1: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 21:56:52.07 ID:CtU3Od4o0
――事務所
「それでね…… ……たんだけど、プロデューサーさんが……ってくれて……はいっ、がんばりました!」
「ふーん……いや、私は……渡せたけど……そ、そんなんじゃないってば。 ……は、どうだった?」
「もちろん私も……けどさ、こっちからの……よねぇ。だから、いつもの調子で抱きついて……」
速水奏「……」
奏(事務所の空気が甘い……)
奏(そうよね、バレンタインだもの)
奏(もちろん、気持ちは分からなくないのだけど)
奏「ふぅ。……どうしようかな」
コンコンコン
奏「……」
奏(反応なし。まだ外回りね)
ガチャ パタン
奏(少し待たせてもらいましょう)
奏(待つといっても、その間に決めなくちゃいけないんだけども……)
奏「……あら」
奏(机の上、何個か可愛い包みがある。担当の子たちね)
奏(さて……)
奏(……私は、どうすればいいのかな)
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2: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 21:58:06.04 ID:CtU3Od4o0
奏(Pさん、まだ帰ってこなそうだし、ちょっとコーヒーでも買ってこようかしら)
――休憩所
奏(誰か知った顔でもいるといいのだけど)
城ヶ崎美嘉「……ね……ちょっと」
美嘉P「お、おい……」
奏(? あれは……)
美嘉「……誰もいない、よね」キョロキョロ
美嘉「プ、プロデューサー」
美嘉P「うん」
美嘉「その、ほら……アタシから」ガサ
美嘉P「ああ、くれるのか? ありがとう」
美嘉「ご、ご期待通りにナンバーワンのチョコレート」
美嘉「っとストップ! ま、まま、まだ焦らない♪」
美嘉P「え、お、おう」
美嘉「…………む……」プルプル
奏(……チョコにキスしようとして震えてる……)
美嘉「んっ」
奏(あっ、やった)
美嘉「はいっ、これでナンバーワンかつオンリーワンっ、ま、まるごと……」
美嘉「ぜんぶ……受けとっ……」プシュゥ
奏(後半ほとんど聞こえなかったわ。……でも)
美嘉P「あ、ありがとうな。嬉しいよ」
奏(……ふぅん)
3: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 21:59:26.68 ID:CtU3Od4o0
奏(なかなかいいもの見せてもらったけど、コーヒー買いそびれちゃった)
奏(仕方ない。下の喫茶店でテイクアウトにしましょう)
――事務室
奏(さて、と。Pさんが帰るまでに、考えておかないとね……)
ガチャ
モバP(以下P)「お。お疲れ」
奏「……お疲れさま」
奏(不意打ち……)
奏「えっと、レッスン前に、ちょっと寄っただけなんだけど」
P「そうか……ん、コーヒーか?」
奏「えっ。ええ、下の喫茶店で」
P「なんだ、いま淹れようと思っていたところだ。タイミング悪かったな」
奏「そう?」
P「多めに淹れれば、奏も飲めたし」
奏「そうね。ええ、本当に。タイミング悪いったら」
パタン
4: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:00:01.02 ID:CtU3Od4o0
奏「戻ってきてすぐコーヒー飲みたくなったの?」
P「暖冬とはいえまだ冷えてなぁ」
奏「まぁ、そうね」
P「奏も同じ理由じゃないのか」
奏「私は……手持無沙汰だっただけ。紅茶でも緑茶でも良かったのだけど」
P「じゃあ、下まで行かずに休憩所の自販機で良かったんじゃ」
奏「それがね……」
P「……ん?」
奏「いえ、あそこに顔を出すには、ちょっと野暮すぎて」
P「なんのことだ」
奏「気にしないで。ああ、でもコーヒーなのはちょうどいいんじゃない」
P「ちょうど?」
奏「今日がそういう日だから。机の上のものと、相性いいでしょう」
P「ん、ああ。担当の子たちからだな」
奏「貰ったのを置いておいたんじゃないの?」
P「朝は無かったから、外出中に置いておいてくれたんだな」
奏「そう。……結構数あるんじゃない?」
P「結構ってわけじゃ……まぁ、ありがたいけど」
5: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:01:19.66 ID:CtU3Od4o0
ガサ ガサ
P「えーと、これがあの子で……」
P「なんだこれ、生八ツ橋? ……周子のか」
奏「チョコ味でもなく、普通の?」
P「普通の」
奏「彼女なりの配慮かもね。チョコばっかりで飽きるでしょって」
P「そうかぁ? 実家から持ち出してきただけじゃないかな」
奏「ふふっ、ありえるわ」
P「はは。しかし、わざわざ事務所寄ってくれたんだな」
奏「わざわざ?」
P「周子、今日現地入りだろ。そのままゲネだし」
奏「ああ。ライブだったわね」
P「そのまま実家にも少し帰省するって」
奏「へぇ……」
ピィー
P「お、お湯沸いたな。ちょっと淹れてくる」
奏「ええ」
6: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:01:52.04 ID:CtU3Od4o0
カチャ
P「ふぅ。インスタントは楽でいい」
奏「ねぇ」
P「んー?」
奏「やっぱり、貰えると嬉しいもの?」
P「チョコレート?」
奏「うん」
P「そりゃあね」
奏「そうよね。……海外では、チョコレートは贈らないそうね」
P「日本のお菓子企業の宣伝だからなぁ。とはいえ、こっちもそれに乗っているところもあるし」
奏「こっちも?」
P「去年、奏にも仕事させただろ」
奏「ああ……あれね。可愛い衣装着られて楽しかったわ」
P「形はどうあれ、義理なり感謝なり、こうやって形にして贈りやすい日っていうなら、悪いことでもないんじゃないかと思うよ」
奏「……そうね」
P「まぁ……」
P「……いや、なんでもない」
奏「……そう」
7: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:02:19.29 ID:CtU3Od4o0
奏「そろそろレッスンね。それじゃあ、失礼するわ」
P「ああ」
P「……なんか用があったわけじゃないんだな」
奏「言ったでしょう。ちょっと寄っただけ」
P「そうだったな」
奏「あら……」
P「……なんだ?」
奏「意外と、がっかりしているのかしら」
P「うん?」
奏「そんな表情に見えたから。私からは貰えるだろう、なんて思っていた?」
P「あー…… ……どうかな」
奏「期待に沿えなくてごめんなさいね。ちょっと……うっかりしていただけなの」
P「なに、忘れていたとか?」
奏「そうね」
奏「そんなとこ」
パタン
P「……」
8: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:03:23.90 ID:CtU3Od4o0
――レッスン場
ベテトレ「今日は以上」
奏志希フレ美嘉「「「「お疲れさまでしたー」」」」
一ノ瀬志希「うにゃぁ~。そんじゃ、さっさと帰ろか~」ノビー
宮本フレデリカ「どっかでおゆはんたべてこー」
美嘉「いいね。アタシも行こ★」
フレ「奏ちゃんは?」
奏「そうね、行くわ」
美嘉「よーし、それじゃあ荷物取ってこよ」
奏「あ……」
フレ「ん?」
奏「荷物、うちのプロデューサーさんの部屋だったなって」
美嘉「別に待つけど?」
奏「……ええ、ありがたいけど……」
美嘉「うん?」
9: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:04:01.18 ID:CtU3Od4o0
奏「……ちょっと、顔を合わせづらくて」
フレ「どしたの? まさか、チワワゲンカ!?」
美嘉「なにその可愛いの」
奏「さすがにそんなんじゃないけど、ちょっとね。大丈夫、さっととってくるから」
志希「顔合わせづらいって、珍しいね~」
奏「……」
美嘉「あー、ほら、奏のとこ仲いいじゃん。言いたくないならいいケド」
奏「別に……ちょっと、チョコを渡していないってだけ」
美嘉「えっ。えーっ、マジで?」
志希「んー? 用意し忘れちゃったとか?」
フレ「わかった、食べちゃった!」
美嘉「そんな人……いや、いるかもしれないけど」
奏「……まぁ、まず着替えましょう」
10: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:04:29.05 ID:CtU3Od4o0
――更衣室
奏「情けない話なんだけど、忘れていたのよ」
フレ「えっ、バレンタインを?」
美嘉「まさか、チョコ買ってきてないの?」
奏「ううん。チョコはバッグの中」
志希「じゃあ、なにを忘れたって?」
奏「……去年とは違うってこと」
美嘉「去年?」
奏「一度として同じ夜明けなんかない。単純なことなのにね」
美嘉「はぁ」
志希「奏ちゃんの話って、あたしでも時々よくわかんないときあるよね~」
フレ「去年は渡していたの?」
奏「ええ」
フレ「じゃあ違ったのは、奏ちゃんの方なんだね」
美嘉「わかるんだ……」
11: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:05:02.53 ID:CtU3Od4o0
志希「なるほど。去年は渡せていたなら、そこから何らかの変化があったってことね」
美嘉「あげたくなくなるほど嫌いになった……なんてことはないよね、はは」
志希「そりゃないっしょ~」
フレ「ないないナイジェリアだよ」
美嘉「だよね、あんだけ迫ってて」
奏「……そんなに分かりやすかったかしら」
美嘉「わかりやすいっていうか……え、あれで本気じゃなかったの?」
奏「本気じゃないってわけじゃ…… ……ううん、やっぱり本気じゃなかったのかな」
志希「で、本気になると逆に渡せないってことのはどーゆーことなの?」
フレ「本命過ぎて渡せない!」
奏「そこまで純情だと思う?」
志希フレ「「思うー」」
奏「ぐ……」
美嘉「あ、アタシはわかるよ!」
志希「そりゃ美嘉ちゃんもそっち側だもん」
美嘉「側ってなに!?」
12: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:08:23.13 ID:CtU3Od4o0
奏「そんな風に揶揄されるのはあまり好きじゃないけど…… まぁ、あなたたちだからいいわ」
奏「……最初にあったのは、戸惑い。自分の気持ちの変化を織り込んでなかったから」
奏「それで、朝からどうしようか悩んでいたのだけれど」
美嘉「渡すタイミングが無かった?」
奏「ううん。レッスン前にタイミングはあったと思う」
志希「その時渡せなかったって言うことは、まだほかに理由があるってことだね」
奏「……そう」
奏「人生はチョコの箱。開けるまで中身は分からない」
志希「なにそれ?」
奏「……なんてことを、去年言ったのよ」
奏「困ったことに、開けても分からないことだらけだわ」
奏「面と向かって渡そうと思っていたのに……なんて言っていいのか分からなかった」
13: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:08:56.88 ID:CtU3Od4o0
奏「会話を繋いでいるうちにね、言いかけたのよ、あの人」
フレ「なんて?」
奏「義理なり感謝なりは嬉しいって。そのあと『まぁ……』って言いかけて、言葉を濁したわ」
美嘉「う、うん……? フレちゃん」
フレ「あたしにもイマイチイマニ? 志希ちゃん」
志希「あたしそーゆーのむりー。はい、奏ちゃん」
奏「義理じゃなければ?」
美嘉「……本命」
奏「なら、何てつながると思う?」
美嘉「……」
奏「迷惑だって言いかけたんじゃないかしら」
美嘉「そ、そんなこと」
志希「あるかもね~」
美嘉「ちょっ、志希っ!」
14: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:09:45.50 ID:CtU3Od4o0
志希「いや、実際そうでしょ? 担当しているアイドルからの本命チョコなんて、フツー手に余るって」
美嘉「そう、かもしれないけど……」
フレ「奏ちゃんの伝えたいことは、義理でも感謝でもなく、ラブなんだね」
美嘉「……プロデューサーさんは義理で渡されたくて、奏は義理では渡したくない……か」
志希「そんで、どうするの?」
奏「……」
志希「結局奏ちゃんは渡すか渡さないかの二択なのは変わってないわけだし、どっちのメリットもデメリットも分析できてるよね」
志希「なら、どっちを選ぶ?」
奏「向こうの言い分なんて無視して渡せるなら、そうしたかった」
奏「自分の伝えたいことすらわからないんだもの」
奏「こんな気持ちじゃ、あげられない」
美嘉「でもそれじゃぁ…… きっと、後悔するよ……?」
奏「……」
15: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:10:38.67 ID:CtU3Od4o0
奏「……そうかもね」
フレ「そっかー。ね、どうしたらいいと思う、周子ちゃん」
塩見周子『そーねー』
美嘉奏「は」「え」
周子『や』<スマホ
奏志希美嘉「「「……」」」
奏美嘉「「いつから繋いでたーー!?」」
周子『えーと、忘れていてあげたのよ自分の気持ちは?』
奏「無理矢理! 最初っからじゃない!」
周子『そーだよー』
奏「どういう気の回し方よ、フレデリカ」
フレ「えー? でもこれが一番手っ取り早いかもって」
志希「あたし達の中でこの手の話いけそうなのは、周子ちゃんくらいだもんね~」
美嘉「えっ、あ、アタシ一応恋愛相談やってるけど……」
奏志希フレ「「「……」」」
志希「ま、手っ取り早いからって本当に通話繋ぐあたり、フレちゃんだよね~。そゆとこ好き」
フレ「えへへー、告白されちゃった~」テレテレ
美嘉「完全にスルーされた!?」
16: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:11:52.36 ID:CtU3Od4o0
周子『まぁ、あたしも今から話全部聞き直す時間はなかったし、結果はオーライよ』
奏「ライブ前日に面倒な話持ち込んだわね……」
周子『気にしなさんなー』
奏「とは言ったけど……なにか解決策とかでる?」
周子『まぁ、そうだねぇ……解決策としちゃあんまし自信ないけどさー、気づいたことはあるよ』
奏「……なに?」
周子『逆に考えてみよっか』
奏「逆……」
周子『何で迷惑という言葉を濁したか』
奏「……」
周子『アイドルからの本命チョコ、プロデューサーとしては迷惑っていうのは本心かもしれない』
周子『でも奏ちゃんからのチョコが迷惑なら、その場で言っちゃっても問題なかったんじゃないかなー』
奏「……」
美嘉「あ、そっか」
周子『Pさんも、迷ったんじゃない? 迷惑って言っちゃうと、奏ちゃんから本当にチョコ貰えなくなっちゃうかもって』
17: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:12:39.57 ID:CtU3Od4o0
美嘉「じゃあ、プロデューサーさんにとって、他のアイドルのチョコと、奏のチョコは違う?」
奏「……」
周子『スルドいようでニブいんだよね。あのPさんも、奏ちゃんも』
志希「似たもの同士ってことか~」
奏「……ふん」
美嘉「あ、へそ曲げた」
フレ「えっ、おへそ曲がっちゃうの? 見せて見せて~」グイグイ
奏「ええい、やめなさいって」
周子『そんなわけだからさ、もうちょっと気楽に渡しちゃいなよ~』
奏「……」
周子『んー? ああ、はいはい、いまいくよー。じゃ、あたしはこれで』
奏「あの、周子……」
周子『ん?』
奏「……ありがとう」
周子『いいよいいよ。お礼はあとでじっくり、顛末を聞かせてもらうから』
奏「むぅ……」
18: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:13:16.32 ID:CtU3Od4o0
ピ
フレ「というわけで、緊急ゲスト周子ちゃんのお話でした~」
志希「わー」パチパチ
奏「まったく……」
美嘉「でもこれで、迷惑じゃないって可能性でてきたじゃん!」
奏「……そうかもね。だけど……」
志希「え~、まだ乗り気じゃないの?」
奏「……」
美嘉「理由は分かんないけどさ……やっぱり渡しなよ、チョコ」
美嘉「その、せっかく買ったんだし。机に置いとくとか」
奏「それはいや。負けたみたいで悔しいじゃない」
志希「めんどくさー」
美嘉「ごめん、アタシも正直ちょっと思った」
奏「分かってるってば……」
フレ「奏ちゃんらしいけどねー」
志希「じゃ、あとはなにが理由なのさ」
奏「……」
奏「だって……」
奏「……恥ずかしい」
19: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:13:55.35 ID:CtU3Od4o0
美嘉「……」
志希「……」
フレ「……」
美嘉志希フレ「「「はぁーっ」」」
奏「な、なによ」
フレ「やっぱり純情だった!」
美嘉「うん、まぁ、気持ちはわかるけどさ」
志希「ここまで乙女だと興味通りこすね」
奏「うぅ……」
美嘉「奏。わかるけど、それじゃダメ」
奏「美嘉……」
美嘉「恥ずかしいから、だよ」
美嘉「アタシだってそうだった。マジ恥ずかしさで頭ぐるぐるした。でも、だから、価値があるんだよ」
美嘉「緊張して、恥ずかしくて、でもそれでも伝えたいことでしょ。誰が代わりをやっても伝わらない。これは、他の誰にもできないんだよ」
奏「……」
志希「さすが恋愛相談やっているだけあるねぇ」
フレ「あるあるアルジェリア~」
美嘉「茶化さないでよー!」
20: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:14:33.58 ID:CtU3Od4o0
美嘉「……あっ」
フレ「ん?」
美嘉「あの、えーとさ……」
美嘉「……うぅ…… ……アタシもチョコ渡したんだけど、プロデューサー、迷惑だったのかな……なんて……」
奏「それは大丈夫よ」
美嘉「……なんで?」
奏「だって、本当にうれしそうだったもの。美嘉のプロデューサーさん」
美嘉「へ?」
奏「いざとなったら、美嘉の手段でも使わせてもらおうかしら」
奏「これでナンバーワンかつオンリーワン」チュッ
美嘉「えっ……み、みみっ、見てたのーーっ!? か、かなっ、かなぁ!」
奏「ふふ、季節外れのセミね」
美嘉「……もー」
奏「うふふっ」
奏「……うん。ありがとう。覚悟決めるわ」
美嘉「うんっ。気合い入れてこ★」
21: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:15:16.41 ID:CtU3Od4o0
志希「あ。気合い入れるんならこれあげる~」
ポン
奏「……チョコ?」
フレ「あれ? それって」
志希「そだよ、あたし達のプロデューサーにあげたのと一緒のヤツ」
美嘉「ふたりであげたの?」
フレ「うん。別々に用意したけどね」
奏「特製、とかじゃないでしょうね」
志希「違うよ、ちゃんと市販品。単純にコレが好きだからあたし用に買っといたんだ」
奏「……そう」カリ
フレ「あ」
奏「ぐ!?」
志希「にゃはは。甘い香りに騙されるでしょ」
奏「……にっがい……香りはチョコで甘いのに……」
志希「カカオ99%チョコ~。チョコレートは香りのデパートだよ~。リナロール、フラネオール、ジエナールに、ピラジン類やチアゾール類、ベンズアルデヒド。純粋に味わうにはうってつけだよね」
奏「……そう」
22: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:17:42.43 ID:CtU3Od4o0
志希「フクザツな香りが混ざり合って、脳にガツンと来るでしょ」
奏「脳かはわからないけど、ガツンとは来たわ」
美嘉「甘いのと一緒だったらおいしいかも?」
奏「……そうね。甘いの、飲みたいくらい」
志希「飲みに行ったら?」
フレ「行っちゃえ行っちゃえ~」
奏「……」
奏「ちょっと……行ってくる」
志希「いってらっしゃ~い」
美嘉「がんばっ」
奏「それはちょっと、野暮じゃない?」
美嘉「えっ、そ、そう?」
奏「まぁ」
奏「私も、これぐらい可愛げが無いとね」
美嘉「も、もーなにさーっ」
コツコツコツ…
志希「調子戻ったね~」
フレ「やっぱり奏ちゃんはああじゃなきゃ」
美嘉「だね」
フレ「で」
美嘉「で?」
フレ「ナンバーワンかつオンリーワンってなになに?」
志希「にゃははは~、シキちゃんも興味ある~」
美嘉「……」
美嘉「か、奏っ、待って助けっ……!」
志希フレ「「うふふふふふ、きーかーせーてー」」
美嘉「きゃーーーっ!」
23: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:18:15.52 ID:CtU3Od4o0
――事務室前
奏「……?」
奏(可愛そうな子羊の叫びが聞こえた気がしたけど、気のせいかしら)
奏(なにはともあれ、こっちに集中ね)
奏「……ふー……」
コンコンコン
P『どうぞ』
カチャ
奏「お疲れさま」
P「ああ。レッスン終わったのか、お疲れ」
奏「……荷物、置きっぱなしだったわ」
P「あ、マジか。危なかったな」
奏「え?」
P「そろそろ帰ろうかと思っていた」
奏「それは、タイミングよかったわね」
パタン
24: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:19:05.08 ID:CtU3Od4o0
P「まぁ、好きに回収していってくれ」
奏「ええ。そろそろ帰るって言うのなら……少し待とうかしら」
P「なんだ、送っていけって?」
奏「それも悪くはないけど、美嘉たちと夕食行くから」
P「そうか。待たせていいのか?」
奏「大丈夫よ。たぶん、美嘉が身体を張って止めているから」
P「……よく分からんが、あとメールの返信だけやっていくからな」
奏「ええ」
P「……」カタカタ
奏「……ねぇ。少し、そっちに行ってもいい?」
P「うん? まぁ、見せられないメールじゃないが、なんだ?」
奏「ううん、なんでもない。作業してて」
P「はぁ」カタカタ
25: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:20:07.77 ID:CtU3Od4o0
奏「隣、失礼」
P「机に寄りかかるくらい、別に断らなくても」
奏「そうね」
奏「……あら、月がでている」
P「ん? そうか」
奏「綺麗な月、というにはちょっと欠けちゃってるわ」
P「へぇ」カタカタ
奏「……」
シャッ
P「? ああ、ブラインド落としたのか」
奏「ええ」
P「まぁ、もうすぐ閉めるし別にいいんだが」
奏「ちょっとね。月にも見られたくなかったの」
P「はぁ」
26: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:20:36.17 ID:CtU3Od4o0
奏「……ねぇ、Pさん」
P「んー」カタカタ
奏「私からのチョコ、欲しくない?」
P「……忘れたって聞いた気もするけど」
奏「そう、忘れていたの」
奏「チョコは、あるんだけど」
P「う、うん?」
奏「忘れていたのは、自分の素直な気持ち」
P「……」
奏「もしくは、私らしさかな」
P「らしさ、ね」
P「そこの話はよく分からないけど……まぁ、チョコに限りはしないけど、自分に贈られたものっていうのは、嬉しいだろうな」カタカタ
奏「そう……」
27: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:21:05.42 ID:CtU3Od4o0
奏「それなら」
奏「キスしてくれたら、チョコあげようかな」
P「……」カタ…
奏「……」
P「素直な、という割には回りくどくないか」
奏「そうかも」
P「それが奏らしさ、なのか」
奏「うん?」
P「チョコを渡してから、お礼はキスで、って言ってくるもんだと思っていた」
奏「そうね。その方が私らしいのかもしれない」
奏「でも、これでいいの。これが、私の素直な気持ち」
28: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:21:50.55 ID:CtU3Od4o0
奏「……」ブルッ
P「奏?」
奏「だ、大丈夫……素直な気持ちをさらけ出すって、こんなにも怖いのね。小さいときは、そんなことなかったと思うのに」
P「……」
奏「私は変わっていくんだわ。Pさんと出会えて、いろいろな経験をして」
奏「だから、これまでの感謝と…… これからの、私の気持ちを込めて贈りたい」
奏「Pさんは? ……素直な気持ち、聞かせてくれる?」
P「……」
カタカタ カチ カチ
P「……なかなか、答えにくいな」
奏「それでも、って聞いたら?」
P「……」
奏「……」
P「帰り支度するか」ガタ
奏「……ねぇ」
グッ
P「おい…… ネクタイは引っ張るもんじゃない」
29: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:22:22.65 ID:CtU3Od4o0
奏「Pさん……」
P「……わかった。一旦放してもらっていいか」
奏「……」パ
P「ふぅ…… 本人目の前にして言うもんでもないが……嬉しい、っていうのは嘘でも何でもないし、なんなら欲しいって言ってもいい」
奏「……」
P「そうだな……キスは難しいけど、チョコは欲しいっていうのはダメか」
奏「欲張りね」
P「やっぱり?」
P「……実はな、思ったよりショックだったんだよ」
奏「え……?」
P「義理でも、もらえると思いこんでいたんだな」
P「忘れたって言われたとき、奏が気付いた通り、ガッカリしていた。自分でも驚いたんだけどな」
奏「そう、なんだ」
30: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:24:01.75 ID:CtU3Od4o0
P「……なぁ、キスなんてしたら、チョコ以上のもの貰ってそうじゃないか?」
奏「あなたからのキスよ。私からじゃないもの」
P「なるほどね。微妙な違いがあるんだな」
奏「……」
P「……」
P「帰ろうか。自分の荷物取って」
奏「……ふぅ…… 私の負けね」
P「別になんかを争ってるわけじゃないだろ」
奏「知らなかった? 恋は戦いなの」
奏「気持ちは伝えられたかもしれないけど……これで全部だと思わないでね」
P「参ったね…… 荷物もったか」
奏「……ええ」
P「まぁ……これだけ奏に言わせておいて、って言うのも無くはないけど」
奏「あら、意外」
P「だから少しだけ、素直になるか」
奏「え?」
P「……なんてな」
奏「……もう。なによ、それ」
奏「少し、期待しちゃったじゃない。ぬか喜びさせるなんて、なんて人かしら」
P「電気消すぞ」
奏「ねぇ」
パチ
奏「ちゃんと聞いてる? 私は……」
P「奏」グイッ
奏「えっ」
「――」
「――」
31: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:24:40.78 ID:CtU3Od4o0
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
――事務室前
フレ「何か声してる?」
志希「う~ん、よくわかんにゃい」
美嘉「ちょっとふたりとも、あまり声立てないでよ」コソコソ
ガチャッ
フレ「わわっ」
志希「うにゃ~」
美嘉「とと……」
P奏「「……」」
美嘉志希フレ「「「……」」」
P「何してんの君ら」
美嘉「えっ、いやーあははは、ちょっと」
志希「予後の経過観察は重要だからね~」
フレ「奏ちゃんチョコ渡せた?」
P「宮本さんド直球だねぇ」
32: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:25:09.24 ID:CtU3Od4o0
奏「……あなたたちね……」
志希「ここまできたら義務かなって」
奏「どうせあとで根掘り葉掘りでしょう」
フレ「うえきちゃん植えられるくらい掘るね!」
奏「私より大きい穴掘らないでよ。無くなるじゃない」
美嘉「いやその、ね。やっぱり友人として、行く末は見守らないと……」
奏「前二人の言い訳が酷すぎて、美嘉に不満が集中しそう」
美嘉「理不尽!」
P「まぁ、よく分からないが友人は選んだうえで大事にしなよ」
奏「そのつもりなのだけどね」
志希「なかなか言うねぇ~」
33: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:25:49.54 ID:CtU3Od4o0
フレ「それでそれで、いかがですか現在のお気持ちは!」
志希「チョコまだ渡してないなら、ここで強制的にあげさせちゃおうか」
美嘉「志希ちゃんステイ」
P「ああ、そうだった。奏」
奏「なに?」
P「貰ってもいいか?」
奏「え?」
奏「あっ……」
ガサ…
奏「……うん」
P「ありがとうな」
奏「どういたしまして……」
34: ◆WO7BVrJPw2 2020/02/13(木) 22:27:19.02 ID:CtU3Od4o0
美嘉志希フレ「「「……」」」
P「じゃあ、三人もお疲れさま。遅くならないうちに帰りなよ」
志希「はーい」
フレ「いえっさ」
美嘉「お疲れ、さまです……」
奏「お疲れさま、Pさん」
コツコツコツ…
美嘉志希フレ「「「……」」」
美嘉「ちょっ、ちょっと奏、どうなったの?」
奏「え? チョコは渡したけど。見てなかった?」
美嘉「見たよ、めっちゃ目の前で! そうじゃなくて、明らかにこの前になんかやり取りあったじゃん!?」
奏「あら、鋭いのね」
フレ「『貰ってもいいか』って言ってたね」
志希「なんか条件付けた感じだよね」
美嘉「そこっ、そこを聞かないと帰れない!」
奏「ああ……」
奏「……少しだけ素直になってくれたの」
フレ「んん?」
奏「もしくは、月明かりもなかったから、かな」
志希「んー?」
美嘉「つまり、どういうことなのさぁ」
奏「ふふっ……そこは私らしく」
奏「秘密ってこと」
おわり
転載元:速水奏「今年のチョコが、渡せない」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1581598611/
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