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トップページモバマス > 池袋晶葉の星

1: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:42:30 ID:gkE

池袋晶葉のスターライト、よだかの星、あるいは星の煌めき


2: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:43:39 ID:gkE

池袋晶葉は、周囲に溶け込まない人間です。

目は、開き切らず睨め付けるようで、体は、身長が平均より少し低くて体形も平凡です

運動も、決して得意ではなく、走りだしてもすぐに疲れてしまいます。

ほかの人は、もう、晶葉の顔を見ただけでも、いやになってしまうという具合でした。

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3: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:45:43 ID:gkE


たとえば同じクラスの吹奏楽部員も、特別人気者ではありませんが、晶葉よりはずっと上だと思っていましたので、学校で晶葉にあうと、さもさもいやそうに目を背けるのでした。もっと社交的で人気のある子などは、いつでも晶葉のまっこうから悪口をしました。

「また出てきたね。まあ、あの油で汚れた制服をごらん。ほんとうに、池袋の名のつらよごしだよ。」

「ね、また池袋博士だなんて言ってさ。きっと、将来は爆弾でも作る気なんだよ。」

こんな調子です。おお、晶葉でない本物の天才科学者ならば、こんな日和見の大衆的な少女は、もう名前を聞いただけでも、わくわくと目を輝かせ、サインでもねだったでしょう。

ところが晶葉は、ほんとうは天才科学者ではありませんでした。


4: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:46:06 ID:gkE


晶葉は、他の大勢と同じように中学生になったばかりの少女でした。

多くの女子はスマートフォンなどで動画を見て男性アイドルに夢中になり、晶葉はロボットに惚れこみ作るのでした。

それに晶葉には上級生の友人も教師の寵愛もありませんでしたから、どんなにスクールカーストの低い同級生でも、晶葉をこわがる筈はなかったのです。

それから、晶葉が池袋博士と呼ばれるのは不思議なようですが、これは確かにロボットを作る技能は人並み以上にあって、将来はロボット工学の道を目指していたこと。

それと、も一つは眼鏡をかけていて、やはりどこかテレビアニメに出るような博士に似ていた為です。

もちろん、担任の教師はこれをひじょうに気にかけて、いやがっていました。

それですから、晶葉の顔さえ見ると肩をいからせて、早く振る舞いをあらためろ、ロボット作りをやめろというのでした。


5: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:49:45 ID:gkE


ある放課後、とうとう、担任の教師が晶葉のもとへやって参りました。

「おい、まだお前はロボット作りをやめないのか。

ずいぶんお前も恥知らずだな。

お前と本物の天才とでは、よっぽど才能がちがうんだよ。

たとえばテレビで見た17歳の天才科学者は、アメリカの大学で飛び級して、英語の論文をいくつも書いている。

おまえは、休日にうすぐらい部屋でひとりロボットを作り、外に出て来ない。

それから、まわりを見ろ。誰もおまえの作ったロボットを好まない。」


「先生、それはあまりに無理です。

私はただロボットが好きで、ロボットを作っていたいだけなのです。」


6: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:50:43 ID:gkE


「いいや。男子なら、ロボットが好きだといって理系の道に進んでもよかろうが、お前は、女子で、才能もないんだ。さあロボット作りをやめろ。」

「先生、それは無理です。」

「無理じゃない。おれがいい将来の夢でも教えてやろう。

将来の夢はお嫁さんにでもするんだ。お嫁さんとな。かわいい夢だろう。

そこで、友達に認められるには、夢の発表というものをしないといけない。

いいか。それはな、首へ将来の夢はお嫁さんだと書いたふだをぶらさげて、私は花嫁修業に励みますと、口上を云って、みんなの所をおじぎしてまわるのだ。」

「そんなことはとても出来ません。」

「いいや。出来る。そうしろ。

もしあさっての朝までに、お前がそうしなかったら、もうすぐ、学校から追い出すぞ。

追い出してしまうから、そう思え。

おれはあさっての朝会で、クラスメイト全員にお前が来たか聞く。

一人でも来なかったという者があったら、もう貴様もその時がおしまいだぞ。」

「だってそれはあんまり無理じゃありませんか。

そんなことをする位なら、私はもう死んだ方がましです。今すぐ追い出してください。」

「まあ、よく、あとで考えてごらん。お嫁さんとはいい夢じゃないか。」

先生は教材を抱えて、職員室へ帰って行きました。


7: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:51:36 ID:gkE


晶葉は、じっと目をつぶって考えました。

(いったいロボットは、なぜこうみんなに嫌がられるのだろう。

私の眉は定規で引いたようで、目は半分閉じているようだからなあ。そ

れだって、私は今まで、そう悪いことをしたことがない。

下級生が校舎で迷っていたときは、助けて教室へ連れて行ってやった。

そしたら先生は、その子をまるで誘拐犯からでも取り返すように私からひきはなしたんだなあ。

それからひどく私を笑ったっけ。

それにああ、今度はお嫁さんだなんて、首へふだを描けるなんて、つらいはなしだなあ。)

あたりは、もう薄暗くなっていました。

晶葉は家から飛び出しました。

雲が意地悪く光って、低く垂れています。

晶葉はまるで背景の一部となって、電機街を歩き回りました。


8: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:52:01 ID:gkE


それからにわかに晶葉は店の入り口をくぐり、かごを片手に持ち、まるで蛇のように棚の間を滑り抜けました。

小さな電子部品が幾つも幾つもそのかごに入っていました。

かごの底が埋まるか埋まらないうちに、晶葉はレジに向かい支払いを済ませました。

もう雲は鼠色になり、向こうのビルには広告を照らす明かりが輝いています。

晶葉が電機街を歩くときは、人混みがまるで二つに切れたように思われます。

一匹の羽虫が、晶葉の腕にとまり、這いまわりました。

晶葉はすぐそれを手で払いましたが、その時何だかせなかがぞっとしたように思いました。

雲はもうまっくろく、東の方だけ夕焼けの日が赤く映って、恐ろしいようです。

晶葉はむねがつかえたように思いながら、また別の店へ向かいました。


9: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:54:16 ID:gkE


また一匹の蝿が、晶葉の服に張り付きました。

そしてまるで晶葉の袖口にすがりついてばたばたしました。

晶葉はそれを無理に払いのけてしまいましたが、その時、急に胸がどきっとして、晶葉はさめざめと泣きだしました。泣きながらとことことことこ家路をたどったのです。


(ああ、蝿や、たくさんの羽虫が、毎日私に払いのけられる。

そしてそのただ一つの私が、こんどは学校から追い出される。

それがこんなにつらいのだ。

ああ、つらい、つらい。私はもうロボットを作らず心を無くそう。

いや、その前に学校が、クラスメイトが私の心を壊すだろう。

いや、その前に、私は遠くの遠くの世界の向うに行ってしまおう。)


夕焼けの日は、だんだん水のように流れてひろがり、雲も赤く燃えているようです。

晶葉はまっすぐに、実験器具を扱う店へ向かいました。店員も、閉店時間が近づき、レジ周りの整理を始めたところでした。

そこで晶葉は必要なものを揃え、自分の家へ帰って参りました。長い夏の日もすっかり暮れていました。


10: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:55:48 ID:gkE



次の日の朝。晶葉はひとつ伸びをし、顔を洗いました。


そして鞄の中を整理して、きれいに髪形をツインテールに整え、白衣を羽織り家から飛び出しました。


11: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:56:55 ID:gkE


池袋晶葉は鳥ではない。だから、高く飛び立つことはできない。


12: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)00:58:49 ID:gkE


「私はただの人間だ。

空に輝く太陽に、語りかけても返事はない。星を呼んでも救いはない。

才能に満ちた肉体を、どれだけ欲しいと願おうとも。

与えられないなら、作り出す。偽物の星でも無からでも。

羽が無ければ燃料も無い。風にも乗れず地を這うだけ。

白衣を纏い歩き出す。 ピエロであろうと構わない。

嘆きのあまり目を覆い、機会を見逃してはならない。

恒星の輝きはなくたって、人工の星は空を駆ける!

私は、今から、天才ロボ少女池袋晶葉だ!」


それから晶葉は制服の上に白衣を着るようになり、ツインテールに大きな髪飾りを着け、下縁眼鏡をかけるようになりました。

そうです。これが晶葉の始まりでした。

もう晶葉は本物の天才なのか、演じているだけなのか、本人が信じているのかも、他のひとにはわかりませんでした。

ただこころもちはやすらかに、その年よりも幼く見える顔は、少し汚れてはいましたが、たしかに少しわらって見えました。


13: ◆ovkeuV2NPI 2018/12/26(水)01:05:42 ID:gkE


彼女がもっと強く煌めきだすには、もう少しの時間と出会いが必要でした。


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コメント

コメント一覧

    • 1 名無し春香さん
    • 2018年12月27日 23:26
    • ごめん巨人の星のパロディーか何かかと思ってた
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