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トップページCu > 工藤忍「走り出した足が止まらない!」

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:02:14.58 ID:SBwHGf5K0

デレマスは工藤忍さんのSSになります。

注:時間軸が結構しっちゃかめっちゃか。こういう設定だということでお願いします。




2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:03:24.23 ID:SBwHGf5K0


「あれ、忍が宣伝に行ったまま帰ってこないっす。迷ってるのかなぁ……プロデューサー、知ってるっすか?」

「さぁ。彼女のプロデューサーにでも会いに行ったのかね。沙紀はなんだ、忍ちゃん待ち?」

「そうなんすよ。忍が帰ってこないとアタシが遊びに行けないっす」

「あぁそういう……」


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:03:55.39 ID:SBwHGf5K0




 アタシは、はっきり言って努力が好き。

 東京に来る前からファッションの流行もずっとチェックしてたし、方言も頑張って抜いた。
 全部全部、アイドルになるため。

 ファッションなんか、結構自信持ってたんだけどね……「東京でも通用する!」なんて言ってさ。

 当時はなんとまぁ畏れ多いことを言ってたのかって、今となっては恥ずかしくて仕方ないなぁ。
 穴があったら埋まっちゃいたい。

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4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:04:41.78 ID:SBwHGf5K0


 気をとり直して、じゃあ今はどうだって話。

 季節物の洋服が出た途端、トレンドはロケットスタートを決めたように移り変わっていく。
 それに追いつけ追い越せの集団を抜け出そうとしているのは、アイドルとしてのプライドのせいかな。

 今はもうそれだけじゃあないよね。

 ブザマな姿を見せたくなくて、ショーウィンドウに映る自分をなんども確かめるのだって、地元よりも足の早い東京のトレンドを、ここまで意地になって追っているのだって。
 今は全部全部、あの人にもっと見られたいからだから。

 全部、あの人。アタシのプロデューサーさん。

 飄々として、なんだかくったりしていて、三白眼が特徴的な、アタシのプロデューサーさん。


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:05:26.36 ID:SBwHGf5K0




 アイドルっていうのはお伽話なんだ。

 アイドルになって、たくさん努力していれば、いつかステージ上でキラキラ輝く女の子になれる。っていうお伽話。

 アタシがそれに気付くのは早かった。

 いざ自分がその世界に入ってみたら、キラキラ輝いていく子はほんの一握り。
 女の子を誘い込む罠って言ったら言葉が悪いかもしれないけど、実際、諦めてしまう人たちもいて。
 それこそ、両親が反対してた理由の通りで。

 そりゃあ不安にもなった。お伽話のかぼちゃになんてなりたくない。

 アタシはなにがなんでもアイドルになりたい。
 アイドルになって、みんなに認められたい。
 プロデューサーさんとだったら上手くいくって信じていたし、今だって信じてるけど。


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:06:36.21 ID:SBwHGf5K0


 それでも、不安は拭えなかったから、そういう時にはちゃんと口に出して確かめようと思ったんだ。

 だから、思ったことそのまま彼に打ち明けた。

「そりゃあ諦めちゃう子はどうしても出てくる。でも忍はどの子よりも努力してるだろ? それにどの子よりもアイドルになるっていう覚悟をしてる」

「それはもちろんだよ! でも……」

「大丈夫だって。そのために俺がいるんだよ。忍のお伽話を本当にするために」

 あの人は、ちょっとくさいこと言っちゃったなーなんて、ヘラヘラ笑っていた。
 いつも飄々として、少し猫背気味のあの人が、あのときばかりは胸をむんっと反らせて、俺を信じてくれって、ヘラヘラしながら言ったんだ。

 そして、プロデューサーさんは確かに、アタシのお伽話を本当にしてくれた。


7: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:08:06.60 ID:SBwHGf5K0

 そんなわけでアタシはプロデューサーさんをすごく尊敬してるし、いつだって感謝してる。

 あと、できるなら、ずっと、お伽話を本当にし続けてほしいと思ってる。

 いつかはあの人の隣で「忍をプロデュースしてよかった!」って言ってもらうんだ。
 そしたらアタシが「貴方にプロデュースされて、アイドルになれて、よかった!」って言うんだ。

 近頃なんかおかしいんだ。プロデューサーさんが近くにいるときは、なんだか目で追っちゃうし、レッスンのときなんかは追ってるたび目が合っちゃうし。
 すぐにトレーナーさんに怒られちゃうけど。

 ぶっちゃけ、好きなんだと思う。


8: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:08:44.39 ID:SBwHGf5K0

 あの人は「忍の努力が実ったんだ」って言うに決まってるけど、そうじゃない。

 アイドルデビューっていうお伽話のなかで、努力しなかった人はいないから。

 だから、アイドルになれたのは彼のおかげ。

 でも、確かに好きだけど、この感情はきっと恋じゃない。

 ずっとあの人の隣にいたいと思い始めちゃったのだって、なんかよくわからない感情であって、恋じゃない。

 アタシはアイドルだからね。最近は抑えるのもしんどくなってきたけれど、これは恋じゃないんだ。

 そういうことにしておいてある。


9: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:09:22.30 ID:SBwHGf5K0




 宣伝に行くって口実で一人になった。

 周りを見渡しても、プロデューサーさんと思われる姿は見えず。
 せっかくだから一緒に宣伝しに行こうと思ったのにな。

 目的変更しよう。プロデューサーさんと一緒に宣伝するんじゃなくて、宣伝しながらプロデューサーさんを探そう。そうしよう。

 学園祭ということで、当然周りには同じくらいの歳の子ばっかりなわけで。
 その中から、くったりした背中の男の人を見つけるのは、それほど苦労しないはず。

 アタシは少し早足で歩き出した。


10: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:10:05.64 ID:SBwHGf5K0


 あの人を探している理由としては、このあと始まるライブのことを話したいから。

 心の奥底にある理由としては、学園祭をプロデューサーさんと少しでも見て回りたいから。

 歩く速さは少しずつ上がっていく。

 あの人のことだから、きっと今日お世話になるスタッフの人たちや、先生たちにまた挨拶をしてるんだろう。

 廊下ですれ違う人たちに、ライブの宣伝は忘れない。アタシは今日ライブに来たんだから。

 出店のチェックも欠かさない。アタシは今日学園祭に来たんだから。

 校舎の中にはどうやらプロデューサーさんはいないみたいだ。
 じゃあ外にいるのかも。

 きっといつもみたいに、スーツに吹きかけた消臭剤の意味を無くしながら、タバコの煙に巻かれているに違いない。

 会社が全面禁煙になったのに、隠れてタバコを吸ってるのなんてとっくにバレバレなんだよ?


11: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:10:32.18 ID:SBwHGf5K0


 出入り口で蹴っ飛ばすように来客用スリッパを脱いで、急いで履いたローファーでアスファルトを蹴りだす。

 外には涼しい風が吹いている。

 プロデューサーさんはどこかな。

 学園祭の人混みを縫うように、時々首から下げた宣伝の看板を掲げながら、それでも、走り出した足が止まらない。


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:11:03.72 ID:SBwHGf5K0


 手を振ってくれる男の子。
 頑張って、見に行くから、と声をかけてくれる女の子。
 出店の焼きそばを分け合うカップルにも宣伝をしながら、アタシは走る。

 ぐるっと校舎を回ろう。きっと見つけにくい場所に喫煙所があるから。

 いつの間にか吹いた追い風がアタシの背中を強く押して、両足を急かしている。


13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:11:50.41 ID:SBwHGf5K0


 プロデューサーさんに会ってなにをしようかな。

 そうだな、ダンスレッスンを見てもらうんだ。みんなすごいから。
 特に伊吹ちゃんなんて、見ててもうビックリしちゃったから。
 少しでも追いつきたい。
 だからもっともっと、プロデューサーさんに練習見てほしいな。

 それから、プロデューサーさんのおかげでここでライブが出来るから、ありがとうって言うんだ。
 あと、アイドルになれて満足しちゃいそうだったから、これからもっと努力するから、よろしくお願いしますって言うんだ。

 それからそれから……そうだ! 焼きそば、焼きそばを食べる!
 カップルが食べてた、あの焼きそばを二人分買おう。
 タバコくさいであろうプロデューサーさんをソースの香りでいっぱいにしちゃおう!


14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:12:27.61 ID:SBwHGf5K0


 騒ぎ出した胸が止まらない。

 人気の無いところから、ふわふわと煙が出ているのが見えて、一層地面を蹴るスピードが上がる。

 くったりした背中が見えた。あの人は一人で、高い空を見上げて煙を吐いている。


15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:12:54.84 ID:SBwHGf5K0


 あの人の隣はもうすぐだ。

 たくさんお話して、これからも目一杯楽しんで、帰りも「今日は楽しかったね!」ってお話するんだ!

 走り出した感情は止まらない。行け! 行け! アタシの両足!


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2015/11/02(月) 21:14:35.31 ID:SBwHGf5K0

以上になります。今回の元ネタはチャットモンチーで「風吹けば恋」でした。→ https://youtu.be/KYOvPZH8tpo



転載元:工藤忍「走り出した足が止まらない!」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1446465734/

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