2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:52:19.89 ID:vgo2k3nS0
緒方智絵里は、
千間通りの前にある遊郭の遊女であった。
幼い頃、食うに困った両親が彼女を売った。
智絵里は醜女ではなかったが痩せっぽっちで、
いつも自信がなさそうな顔をしている。
抱かれている時もその顔なので、客はとんと付かない。
金が稼げない遊女に遊郭は冷たく、
智絵里の食事はよくはじかれた。
なので、智絵里は痩せっぽっちのままだった。
千間通りの前にある遊郭の遊女であった。
幼い頃、食うに困った両親が彼女を売った。
智絵里は醜女ではなかったが痩せっぽっちで、
いつも自信がなさそうな顔をしている。
抱かれている時もその顔なので、客はとんと付かない。
金が稼げない遊女に遊郭は冷たく、
智絵里の食事はよくはじかれた。
なので、智絵里は痩せっぽっちのままだった。
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3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:52:59.84 ID:vgo2k3nS0
ある時、ふくよかで健康的な
武士が智絵里を買った。
女色は武士の文化であるから、別に誰も咎めない。
名前は三村かな子。
金がなかったから、一番安い女を買ったのだという。
武士が智絵里を買った。
女色は武士の文化であるから、別に誰も咎めない。
名前は三村かな子。
金がなかったから、一番安い女を買ったのだという。
4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:53:35.68 ID:vgo2k3nS0
三村は智絵里に優しかった。
着物を乱暴に剥ぎ取ったりせず、
しゅるしゅると脱がしてくれた。
はじめに三村は、浮き出た肋骨に接吻をした。
智絵里は、ひゃっとくすぐったい声をあげた。
こんなことをされたのは初めてだった。
着物を乱暴に剥ぎ取ったりせず、
しゅるしゅると脱がしてくれた。
はじめに三村は、浮き出た肋骨に接吻をした。
智絵里は、ひゃっとくすぐったい声をあげた。
こんなことをされたのは初めてだった。
5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:54:30.90 ID:vgo2k3nS0
肌を合わせると、
三村の肉はむっちりとしていて気持ちがよかった。
ゆったりとした営みであったから、
智絵里はそれを十分に堪能した。
しあわせ。
智絵里はこの日、女としても、
人としても、初めて悦びを覚えた。
三村の肉はむっちりとしていて気持ちがよかった。
ゆったりとした営みであったから、
智絵里はそれを十分に堪能した。
しあわせ。
智絵里はこの日、女としても、
人としても、初めて悦びを覚えた。
6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:55:11.52 ID:vgo2k3nS0
行為が終わると、
三村は小倉饅頭を智絵里に勧めた。
別段高価なものではなかったが、それは美味かった。
口に含むとふっと酒のよい香りがして、
餡子の甘みが舌に沁みる。
甘味は長引かないですっと引くから、
口の塩梅も悪くならない。
また1つ、もう1つと食べ続けられる味。
三村は小倉饅頭を智絵里に勧めた。
別段高価なものではなかったが、それは美味かった。
口に含むとふっと酒のよい香りがして、
餡子の甘みが舌に沁みる。
甘味は長引かないですっと引くから、
口の塩梅も悪くならない。
また1つ、もう1つと食べ続けられる味。
7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:55:40.75 ID:vgo2k3nS0
智絵里は、5個の饅頭を平らげた。
こんなに美味しいものを、
心ゆくまで食べたのも、
この日が初めてのことだった。
三村は智絵里を温かい目で見守っていた。
こんなに美味しいものを、
心ゆくまで食べたのも、
この日が初めてのことだった。
三村は智絵里を温かい目で見守っていた。
8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:56:24.39 ID:vgo2k3nS0
それから智絵里は、三村に指名され続けた。
そして毎度毎度と菓子を貰っていたから、
智絵里に少しずつ肉がついた。
また、幸福な表情を浮かべる女は
三村以外の人間も惹きつけた。
次第に智絵里を選ぶ客が増えていった。
無論智絵里の値段も上がっていき、
三村の財布に見合う女ではなくなった。
そして毎度毎度と菓子を貰っていたから、
智絵里に少しずつ肉がついた。
また、幸福な表情を浮かべる女は
三村以外の人間も惹きつけた。
次第に智絵里を選ぶ客が増えていった。
無論智絵里の値段も上がっていき、
三村の財布に見合う女ではなくなった。
9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:57:32.68 ID:vgo2k3nS0
だが、智絵里は以前と同じ金で三村と会った。
周囲も三村の優しさを知っているから、
2人の関係を邪魔しなかった。
三村が遊郭の前の千間通りに現れると、
「三村様がやってきたぞ」と
智絵里に教えてくれた。
周囲も三村の優しさを知っているから、
2人の関係を邪魔しなかった。
三村が遊郭の前の千間通りに現れると、
「三村様がやってきたぞ」と
智絵里に教えてくれた。
10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:58:11.01 ID:vgo2k3nS0
給金の増えた智絵里は、
今度は自分が菓子を買って
三村を待つようになった。
春は桜餅。
夏は水羊羹。
秋は栗きんとん。
冬は雪うさぎ。
どれも上等で、三村は喜んでくれた。
今度は自分が菓子を買って
三村を待つようになった。
春は桜餅。
夏は水羊羹。
秋は栗きんとん。
冬は雪うさぎ。
どれも上等で、三村は喜んでくれた。
11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:58:59.33 ID:vgo2k3nS0
本当に、美味しそうに菓子を食べてくれた。
けれど、三村がいっとう気に入っていたのは、
あの小倉饅頭だった。
けれど、三村がいっとう気に入っていたのは、
あの小倉饅頭だった。
12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 10:59:36.27 ID:vgo2k3nS0
「貧乏武士だから、舌も貧乏なの」
三村はそう笑った。
その笑顔も、智絵里は大好きだった。
肌も合わせず一緒に菓子を食べたり、
話したりしているだけでも、智絵里は幸福だった。
幸福すぎて、なんだか申し訳ない気分さえした。
三村はそう笑った。
その笑顔も、智絵里は大好きだった。
肌も合わせず一緒に菓子を食べたり、
話したりしているだけでも、智絵里は幸福だった。
幸福すぎて、なんだか申し訳ない気分さえした。
13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:00:34.16 ID:vgo2k3nS0
だがある時、三村が難しい顔をしてやってきた。
この時、町では攘夷を訴える浪士と、
それを抑えつける藩が対立していた。
三村は藩側の人間であった。
だから斬り合いに巻き込まれ、命を落とすかもしれない。
三村はぽつりと、そう言った。
この時、町では攘夷を訴える浪士と、
それを抑えつける藩が対立していた。
三村は藩側の人間であった。
だから斬り合いに巻き込まれ、命を落とすかもしれない。
三村はぽつりと、そう言った。
14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:01:17.66 ID:vgo2k3nS0
引き止めたかった。
しかし藩命であるし、
刀の勝負は武士の誉である。
智絵里は何も言えなかった。
三村は智絵里に、四葉の飾りがついた簪を贈った。
智絵里の幸福を願っていると。
自分ではない、誰かのそばでも幸福でいてほしいと。
しかし藩命であるし、
刀の勝負は武士の誉である。
智絵里は何も言えなかった。
三村は智絵里に、四葉の飾りがついた簪を贈った。
智絵里の幸福を願っていると。
自分ではない、誰かのそばでも幸福でいてほしいと。
15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:01:52.97 ID:vgo2k3nS0
この日久しぶりに、三村は智絵里を抱いてくれた。
智絵里は、まず三村の脇腹に接吻した。
三村はくすぐったい声を出した。
智絵里は、まず三村の脇腹に接吻した。
三村はくすぐったい声を出した。
16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:02:27.16 ID:vgo2k3nS0
それから2人は、以前よりもゆっくりと、
まるでお互いが溶け合うように交わった。
この時間が永遠に続けばいいと、智絵里は思った。
まるでお互いが溶け合うように交わった。
この時間が永遠に続けばいいと、智絵里は思った。
17: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:03:09.29 ID:vgo2k3nS0
疲れた智絵里が眠ってしまって、
彼女が目を覚ました頃には、
三村はいなくなっていた。
布団に、2人の甘い汗の香りが残っていて、
智絵里はそれを胸いっぱいに吸い込んだ。
すると、涙が溢れてきた。
彼女が目を覚ました頃には、
三村はいなくなっていた。
布団に、2人の甘い汗の香りが残っていて、
智絵里はそれを胸いっぱいに吸い込んだ。
すると、涙が溢れてきた。
18: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:03:50.10 ID:vgo2k3nS0
それから三村は遊郭にも、千間通りにも現れなくなった。
19: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:04:19.69 ID:vgo2k3nS0
こんこんこんと、町に雪が降り積もる。
その銀景色を、浪士と藩士の血が彩る。
町では、毎日おびただしい量の死者が出た。
智絵里の見知り合いの遊女も、
斬り合いに巻き込まれて命を落とした。
どうか、どうか三村様。
智絵里は簪を弱々しく握りしめて、三村の無事を願った。
その銀景色を、浪士と藩士の血が彩る。
町では、毎日おびただしい量の死者が出た。
智絵里の見知り合いの遊女も、
斬り合いに巻き込まれて命を落とした。
どうか、どうか三村様。
智絵里は簪を弱々しく握りしめて、三村の無事を願った。
20: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:04:56.80 ID:vgo2k3nS0
ある夜、智絵里は庭の燈籠をぼんやり眺めていた。
ちろりちろりと、日が頼りなく揺れている。
それは智絵里の心だった。
三村が、三村がいなければ、智絵里はいつまでも、
痩せっぽっちで自信のない女のまま。
ちろりちろりと、日が頼りなく揺れている。
それは智絵里の心だった。
三村が、三村がいなければ、智絵里はいつまでも、
痩せっぽっちで自信のない女のまま。
21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:05:45.05 ID:vgo2k3nS0
菓子の味、笑い方、
女として、人間としての悦び。
幸福の在り処。
それらを教えてくれたのは、三村だった。
三村がいなければ、智絵里の世界はまっくらで、
彼女はいつまでも、ひどく心細く蹲っているだけだった。
女として、人間としての悦び。
幸福の在り処。
それらを教えてくれたのは、三村だった。
三村がいなければ、智絵里の世界はまっくらで、
彼女はいつまでも、ひどく心細く蹲っているだけだった。
22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:06:14.25 ID:vgo2k3nS0
ふっと、灯篭の火が消える。
智絵里はぞおっとして、戸を閉めた。
智絵里はぞおっとして、戸を閉めた。
23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:06:50.64 ID:vgo2k3nS0
早朝。
一匹の雀がちよちよと鳴いている。
智絵里は、仲間の遊女に起こされた。
「……三村様がいらっしゃった」
三村様が、と智絵里は立ち上がった。
箱いっぱいの小倉饅頭がこぼれるのも構わず、
智絵里は入り口まで駆けた。
一匹の雀がちよちよと鳴いている。
智絵里は、仲間の遊女に起こされた。
「……三村様がいらっしゃった」
三村様が、と智絵里は立ち上がった。
箱いっぱいの小倉饅頭がこぼれるのも構わず、
智絵里は入り口まで駆けた。
24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:07:37.69 ID:vgo2k3nS0
果たして、三村はいた。
ひどい刀傷をおって、倒れていた。
「三村様!」
智絵里が近づくと、
三村がゆっくり顔を上げた。
「智絵里ちゃん…」
智絵里は、三村を抱きかかえた。
夥しい量の血が、粘った音を立てた。
25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:08:08.33 ID:vgo2k3nS0
「お腹、空いちゃった…」
三村は力なく笑った。
腹から、腸が飛び出していた。
智絵里は三村の口に、小倉饅頭をひとつ含ませた。
三村は力なく笑った。
腹から、腸が飛び出していた。
智絵里は三村の口に、小倉饅頭をひとつ含ませた。
26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:08:47.86 ID:vgo2k3nS0
「おいしいね。…本当に、おいしい…」
三村の口から、饅頭がこぼれた。
智絵里は新しい饅頭を、三村の口に運んだ。
三村の口から、饅頭がこぼれた。
智絵里は新しい饅頭を、三村の口に運んだ。
27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:09:25.51 ID:vgo2k3nS0
だが、三村はもう動かなくなっていた。
28: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:10:03.99 ID:vgo2k3nS0
「三村様…まだ、饅頭がいっぱい残っております…
だから、だから…食べてくださいまし」
冷たくなった武士の口に
饅頭を押し当てる女を見て、
遊郭の人間らも、静かに涙を流した。
だから、だから…食べてくださいまし」
冷たくなった武士の口に
饅頭を押し当てる女を見て、
遊郭の人間らも、静かに涙を流した。
29: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/06/03(土) 11:10:36.12 ID:vgo2k3nS0
おしまい。
転載元:【デレマス時代劇】緒方智絵里「三村様の通り道」
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