……」モグモグ
加蓮「藍子」
藍子「はい」
加蓮「スカート、めくれてるよ」
藍子「わっ。さっき座り直した時でしょうか」
藍子「でも、気をつけなきゃ……」
加蓮「にしてもホント長いよね、スカート」
藍子「このほうが、ゆったりしていて落ち着くから……加蓮ちゃんも、こういう服、どうですか?」
加蓮「私? いやいや。私はもっと挑戦していくタイプでしょ」
藍子「そこを敢えてっ」
加蓮「えー」
加蓮「アピール?」
藍子「いつもと違って清楚な姿を見せれば、Pさんもカメラで撮りたいッて思うはず!」
加蓮「藍子」
藍子「はい!」
藍子「へ? ……あ、あの、加蓮ちゃん? 顔が怖いですよ?」
加蓮「普段と違って清楚、ね。じゃあ、藍子にとっての普段の私って?」
藍子「……」
加蓮「……」
加蓮「……」
藍子「……えへ」
加蓮「ちょおっとこっち見てみよっか。ん? ねーねー」
藍子「……」
加蓮「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「…………体が弱いんだったらもっと体に優しい格好をすればいいじゃないですか!」
加蓮「逆ギレ!?」
加蓮「はぁ? オシャレの為には我慢だっているでしょ!」
藍子「それでPさんをうっとうしいって言うのおかしいですよね!」
加蓮「仮にもプロデューサーなら女の子の心境くらい把握しろ!」
藍子「Pさんはいつも優しいです!」
加蓮「ウザいんだってそれが!」
加蓮「うっさい! それくらい望んでいいでしょ!」
藍子「わがまま!」
加蓮「わがまま言って何が悪いの!」
藍子「周りの人をどれだけ心配させているか分かっているんですか!」
加蓮「私のことだ、私が一番詳しいに決まってんでしょ!」
加蓮「だから今は倒れないようにしてるんでしょうが!」
藍子「それが分かるのは加蓮ちゃんだけです! Pさんも私も、いつもハラハラしているんです!」
加蓮「こちとら今までやりたいことなんにもできてないんだから今くらいやりたいことやらせてよ! 分かってよ!」
藍子「それは……っ……加蓮ちゃん、私が、Pさんが……っ……」
加蓮「………………あ」
加蓮「あ…………いや…………ごめん……」
藍子「加蓮、ちゃんがっ……」
加蓮「ごめん。ごめん藍子。ごめん。……ごめん。あの、うん、喋らなくていいから、落ち着いて……」
藍子「うん……ぐすっ……」
加蓮「……」
加蓮「……」
藍子「……はっ……はっ……うん、もう、大丈夫……です」
加蓮「顔が大丈夫って言ってな……いや、私は大丈夫だから……それも違う……」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「うぁ……どうしたらいいのこういうの。私ぜんぜん知らないから…………」
加蓮「…………」
藍子「ぐすっ……あはっ、私、加蓮ちゃん、私がまたパニックになっちゃいます。加蓮ちゃんがパニックになったら」
加蓮「……うん。ごめん…………」
藍子「はい。いえ、いいえ。私は、その、大丈夫ですから。ね? 大丈夫ですから」
加蓮「……ごめん……」
藍子「……こんなこと言っちゃ、加蓮ちゃんに失礼かもしれないけれど」
加蓮「うん」
藍子「加蓮ちゃんがこんなに怒鳴るの、はじめて、見ました」
加蓮「……ごめん」
藍子「いつも……ううん、いつも、って言えるくらい加蓮ちゃんのこと知らないけれど……いつも、ごまかしたり、はぐらかしたりしているように見えたから」
加蓮「……」
加蓮「あのさ、藍子」
藍子「……はい」
加蓮「そっちに行……なんでもない」
加蓮「……私も、ちょっと失礼なこと言うけど」
藍子「はい」
加蓮「なんか勝手にやってた。いつもはセーブがかかってるのに。ふふっ、考えるより先にね」
加蓮「たぶん。昔のことなんて、Pさんにもほとんど話さないのに」
藍子「……私には、どうして」
加蓮「さあ?」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……ふふっ」
加蓮「……あはっ」
加蓮「ふふっ。ごめんね」
藍子「こちらこそ!」
加蓮「ちゃんと息は吸えてる?」
藍子「大丈夫で」ゲホッ!
藍子「う、うー」
藍子「すっぱいのはちょっと……」
加蓮「すみませーん、水をお願いしまーす。……ほら藍子、水。飲める?」
藍子「うん……ごくごく、がほげほっ」
加蓮「ちょ、無理しないでいいって」
藍子「ふー、ふー……えへへ、変なところに入っちゃったみたいで」
藍子「はい。あ、そうだ。加蓮ちゃん、すっきりできましたか?」
加蓮「え?」
藍子「いつも言わないでいること。たくさん言えて」
加蓮「……うん。けっこうすっきりした」
藍子「だったら、私はそれでいいですよ? …………うんっ。だって今の加蓮ちゃん、すごく綺麗な顔だから」
藍子「それを見られただけでも、私は嬉しいですっ」
加蓮「まったく……ホント、いい子だよねー。それこそ疲れない?」
藍子「……? なにがですか?」
加蓮「あ、それが素ってことなのね。変なの……ふふっ」
加蓮「?」
藍子「すごく、綺麗な笑顔です!」
加蓮「……あははは」
藍子「あはっ」
加蓮「ごめんね、藍子」
藍子「ごめんなさい、加蓮ちゃん」
加蓮「……ありがとね、藍子」
加蓮「うん。そうする」
藍子「あ、でも、怒鳴る前には怒鳴るって言ってくださいね。びっくりしちゃうからっ」
加蓮「それは無理がない?」
藍子「あはっ、確かに」
藍子「ひどい言い方です。加蓮ちゃんが悪いのに」
加蓮「う゛」
藍子「あっ! ご、ごめんなさい、今の冗談ですから!」
加蓮「……普段なら笑って流せるんだろうけど、ちょっとやり過ぎちゃったからな。しばらくはネタにしないで欲しいかも」
藍子「加蓮ちゃんがそう言うなら」
藍子「どっちなんですかー」
加蓮「藍子のやりたいように」
藍子「じゃあ、私は加蓮ちゃんにお礼を言いたいです」
加蓮「私が言う側だって」
藍子「私だって! えーと……」
藍子「なんだかよく分からないけど、ありがとうございます!」
加蓮「なにそれ」
藍子「ごめんなさいって言うよりは楽しいですよ」
加蓮「ふうん。じゃあ試しに……ありがとね、藍子」
藍子「はい! ありがとうございます、加蓮ちゃん」
藍子「ありがとうございましたっ」
加蓮「……あ、確かにこれ、なんか楽しいかも」
藍子「あはっ、でしょ?」
加蓮「謝ってるよりはいいね。よし、今度から藍子に何かやらかしたら謝るんじゃなくてお礼を言おう」
藍子「さ、さすがに一言くらいは欲しいかな。それに、私に何かやらかすのは決まっているんですね」
藍子「もー」
加蓮「……んー! はー、すっきりした」
藍子「あはっ」
加蓮「しかし私にここまで吐き出させるとは。おそるべし藍子」
藍子「なんですかそれー。私、すごくびっくりしたんですから。加蓮ちゃんに怒鳴られた時」
藍子「泣きそうになるの、がんばってこらえていたんですよ?」
加蓮「でもつい堪えきれず」
藍子「人ごとみたいに言わないでくださいっ」
加蓮「あはは。ごめ……じゃなかった。ありがと、藍子」
藍子「……不思議です。それで許せちゃうから」
藍子「うん、大丈夫です」
加蓮「ん」
藍子「はぁ。またお腹がすいちゃいました。何か注文しませんか?」
加蓮「私もー。怒鳴ったらお腹ペコペコ。もう晩御飯にしちゃおうよ」
藍子「それもいいですね。私、たまにはハンバーグとか食べてみたいです」
藍子「ホントに辛いのが好きなんですね」
加蓮「まあね。あ、お母さんにご飯いらないって連、絡……え?」
藍子「……? 加蓮ちゃん?」
加蓮「……ねえ藍子」
藍子「は、はい」
藍子「えっと……おやつを食べたいって思った頃だから、3時くらいでしょうか」
加蓮「だよね。でさ、今の時間」
藍子「?」
加蓮「もう、8時なんだけど」
――事務所(現在)――
加蓮「あのあと、どうしたんだっけ?」
藍子「えっと……もういいやって笑っちゃいましたよね。私も、加蓮ちゃんも」
加蓮「で、ご飯を食べて……写真を撮ったんだっけ? 記念日にしよう、なんて言って」
藍子「加蓮ちゃんが何度も撮り直したいなんていうから、ちょっぴり大変でした」
加蓮「そうそう思いだした。あの日、お母さんとお父さんにすっごく怒られたんだった」
藍子「Pさんからの宿題のお話をしていたら、閉店時間になっちゃいましたよね」
藍子「あはは……」
加蓮「結局、何にしたんだっけ。撮影の小物」
藍子「もう、忘れたんですか? 雑誌とコート」
加蓮「それと手鏡ね。猫エピソードつきの」
藍子「あれ、覚えていたんですか」
藍子「はい。加蓮ちゃんのことですよ」
加蓮「……あの後、なんか周子さんとこが藍子とのことを聞かれたって。気付いたらユニット組むみたいな話になりかけたって」
藍子「……あれは悪いことをしちゃいました」
加蓮「結局、スケジュールがどうしても合わないからって見送られたんだっけ。あのユニットさ、名前が決まってたんだよ。仮だけど」
加蓮「『女狐シューコとお散歩飼い主』」
藍子「………………冗談ですか?」
加蓮「Pさんの企画書にでかでかと」
藍子「私、ちょっとPさんとお話をする用事ができました」
加蓮「そのうち帰ってくるんだから、それからにしなよ」
藍子「……そうですねっ」
加蓮「私は藍子がいないとこういうことしないし」
藍子「写真、またいっぱい撮っちゃいましょう」
加蓮「うん。あ、そうだ、思い出したついでに……ねえ、藍子」
藍子「はいっ」
加蓮「………………その……いつも、ありがと」
藍子「あはっ……私こそ、いつもありがとうございます、加蓮ちゃん!」
おしまい。相変わらず面倒くさいふたりです(最大級の褒め言葉)。
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SS速報VIPのSS紹介です。
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