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トップページモバマス > 北条加蓮「目を開けて、もう一歩」

1: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)01:50:09 ID:tH9



―――バスの中


ブロロン ブロロン…


加蓮「…………」
hjkrn18


『どのくらい混んでるか分かんないから、レッスン遅れそうになったらまた連絡するね』

やすは
『うん、分かった。気をつけてね』

『はーい』

りーな
『今日のトレーナーさん厳しいからあんまり遅れると地獄が……ぶるぶる』

『そのときはりーなを生贄に捧げよう』

やすは
『李衣菜……いい子でした』

りーな
『やめてよ(´・ω・`)』


加蓮「……ふふ」

加蓮(こうしてると緊張も和らぐ……なんて、なんでアタシこんなことで緊張とかしてるんだろ。もう……)


アナウンス「次は――大学医学部付属病院……――大学医学部付属病院……」


加蓮「あ……」

加蓮(……よし。ただの健康診断と、……ちょっとした気持ちの整理だもん。頑張れ、アタシっ)


ブロロン ブロロン…



2: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)01:51:48 ID:tH9



―――病院、敷地内


加蓮「……来ちゃった」テクテク


加蓮(定期検査も必要無くなって以来か……久しぶりってわけでもないのに、もうずっと前のことみたい)

加蓮(噴水、並んだベンチ、リハビリ中の患者さん、車椅子に乗ったお年寄り……。この風景は代わり映えしないな)


加蓮「ふう……。あ、中涼しい……」トテトテ…


加蓮(入り口も全然変わんない)

加蓮(そういえば、退院したときここで花束をもらったっけ……。全然実感湧かなかったけど)

加蓮(治りました良かったですね、なんて。あれだけ長く続いてた入院生活が急に終わっちゃったんだもん、そりゃ戸惑うよね)

加蓮(……それとも、これからどうなるんだろう、って……不安だったのかな。あのときのアタシ)


3: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)01:54:19 ID:tH9

加蓮(いきなり広い世界に放り出されて。病み上がりでなにもない自分が、周りのみんなといかにズレてるか思い知らされて)

加蓮(赤ん坊みたいに泣き喚いて助けを求めることもできなかった。不安と孤独を必死に隠して、強がってばかりで……)

加蓮(そしたら、悲劇のヒロインを気取った擦れた人間の出来上がり。……はぁ。まったくなにしてたんだか、アタシ)


「――おはようございます。本日はいかがされましたか?」

加蓮「えっと……健康診断を受けたくて」

「健康診断ですね、でしたらこちらの通路を進んで健診センターへどうぞ。小児病棟の隣の施設になります」


4: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)01:56:03 ID:tH9

加蓮「小児病棟の隣……? 健診センターとか昔ありましたっけ」

「? はい、この病院ができた頃からありますが……」

加蓮「あ、ごめんなさい……なんでもないです。ありがとうございます、行ってみます」


加蓮(ふふ、呆れた。アタシの世界はほんとに狭かったみたい)

加蓮(小児病棟なんて、それこそアタシの人生の大半を過ごした場所なのに……その隣にある施設すら知らなかったなんて)


加蓮「……先生やお姉さん、いるかなぁ」トテトテ…


転載元:北条加蓮「目を開けて、もう一歩」
http://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1504543809/

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5: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)01:57:28 ID:tH9

受付「――それでは準備ができましたらお呼びしますので、掛けてお待ちください」

加蓮「はーい」


加蓮(かすかに子供たちが遊んでる声が聞こえる。入院したての頃は、アタシも体調が良ければそこに混じって遊んでたな)

加蓮(でも、仲良くなってもすぐお別れで……それがつらくて、だんだん病室に篭もるようになったんだっけ)

加蓮(引き篭もって、テレビが一番の友達になって……それで、アイドルに出会った)

加蓮(きらきら歌って踊る姿が、アタシの励ましになった。あのときは病気が治ったらアイドルになるんだって、ナースのお姉さんに息巻いてたっけ)

加蓮(……お姉さん、元気かな。ネイルを教えてくれた、優しかったお姉さん……。会えるかな。今日はそのために――)


ナース「――あら? もしかして……加蓮ちゃん?」

加蓮「え。…………いや、もう会えたとか出来すぎでしょ……あはは」


6: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)01:59:12 ID:tH9

ナース「どこかで見た子だと思ったら……気づかないで通り過ぎるところだったわ。元気だった?」

加蓮「周りに気づかれないようにしてたんだけど……バレちゃったか。うん、元気だよ。お姉さんも元気そうで良かった」

ナース「ええ、おかげさまで。テレビでよく見るわよ加蓮ちゃん。頑張ってるみたいね」

加蓮「えへへ、ありがと。健康診断終わったら会えないかなーとか思ってたんだ」

ナース「そうなの……ついででも嬉しいわ」

加蓮「むしろ本命はこっち、みたいな。やっぱりさ、お世話になったお礼言いたかったし」


7: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:00:56 ID:tH9

ナース「加蓮ちゃん……。ふふ、ありがとうね」

加蓮「うん。ここにいたときのことも、今じゃ私の大切な思い出だって思えるから。ちょっと遅くなっちゃったけどね」

ナース「ううん、そんなことない。こんなにオシャレさんになって……!」

加蓮「あはは♪ それはお姉さんがいーっぱいファッション雑誌見せてくれたからかなー。それでオシャレに目覚めたんだよ」

ナース「ネイルも続けてるのよね。趣味はネイルです、なんて言ってるのを聞くと嬉しくなっちゃうわ」

加蓮「ふふっ、それもね。ネイルを始めたきっかけは『お世話になったナースさんに教えてもらったから』、って……」


加蓮「……胸を張って、ちゃんとそう言えたらいいんだけど。なのに全然……勇気、でなくて」


8: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:02:29 ID:tH9

ナース「あ……いいのよ、そんなこと気にしなくて。加蓮ちゃんが言いたくないのなら」

加蓮「ううん、言いたくないわけじゃないんだ。今日来たのはね、昔のこと知ってくれてるお姉さんに……一緒に答えを見つけてほしくて」

ナース「答え……。……加蓮ちゃんは、ちゃんと言いたいのね?」

加蓮「……うん。大切な思い出ってこと、ウソにしたくない。だから……昔みたいに頼ってもいいかな?」

ナース「ええ。それが加蓮ちゃんの助けになるのなら……っと、その話は」

加蓮「?」


受付「…………」ソワソワ


ナース「健康診断しながらでもいいんじゃないかしら。もう準備できてるみたいね」

加蓮「あっ」


9: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:03:23 ID:tH9

ナース「さあ、まずは身体測定ねっ」

加蓮「え、ずっとついてくるの?」

ナース「お話ししたいって言ったの加蓮ちゃんじゃない。それに私もあなたがどのくらい成長してるか知りたいし」

加蓮「それは診断終わってからでも……。ていうかそっちのお仕事は?」

ナース「後輩が頑張ってるわよー。子供たちの相手って疲れるのよね」

加蓮「ふふ、そっか。まぁお姉さんて呼んでるけど正直もうおb」

ナース「加蓮ちゃん」

加蓮「ごめんなさい」


10: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:05:10 ID:tH9

ナース「はい、背筋ピンと伸ばして」

加蓮「はいはい。……これ目盛り付いてないけど?」

ナース「今の時代デジタルなのよ。……155cmね」

加蓮「ん、変わってないか。もう少しほしいんだけどな」

ナース「いいじゃない、可愛らしくて。それにユニットの中じゃ一番背が高いみたいだし」

加蓮「よく知ってるね?」

ナース「加蓮ちゃんどころか李衣菜ちゃんや泰葉ちゃんのプロフィールだって全部暗記してるわ」フンス

加蓮「ファンか」

ナース「ふふ、大ファンよ?」


11: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:06:12 ID:tH9

加蓮「なら身体測定いらないじゃん……ちゃちゃっと終わらせようよ」

ナース「そうもいかないでしょ、決まりなんだから。次は体重よ、これに乗って」

加蓮「ん。……あ」カシャン

ナース「…………」

加蓮「…………」

ナース「……確か、公称42キロだったよね? プロフィール更新しないのかしら?」

加蓮「……や、あの」

ナース「 し っ か り 食 べ な さ い 」

加蓮「ひっ!? た、食べてる、食べてるから! 増えないの体重っ、ほんとにっ!」


12: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:07:19 ID:tH9

ナース「よくそんな身体で歌って踊れてるわね……」

加蓮「た、体力はついてるんだってば……。友達のご飯、すっごく美味しくてさ。量はそんなにだけど、食べるのは楽しいんだ」

ナース「それならいいんだけど……。病院食はあんまり好きじゃなかったわね、そういえば」

加蓮「味薄かったし。それよりもバリエーション少なくて飽きたんだよね」

ナース「今結構色んなもの出してるわよ? お誕生日の子にはケーキも出したり」

加蓮「……ずっる。今の子はゆとりだね、ゆとり」

ナース「ふふっ。拗ねないの」


13: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:08:54 ID:tH9

加蓮「はぁ……ジェネレーションギャップ~。いいもの食べてるんだね、今は」

ナース「まぁね……心のケアも大事だから」

加蓮「……だろうね。なにかひとつでも楽しいことがないと……どんどん心が弱っていくんだ」

ナース「、…………」

加蓮「ニュースで見たよ、最近はこの病院でもレクレーションとかやってるんだよね。そういうの大事だよ……頑張って、お姉さんたちも」

ナース「……ええ。頑張るわ。精一杯、子供たちのために」ナデ


14: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:09:58 ID:tH9

加蓮「え、なに……あ、別に当て付けとかそういうのじゃないよっ? ごめんね、私のときがどうとか言うつもりは全然……!」

ナース「うん……分かってる。加蓮ちゃんは本当に優しい子ね……」

加蓮「や、優しくなんて。ただ……病気を抱えてる子の気持ちは痛いほど分かるから、だから……私は」

ナース「……次に行きましょう。次はレントゲン撮影だから、歩きながら……ね?」

加蓮「う、うん……」


15: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:11:01 ID:tH9

ナース「…………」スタスタ

加蓮「…………」トテトテ

ナース「……私ね。最近、子供たちによく言っていることがあるの」

加蓮「……うん」

ナース「夢を持って、って。私のよく知る子は、重い病気でずっとずっと入院していたけど……夢を叶えたんだよ、って」

加蓮「……!」

ナース「名前は出してないけどね。すごいね、ってみんな言うのよ。俺も、僕も、私も……夢、叶えたいって」

加蓮「…………」


16: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:12:44 ID:tH9

ナース「加蓮ちゃん。きっとあなたは、誰よりもそんな子たちに寄り添うことができるアイドルよ。……その証明は、あなたにしかできない」

加蓮「しょう、めい……」

ナース「あなたのしたいこと……やり遂げたいこと。私はもう……なんとなく分かってきたわ。答え、あるじゃない」

加蓮「……ほんとに、私にしかできないことかな。李衣菜や、泰葉にもできないことなのかな」

ナース「ええ。その2人のことも、私は応援しているけど……これは加蓮ちゃんにしかできないことよ。絶対に」

加蓮「…………そう、かな……」


加蓮(アタシにしかできない……か。そうしたら……李衣菜みたいに誰かの背中を押せるのかな。泰葉みたいに笑顔にできるのかな……)


17: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:14:18 ID:tH9

ナース「――さ、ここよ。女性スタッフしかいないから安心してね。あ、あと金属製のものは外して」

加蓮「ん。……じゃあこれ、ちょっとお姉さんが持ってて。宝物だから」チャリッ

ナース「え、いいの? お友達からプレゼントしてもらったネックレスでしょ……ラジオで言ってた」

加蓮「ふふ、ほんとファンだね。うん、そう。誕生日に李衣菜と泰葉にもらった……2人の色が入ってるんだ」

ナース「李衣菜ちゃんのサンセットスカイ、泰葉ちゃんのナイトブルー……3人の絆が伺える一品ねっ」キラキラ…!

加蓮「なに興奮してんの……。とにかく持ってて、レントゲン撮ってくるから」


18: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:15:54 ID:tH9

「はい、大きく息を吸って……止めてください」

加蓮「すー……、ん」

「では何枚か撮りますのでー、いきまーす」


加蓮(……2人はどう思うかな。アタシが同年代の子で初めて全部を話した2人)

加蓮(同情でもない、憐れみでもない……『話してくれてありがとう』って、笑顔だった。あんな優しい笑顔、一生忘れることなんてない)

加蓮(Pさんだって。なにも言わなかったけど、優しく優しく撫でてくれた。2人と同じ、とってもあったかい笑顔で)

加蓮(ちひろさんも……所長さんも。優しい人ばっかり。幸せに溺れてしまいそうなくらい)


加蓮(……ファンのみんなは、受け止めてくれるのかな。優しい人ばかり……なのかな?)


19: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:17:18 ID:tH9

加蓮「……ただいま。ありがと、待っててくれ、て……?」

ナース「……はっ。お、おかえりなさい加蓮ちゃん。返すわね」ゴソゴソ チャリッ

加蓮「なに勝手に着けてるのよ……。ふふふ、まぁいいけど。お姉さんだし」

ナース「か、加蓮ちゃんの気分を味わおうと思って……。次は採血よっ」

加蓮「ふふっ、はいはい。それで私になった気分はどうだった?」

ナース「そうね。ちょっと臆病な感じは伝わってきたわ」

加蓮「ぅぐ……。だいぶストレートで来たね」

ナース「その方が効くでしょう、加蓮ちゃんには」クスッ


20: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:18:53 ID:tH9

加蓮「オブラートに包んでほしいなぁ、ナースなんだし」トテトテ…

ナース「あらお上手。でもそうよ、臆病なのよ。加蓮ちゃん」スタスタ…

加蓮「……分かってる、んだけどね。でも、同情心で応援されたり……私はまだしも、李衣菜や泰葉にも迷惑かかるかもしれない。それだけはイヤ」

ナース「……でも、加蓮ちゃんを本気で応援したいって人は? あなたのことをどこまでも受け入れて、応援してくれる人たちはどうするの?」

加蓮「……それは……だって。そういうファンのみんなも……分からないでしょ。同情に……変わっちゃう、かも」


21: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:20:01 ID:tH9

ナース「だから、目を瞑って夢は夢のまま挑戦しないの? 一歩を踏み出そうとせず、立ち止まったままでいいの?」

加蓮「…………怖い、よ。私は……李衣菜や、泰葉じゃないもん……」

ナース「…………。ごめんなさい、きついこと言ってしまったわね」

加蓮「…………」

ナース「だからこの際、もっときついこと言うわ」

加蓮「え……」

ナース「――しっかりなさい。あなたは北条加蓮でしょう。李衣菜ちゃんも泰葉ちゃんも関係ない、あなた自身がどうしたいか。……それが答えでしょう」


22: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:22:07 ID:tH9

加蓮「……!!」

ナース「李衣菜ちゃんも泰葉ちゃんも……謂れのないことに負けるほど、弱くないでしょう? だって加蓮ちゃんのお友達なんだもの」

加蓮「……うん、っ。強いよ……すごく。真っ直ぐで、超前向き。いつでもお仕事に真剣だし、私以上に負けず嫌いでさ……」

ナース「ふふ。自慢のお友達なのね」

加蓮「うん……。本当に大好きで……尊敬してるんだ」

ナース「なら、大丈夫じゃない。ね?」

加蓮「……うんっ。そうだよ……だから私、今日ここに来たんだ。強くて素敵な友達と、一緒にアイドルするって決めたからっ」


23: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:23:51 ID:tH9

加蓮(泰葉は『いってらっしゃい』って、あったかい目で背中を押してくれた)

加蓮(李衣菜は……地獄耳だもん、聴こえてたんだろうな。なにも言わないけど、信じてくれてるはず)


「――では採血しますね。ゆっくり呼吸して、リラックスしてください」

加蓮「……、う……」

「すぐ終わりますから我慢して……」


加蓮(きっと、痛むのは最初だけ。少しの痛みだけで、またすぐに……血が通った、あたたかい関係をファンのみんなと築ける。絶対に)


「終わりましたよ。結果はまた後日となりますが……」

加蓮「はい、大丈夫です」


加蓮(そう、大丈夫。信じてる。アタシの……私の。私と、たくさんの人たちの今までを……!)


24: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:25:57 ID:tH9

ナース「――うーん、終わったわねー。心電図、診察もなにも問題なし……病気はどこへ行ったのかしらね」

加蓮「ふふ、さぁ? 神様がどこか持って行っちゃったんでしょ。ていうかほんとに最後まで付き合うとか……」

ナース「いいじゃない私と加蓮ちゃんの仲でしょ~」

加蓮「調子いいんだから……。話聞いてくれてありがとね。やっぱり頼って良かった」

ナース「ふふ、どういたしまして。その顔じゃ答えは出せたみたいね」

加蓮「うん。どんな結果になっても……逃げないよ、私自身のために。前を向いて、しっかり目を開けて……もう一歩、踏み出すから」


25: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:27:23 ID:tH9

ナース「ええ。ファンとして、あなたのお姉さんとして……見守らせてもらうわ」

加蓮「ふふっ、見ててね。きっと、もっと大きな夢……叶えてみせるから!」

ナース「あら、どんな夢?」

加蓮「それはまだ秘密~。あ、健康診断の結果っていつになるの? また後日、なんて言ってたけど」

ナース「ああ、そうね……1週間、もしかしたら2週間はかかるかも。郵送もできるけどどうする?」

加蓮「2週間か……それなら分かった、取りに来るね。サプライズ持ってさ!」


26: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:28:32 ID:tH9

ナース「サプライズ? なぁに、教えてくれないの?」

加蓮「教えたらサプライズにならないでしょっ。ほらお仕事戻った戻った! じゃあね、また今度っ!」

ナース「ああっ、もっとお喋りしたかったのに――!」


―――外


加蓮「暑っ。残暑……さいてー。太陽のバカ」

加蓮「……もしもし、Pさん? うん、今終わった。……あ、迎えとかいらないよっ。そのままレッスン行くから」

加蓮「うん、うん……。分かった、2人にも伝えとくね。……それと、お願いがあるんだ」


27: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:29:27 ID:tH9

加蓮「あのお仕事……まだ大丈夫かな。うん、私……やるよ。……やりたいんだ」

加蓮「ほんとっ? うん、ありがとう! ……大丈夫、信じて」


加蓮「――あなたが育てたアイドルだよ!」


28: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:30:04 ID:tH9



―――レッスンルーム


どたどたどた……

がちゃっ!


加蓮「はぁっ、はぁっ……!! お、遅れましたぁっ!」


ベテトレ「――遅いぞ北条ッ! いくらなんでも遅刻すぎる!」

加蓮「は、はいっ! すみませんでした、連絡すれば良かったですよねはいっ!」


29: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:31:19 ID:tH9

ベテトレ「ふう……まったく。心配させるな……なにかあったのかと思ったぞ。私の大切な教え子なんだからな」

加蓮「あ……えへへ。ありがとうございますっ」

ベテトレ「あまりに遅いので多田と岡崎には明日以降のメニューもこなしてもらったがな」

加蓮「えっ」


李衣菜「」シーン…
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泰葉「」グッタリ
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加蓮「わああああああごめーーーーん!!??」


30: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:32:21 ID:tH9

李衣菜「あ……、あ。かれ、ん……よか、た」

泰葉「ぶじに……もどっ……て……」

加蓮「大丈夫2人ともっ!? 誰がこんなひどいことを」

ベテトレ「私だが。北条もやるか? っと、健康診断はどうだったんだ」

加蓮「ひえぁ、あ、はいっ。だ、大丈夫だと思いますっ。まだ結果出てないですけど」

ベテトレ「そうか、まぁ北条なら心配いらないか。よし、早速着替えて来なさい。レッスンを始めよう」

加蓮「あ、あの……これは」

李衣菜「」

泰葉「」

ベテトレ「まぁ放っておけ。……少しやりすぎたか」


31: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:33:33 ID:tH9

李衣菜「が、頑張れ加蓮……今日は特に……地獄……」

泰葉「あなただけは……生き、て……」

加蓮「怖いこと言わないでよ!? はぁ、もう……あとで話あるからさ、レッスン終わるまでに生き返ってよ?」

泰葉「話……?」

李衣菜「なんの……」

加蓮「いいから寝ててっ。私も頑張ってくるねっ」


加蓮(驚くかな。それとも……また、あの優しい笑顔で言ってくれるかな。今度は……『一緒に頑張ろう』って!)


―――

――



32: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:35:10 ID:tH9



―――2週間後、病院


泰葉「――めでたし、めでたし。ふう……みんな、どうだった? 昔話面白かったかな?」

「おもしろかったー!」

「やすはちゃん、やすはちゃん! つぎはこのごほんよんでー!」

泰葉「ふふ、はーい。順番にね、一緒に楽しもうね……♪」


李衣菜「~~♪ ~~~♪」

李衣菜「――さあ、次はどの歌がいいかなー? なんでもいいよ、かわいい曲、かっこいい曲っ!」

「はいはいはいはいっ! 仮面ライダーの歌っ!」

「ええ~、ぷいきゅあがいいよぉー」

「なんだよー、さっきも歌っただろー!」

「さっきのはまえのぷいきゅあだもん~!」

李衣菜「喧嘩しないで~、今日は私もいっぱい練習してきたから! 仮面ライダーもプリキュアも歌えるよっ」


33: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:37:32 ID:tH9

泰葉「むかしむかし、あるところに――♪」

李衣菜「へへ、みんなも一緒に歌おうね――♪」


きゃいきゃい

わいわい……!


加蓮「……ふふっ。みんな楽しそう♪」


加蓮(小児科慰問。この病院でレクレーションをやってることを知ったのは、ニュースじゃなくて……そんなお仕事があると聞いたから)

加蓮(こっそりPさん……プロデューサーに打診されてたけど、受けるかどうか決めかねてたんだ)


34: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:38:44 ID:tH9

「――かれんちゃ……かれんちゃん。いっしょにあそぼ……?」

加蓮「あ、うん。なにして遊ぼっか? 今日はなんでもやりたいことやっちゃおう♪」

「うん……! あのね、あのね――♪」


加蓮(プロデューサーは待っててくれたのかもしれない。私を信じて、このお仕事を保留にしといてくれた)

加蓮(電話したときだって、まるで分かってたみたいに話を進めてくれたし。私たちの魔法使いはなんでもお見通しみたい)

加蓮(李衣菜も泰葉も、それはもう諸手を挙げて喜んでくれた。……胴上げするような勢いだったのはちょっとウザかったけど)


35: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:39:54 ID:tH9

「あたし、ねっ。あいどるになりたいの。かれんちゃんみたいなっ」

加蓮「本当? ふふ、嬉しいなー。じゃあ大きくなったら一緒にステージで歌おう♪ 約束ね?」

「うんっ、やくそくっ!」

加蓮「~~~っ! やーんもー、かわいい~!」ムギュー

「きゃーっ♪」

ナース「か、加蓮ちゃん? あんまりはしゃいじゃダメよ」

加蓮「あは、分かってるよお姉さん♪」

「わかってるよー♪」

ナース「ああハラハラしちゃう……!」


加蓮(あぁ、やっぱり……本当に嬉しい。アイドルとしてここに戻って来られたのが……嬉しいんだ、私!)


36: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:41:54 ID:tH9

「ねー、かれんちゃん」

加蓮「んー? なぁに?」

「かれんちゃんはー、どうしてあいどるになろうっておもったのー?」

加蓮「……! それは、ね……」

「うん、それはー?」


加蓮(……ここが、私の……きっと、夢の先の一歩だ)

加蓮(踏み出したらもう、戻れない。でも……戻れないからなんだっていうの)


加蓮「…………」チラ


P「!」

P「…………」コクン


加蓮「……うんっ。それはね――」



加蓮(私は……しっかり目を開けて、もう一歩、踏み出すんだ――!)



―――

――



37: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:42:47 ID:tH9



―――後日、事務所


ちひろ「はーい、この前の慰問のお仕事で出会った子供たちからお手紙が届きましたよー♪」


泰葉「――あ、すごい……♪ 見て、私を囲んでみんなで絵本読んでる絵だよ……ふふふっ、かわいい」

李衣菜「おおー。私のもすごいよ、仮面ライダーとプリキュアと一緒に……ん? この構図だと私が敵……?」

泰葉「あ、本当。ロック怪人ね♪」

李衣菜「あはは♪ みんな上手だなー」


38: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:43:54 ID:tH9

加蓮「…………。ふふ、私と……あの子かな。手を繋いで……一緒に歌ってる」

加蓮「……あ、お手紙も」ピラッ…


『かれんちゃんへ』

『このまえは、いっしょにあそんでくれて、ありがとうございます』

『とってもたのしかったです。またいっしょにあそんでください』

『かれんちゃんに、ゆうきをもらいました。わたしも、かれんちゃんみたいに、びょうきにまけないで、ゆめをかなえたいです』

『わたしのゆめは、かれんちゃんといしょに、うたって、おどることです。いっしょうけんめい、びょうきとたたかいます』

『かれんちゃんは、くるしいことがあったら、あきらめそうになったら、わたしをおもいだして。そういってくれました』

『おうえんしてくれるかれんちゃんのことをおもいだして、がんばります。わたしもかれんちゃんをおうえんしています』


『ありがとう、かれんちゃん。だいすきだよ』


39: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:45:39 ID:tH9

加蓮「…………」


泰葉「みんなすごくいっぱい書いてくれてるね、お手紙。頑張らなくちゃ♪」

李衣菜「だね。泰葉もあれから朗読劇のお仕事来たんでしょ? へへ、絵本読む練習になるんじゃない?」

泰葉「ふふ、李衣菜こそ。主題歌のお仕事来たって聞いたよ、失敗しないようにね」

李衣菜「任せてよっ。そしたら今度はその歌をあの子たちに聞かせてあげるんだー♪」


加蓮「……、っ……」フル…


加蓮(あ……。……いい、よね。頑張った、もん。私……こんな日が来る、こと……ずっと……)


加蓮(泣いちゃっても……、いいよね……)


40: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:47:48 ID:tH9

李衣菜「ねえ、加蓮はどんなお手紙もらったの――加蓮?」

泰葉「? どうしたの加蓮」


加蓮「……ぅ……。……、ふぐ……ぅ、ううぅ……あ゛ぅ、う゛うぅう――!!」ポロッ…

「「え――」」



加蓮(もう、強がる必要なんてなかった。助けを求めたわけでも、不安も、孤独も、そんな寂しい感情は……どこにもない)

加蓮(だから私は、こんな身に余るほどの幸せの中で……、赤ん坊みたいに――)



おわり


41: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:48:45 ID:tH9

というお話だったのさ
誕生日おめでとうございます、加蓮ちゃん


42: ◆5F5enKB7wjS6 2017/09/05(火)02:49:57 ID:tH9

モバP「だりやすかれんと夏終わり」

ひとつ前のお話
今回のお話はこのSSの続きのような、そんな感じ


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コメント

コメント一覧

    • 1 名無し春香さん
    • 2017年10月18日 06:31
    • おかしいな
      急に薄荷の歌詞が頭に浮かんで目から汗が
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