スポンサーリンク

トップページシャニマス > 【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】:前編

1: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/05(土) 15:44:32.58 ID:TUxOY/VZ0

・シャニマスのSSです。二次創作や解釈違いを敬遠される方はブラウザバックを推奨します。

・ストーリーは、途中提示される選択肢を安価で選ぶことによって分岐することがあります。

・エンディングにたどり着いたら冒頭に戻ります。

・前作は
【シャニマス】P「よし、楽しく……」-noctchill編- 【安価】 
ですが、読まなくても大丈夫です。また、前作を読まれた方々におかれましては、このスレでの前作のネタバレになるレスはご遠慮願います。




2: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/05(土) 16:08:12.01 ID:TUxOY/VZ0

P(人の才能を見抜く――だなんて、簡単なことじゃない)

P(世の中に天才は一定数いるけど、それでも圧倒的な天才だらけじゃないから)

P(天才にもいろいろいる。天才なのに知名度が低いなんてまったくもって珍しいことじゃないんだ)

P(才能に貴賎はないが、才能ごとの中では貴賎はある)

P(アイドルで言えば、そう……歌、ダンス、演技、見た目――なんでもいい。放っておいても人をひきつける圧倒的な天才……)

P(そんなものをお目にかかれる機会なんて巡ってくるのだろうか……俺は、そう思っていた)

P(けど、思ったよりも早く――)


「よっ……ほっ……っと」


P(それは、偶然か、必然か)


「――ここは……こう?――」


P「!」

「――っと……うん、決まった!」

P「君、ちょっといいかな?」

「? わたしっすか?」

P「ああ、さっきのダンスって――」


P(――一瞬で“それ”だと確信できる存在に、俺は出会ったんだ)


3: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/05(土) 16:41:58.15 ID:TUxOY/VZ0

~事務所~

P「おはようございます」

あさひ「あ! プロデューサーさん!」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「これ、見てくださいっす!」

P「これって……石、だよな」

あさひ「ただの石じゃないっすよ~?」

P「どんな石なんだ……?」

あさひ「それはっすね~……」

愛依「おっ、あさひちゃんじゃ~ん。なになに? また何か持ってきたの?」

あさひ「これっす!」

愛依「石……? しかもわりとでかめの」

あさひ「これ、冬優子ちゃんにそっくりなんすよ!!」

愛依「ぶふっ!」

あさひ「わっ! 愛依ちゃんきたないっすよ。いきなり噴き出してどうしたんすか?」

愛依「い、いや……だって……」プルプル

あさひ「プロデューサーさんはどうっすか!? この石、似てるっすよね? 冬優子ちゃんに」

P「ど、どうなんだろうな……」

あさひ「えーっ、みんなわかんないんすかねー」

あさひ「この辺の輪郭とか、そっくりだと思うっす!」

P「ただのゴツい岩の一部にしか……」

愛依「あっはっはっはっは!! ひーっ、ちょーウケる……」ククク...

あさひ「むぅ」

P「……なあ、あさひ。一つ聞きたいんだが」

あさひ「なんすか?」

P「それ、冬優子には言ってないよな?」

あさひ「もちろん――」

P ホッ

あさひ「――最初に伝えたっすよ?」

P「……」

あさひ「今朝早起きして走ってたら河川敷の近くで見つけたんすよ! ゲットしてすぐ報告っす!!」

愛依「あー……。ねえ、プロデューサー?」

P「なんだ?」

愛依「今日のうちらの予定って、どうなってたっけ?」

P「午後からレッスン。現地集合も可」

愛依「あはは…………やば」

あさひ「今日もがんばるっすよ! 愛依ちゃん」


4: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/05(土) 17:16:01.78 ID:TUxOY/VZ0

夕方。

P カタカタ

P「ふぅ……」

P(そろそろ、あいつらが戻ってくる頃か)

P(というか、冬優子怒ってるだろうな……)

P(ちゃんと仲直りしててくれよ)

あさひ「ただいま戻ったっす!」

愛依「たっだいま~」

冬優子「あー、ほんっとに疲れたわ……」

P「おかえり、3人とも」

あさひ「プロデューサーさんプロデューサーさん!」

P「ん? どうしたんだ?」

あさひ「今日のレッスンなんすけどね、冬優子ちゃんすごかったんすよ!」

あさひ「なんていうか、迫力がはんぱなかったっす!!」

冬優子「……あんたに怒るのに体力使うくらいなら、レッスンでストレスもろとも発散させてやろうと思っただけよ」

愛依「とか言って~、ほんとは怒るつもりもなかったんじゃないの~?」

愛依「冬優子ちゃん優しいし」

冬優子「そんなんじゃないわよ」

冬優子「……思い出したらまたイライラしてきたわね」

P「ま、まあ、あさひも悪気があったわけじゃないんだろうし、な?」

冬優子「それが余計にタチわるいっての」

冬優子「まあいいわ。ちょっと休ませて」ボフッ

あさひ「あ! じゃあわたし、冬優子ちゃんのとなりに座るっす!」

あさひ「とーう!」ボフッ

冬優子「ちょっ……! 暑いからあっちいきなさいよ、ほら、しっしっ」

あさひ「……っ」ショボン

冬優子「……」

冬優子「……嘘よ。ちょっとくらいなら、いいわ」

あさひ「!」パァァァ

あさひ「わーい! 冬優子ちゃんの隣ゲットっす!」ダキッ

冬優子「抱きつくことまでは許可してないわよ! ちょっとって言ったじゃない! ……もう」

愛依「いいねいいね~、見てて微笑ましいわ」

P「なんだかんだで仲良いんだよな」

愛依「ね。うち、あの子たちとアイドルできてよかった」

愛依「さーってと、うちも混ぜてもらお~」

冬優子「ちょっ! あんたまでなに抱きついてんのよ!」

P(3人とも笑顔だ。このユニットにしてよかった)

P(あさひは天才で、冬優子と愛依は決してそうではない。けど、それは2人があさひの引き立て役という意味なんかじゃなくて……)

P(裏表のないあさひと、2面性のある冬優子と愛依――)

P(――強い光と濃い影が、綺麗なグラデーションを成して魅力的なものになっているんだ)

冬優子「……ったく、暑いわねもうっ!」

冬優子「プロデューサー! もっとクーラー効かせて!」

P「ははっ、はいよ」ピッ


5: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/05(土) 17:43:49.99 ID:TUxOY/VZ0

P カタカタ

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「……なによ」

あさひ「わたしのほう、見てほしいっす」

冬優子「もう……なに――って顔近っ!」

あさひ「……」ジーッ

冬優子「な、なんなのよ……」

冬優子「綺麗な顔してんだから見つめられたらやばいっての……」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃんって、髪の毛のここを……こうすると」

あさひ「ほら、やっぱりクワガタみたいっす!」

冬優子「……」

P(……)

あさひ「んー、アゴの長さ的にはメスのクワガタっすかねー。あ、冬優子ちゃんがしゃくれてるって意味じゃないっすよ?」

冬優子「わかってるわよ……」

愛依「なんか面白いこと思いついちゃった系? あさひちゃん」

あさひ「そうなんすよ。ほら、冬優子ちゃんクワガタっす!」

冬優子「もうどうでもよくなってきた……」

愛依「じゃあうちは……」

P(愛依が後ろ髪を前に……?)

愛依「ヘラクレスオオカブトじゃー!」グワァーッ

あさひ「あははっ! すごいっす! これでバトルできるっすよ、冬優子ちゃん!」

冬優子「あー、はいはい。よかったわねー」

愛依「うちにしては結構グッドアイデアだったくない?」

あさひ「うーん……」

あさひ「色合い的には、サタンオオカブトのほうが近いっす」スンッ

愛依「サタ……? そ、そうなんだ……あさひちゃんものしり~」

冬優子「愛依もよく付き合ってられるわね」

愛依「下の子たちの面倒見てるからさー、うちも楽しいし」

冬優子「ふーん、そういうもんかしら」


6: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/05(土) 18:37:36.85 ID:TUxOY/VZ0

P「ははっ、お前ら仲良しだな」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすか? 冬優子ちゃんクワガタ」

P「ここからでも見えてたよ。立派なアゴだよな」

冬優子「あんたまでノッってんじゃないわよ!」

あさひ「冬優子ちゃん……クワガタ……」

P「どうしたんだ? あさひ」

あさひ「何か思い出しそうなんすよね……」

冬優子「最高に嫌な予感しかしないわね」

あさひ「あっ!」

冬優子「……」

愛依「なになに? どしたん?」

あさひ「この前愛依ちゃんと冬優子ちゃんに見せた幼虫!」

愛依「あー……」

冬優子「はぁ……」

あさひ「もう成長したと思うんで、今度持ってくるっすよ!」

冬優子「持ってこなくていいわよ!」

あさひ「えーなんでー!?」

冬優子「なんでって、こっちがなんでって言いたいわよ」

あさひ「せっかく冬優子ちゃんと冬優子ちゃんのバトルが見られると思ったのに……」

冬優子「あんた、「この幼虫、冬優子ちゃんみたいっす」とか言ってたけど、ふゆとおんなじ名前つけてんじゃないでしょうね……」

あさひ「えー、いいじゃないっすかー。可愛いんすよ?」

冬優子「そういう問題じゃないっての」

愛依「五十歩? 譲っても、もう成長したなら幼虫じゃないっしょ~」

冬優子「愛依、もう五十歩とおつむが足りてないわよ。出直してきなさい」

愛依「あちゃ~、二千五百歩譲るんだったっけ!」

冬優子「なんでかけちゃったのよ……てか計算速いし」

あさひ「冬優子ちゃん急におむつの話なんかしてどうしたんすか? まさか……っ!」

冬優子「あさひちゃんっ、ま・さ・か、のあとには何を言うつもりなのかな~?」

あさひ「冬優子ちゃんはおもらs――むぐっ」

P「おむつじゃなくておつむだぞ、あさひ」

あさひ「むーっ、プロデューサーさんが急にわたしのほっぺをむぎゅっと……! してきたっす」

P「ほら、もう暗くなってくるから、3人とも帰ったほうがいいぞ」

あさひ「プロデューサーさんは帰らないんすか?」

P「まだ仕事が残ってるからな」

愛依「プロデューサーも大変だよねー……マジで感謝しかないわ」

P「いいのいいの、プロデューサーってのはそういう仕事なんだよ」

P「よし、今日のストレイライトは解散だっ」

スポンサーリンク


12: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/06(日) 00:19:12.19 ID:MH4OcvTc0

~仕事帰り 車内~

P「今日のラジオ、あさひらしく場を盛り上げられたじゃないか。よかったぞ」

あさひ「あ、そうなんすか? そういうのはよくわかんないっす!」

あさひ「わたしは、ただわたしが思ったことを答えたり話したりしただけっすから」

P「そうか。まあ、それがあさひだよな」

P(しかし、テレビ局で一緒にゲスト出演してた芸人にあさひがからまれちゃったから、随分と帰りが遅くなったな……)

P(……あいつ、絶対にあさひの見た目にしか興味ないぞ)

P(あさひの魅力はそんな単純なものじゃない。見た目は大事だが、もっと内在的なところが重要なんだ)

あさひ「空、暗いっすね」

P「ああ、すまんな、いろいろと……」

あさひ「どうしたんすか? 元気ないっすね、プロデューサーさん」

P「いや、なんでもないよ」

ヒューッ

ドォンッ

あさひ「おおっ!!」

P「何かあったか?」

P「なんか音が聞こえたけど」

あさひ「花火! 花火っすよ!」

P「近くで花火大会でもやってるのかな」

あさひ「気になるっす~! もっと近くで見てみたいっすよ! プロデューサーさん!」

P(まあ、気分転換だと思えば、ちょうどいいか)

P「よし、じゃあ、向かってみるか」

あさひ「やったっす! これで近くで見れる~」


13: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/06(日) 00:45:18.98 ID:MH4OcvTc0

P「しかし……すごいな、人の数が」

あさひ「……」

P「もう花火大会は始まってるみたいだし、いい場所はとっくにとられちゃってるよなぁ……」

あさひ キョロキョロ

あさひ「……」ウーン

P「あさひ?」

あさひ「! あそこっす!」

P「え?」

あさひ「プロデューサーさん! わたしについてきてくださいっす! 行くっすよ!!」

P「あ、おい、ちょっと待て――……」


あさひ「ここならしっかり見えるっす」

P「あんなところからよく見つけたな……しかも人ごみの中を難なく通って来れたぞ」

あさひ「人の流れがあったっすよ。じーっと見てたら、それが変わらなかったんで、そこからうまく進んでいけば避けられるって思ったっす!」

あさひ「なんていうか、こう……道が見えたっす」

P「はは……こりゃすごいな」

P(昔読んだアメフトの漫画を思い出すな)

あさひ「あとはなんとなく、花火大会に来てる人が行かなそうな場所を、周りの人を観察して考えたっす」

あさひ「そうしたら、ここかなって思って」

P「おかげで俺もちゃんと花火を見れるよ。ありがとな」

あさひ「礼には及ばないっすよ! プロデューサーさんと一緒に見たいから頑張ってここに来たっすから」

P「あさひ……」


14: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/06(日) 01:13:38.48 ID:MH4OcvTc0

ドォーン

バチバチバチバチ

ヒュールルル

ドォォォン

あさひ「いろんな色、いろんな形……」

P「綺麗だよな、花火」

あさひ「うーん、それもそうなんすけど……」

あさひ「わたし、あの仕組みが気になるっすよ!」

P「打ち上げる仕組みか? それとも、光る色の仕組みか?」

P「あとは、どうやって形を作ってるのかとか……」

あさひ「全部気になるっす! ……けど、まあ、いまはあの色の原理に興味があるっす」

P「ああ、それなら、俺でも少しは教えてやれそうだ」

あさひ「知ってるんすか!?」

P「理科で習うからな」

P「炎色反応っていうんだ」

P「燃えてるのは金属……だったはずだ」

あさひ「金属って、あの鉄とか金とかってやつっすか?」

P「まあ、そんなところだな。もちろん、他にもいろんな金属がある」

P「金属の種類によって色が変わるんだぞ」

P「色っていうのは、光の波長の違いと言ってもいいんじゃないかな」

あさひ「色は光……光は色……?」

P「まあ、ちゃんとしたことは理科の先生に聞くなり本を読むなりしてくれ」

P「とにかく、光があって、それが物体を照らすと、物体の表面で光の一部が吸収されて残りが反射されるんだ」

P「それが俺たちの目に届いて、はじめて「見た」って思うんだよ」

P「見えてる色の違いは、目に届いた光の波長の違いだから」

P「花火に使われてる材料によって、それが変わると、まあ、いろんな色に見えるって感じなんじゃないか?」

P「もう随分と前の記憶だし、適当な説明だけどな」

あさひ「いいや、プロデューサーさん! めっちゃ面白そうっす!!」

あさひ「もっとないんすか!? 光の……色の話!!」

P「ええ……そんなに覚えてるかな……」

P「……花火は炎色反応って現象なわけで、金属に関する反応で――」

P「――金属原子にエネルギーが与えられて基底状態から励起状態になると、特定の波長の光を一番強く発するから……」

P「エネルギー準位の遷移がどんなもんかで……放出されるエネルギーの大小で……発する光の波長が変わるとか、そんなところ……か?」

あさひ キラキラ

P(興味津々JCだ! 視線が花火より眩しい……。それだけにちゃんと教えられてないのが心苦しい……)

あさひ「プロデューサーさんっていろいろ知ってるんすね~!」

P「昔ちょっと触れたくらいで、大したことないよ。いまの説明にも自信はないし」

あさひ「むむ……」

P「どうかしたのか?」

あさひ「ふと思ったっす……この金属はこういう色に光ります――っていうのはわかるんすけど、逆はどうなんすか? 色から金属がわかったりはしないんすか?」

P「……随分と面白い質問だな。俺も知りたいよ……。スペクトルの違いだっけか? なんかそんな話を聞いた気がするけど……忘れた」

あさひ「俄然興味が湧いてきたっす!」

P「ははっ……まあ、俺が話した内容は中高の理科で勉強するだろうし、学校で教わりたいなら理系に行けばいいと思うぞ」


15: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/06(日) 01:16:23.38 ID:MH4OcvTc0

あさひ「学校……っすか」

P「?」

あさひ「い、いやっ、なんでもないっす!」

あさひ「それよりプロデューサーさん! さっき、本を読めばいいって言ったっすよね?」

P「あ、ああ……まあな。独学で勉強するっていうのもありだとは思うぞ」

あさひ「じゃあ、今度一緒に図書館とか本屋さんに行って欲しいっす!!」

P「ははっ、そうだな。そのうちな」

あさひ「約束っすよ?」

P「あさひがいい子にしてたらな」

あさひ「はいっす! わたし、いい子にしてるっす!」


16: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/06(日) 01:34:18.13 ID:MH4OcvTc0

ヒューゥゥゥ

ドドォンッ

あさひ「……」

P「……」

ヒュルルルル

ドドドォッ パラパラパラ...

あさひ「花火って、あんなに綺麗なのに、すぐに終わっちゃう……」

P「?」

あさひ「花火……花火に心があったら、どう思ってるんすかね」

P「花火に、心が?」

あさひ「打ち上げられる瞬間とか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、飛ばされたら最後……じゃないっすか」

P「あさひ……」

あさひ「花火は綺麗っす。でも、わたしは花火にはなりたくないっす」

P「もし、さ……花火がずーっと空ではじけ続けて光を放ち続けてたらどう思う?」

あさひ「それは迷惑っす! うるさいし、星を見たいときに邪魔になるっす!」

P「花火はさ、綺麗なのにすぐ終わっちゃうって思うんじゃなくて――」

P「――すぐに終わるからこそ美しい……そう思ってもいいんじゃないか?」

あさひ「……」

P「もちろん、打ち上げられてはじけたその瞬間は文句のつけようのないくらい綺麗だと思う」

P「けど、それが一瞬の出来事だって、俺たちは知ってるから……」

P「だから、最高に綺麗だって感動できるんじゃないかと、俺は思うよ」

P「もし、花火に心があったとしても……」

P「その気持ちが悲しいものだと決め付ける必要は、ないんじゃないか?」

あさひ「プロデューサーさん……」

あさひ「……えへへっ、そうっすね。そうかもしれないっす」

ヒューッ

ドドドドドド

あさひ「うわーっ! すっごいっすー!」

P「特大サイズだな」

あさひ「結構続いてるっすよ」

P「確かにな。まあ、花火らしい時間ならちょっとくらい長くはじけててもいいんじゃないか」

あさひ「あ、人が帰り始めたっすね」

P「なんだかんだ最後まで見ちゃったのか……」

あさひ「いやーっ、今日は楽しかったっす! ありがとうございますっす! プロデューサーさん!」

P「俺のほうこそ、楽しかったよ。ありがとうな。ここに連れてきてくれて」

あさひ「今日のことは一生忘れられないかも!」

P「そのうち、彼氏とかと花火大会に来て、その記憶も上書きされるかもしれないぞ? なんてな」

あさひ「……」

P「あさひ?」

あさひ「……なんでもないっすよ~。さ、帰るっす」タタタタタ

P「ああ、車停めたところに向かおう……って足速っ!? ま、待ってくれよ」

あさひ「プロデューサーさん! 今日の記憶は、上書きなんてしてやらないっすよー!」

あさひ「それでも上書きしたいって思ったら、そのときは、また、プロデューサさんと来るっす!!」


21: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 00:19:48.26 ID:zasX3y6FO

~事務所~

冬優子「あのっ、プロデューサーさんっ」

P(む、嫌な予感がする)

P「いまは忙しいから駄目だ」

冬優子「ちょっと! まだ何も言ってないじゃないのよ!」

P「……なんでしょうか」

冬優子「あんたがとってきたこの仕事よ!」

冬優子「はづきさんから企画書見せてもらったの。ほら、見なさい!」

P「いや、見なくても内容は知ってるけど……」

冬優子「『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』のイベント出演て――……」

冬優子「……っ」

冬優子「こんなの……」

P「やらないのか? この仕事を」

冬優子「それは……」

冬優子「……」

冬優子「ちょっと来て」グイッ

P「あ、おい……」


22: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 00:38:08.24 ID:zasX3y6FO

バタン

冬優子「……」

P「……」

冬優子「誰も……、いないわよね」

P「そうなんじゃないか?」

冬優子「――……っ」

冬優子「……怖いって言ったの、覚えてる?」

冬優子「ふゆがこのアニメを好きって言うのが……怖いって」

P「……ああ、覚えてる」

冬優子「この仕事、出ればきっと、本音であろうとなかろうとこれを「好き」って言わざるを得なくなる」

冬優子「これって、そういう仕事でしょ」

冬優子「そんなの、ふゆにとっては、もっと怖いわよ」

冬優子「……だって、だって」

冬優子「アイドルのふゆとして言ったら、皆に好かれるふゆとして嘘をつくことになる!」

冬優子「黛冬優子として言ったとしても……アイドルのふゆは嘘だって公に宣言するみたいで……」

冬優子「嫌とか嫌じゃないとか、好きとか嫌いとか、そういうんじゃないの……」

冬優子「……怖い、のよ。ただ、怖い……」

P「…………今日の午後の予定は変更しよう」

冬優子「え?」

P「個人レッスンを入れていたが、あれはキャンセルする」

冬優子「ちょっと、何勝手なこと言ってんのよ」

冬優子「ふゆは、あいつに……っ。と、とにかく! 遅れをとるわけにはいかないのよ!」

冬優子「バケモンにだって……できるなら負けたくなんてないのよ……!」

冬優子「そのために時間はたくさん使わないといけないの」

P「そうか」

P「で、それだけか?」

冬優子「は?」

P「それ以上ないなら早く外に出る支度をしてくれ。連れて行くところがある」

冬優子「……なによ! プロデューサーだからってふゆの気持ちまで……!」

P「俺は、プロデューサーとして、冬優子のことを思って行動しようとしてるまでだ」

P「俺が信じられないのなら、レッスンに行けばいい。そうしても、俺は止めない」

冬優子「……そんなの」

冬優子「そんなの……ずるいわよ」

P「どうするんだ?」

冬優子「……行く」

冬優子「時間の無駄だったら、承知しないから」

P「わかった。じゃあ、行こう」


23: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 00:48:47.31 ID:zasX3y6FO

~某オタクの聖地~

冬優子「……ここで何しようってのよ」

P「まあ、適当にブラつく」

冬優子「仕事――……いや、ふゆの場合はレッスン? と、とにかく、サボって散策してるだけでしょ!」

P「そんな大声出して――もあんまり目立たないのがいいと思わないか」

冬優子「そりゃ……ここには存在感の塊みたいなのがたくさんあるし」

冬優子「で、ほんと、ここでどうしようってのよ」

冬優子「別に、その……ふゆだってよく来るし……。あんたに案内されるようなのはないわよ」

P「ああ。案内をしてやろうとかいうつもりもない」

冬優子「ならなんで……」

P「お、あそこでなにやらイベントがあるみたいだな。よし、行くぞ冬優子!」

冬優子「あっ、ちょっ、待ちなさいよ!」

冬優子「これじゃあただの……デートみたいじゃない」ボソッ

P「早く来いよー」ブンブン

冬優子「うっさいわねっ。いま行くわよ」タタタ


24: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 01:09:41.01 ID:zasX3y6FO

P「耳が幸せだ……」

冬優子「あんた……その、声豚だったわけ?」コゴエ

P「悪いか?」

冬優子「べ、別に悪いなんて言ってないわよ……。こっちこそ、悪かったわね、なんか」

P「さ、次行くぞ次」スタスタ

冬優子「早歩きやめなさいよ! しかも速っ」

冬優子「……もうっ」タタタ


P「おおっ! すげぇな……ゲームだといくら3Dといえど死角やら影やらがあるからさ」

P「ここは……こうなってたんだな……」

冬優子「これ、ふゆでも元ネタがわかんないんだけど」

P「まあ、最近のじゃない上に、若干マニアックだからな」

冬優子「ふーん」

P キラキラ

冬優子「……」

P「しかし……」

P「ゲームか……久しくやってないな……」

冬優子「さすがにあんたでもオフの時間くらいあるんじゃないの?」

P「まあ、それはそうなんだけどさ。せっかくなら時間かけてじっくりやりたいと思うし、そうすると普段のオフじゃ時間足りないし……」

冬優子「ゲームが好きなのね」

P「うーん、ちょっと違うかな」

冬優子「?」

P「ゲームそのものというより、作品が好きなんだよ」

P「世の中いろんな作品があるけど、中には自分と重ねるようなものもあって――」

P「――いや、なんなら、この作品は、あるいはこのキャラは、俺自身なんじゃないか、なんてな」

P「自分の在り方に影響を与える不可分な存在がアニメとかゲームって、何も不自然じゃないよ」

冬優子「!」

P「それを否定するやつがいたら……苦しいよな――」

P「――辛い、よな」

冬優子「……っ」

P「あ、そろそろ次行くぞ」スタスタ

冬優子 タタタ


25: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 01:20:06.76 ID:zasX3y6FO

P「おお! しばらく見ないうちに単行本がこんなに……」

P「あっ、こっちは外伝が出てるだと……買おうかな……でも読む時間が……」

冬優子「……ふふっ」

P「ん? どうした冬優子」

冬優子「なんでもないわよ。なんか、あんた見てたらおかしくなってきただけ」

P「俺のオタクムーブに対する嘲笑か?」

冬優子「ううん。そんなんじゃない。てか、あんたはオタクとしてまだまだよ。下には下がいるんだから」

P「上には上が――って言ってやれよ、そこは」

冬優子「知らないわよ。絶対値でもとっておきなさい」

冬優子「ふゆが言いたいのは、別にあんたをあざ笑うつもりで笑ったわけじゃないってこと」

冬優子「そう……全然違う」

冬優子「ふゆは、ふゆに笑ったのよ。ふゆ自身のことが、おかしくなったの」

冬優子「ほら、次は何を見るの?」

P「そうだな……こっちだ」スタスタ

冬優子 タタタ


26: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 02:02:06.96 ID:zasX3y6FO

冬優子「ここ……。っ」

冬優子「……ここにあんたの好きな作品があるっての?」

P「好きな作品はないかな」

冬優子「じゃあなんで来たのよ」

P「好きになりたい作品なら、あるから」

冬優子「……!」

P「どこにあるんだろう……」キョロキョロ

冬優子「……」

冬優子「こっちよ」ボソッ

P「え?」

冬優子「ついてきて。そうすればあんたが探してるの、たぶん見つかるから」

P「わかった。ついていくよ」


P「よくわかったな。俺の探してるやつの場所」

冬優子「まあね。これでしょ?」

P・冬優子「『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』」

P「ご名答」

冬優子「もう……あんたって……ほんと……」

P「冬優子がそれを好きだと言うことについてどんな思いを抱いてるか――それについては、求められない限り俺は口を出さない」

P「でも、プロデューサーとして、俺は冬優子のことを知りたいと思う」

P「だって、俺は、プロデューサーである前に、冬優子のファン1号だからさ」

P「好きだとか、“推す”だとか、そう思ったら、つっぱしらずにはいられないんだ」

P「周りに何と言われようと、あるいは周りに隠していようと――」

P「――俺だけは俺を否定しないから」

P「……冬優子が自分を嘘だと思ったとしても、好きなものを好きだと言うのが怖いのだとしても」

P「冬優子が黛冬優子としてではなくふゆとしてアイドルをしてることとか、冬優子が好きだと思うことは、その姿勢自体は嘘じゃないだろう」

P「嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う」

P「俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”」

P「冬優子には、冬優子を否定して欲しくない」

P「自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?」

P「どうだ? ……なんか、長く喋っちまったけど」

冬優子「っ……ほんとに……語りすぎなんだから」

P「騙ってはいないけどな」

冬優子「うっさい……もう、メイク崩れちゃう……」ポロポロ

冬優子「あんた、ひょっとしてふゆのこと好きでしょ」ポロポロ

P「当たり前だ。今日はこの街で自分なりにオタクムーブをかましてきたが――俺が今日一番オタク発揮したいのは、黛冬優子ってアイドルだからな!」

P「というわけでこれから「ふゆ」ってアイドルについて順を追って語っていくんだが……あ、場所変える? 今度の仕事の場所に移動した方がっぽいかな?」

冬優子「ちょ、ちょっと待って! 本人の目の前で語られるだけでも恥ずかしすぎてどうにかなりそうなのに、もうメイクがやばいから……! てか気の遣い方おかしいでしょ!」

P「メイク? マスクしてるんだしいいだろほっとけよそんなの」

冬優子「なんで急に雑になるのよ!」プンスコ

P「まあ、さすがに冗談だ」

冬優子「ほんっと、最悪で最高のプロデューサーに振り回されてるわよ、ふゆは。……ふふっ」

冬優子「花を摘んでくるから、そこで待ってなさい!」


27: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 02:13:34.89 ID:zasX3y6FO

冬優子「おまたせ。それで? このコミックスを買おうっての?」

P「ああ。アニメだと自分の余裕のある時間との兼ね合いが難しそうかな、と」

冬優子「それで、アニメの代わりに漫画で?」

P「そういうことだ」

冬優子「甘いのよ!」

冬優子「このコミックスとアニメじゃ、違うところがいっぱいあるんだから!」

P「アニメのほうがいいのか?」

冬優子「は? 何言ってんの? どっちも最高に決まってるじゃない」

冬優子「これから語りまくってやるんだから覚悟しなさいよね! 好きになりたいなら、それくらい余裕でしょ?」

P「ははっ、臨むところだ」

冬優子「……」

冬優子「……ほんと、ありがと」ボソッ

P「え? なんだって?」

冬優子「標準的ラノベ主人公には聞こえなくていいことよ」

冬優子「あ、そうだ。あんた、ここにあるの、買わなくていいわよ」

冬優子「ふゆが全部持ってるから貸したげる。ありがたく全部見て読むこと、いい?」

P「了承っ」

冬優子「秋子さんで答えなくていいから。似てないし」

冬優子「……ふふ」

冬優子「プロデューサー!」ビシッ

冬優子「ふゆはあんたに推されるくらいじゃ足りないから!」

冬優子「ガチ恋させてやるんだから――ちゃんとふゆのこと、見てなさいよね!」


30: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 22:39:52.57 ID:zasX3y6FO

~事務所~

P「買い物?」

愛依「そうなんだよね~……。お兄とお姉は出かけてて夜まで帰ってこないとか言い出すし、かと言ってさすがに下の子たちを振り回すわけにも……ね」

愛依「男手があると助かるなーって思うんだけど、どう?」

愛依「ほら、明日って日曜じゃん? だから……プロデューサーも空いてるかなーって」

P「まあ、空いてはいるぞ」

愛依「あ、別に疲れてるとかなら無理にとは言わないし……!! プロデューサーさえよければ……」

P「いや、別に構わないぞ」

P「行こうか」

愛依「ほんとっ! やった! マジ助かるわ~」

愛依「サンキューね」


31: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 22:47:23.91 ID:zasX3y6FO

翌日。

~某大型ショッピングモール~

愛依「……」

P「どうかしたのか?」

愛依「なんか……こんなでっかいところに来たの久しぶりでさ」

愛依「めっっっっちゃテンション上がってる……!」

P「ははっ、まあ、今日は愛依の好きなようにしたらいいさ

P「俺は車出して荷物持ちするために来たつもりだし」

愛依「ほんと感謝しかないって! 車もあれば量とか気にせず一気に買えるしさ」

愛依「それに、普通にちょっとでかめのスーパーとかだと思ってたら、まさかこんなところに連れてきてくれるとは思わなかったっていうか!」

P「楽しそうでなによりだよ」

P「ほら、買い物に来たんだろ? まずは何を買うんだ?」

愛依「そんじゃねー――……」


32: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 22:53:06.92 ID:zasX3y6FO

愛依「食べ物とかは最後に買いたいし、最初はこの辺からかな~」

P「なるほど、服屋か」

愛依「ちょっ、確かにそうだけど、その呼び方はやばいっしょ」ケラケラ

P「じゃあ……ブティック?」

愛依「まあ、それでいい……のかも? てか、メーカーとかブランドで呼ぶもんじゃね?」

愛依「プロデューサー、ひょっとしてファッションとか興味ないカンジ?」

P「うーん、正直よくわからん……」

愛依「あ、じゃあうちがプロデューサーの私服選んだげるわ!」

P「え、でも愛依の買い物に来てるのに……いいのかよ」

愛依「いいのいいの! いいから行こ!」グググ

P「あ、ちょ、わかったから、押すなって……」


33: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 23:03:56.40 ID:zasX3y6FO

P「名前とかは聞いたことのある店ばかりだな」

愛依「プロデューサーってさ、アイドルのプロデュースしてるんだよね?」

P「そりゃそうだが」

愛依「それならさ、衣装とかの話でファッションとか考えるんじゃない? って思ったんだけど」

P「いや、デザインとファッションは俺の中では別というか……」

P「ましてや、アイドルのことじゃなく自分のこととなるとな……」

愛依「……そっかそっか! じゃあ、うちも教えがいあるわ!」

愛依「まずはここ入ろ。ほらほら」


愛依「うーん……」

P(食い入るように服やマネキンの着飾ったやつを見てるな……)

P「愛依は、こういうファッションとか、結構好きなのか?」

愛依「まあ、嫌いじゃないかな。アイドルやるようになって、衣装さんといろいろ話すうちに知ったってカンジ?」

P「なるほどなぁ――まあ、そうだよな」

P「アイドルって仕事は――歌って踊って魅了してというのが基本っちゃ基本だけど、俺としては、それ以外にもいろんなことを学んでもらえたら……なんて思うかな」

愛依「へー……」クスッ

P「ど、どうかしたか?」

愛依「なんでもなーい。ほら、ちょっと上下選んでみたから試着してよ!」

P「お、おう……ありがとう」


35: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 23:19:05.04 ID:zasX3y6FO

愛依「どーおー?」

P「……」

愛依「プロデューサー?」

P「き、着てみた……」シャーッ

愛依「おお! 結構決まってるくない?」

P「そうかな……はは、ありがとう」

愛依「あ、プロデューサー照れてるっしょ~。貴重なとこ見ちゃったな~」

愛依「……うん、うん。見れば見るほどいいわ。うちすごくね?」

愛依「色の組み合わせと……ここに入ってるラインとか、可愛いわ~」

P「か、可愛い……?」

P「よく女の子ってメンズとかレディース問わず「可愛い」って言うけど、どういう感想なんだそれは」

愛依「うーん……、あはっ、うちもわかんない!」

愛依「とにかく可愛いもんは可愛いってカンジ? 細かい理屈とかはいいんじゃね?」

P「愛依はファッション関係のコラボもできるかもな」

愛依「マジ!? それ楽しそうじゃん!」

愛依「……あ、でも、うちってクールキャラでアイドルやってるし……テンションのメリハリとか頑張んないとだな~」

P「それだけ自分の仕事のこと考えてくれてるなら、俺としては安心だよ」

P「まあ、仕事のことはともかく――」

P「――服、選んでくれてありがとうな。買うよ、この組み合わせで」

愛依「いいの? うちの趣味で選んじゃっただけだけど」

P「まあ、俺はもともと自分のファッションには興味なかったしさ」

P「愛依が俺の服選んでくれるなら、もうそれが俺のファッションでもいいかな……なんて」

P「だから、愛依がいればいいよ。俺が服を選ばなくてもさ」

愛依「!」

愛依「……そっか」

P「愛依?」

愛依「もー、……しょーがないから、そうしてあげる!」ニカッ

愛依「ほら! そしたら、次行こ次! プロデューサーに似合いそうな組み合わせ、まだあるんだ~」グイッ

P「えっ、ちょっ、愛依の買い物は……」

愛依「これもうちの買い物だし!」

愛依「うちとプロデューサーの! 買い物でしょ」

P「……ははっ、そうだな」


36: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 23:29:55.22 ID:zasX3y6FO

愛依「……」

P「うぐぐぐぐ……」

愛依「あの……さ、うちもなんか悪かったっていうかー……」

愛依「うちも持つよ? いまさらだけど、プロデューサー、うちの着せ替え人形してくれただけだし……服だけなのにそんなに持たせちゃって……」

P「だ、大丈夫だ……それに、一旦車に積みに戻るためにいま移動してるわけだし……」

P「俺は荷物持ちだ……気にするな」

愛依「……」

愛依「じゃ、じゃあ、さ」

愛依「こうしよ? ね?」

P「?」

愛依「一回止まって荷物下ろして」

P「……あ、ああ」ドサッ

愛依「このでっかい袋に、小さいのをまとめて……っと」

愛依「これとこれと……それからこれ、プロデューサー持ってくれる? うちはこれとこれ持つからさ」

P「わかった」

P「この一番大きいのはどうするんだ?」

愛依「こうする……」

愛依「ほ、ほら! 片方はうちが持ってるから、もう片方持ってよ」

愛依「そうすれば、一緒に持てるっしょ」

P「そ、そうだな……」

愛依「……」

イッセーノセー
キャッキャッ

P(ふと、小さい子ども1人を連れた親子連れ3人が目にとまる)

P(父親と、母親と、それから子ども――)

P(――両親の間にはさまって、それぞれ片腕ずつを持ってもらった子どもは、タイミングよく両親にひっぱられてブランコ遊びをしている)

P(よくある、微笑ましい光景だ)

P「なんか、俺たちは荷物だけど、持ち方はなんとなく似てるよな」

愛依「っ! ちょ、ちょっとなに言ってんの……もう」

P「愛依?」

愛依「別に何でも……ほら、早く駐車場行こうよ……」


37: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 23:42:14.30 ID:zasX3y6FO

P(それからも、愛依といろいろな店をまわった)

P(レストランで昼食をとり、生活雑貨やインテリアなど、いろいろ――)

P(――買い物という漠然とした目的で来たが、それゆえに何をしても楽しかった)

P(それに、愛依が楽しそうで、なんだか嬉しいという気持ちとともに、安心感を覚えていた)

P(芸能界という世界に踏み込んでいる以上、アイドルである彼女――彼女らはストレスを抱えているんじゃないかと思っていたからだ)

P(今日は……来てよかったな)

P(俺のためにも)


愛依「よーっし、これで最後!」

P「スーパーか」

愛依「じゃ、がんばってこ! プロデューサー!」

P「ああ、そうだな」


愛依「あとは――……って、あ」

P「何かあったのか?」

愛依「あはは……いや、あそこにさ、おもちゃ付きのお菓子のコーナーあるなって」

P「ああ……食玩か」

愛依「弟が欲しがることもあったからさー、なんかそれ思い出しちゃった」

愛依「プロデューサー、言っとくけどおもちゃ付いてるお菓子は買わないからね……なんて。……ん? って、あれ?」

愛依「いない……あっ!」

P「これ……近所だと売り切れになってるやつ……」

P「ほ、欲しい……!」

トントン

P「はい? ……あ」

愛依「……」ニコニコ

P「いや、違うんですよ」

愛依「はぁ……まあ、別に買ってもいいけどさ」

愛依「意外とコドモっぽいとこあんだね」

愛依「冬優子ちゃんあたりに話したら……」

P「やめてください」

愛依「うそうそ、別に言ったりしないって!」ケラケラ


38: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/07(月) 23:52:56.65 ID:zasX3y6FO

~駐車場~

P「ふぅ……やっと詰め込めたぞ……」

ピトッ

P「冷たぁっ!?」

愛依「あはははっ、いいリアクションじゃん!」

P「め、愛依か……」

愛依「はい、お疲れさま。プロデューサーはコーヒー好きかなって思って、そこの自販機でアイスの缶コーヒー買ってきた!」

P「愛依……」

P「ありがとう……」グスッ

愛依「ちょっ!? 泣いてんの!?」アセアセ

P「……ふっ、嘘泣きだ」

愛依「え?」

愛依「も、もう……本気でおかしくなっちゃったのかと思ったんですけど!」

P「ははっ、すまんな」

愛依「……」

愛依「……なんていうか、さ」

愛依「こう、なんてお礼したらいいか……」

P「そんなこと気にするなって。俺がしたくてしたんだからさ」

愛依「だ、だけど……!」

P「ほら、愛依に缶コーヒーももらえたし。気にするなら、これが報酬ってことでいいよ」

愛依「うちが言いたいのはそういうことじゃなくて……」

P「?」

愛依「……」

愛依「……ま、いまは――いいっか」ニコッ

愛依「これからもうちがプロデューサーの服選んだげるから!」

愛依「……だから――」

愛依「――一緒に買い物! ……また行こ」


41: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 21:51:20.05 ID:fbuS5T5i0

~事務所~

あさひ「うーん……」

冬優子 ポチポチ

愛依「zzzZZZ」

P カタカタ

あさひ「むむむ……」

冬優子 ポチポチ

愛依「zzzZZ……フガッ」

P カタカタ

あさひ「あーっ! わかんないっす!!」

冬優子「もう! うっさいわねー……さっきから何うなってるのよ」

愛依「っ!? な、なに!?」ガバッ

P「はは……にぎやかだな」

あさひ「わかんないっす……」

冬優子「はぁ……」

冬優子「はいはい、何がわかんないっての?」

あさひ「いま、星はどこにあるのかが……わかんないんすよ」

あさひ「夜には見えるのに……太陽が昇ってるときには見えないじゃないっすか!」

冬優子「はあ? あんた何言ってんのよ」

冬優子「見えてないだけでいまもあるわよ――あの青空の上に」

あさひ「見えて……ない……?」

冬優子「そうよー。わかったら大人しくしてなさい」

愛依「ふわぁぁぁ……ねみ……。んーっ。寝ちゃった……zzzZZZ」バタリ

あさひ「でもでも、冬優子ちゃん」

あさひ「もし星が夜にだけ現れて……太陽が出てくると消える……それなら――」

あさひ「――不思議で、面白いことじゃないっすか?」

冬優子「あんたね……話聞いてたの?」

冬優子「いつ出てきていつ消えるとかじゃないのよ。いつもあるの。見えるかどうかが時間によって違うだけ」

あさひ「冬優子ちゃんは、それ、自分で確かめたことあるんすか?」

冬優子「それは……ないけど」

あさひ「これは……調べる必要がありそうっすね!」

冬優子「ふゆは付き合わないからねー、やるにしても、あんた一人でやってなさい」

あさひ「えー」

あさひ「愛依ちゃーん」ユサユサ

愛依「んー……あと5分……」

あさひ「つまんないっすー!」


42: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 22:00:02.88 ID:fbuS5T5i0

P カタカタ

あさひ テテテ

あさひ「プロデューサーさん!」

P「お、あさひか。どうした?」

あさひ「昼の間……星はどうなってるっすか?」

P「そうだな……」

P「……」

P「……今度、調べてみようか、一緒に」

あさひ「わーい! やったー!!」

冬優子「あんた正気なの? その中学生を相手にするわけ?」

P「まあ、プロデューサーである前に……大人だしな。子どもの疑問に答えてやりたい気持ちはあるよ」

冬優子「ふーん……ま、頑張んなさい」

P「ふっ……」

冬優子「な、なによ、急にほくそ笑んで」

P「ま、じきにわかるさ」

冬優子「……?」


43: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 22:18:39.16 ID:fbuS5T5i0

~某高原地帯~

P(今日は早朝から地方でストレイライトとして出すアルバムのジャケット用の撮影だ)

P(事務所の持つ素材を撮るためのロケでもある)

P(撮影は順調に進んだ)

P(特に問題もなく)


P「3人とも、お疲れ様」

愛依「あ、プロデューサー。おつかれ~」

冬優子 キョロキョロ

冬優子「……ふぅ。お疲れ様」

あさひ「おつかれっす!」

あさひ「いや~、楽しかった~!」

あさひ「超でかい芋虫っぽいクリーチャーがいたっす! 撮影中に低い姿勢でポーズとったら見つけたんすよ!!」

冬優子「……」

冬優子「はっ……! ま、まさかあんた、それ……」

愛依「あー大丈夫。うちがちゃんと言っておいたから」アハハ...

あさひ「愛依ちゃんに持っていっちゃだめって言われちゃったっす……」

冬優子「愛依、ナイス」

愛依「ま、ほら、あさひちゃん」

愛依「虫さんも自分の住んでるとこにいさせてあげないとかわいそうっしょ」

愛依「だから、ね?」

あさひ「うー……そういうもんすかね……」

P「はは……」

P「そういえば、思ったよりも撮影が早く終わったな……よし」

冬優子「このあとになにかあるの?」

P「まあな。みんな、これからはオフだろ?」

P「ちょっと、俺と出かけようぜ」

あさひ「面白いことっすか!?」

P「そんなところだ。というわけで、出る準備をしてくれ」


44: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 22:27:53.37 ID:fbuS5T5i0

~某天文台~

冬優子「……はぁ」

冬優子「呆れた」

P「まあ、時に素朴な疑問というものは……とことんまで追究すべきなのさ」

愛依「プロデューサー、覚えてたんだ」

あさひ「星……!!」

あさひ「あ、でも……ここで何ができるんすか?」

P「それは……入ってからのお楽しみだ」


冬優子「なんか、イベントみたいのやってるみたいね」

P「ああ、そうなんだ」

愛依「へー、あんまこういうとこ来ないけど、なんか楽しそうかも!」

P「たまにはいいもんだろ」

P「ほら、あさひ。先に行って何やってるか見てきていいぞ」

あさひ「はいっす!」タタタッ

あさひ「……!」

あさひ「『昼の星 観察会』……!」

P「さ、昼に星はどうなってるか――」

P「――自分の目で、確かめてみよう」

P(撮影のための日程っていうのもあるけど――天気が良くて本当によかった……)


45: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 22:51:53.96 ID:fbuS5T5i0

あさひ「……」

冬優子「あいつ、すごい集中力で覗いてるわね」

P「まあ、あさひだからな」

愛依「ああなったあさひちゃんはすごいよねー。レッスンでも時々あんなカンジになってるなー」

あさひ「……」

あさひ「あ――」


あさひ「――見えた」


P「どうだ? 何か見えたか?」

あさひ「はいっす! 金星が見えたっす!」

あさひ「プロデューサーさんも見るっすか?」

P「そうだな。どれどれ……」

P「……あ、見えた」

P「よいしょっと……他にもいろんな星が見れるらしいぞ。ほら、もう少し頑張ってみな」

あさひ「! ……もっと探すっす!」

あさひ「んーっ……」

P「あ、隣が空いたな」

P「冬優子と愛依もそっちで見たらどうだ? せっかく来たんだしさ」

冬優子「……」

愛依「あ、じゃあうちも見るー」

冬優子「……ふゆも、見るわ」


愛依「おっ!? もしかしてこれかなー……」ムムム

愛依「プロデューサー! これって何?」

P「うーん……木星かな」

P「こっちの方を見ると太陽系内惑星以外のほかにもいろんな恒星が見れるぞ」

愛依「マジ!? 冬優子ちゃんっ、一緒に探そ~」

冬優子「う、うん……」

愛依「ここ、覗いてみて」

冬優子「んっ……」

冬優子「……ほんとだ、見えた」

愛依「ね? すごいわ~」

冬優子「ほら、交代――」パッ

冬優子「――って! 顔近……」

愛依「あ、ごめん……すぐ覗けるようにって……」

冬優子「……」

愛依「……」

冬優子「……他の星さがそ」

愛依「そ、そだね……」


46: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 23:18:41.33 ID:fbuS5T5i0

あさひ「ふぅ……いろんな星見つけたっす~」

P「どうだ? 昼に星を見た感想は」

あさひ「とりあえず、後で冬優子ちゃんに謝るっす」

あさひ「冬優子ちゃんの言ってたことは本当だったっすから」

P「ははっ、そうか」

P「まあ、星は夜にだけ現れているっていう考え方も、俺は嫌いじゃなかったぞ」

P「なあ、あさひ。あそこには……何がある?」

あさひ「何って……まぶしっ。た、太陽っす」

P「そうだな」

P「じゃあ、普通にこっちの方を見てくれ」

あさひ「?」

あさひ「はいっす」

P「いま、真っ直ぐ立って前を向いてる状態で、あさひの目には太陽が見えてるか?」

あさひ「いや……見えてないっす」

P「そうだよな。まあ、窓とか何かに反射してるとかじゃなけりゃ、そうだ」

P「ってことは、いま、太陽はないんじゃないか?」

あさひ「……」

P「太陽は見えてない……だから、太陽はいま存在しない」

P「どうだ?」

あさひ「……その発想はなかったっす」

P「まあ、太陽だと周りを照らしてるからって反論ができるし、本来なら夜に月を題材にして話すべきなのかもしれないな」

P「見えてるものがすべてっていうと、極端な話、こういうことにだってなるんだ」

P「だからさ、思うんだよ」

P「見えてないけど大切なものって、きっといつだってあるんだろうな――って」

あさひ「見えてないもの……見えてるもの……」

あさひ「大切な……」

P「アイドルって、五感では語れないものがたくさんあるはずなんだ」

P「俺は、あさひがそれを想像する中で何を見つけてくれるのかを、心から楽しみにしてるよ」

あさひ「……えへへ、そうっすか」

あさひ「わたし、いま、面白いこと見つけたっす!」

P「お、どんなことなんだ?」

P「よかったら、聞かせてくれよ」

あさひ「プロデューサーさんっす!」

P「……俺?」

あさひ「そうっす! プロデューサーさんは面白いっす!」

あさひ「いろんな話をしてくれて、わたしのお願いも聞いてくれて……」

あさひ「アイドルを――教えてくれて」

あさひ「こんなに……、こんなにわたしのこと考えてくれる人、はじめてっす」

あさひ「……」

あさひ「わたし、アイドル頑張るっす! いままで以上に……」

あさひ「面白いこと探し、続けたいっすから」

あさひ「もっと、プロデューサーさんが一緒が……いいっすから」ボソッ


47: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/08(火) 23:24:52.81 ID:fbuS5T5i0

冬優子「プロデューサー!」

P「!」

愛依「うちらはもう満足したよー。そっちは?」

P「そうだな、あさひ次第だけど……どうだ?」

あさひ「大満足っす!」

P「そうか。それは良かった」

P「それじゃあ、帰ろうか」

P「帰り道は長いから、遠慮せず寝ちゃっていいからな」

あさひ「あ、わたし、助手席がいいっす!」

P「長時間だからな……あさひは車酔いするのか?」

あさひ「別に……あ、まあ、そんなとこっす」

P「?」

P「冬優子と愛依は、それで大丈夫か? 車酔いとかで助手席希望とかは……」

冬優子「ふゆは後ろでいいわ。遠慮なく寝させてもらうもの」

愛依「うちも後ろでいいよー、ふわぁぁ」

P「じゃあ、あさひが助手席だな」

あさひ「えへへっ」ニコッ

あさひ「はいっす!」


52: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/09(水) 23:41:36.27 ID:xAoQ7Aec0

~テレビ局~

P(今日はバラエティ番組の収録だ)

P(最近はこうしたタレント的な露出も増えてきたな――うまくいくように俺もがんばろう)

P フラッ

P「……っ」

P(疲れてるのかな……実際、最近ちゃんと休めていなかったかもしれない)

P(あいつらの収録が終わって車で送ってやれば今日の仕事は終わりだ――)

P(――それまでもってくれ)


P(終わったみたいだな)

P「お疲れ様。3人とも、今日もよかったぞ」

冬優子「ふぅ……これくらい普通よ」

冬優子「普通じゃなきゃ、いけないの」ボソッ

愛依「おっつかれー! いやー、あの司会者の人マジで面白かった!!」

あさひ「あっ、プロデューサーさん! お疲れっすー」

P「はは……俺が心配する必要はないよな。もう」

冬優子「……あんた、大丈夫? 顔色悪いわよ」

P「え? そ、そうか?」

愛依「ほんとだ……。プロデューサー、体調悪かったりしない?」

P「だ、大丈夫だよ」

P「ちょっと自販機でコーヒーでも買ってくる」

P「お前らはしばらく休んでてくれ。一番頑張ったのは、そっちなんだからさ……」

冬優子「ちょ、ちょっと……!」

愛依「行っちゃった……ね」

冬優子「……」

あさひ「……」


53: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/09(水) 23:49:29.61 ID:xAoQ7Aec0

~テレビ局、ロビー~

P「……と」

P「コーヒーは……、130円……」

P「財布財布……」

P グラッ

P「あ、あれ――……?」

P(ああは言ったけど――体調、やばいかもな)

P「早く買おう」

パラパラ...

チャリィンッ

ドサッ

P「……?」

P(ゆ……か? なんで――こんな低い視線……)

P(これじゃまるで……倒れてるみたいじゃないか……)

P「……」

P(すまない……3人とも……)

P(見栄なんて張るもんじゃないな……)


54: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/09(水) 23:57:31.83 ID:xAoQ7Aec0

~病院 病室(個室)~

P「……」

P「……っ、んん」

P ムクッ

P「ここは……」

P(そうか――俺は、倒れたのか)

P(過労だよな……ったく、自分だって身体が資本みたいなもんなのにな)

P(こんなんじゃ……冬優子に怒られちまう)

P(このままじゃ……愛依に心配させちまう)

P(あさひには悲しい顔……させちまうかもな)

P「次あいつらにあったら――なんて言えばいいんだろうな」


55: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/10(木) 00:17:05.69 ID:wj8hTx9z0

翌日。

~病院 病室(個室)~

コンコン

アレ? サンカイダッケ?

コンコンコン

P「はは……」

P「はい、どうぞ」

ガララ

愛依「あっ、プロデューサー……」

冬優子「……」

P「……ありがとう。見舞いに、来てくれて」

P「俺がいない間も、仕事は大丈夫だったか? レッスンは問題なく受けられたか?」

P「そうだ……明日の予定……」

愛依「ちょっ、プロデューs――」

冬優子「――ふざけないで」

P「冬優子?」

冬優子「こんなになって、さんざん心配させておいて……それでも仕事が大事なの?」

P「それは……お前たちがちゃんとアイドルやっていくために……」

冬優子「ばかにしないで……!」

冬優子「ふゆは……ふゆたちは……あんたにおんぶにだっこじゃないとどこにも行けないアイドルなんかじゃない!」

冬優子「あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?」

冬優子「そんなに――情けない?」

冬優子「あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?」

愛依「冬優子ちゃん……」

冬優子「それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね」

P「それを言われると……返す言葉もない……」

冬優子「自分の頭の中だけで完結させんじゃないわよ……目の前にいるアイドルを、ちゃんと見なさいよね」

冬優子「そんなこともわからないプロデューサーなんて……グスッ」

冬優子「い、いらないんだから……っ」ポロポロ

愛依「まあまあ、冬優子ちゃんもそこまで! まっ、うちも似たようなこと思ってたけどね」

愛依「冬優子ちゃんが全部言ってくれたカンジするし、もういいやー!」

愛依「とにかく、プロデューサー? ちゃんと休まなきゃ駄目だかんね?」

P「わ、わかりました……」

冬優子「ふ、ふん……ちゃんと反省すること」

冬優子「また、ふゆたちの好きな――ストレイライトのプロデューサーになって、事務所に来なさい」

愛依「そーそー。うちも、うちらが好きなプロデューサーを待ってたいかな」

P「すまなかった……」

P「見失ってたもの、ちゃんと見つけてから、またプロデューサーとして会いに行くから――」

P「――待っていてくれ」


56: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/10(木) 00:36:13.58 ID:wj8hTx9z0

冬優子「でも、あんまり待たせんじゃないわよ」

冬優子「あんたがいない間、代わりにはづきさんがプロデューサーの仕事してくれてたけど、結構手際良かったわよ」

愛依「あ! それある!」

愛依「あんまりもたもたしてっと……取られちゃうかもね~。プロデューサーの座、ってやつ?」

P「あはは……死守してみせるよ」

P「……そういえば、あさひは来てないのか?」

愛依「あー……」

冬優子「……」

P「用事があって来れなかったとかそんなところか?」

愛依「い、いや、そうじゃないんだけどね」

冬優子「あいつ、来てたのよ。病院まで」

P「?」

冬優子「プロデューサーに会いに行くついでに面白いこと探すとかわけわかんないこと言ってお見舞いにはノリノリで……」

冬優子「出発する前にはしゃいじゃって、バスで爆睡するほどだったのに――」


~病院 廊下~

冬優子「ちょっと遠いわね、あいつの病室って」

愛依「この廊下を最後まで行って隣の建物……だっけ?」

あさひ「うーん、なんかないっすかね~」キョロキョロ

冬優子「あんたね……場所を考えなさいよ。ったく」

冬優子「それにしても静かね」

愛依「確かにね~」

あさひ「……」

あさひ スンッ

冬優子「急に止まって何やってんのよ。ほら、行くわよ」

あさひ ボーッ

愛依「あさひちゃん?」

ガララ スーッ

冬優子「あ、看護師さんと患者さん……車椅子ね。ほら、道空ける」サッ

愛依「はーい」

あさひ ジーッ

冬優子「さ、行くわよ」

あさひ「……っす」

冬優子「なんですって?」

あさひ「い、いやっす! いや……いやいや嫌イヤァッ!!」

冬優子「ちょ、ちょっと……! いきなりどうしたってのよ!」

愛依「あさひちゃん大丈夫?」

あさひ「ひぐっ……ううっ……」ポロポロ

あさひ「あああぁぁぁっ!!!!」ダッ

愛依「あさひちゃん!?」

冬優子「……追いかけるわよ、愛依」

愛依「う、うん……」


冬優子「――ってことがあって……でも、追いつけなくて、見失った。LINEで『わたしに構わずお見舞い行ってほしいっす』って来たから、とりあえずあんたに会いに来たけどね。こっちから送って待っても返信来ないし」


57: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/10(木) 00:51:08.05 ID:wj8hTx9z0

P「そうだったのか……」

冬優子「まあ、あさひのことは、はづきさんにも相談してこっちでなんとかしてみるわ」

冬優子「あんたも、あいつに連絡するくらいならいいけど、その身体で探しに行こうだなんて思わないでよね」

P「あ、ああ……さっきの言葉は刺さったし、ちゃんと養生するよ」

冬優子「そ。ならいい」

愛依「あっ、やばっ!」

愛依「冬優子ちゃん、バスの時間……!」

冬優子「っ、そうだった……! ここ、そんなにバス多くないのよね」

P「気をつけて帰るんだぞ」

冬優子「いまのあんたに言われるのは……ふふっ、まあ、それくらい聞いておいてあげる――」

冬優子「――またね」

愛依「まったねー、プロデューサー!」

P「おう」

ガララ

P「……」

P「あさひ……」

P(ふと、あさひが時々する悲しい表情を思い出した)

P(俺は、あさひの何を知っているんだろう)



あさひ「花火……花火に心があったら、どう思ってるんすかね」

あさひ「打ち上げられる瞬間とか、自分がどんなに綺麗な花火だって知ってても、飛ばされたら最後……じゃないっすか」

あさひ「花火は綺麗っす。でも、わたしは花火にはなりたくないっす」


あさひ「はいっす! わたし、いい子にしてるっす!」


あさひ「今日のことは一生忘れられないかも!」


あさひ「こんなに……、こんなにわたしのこと考えてくれる人、はじめてっす」



P「……早く、元気になって、あいつにも顔を見せてやらないとな」


61: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/13(日) 21:41:51.08 ID:UZX7kixFO

数日後。

~病院 病室(個室)~

P「短い間だったけど、この部屋ともおさらばだな」

P(この数日間、社長やはづきさんからも、しっかり休むようにと、仕事に関する連絡は一切来なかった)

P(俺がいない時に何か問題が起こらないかと心配にもなったが――)

P(――愛依も言ってたように、はづきさんがうまくやってくれているようだ)

P(そもそも、そんな心配をすること自体が傲慢だ)

P(俺がいなくてもある程度機能してるってことなのだから)

P(では、俺がいる意味とは一体何だろう)

P(あいつらにとって、俺はどんな存在でいられるんだろう)

P(俺じゃなきゃいけない――そう言うための根拠が欲しかった)

P「……って、悲観してどうする」

P(あいつらをここまでプロデュースしてきたのは他でもない俺なんだ)

P(俺が胸張ってプロデュースしてやらないと、これまで俺についてきてアイドルをやってきたあの3人に失礼だろう)

P「俺がやってきたこと、俺がやろうとしていること……」

P「……俺が認めてやらないでどうするんだ――ってな!」パシン

P「よし」


~病院 廊下~

P(やっぱ正門まで遠いんだよな……)

P「……」

P(静か、だよな。ここ)

P「……?」

P(通り過ぎようとした個室の扉が、なぜか気になった)

P(正確には、扉の横――うっすらと、文字列のようなものが見えた気がした)

P「落書き……なのか? でも、読めないな……外国語だろうけど、英語じゃないよな」

P(英語でなくても、メジャーな外国語なら何語かぐらいわかるのに、それでもさっぱりだった)

P「アイ……ド……リ?」

P(そんなふうに俺が落書きを凝視していると、看護師に声をかけられてしまった)

P(落書きを見ていたことを話すと、どうやらその看護師は例の落書きを拭いて消すために洗剤と雑巾を持ってきたのだと言う)

P(結局、誰かのいたずらだったという結論に2人はたどり着き、その場を後にした)


62: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/13(日) 22:07:54.05 ID:UZX7kixFO

~事務所~

P(病院帰りに顔を出そうと思って来てみたけど、はづきさんしかいなかった)

P(社長はテレビ関係のお偉いさんとの話し合いでいないらしく、ストレイライトの3人はラジオの収録があるのだという)

P「スケジュール表は……、と。あった」

P「3人はもう帰ってくる頃か」

P「待ってみようかな」


冬優子「お疲れ様でーす」

P「おっ、冬優子じゃないか」

冬優子「……って、あんた、来てたんだ」

P「まあな。退院したから、家に帰るついでに顔出してみようと思ってさ」

P「愛依とあさひは一緒じゃないのか?」

冬優子「愛依なら夕飯の当番とかで急いで帰ったわよ」

冬優子「あさひは武装商店見つけるやいなや飛び込んで行ったわね。夢中になってこっちの言葉に耳貸さないから置いてきたわ」

P「置いてきたってな……」

冬優子「悪かったわね」

P「なにが?」

冬優子「愛依でもあさひでもなくて、ここに来たのがふゆで」

冬優子「別にあんたがいるかもと思って会いに来たわけじゃ……ない……んだから」ボソッ

P「ははっ、そんなことないぞ。会えて嬉しいよ」

冬優子「なっ、何言ってんだか!」

P「あと、ありがとうな。お見舞いに来てくれて」

P「改めてお礼を言わせてくれ」

冬優子「お礼はいいから、……これからもちゃんと気を抜かずにプロデュースしなさいよね」

P「ああ! これからもよろしくな」

P「……そうだ。あれから、あさひはどんな感じだ?」

冬優子「あの中学生ならいつも通りよ。ほんと、あれはなんだったんだって思うわ」

P「そうか……」


63: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/13(日) 22:49:10.00 ID:UZX7kixFO

冬優子「あっ、そうだ」ガサゴソ

冬優子「はい、これ」

P「これ……『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』の……」

冬優子「そ。円盤」

冬優子「言ったでしょ。ふゆが貸してあげるって」

冬優子「かばんが重くなるから、とりあえず今日はこれだけ貸しておくわ」

P「ありがとう、冬優子。楽しみだよ」

冬優子「……ふふ」ニコ

冬優子「ええ! 超面白いから、期待してなさい!」

P「そうだな……うん。このキャラの絶対領域、これは期待できる」

冬優子「ちょっ、あんたね……!」

P「何か問題でも?」

冬優子「開き直ってんじゃないわよ。いい? 視野を広く持つこと! それぞれのキャラが特別でキラキラしてて、魅力的で――」

冬優子「――そんなアイドルの女の子たちがみんなで力を合わせてもっとキラキラするところに本質があるの!」

冬優子「そんな局所的な見方はやめて、大域的に考えるのよ!」

冬優子「も……もちろん? まあ、みんな可愛いから? なんて言うか、そういう……その……ゴニョゴニョ」

冬優子「とにかく! 劣情禁止! わかった?」

P「わからない」

冬優子「なんでよ!!」

P「冬優子……お前は1つ大切なことを忘れている」

冬優子「なによ、初心者のくせに偉そうに言ってくれるじゃない」

P「確かに俺はこの作品の初心者ではあるが、作品のキャラに注目する上で普遍的なことがあるはず……そうだろう?」

冬優子「……どういうことよ」

P「大域的なものは局所的なものの集積だということを……!」

P「キャラ1人1人の一部を見ていき、その1つ1つを評価していくことで全体像――キャラの魅力というものが推し量れるんだ!」

冬優子「あー、頭痛くなってきたわ」

P「全体像を正確に見るには、その一部を詳細に把握することが重要なんだよ……」

冬優子「で、結論は?」

P「絶対領域が好きで何が悪いんだ」

冬優子「絶対領域が好きなのは悪くないけど、自分のプロデュースしてる未成年アイドルの前でそれを語ることは悪いことね」

P「この社会は……寛容じゃないんだな……」

冬優子「社会人にもなって自分の趣味全開で暴走するやつには、そりゃ優しくないわね」

P「易しくもない……人生は高難度ゲー、という感じだ」

P「冬優子……悪いのは俺じゃなくてこの社会なんじゃないか?」

冬優子「…………はああぁぁぁ…………」

P「どうしたんだ冬優子、なんかのモンスターみたいだぞ」

冬優子「モンスターって……あんたのほうが十分危険な存在よ」

P「そうだ。ひょっとして……うん。俺が社会をプロデュースしてやればいいのでは?」

冬優子「何言い出すのかと思えば……」

P「その後で言うんだよ」

冬優子「?」

P「よし、楽しく暮らせたな」

冬優子「やかましいわ」


64: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/13(日) 22:55:15.44 ID:UZX7kixFO

冬優子「って、もうこんな時間……」

冬優子「そろそろ帰るわ」

P「じゃあ送っていくよ――って、あ……」

P「今日は出勤しに来たわけじゃないの忘れてた……」

P(いつもの仕事モードで、つい車がある前提で話しちまった)

冬優子「ぷっ、あははっ」

冬優子「ほんと、仕事人間ね」

冬優子「でも……ありがと」

冬優子「じゃあ、さ。駅まで送って」

P「わ、わかった」


68: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/13(日) 23:52:59.52 ID:UZX7kixFO

P「いや、しかし……」

P「暑いな……」

冬優子「しばらく外に出てなかったんだから、まあ、余計にそう感じるのかもね」

P「夜は涼しいもんじゃなかったのかよ……」

P「さっき自販機あったから、あの時に買っておけばよかったんだろうなぁ……」

P「そうすれば、いまこうして乾きに苦しむこともなかったのに……なんてな」

冬優子「……」

P「冬優子……? どうしたんだ?」

冬優子「あの時、ああしていたら――」

冬優子「――こんなことにはならないで、もっと良い結果になってたかもしれないのに」

冬優子「そう思うことって、あるわよね」

P「俺の飲み物のことなら心配しなくてもいいんだぞ? まあ、駅ももうすぐだしな」

冬優子「あんたはさ、そういうの、ないの?」

冬優子「今だって十分良い……でも、あのとき、もっとこうしていたら、こういう決断ができていれば……」

冬優子「今はもっと良くなってたかもしれないのに、って……そう思った経験」

P「……」

冬優子「変なこと言ってごめん。なんか、今のあんた見て、ふと思っちゃって」

P「いいさ。構わないよ」

P「そうだな……そりゃ、あの時もっと頑張ってたら――とか、あの時諦めなかったら――とか、そういう経験はたくさんあるよ」

P「「今だって十分いいけど、あの時こうしてたら、今はもっと良くなってたかもしれないのに」……か」

P「今が十分いいなら大丈夫だよ。明日を、来週を、来年を、数年後を、そしてもっと先の未来をも良くするために――」

P「――今この瞬間から、これからを大切に歩んでいけば、きっと後悔なんてしないし、どうどうと胸を張っていける」

P「俺はそう思うよ」

P「自分で自分を肯定してやれるだけで、いろいろと楽になるんじゃないか?」

冬優子「そっか……そうよね」

P「そうだとも」

P「あの時ああしていれば、こうだったのに――なんてのは中学で勉強する英語の仮定法の例文で十分だよ」

P「過去は大切だし忘れちゃいけないようなものだってある。でも、常に向き合っているのは過去ではなく――」

P「――今から続いている未来だよ」

冬優子「……話したら楽になったわ」

冬優子「はぁ……ふゆの弱さ、見せすぎてるわね、ほんと」ボソッ

P「え?」

冬優子「なんでもないわよ」

P「見せすぎてる……だと? 絶対領域なのに見せすぎって空事象じゃないのか……? いや、あるいは……」

冬優子「なんでそこだけ聞こえてんのよ!」
冬優子「っていうかふゆの絶対領域の話じゃないから! いい加減その話題から離れなさいよね」

冬優子「もうっ、締まんないだから……」

冬優子「……ふふっ」

冬優子「ばーか」ニコッ


72: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/17(木) 19:59:26.95 ID:hITll6Xv0

~事務所~

P「こんにちはー……」

P(今日は営業だったけど……懇意にしてもらっているとはいえ苦手なんだよなぁあの人……)

P(とても疲れた……)

P(まだ仕事残ってるけど、少し休んでからでもいい――よな?)

P「はづきさん――は、いない……か」

P(そういえば今日ははづきさんのオフだったっけ)

P「誰もいないのか?」

P(ソファーで横になるかな……少し、少しだけだから……)

P「これ……アイマスクか」

P(はづきさんが使ってたやつだよな。勝手に使ったら怒られるかなぁ)

P(まあ、バレなきゃいいか?)

P「おやすみなさい……」

P(アイマスクをつけてからソファーで横になり、しばしの間、仮眠をとることにした)


73: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/17(木) 20:27:20.69 ID:hITll6Xv0

「あ……え、えっと……」

――普段とは違う視点。

「きょ……今日は……えと……」

――他の人たちは下からこっちを見ている。

「あ、ありが……と」

――うちは……何を見てんの?

「……」

――見渡す限りの眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼眼。


P「うわあぁぁっ!?!?」ガバッ

「わっ!? びくった……」

P「っ!? く、暗い! 目の前が真っ暗だ!!」

「ちょ、落ち着きなって」

P「だ、だって目が覚めたはずなのに何も見えないんだ!」

「アイマスクしてるからっしょ。ほれ――」パッ

P「――あ」

P「っ、まぶしい……」

「……もう」

愛依「プロデューサーって、案外、天然……ってヤツ?」

P「そ、そうなのかな……」

愛依「それか、疲れてんじゃない? ちょうど今まで寝てたわけだし」

P「まあ、確かに疲れたから仮眠を取ってたけど」

P「愛依はどうして事務所に?」

愛依「レッスン終わってから暇でさ。今日はうち1人でだったし、友だちは都合悪いしで――」

愛依「――なんとなくここ来てみたってコト」

P「そうか」

P「……というか、なんか変じゃないか?」

愛依「変って、何が?」

P「俺は愛依がいないときからソファーで寝てたけど」

P「愛依はいまソファーにいるよな」

愛依「そだね」

P「俺がソファーを独占してる形だったのにそれはおかしくないか?」

愛依「だって、事務所来てからプロデューサーが起きるまで膝枕してあげてたかんね」

P「膝枕か……なるほど」

P「って、膝枕と言ったか!?」

愛依「言ったけど……」

P「ものすごいスキンシップをとってしまった……プロデューサーとアイドルなのに……」

愛依「まあ、他の人に見られてないし、大丈夫じゃん?」

愛依「プロデューサー、ソファーで寝苦しそうにしてたからさ」

愛依「うち、寝かしつけるのちょー得意だから」

愛依「他に誰もいなかったし、膝枕でもしてあげようかなーって」

愛依「もしかして……嫌――だった?」

P「いや、そんなことはないぞ。ありがとう」


74: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/17(木) 20:48:27.63 ID:hITll6Xv0

P(よく眠れた――と言って良いのだろうか)

P(妙な夢を見た。自分の経験ではない、誰かの見た光景の夢……)

愛依「プロデューサー?」

P(まさか、な)

P「愛依の膝のおかげで残りの仕事も頑張れそうだよ」

P「ありがとう」

愛依「ばっ!? ……ひ、膝のお陰とか、わけわかんないし」

愛依「まあ、疲れが取れたならいっかな」

愛依「うちさ、スーツのままソファで寝苦しそうにして横になってるプロデューサー見て思ったんだよね」

愛依「うちがいつもすっごく楽しいのは、プロデューサーのお陰で」

愛依「プロデューサーが連れてきてくれたアイドルの世界で、あさひちゃんと冬優子ちゃんに会って」

愛依「うちのアレなところ、プロデューサーはアイドルとしてのキャラってことで形にしてくれて」

愛依「ほんと、感謝してもしきれないんじゃねって……」

愛依「プロデューサーはうちにいろいろしてくれる――」

愛依「――けど、うちがプロデューサーにしてあげられてることなんて、ない……」

愛依「だからさ、まあ、なんての? 貢献ってやつ?」

愛依「何言ってんだろうね、うち。はは……」

愛依「でも、何かしてあげたかったからさ」

P「愛依……」

P(いつもは明るくおおらかな愛依が――表情を暗くしていく)

P「別に気にすることなんてないぞ。貸し借りでプロデュースやってるんじゃないんだ」

P「それに、愛依が俺のプロデュースするアイドルでいてくれれば、それでいいよ」

愛依「……プロデューサーは優しいよね」

愛依「でも、駄目なんだよね。それじゃうちが納得いかないから」

愛依「だって、だって……さ」

愛依「うちが楽しく過ごせば過ごすほど、プロデューサーが……」グスッ

愛依「どんどん……疲れて、苦労しちゃうみたいで……」ポロポロ

愛依「そんなの、うちはやだよ……!」

P「あの、愛依……」

愛依「うちにはそう見えてんの! それが……うちは……」

P「……愛依は、俺にどうして欲しいんだ?」

P「プロデューサーとして、アイドルのためなら苦労だって疲労だって耐えてみせるくらいの気持ちではあるさ」

P「それでも、愛依がそんな俺を見るのが辛いっていうなら」

P「愛依がどうして欲しいか、聞かせてくれ」


75: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/17(木) 23:15:47.74 ID:cvyn3jfSO

愛依「……」

愛依「うちがプロデューサーにどうして欲しいか……」

P「今すぐに聞かせてもらえなくてもいい。愛依なりに言葉にできるようになったらでいい」

愛依「……うん」

愛依「わかった。そうする」

愛依「あー! 暗いのやめやめ! らしくないよね、こういうの」

P「愛依は普段通りなのがいいよ。そのほうが俺は安心する」

P「アイドルとしてクールなキャラを演じてる愛依もいいけど、俺がアイドルにしたいって思ったのは、自然体の和泉愛依って女の子だからさ」

愛依「そ、そういう言い方されると……照れる」

愛依「……さっきも言ったけど、さ」

愛依「毎日がすっごく楽しいんだよね」

愛依「ほんとに、楽しいんだ……」

愛依「でさー、なんか思ったんだよね」

愛依「楽しい――よりもすごい、それ以上のことってなんなんだろーなって」

愛依「で、まあ、頭良くないけどうちなりに考えて……」

愛依「それって、しあわせっていうんじゃないかなって」

愛依「前にさ、一緒に買い物行ったじゃん?」

P「ああ。ショッピングモールに行ったよな」

P「愛依に服を選んでもらった」

愛依「そそ。そんときね」

愛依「親子3人で仲良しの人たちを見て……あの人たちはきっとしあわせなんだろうなって思った」

愛依「それを思い出したときに、しあわせって楽しいだけじゃないのかなって」

愛依「もっと、楽しい以外の何かが必要なのかなって」

愛依「そんな気がしたんだよね~」

P「楽しい以外の何か、か……」


76: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/17(木) 23:48:54.07 ID:cvyn3jfSO

P「愛依の考えたことは、きっとそう簡単に解決する話ではないのかもしれない」

P「幸せが何なのか――それは、たぶん俺にもよくわからないから」

P「でも……そうだな」

P「幸せっていうのは、どんなに頑張っても1人では掴めないんじゃないかって思う」

愛依「2人いればいいってこと?」

P「2人以上、かな。3人でもいい。俺と愛依が見た家族は3人だっただろ」

愛依「あ、確かに」

P「2人でも幸せになれると思うけどね。大雑把に言えば、重要なのは、まずは1人じゃないってことだと思うんだ」

P「そして……自分が1人と思わないこと」

P「自分が……独りだと思わないことだ」

P「絆のないところに、幸せは生まれないと思う」

P「って、わかってないくせに何語ってるんだろうな、俺は」

愛依「ううん。プロデューサーの言ってること、なんとなくだけどわかるかも」

愛依「いまでもさ、ステージであがっちゃうの、克服できてないけど」

愛依「原因は昔のことだとしても、いま治せてないのは、うちがステージで1人だと思ってたからなのかもなーって」

愛依「だってさ、何も敵に囲まれたとかじゃないじゃん? やばい場所に置いてけぼりにされたとかでもないし」

愛依「うちには……ファンも、あさひちゃんと冬優子ちゃんも、なによりプロデューサーがいるのにさ」

愛依「……よし、決めたっ!」

愛依「楽しい以上の何か――目指してみるわ」

愛依「あと、しあわせにも、なってみたい……いつかね」ボソッ

愛依「今日はありがとね。プロデューサーのおかげで元気出た!」

愛依「うちがプロデューサーを癒してあげたかったんだけど~……やっぱプロデューサーには敵わないな~」

P「愛依が元気になったなら良かったよ」

P「俺はプロデューサーなんだ。アイドルのために頑張るのは、当然のことなんだよ」

P「……」

P「……って、何か忘れてるような気がするな」

愛依「そういえばプロデューサーさ、ずっと寝てたけど、仕事は大丈夫なん?」

P「……それだ」

P「タイマー設定しないで寝たからだ……! い、今何時――ってもうこんな時間か!?」

愛依「結構やばい感じ?」

P「とりあえず徹夜しないと駄目みたいだ……」

愛依「そっか~~……」

愛依「じゃあ、うちも事務所泊まる!」

P「いやいや、そういうわけにはいかないだろう」

愛依「今日は大丈夫! うち以外は全員家いるから」

愛依「友だちの家泊まったことにしておくから、ね?」

愛依「夜食も作ってあげるし、うちでも手伝えることがあればお仕事も助けるし、疲れたらまた膝枕してあげるしさー」

愛依「ねね、悪くないっしょ? うちさ~、今日は帰ったってたぶん楽しくないし、明日1日オフなんだよね~」

P「はぁ……。駄目って行っても帰らないんだろうなぁ……」

愛依 ジーッ

P「……他の人には絶対に内緒だからな」

愛依「やったね。テンションあがる~」アハハ

愛依「そんじゃ、ま、頑張ってこ~」


82: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 00:45:10.94 ID:ajgReNLiO

数日後。

~事務所~

P カタカタ

冬優子 ポチポチ

あさひ ポチポチ

冬優子 ポチポチ

あさひ「!」

あさひ「冬優子ちゃん!」

冬優子「うわっ、びっくりした……」

冬優子「あんたね……いきなり驚かさないでくれる?」

あさひ「ちょうどわたしもスマホ持ってるんすよ!」

冬優子「だから?」

あさひ「最近始めた対戦ゲームがあって、それを一緒にやって欲しいっす!」

冬優子「めんど……」ボソッ

冬優子「あのねえ、ふゆはふゆでスマホ使ってやってることがあんのよ」

冬優子「今は付き合ってられないの」

あさひ「そうっすか……」

愛依「まぁまぁ、あさひちゃん、それならそのゲーム、うちとやらない?」

あさひ「いいんすか!?」

愛依「ちょうど暇だったし、いいよー」

あさひ「やったっすー!」

P(今日は午前中にレッスンで午後は休みだというのに、どこかに遊びに行く様子もなく事務所でリラックス、か)

P(まあ、あいつらにとってここが居心地の良い場所になってるなら、いいのかな)

はづき「あ、プロデューサーさん」

P「はづきさん――どうしました?」

はづき「ちょっと今いいですかー?」

P「あ、はい。大丈夫です」


83: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 00:57:59.48 ID:ajgReNLiO

はづき「こういうプロジェクトがありまして……」ガサゴソ

はづき「はい、これが資料ですー」

P「ありがとうございます……」

はづき「……」

P「……」ペラッ


P「アイドルユニットのメンバーが1人でどれだけ輝けるのか――ですか」

はづき「そうなんです」

はづき「この大会は、言うなればW.I.N.G.のソロバージョンって感じでしょうか」

はづき「ただし、出場の条件として、普段は主にユニットで活動しているアイドルが1人で出ること――があります」

P「あえてそうすることで、ユニットとしての活動は個々のウィークポイントを隠すための手段ではないことを示せ――と言われているような気分ですね」

P「直接そう書かれているわけでも言われたわけでもないですが」

はづき「はい……」

はづき「この283プロダクションにも声がかかってまして、それでプロデューサーさんにお伝えした次第です」

P「……」

P「出ない、という選択肢はあるんでしょうか」

はづき「その選択肢は存在しているけども与えられていない、と言えば良いのか……」

はづき「最終的な判断はプロデューサーさんが下すことになります」

はづき「私から何か言うつもりはありません」

はづき「……プロデューサーさんの決めたことを、全力でサポートしますよー」

P「……」

P「わかりました」

P「あいつらと話してきます」


84: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 01:16:46.75 ID:ajgReNLiO

P「3人とも、少し、いいか?」

冬優子・あさひ・愛依「?」

P「実は――」


P「――というわけなんだ」

P「だから……」

P「……」

愛依「?」

冬優子「何よ、らしくないじゃない」

冬優子「要するに、その大会にふゆたち3人の中の誰か1人が出るってことなんでしょ」

冬優子「……っ」

愛依「あの、さ……2人ともなんでそんな深刻そうなん?」

愛依「W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?」

冬優子「それだけじゃないわ……!」

冬優子「この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ」

冬優子「プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って」

冬優子「勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ」

愛依「そ、そっか……そだよねー……」

愛依「なんか……ごめん」

愛依「でも、それならあさひちゃんが出れば――」

冬優子「――わかってんのよ!」

愛依「っ!?」ビクッ

冬優子「わかって……るのよ」プルプル

冬優子「そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!」

冬優子「これはふゆにとってチャンスでもあるのよ」ボソッ

冬優子「……ごめん。愛依にあたってもなんにもならないのにね」

冬優子「ごめん……」

愛依「いや、うちもあんま考えなしにしゃべってたし……」

P「まずは落ち着いてくれ」

P「俺は、誰が出ても構わないと思っている」

P「誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……」

P(愛依は冬優子に事の深刻さを知らされて若干ビビッちまってるな)

P(でも、愛依だって勝てる可能性は十分にあるんだ)

P(才能という意味では、確かにあさひは最強だろう)

P(それでも、あさひは完璧じゃない――完璧であろうとしていたのだとしても)

P(冬優子は――これを自分がのし上がるチャンスだと思っている)

P(だが、それは同時に、高いリスクを孕んでいる。それを冬優子はよくわかっているんだ)

P(だから、冬優子は「出たい」とは口に出せていない……)

P(あさひは特に意見なし、か……)

P「あさひ。お前はどう思う? 出たいか?」

あさひ「どっちでもいいっすかね。面白ければ出たいかもしれないっす」

冬優子「っ……!」グッ

愛依 アワアワ


86: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 01:29:19.04 ID:ajgReNLiO

P(3人の話し合いで決めさせるのは無理かもしれないな……)


P『誰が出ようと、俺が勝たせてやるまでだ……』


P(ははっ、随分と強く出たもんだな、俺)

P(でも、その気持ちがあるのは本当だ)

P(俺は、ストレイライトのプロデューサーとして、あいつらを必ず輝かせなければならない……!)

P(……)

P(一応、聞いてみるか)

P「どうだ? 誰が出るとか、決まりそうか?」

冬優子「……」

あさひ スンッ

愛依「……」

P「俺が、決めてもいいのか?」

冬優子「ふゆはあんたの決定に背かないわよ」

愛依「うちも……選ばれたら……その、ちょー頑張る」

愛依「あはは……なんかうまく言えなかったけど、でも――

愛依「――そのときは絶対勝つから」

P「あさひはどうだ?」

あさひ「プロデューサーさんにまかせるっすよ」

P「わかった」

P「俺は……」


1.愛依を選ぶ。
2.冬優子を選ぶ。
3.――この選択肢はロックされています―― 

選択肢↓2(いま選べるのは1.か2.です)


88: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 01:31:30.92 ID:vTb+QeTIO

2


92: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 02:34:28.62 ID:8+gcnYsAO

P「……冬優子」

冬優子「!」

P「出てみないか」

冬優子「そう……ふゆを選ぶのね」

P「強制はしないよ」

冬優子「別に出るのが嫌ってわけじゃないのよ」

冬優子「むしろ……ありがとう、というか……」ボソッ

冬優子「とにかく、あんたのこと、信じてるから」

冬優子「信じさせて……」

冬優子「ふゆも――死力を尽くすわ」

P「ああ、一緒に頑張っていこう」

愛依「うち、全力で応援するから……だから!」

愛依「……って、なんからしくないよね、こんなの」

冬優子「アイドルとしての愛依なら、別にらしいって言ってもいいんじゃない?」

愛依「ううん。いまのうちは、本当のうちとしても冬優子ちゃんのことと向き合いたいから」

愛依「だから、……うん。さくっと勝ってきてー!」

冬優子「はいはい。ご期待に添えるよう頑張るわ」

あさひ「……」

P(あさひは無言か……まあ、あさひのことだから、本当に気に留めていないのかもしれない)

P「いままで通りにユニットとしての活動も普通にあるからな」

P「冬優子は大会に向けてユニットとは別のスケジュールも組むことになるが……」

P「……ストレイライトは何も変わらないさ」

P「いつだって、お前らが一番だよ」

冬優子「もうっ、かっこつけちゃって……」


93: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 02:53:04.68 ID:8+gcnYsAO

数十分後。

P(あれから、自然に3人は、今日は解散、という流れになった)

P(冬優子だけが事務所に残った――まあ、残ってくれたほうがこちらとしては都合が良いけども)

P「冬優子、ちょっといいか」

冬優子「……奇遇ね」

冬優子「ふゆも、ちょうどあんたに話があったのよ」

P「そうか。それなら良かった」

P(社長は――今日は不在だ。はづきさんは仕事をしている)

P「よし、場所を変えよう」


P「って言っても、倉庫だけどな」

冬優子「きゃー♪ ふゆったら、プロデューサーと密室で2人きりでドキドキしちゃってます……!」

冬優子「……っていうのはまあいいとして」

P(いいのか……)

冬優子「あんたからでいいわよ」

P「ああ……」

P「決して易しい道ではない――いや、はっきりいって厳しい道だ」

P「それは、お前があさひじゃないからではない」

P「あさひだって、簡単にクリアできるものではないんだ、今回のは」

P「それでも、俺は冬優子と勝ちたい」

P「勝って……ストレイライトは単なるアイドルユニットを超える価値があるってこと、証明したいんだ」

P「俺のエゴがないわけじゃない……それでも」

P「冬優子と証明したい」

冬優子「……」

冬優子「……はぁ」

冬優子「あんた、なに当たり前のこと言ってんの」

冬優子「当然でしょ、そんなの」

冬優子「それに、あんたのエゴじゃないわよ」

冬優子「……じゃ、ふゆの番ね」

冬優子「これは、ふゆにとってのチャンスなの」

冬優子「負けは許されない……それでも、勝てばふゆはもっとアイドルとして輝くことができる……!」

冬優子「あいつにだって、負けない……!」

冬優子「だから、お願い」

冬優子「ふゆを勝たせて」

冬優子「あんたのしたいこと、ふゆに叶えさせて」

冬優子「それが、言いたかったことよ」


94: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/26(土) 02:57:43.61 ID:8+gcnYsAO

P「ストレイライトの全部を背負うことになるって、冬優子は言ったよな」

P「確かにその通りだ。だけど……」

P「冬優子にはそれができる」

P「いや、冬優子だからできるのかもしれない」

P「俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ」

冬優子「……そ」

冬優子「ま、これくらい乗り超えてみせるわよ」

冬優子「ううん。乗り超えられるの」

冬優子「あんたがいてくれるから、ね」ニコッ


98: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 00:40:19.14 ID:MhITpKdNO

1ヵ月後。

~大会 予選会場~

P(最初の予選の日がやってきた)

P(参加登録しているアイドルは実におよそ1500名だという)

P(この大会は3回の予選と1回の決勝で構成されている)

P(まず、1回目の予選で参加登録したアイドルたちがランダムに4つのグループに振り分けられる)

P(各グループにおける上位20%が2回目の予選に進むことができる)

P(2回目の予選では、残ったアイドルたちが再びランダムに4つのグループに振る分けられ、やはり各グループの上位20%が次に進むことになる)

P(3回目も同様だ)

P(最後の決勝では、それまでの審査員に加えて大御所をゲストに迎えたメンバーによって優勝と準優勝が決定される)

P「……」

P(最初の予選に向けて、冬優子はこれまで以上にレッスンや自主練・自主トレに励むようになった)

P(無理をしないか心配だったが……いまのところは大丈夫そうだな)

P(愛依は冬優子を応援したり精神的なケアをしたりしてくれた)

P(冬優子もそれにかなり救われていたようだ)

P(あさひは……まあ、相変わらずだが、やはりその天才としての努力やパフォーマンスは本物で――)

P(――冬優子は、それを今まで以上によく見ていると思う。才能への嫉妬や力量の差による悔しさだけではなく、自分が成長するための参考にしようと懸命になっているんだ)

P(ストレイライトは、確実にユニットとしての成長を見せている)

P(あとは……この大会で結果を残して、ユニットがごまかしのための在り方でないことを証明すれば……)

P(俺も、胸を張っていかないとな)

P(あいつらが一番頑張ってるんだから)

P「……お」

P(1回目の予選のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ3だってさ、冬優子」

冬優子「そ……まあ、どうだっていいわ」

冬優子「勝ち残って、結果を残すだけなんだし」

P「ははっ……そうだな」

冬優子「そろそろ控え室に行くわ」

P「まだ、スタンバイまでは時間あるぞ?」

冬優子「……ううん。いいの」

冬優子「ふゆにかかれば、1回目の予選なんて余裕よ」

冬優子「そのための努力をしてきたんじゃない……」ボソッ

冬優子「だから、あんたはただ、ふゆが出てくるのを待って、ふゆが歌って踊るのを見て、ふゆが勝ち残るのを見届ければいいのよ」

冬優子「それとも、自分のアイドルが信じられないの?」

P「……そんなわけ、ない」

P「わかった」

P「帰りの車で土産話が聞けるのを楽しみにしておくよ」

P「それでさ、勝ち残ってテンション上がったまま話すんだ」

P「だから……行ってこい、冬優子」

冬優子「ふふっ……ええ!」


99: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 00:52:40.51 ID:MhITpKdNO

~グループ3 控え室(大部屋1)~

冬優子(まだ、あんまり人がいないわね)

冬優子(かえって好都合かも……今のうちにリラックスしておこうかしら)

冬優子「ふぅ……」

冬優子(勝ち残るのを見届ければいい……か)

冬優子(自分のアイドルが信じられないのか、とも言ったわね)

冬優子(あいつが、そう言われたらそれ以上何も言ってこれないのわかってて……)

冬優子「……」

冬優子(ふゆだって不安よ)

冬優子(これまでにないくらい練習もトレーニングもした。それなのに――)

冬優子(――あいつには、まだまだ、全く及ばない……!)

冬優子(あいつを今まで以上に観察して、その才能の一部でもふゆのものにしちゃえって思ったのにね)

冬優子(見れば見るほど天才というものを思い知らされるだけじゃないの)

冬優子(あんなやつが他にいたとしたら、ふゆは勝ち残っていけるの……?)

冬優子(そうやって思わないわけ……ないじゃない)

冬優子(怖い……)

冬優子(ふゆを支えてくれた愛依にあわせる顔がないような結果になることが怖い)

冬優子(あさひの才能が頭をよぎって恐れるあまりに身体が動かなくなることが怖い)

冬優子(なにより――)

冬優子(――プロデューサーを、裏切るようなアイドルになってしまうんじゃないかって……それが一番怖い)

冬優子「?」

ヒグッ、グスッ、ウウッ

冬優子「……」

冬優子(そうよね。泣く子、いるわよね)

冬優子(泣きたい子だってたくさんいるはず)

冬優子(ふゆは……どうなんだろう)

冬優子「泣けたら……楽なのかしら」ボソッ


100: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 01:10:27.28 ID:MhITpKdNO

数十分後。

冬優子(しばらく楽にしてたけど、なんか時間が経つと逆に落ち着かなくなってくる……)

冬優子(何気なく控え室を出てうろうろしてるけど、特に目的があるわけじゃないのよね)

モウヒカエシツイッタホウガイインジャナイカ?

ウッサイ……ベツニマダジカンアルデショ

冬優子(なんか、プロデューサーと揉めてるアイドルがいるわね)

ア、オイ!

ハァ……ナニカ?

オマエナラカテル! ソレガイイタカッタ

ソウデスカ、デハ

冬優子(あの子、こっちに向かってきたわ)

冬優子(この方向って……ふゆが来た道――グループ3の控え室の方向だわ)

冬優子(同じグループなのかしら)

冬優子(……まあ、別に気にすることないじゃない)

冬優子(いまは自分のことを考えるのよ、ふゆ……)

冬優子「あ、自販機……」

冬優子(何買おうかしら)


101: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 01:36:34.93 ID:MhITpKdNO

~グループ3 控え室(大部屋1)入り口付近~

冬優子(結局、水を1本買って戻ってきたわ)

ウーン

冬優子(あれ? さっきの子……)

冬優子(どの部屋に入ればいいのか、わからないのかしら)

冬優子(同じグループでもいくつか部屋が分かれてるし)

冬優子「あのー……大丈夫、ですか?」

「あ……」

冬優子「結構分かりづらいですよね~同じグループでも、さらに部屋がわかれてますし」

「はい……。すみません、私、これなんですけど」

冬優子「……これは、ふゆと同じ部屋ですねっ」

「あ、そうなんだ」

冬優子「それなら話がはやくてよかった~。じゃあ、ふゆについてきて下さいね」

「ありがとうございます」


~グループ3 控え室(大部屋1)~

冬優子「はいっ、ついた~っと」

冬優子「あ、自己紹介がまだでしたよね」

冬優子「283プロの黛冬優子です! よろしくね、……えーと」

「……マドカ」

冬優子「マドカちゃんっていうのね」

マドカ「別に覚えなくていいですよ」

冬優子「どうして?」

マドカ「どうせ私は負けるし、今後会うこともないかもしれないので」

冬優子「そ、そんなこと言わないでよ~」

マドカ「……」

冬優子「アイドル、楽しくないんですか?」

マドカ「別に」

冬優子「別にって……」

マドカ「プロデューサーが勝手に盛り上がってるだけ」

マドカ「だから、私は別に……」

冬優子「そ、そっか……なんかごめんね? ふゆ、余計なこと聞いちゃったかも」

マドカ「気にしないでください」

マドカ「では、私は向こうのほうで適当に過ごしてるので」

マドカ「部屋、教えてくれてありがとうございました」

マドカ「さよなら」

冬優子「うん……ばいばい」


102: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 01:51:30.84 ID:MhITpKdNO

冬優子(なんだったのかしら、あの子)

冬優子(無理やりアイドルにされたとか、そういうことなの……?)

冬優子(負けることしか頭にないみたいだったわね)

冬優子(ふゆは、勝つことしか頭にないっていうのに)

冬優子「……」

冬優子 パンッ

冬優子(他人のことなんて気にしてる場合じゃない、か)

冬優子(イメトレでもしようかしら)


冬優子(なかなか出番にならないわね……イライラしてきたわ)

冬優子(緊張とかどうでもよくなってきたかも……)

冬優子(人がたくさんいる大部屋だと息苦しい……外に出て気分転換でもしよ……)


103: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 02:05:55.24 ID:MhITpKdNO

~グループ3 控え室付近廊下~

冬優子(外の空気で深呼吸したらだいぶ楽になったわ)

冬優子(あの部屋に居続けても良くなさそうね)

冬優子(出番までは……あと1時間か)

冬優子(どっか軽く振り付けの練習でもできるスペースはないのかしら)

ンダトコラァッ

冬優子「!?」

冬優子(ど、怒号……よね、今の)

冬優子 ソローッ

「あんたさっきから何? 舐めてんの?」

マドカ「そんなんじゃ、ありませんが」

マドカ「離してくれませんか。私なんかに構ってたら時間がもったいないんじゃないですか?」

「っ……!」

「あんたさ、さっきの、もういっぺん言ってみなよ」

マドカ「あぁ……あれ」

マドカ「笑っておけば何とかなる――アイドルって楽な商売」

マドカ「たしか、そう言いました」

「このっ!」

マドカ「っ」

冬優子(まずいわね、あれ殴られるわ)

冬優子(どうする……? 助けにいくの?)

冬優子(今日初めて会ったようなアイドルを? それも――)


マドカ『笑っておけば何とかなる――アイドルって楽な商売』


冬優子「っ!」グッ

冬優子(――あんなこと、言う子……)


冬優子『ふゆ、みんなを笑顔にしたいです! ――とか言っておけば、好感度上がるでしょ?』


冬優子(……助けないといけないじゃない)

冬優子「あの~」

「……誰」

冬優子「さすがにそうやって揉めてると問題になっちゃうんじゃないかな~って、ふゆ、思うんですけど……」

「チッ……、なにあんた、チクろうっての?」

冬優子「そんなこと言ってないじゃないですか~」

冬優子「でも、今日は大事な大会ですし、それ以外でエネルギー使うのは……それこそ後になってむかーっなりますよ」

冬優子「だから、どんな気持ちも自分の出番で爆発させちゃいましょうっ、ね?」

「ハァ……、こんなの助けても何にもならないわよ」

「まあ、私のためにもならないか」

「ほら、うせろよ。もう顔見せんな」バッ

マドカ「ぐっ」ドサッ

「……」スタスタ


104: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 02:21:33.33 ID:MhITpKdNO

冬優子「マドカちゃん! ……大丈夫?」

マドカ「あの人の言う通り」

冬優子「え?」

マドカ「私を助けたって、何にもなりませんよ」

マドカ「自分の出番に出れても出れなくても負けるようなアイドルなんて、倍率を下げる効果を持ちませんし」

冬優子「……そんなんじゃ、ないよ」

マドカ「あなたも聞いたんでしょう。私の言ったこと」

マドカ「アイドル舐めてるんですよ、私は」

マドカ「あなただって、私に怒りを覚えてもいいはずなのに」

冬優子「ふゆね、マドカちゃんの思ってること、なんとなくわかっちゃうかもしれないんだ」

冬優子「ううん。ふゆが勝手にそう思ってるだけなのかも」

冬優子「アイドル舐めてたって意味じゃ、ふゆも人のこと、言えないから……」

マドカ「……」

冬優子「でも、ふゆは負けないよ」

冬優子「ふゆは勝ちに来たの。ふゆがふゆとしてアイドルやっていけてるって証明したいから」

冬優子「そう思わせてくれる人がいたんだ」

冬優子「ふゆのプロデューサーなんだけどね……あ、これは秘密だよ」

マドカ「プロデューサー、か……」

マドカ「いい人に巡り会えたんですね」

マドカ「……」

マドカ「私も、そんな風に思えたら……」

冬優子「それならマドカちゃんだって勝てるよ! さっきつっかかってきた人なんて相手にならないんじゃないかな」

冬優子「マドカちゃん可愛いし、ほら、もっと笑おう? ね?」

マドカ「なにそれ……わけわかんない」

冬優子「え~、そんなことないよ~」

マドカ「さっきの人の去り際くらい意味不明」

冬優子「?」

マドカ「だって、さっき私に怒ってた人、うせろって言ったのに自分から去って行ったから」

冬優子「ぶっ!」

マドカ「わっ」

冬優子「ご、ごめんね……あははははは!」

冬優子「あー、おかしい。はは……」

冬優子「マドカちゃんって面白いね」

マドカ「そんな風に言われたこと、ない」

冬優子「可愛くて面白いなんて反則だな~、これはふゆのライバル……」

マドカ「もう、本当に何言って……」

マドカ「……あ、出番、あと少しだ」

冬優子「ああは言っても、出るんだよね?」

マドカ「出ないとプロデューサーも事務所もうるさいでしょうし、出たほうが身のため、くらいには」

冬優子「そっか。いってらっしゃい、マドカちゃん」

マドカ「……」スタスタ

冬優子「勝ったら……!」

冬優子「2人とも勝ったら、またお話しようね~!」


105: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 02:44:10.65 ID:MhITpKdNO

~グループ3 控え室(大部屋1)~

冬優子(なにやってんだろ)

冬優子(またお話しようね、か……)

冬優子(2人とも勝ったら……)

冬優子「よしっ」

冬優子(今度こそ集中集中。ふゆの出番まであと20分……確実に勝ち残るために、もう1回通しで振り返りよ)

冬優子 フリフリ

冬優子 キュッキュッ

冬優子 スタッ


予選終了後。

P「冬優子、お疲れ様」

冬優子「プロデューサー、ふゆの出番、ちゃんと見てた?」

P「当たり前だろ」

P「あれを見せられたら、心配なんて吹き飛んださ」

冬優子「なによ、やっぱり信じてなかったんじゃない」

P「信じてたよ。それでも、もしものことを全く考えないほど楽な思考してないんだ」

冬優子「……冗談よ。それでも信じてたって言わせたかっただけなんだから」

P「ははっ、そうか」

冬優子「結果発表までどのくらいあるの?」

P「予選はその日のうちに結果が出るからな……とはいえ、あと2時間くらいはある」

P「現地で結果を知ることもできるし、専用ページにログインして見ることもできる」

P「疲れてるんならもう車出すけど、どうする?」

冬優子「いいわ。ここで、自分の目で結果を見るから」

P「わかった。こんな場所だからテイクアウトになってすまんが、ほれ、夕飯だ」

冬優子「……ありがと」

P「とりあえず休もう。今は勝ち負けとか、これからのこととか、考えなくてもいいんだ」

P「飯食いながらどうでもいい話でもしてようぜ」

冬優子「それもそうね……あ、あそことか、テーブルと椅子があってちょうどいいんじゃない?」

P「だな」

冬優子「……」


P(2時間後、1回目の予選の結果が発表された)

P(冬優子は、無事通過できた)

P(結果を知ったときの冬優子は、声を震わせながら――)


冬優子『当然の結果よ』


P(――と言った)

P(とりあえず、最初の関門はクリアした)

P(この調子で勝ち進んで行こう)



――――第1回予選 グループ3 通過者一覧――――
………………… ………………… …………………
………………… 283プロ黛冬優子 …………………
………………… ---プロ マドカ …………………
………………… ………………… …………………


110: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 17:04:17.24 ID:MhITpKdNO

1ヵ月後。

~大会 予選会場~

P(2回目の予選の日がやってきた)

P(1回目の予選を通過してから、冬優子のメンタルは安定しているようだ)

P(淡々と練習を重ね、今に至る――良い状態・状況なんだろう)

P(特に俺が口を挟むこともなかった)

P「……」

P(どこか……寂しさを感じているのだろうか、俺は)

P(冬優子が1人でもやっていけそうなくらいに立派になってしまうと、俺の出る幕はなくなるような気がして――)

P(――それは、喜ぶべきことのはずなのにな)

P「それにしても……」

P(……減った)

P(上位20%しか残らないというのは形式的な手続きとして知っていたが、ここまで人が減るものなのか)

P(第1回予選のときとは違い、会場は静けさすら感じ取れるほどだった)

P(第3回はもっと人が減るんだろうな)

P「……お」

P(2回目のグループ分けの番号が発表になった)

P「グループ4だって」

冬優子 キョロキョロ

P「どうしたんだ?」

冬優子「えっ? あ、いや……なんでもないわよ」

P「?」

P(何か――あるいは誰か――探してるのか?)

冬優子「グループ分けの発表のページ、ふゆにも見せてもらえる?」

P「あ、ああ……これだ」

冬優子 ジーッ

冬優子「……あ」

冬優子「今回は違うんだ」ボソッ

P「何が違うって?」

冬優子「ううん。なんでもない」

冬優子「もう行くわ。早めに入っておいて損はないし」

P「ははっ、前回もそうだったな」

冬優子「……前回とは、違うわよ」

冬優子「ふゆね、不思議と落ち着いてるの」

冬優子「この前は、強がってた部分もあったけど……」

冬優子「あんたは、今度こそそこで、待っていればいいの」

冬優子「じゃ、行くわ」

P「ああ。行ってこい」


111: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 17:46:22.05 ID:MhITpKdNO

~グループ4 控え室~

冬優子(前回は1つのグループでいくつもの大部屋を使ってたというのに――)

ガラーン

冬優子(――もう、2回目にして1つのグループで大部屋1つとはね)

冬優子(前回は同じくらい早く来てももう少しくらはにぎやかだったと思うけど……)

冬優子(……まあ、勝ち残るっていうのは、そういうのを目の当たりにするってことでもあるのよね)

冬優子「……」

冬優子(あの子はどのグループにいるのかしら)

冬優子(別のグループみたいだけど……)

冬優子(気にしてもしかたない、か……)

ヒグッ、グスッ、ウウッ

冬優子「……あ」

冬優子(あれ、前回もふゆと同じ部屋で泣いてた子……よね)

冬優子(勝ち残ったんだ)

ネエ、アレミテヨ

ナンカナイテナーイ?

ナキタイコナンテイッパイイルノニ、カッテダヨネー

ピャウッ!?

冬優子「チッ……雰囲気も胸糞も悪いわね」ボソッ

冬優子(これ以上場の空気を悪化させるんじゃないわよ、ったく――)

「ねぇ、あんたさぁ」

「ぴゃ!? ななな、なんですか……?」

「泣きたい子なら他にもいるのよ。なのに、そうやって目立つように泣いちゃって……」

「ご、ごご、ごめんなさい……っ」

「申し訳ないと思うなら一人で目立たないところで泣いてろよ、ほら、出てけって」

「そ、そんな……」

冬優子(――世話の焼ける)

冬優子 スタスタ

冬優子「あっ、ここにいたんだねっ」ダキッ

「ぴゃ? だ、だr……ってむぎゅ」

冬優子「探したよ~、ほら、ここだと他の人に迷惑だし、ふゆとお外でお話してよ? ね?」

「は、はい……」


112: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 18:04:25.82 ID:MhITpKdNO

~予選会場 ロビー~

冬優子(とりあえずここまで来れば……)

冬優子(って、ふゆったらまた何してんの!? もう……)

冬優子(また人助け……ううん、これはあの場の空気を悪くしたくなかったふゆのわがまま)

冬優子(そう……よね)

「うう……わ、わたしになにか用ですか?」

冬優子「ごめんね。ふゆは別にあなたを怒ろうとか、そういうんじゃないの」

冬優子「あそこにいたら……ね? あんまりいい気持ちしなかったじゃない?」

「ありがとうございます……」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。あなたは?」

「は、はいっ、わたしは――」

コイト「――コイト、です」

冬優子「コイトちゃんっていうんだ。よろしくね!」

冬優子(それにしてもこの子……)ジーッ

コイト「な、なな……なんでしょうか……」

冬優子(か、可愛い……)

冬優子「……推せるっ!」

コイト「わぁっ!? び、びっくりしました……」

冬優子(やばっ……!)

冬優子「あっ、ご、ごめんね。コイトちゃん可愛いから、つい……」

コイト「か、可愛いだなんて……そんな……えへへ」

コイト「お世辞でも……う、嬉しいです。ありがとうございます」

冬優子「ううん。お世辞なんかじゃないよ。本当に可愛い」

冬優子(伊達に勝ち残ったわけじゃない、か)

冬優子「コイトちゃんはどう? 大会は順調?」

コイト「え、ええ……まあまあです、たぶん……」

冬優子「そっか」

コイト「わたし、だめだめなんです」

コイト「プロデューサーさんも友だちもいない……こんな一人ぼっちで放り出されても……」

コイト「泣いてることしか、できませんから……」

冬優子「それでも、最初の予選には勝てたから、ここにいるんでしょ?」

コイト「そ、それは……まあ、いっぱい練習しましたから……」

コイト「でも、わたし一人にできることなんて……」

冬優子「……」

冬優子「もうっ、暗いのやめやめ! もっと楽しくなきゃ、ね?」

コイト「楽しく……」

冬優子「そうだよっ。コイトちゃん、もっと笑わなきゃ!」

コイト「あ、あはは……はい」

冬優子「コイトちゃんが笑顔になるときってどんなときなの~?」

コイト「わたしが……」

コイト「……あ、飴っ」

冬優子「?」

コイト「飴、好きで……食べると思わず……な、なんて……えへへ」


113: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 18:11:16.38 ID:MhITpKdNO

冬優子「いま持ってないの?」

コイト「も、もちろん持ってます! これ……」

冬優子「わぁ~っ、いっぱい持ってるんだね」

コイト「はい。あむっ」

コイト「……」

コイト ニパァッ

冬優子 キュン

コイト「あ、飴あげちゃいます……! どうぞ」

冬優子「いいの?」

コイト「さっき、た、助けてくれた……お礼です」

コイト「迷惑だったらごめんなさい」

冬優子「ううん。ありがとうっ。じゃあ、これもらっちゃうね」

コイト「はいっ」

冬優子(飴……か。久しく食べてないわね)

コイト ニコニコ

冬優子(……さっきまで泣いてたのに、この子、こんな顔もできるんだ)

冬優子(でも、それは作り物じゃない、きっと本物の……)

冬優子「……」

冬優子 パクッ

冬優子「……」

冬優子「……おいし」

冬優子(今度からのど飴以外も買ってみようかしら)


114: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 18:26:54.19 ID:MhITpKdNO

「……あ」

冬優子「あ」

コイト「あっ――」

コイト「――マドカちゃん」

マドカ「コイト、こんなところにいたんだ」

マドカ「それに……」

冬優子「マドカちゃん久しぶり!」

マドカ「あなたも……」

マドカ「コイト。控え室にいなかったから探したんだけど」

コイト「ご、ごめんね……」

マドカ ジーッ

マドカ「……涙の痕……泣いたの?」

マドカ「まさか、泣かしたやつらが……」

コイト「も、もう大丈夫……! だから」

コイト「助けてもらったんだよ」

冬優子「えへへ……」

マドカ「はぁ……」

マドカ「まあ、無事ならいいけど」

マドカ「そろそろ出番だから、私は行くけど、コイトは大丈夫なの?」

コイト「う、うん……頑張るから……」

マドカ「……そう」

マドカ スタスタ

冬優子「マドカちゃん……」

コイト「し、知り合いだったんですね」

冬優子「この前の予選でちょっとね」

冬優子「コイトちゃんは……」

コイト「あ、わ、わたしは、お、幼馴染……だから」

冬優子「そうなんだ~!」

コイト「事務所も一緒なんです。というか、ユニットも」

冬優子「仲良しなんだねっ」

冬優子「マドカちゃん、コイトちゃんのことすごく心配してくれてたみたいだし」

コイト「は、はい。昔からずっとこんな感じで……」

コイト「マドカちゃんには、心配かけてばかり……」

コイト「ほんとうは、マドカちゃんとか、プロデューサーさんにも、わたしがいないとだめだめだねって言えるくらい……強くなりたいんです」

コイト「でも、そんなの無理で……わたしは泣き虫だし、ちっちゃいし、臆病だし……」

コイト「だめだめなのはわたしで、アイドルをやっていくうちに治ると思ったんですけど……」

コイト「もっとだめだめになっちゃったかもしれないです」グスッ

冬優子「コイトちゃん……」


115: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 18:55:02.04 ID:MhITpKdNO

冬優子「ふゆはね、コイトちゃんは強いと思うよ」

コイト「ぴゃ? な、なんでですか……?」

冬優子「自分の弱さを知ってることって、ふゆは強いと思うもん」

冬優子(自分が情けないところなんて、目を背けたくもなるわ)

冬優子(でも、この子はきっとそうじゃない……)

冬優子「そういう強さがあるから、最初の予選に勝って、こうしてふゆと出会えたんじゃないかな」

冬優子「コイトちゃんと知り合えたのも、コイトちゃんの強さのおかげだねっ」

コイト「え、えへへ……そうですかね」

コイト「……」

コイト「わたし、焦っちゃってるんです」

コイト「アイドルをやっている人たちには、いろんな才能を持った人たちがいて」

コイト「努力だって人の何倍も何十倍もしてる人たちがいて」

コイト「みんな……すごいなって」

コイト「わたしなんて、頑張らないと、きっと置いていかれちゃう……」

コイト「事務所の方針で……マドカちゃんと同じユニットのわたしも、そ、その、特例……で出てますけど……」

コイト「……わたしが出たって、き、きっと迷惑をかけるだけなんじゃないかって、そう思っちゃうんです」

冬優子「……」

冬優子(その言葉を聞いて、ふと、脳裏にはあいつの顔が思い浮かぶ)

冬優子(天才、努力家、すごいアイドル……全部あてはまるバケモンが)

冬優子(もし、283プロも裏技とかを使ってストレイライトからあいつとふゆを出していたら……)

冬優子(……そんなことはあり得ないとしても、考えるだけでゾッとする)

冬優子「ふゆもそうだよ」

コイト「えっ?」

冬優子「同じユニットにすごい人がいて、いつも置いていかれないように頑張るの」

冬優子「って言っても、いつも置いていかれっぱなしなんだけどね~。あはは……」

冬優子「今もね。その子のことを考えると、自信をなくしそうになっちゃうときがあるの」

冬優子「でも……ふふっ。コイトちゃんを見てたら、ふゆも頑張れるって、そう思ったんだ」

冬優子「だって、コイトちゃん、今まですっごく頑張ってきたんでしょ?」

コイト「……」

冬優子「そんなコイトちゃんを見たら、ふゆだって頑張りたくもなるよ」

コイト「わ、わたし……頑張れてますか……ね」

冬優子「うんっ! 予選に勝てたのだって、ここまでアイドルをやってこれてるのだって、コイトちゃんの力だよ」

冬優子「この大会は、ユニットは関係ないんだもん」

コイト「だめだめ、なんかじゃなくて……わたし……ちゃんと……グスッ」

冬優子「大丈夫……きっと大丈夫だよ」ナデナデ

コイト「わっ、わたし……っ!」ポロポロ

コイト「ふ、不安でした……怖かったです……。みんなすごくて、頑張ってても置いていかれて、居場所なんかなくなっちゃうんじゃないかって……」ポロポロ

コイト「それでも、アイドルだって、お、お勉強だって、いっぱいいっぱい……頑張ってきたんです……!」ポロポロ

コイト「それを……わかってくれる人なんて……いなくて……」ポロポロ

冬優子「ふゆが知ってる――わかってるよ。コイトちゃんが頑張ってること」

冬優子「それに、マドカちゃんだってきっとわかってくれるって……ふゆは思うな」

コイト「え、えへへ……そう、ですよね」ポロポロ

冬優子「あ、ふふっ、また笑ってくれたね。そうだよ。そういう顔してなくっちゃ……ね?」


116: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/09/29(火) 19:06:30.01 ID:MhITpKdNO

冬優子「落ち着いた?」

コイト「は、はいっ。お化粧まで直してくれて、ありがとうございます……」

コイト「今日会ったばかりなのに……なんか、えへへ」

冬優子「ふふっ、変なの……って?」

コイト「べ、別に変とは……言ってません、よ」

冬優子「気にしなくていいのに」

冬優子(本当に変……ふゆ、大会でライバルになるような子に、こんな……)

冬優子(敵に塩を送るようなことして、なにがしたいんだろ……)

冬優子(でも、不思議ね)

冬優子(時間の無駄とか、後悔とか、そういうのは全然思わないんだから)

冬優子「……ほんと、なんなんだろうね」アハハ

冬優子「そろそろ控え室戻ろっか」


~グループ4 控え室~

冬優子(コイトちゃんをいびってたやつらはもう行ったみたいで良かったわ)

冬優子「さて、と……」

冬優子(出番まであと少し……最後の追い込みよ、ふゆ)


冬優子「……」

冬優子(まあ、こんなものね)

冬優子「じゃあ、行きますか」

コイト テテテテ

コイト「あ、あのっ」

冬優子「あっ、コイトちゃん。どうしたの?」

コイト「さ、ささ……」

冬優子「?」

コイト「……3回戦で会いましょう!」

コイト「そ、それを、言いに来ました……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「えへへ……2人とも勝てるって、思ったから……」

冬優子「ありがと。うんっ、頑張ってくるね」

コイト「はいっ! い、いってらっしゃい!」

冬優子「ふふっ、いってきます」ニコッ

冬優子(……あ)

冬優子(いまの笑顔は、ふゆの本物だったかも)





――――第2回予選 グループ4 通過者一覧――――
………………… ………………… …………………
………………… 283プロ黛冬優子 …………………
………………… ………………… ---プロ コイト
………………… ………………… …………………


123: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 00:36:05.96 ID:UbGTNLKm0

1ヵ月後。

~大会 予選会場~

P(予選も3回目に突入した)

P(これが、最後の予選となる)

P(前回の予選を終えてから、冬優子はさらに成長したように見える)

P(アイドルとしての“ふゆ”と1人の人間としての“冬優子”のバランスが良くなった……と言えば良いんだろうか)

P(冬優子のアイドルとしての振る舞いに、疑いようのない「本物」を感じる)

P(……良い。これは良いことだ)

P(手ごわい審査員を相手にしても、今の冬優子なら完璧に魅了することができるんじゃないだろうか)

P(勝てる……勝てるぞ……!)

P(冬優子の成長を、俺は、自分のように嬉しく思っていた)

P「もう、俺の出る幕なんてないんじゃないか? ――ははっ、なんてな……」ボソッ

P(実際、予選を勝ち進むに連れて、俺がアドバイスすることはほとんどなくなっていた)

P(冬優子もレッスンや自主トレに熱心に取り組んでいる。余計な口出しになるくらいならしたくなかった)

P(最近、冬優子との会話自体があまりないよな……)

「――あ」

P(業務連絡のほうが多くなってきてるよな……)

「ねえ」

P(よし、本番前に冬優子の様子を見に行ってみるか)

P(邪魔になりそうならすぐ退散すればいいだけだし)

「……聞いてる?」

P「え? わ、私でしょうか……?」

「ふふっ。なにそれ」

P「っと、君は――」


冬優子(3回戦ともなると、とても静かね……)

冬優子(それもそっか……もう、勝ち残ってるアイドルは、100人を余裕で下回ってるんだし)

冬優子(……今回も、例によって出番までちょっと暇なのよね)

冬優子「あ、そうだ」

冬優子(あいつにグループ分けの番号聞きに行かなきゃ)

冬優子「……」

冬優子(そういえば、最近、そもそもあんまり話してないような……)

冬優子(って、なになに!? ふゆってば、あいつと話せなくて物足りなさを感じてる!?)

冬優子(そんな少女漫画的思考……)

冬優子「……」

冬優子(こ、これは番号を聞きに行くだけ……そう、それだけよ)

冬優子(それだけ……なんだから)

冬優子 スタスタ


124: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 00:59:52.12 ID:UbGTNLKm0

冬優子(あ、いたいた――)

冬優子(――って、誰かと話してるじゃない)ササッ


P「久しぶりだな」

「お互い様、だね」

P「まさか、こんなシチュエーションでまた会えるとは思ってなかったよ」

「わたs……僕もだよ」


冬優子(と、とっさに隠れちゃったけど……)

冬優子(誰……? アイドルの子かしら)

冬優子(まあ、ふゆがあの子を知らないように、あの子だってふゆのことは知らない、か……)

冬優子(それにしても――)


P「ははっ、今でも自分のこと僕って言ってるのか?」

「ううん。そうでもない」

P「そうでもない……?」

「うん。普段は、私。アイドルのときも、私。でも、今は、そのどっちでもないから」

P「? そ、そうか……」


冬優子(――綺麗な人)

冬優子(あいつにとって、あの子はどういう存在なのかしら)

冬優子(って、気にしてもしょうがないわよね)

冬優子(さっさと番号聞いて控え室に行けばいいのよ)


冬優子「プロデューサーさんっ」

P「お、冬優子か。……そうだ、ちょうど、さっきは様子を見に行こうとしていたんだった」

冬優子「そうなんですね! ありがとうございますっ」

冬優子「ふゆ、グループの番号を知りたいなって」

P「そうだよな。ちょっと待っててくれ」

P「あ、そうだ。紹介するよ。こいつはトオルっていって……」

「とっても仲良しな俺の幼馴染」

P「そうそう――って、仲良しなら、しばらく疎遠にはなってなかっただろ」

P「今のお前は、アイドルのトオルだしな」

トオル「ごめんね? なんていうか、言ってみたかっただけ」

P「ははっ、なんだそりゃ」

P「トオル、こっちは、俺がプロデュースしてるアイドルの黛冬優子だ」

冬優子「283プロの黛冬優子ですっ。よろしくお願いします、トオルさん!」

トオル「よろしく……」

冬優子「プロデューサーさんの幼馴染だなんて、すごいですね~」

トオル「ふふっ、いいでしょ。……なんて」ボソッ

冬優子(は?)イラッ

冬優子(なんか今、さりげなく自慢されたわよね。ふゆの地獄耳が聞き取ったわよ)

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(って、今はアイドル! アイドルのふゆなんだから……落ち着け落ち着け……)

冬優子「そ、それで! プロデューサーさん、番号はいくつですか?」


125: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 01:22:14.63 ID:UbGTNLKm0

~グループ2 控え室~

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子「…………」

トオル「…………」

冬優子「………………」

トオル「………………」

冬優子(なんで同じグループなのよ!!)

冬優子(しかも、1グループに15人くらい上に今回から大部屋じゃなくなったから距離が近いじゃない……)

冬優子(それならできるだけ離れたところに座ればいい――というわけにもいかなかったのよね)

冬優子「……」


冬優子『……お、おんなじグループ、なんですねっ』

P『冬優子、顔が引きつってるぞ』ミミウチ

冬優子『う、うっさい……!』ボソッ

冬優子『そ、それじゃあふゆは、控え室に行こうかなー……』

トオル『ぼk……私もそろそろ行かなきゃ』

トオル『あ、そうだ』

トオル『ねえ』

P『なんだ?』

トオル『私のプロデューサーになってよ』

冬優子『は、はあっ?! ……ってヤバっ』

P『えっと、何を言ってるんだ? トオル』

トオル『うちのプロダクションの……えっと、あのおじさん……いや、とにかく偉い人がね』

トオル『あのプロデューサーは是非うちに欲しい……とか言ってて』

トオル『だから、そういうこと』

冬優子『プロデューサーさん? ちょっといいですか?』グイッ

P『お、おい、引っ張るなって……』

冬優子『今の話、どういうことなのよ……!』ヒソヒソ

P『知らないって。突然言われて俺も混乱してるんだ』ヒソヒソ

冬優子『ふ、ふーん。どうだか』ヒソヒソ

P『本当なんだって』ヒソヒソ

冬優子『幼馴染との久々の再会と思わぬヘッドハンティングでニヤニヤしてんじゃないわよ』ヒソヒソ

P『そんなことないって……。何を怒ってるんだ……』ヒソヒソ

冬優子『怒ってないっての……! バカ』ヒソヒソ

トオル『えっと、あの……』

P『あ、ああ……すまんな、なんか』

トオル『ううん。こっちこそ、突然言い出してごめん』

トオル『でも、私は――』

トオル『――この話を受けてくれたら嬉しい、かな』

トオル『まあ、そういうことだから』スタスタ

P『あ、おい、トオル……って、冬優子もいつの間にかいなくなってるし……。はぁ……』


冬優子(ぐだぐだやってたおかげで控え室の場所がほとんど埋まって隣同士になるしかない――なんて)


126: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 02:02:36.16 ID:UbGTNLKm0

冬優子・トオル「あの……」

冬優子「あ……」

トオル「あっ」

冬優子「えっと、どうかしましたか?」

トオル「名前……」

冬優子「?」

トオル「黛――千尋さん」

冬優子「洛山高校3年の“新型の幻の6人目(シックスマン)”……ってアイドルとしては斬新過ぎるし違うかなぁ……」

冬優子(「つーか 誰だお前」って言ってこの場を去りたくなってきたわ)

トオル「えと、黛……真知子さん?」

冬優子「ふゆは古美門法律事務所の弁護士ではないかなー……」

冬優子(朝ドラのヒロインなら、仕事としては魅力的だけど)

冬優子(まあ、あれは馬鹿にされて言われてるだけだったわね)

冬優子「もうっ、黛冬優子だから……!」

トオル「ふふっ、ごめんごめん」

トオル「あ、はじめましてだから、敬語のほうがいいんだっけ」

冬優子「ふゆに聞かれても……」

冬優子(調子狂うわね……)

冬優子「じゃあ、お互い敬語は無しってことにしよ?」

トオル「……うん。わかった」

冬優子「……」

トオル「……」

冬優子(どっちかが出番来るまでこれって……嘘よね……?)


127: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 02:21:27.50 ID:UbGTNLKm0

冬優子「幼馴染って言ってたよね」

トオル「あ、うん」

冬優子「よく一緒に遊んでたの?」

トオル「まあ……そう、かな。もう、だいぶ前になっちゃったけど」

トオル「あの人は、まだ中高生だった」

トオル「公園で一緒に……ジャングルジムで遊んでた」

冬優子(中高生男子が小学生以下の女子とジャングルジムで遊ぶってどうなのよ)

冬優子(この子が、昔は活発な女の子だったとか?)

冬優子(まあ、どうでもいいけど)

トオル「それから、しばらく疎遠になって、いろいろあって私はアイドルになって……」

トオル「……それで、偶然、仕事の現場にあの人がいるのを見つけた」

トオル「他のところで、プロデューサーやってた」

冬優子「……」

トオル「なんかね、評判良いみたい」

トオル「私のいるプロダクションにも噂が届くくらいに」

冬優子「そう、なんだ……」

冬優子(あいつ、仕事できるもの……そんなの、むしろふゆが誇ってもいいことなのに……)

冬優子(そこから続く話題が、それを妨げる)

トオル「それで、私のとこの偉い人が引き抜きたいって言ってたから」

トオル「もしそうなったら、私のプロデューサーになって欲しいなって」

トオル「そう思った」

冬優子「……っ」

冬優子(なによ。なんなのよ、これ……)

冬優子(焦り? 不安? 怒り?)

冬優子(得体の知れない居心地の悪さと息苦しさ……)

冬優子(本番前だってのに……! こんなとこでストレス抱えてられないのに……!)

トオル「別に、プロデューサーを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「別に、Pを取っちゃおうってわけじゃなくて」

トオル「Pから来てくれたら、嬉しいなって」

冬優子「っ!」ダッ

トオル「あ……」


128: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 02:43:43.94 ID:UbGTNLKm0

~グループ2 控え室付近廊下~

冬優子「……っ」ズカズカ


トオル『Pから来てくれたら、嬉しいなって』

トオル『だから、気にしないで、いいと思う……』


冬優子(ふざけんじゃないわよ……!)

冬優子(幼馴染だかなんだか知らないけど、勝手なこと言って……!)

冬優子(自分から来てくれたら嬉しい? そんな言い方、余計にたちが悪いっての!)

冬優子「……」ハァハァ

冬優子(……なんでこんなにむかついてるのかしら。ふゆにとって、あいつは……プロデューサーは……)


P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子(ああ言われて、ふゆは……)


冬優子『ふゆはあんたに推されるくらいじゃ足りないから!』

冬優子『ガチ恋させてやるんだから――ちゃんとふゆのこと、見てなさいよね!』


冬優子(……そう言った)

冬優子(アイドルとプロデューサー? ……笑わせるわね)

冬優子(ふゆにとっては、最早、あいつはただのプロデューサーじゃない)

冬優子「……そっか」

冬優子(そういうことか)

冬優子(ふゆは、気づいてないふりをしていただけ……)

冬優子「あ、時計……って嘘!? 思ったより出番まで時間ないじゃない!?」

冬優子「戻らなきゃ――」


「冬優子!」バッ


冬優子「――……」ピタッ

P「はあっ……はあっ……」ゼエゼエ

冬優子「……あんた、こんなとこで何してんのよ」

P「もともと……冬優子の様子を見に行こうと思ってたんだ」

P「ほら、その……最近あまり関われてなかっただろ? 話す機会だってあんまりなくてさ」

P「今の冬優子なら、もう俺なんか必要ないんじゃないかって思ったこともあった」

P「この大会で勝ち残っていく中で、冬優子は、格段に、確実に、成長してたから」

P「でも……それでも、俺は」

P「俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも」

P「冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ」

P「それを、伝えたくて……」

冬優子(あーあ……余計にあんたが必要になっちゃった。ただでさえ、ふゆはあんたにいて欲しいのに)

冬優子「ばーか」ニコッ

冬優子「そんなの、当たり前じゃない!!」


129: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/11(日) 03:01:30.74 ID:UbGTNLKm0

冬優子『ばーか』ニコッ

冬優子『そんなの、当たり前じゃない!!』


P(そう言って、冬優子は走っていった)

P(去り際、その顔は確かに笑っていた。笑って……くれた)

P(その時――俺は、“冬優子に応えられた”気がした)


P(予選3回戦――黛冬優子のパフォーマンスは、他のアイドルのそれを凌駕していた)

P(俺がプロデュースしてたのはこんなにも魅力的なアイドルだったのかと、実感させられた)

P(それは、俺が冬優子のプロデューサーだからとか、俺が既に冬優子に魅了されていたからとか、そういうことだけではないはずだ)

P(冬優子は自分のために輝こうとするアイドルだ)

P(冬優子は誰かのために輝けるアイドルだ)

P(そして、最早、何者も恐れない、何者とも比べられない)

P(俺に言わせれば、真に唯一無二で最強のアイドルだ)

P(そんなものを見せられたら、誰だって圧倒されるに決まってるのだから)



――――第3回予選 グループ2 通過者一覧――――

………………… 283プロ黛冬優子 …………………
___プロ トオル 


132: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/18(日) 23:42:56.75 ID:6fesmXWL0

数日後。

~事務所~

P(最後の予選が終わった)

P(冬優子は、決勝に向けて最後の追い込みをかけている)

P(俺の心配することなんて何もない)

P(俺は、冬優子のプロデューサーとして在ればいい)

P(あとは、冬優子を信じて、自分のやりたいようにやらせるだけだと思った)

P「……っと、そろそろだな」

タッ、タッ、タッ

P「おかえり」

冬優子「……ただいま」

P「……」

冬優子「……」

P「……」

冬優子「……聞かないの?」

P「何をだ?」

冬優子「レッスンはどうだったのかって」

P「聞かなくても、見ればわかるからな」

P「俺は冬優子のプロデューサーなんだから、言わなくても通じることってあるよ」

P「話すことが少なくなっても、それは距離ができたからじゃなくて、話すまでもなく通じるようになったからなんじゃないかと思ってさ」

冬優子「ばか」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「ふふっ……あっそ」

P「ああ」

冬優子「……ソファー、座るわね」

冬優子「っしょっと」

冬優子「……」

P「……隣、なんだが」

冬優子「うん」

P「近くないか?」

冬優子「嫌なの?」

P「そういうわけじゃないけど……」

冬優子「じゃあいいじゃない」

冬優子「……来るところまで来ちゃったわね」

P「来るべきところに来たんだよ」

P「それに、まだ終わりじゃないぞ?」

冬優子「わかってるわよ。決勝でしょ」

冬優子「なんかね、緊張とかプレッシャーとか……そういうの、ないのよね」

冬優子「本番でどうなるかは知らないけど」

冬優子「なんか、変に怖いもの知らずになった気がするわ」

冬優子「ふゆに似合わず、ね」ボソッ

冬優子「あーあ、ふゆがこうなったのも、あんたのせい――」

冬優子「――ううん、あんたのおかげね」


133: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/19(月) 00:00:25.31 ID:GDqHuMqM0

P「予選の間に俺が何かしてやれたことなんてあったか?」

冬優子「……はぁ」

P「?」

冬優子「っ、いいの! 別にあんたは知らなくても」

P「あ、ああ……よくわからんが」

冬優子「あーもう! だーかーらー……」

冬優子「あんたはそうやって、ふゆのプロデューサーをしているだけでいいって言ってんの」

冬優子「ふゆにはそれだけで……」

ヴーッヴーッ

P「……っと、すまない。電話だ」

P「ちょっと席を外すよ」

冬優子「あ……」


冬優子(あいつにとって、ふゆは何なのかしら)

P『俺は、黛冬優子のプロデューサーだ。これまでも、これからも』

P『冬優子が要らないって言っても、俺は、ずっとお前のプロデューサーでいつづけたい。冬優子を支えたいんだ』

P『それを、伝えたくて……』

冬優子(“プロデューサー”――ね)

冬優子(それ以上を臨むのは、それこそふゆのエゴ……)

冬優子(でも、もしもそのエゴにあいつが付き合ってくれるなら、ふゆは……)

P「電話、終わったよ」

冬優子「ひゃっ」

冬優子(やば、変な声でちゃったじゃない……)

P「? それで……なんだったっけか」

冬優子「べ、別になんでもないわよ」

冬優子「何の電話だったの? シリアスな感じに見えたけど、スマホにかかってくるなんて、急じゃない?」

P「それなんだけど、突然決勝を棄権することになった子がいるって連絡が入ったんだ」

冬優子「決勝ってことは、最後の予選も勝ち抜いたってことよね」

冬優子「人数も少なかったし、名前を聞けばわかるかも」

冬優子「なんて子なの?」

P「ああ、それは――」


134: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/19(月) 00:06:39.17 ID:GDqHuMqM0

~病院~

カツッ、カンッ

「……っ、く……」

カンッ

「っと……」

スルッ

「あ――」

ドタッ

「――くっ」

「こんなの……」

「……? って――」

冬優子「ほら、手、貸すよ?」

「――はぁ」

「どうも……」

冬優子「よかったら、ふゆと少しお話しない?」

冬優子「すごく疲れてるように見えるもん――」


冬優子「――マドカちゃん」


135: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/19(月) 00:29:58.05 ID:GDqHuMqM0

~病院 ラウンジ~

マドカ「……誰から聞いたんです?」

冬優子「プロデューサーさんだよ。棄権する子が出たって急に連絡が来たから」

マドカ「そう、ですか……」

冬優子「マドカちゃん、その怪我って……」

マドカ「……」

マドカ「まあ、隠しても仕方ないですし」

マドカ「……さすがに私も愚痴りたい」ボソッ

冬優子「?」

マドカ「いえ、なんでも」

マドカ「コイト、決勝戦に進めなかったんです」

冬優子「そう、なんだ……」

マドカ「コイトと私は同じグループで、コイトは負けて、私が勝ち残った……」

マドカ「……と、結果はそういう形になりました」

マドカ「……」

マドカ「私は、アイドルとしての自分について否定的でした」

マドカ「アイドルという仕事そのものに対しても、半ば見下したような思いを抱いていて……」

マドカ「でも、決勝に進めるというところまで来て、考えを改めました」

マドカ「ここまで来た理由――最初は、ただ怖かっただけだったんです。周囲の期待を裏切るのが」

マドカ「それが、勝ち進むうちに嬉しいと感じている自分に気づいて――」

マドカ「――最後には、周囲の期待に応えようと思えた」

マドカ「コイトが負けて私が勝ったということの意味を、私はきちんと成そうと思えたんです」

マドカ「そう思った矢先に――」


コイト『ま、マドカちゃんのダンス、今までと全然違って見えたよ!』

マドカ『コイトもうまくなってる』

マドカ『……』

マドカ『……ねえ、いつも私と一緒にレッスン受けてるけど』

マドカ『なにも、オーディションが受けられる日にまでそうしなくたって』

コイト『わ、わたしね……』

コイト『すっごく……く、悔しかったんだよ』

コイト『でもね、マドカちゃんが勝ったのは、それよりもずっと嬉しかったから……』

マドカ『コイト……』

コイト『そ、それに……! 決勝に進出したアイドルの技を盗むチャンスでもあるし!』

コイト『な、なんて……えへへ』

マドカ『……そっか』

マドカ『ありがと』ボソッ

コイト『あ、マドカちゃん、ヘアピン……』

マドカ『あれ、ない……レッスンの部屋に置いてきたのかも』

マドカ『取ってくる。先に帰っててもいいから』

コイト『ううん。こ、ここで待ってる』

マドカ『……そう』


136: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/19(月) 00:34:58.74 ID:GDqHuMqM0

数分後。

マドカ『(すぐに見つかってよかった)』

マドカ『(ここを曲がって……)』

マドカ『(この階段を下りれば、コイトがいる)』

コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


マドカ「――誰かに、階段の一番上から突き飛ばされたんです」


140: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/30(金) 01:23:42.69 ID:Ib1RV2SoO

冬優子「ひどい……誰がそんな……」

冬優子「これから頑張ろうってなったばかりなのに……」

マドカ「……」

マドカ「位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです」

マドカ「……聞いても、コイトは言おうとしませんが」

冬優子「言いたくない理由があるってことなのかな?」

マドカ「さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので」

マドカ「……」

マドカ「ふぅ……」

冬優子「ま、マドカちゃん?」

マドカ「……この話には、続きがあるんです」

マドカ「私が外れた枠には、コイトが入ることになりました」

冬優子「え? そ、それって」

マドカ「聞いた話では、コイトはあと一歩の――ギリギリのところで届かなかったそうなんです」

マドカ「私がいなくなって、コイトは繰り上がって決勝に進むことになった……」

冬優子「そんな話あったかな……?」

マドカ「今朝決まったそうです。そのうちあなたのところにも連絡が行くんじゃないですか」

マドカ「まあ、なので、……悪いことばかりというわけではないかと」

マドカ「コイトは頑張ってるから。このくらい、報われたっていい」

マドカ「あれだけ練習して、前向きで……私よりもいろんなことができると思いますし」

マドカ「いま私にできるのは、怪我から回復することくらいですから」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「っ、しょ、っと……」カツッ

マドカ「そろそろ戻ります」

マドカ「わざわざ来てくださってありがとうございました」

マドカ「さようなら」

冬優子「……」

マドカ「……」

カツッ、カンッ

カンッ

カツッ

冬優子「っ、……マドカちゃん!」

マドカ ピタッ

冬優子「ふゆ、マドカちゃんのこと、まだまだ全然知らない……」

冬優子「だから、ふゆがどうこう言っていいかなんてわからない――けど」

冬優子「無理しちゃ、だめだよ」

冬優子「泣きたいときは、泣いたっていいんじゃないかな……」

マドカ「……」

マドカ「そう……かな」

冬優子「うんっ、そうだよ」

マドカ クルッ

マドカ「ふふっ……でも、やっぱり大丈夫です」

マドカ「私……泣きませんので」


142: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/31(土) 01:22:45.68 ID:OnqgvQh/O

同日、同時刻。

~事務所~

P カタカタ

P カタッ

P「……今頃どうしてるかな」

P(冬優子はお見舞いに行くって言ってたが、そう思えるアイドルの友だちがいるってこと……なんだろうな)

P(これも成長……か?)

P「……」

P(そういえば、さっき、棄権で空いた決勝の枠には、最後の予選で選ばれなかったあと一歩の子が繰り上がりで入ることになったって連絡が来たな)

P(冬優子にはまだ言えてないけど、もう伝えるべきか)

P(あるいは、お見舞いに行った子から聞かされているかもな)

P(たしか、その子と繰り上がった子は同じ事務所だったはずだ)

P「同じ事務所、ね……」

P(冬優子にとってのあさひや愛依の存在に、何か変化はあるのだろうか)

P(ストレイライトとしての活動は、最近あまりないよな)

ピンポーン

P「あ、はーい……」

P(この時間に来客……? 誰だろう)

ピッ

P「はい。何かご用でしょうか」

「……用、か。どうだろう」

P「?」

「特にないかも」

P「あのー……どちら様でしょうか?」

「あ、そうだ。言ってなかった」

トオル「私……トオルだよ」

P「トオルか。いきなりどうしたんだ?」

トオル「なんていうか、まあ……会いに来た」

P「会いに来たってお前……ここうちのプロダクションの事務所なんだけど」

トオル「だめなら帰るよ。どうかな」

P「……まあ、せっかく来たんだ。今は俺一人だし、他の事務所からの客人ってことにしておくよ」

トオル「やった」

トオル「ヒナナ、いいってさ」

「やは~。やった~」

P「友だちも連れてきてるなんて聞いてないぞ……」

トオル「他の事務所からのお客さんってことなら、むしろ普通なんじゃない? こういうのも」

P「わかったよ……今開けてやるから」


143: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/31(土) 01:41:06.00 ID:OnqgvQh/O

数十分後。

~事務所~

冬優子「ただいま戻りました~♪」

冬優子(索敵索敵……キャラのためにもまだ油断できないわ)

P「おう。おかえり、冬優子」

冬優子「あれ、あんた一人?」ヒソヒソ

P「……いや、お客がな」ヒソヒソ

冬優子(あっぶな……)

冬優子(誰が来てるのかし――)

トオル「このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する」

「ごろ~ん♡ ヒナナこのソファーすき~~」

冬優子(――らっ!?)

冬優子(あそこに座ってるのはあの時の……しかもなんか増えてるじゃない!?)

トオル「……あ。この前の」

トオル「お邪魔してます」

「してま~す」

冬優子「え~っと、そちらは……」

「やは~……――」

ヒナナ「――ヒナナ、高校1年生です~~~」

ヒナナ「トオル先輩とおんなじ事務所なんだ~」

トオル「でもユニットは別」

ヒナナ「ヒナナそれやだ~~……。トオル先輩と一緒のユニットがいいのに~」

トオル「仲が良すぎるからって言われたね」

ヒナナ「それが理由~?」

トオル「たぶんね」

冬優子「え、えっと……今日はどんな用件で?」ピキッ

冬優子(やば……完全に顔が引きつってるわ……)

トオル「そこにいる人に会いに来た」

ヒナナ「ヒナナは付き添いだよ~~」

冬優子「会いに来たって……」

ヒナナ「でも、ヒナナここに来て良かったかも~! トオル先輩の会いたい人がこんなステキなお兄さんだなんてね~~」

P「て、照れるな……」

冬優子 ゲシッ

P「いっ!?」

ヒナナ「やは~……ヒナナ、お兄さんのこと結構好きかも~~」

冬優子 ゲシゲシ

P「いっ、ちょっ、執拗に向こう脛を蹴るのはやめろ……!」

ヒナナ「むこうずね~?」

トオル「弁慶の泣き所、だね」


144: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/10/31(土) 02:11:47.06 ID:OnqgvQh/O

トオル「あ、ねえ、移籍の話だけど、どう? 考えてくれた?」

トオル「うちの事務所の偉い人、いまでも戦力にしたいってさ。それに――」

トオル「――ぼk……私は、また一緒に、過ごせたらなって……」

P「ああ、それなんだが……」

冬優子「移籍ならしないよ、このプロデューサーさんは」

トオル「……ふーん」

冬優子「あなたとプロデューサーさんの間のことは、ふゆは知らないけど……」

冬優子「ふゆは、この人とトップアイドルになるって決めてるんだ」

冬優子「そのためにふゆは全力を出すし、プロデューサーさんも応えてくれてる」

冬優子「だから、あなたのところに……あなたにプロデューサーさんはあげられないよ」

P「冬優子……」

冬優子「それに、これまでもこれからもふゆのプロデューサーさんでいるって、宣言されちゃったから♪」

P「そ、それを言うなよ……他に人がいるのに」

冬優子「ふゆが要らないって言ってもふゆのプロデューサーでいつづけたいって言ってたじゃないですか~」

冬優子「ふゆを支えるとかなんとか」

P「くっ……恥ずかしさでどうにかなりそうだ……」

トオル「そうなの?」

P「え? あ、ああ……そうだよ」

P「俺は、トオルのいる事務所には行かない。すまん」

トオル「別に……謝らなくても」

トオル「……」

ヒナナ「トオル先輩~?」

トオル「……帰る」

ヒナナ「え~~!? ここすっごく居心地いいのに~~」

トオル「いても……邪魔になるんじゃないかな」

P「と、トオル……」

冬優子「……」

ヒナナ「……わかった~。トオル先輩がそう言うなら、ヒナナもそうしよ~~」

ヒナナ「そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい~?」

ヒナナ「気に入ってたアクセサリーがね~……この前から見つからないんだ~」

ヒナナ「だから、ね? トオル先輩が一緒にお買い物してくれたら、ヒナナ、しあわせ~になれる~~~」

ヒナナ「トオル先輩もそれで元気出そう?」

トオル「うん……行こう。……ありがと」

トオル「あ……お邪魔しました」スタスタ

ヒナナ「さようなら~~」テテテ

ガチャッ

P「……」

P「トオr――」

ダキッ

P「ふ、冬優子……?」

冬優子「行かないで。呼び止めないで」

冬優子「あんたは、誰にも渡さないから」

バタン


147: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/02(月) 01:10:12.23 ID:tuFvHMjcO

数日後。

~某センター街~

冬優子(欲しい円盤探してたらここに在庫があるなんて……)

冬優子(いつも行ってる街と空気が全然違うじゃない……慣れないわ)

冬優子「……疲れた」

冬優子(まあ、目当てのものは買えたし、さっさと帰るとしますか)

~♪

冬優子「……?」

冬優子(あれ、たぶんミニライブよね)

冬優子(それに、歌ってるのは――)

冬優子「……」

冬優子(――ついでに見に行ってみようかしら、今日はオフだしね)

冬優子 スタスタ


コイト「そ、それじゃあ……お先に失礼します!」

オツカレサマデース

コイト「……」

バタン・・・

コイト「……」

コイト「はぁ……」

冬優子「お疲れさまっ、コイトちゃん」

コイト「ぴゃっ!? な、なな……って、あなたは……」

冬優子「さっきのミニライブ、すっごく良かったよ! ふゆは途中からだったけど、引きこまれちゃったな~」

コイト「あ、ありがとう……ございます。えへへ」

コイト「また別のところでもライブがあるので、よ、よかったらそれも見に来てください!」

冬優子「わぁ~ほんと? 絶対に見に行くね!」

冬優子「ふゆ、コイトちゃん推s……ん゛っ、コイトちゃんのファンだから」

コイト「わ、わたしも、冬優子さんのファンに……な、なります!」

冬優子「ありがと~っ♪ コイトちゃんだいすき!」ダキッ

コイト「わ、わわっ、もうっ……」

冬優子「コイトちゃんは、これから帰るところなの?」

コイト「あ、はい。今日はもう予定ないですし、明日はオフですから」

冬優子「ふゆもいまオフなんだ~。よかったら、どっかでお茶しながらお話とかどうかな?」

コイト「い、いいんですか?」

冬優子「ふふっ、ふゆが誘ってるのに。いいに決まってるよっ」

コイト「えへへ……じゃ、じゃあ、行きます」

冬優子「決まりだね♪」


148: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/02(月) 01:33:13.21 ID:tuFvHMjcO

~近くのカフェ~

冬優子(勢いで誘っちゃったけど……冷静に考えて、推してるアイドルとカフェでお茶するってすごいことよね……)

コイト「ほ、本当にありがとうございます……誘ってくれただけじゃなくて、奢ってもらうなんて……」

冬優子(しかも奢っちゃったし。まあ、それはいいけど)

冬優子「ふゆがしたいだけだもん。気にしないでね」

コイト「は、はい」

冬優子「そうだ、さっきのライブでね――……」


数十分後。

コイト「……――えへへ、そ、そうなんですね」

冬優子「うんっ。おかしいよね」

冬優子(思ったよりも話が弾んだわね。いろんな話ができたし)

冬優子(コイトちゃんも楽しそうで何よりだわ)

コイト「……」

冬優子「……コイトちゃん?」

コイト「わ、わたし……」

コイト「こんな、普通に笑って話すなんて、よ、よく考えたら久しぶりかもしれません」

コイト「最近は、いろんなことがありましたから……」

冬優子「決勝のことと……それから……」

コイト「はい、マドカちゃんのことです」

コイト「……っ。い、いろんな気持ちがあって……え、えへへ、ちょっと大変かもしれないです」

コイト「決勝に進みたくて、最後の予選まで頑張ってました。結果は、だめでしたけど」

コイト「悔しくて……でも、マドカちゃんが決勝に進めたのも嬉しくて……」

コイト「そうしたら、あんなことがあって……」


コイト『あっ、マドカちゃん……!』ピョコッ

マドカ『やっぱり……ふふっ』

マドカ『おまたせ……』

コイト『っ!? ま、マドカちゃn……』

マドカ『……?』

ドンッ

ガンッ――ダダダ・・・


コイト「あんなことになって、代わりにわたしが出れるようになって」

コイト「……」

コイト「いまは、練習とお仕事に集中して、余計なことは考えないようにってしてます……」

冬優子「コイトちゃん……」

コイト「あっ、ご、ごご、ごめんなさい……! せっかく楽しくお話してたのに、こんな……」

冬優子「ううん。いいよ。楽しい話だって、辛い話だって、人に話して楽になることってあると思うな」

冬優子(……どの口が言ってんのかしらね。まったく)

コイト「マドカちゃん……」

冬優子(? そういえば――)


149: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/02(月) 01:59:03.60 ID:tuFvHMjcO



マドカ『位置的にコイトには私を突き飛ばした犯人が見えているはずなんです』

マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――ということは、コイトちゃんはマドカちゃんを突き飛ばした犯人を知っていて、それでも悩んでる……?)

冬優子「コイトちゃん……」

冬優子(聞くべきじゃないのかもしれないけど)

冬優子「この前、マドカちゃんのお見舞いに行ったときにね……」

冬優子(正義感か、好奇心か、……あるいは両方かしら)

冬優子「コイトちゃんには、マドカちゃんの背中を押した人が見えてたんじゃないかって聞いたんだ……」

コイト「っ!」

冬優子「実際にどうだったかは、それこそふゆはその場にいたわけじゃないし、知らないよ」

冬優子「マドカちゃんから聞いた話しか、知らない」

冬優子「でも、コイトちゃんが犯人を知ってて、それでも悩んでるなら……」

冬優子「ふゆでよければ、話してみてくれないかな……?」

コイト「……」

冬優子「な、なんてね……さすがに出すぎた真似だよね。……ごめんなさい」

コイト「い、いいえ……! 別にそんなこと、ないです……」

コイト「……」

コイト「……ま、マドカちゃんの言ってることは、ほ、ほほ、本当、です」

冬優子「!」

コイト「たしかに、わたしはマドカちゃんが突き飛ばされたところを見ていて、誰がそうしたのかも……」

コイト「そ、それでも、わたしは――」


150: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/02(月) 02:26:09.95 ID:tuFvHMjcO

数時間後。

~冬優子の自宅~

冬優子「……」


コイト『そ、それでも、わたしは――』

冬優子『……』ゴクリ

コイト『――っ、い、言えません。言いたく、ありません……』

コイト『ごめんなさい……』

冬優子『コイトちゃんが謝ることじゃないよ! ふゆこそごめんね……問いただすようなことしちゃって……』

コイト『あ、謝らないでください……』

コイト『大変な事件だってことはわかってるんです。わ、わたしが黙っていても、いいことなんてないってことだって……』

コイト『誰を見たのか言わないのは、ゆ、許されないのかもしれないけど』

コイト『誰を見たのか言うと、わ、わたしがわたしを許せなくなっちゃうから……』


冬優子「はぁー……」ボフッ

冬優子「……」

冬優子 クルッ

冬優子「ふぅ」

冬優子「……別にふゆは探偵でもなんでもないんだから」

冬優子「ましてや、ライバルのことを気にかけるなんてこと……ふゆらしくない」

冬優子「……」

冬優子「ふゆらしく、か……」

冬優子(ふゆらしさってなんなのかしらね)

冬優子(決勝が終われば、その答えもハッキリするのかしら)

冬優子「……」

~♪

冬優子「お風呂沸いたわね。入ろっと……」

冬優子 スタスタ

冬優子 シュル・・・

バタン

キュッ

シャァァァァァッ

冬優子「っ」

冬優子「……」

冬優子 ポスポス

冬優子「?」

冬優子「……あ」

冬優子(シャンプー切らしてたんだったわ。忘れてた)

冬優子(とりあえず体だけでも……)ポスポス

冬優子「って、ボディーソープもないじゃない!」

冬優子「はぁ……」

冬優子「……っ」

シャァァァァァッ

冬優子「ふゆったら、なにしてんのかしらね」


154: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/03(火) 01:26:38.64 ID:wUHOGYQ/O

決勝当日。

~大会 決勝会場~

P(いよいよ決勝だ。ついに、ここまで来た)

P(俺にできるのは、ただ見守ることだけ――)

P「……」

P(――それは、俺の役目が終わったから……ではない)

P(単に、冬優子の個人としての能力が高くなって、俺が自ら手を差し伸べる必要がなくなっただけだ)

P(冬優子は、必要であれば自分から俺の手を取りに来るだろう)

P(その域にまで達したということだ)

P(助けなしに何でもこなせるわけじゃないが、助けが必要かどうかの判断は自分でできる……それは立派に成長した証と言える)

P(だから、俺は見守る……冬優子が歩を進めていく様を)

冬優子「当たり前だけど、空気がまるで違うわね」

P「決勝だからというのもあるだろうし、ここまで来れたアイドルは12人しかいないから、そもそもこの場にいる人数が少ないんだ」

P「……12人というと、参戦した全アイドルのおよそ0.8%だな」

冬優子「恐ろしい話ね。もっと恐ろしいのは、自分がその0.8%の1人だってことだけど」

冬優子「思えば遠くへ来たものだわ」

P「ははっ。誇ればいいじゃないか。俺は誇らしいぞ」

P「プロデューサーとしてもそうだし、もちろん1人のファンとしてもな」

冬優子「あんたね……もうっ」

冬優子「でも、そうね。ふゆはここまで来て、ようやくアイドルとして自分を誇れるようになったのかもしれないわ」

冬優子「あとは、やれることをやるだけ……」

冬優子「……」

冬優子「……W.I.N.G.の決勝の前、ふゆがあんたに言ったこと、覚えてる?」

P「ああ、もちろん――」

P「――“何があっても笑ってて”……だろ?」

冬優子「ふふっ、ちゃんと覚えてたんだ」ボソッ

P「?」

冬優子「なんでもないわよ」

冬優子「……ありがと」ボソッ

冬優子「……」

冬優子「やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――」

冬優子「――何があっても……あんたは笑ってて、って」

冬優子「あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!」

冬優子「どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから」

冬優子「あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う」

冬優子「だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!」ニコッ


155: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/03(火) 02:06:54.78 ID:wUHOGYQ/O

~控え室外 廊下~

冬優子(1人1部屋……これまでとはえらい違いね)

冬優子(ふゆの部屋は……)

冬優子「……あ」

コイト「あ」

コイト「こ、こんにちは……!」

冬優子「コイトちゃんだ♪ こんにちは」

冬優子「いよいよ決勝だねっ。ふゆ、緊張してきちゃった~」

冬優子(まあ、嘘だけどね)

コイト「はいっ、そ、その……出たいと思ってた決勝でも、本番が近づいてくると……」

コイト「うぅ……」

コイト「ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……」

コイト「えへへ……だめだめですね、わたし」グスッ

コイト「わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも」ボソッ

冬優子「……コイトちゃんは、マドカちゃんの代わりにアイドルをやってるの?」

コイト「ぴゃっ? い、いえ、そんなことは、ないです」

冬優子「確かにマドカちゃんの代わりに決勝に進む形だったかもしれないけど」

冬優子「ここでコイトちゃんが残す結果は、他の誰でもないコイトちゃん自身のものなんだよっ」

冬優子「だから、他の人がどうとかじゃなくて、自分にできる精一杯のことをやればいいってふゆは思うな」

冬優子「最後には笑っていられるように、ね?」

コイト「冬優子さん……」

コイト「グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!」

コイト「それこそ、マドカちゃんのぶんまで!」

コイト「ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!」

冬優子「その意気だよ♪」

冬優子「よ~し、これはふゆも負けてられないな~」

コイト「ま、負けませんよ! 勝負ですから!」

冬優子「ふふっ、お互い頑張ろうね、コイトちゃん!」

コイト「は、はいっ!」

コイト「じゃ、じゃあ……わたしの部屋はあっちなので、そ、そろそろ失礼します」

冬優子「うんっ。またあとでね」

コイト テテテテテ・・・

冬優子「……」

冬優子(あの子も、成長してるのね)

冬優子「……あ」

冬優子(床に何か落ちてる?)

冬優子「? これって……」

冬優子(誰かの落し物……よね)

冬優子(何かの飾り? 年季が入ってるように見えるけど、大切にされてたのかしら)

冬優子(さっきまではなかった気がするし、もしかしたらコイトちゃんのものなのかも)

冬優子(まあ、とりあえず拾っておいて、あとで聞いてみればいいわ)


156: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/03(火) 02:52:37.31 ID:wUHOGYQ/O

~283プロ 黛冬優子用控え室~

冬優子(イメトレも軽い練習も一通りやり終えた)

冬優子(あとは、本番で全力を出すだけ……)

冬優子「……」

冬優子(これ以上何かしても、たぶん無駄な足掻きよね)

冬優子(適当に過ごしてリラックスしたほうが良い、か……)

冬優子「スマホスマホ……っと、あった」

冬優子「あ、通知来てる」

冬優子「愛依から……ふふっ」

冬優子「ありがと、愛依」

冬優子「他には……あ」

冬優子「これ……あさひから、よね」

冬優子「……」

冬優子「……ったくもう、あいつは」

冬優子(でも、たぶん……いや、きっと、応援してくれてるのよね)

冬優子「そっか、ふゆは1人じゃないんだった」

冬優子(この大会では、ずっと1人で……ううん、プロデューサーと2人で戦ってきたと思ってたけど)

冬優子(愛依やあさひだっているじゃない)

冬優子「さてと……あの子たちにも、笑ってただいまを言ってやんないとね」

冬優子(そして、また、3人でステージに立つんだから)

冬優子「……」

冬優子「そうだ、忘れないうちにシャンプーとボディーソープを余分に買い足しておかないと」

冬優子「この前切れたときは、急いでて必要な分しか買わなかったし」

冬優子「リマインダーにセットして……これでよし。当分切れることはないわね」

冬優子「……思い出せてよかったわ」

冬優子「あ、いま何時かしら」ポチポチ

冬優子「って、もうそろそろ出番じゃない!」

冬優子「……」


冬優子『やっぱりね、ここでもふゆはあんたに言いたいの――』

冬優子『――何があっても……あんたは笑ってて、って』

冬優子『あの時と違うのは、不安も強がりもないってこと!』

冬優子『どんな結果でも、あんたと一緒に手に入れたものであることには変わりないんだから』

冬優子『あんたが笑っててくれれば、それだけでふゆは報われると思う』

冬優子『だから、全部終わったら一緒に笑って帰るわよ、プロデューサー!』ニコッ


冬優子(あいつにあんなこと言ったんだから、まずはふゆが笑わないとね)

冬優子(みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルなら、まず自分が笑顔になれないといけないもの)

冬優子「ふゆは今度こそ、本気で、みんなを笑顔にするアイドルになってみせるわ」


159: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/04(水) 01:38:15.29 ID:yg6hjMG7O

~ステージ(決勝)~

冬優子「ふぅ……」

カンッ、カンッ

冬優子(っ、まぶし……)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………」

冬優子(これまでよりも豪華な舞台とセット)

冬優子(目の前には、顔を覚え始めた審査員の人たちに加えて、アイドルになる前から知ってるような超有名人が何人も)

冬優子(観客だって段違いに多いわ)

冬優子「……」

冬優子(不思議ね)

冬優子(緊張でパニックになってもおかしくないような状況なのに、こんなに落ち着いてる)

冬優子(緊張してないわけじゃない……でも、いまはその緊張をコントロールできてる)

冬優子(ここまで来たのね、ふゆ)

冬優子「283プロの黛冬優子です――」

冬優子(あとは、楽しむだけよ)

冬優子「――今日は皆さんを笑顔にしちゃいますね!」


P「頑張れ、冬優子」ボソッ

P(こうして舞台袖で見守ってるからな)

P(大丈夫、冬優子ならきっとみんなを笑顔にできるさ)

冬優子 ~♪

P「……」

ギギギ・・・

P「?」

P(何の音だ? 天井のほうから聞こえた気がするけど……)

タンタンタンッ

P(……嫌な予感がする)

P(見に行ってみよう)


160: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/04(水) 02:08:03.64 ID:yg6hjMG7O

~ステージ(決勝) 舞台装置周辺~

P「はぁっ……はぁっ……」

P(け、結構きついな……登るの)

P(まあ、関係者しか来ないわけだし、こんなんでもおかしくないけど)

P(さて……)

P キョロキョロ

P「……」

P(気のせい……か?)

P(でも、確かに尋常ならざる音が聞こえたんだが……)

ガサッ

P「!」

P(……なにか――あるいは誰かが――いる。暗くて姿はよく見えないけど)

キィィ・・・

P(人……だな)

P(何をしているんだ?)

P(というか、“こいつ”がいじってるのって……)

P(……――っ! ま、まさか)

P「っ」ゴクリ

P(徐々に“そいつ”との距離をつめていく)

P(絶対に“それ”をさせてはいけない……)

P(とはいえ、今は冬優子のステージの真っ最中だ)

P(あまり大きな音は立てられない……ならば――)

ポンッ

「っ!?」

P(――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい)

「んっ……」バッ

テテテテテ

P「……」

P(さすがに驚いたのか、どっか行ったみたいだな)

P(それにしても……)

P「ふぅ~~……」

P(これ、ステージ上の装置を吊るしてるワイヤー群の1つじゃないか)

P(しかもこの状態を見る限り、あと少しいじればワイヤーが……いや、考えるのはやめよう)

P(とりあえず、本当に止めに来て良かった……)

P「……はぁ」ドサリ

P(一通りステージが終わるまでここにいよう……)


161: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/04(水) 02:34:34.37 ID:yg6hjMG7O

~ステージ(決勝)~

冬優子(やった……やったわ)

冬優子(いままでのどんなふゆよりも、キラキラできた)

冬優子(これ以上のパフォーマンス、いまのふゆにはできないわ)

冬優子(……そっか、ふゆ、やりきったのね)

冬優子「……」

冬優子(審査員の人たちや大御所も立ち上がって拍手してくれてる――)

冬優子(――見えているだけで、拍手の音は聞こえないけど。だって……)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子(こんなにも大きな歓声に包まれているんだもの)

冬優子「……」

冬優子(プロデューサー、見てくれてる?)

冬優子(あとはあんたが笑ってくれればいいの)

冬優子(それから、愛依、あさひ……)

冬優子(……あんたたちの仲間はここまで来たのよ)

ワァァァァァァァァァァッ!!!!!

冬優子 ニコッ

冬優子(ふふっ、よかった)

冬優子(今日は、間違いなく、心の底から笑って帰れるわ)


~ステージ(決勝) 舞台装置周辺~

P「……すごい歓声だな」

P(パフォーマンスは、直接見ることができたのは半分くらいだが――)

冬優子「……っ。ふふっ、ありがと~~っ!!!」

P(――それでも俺には、確かに冬優子が“見えてたよ”)

P(実際に見えていないというのは、きっと、誤差の範囲でしかなかったのだろう)

P(冬優子のパフォーマンスは五感すべてにうったえかけてきていた)

P「ははっ。どうだ……! 俺のアイドルはすごいんだぞ」

P「って、自慢するまでもないか。いまとなっては、皆が認めてくれているんだから」

P「……冬優子、お前は本当にすごいよ」

P「俺、自分から笑う必要なかった」

P(冬優子の声が、想いが、届いた最初の瞬間から俺は自然に笑顔になっていたから)

P(そう……まさに、冬優子が言ったように)

P(それは、高揚、感動、安堵、懐古……さまざまな想いによるもので)

P「ありがとう、冬優子」

P(とりあえず、この後で直接会うときにも笑顔でいられるように、冬優子の歌声でも思い出しながら会いに行こうかな)

P「あ」

P(舞台装置のほうを見に行ってたことは隠しておこう……)

P(もちろん、冬優子に怒られるのが怖いというのもあるが)

P「……」

P(どうやら、不穏な動きがあるみたいだし)

P(変なストレスを与えないようにしないとな)


162: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/04(水) 02:58:06.25 ID:yg6hjMG7O

――――大会 最終結果――――

    優勝 黛冬優子
   準優勝 トオル

大会終了後。

~283プロ 黛冬優子用控え室~

ガチャ

冬優子「……」

バタン

冬優子「……ふぅ」

冬優子(たしか、この控え室は中の音が外にはあまり聞こえないようになってたわね)

冬優子(よし……)

冬優子「スゥーッ」

冬優子「……っっっっっしゃあああああああああああああああッッッッッ!!!!!」

冬優子「~~~っっっ!!! ゃっばい! これ……これやばい!!」

冬優子「勝っちゃった……ふゆ、ほんとに優勝しちゃったのよね!?」

冬優子「……ふふ」

冬優子「ふふふ」

冬優子「あーっはっはっはっはっは!!!!!!!」

冬優子「もう……! もうもう!!」

冬優子「あさひにスタ爆してやろっと!! あははは!!」ポチポチポチ・・・

冬優子「そうだ、愛依にもしてあげないとね!」ポチポチポチ・・・

冬優子「はぁっ、……」

冬優子「ほんと、テンションおかしい……ふふっ」ポロッ

冬優子「な、涙出てきた……はは」ポロポロ

冬優子「あれ、やば……涙止まんない……」ポロポロ

冬優子 ポロポロ

冬優子「うっ……ぐすっ……」ポロポロ

冬優子(勝てて、よかった……)


愛依『W.I.N.G.の1人ヴァージョンってこと――だよね?』

冬優子『それだけじゃないわ……!』

冬優子『この大会に出れば、1人でユニットの何もかもを背負うのよ』

冬優子『プロデューサーも言ってたでしょ、普段ユニットで活動してるアイドルが1人で出るんだ、って』

冬優子『勝てば天国負ければ地獄とはこのことよ』


愛依『でも、それならあさひちゃんが出れば――』

冬優子『――わかってんのよ!』

愛依『っ!?』ビクッ

冬優子『わかって……るのよ』プルプル

冬優子『そうだけど……そんなの悔しいじゃない……!』


冬優子「愛依……あさひ……」ポロポロ


P『俺は、ストレイライトのために、愛依でもあさひでもなく、冬優子を選んだんだ』


冬優子「プロデューサー……」ポロポロ


163: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/04(水) 03:19:14.50 ID:yg6hjMG7O

~控え室外 廊下~

P「はあっ、はあっ」タッタッタッ

P(遅くなっちまった……待たせすぎって冬優子に言われるかも)

P(ははっ……それじゃあ結局怒られてるじゃねーかってな)

P(「283プロ 黛冬優子様」……ここだ)

コンコンコン

「……はい」

P「冬優子、俺だ。入ってもいいか?」

「プロデューサー?」

P「そうだ。遅くなってすまない」

「いいわよ。入って」

ガチャッ


~283プロ 黛冬優子用控え室~

P「冬優子、よくやっt――」

冬優子「プロデューサーっ!!」ダキッ

P「――たな……」

冬優子「っ……グスッ」

P「優勝おめでとう、冬優子」ポンッ

P「すごかったよ、本番でのパフォーマンス」

P「今までに見てきたどの“ふゆ”よりもキラキラしてたぞ」

P「自然に笑顔になれたんだ。プロデューサーとしてもそうだし、1人のファンとしても」

P「ありがとう。冬優子のプロデューサーであることが本当に嬉しい。誇りに想うよ」

P「正真正銘のトップアイドルだ」

冬優子「そっか……。そうよね……!」ニコッ

冬優子「ふゆね……早くあんたに会いたかった」

冬優子「いろんな思いがあるけど、たぶん、一番は――」

冬優子「――その言葉をあんたから聞きたかったんだと思う」

冬優子「ふゆにも言わせて。ありがと、プロデューサー」ギュウッ

冬優子「あんたがいてくれたから、ふゆはここまで来れた」

冬優子「みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルになれたのよ、あんたのおかげでね」

冬優子「感謝してもしきれないわ」ギュウウウッ

P「そう言ってくれるのは……嬉しいな。けど――」

P「――他の誰でもない、冬優子の努力と想いもこの優勝には欠かせなかった」

P「まあ、俺がわざわざ言ってやるまでもないか」

P「……というか、さっきからどんどん抱きしめる力が強くなってるんだが」

冬優子「なによ。……いやなわけ?」

P「いや、そうじゃないけど……」

冬優子「なら、もう少しだけこうさせて」

冬優子「プロデューサーとしてのあんた、ファンとしてのあんた……その両方はふゆに魅了されたみたいだけど」

冬優子「ひ、1人の男としてのあんたも、ふゆは狙ってんの……!」

冬優子「だから、今日は、その……ふゆの抱き心地でも覚えていってから帰りなさいよね」

冬優子「………………ふふっ、だいすき」ボソッ


167: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/06(金) 01:29:50.79 ID:agQP1f+8O

P「帰る前にちょっと挨拶しておきたい人がいるから、また後で落ち合おう」

冬優子「おっけー。ふゆも適当に時間つぶしておくわ」

P「すまない。それじゃあ、30分後にロビー集合でいいか?」

冬優子「了解。ほら、早く用を済ませてきなさいよ」

P「ああ。じゃあ、また後で」

ガチャ

バタン

冬優子「……さて、と。帰り支度しますか」


数分後。

冬優子「忘れ物は……よし。ないわね」

冬優子「あとは……」

冬優子(コイトちゃんと別れたときに拾った落し物――何かの飾りみたいなやつ――をどうにかしないとね)

冬優子(とりあえずコイトちゃんに聞いてみようかしら)

ガチャ

バタン


~控え室外 廊下~

冬優子「この辺にはいない、か」

冬優子(コイトちゃん……もう帰っちゃったのかしら)

冬優子(それにしても――)

冬優子 つ落し物

冬優子(――これをコイトちゃんが、ね……)

冬優子(年季の入ったものみたいだし、大切にされてたのかな)

冬優子「まあ、ロビーに行けば落し物として預かってもらえるかもしれないし、そっち向かえばいっか」

冬優子(あいつとの集合場所でもあるしね)


168: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/06(金) 01:56:33.82 ID:agQP1f+8O

~エレベーターホール~

冬優子「……」

フォンッ

ウィーン

ヒナナ「あ」

冬優子「あ」

冬優子(この子――)


トオル『このお菓子、おいしいね。めっちゃ美味い味する』

ヒナナ『ごろ~ん♡ ヒナナこのソファーすき~~』


冬優子(――プロデューサーの幼馴染とかいう子の友だち……だっけ)

ヒナナ「やは~お疲れ様です~~」

冬優子「お疲れ様ですっ」

ヒナナ「あ、優勝おめでとうございます~」

冬優子「ありがとうございますっ。これもみんな――」

冬優子「――プロデューサーさんにユニットの仲間、ファンの人たちのおかげだよ♪」

ヒナナ「あは~……そうなんですね~」

冬優子「う、うん……」

ヒナナ「トオル先輩……なんでだめだったのかな~?」

冬優子「だめって……ふゆが言っていいのかわからないけど、準優勝だよ?」

冬優子「準優勝はだめなの?」

ヒナナ「う~ん。どうですかね~~」

ヒナナ「やっぱ優勝のほうがしあわせ~ってなるのかな、って思ったから~~」

冬優子「しあわせ?」

ヒナナ「はい! ヒナナはトオル先輩が好きだから」

ヒナナ「トオル先輩が優勝してしあわせ~ってなってくれたら、ヒナナもしあわせ~になれるかな~……って」

ヒナナ「ヒナナはね、ヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの」

ヒナナ「ヒナナがしあわせなのがいちばんさいこ~♡ ってことで」

ヒナナ「もちろん、ヒナナが優勝できればしあわせだけど――」

ヒナナ「――トオル先輩が優勝するんでも、まあいいかな~って思ってました」

冬優子「……」

ヒナナ「準優勝ってどれくらいしあわせ~ってなるんだろ~?」

冬優子(なんなのこの子……)

冬優子(ふゆの中で何がひっかかるのかはわからないけど、何よりもわからないのはこの子自身……)

冬優子(どんな価値観なのよ。人を何だと思ってるの?)

冬優子(もしかしたら、この子なりの筋道だった説明のつく理屈があるのかもしれないけど)

冬優子(ふゆはこの子のこと……)

ヒナナ「どうかしましたか~?」

冬優子「え? あ、う、ううん! なんでもないよっ」

ヒナナ「それじゃあ、ヒナナは向こうに用事があるのd……」

冬優子「?」

ヒナナ「……」

ヒナナ「……やは~」


169: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/06(金) 02:16:49.43 ID:agQP1f+8O

ヒナナ「それ……」

ヒナナ「その手に持ってるのって~……」

冬優子「あ、これはね、さっき本番前に控え室のところの廊下で拾ったんだよ」

冬優子「落し物だと思ったから、これからロビーに届けようかなって」

ヒナナ「落し物……。控え室のところの廊下……?」

冬優子「……どうしたのかな?」

ヒナナ「それヒナナの~!!」

冬優子「!?」ビクッ

ヒナナ「よかった~~。もう見つからないと思ってたのに~~~~」

ヒナナ「そのアクセサリー、ヒナナのお気に入りで~」

冬優子「そ、そうだったんだ」

冬優子(そっか。アクセサリーか)

冬優子(そういえば――)


ヒナナ『そうだ! トオル先輩、帰りに雑貨屋さん寄っていってもいい~?』

ヒナナ『気に入ってたアクセサリーがね~……この前から見つからないんだ~』


冬優子(――あの時に言ってたアクセサリーってこれのことだったのね)

冬優子(拾ったのがコイトちゃんと別れたときだったから、コイトちゃんのものかと思ってたけど)

冬優子(持ち主が見つかったのなら、それに越したことはないわ)

冬優子「はい、どうぞっ」

ヒナナ「やは~! やった~~!」

ヒナナ「見つかってよかった~。今日はしあわせ~になれたかも~~」

冬優子「ふふっ、大切にしてたんだね♪」

ヒナナ「はい~。小さい頃からの友だちとの……しあわせ~なアイテムなんです~」

冬優子「そうなんだ! じゃあ、これからはなくさないようにしないとだねっ」

ヒナナ「見つけてくれてありがとうございました~。それじゃ、失礼しま~す」

冬優子「うん。ばいばい」

ヒナナ テテテテテ

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子「…………ふぅ~~~」

冬優子(つ、疲れた……)

冬優子(アイドルとしてのふゆを演じるのはなれっこだけど、あの子の相手するのでこんなに疲れるとはね……)

冬優子(まあ、とりあえずもう済んだことなんだし、落し物の持ち主も見つかったし、別にいいじゃない)

冬優子(早くロビー行こ……)


171: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/06(金) 02:34:32.61 ID:agQP1f+8O

~決勝会場 ロビー~

冬優子(あいつ、おっそいわね……!)

冬優子(ふゆを待たせるなんていい度胸してんじゃない)

冬優子(なんて言ったって、優勝アイドルなのよ? 今日のふゆは偉いんだから)

冬優子「……」

冬優子「………」

冬優子(暇ね)

冬優子(話相手でもいればいいのに――って、あそこにいるのは……)

コイト キョロキョロ

コイト ウロウロ

コイト「ウゥ・・・」

冬優子(コイトちゃんよね。ちょうどいいわ)

冬優子(ふゆの話し相手に……)

コイト「ぴぇ……ど、どうしよう……」

冬優子(なんだか、それどころじゃない……みたい?)

冬優子「コイトちゃんっ」

コイト「ぴゃっ!?!?」

コイト「あ、ふ、冬優子さんですか……」

冬優子「ごめんね? 驚かせちゃったかな」

コイト「い、いえ……大丈夫です」

冬優子「ひょっとして、何か困ってる?」

コイト「なっ、なな、なんでわかるんですか……?」

冬優子「見ればわかるよ~。いまのコイトちゃん、すごく焦ってるって感じするもん」

コイト「そうだったんですね……」

コイト「……うぅ」

冬優子「何か困りごとなら、ふゆでよければ力になるよ?」

コイト「……そ、そのっ、お、落し物……探してて……」

冬優子「……え?」

冬優子(落し物……ですって?)

冬優子(さっきあの子に返したのも落し物で……コイトちゃんと別れたときに拾ったもので……)

冬優子(でも、その持ち主はあの子で……)

コイト「あれが見つからないと……ぴゃぅ」

冬優子(ここは正直に話したほうがよさそうね)

冬優子「実はね、本番前にコイトちゃんとばいばいして、そのすぐ後に廊下でアクセサリーを拾ったんだ」

冬優子「年季が入ってて、特徴は――」

冬優子(できるだけ詳しく、拾ったアクセサリーのことを説明した)

冬優子「――って感じなんだけど……もしかしてそれのことかな?」

コイト「そ、そそ、それです……! 良かった、冬優子さんが拾ってくれてたんですね……」

冬優子「え、え~っと、それが……」


コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」


174: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/07(土) 02:40:22.26 ID:0PIvbGduO

30数分前。

~___プロ トオル用控え室~

コンコンコン

P「283プロの黛のプロデューサーをしているPです」

トオル「あ、はい」

トオル「どうぞ」

P「失礼します」

ガチャ

バタン

P「……」

トオル「……」

P「よ、よう」

トオル「よっ」

P「……その、なんだ。優勝アイドルのプロデューサーが言うとただの嫌味になるが」

P「1人の幼馴染として言わせてくれ」

P「おめでとう、トオル」

トオル「……ありがと」

P「お前のステージも見てたよ。アイドルとしてのトオルの真骨頂、しかと見届けさせてもらった」

P「俺の知らない間に、トオルは遠くで……頂にたどり着こうとしていたんだな」

P「でも、それはそれで感慨深いよ。お前のファンになろうかと本気で考えてるんだぜ?」

トオル「……」

P「トオル?」

トオル「……なんで、そういうこと言うかな」

トオル「Pと遠いところなんて、わたs……僕は望んでないのに」

トオル「遠くに行っちゃったのは、Pも同じでしょ」

トオル「それなのに、その上、僕のファンに……?」

トオル「Pは、僕と他人になりたいの?」

P「ま、まて、トオル。俺はそんなつもりで言ったんじゃ……」

トオル「じゃあ、どんなつもり?」

P「お、俺はただ、トオルの幼馴染として準優勝したことを祝福して褒めようとしただけだよ」

トオル「準優勝、か」

トオル「ねえ、覚えてる? ジャングルジムのこと」

P「ジャングルジム……? ああ、トオルが小さい頃によく一緒に遊んだよな」

トオル「うん」

トオル「僕ね、てっぺんを目指したかったんだ」

トオル「あの頃はジャングルジムで、いまは……」

P「てっぺん……もしかして、この大会での優勝?」

トオル「ジャングルジムのときは、Pは一緒にてっぺんにのぼってくれた」

トオル「でも、いまはPが一緒じゃない」

トオル「優勝は、できなかった」

トオル「まあ、なんていうか、さ。アイドルとしててっぺんを目指す方法はたくさんあるから」

トオル「いまからでも、Pが一緒に目指してくれたら」

トオル「てっぺんにのぼれる気がするんだ」


176: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/07(土) 03:25:42.96 ID:0PIvbGduO

トオル「Pのほうから来てくれればいいって思ってた」

トオル「でもね、わかったんだ」

トオル「待ってるだけじゃ、あなたは来てくれないってこと」

P「……」

トオル「あれから――この前283プロの事務所に会いに行ったときから――いろいろ考えた」

トオル「Pの横には別の……優勝したあの子がいて、このままだと僕とPは二度と元には戻れない」

トオル「それは、嫌だ」

トオル「しばらく離れてたからこそ、僕にはPが必要なんだって思えた」

トオル「だからさ、お願い」

トオル「僕のプロデューサーになってください」

トオル「僕とまた……一緒にてっぺんを目指してください」

P「……っ」

トオル「返事、聞かせて欲しい」

P「……俺は」

P「俺は、トオルのプロデューサーにはなれない」

トオル「っ」

P「俺とトオルは幼馴染で、決して他人なんかじゃない。その辺のアイドルとはわけが違う……お前は特別だよ」

P「1人の女の子としても俺にとってはそうだし、1人のアイドルとしてもだ」

P「トオルの持つトップアイドルになれる素質は、この大会を通じて確信したよ」

P「確かに、一緒にトップアイドルを目指せば、実現させることが十分可能だろう。それでも……」

P「俺は、283プロのプロデューサーで、黛冬優子の……ストレイライトのプロデューサーなんだよ」

P「それは覆らないし、覆したくない」

P「あいつらと築いてきたものがある。あいつらと共に歩んだ道がある」

P「そうだな……それについて語ればキリがないくらいには、な」

P「そして、それらは何物にも代えがたくて、今一番大切なものだ」

P「だから、俺がてっぺんを目指したいと思うアイドルは、トオル……お前じゃないんだ」

P「ごめんな」

トオル「グスッ……頼んでも、駄目だった、か」

トオル「優勝したあの子は……あの子のいるユニットは……」

トオル「僕が入り込めないくらい、Pとの絆で結ばれてるんだ」

P「っ……ああ。そうだ」

P「それが、プロデューサーとして俺が得たものだから」

P「そう簡単に手放せないし、手放したくない」

トオル「ほんと……あの子が羨ましい」ポロポロ

トオル「っ……あはは、だめだ、僕」ポロポロ

トオル「フラれたのに、グスッ……いますぐPに抱きついて思い切り泣きたいなんて思ってる」ポロポロ

P「その……なんだ。幼馴染の我儘に付き合うくらいなら、別に構わないさ」

P「今ここにいるのは、283プロのプロデューサーじゃなくて、1人の……トオルの幼馴染ってことにすれば」

トオル「!」

トオル ダキッ

P(それから、トオルは思い切り泣いた。こんなトオルは何年ぶりだろう。あるいは、初めてかもしれなかった)

P(ここまでの想いを抱えてトオルが泣くところは、おそらく……)


177: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/07(土) 03:47:42.13 ID:0PIvbGduO

トオル「……ごめん。もう、大丈夫だから」パッ

トオル「ありがとう」

トオル「なんか、こうしてちょっと離れるのも、いまは悲しい感じがする」

P「これが今生の別れというわけじゃないんだし、また明日からは幼馴染として仲良くやっていこう」

トオル「しばらく会えてなかったぶんも、ね」

P「ああ」

P「何か相談ごととかあれば、遠慮なく言っていいんだからな」

トオル「わかってる。そのときは、頼る」

トオル「幼馴染としてね」

P「おう」

ヴーッ

P「俺のスマホ……じゃないな」

トオル「僕のかな」

トオル「あ、ヒナナだ」

トオル「いま向かう、か」

トオル「『わかった。控え室にいるから』――っと」ポチポチピッ

P「ヒナナって、この前うちの事務所に一緒に遊びに来た子か?」

トオル「うん」

P「仲良いんだな」

トオル「まあね」

トオル「この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた」

P「仲間は大切にしろよ? 1人で生きていくなんてできないんだから」

トオル「ふふっ、大げさ」

P「大げさなもんか。特にこの業界、1人だけの無力さを痛感する場面が多いからな……」

トオル「大人の事情だね」

P「トオルもこれから大人になっていくんだろ?」

トオル「うーん。どうかな」

P「なるんだよ。まあ、いずれわかるさ」

P「……あ」

P「い、いま何時だ!? ……ってやばい!」

P「30分後に落ち合おうって俺が言ったのに、もう過ぎてる……!」

トオル「だめだよ、約束は守らないと」

P「本当だよな。大人の俺がこんなんでどうするって話だ」

P「それじゃ、その……またな。トオル」

トオル「またね、P」

ガチャ

トオル「今度、一緒に遊んでね」

P「ああ、何するか考えておけよ」

バタン


178: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/07(土) 04:00:32.31 ID:0PIvbGduO

~控え室外 廊下~

P タッタッタッ

P(冬優子、怒ってるだろうな……)

P(走って向かっても遅刻は確定だが、それでもできるだけ早く着いてやらんとな)

P「はあっ、はあっ……」タッタッタッ

P(この先で、左に曲がる――っ!)

P「わっ!?!?!?」

ヒナナ「わ~~???」

P「ぐ、……っととととと、あ、あぶない……」

P(全力で踏ん張ることで、とりあえず思い切り衝突するのは防げたぞ)

ヒナナ「だいじょうぶですか~?」

P「あ、ああ。急いでたもので、申し訳ありませn……って、君は」

ヒナナ「あは~。この前のお兄さんだ~~」

P「トオルの友だちだったっけ。俺はトオルとは幼馴染なんだ」

ヒナナ「知ってますよ~~。トオル先輩から聞いてました~~~」

P「そ、そうか」


トオル『この大会の間のこととか、あとPのこととかも、時々話聞いてもらってた』


P(そんなことも言ってたな)

P「しばらくあいつと会ってなかった俺が言うのもなんだが、トオルが世話になってるな」

P「仲良くしてやってくれ」

ヒナナ「は~い。ヒナナ、トオル先輩のこと好きですから~」

P「ありがとう。よろしく頼んだ」

P「うおっ、やべ……さらに遅刻だ……!」

P「じゃ、じゃあな」

ヒナナ「ばいば~い」フリフリ

P タッタッタッ


184: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/08(日) 02:52:53.32 ID:vsctKL7KO

~決勝会場 ロビー(再び ―― >>171)~

コイト「え……」サーッ

冬優子「ごめんねっ! 持ち主だって言ってて、大切にしてたみたいだったから、渡しちゃった……」

コイト「その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……」

冬優子「う、うん」

冬優子(……まずったかしら)

冬優子(というか、いま、コイトちゃん――)


コイト『その拾ったアクセサリーを……ひ、“ヒナナちゃんに返しちゃった”んですか……』


冬優子(――って言ったわよね)

冬優子「あの……さ、コイトちゃんって、あのヒナナちゃんって子と知り合いだったの?」

コイト「ぴぇ!? な、なな、なんでそう思うんですか」

冬優子「言い方がそんな感じかなって」

コイト「うぅ……」

冬優子「もしかして、知られたらよくないことなのかな?」

コイト「……」

コイト「……っ」

コイト「~~~~!」

コイト「……わ、わかりました。冬優子さんには、ちゃんと話します」

コイト「っ……」

コイト「わたしがあのアクセサリーを拾ったのは、マドカちゃんが怪我をしたのと同じ日です」

コイト「マドカちゃんが、つ、つつ、突き飛ばされたすぐ後に……床に落ちてたのを、わたしが」

冬優子「そんな……それって――」

冬優子(――いや、結論を急いじゃだめ、ふゆ)

コイト「わ、わたしとヒナナちゃんは幼馴染なんです」

コイト「あれは、小さい頃に、わたしがヒナナちゃんにプレゼントしたアクセサリー……」

コイト「ヒナナちゃんとは中学から疎遠になっちゃったけど、あのアクセサリーはずっと大事にしてくれてたみたいです」

コイト「でも……! それを知ったのも、マドカちゃんが怪我をした日……」

コイト「あの日、マドカちゃんが階段から降りてこようとしたその時――」

コイト「――わ、わたしは……、マドカちゃんのすぐ後ろにヒナナちゃんがいて――」

コイト「――ヒナナちゃんがマドカちゃんの背中を、おお、押すのを……!」

コイト「グスッ……み、見ました」

冬優子「……」

冬優子(ふゆの結論は、残念ながら正解だったみたいね)

冬優子「ひどい……なんでそんなこと……」

コイト「わっ、わたしにもわからないんです! い、いろいろ考えちゃいましたけど、でもヒナナちゃんってつかみどころのないところがあるから……」

コイト「こんなの、わたしは……い、嫌です」

コイト「アイドルになって、ヒナナちゃんもアイドルやってるって知って」

コイト「いつかまた仲良くできたらいいなって、……思ってたのに」

コイト「久しぶりだねって……そのアクセサリーいまでも使ってくれてたんだねって……そ、そうやって再会したかったのに……」

コイト「アイドルになって、なかなか話しかけられないでいたら、こ、こんなことになるなんて……」

コイト「……そ、それでも、わたしはヒナナちゃんを友だちだって思いたかったから」

コイト「見たことを言わないで、拾ったものを隠して、ヒナナちゃんを守ろうって、……そうしたんです」


186: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/08(日) 03:33:03.26 ID:vsctKL7KO

冬優子「コイトちゃんが拾ったまま持っていれば、ヒナナちゃんはそのアクセサリーをなくしただけになる……」

コイト「わたしたち3人以外はあの場にいなかったから……人気は全然なかったし、そ、それは確かなんです」

コイト「でも……わ、わたしがそれを落としちゃうなんて……」

冬優子(それをふゆが拾って“持ち主”に返しちゃった――と)

コイト「ヒナナちゃんがあの日にアクセサリーを落としたって気づいてたら、きっとわたしが持ってきたって思うはずです」

コイト「だって、マドカちゃんはここに来れなかったから……」

コイト「あ、あの場にいて、この決勝に持ってこれるのは、ヒナナちゃん以外にはわたししかいませんから……」

コイト「それを冬優子さんが拾って返したってことは、も、もう……!」

冬優子「お、落ち着いてコイトちゃんっ」

冬優子「コイトちゃんが黙ってて欲しいって言うなら、ふゆは誰にも言わないよ」

冬優子「たぶん、本当はこのことを他の人に言うべきなんだと思う……それでも――」

冬優子「――これは、コイトちゃんとヒナナちゃん……それからマドカちゃんの3人の問題だもん」

冬優子「ふゆがどうこうしていい話じゃないよ」

冬優子「ごめんね……なんか無責任なこと言ってるよね、ふゆ」

コイト「あ、謝らないでください! わたしが巻き込んだだけです……」

コイト「…………ふ、冬優子さん!」

コイト「っ……お願いします、このことは、誰にも言わないでください」

冬優子「わかった。それならふゆは何も言わないよ」

冬優子「コイトちゃんは、ヒナナちゃんのことが大好きなんだねっ」

コイト「は、はい……ですから」

コイト「これは、わ、わたしが! 決着をつけます!」

コイト「ちゃんと、ヒナナちゃんと話して、向き合わないと……」

コイト「だ、だから、冬優子さんは何も言わないでください」

冬優子「ふふっ、そっか」

冬優子「頑張ってね、コイトちゃん!」

コイト「は、はい!」

コイト「わたし、いまからヒナナちゃんに会いに行ってきます」

コイト「久しぶりの会話がこれなのは悲しいけど……それでも!」

コイト「このまま何もしないのは、たぶん駄目ですから」

コイト タタタタタ

冬優子「……」

冬優子(どうなるのかしら、あの子たち)

冬優子(結局、ふゆにとっては関係のない話……なのよね)

冬優子「……って、やっと来た」

冬優子「もう! おっそい!」

P「はあ゛っ、くっ、……わ、悪い、遅れちまって」ゼェゼェ

冬優子「まったく、優勝アイドルであるふゆを待たせるなんて、いい度胸ね」

P「返す言葉もない……」ゼェゼェ

冬優子「冗談よ。もういいわ、あんたが遅れて来たことなんて」

冬優子(プロデューサーが遅れてる間に、そんなのが気にならないくらいの話があったんだから)

P「さ、じゃあ帰ろうか」

冬優子「そうね、でも足りないわ」

冬優子「一緒に笑って帰るって言ったでしょ。もっと楽しそうに……嬉しそうにしててよね!」


187: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/08(日) 03:49:59.04 ID:vsctKL7KO

~エレベーターホール~

トオル「あ、エレベーター来たわ」

ヒナナ「も~~全然来ないから待ちくたびれちゃった~~~」

フォンッ

ウィーン

コイト「……」

ヒナナ「! ……あは~」

トオル「?」

コイト「ひ、ヒナナちゃん! ……久しぶり、だね」

ヒナナ「うん! そうだよね~~」

トオル「ヒナナの、友だち?」

ヒナナ「幼馴染かな~?」

トオル「ふふっ、そっか」

トオル「邪魔しちゃ悪いし、先にロビー行ってるね」

トオル「久しぶりの会話、楽しんで」

トオル「じゃ」

ウィーン

バタン

コイト「……」

コイト「中学で別の学校になっちゃったから、それ以来だよね」

ヒナナ「そうだったね~。元気だった~?」

コイト「う、うん。ヒナナちゃんは?」

ヒナナ「ヒナナもそんなとこ~」

コイト「そ、それなら良かった……」

コイト「……」

コイト「ヒナナちゃん、覚えてる? 小さい頃に、わたしがヒナナちゃんにあげたアクセサリー」

ヒナナ「もちろん覚えてるよ~。えーっと……」ガサゴソ

ヒナナ「……あった! これでしょ~?」

コイト「そう……! それ……」

ヒナナ「“コイトちゃんが拾ってくれた”んでしょ~?」

コイト「!! ……やっぱり、気づいてたんだね、ヒナナちゃん」

ヒナナ「うん! さっきトオル先輩の好きなお兄さんのアイドルの人から返してもらったけど――」

ヒナナ「――ヒナナがこれをなくしたのは、あの日だもんね~」

ヒナナ「あそこにはヒナナたち3人以外いなかったし~~……、あの子じゃないならコイトちゃんかな~って」

コイト「ヒナナちゃん……久しぶりに話せたのは嬉しいけど、で、でも、聞かせて……!」

コイト「マドカちゃん――あの子を階段から落としたのは、……っ、な、なんで!?」

ヒナナ「やは~~、それはね――」


191: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/10(火) 01:23:42.84 ID:W+GZMLB+O

~車内(移動中)~

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P(……本当にお疲れ様、冬優子)

P(車を出してしばらくは興奮気味にステージでのことを話してくれてたが)

P(一気に開放感がやってきたのか、しばらく黙ったかと思ったら寝ちまったな)

P(あれだけ頑張ってきたんだ。今は好きなだけ休めばいい)

P(後部座席にいる女の子は――たった今の冬優子は――ただの女の子なんだから)

冬優子「んんっ……」

冬優子「あんたは――」

P「?」

冬優子「――ここでふゆと死ぬのよ……」

P ビクッ

冬優子「……って……何言わせんのよあさひー」

冬優子「こんなセリフ台本にないわよ……んぅ」zzzZZZ

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P(ね、寝言かよ……! なんて物騒な夢を見てるんだ……)

P(でも、冬優子が言いそうなセリフだな。どんな状況だよという突っ込みは置いておいて)

P「……ははっ、まあ、冬優子はしぶとそうだよな」

冬優子「……」zzzZZZ

P(……寝てるんだよな? 聞かれてないよな?)

冬優子「すぅ……すぅ……」zzzZZZ

P「ふぅ……」

P(しかし――)


P《あまり大きな音は立てられない……ならば――》

ポンッ

『っ!?』

P《――単純な話、気配を消して、肩を叩けばいい》

『んっ……』バッ

テテテテテ


P(――あの時……舞台装置のあたりにいたのは誰だったんだろうか)

P(もしあそこで肩を叩いてなかったら……冗談じゃなく冬優子は……)

P(冬優子がうらまれる理由でもあるのか? 冬優子だからこそ、敵を作るようなことはそうしない気もするが)

P(あるいは、一方的なものだろうか)

P(大会が終わってからは撤収作業で慌しくなって、舞台の裏方でない俺にできることは何もなかった)

P(結局、あの未遂に終わった工作は謎のままだ)

P(プロデューサーとしては、今は様子を伺うのが良いのかもしれない)

P(ただ、冬優子の近くの人間には注意をしておこう)

冬優子「プロデューサー……」

P「! ……どうした、冬優子」

冬優子「……呼んでみただけよ。……すぅ」zzzZZZ

P(なんだ、また寝言か。……まあ、こうして冬優子が安心して寝ていられるように、俺も頑張らないとな)


192: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/10(火) 02:17:19.20 ID:W+GZMLB+O

~決勝会場 エレベーターホール(再び ―― >>187)~

コイト「マドカちゃん――あの子を階段から落としたのは、……っ、な、なんで!?」

ヒナナ「やは~~、それはね――」

コイト「……っ」ゴクリ

ヒナナ「――コイトちゃんとまた仲良くしたいな~って思ったから~~」

コイト「へ……?」ポカン

ヒナナ「? どうかしたの~?」

コイト「ちょ、ちょっと待ってヒナナちゃん! それと、その……マドカちゃんを怪我させることってどんな関係があるの……!?」

ヒナナ「だって~、コイトちゃん決勝に来れなくなっちゃったから~~……」

コイト「そ、それはっ……そうだけど」

ヒナナ「ヒナナもね、コイトちゃんがアイドルやってるって嬉しかったよ~」

ヒナナ「また仲良くできたらいいな~って思った~~」

ヒナナ「この大会の決勝って人も少ないでしょ~? だからコイトちゃんと話せるかな~って思ったけど……そうじゃなかったから」

ヒナナ「……それは、しあわせ~じゃないよね~~」

ヒナナ「あと~、コイトちゃんが決勝に行けたら、コイトちゃんもしあわせ~ってなるでしょ~~?」

ヒナナ「コイトちゃんがしあわせなら、ヒナナもしあわせになれるかなって」

ヒナナ「それに~、うーんと、あの子……マドカ……先輩?」

コイト「! そっ、そうだよ! マドカちゃんだよ! 1つ先輩の!」

コイト「お、覚えてたんだね、ヒナナちゃん」

ヒナナ「でも~、あんまり覚えてないよ?」

コイト「小学校のときの先輩だよ……たしか、中学はヒナナちゃんと一緒のところだったんじゃ……」

ヒナナ「ん~、そう、かも? あ~、というか……」

コイト「というか……?」

ヒナナ「やは~、別に~~? なんでもないよ~……」

ヒナナ「あ、そういえば~」

ヒナナ「……たしか~、コイトちゃんってマドカ先輩に可愛がられてたよね~~」

コイト「え、えへへ……そうだった、かな?」

ヒナナ「ヒナナと一緒に帰れないときとか~遊べないときって~……マドカ先輩と一緒だったときだったよね~~」

コイト「え゛っ、そ、そう……? ごめんね……あんまり覚えてないかも」

ヒナナ「まっ、いいけどね~」

ヒナナ「あれ~? なんの話だったっけ~~?」

コイト「あ……そ、その……!」

コイト「じゃあ、ヒナナちゃんがあんなことをしたのって……」

コイト「わたしが決勝に進めば、ヒナナちゃんと会えるから……ってこと……だよね」

ヒナナ「うん!」

コイト「わ、わたしが決勝に進めれば、ヒナナちゃんも嬉しいから……」

ヒナナ「そうかなって思った~」

コイト「……そ、そう……なんだね」ガクッ

コイト「ヒナナちゃんは、マドカちゃんのこと……」

ヒナナ「?」

コイト「う、ううん。なんでもない」

ヒナナ「あ~……久しぶりに話せたのに~~。なんかあんまりしあわせ~な話じゃないね~~」


193: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/10(火) 02:49:48.28 ID:W+GZMLB+O

コイト「っ!!」

コイト「ふ、ふふ……!」

コイト「ふざけないでよっ!!」

ヒナナ「?」

コイト「グスッ……友だちがあんなことになって、そのおかげで決勝に行けたって……う、嬉しくなんかないよ!!」

コイト「そ、それが……ヒナナちゃんとまた仲良くなるためだなんて……嬉しいわけがないよ……」

コイト「たっ、たしかに、わたしだって一生懸命頑張ったよ! でも、その上で駄目だったんだよ……!」

コイト「……それなら、諦めるよ」

コイト「もう、子どもじゃないから」

ヒナナ「そっか~……コイトちゃんはそう思うんだね~~」

コイト「久しぶりだからとかじゃない……わたしは、ヒナナちゃんがわからないよ」

ヒナナ「ヒナナはヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの」

コイト「っ……ヒナナちゃんにとって、し、しあわせって何……?」

ヒナナ「それはヒナナにもわからな~い」

ヒナナ「わからないから、こうしたっていうのが、答えかな~」

ヒナナ「ヒナナもね、子どもじゃないの。だから考えてみようと思って~」

ヒナナ「だから、ほかの人のしあわせ~って、なんなんだろ~って」

ヒナナ「友だちの――コイトちゃんのしあわせってなんなんだろ~って」

ヒナナ「で、ヒナナなりに考えたけど……うん、だめだったみたい!」

ヒナナ「なんか、ごめんね~?」

コイト「ひ、ヒナナちゃん……」

ヴーッヴーッ

ヒナナ「あ、電話……トオル先輩からだ~♪」

ピッ

ヒナナ「は~い、もしもし~~?」

ヒナナ「時間かかりすぎ~? あ~! ほんとだ~~!」

ヒナナ「うん。……うん! 久しぶりに話せたから、嬉しくてつい、ね~」

ヒナナ「わかった~。じゃあ、いまからそっち行くね~」

ピッ

ヒナナ「なんか呼ばれちゃった~」

コイト「ぴぇっ? あ、うん」

ヒナナ「もっとお話したかったけど……」

ポンッ

コイト「ぴゃ!?」

ヒナナ「“また今度”ね~、コイトちゃん」

コイト ゾッ

ヒナナ「~♪」

フォンッ

ヒナナ「やは~♡ 今度はエレベーターすぐに来た~」

ウィーン

バタン

コイト「……」ヘナヘナ

コイト「ヒナナちゃん……」


194: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/10(火) 03:07:50.58 ID:W+GZMLB+O

~決勝会場 ロビー~

トオル「……ん」

トオル「これは、足音と鼻歌……」

ヒナナ「~♪」

トオル「あ、やっとヒナナ来たわ」

ヒナナ「おまたせ~~」

ヒナナ「待った~?」

トオル「うん。ふふっ……めっちゃ待った」

ヒナナ「あ~! そういうこと言うの~~? もう」プクー

トオル「そういうこと言っちゃう。待ったし」

トオル「あ、そうだ」

トオル「あの子とは、楽しく話せた?」

ヒナナ「ん~、どうだろ~~」

ヒナナ「まあまあかな~?」

トオル「そっか」

ヒナナ「なんかね~、今日はしあわせじゃない~ってことがいろいろあったかも」

ヒナナ「うまくいかないな~って」

トオル「まあ、そういう日もある」

トオル「私も、今日はそうだし」

トオル「優勝はできなかったし」

トオル「あと、フラれちゃったから」

ヒナナ「そっか~」

ヒナナ「お互い苦労しますね~」

トオル「だね~」

トオル「なかなか思うようには……ね」

トオル「ほら、思わない?」

トオル「人生って、長いなーって」

ヒナナ「あは~……そうかもね~~」

トオル「よっ、……んーっ」ノビーッ

ヒナナ「どうしたの~? ここ天井高いから手届かないよ~」

トオル「うん。届かない」

トオル「届かない……てっぺんに」


198: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/11(水) 02:44:53.78 ID:bXMJ5aRCO

1ヵ月半後。

~事務所~

冬優子「あ゛~~っ……ソファーソファー……」

冬優子 ボフッ

冬優子「……疲れた」ハァ

愛依「ほんと、冬優子ちゃんのおかげで仕事たくさん入ってるよね~」フゥ

冬優子「そうよー……。ふゆに感謝しなさい……」

愛依「めっちゃ感謝してるって! うちもプロデューサーも、……あと、たぶんあさひちゃんも!」

あさひ「まだまだいけるっすよ冬優子ちゃん! さあ起きるっす!!」

冬優子「もう……あんたは、もう少し疲れるってことを知ってよね」

愛依「冬優子ちゃん?」

冬優子「あ」

愛依「やば……ひょっとして冬優子ちゃん、疲れすぎて見えたり聞こえたりしちゃイケないのが……」

冬優子「うっさい……。あさひならこういうとき、まだまだいけるって言うんじゃないかって思っただけよ」

愛依「……」

愛依「あはっ、そかそか」

冬優子 モゾモゾ

冬優子「……」

愛依「そだね。あさひちゃんがいまの冬優子ちゃん見たら、そう言うっしょ」

ガチャ

愛依「あ、プロデューサー来たカンジ?」

冬優子「仕事人間……」ボソッ

愛依「まあまあ……うちらのために頑張ってくれてるワケだしさ」

P「2人ともお疲れ様。明日から3日間オフにしてあるから、ゆっくり休んでくれ」

冬優子「そうさせてもらうわ……」

愛依「いやぁうちもさすがに休みなしはなかなかハードだったってゆうか~」

P「嬉しい悲鳴だと思ってくれ。誰かさんのおかげで、仕事が次々に舞い込んでくるんだからな」

愛依「ね~。誰かさんのおかげでね~」

冬優子「……はいはい。どうも」

愛依「照れてる照れてる。カワイイな~冬優子ちゃん」

愛依「プロデューサーもそう思うっしょ?」ニヒヒ

P「えっ!? あ、ああ……そうだな」

冬優子「……」

冬優子「……もう、ばか」


199: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/11(水) 03:05:33.41 ID:bXMJ5aRCO

愛依「ん~~っ……でも、お休みかぁ」

愛依「フツーに学校ある日は行こうかな~。いきなり何もしない日が来ても暇すぎてヤバいし」

冬優子「どんだけ体力あるのよあんたは」

愛依「まっ、高校生だかんね」

冬優子「ふゆと1つしか違わないでしょ」

P「ははっ。まあ、高校卒業してからは俺も老化を感じてたなぁ」

冬優子「ちょっと、ふゆは別にそこまで言ってないわよ。あんたと一緒にしないで」

あさひ「えっ? 冬優子ちゃんっておばさんだったんすか!?」

P「こらこら……冬優子を怒らせるようなこと言うなよ、あさひ」

愛依「あはは……」

P「? あ……」

冬優子「プロデューサー……あんたも疲れてるのよ。もうあがったら?」

P「はは……これは、まいったな」

愛依「……」

冬優子「……」

P「……」

P「静か、だな」

愛依「うん……」

冬優子「あさひがいないと、この事務所もおとなしいもんね」

愛依「うちら、あさひちゃんのこと大好きだよね……」

P「……そうだな。なんか、すぐそこにいる感じがするよ」

冬優子「やめやめ。こんな空気、あさひは別に喜ばないわよ」

愛依「冬優子ちゃん優しいね~」

冬優子「そんなんじゃないわよ……」

P「さ、今日はもう解散にしよう。特にいますぐ連絡することはないし」

P「各々、まあ休息とか……残業とか、自分のことをしよう」

冬優子「ふゆはもう少しここでこうしてるわ」

愛依「……あっ、うちは今日下の子たちのゴハン作ってやらなきゃだから、もう帰んなきゃ」

愛依「じゃ、冬優子ちゃん、プロデューサー、お疲れ様~」

P「おう、お疲れ。またな」

冬優子「気をつけて帰んなさい」

愛依 タタタ・・・

ガチャッ

バタン

P「……」

冬優子「……」


200: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/11(水) 03:21:48.98 ID:bXMJ5aRCO

P「残った仕事片付けるか……」

ヴーッヴーッ

P「電話か……誰からだ?」

P「……!」

P「お、おい! 冬優子!」

冬優子「なによ……うっさいわね……」

冬優子「ひと眠りいこうと思ってたとこなの……ほっといt……」

P「電話だ! 連絡が来たんだよ!」

冬優子「……だーかーらー、誰からよ」

P「ああ――」

P「――あさひから、だ」

冬優子 ガバッ

P「ほら、出てやれよ。お前と話したいんだろうよ」

冬優子「そ、そんなわけ……だいたい、あんたのスマホにかけてきてるんだから、ようはそういうことでしょ」

P「あさひ、こっちにスマホ忘れて、向こうで別に格安スマホ買ったんだと」

P「だから、もともとの連絡帳にあった人にはかけられないんだよ」

P「俺の電話番号はあいつに持たせた書類にあったから知ってるけどさ」

ヴーッヴーッ

P「はい、このボタン押せば出れるから」

冬優子「……」

ピッ

冬優子「もしもし……」

あさひ「あれ、その声はプロデューサーさんじゃない……?」

あさひ「いつの間に女の子になっちゃったんすか!? わたし何も聞いてないっす!!」

冬優子「落ち着きなさい。出たのはふゆよ。283プロの黛冬優子」

あさひ「あっ、確かに言われてみれば冬優子ちゃんの声っすね」

あさひ「冬優子ちゃんの声を使って喋ってる別の人とかじゃないっすよね?」

冬優子「違うわよ。本人だっての」

冬優子「ふざけてるならもう切るけど?」

あさひ「別にふざけてないっす!」

あさひ「久しぶりっすね~冬優子ちゃん。元気だったっすか?」

冬優子「はいはい。そうよ」

あさひ「あれから、やっぱお仕事たくさん来てるんすかね?」

冬優子「はいはい。おかげさまでね」

あさひ「毎日快便っすか?」

冬優子「はいはい。そうよ……って! 何言わせんのよ!!」

あさひ「あはははっ! やっぱ本物の冬優子ちゃんっすね~!」

冬優子「もう切r――」

あさひ「冬優子ちゃんと話せて、わたし、ほんっとうに嬉しいっす!」

冬優子「――……」

冬優子「……あっそ」


201: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/11(水) 03:45:31.98 ID:bXMJ5aRCO

冬優子「そっちは……どうなの」

冬優子「海外の大御所の弟子ってのは」

あさひ「ん~……まあまあ? っすかね」

あさひ「いろいろ自由にやらせてくれてるのには感謝っす!」

あさひ「あのおばさんいい人っすよ!」

冬優子「……それ、他の人には言わないようにしなさいよ」

あさひ「あはははっ、言っても言葉が通じないっす!」

冬優子「心配しなくても、あんたはそうやって平気な顔して生きていけそうね」

あさひ「心配……」

あさひ「冬優子ちゃん、わたしのこと心配してくれたんすか?」

冬優子「っ!」

冬優子「わ、悪い!? ふゆがあんたの心配したら問題でも?」

あさひ「い、いや……そういうわけじゃないっすけど……」

あさひ「……えへへっ」

冬優子「あさひはストレイライトの稼ぎ頭なの、に……」

冬優子「リーダーであるふゆに何も言わないで飛び出して行くなんて……」

あさひ「……」

冬優子「本来なら破門だけど! でも、帰ってきたらデコピンくらいにしておいてあげる」

冬優子「愛依もプロデューサーも……」

冬優子「……あと、ふ、ふゆも」ゴニョゴニョ

冬優子「あさひがいないと、……その」

冬優子「さ、寂しがるわ! だから――」

冬優子「――早く帰ってきなさいよね」ボソッ

あさひ「冬優子ちゃん……」

あさひ「わたし、是非ともこの子を私の手で育ててみたいからしばらく自分のところに置かせてほしい、って言われて行っただけっすよ?」

あさひ「それに、ずっとこっちにいるわけじゃないから、そのうち会えるじゃないっすか」

冬優子「あーもー! あんたってやつは!」

冬優子「そうですかそうでしたねじゃあねせいぜい頑張んなさい切るわよ!」

あさひ「あ――」

冬優子「……なに」

あさひ「――ありがとうっす! 冬優子ちゃんだいすき!」

冬優子「っ」

あさひ「そろそろレッスンの時間なんで切るっすよ! ばいばいっす!」

ブツン

プーップーッ

冬優子「……」


202: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/11(水) 03:55:24.08 ID:bXMJ5aRCO

P「……電話、出てよかっただろ?」

冬優子「さ、さあ? どうだか」

P「冬優子……」

冬優子「なに? 泣いてなんかないわよ」

P「いや、何も言ってないんだが」

冬優子「っ!」

冬優子「あ、あんたはさっさと仕事しなさい!」ボフッ

冬優子 モゾモゾ

P「スマホ返してくれ」

冬優子 ポイッ

P「あっ、俺のスマホが……!」

P パシッ

P「っとと、ふぅ……我ながらナイスキャッチ」

冬優子「……」

P「……仕事すっか」


~3時間後~

P「ん゛~~~っ! ……やっと、あと1つだ」

冬優子 ムクッ

冬優子「っ!? じ、時間……!」

冬優子「……はぁ」

冬優子「こんなに寝ちゃうなんてね」

P「おはよう、冬優子」

冬優子「挨拶から芸能人扱いどうも」

冬優子「もうほとんど深夜……これじゃ絶対夜寝れない……」

P「積んだアニメでも消化すればいいじゃないか。せっかくのオフなんだから」

冬優子「……それもそうね」

冬優子「……」

冬優子「あんたってさ」

P「?」

冬優子「あんたも、オフなの?」

P「俺か? 俺は……明日は出勤だけど、明後日と3日後は休みにしてもらったよ」

P「さすがに――」


冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』

愛依『冬優子ちゃん……』

冬優子『それに、自分の面倒も見れないような人間がふゆたちをプロデュースするなんて……笑えるわね』


P「――これ以上の過労は避けたいからな」

冬優子「……そ」

冬優子「それなら……」

冬優子「3日後、ふゆと一緒に過ごして」


207: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/12(木) 00:40:15.75 ID:cvrqtvL+O

2日後。

~病院~

カツッ、カンッ

マドカ「……く」

カンッ

マドカ「っと……」

マドカ「はぁっ……ふぅ」

マドカ「……少し休憩」

カツッ、カンッ

カッ・・・

マドカ「……」

マドカ「また来たんですか」

冬優子「そんな顔しないでよ~」

冬優子「……マドカちゃん、あれから元気になれたかなって、思ったから」

マドカ「まあ、おかげさまで回復には向かってます」

マドカ「リハビリは続きそうだけど」

マドカ「ここでの暮らしにも……慣れていってる自分がいる……」

冬優子「マドカちゃん……」

マドカ「あ、そうだ」

マドカ「優勝おめでとうございます」

マドカ「テレビで見てました。……本当にすごかった」

マドカ「私があのまま決勝に行ってても、たぶんあなたには勝てなかった」

マドカ「そう……思いました」

冬優子「ありがとう、見ててくれて」

冬優子「……あっち行こ? 立ちながらじゃなくて、ゆっくりお話したいな」

マドカ「……それもそうですね」


208: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/12(木) 01:03:23.28 ID:cvrqtvL+O

~病院 ラウンジ~

マドカ「コイトは……」

冬優子「っ」

冬優子(こんな怪我をするはめになった原因……コイトちゃんは言ってた――)


コイト『…………ふ、冬優子さん!』

コイト『っ……お願いします、このことは、誰にも言わないでください』


冬優子(――誰にも言わないで、ってね)

冬優子(だから、ふゆは知ってるけど言えない)

冬優子(もっとも――)


マドカ『……聞いても、コイトは言おうとしませんが』

冬優子『言いたくない理由があるってことなのかな?』

マドカ『さあ……どうなんでしょうね。言いたくないのに無理に言わせようとは思いませんので』


冬優子(――そもそも言う必要ないわね)

マドカ「あの……?」

冬優子「あ、え? ……ご、ごめんね! ふゆ、ぼ~っとしちゃってたみたい!」

マドカ「はぁ……で、コイトのことなんですが」

マドカ「あの子は、楽しくやれたんでしょうか」

マドカ「私の代わりに決勝に出るってこと……たぶんコイトはいろんなことを考えるはず……」

マドカ「ただ、コイトが楽しくやれてたなら、私は別にいいんです」

冬優子「コイトちゃんが、楽しく……」

冬優子(決勝が始まる前は、最初は――)


コイト『ま、マドカちゃんならこういうときどうするのかなって、そんなこと、考えちゃって……』

コイト『えへへ……だめだめですね、わたし』グスッ

コイト『わたしなんかがこんなステージに来ちゃだめだったのかも』ボソッ


冬優子(――なんて言ってたわね。でも――)


コイト『グスッ……は、はい! わたし、頑張ってみます!』

コイト『それこそ、マドカちゃんのぶんまで!』

コイト『ま、マドカちゃんが残すはずだったのよりもずっと大きな結果、残しちゃいますよ……!』


コイト『ま、負けませんよ! 勝負ですから!』


冬優子「――きっと、ステージでは悔いなくできたんじゃないかって、ふゆは思うな」

冬優子「大丈夫! マドカちゃんが心配してるほど、コイトちゃんは弱くないもん」

冬優子「まあ、確かにあの子は……ふゆも放っておけないな~って思っちゃうけど」

冬優子「コイトちゃんはどんどん強くなってるよ。決勝まで一緒にいたふゆが保証します♪」

マドカ「そう、ですか」

マドカ「実は、まだ見れてないんです」

マドカ「コイトのステージはテレビでは流れなかった。テレビで放送されたのは、優勝したあなたと、準優勝のトオルとかいう子だけ」

マドカ「だから、私は心配性になっていたのかも……たぶんそれは、私がコイトのことを信じ切れていない証拠ですね……」

マドカ「でも、あなたの話を聞いてると、大丈夫なのかもしれないって思えました。私がいなくても、あの子には、あなたという味方が確かにいたから」


209: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/12(木) 01:29:37.91 ID:cvrqtvL+O

グゥ・・・

マドカ「!!」

冬優子「あ……」

マドカ「っ……」

冬優子「マドカちゃん、顔真っ赤だよ?」

マドカ「べ、別に……ただの生理現象」

冬優子「お腹空いてるんだねっ。そうだ、ふゆが売店で何か買ってきてあげる!」

マドカ「そんなパシらせるような真似……」

カツッ

マドカ「私も行きます」

冬優子「だ~め。あれだけリハビリ頑張ってるんだから、いまは休憩しないとだよ」

マドカ「……」

冬優子「いいから、マドカちゃんはそこで座ってて」

冬優子「お金も気にしないでいいよ。ふゆ、一応、お姉さんなんだから」

マドカ「さすがに奢られるのは私が気にします。ちょっと待ってて……」

冬優子「ほんとにいいのに~……」

マドカ ガサゴソ

マドカ「……」

冬優子「マドカちゃん? どうかしたの?」

マドカ「いえ……はぁ」

マドカ「5千円札が、2枚……だけ……」

マドカ「小銭が全然ない……」

冬優子「プッ……あははっ、マドカちゃん、お金持ちだねっ」

マドカ「冷やかさないで……もう」

冬優子「まあ、さすがにそこまでの金額は必要ないよね、たぶん」

冬優子「それで? その大金をふゆに渡してくれるのかな? “樋口”さん?」

マドカ「はぁ……。もういいです。奢られます。奢ってください」

冬優子「よ・ろ・し・い♪ じゃあ、売店着いたらLINEで何があるか教えるねっ」

マドカ「私、あなたという人がわかってきたかもしれません」

マドカ「本当のあなたは……」

冬優子 ニコニコ

マドカ「……いえ、なんでも」


210: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/12(木) 01:54:34.02 ID:cvrqtvL+O

10分後。

冬優子「マドカちゃん~! おまたせっ」フリフリ

マドカ「ちょっ……そんなに大声出さないで。周りが見てる」

冬優子「はいっ、どうぞ」

マドカ「……ありがとうございます」

冬優子「やっぱり病院の売店って空いてるね」

冬優子「学校のとは大違い」

マドカ「まあ、それはそうですね」

マドカ「それにしても、随分とスムーズに買い物できたんですね」

マドカ「この病院……造りがいろいろと複雑で、売店はラウンジからだとわかりにくいところにあるし……そもそも少し遠いのに」

冬優子「マドカちゃんが入院する前にね、ふゆ、ここに来たことがあったの」

冬優子「……」

冬優子「ふゆのプロデューサーさんが、過労で倒れちゃったときに……ね」

冬優子「それでね、ちょっとだけ知ってるんだ。この病院のこと」

マドカ「……そうだったんですか」

冬優子「プロデューサーさんは、他の何よりもふゆたちとふゆたちのお仕事のことを考えてた」

冬優子「だから、自分のことなんか、全然考えてなくて……」

冬優子「ふゆは、そんなプロデューサーさんが許せなかった」


冬優子『こんなになって、さんざん心配させておいて……それでも仕事が大事なの?』

P『それは……お前たちがちゃんとアイドルやっていくために……』

冬優子『ばかにしないで……!』

冬優子『ふゆは……ふゆたちは……あんたにおんぶにだっこじゃないとどこにも行けないアイドルなんかじゃない!』

冬優子『あんたがプロデュースしてるアイドルは……そんなに頼りない?』

冬優子『そんなに――情けない?』

冬優子『あんたの思うストレイライトって、そんなものなの?』


冬優子「まだまだ、ふゆには……ふゆたちには、プロデューサーさんが必要なのにね」

冬優子「……っ」

冬優子「今日だって、ふゆたちにとっては久しぶりのオフなんだ~……」

冬優子「それに、プロデューサーさんにとっても」

冬優子「でも、こうしてる間にも、プロデューサーさんはお仕事しちゃうんじゃないかって……心配で」

マドカ「冬優子さんは、プロデューサーのことが好きなんですね」

冬優子「ふぇっ!? ま、マドカちゃん……」

マドカ「その人を放っておけないって感じ……出てるから」

冬優子「す、好きだなんて、そんな……」

マドカ「違うんですか?」

冬優子「……」

マドカ「今度はそっちが顔を赤くしてますよ」

マドカ「別にいいんじゃないですか。そういうのも」

マドカ「他の人に言ったりなんてしませんし」

マドカ「……冬優子さんは、優しい人なんでしょうね」

マドカ「プロデューサーとの関係はともかく、優しくて、面倒見が良くて……」

マドカ「きっと、そんなあなただからこそ、コイトも……」ボソッ


211: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/12(木) 02:11:39.18 ID:cvrqtvL+O

1時間後。

~病院 玄関口~

冬優子「わざわざごめんね……ここまで来てもらっちゃって」

マドカ「いいんです。これもリハビリになりますし」

マドカ「別に……無理は、してないので」

マドカ「私が見送りたいからそうしただけ……」

冬優子「……そっか。ありがとね! マドカちゃん」

冬優子「ふゆ、またマドカちゃんに会いに来るから!」

冬優子「怪我が早く治るように応援しちゃうからね!」

マドカ「……」

マドカ「ど、どうも……」

マドカ「基本、暇だし……また来てくれれば……」ゴニョゴニョ

冬優子「マドカちゃん? ごめん、いまなんて言ったか、ふゆ聞こえなくて……」

マドカ「……なんでも」

冬優子「そう?」

マドカ「あ、バス……」

冬優子「……来たね」

プシューッ

ウィーン

冬優子「それじゃあね! また、……ね」

マドカ「はい、また……」

冬優子 カンッカンッ

マドカ「……」

冬優子「……」

マドカ「……冬優子さん!」

冬優子「マドカちゃん……?」

マドカ「コイトのこと! よろしくお願いします!」

マドカ「私が見てあげられないとき……いや、それ以外のときも……あの子は楽しく笑っていられるように……!」

マドカ「お願い……コイトを、守ってあげて……」

冬優子「!」

マドカ ニコッ

ウィーン

ガララララ

ピシャッ

マドカ「……」

ゴゴゴゴ

ヴーン

マドカ「……」

マドカ「……頼みましたよ。ミス・ヒロイン」


214: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/13(金) 02:49:52.59 ID:NmH718+nO

翌日。

~某オタクの聖地~

P「ここで……良かったのか?」

冬優子「いいのよ。あんたがいやだってんなら、場所変えるけど?」

P「そうは言ってない」

P「すまない、余計なことを聞いた。冬優子がここで良いって言うんだから、それ以上の場所はないよな」

冬優子「わかればいいの、わかれば」

冬優子「……ここに来るのも久しぶりね」

冬優子「ねえ、覚えてる?」

冬優子「前に一緒に来たときのこと」

P「……ああ」

冬優子「あんたが『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』のイベント出演の仕事を取ってきて」

冬優子「ふゆは……アイドルとしてのふゆと本当のふゆのことで葛藤してた」

冬優子「そんなふゆを、あんたはここに連れ出してくれた」

P「そうだったな」

冬優子「救われてたのよ。ふゆは、あんたにね」


冬優子『ゲームが好きなのね』

P『うーん、ちょっと違うかな』

冬優子『?』

P『ゲームそのものというより、作品が好きなんだよ』

P『世の中いろんな作品があるけど、中には自分と重ねるようなものもあって――』

P『――いや、なんなら、この作品は、あるいはこのキャラは、俺自身なんじゃないか、なんてな』

P『自分の在り方に影響を与える不可分な存在がアニメとかゲームって、何も不自然じゃないよ』

冬優子『!』


冬優子「ふゆが自分みたいに大切にしてる作品のこと……他の奴にどう思われるのか……」

冬優子「ううん、思われるだけじゃなくて、何か言われて……それこそ、否定なんてされたら……って」

冬優子「そう何度も思ったわ」

冬優子「なのに、自分の作ったキャラのせいで、それにさえ嘘をつかないといけないかもしれないって」

冬優子「どうしていいのか、わからなかったのよ」

冬優子「……っ、ふふ、でも」

冬優子「あんたは、最初からわかってた。ふゆのこと、何もかも」

P「何もかもかはわからないけど、でも、できる限りわかってやろうという努力はしてるよ」

P「俺がそうしたくてそうしてるんだ」

冬優子「……そういうところ、やっぱり変わんないわね」


P『……冬優子が自分を嘘だと思ったとしても、好きなものを好きだと言うのが怖いのだとしても』

P『冬優子が黛冬優子としてではなくふゆとしてアイドルをしてることとか、冬優子が好きだと思うことは、その姿勢自体は嘘じゃないだろう』

P『嘘をつくことと、嘘であることは、違うと思う』

P『俺は、嘘をついてでも嘘であろうとはしない冬優子を――全力で“推してる”』

P『冬優子には、冬優子を否定して欲しくない』

P『自分が好きだと思ってる対象が自分を否定してたら、悲しいだろ?』


冬優子「そんなあんたが――プロデューサーが――いてくれたから、ふゆはここまで来れた」


215: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/13(金) 03:05:17.77 ID:NmH718+nO

冬優子「……行くわよ。来て」

P「あ、ちょっと待てって」

冬優子「待たないわよ」

冬優子「ふふっ、……だって――」

冬優子「――あんたは必ず追いかけてくれるって、ふゆは知ってるから」


P「新刊……出てたのか」

冬優子「チェックが甘いのよ」

P「言い訳にしかならないかもしれないが、こう、次が出るまでもどかしい気持ちになるくらいならいっそ忘れてしまって、その後で「あ、これ新しいの出てたんだ!」ってなりたいんだよ」

冬優子「気持ちはわかるけど、刊行予定時期は単行本の後ろのほうにあるじゃない」

P「そうなんだよな……」

P「だから、俺はいつも自分自身にその時期を忘れたフリを決め込むよう努めてる」

P「そして、実際、本当に忘れる」

冬優子「賢いんだかアホなんだかわからないわね」

冬優子「まあいいわ」

冬優子「っと、……はい、これ」

P「?」

冬優子「なによ。買わないっての?」

P「あ、ああ……そういうことか。買う。買うよ」

P「冬優子のぶんも買うから2冊必要だな。もちろん俺が払うよ」

冬優子「ふゆはとっくに自分のぶんを買ってるわよ。当たり前じゃない」

冬優子「格好つかなくて残念だったわね。ほら、いいから買ってきてってば」

P「わ、わかった。じゃあ、ちょっと待っててくれ」

冬優子「はいはい。ふゆはここで適当に他の本とかも見ながら暇つぶしてるから」


216: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/13(金) 03:33:08.47 ID:NmH718+nO

P「買ってきたぞ。中身は……帰ってからのお楽しみとしようかな」

P「冬優子は他に買いたい本ないのか?」

冬優子「ふゆは別に大丈夫」

冬優子「そもそも、ここに来たのは本を買うためじゃないのよ」ボソッ

P「?」

冬優子「それ、貸して」

P「それって、この本か? 買ったばかりの」

冬優子「そうよ。いいから、早く」

P「ああ……はいよ」

冬優子「ありがと。ちょっと待ってて」

冬優子「確か……ここにしまってたのが……」

冬優子「……よし、あったあった」

P(冬優子が漫画片手に取り出したのは、普通のサインペンだった)

P(そして、そのサインペンで――)

冬優子 キュッキュ

冬優子 サラサラ

P(――漫画の表紙裏に、アイドル・黛冬優子のサインを描いた)

冬優子「あ、最後に書きたいことあるんだったわ」

冬優子 サラサラ

冬優子「……はい、完成」

冬優子「どうぞ」

P「お、おう……」

P(返された漫画の――冬優子がサインが描いたところを見てみる)

P「冬優子……」

P(俺でもよく知ってる――あるいは、俺だからこそよく知ってる――冬優子のサインの上には――)

――いつも私を応援してくれてありがとうございます♡ 

     いつまでも応援していてくださいね!    ――

P(――というメッセージが書かれていた)

P(「ふゆ」ではなく「私」という一人称がそこにはある)

冬優子「あんたもふゆのファンなんでしょ」

冬優子「それはファン1号特典! ふゆと……ふゆが自分とおんなじくらい大切にしてる作品を、応援してくれたことに対する、お礼」

冬優子「アイドルとしてのふゆも、本当のふゆも、『魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ』も……」

冬優子「……サインとメッセージを書いたのは、そういうの全部あわせた「ふゆ」よ」

冬優子「それは、その……心からの感謝で……あんたにしか見せない、あんただから贈りたい想いがあったから」

冬優子「あえて、一人称は……そう書いてみたわ」

P「冬優子……」

冬優子「な、なによ。言っとくけど……て、転売なんてしたら許さないわよ!」

P「いやいや、そんなことしないって」

冬優子「そ、そそ、そうよね。はあ……ふゆ、何言ってんだろ」

P「顔真っ赤だが……」

冬優子「うっさい! 別にいいでしょ」

冬優子「その……ゆ、勇気出して書いて、説明しだしたら止まらなくって、めっちゃ恥ずかしくて……わけわかんなくって……」ゴニョゴニョ

P「ありがとう、冬優子。大切にするよ。ここに書いてくれたこと、書くときに想いを込めてくれたこと……忘れないよ」


219: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/14(土) 01:57:52.57 ID:9M/IlCWfO

~大通り~

冬優子「……あ!」

P「どうかしたのか?」

冬優子「え? いや、その……」

冬優子「……」

冬優子「悪いけど、ちょっと別行動させて」

P「別に構わないが……」

冬優子「ふゆだって、せっかく、……あ、あんたと一緒に過ごせる日なんだから、こんなことしたくない」

冬優子「でも、思い出したの」

P「な、何をだ……?」ゴクリ

冬優子「買おうと思ってた本とグッズがね、日にち限定で販売されるのよ」

冬優子「今日がその最後の日……。ほら、最近忙しかったじゃない? この日なら買えるなって思ってたの」

冬優子「ふゆとしたことがこんなミス――ダブルブッキングなんてね……うっかりしてたわ」

冬優子「いっそ買うのを諦める……? ずっと欲しかったやつだけど……」ボソボソ

P「ははっ、ほら、行ってきなって」

冬優子「……あんたはそれでいいの?」

P「いいよ。冬優子が欲しいってずっと思ってたんだろ?」

冬優子「こんなに忙しいのに、次のオフがいつになるかなんて……」

冬優子「最後になったら……どうするのよ」

冬優子「ふゆと、一緒に過ごす日が……」

P「大丈夫だろ」

冬優子「だからなんで……!?」

P「……最後じゃ、ないからな」

冬優子「!」

P「最後じゃないさ。ずっと一緒にいれば」

P「違うか?」

冬優子「……違わない」

P「冬優子は好きなものにまっすぐでいいんだよ」

P「俺は、そんな冬優子が――」

冬優子「ストップ! それ以上言ったらふゆはここで死ぬわよ……」

冬優子「……恥ずかしさで」ボソッ

P「――……それなら、今は黙っておくよ」

冬優子「そうしなさい」

冬優子「……はあ。わかった。買いに行ってくる」

冬優子「ラジ館の前で待ち合わせね。時刻は目途が立ったら送るから」

P「了解。それまで適当にブラついとくよ」

冬優子「悪いわね。できるだけ早く終わるようにするから」

P「それも気にしなくていいのに」

冬優子「ふゆが気にするの!」

冬優子「いいから、じゃあね! また後で!」

冬優子 タッタッタッ

P「よし、楽しく話せたな――」

P(――っとと、声に出したら変なやつじゃないか、俺……)


220: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/14(土) 02:18:02.06 ID:9M/IlCWfO

P(とりあえず暇になったから適当に歩いてみてるけど、冬優子に言われて一緒に過ごすことになった以外にここに来る理由がなかったから、あてもなく彷徨ってる感じだな……)

ザワザワ

P「……?」

P(何やらあそこのイベント会場に人だかりが……)

P(……行ってみよう)


P(えっと、何のイベントなんだ? 調べてみるか)ポチポチ

P(ってこれ、トオルのユニットのイベントなのか!)

P(冬優子と一緒に出かけてて、一時的に別行動とはいえトオルのイベントに参加するのは……少し気が引けるな)

P(でも、幼馴染が主役のイベントだし、同業者の仕事も気になるんだよな……)

P(どうしよう)

「あのー……、ちゃんと列に並んでくれます?」

P「え? あ、いや――」

P(どうする? 関係ないからって言って抜けるか? でも、気になるのは確かだし……)

「いま列動いてるんで、進んでくださいよ」

P「――はい、すみません」

P(出れなくなった……)

P(これは不可抗力だ。そう思うことにしておこう)


トオル「ふふっ、ありがと」

トオル「つぎー……」

P「よ、よう」

トオル「なにそれ、ウケるわ」

P(握手会の列だった……)

トオル「ほら、ぼーっとしてないでさ」

トオル「手、出しなよ」

トオル「そういう企画だから」

P「え? ああ……」

P「はい」

トオル「うん」

トオル ニギニギ

P「……」

トオル スリスリ

P ダラダラ

トオル「……」

P「あ、握手ってこんなんだったか?」

トオル「さあ? どうだろ」

トオル「なんか、変な汁出てるね。Pの手」

P「汁っていうなよ、汗だよ。手汗な。棒が1本ないだけでえらい違いだよ」

トオル「緊張してる?」

P「……まあな」

トオル「そっか」


221: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/14(土) 02:36:57.34 ID:9M/IlCWfO

トオル「ふふっ……握手っていいね」

トオル「こんなんだったんだ。Pの手って」

P「あ、ああ……」

P「ほら、あんまり俺ばっかりだと後ろの人に悪いからさ……」

トオル「そういうこと言うんだ」

P「言うよ。今は仕事してるんだろ?」

トオル「はいはい」

トオル「ごめんね、なんか」

P「謝らなくてもいいけど……」

トオル「ばいばい。またね」

P「ああ。また、な」

P(トオルとの距離が離れていく)

P(俺が自意識過剰じゃなければ、トオルの表情は名残惜しげで――)

P(――……俺もそんな顔をしているんだろうか?)


P(まだ冬優子からの連絡はないな……)

バッ

P「!?」

P(急に視界が真っ暗に……!?)

「だーれだっ」

P(そしてお決まりのやつ!)

P(いや、しかしこの声……冬優子じゃないぞ)

P(というか、うちの事務所の子じゃない……?)

「あは~。わからない~~?」

P(あ、もうわかった)

P(この話し方は――)

P「――ヒナナちゃん……であってたよな」

ヒナナ「やは~♡ せいか~い」パッ

ヒナナ「よくわかったね~~?」

P「ま、まあな」

P(めっちゃいい匂いした……)

P「……」

ヒナナ「まだそんなに会ったことないのに~……やっぱ、ヒナナがお兄さんのこと好きだからかな~~?」

ヒナナ「相思相愛~?」

P「いや、そのりくつはおかしい」

ヒナナ「あは~、そうだね~~」

ヒナナ「でも~……さっきみたいに触れるのは初めてだから~~、ヒナナ、ドキドキしてたりして~~~~」

P「それもおかしい」

ヒナナ「え~~! そこまで言わなくてもいいのに~~~~……」

ヒナナ「ヒナナがお兄さんのこといいな~って思うのは本当だよ?」

P「そうじゃなくて――」

P「――肩、叩いたことあるからさ、俺」


222: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/14(土) 03:08:52.84 ID:9M/IlCWfO

ヒナナ「……やは~」

P「だから、触れるのは初めてじゃないぞ」

P「まあ、どっちからって話なら別だけどな」

ヒナナ「お兄さんはなんでそう思うの~?」

P「同じだったからな」

P「舞台装置のところで誰かの肩を叩いた時も……さっきと同じ匂いがした」

P「それで確信したよ」

ヒナナ「え~、ヒナナ匂うかな~~?」スンスン

P「良い匂いだった」

ヒナナ「あは~、なんかそれエッチだね~~。セクハラ~」

P「それを言われると痛い……」

P「というか、隠す気ないのか」

ヒナナ「?」

ヒナナ「なんで~?」

P「……いや、なんでもない」

P「もちろん、匂いだけじゃないんだ。それはあくまでも確信するに至ったというだけで」

P「そもそも、あの時に――ステージ本番の時に――「あの場所」に誰かいるなんておかしいんだよ。たとえ裏方でもな」

P「事前に決められた手はずでは、「あの場所」には本番で動かさないやつしか配備されてなかったから」

P「緊急事態とかなら裏方のスタッフがいるかもしれないけど、決勝ステージはすべて順調にいってた」

P「わざわざ「あの場所」に行こうとした人間しか、あそこにはいないというわけさ」

ヒナナ「ふ~ん」

P「「あの時」、「あの場所」で自由に動けた人間の中に……ヒナナちゃん、君はいる」

P「だって――“君はあの大会に参加してない”んだから」

P「大会に出ていない関係者だから、「あの時」に「あの場所」にいることができたんだ」

P「俺は君を予選会場で見たことがない。その場でも、名簿でも」

P「予選に出ていなければ、当然、あの大会に参加していないことになる」

P「トオルと一緒にいてユニットがどうとか言ってたから、君もアイドルを続けてるもんなんだと思ってた」

P「舞台装置での件があってから、個人的に調べてみたんだよ」

P「ヒナナちゃん……君、活動休止中らしいじゃないか」

ヒナナ「そんなことまで知ってるんだ~……」

P「ああ。まあな」


冬優子『え、えっと……今日はどんな用件で?』ピキッ

トオル『そこにいる人に会いに来た』

ヒナナ『ヒナナは付き添いだよ~~』


P「初めてうちの事務所にトオルと来たときに言ってたことが、まさか文字通りの意味だったなんてな」

ヒナナ「ひどくないですか~? お前は態度がなってないから、アイドル休んでしばらくトオル先輩の付き人でもやってろ~~だって!」

ヒナナ「しかもアイドルに復帰しても絶対にトオル先輩と同じユニットにはしてやらない~とか言われて……こんなのしあわせ~じゃない~~」

P「そっか……そこまでの事情は知らなかったよ」

P「オフィシャルには、あの大会にはユニットが同じだと出れないが……まあ、どの道、君はあの大会に出られる立場になかったんだ」

P「……それも、大会が終わってから調べていくうちに知った」


223: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/14(土) 03:36:34.66 ID:9M/IlCWfO

P「他のアイドルの子たちがヒナナちゃんがいても何も不自然に思ってなかったのは、おそらく、君が、トオルと同じ事務所に所属していて、いつもトオルといる元アイドルだからだろう」

P「同じ事務所の仲間が決勝に応援しに来てるって思うもんな」

ヒナナ「あ~、ひどい~~。ヒナナ、別にアイドルやめてないもん!」

P「そうだったな……悪い」

ヒナナ「も~、そういうお兄さんはヒナナ嫌い~~」

P「……なぜ」

ヒナナ「?」

P「なぜ、冬優子のステージで事故を起こそうとした……?」

P「あの現場は、あと少しでワイヤー群が解けて大事故になる寸前までいってたんだぞ」

P「もし、そうなってたら、冬優子は……」

P「なあ、答えてくれ」

P「なんでなんだ」

ヒナナ「う~ん」

ヒナナ「……見ればね~、わかったんだ~~」

ヒナナ「決勝はあの2人が優勝と準優勝だろ~って」

ヒナナ「お兄さんのアイドルの人がいなければ、トオル先輩は確実に優勝できるな~って思って」

ヒナナ「ヒナナはトオル先輩が好きだから――」

ヒナナ「――トオル先輩が優勝してしあわせ~ってなってくれたら、ヒナナもしあわせ~になれるかな~……って」

ヒナナ「あれ~? なんかおんなじようなこと前も言った気がする~~」

ヒナナ「誰にだっけ~? まあ、いいけど~」

ヒナナ「ヒナナはね、ヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの」

P「あれで事故が起きてたら、大怪我じゃ済まないんだぞ……!」

ヒナナ「そうなんだ~……やは~~、そうかもね~~~~」

P「お前――」

ヒナナ「それって悪いことなの~?」

P「――は……?」

ヒナナ「誰だってしあわせ~ってなりたいでしょ~~? ヒナナなら、ヒナナがしあわせなのがいちばんさいこ~♡ ……って」

ヒナナ「しあわせになるために動いてなにが悪いのかな~~」

P「人が……! っ、人の命を……君は何とも思わないのか?」

ヒナナ「悪いことなんじゃなくて、しちゃだめですよ~ってなってること……ってだけなんじゃないかな~~?」

ヒナナ「ルールって、そういうことかなって思ったり~」

ヒナナ「はあ……やっぱ、ヒナナはヒナナのことしかわからないな~……」

ヒナナ「友だちがしあわせ~ってなればヒナナもしあわせ~になるかなって思ったけど、うまくいかないね~~……」

P「話にならない……」

ヒナナ「あ~、そういう顔しないで~~」


224: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/14(土) 03:47:45.49 ID:9M/IlCWfO

P「そんなんでいいのか? 俺がこのことを他の誰かに言ったら、君は……」

ヒナナ「やは~、そんなことされたら、ヒナナ、しあわせ~になれない~~」

ヒナナ「でも大丈夫~~。だって――」グイッ

P「!?」

ヒナナ ボソボソ

P(急に近づかれ、囁かれる)

P(短いメッセージが耳打ちで直接脳内に送信されたかのような感覚がした)

ヒナナ「――あは」パッ

P「……っ」

ヒナナ「やは~、そろそろ戻らなきゃ~~」ニパァッ

P「……」

ヒナナ「またね~」テテテテテ

ヒナナ「あ、そうだ!」ピタッ

P「……?」

ヒナナ「次に会うときは、ヒナナの好きなお兄さんでいてね~!」

ヒナナ「じゃ、ばいば~い」フリフリ

ヒナナ テテテテテ

P「……」

ヴーッ

P(着信――冬優子からのメッセージだ)

P(5分後にラジ館……了解、っと)

P「行くか……」

ワァァッ

P(トオルがいる方から歓声が聞こえる)

P(あの子は……――向いてなさそうだが――補助の仕事でもしてるんだろうか)

P(いろいろと思うことはある。それでも――)

P(――とても、歓声のする方に振り返ろうとは思えなかった)

フワリ・・・

P「!?」ゾクッ

P(また“あの香り”がする――ような気がした)

P バッ

P タッタッタッ

P(思わず振り払い、早歩きで冬優子との待ち合わせの場所に向かう)

P(冬優子に今すぐ会いたい――そう思いながら)


228: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/19(木) 01:02:09.37 ID:h4Eug96fO

P「はぁっ、はぁっ……」ドタドタ

P(人混みがすごくて時間ギリギリになりそうだ……)

P「すみません……通ります、すみません……」グッグッ

P(早く冬優子に会いたい)

P「く、……っ」ダッ


P(待ち合わせ場所のラジ館前は――ここでいいんだよな)

P(冬優子は……あれ、どこにいるんだろう)

P キョロキョロ

P「……!」

P(頭に手を当ててしゃがむ女の子が1人――冬優子だった)

ヒナナ『ヒナナはね、ヒナナがしあわせ~って思えることだけでいいの』

P「ま、まさか!」

P(俺は駆け寄る)

P「おい、冬優子!」

冬優子「え? あ、プロデューサー……」フラッ

P「大丈夫か!? 何かあったのか!?」

冬優子「っ、つつ……」

冬優子「大声上げないで……頭に響くから」

P「あ、すまん……」

冬優子「……」

冬優子「ふゆなら、平気」

P「本当か?」

冬優子「貧血だから。ちょっとは落ち着いてよね」

P「そ、そうか」

P(考えすぎか……? まあ、ただの貧血だっていうなら……)

冬優子「ふぅ、よいしょっ……と」

P「……買いたいものは買えたのか?」

冬優子「おかげさまで。バッチリよ」スチャ

冬優子「よし、じゃあ気を取り直して続き……ね!」ダキッ

P「お、おい、腕組むのはやりすぎなんじゃないのか?」

冬優子「マスクしてるしメガネもかけたから大丈夫でしょ。帽子もあるしね」

P「そういうもんなのか……?」

冬優子「あーもう、うだうだしてないでさっさと行くわよ!」

P「行くってどこに?」

冬優子「さあね! どこでもいいわ!」

P「どこでもって……」

冬優子「本当にどこでもいいの――」

冬優子「――あんたと一緒なら、それで」


229: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/19(木) 01:33:52.45 ID:h4Eug96fO

P(それから、冬優子に引っ張られる形で、街中を巡った)

P(メイドカフェ、ゲーム、マンガ、アニメ、他にも……なんでもござれといった感じで手当たり次第に行った――)

P(――パーツショップではしゃいでいたのは俺だけだったが)

冬優子『本当にどこでもいいの――』

冬優子『――あんたと一緒なら、それで』

P(冬優子が言ってくれたことは、本当に、文字通りの意味だったんだろう)

P(一緒にどこかに行く、一緒に何かをする――そういった漠然とした充実を、いまここで求めているかのように)

P(冬優子は終始嬉しそうだった。楽しそう、というより、そう表現するのがふさわしい)

P(思えば、俺と冬優子は、ほとんどの場合、仕事くらいでしか一緒の時間を過ごせていなかった)

P(俺も冬優子も――いや、俺なんかはたいしたことなくて、冬優子が――ひたすらに突っ走ってきたんだ)

P(今は、ただ、ゆっくりと歩を進めるだけでいい)

冬優子「ん……っと! 結構まわったわね」

P「そうだな。密度の濃い1日だった」

P(刹那、冬優子と離れていたときの記憶が――)

冬優子「どうしたのよ。固まっちゃって」

P(――いや、今は思い出さなくていいだろう)

P(目の前にいるのは、一緒に歩んでいるのは、俺が……なのは)

P(冬優子なんだから)

P「冬優子に見蕩れてたんだ」

冬優子「んなっ!? 不意打ちでそういうこと言うなっての……」

P「不意打ちじゃなければいいのか?」

冬優子「あ、揚げ足取るなっ……もう!」

P「あ、待ってくれよ。冬優子」

冬優子「待たない! ほら、駐車場行くわよ」

冬優子「当然、送ってくれるんでしょ?」

冬優子「ちゃんと……最後まで一緒にいなさいよね」ボソッ


230: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/19(木) 02:03:45.41 ID:h4Eug96fO

~駐車場~

P「もう荷物はないか? トランク閉めるぞ」

冬優子「いまので最後よ。ありがと」

P「先に乗っててくれ」ダンッ

冬優子「うん……」ガチャ・・・バン

P「よいしょっと……」ガチャ

バンッ

P「じゃ、エンジンを――」

ギュ

P「――と」

冬優子「……」

P「手掴まれてるとエンジンかけられないよ」

冬優子「……っ」

P「?」

冬優子「ねえ、ふゆの顔に何か付いてる感じがするんだけど」

P「そうか? 特に何も付いてるようには見えないが」

冬優子「……よく見て」

P「ん?」クルッ


チュッ――

――パッ


P「……」

冬優子「……っ、やば。糸……」

P「冬優子……」

冬優子「あの時、あんたが言おうとしたこと――今なら言ってもいいわよ」

冬優子「ううん。言って」

冬優子「ふゆが、聞きたいの」

P(俺が言おうとしたこと、それはきっと――)

P『俺は、そんな冬優子が――』

冬優子『ストップ! それ以上言ったらふゆはここで死ぬわよ……』

冬優子『……恥ずかしさで』ボソッ

P『――……それなら、今は黙っておくよ』

P(――あの時のだ)

P「冬優子は、皆を笑顔にできる最高にキラキラしたアイドルで」

P「好きなものを心から大切にできる、優しい女の子で」

P「そして、俺の好きな……愛する人だ」

冬優子「……た」

P「ふ、冬優子?」

冬優子「あんたからそう言ってもらえるのを、待ってた……!」

冬優子「グスッ、……違うわね。ふゆったら、変なこと言ってる」

冬優子「待ってたのに、あんたはもういつでも言ってくれるって気づいて……ふゆはなんだかそれを聞くのに怖気づいて……」


231: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/19(木) 02:28:25.69 ID:h4Eug96fO

冬優子「……」

冬優子「あーもうわけわかんない! ほんと、バカね! 黛冬優子!」

冬優子「ただ、素直に言えばいいだけじゃない。ふふっ」

冬優子「ありがとう! ふゆ、そう言ってもらえて本当に嬉しいの!」

冬優子「ふゆも――黛冬優子も」

冬優子「私も、あんたのことが好き」

冬優子「大好き」

冬優子「超好き」

冬優子「好き、好き、好き好き好き……」

冬優子「スゥ……」

冬優子「愛してるのよおおおおお!!!!!」

冬優子「はぁ……はぁ……」

冬優子「どう? ふゆの返事は」

P「ボーカルレッスンの賜物だな。車内だし、鼓膜がやられるかと思った」

冬優子「は?」

P「じょ、冗談だよ……睨まないでくれ」

P「その、なんだ。つまり俺たちは……相思相愛、ってことでいいんだよな?」

冬優子「っ! そ、そうね」

P「恋人同士……なんだよな?」

冬優子「ま、まあ? 相思相愛で告白してOKなら、そうなるわね」

P「よろしく……」

冬優子「あ、よろしくお願いします♡……って違う!」

P「とりあえず落ち着けって。一旦冷静になろう」

冬優子「ふゆは冷静だから!」

P(どこが……)

冬優子「彼氏彼女って言ってもどうすればいいのよ……! もう……」ボソボソ

冬優子「恋人になったらいろんなことが待ち構えてて……」ボソボソ

P「冬優子」

冬優子「ひゃい!?」

冬優子「……な、なに」

P「ゆっくりでいいんだ。焦ることなんてない」

P「始まったばかりなんだからさ」

P「これから、時間をかけて考えればいいんじゃないか?」

P「今まで2人でなんだって乗り越えて来ただろ? これからも、それは変わらないよ」

P「ずっと一緒なら、大丈夫」

冬優子「そっか……そうね」

冬優子「ふゆ、あんたがいればなんでもできるんだった」

冬優子「うん……うん! 安心してきた」

P「ははっ、それは良かった」

冬優子「そうね……あんたはそんな調子だから、本当に今まで通りでいいわよ」

P「なんだよそれ」

冬優子「こ、恋人らしいことは、その……ふゆが頑張って積極的になってやるっつってんのよ! さっきみたいにね!」

冬優子「ガチ恋させてやるって言ったの、覚えてるわよね! まだまだ、こんなもんじゃないの! ふゆはこんなところで止まらないんだから!」


232: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/19(木) 02:49:26.96 ID:h4Eug96fO

数分後。

P「えっと……冬優子の家を目的地に設定して……」ポチポチ

P「ルートは……これにして、っと……」ポチポチ

P「よし、これでいいな」

P「……」

P「そういえば……明日からまた仕事だな」

P「忘れないうちにはづきさんにメールして企画書関係まとめておいてもらうか……」ガサゴソ

P「……あれ。ない」

冬優子「?」

P「仕事用のスマホ……ここに入れておいたはずなんだが……」ガサゴソ

P「まずいぞ。あれをなくすと困るのに……」ダラダラ

冬優子「……あ」

冬優子「それって、これなんじゃない?」つスマホ

P「それだ! 良かった、見つかって……」

冬優子「ちゃんと落とさないようにしまっておきなさいよね」

P「ポケットへの入り方が甘かったのかな。車の中で落とすと暗くてなかなか見つからないんだよなぁ」

冬優子「いや、あんた――」

P ポチポチ

P「~~~! あー、来月に冬優子が出る企画の名前、なんでこんな長いんだよ……!」ポチポチ

P「でもこの企画がうまくいけばまた冬優子をキラキラさせてやれる……うおぉぉぉ……」ポチポチ

冬優子「――ま、頑張んなさい」

冬優子「ふゆも頑張んないとね、明日から」

冬優子「……あんたと、一緒に」ボソッ

冬優子「ふふっ」ニコッ


235: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/21(土) 00:55:08.74 ID:qQJmCYDOO

10年後。

~都内某所、マンションの一室~

P「ははっ。セレブな物件を手に入れたと思ったら、段ボールだらけだな」

冬優子「引っ越してきたばかりなんだから、当然でしょ」

冬優子「ほら、さっさと荷解きするわよ」

P「そうだな」


P「とりあえずこんなもんでいいんじゃないか」

冬優子「そうね。全部出しても置く場所がないし、最低限必要なものを設置する、と……」

P「棚系のものを先に入れておいて良かったな」

冬優子「今日手が空いてる人がいないなんてね。まあ、忙しいのはいいことでしょ」

P「うちもおかげ様でデカくなったからなぁ……」

冬優子「ふゆのおかげね」

P「ああ、まったくだ」

冬優子「……正面から肯定されると、恥ずかしいんだけど」

P「本当のことなんだし、誇っていいんだぞ」

冬優子「誇ってるわよ。それでも、ふゆがやってこれたのは、っ……」

P「?」

冬優子「……あ、あんたのおかげだから!」

P「ありがとう、冬優子」

冬優子「……はいはい。もう」

冬優子「ふゆはあっちの小物とか本をやっておくから、あんたは大きめの荷物を先に片付けておいて」

P「了解だ」


P「こ、これで最後……っ!」

ドシン

P「はぁっ……、老いを感じるなぁ」

P「おーい、冬優子。大きめのは全部終わったぞー」

シーン

P「冬優子?」

P スタスタ

P「冬優子、本気出してデカめの荷物をすべて片付けてやっt……」

冬優子「……」

P「……それは」

冬優子「ストレイライト」

冬優子「懐かしいもんが出てきたの。ふゆと、愛依と、あさひと、それからあんた」

冬優子「全員で取った写真」

P「その段ボールって冬優子の私物をまとめたやつだよな」

冬優子「そ。その中にあった、ふゆが持ってた写真」

冬優子「思い出の画像を現像してフレームに入れておくなんて、ふゆのやることじゃないみたい」

P「あれから……結構経つよな」

冬優子「ほとんど10年、じゃない?」

P「そうだな……。それくらいになるか」

冬優子「……」


236: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/21(土) 01:14:04.56 ID:qQJmCYDOO

P「3人揃って笑顔……ってわけじゃないな。まったく」

P「冬優子なんてほら、顔が引きつっt――って痛い。痛いから。叩くな叩くな」

冬優子「あんたが余計なこと言うからでしょ!」

P「悪かったって。……うーん、愛依は全然変わらないな。それに――」

冬優子「あ、ごめん。悪いんだけど、夕飯のテイクアウト頼んでおいて」

P「――っと、そういえば結構いい時間帯だもんな」

P「冬優子は何が食べたい?」

冬優子「激辛麻婆豆腐」

P「中華ね。はいよ」

P「注文終わったら手伝いに戻るから。ちょっと待っててくれ」

P スタスタ

冬優子「……」

冬優子「ほんと、いつぶりなんだか」

冬優子「懐かしいなんてもんじゃないっての」

冬優子「……」

冬優子「……あんたは」

冬優子「あんたは、それでよかったの?」

冬優子「納得の行く結末だと、心から思えたって言うの?」

冬優子「……」

冬優子「……っ。なんてね、ふゆがそんなこと言うのは変な話よ」

冬優子「そう。本当……」

冬優子「……やめやめ! 他にも荷物はあるんだから、これ1つに構ってらんないわ」

冬優子 ガサゴソ

冬優子「あ」

冬優子「これ、……ふふっ」

冬優子「そっか。ふゆ、これも大切だったんだ」

冬優子「1人でユニットを代表した大会に出て優勝したときの……写真」

冬優子「これも、懐かしすぎるっての」


冬優子『あんたがいてくれたから、ふゆはここまで来れた』

冬優子『みんなを笑顔にできるようなキラキラしたアイドルになれたのよ、あんたのおかげでね』

冬優子『感謝してもしきれないわ』ギュウウウッ

P『そう言ってくれるのは……嬉しいな。けど――』

P『――他の誰でもない、冬優子の努力と想いもこの優勝には欠かせなかった』


冬優子「そうね、あの時は――」


冬優子『だから、今日は、その……ふゆの抱き心地でも覚えていってから帰りなさいよね』

冬優子『………………ふふっ、だいすき』ボソッ


冬優子「――っ!!! ~~~~~~~!!!!!」プルプル

P「冬優子、注文終わったぞ」スッ

冬優子「うわぁっ!?!?」

P「ど、どうした?」

冬優子「な、なんでもないっ!!」


237: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/21(土) 01:35:33.12 ID:qQJmCYDOO

P「ふぅ……ようやく落ち着けるな……」

冬優子「はい、お疲れ様のコーヒー」

P「お、ありがとう」

冬優子「悪かったわね。結局、ほとんどあんたに運ばせちゃって」

P「まあいいよ。嫌いじゃないんだ、こういうの」

P「冬優子も……ソシャゲ? フリマ? なんだか知らんがスマホいじりに勤しんでたみたいだしな」ハハッ

冬優子「あ、あれは違うの! 別にサボってたわけじゃ……」

P「いいんだよ。気にしてないから」

P「力仕事、雑務……どんと来い、だ」

冬優子「だーかーらー、そうじゃなくって理由は他に――」

ピンポーン

冬優子「――……インターホン?」

P「あ、出前だよ。さっき頼んだやつ」

P「ちょっと出てくる。冬優子はそこで休んでていいぞ」

冬優子「いや、休むのはあんたの方……ってもう行っちゃったし」

冬優子「ほんと、相変わらずね、“プロデューサー”は」


P「いやぁ、食った食った」

P「肉体労働の後の飯の美味さは何ものにも代えがたいな……」

冬優子「食べてもいいけど、健康診断で引っかかるんじゃないわよ」

冬優子「その……、っ、あ、あんた1人の身体じゃ、ないんだから……」

P「冬優子……」

冬優子「な、なに?」

P「前よりも結構食べるようになったか?」

冬優子「……は?」

P「腹が、な……」サスサス

冬優子「って、こら! 無断でさするの禁止!」

P「あ、すまん」

P「うーん。あれ、でも、せっかく頼んだ激辛麻婆豆腐は残してるし……体調がすぐれないのか?」

冬優子「あんたってやつは……もう」

冬優子「まあ、言い出せなかったふゆも悪いんだけど」ボソッ

P「?」

冬優子「お腹出てるの、見間違いじゃないわよ」

冬優子「言ったでしょ。あんた1人の身体じゃないって」

冬優子 ピラ・・・

冬優子「や、優しくさすってみて」

P「……」サスサス

冬優子「……」

P「……?」

冬優子「いるわよ」

P「え?」

冬優子「いまさすったところ。人がいるって言ってんの」

P「あ。そういうことか。……って、いや、人がいる、とかいう絶妙に怖い言い方やめろ」


238: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/21(土) 02:17:06.75 ID:qQJmCYDOO

P「じゃ、じゃあ……」

冬優子「そ。あんた、父親になったの」

冬優子「ふゆは母親」

P「冬優子……!」

冬優子「わ、悪かったとは思ってるわよ。言い出すタイミングがわからなかったから」

冬優子「引越しの作業をほとんど任せちゃったのも、辛いのを残したのも、そういうことだから……」

冬優子「か、感想は?」

P「いきなりで驚いたけど、……うん。すごく嬉しい」

P「そっか……そっか……!」

冬優子「……っ」テレテレ

P「抱きしめても……いいか?」

冬優子「や、優しくね」

P ギュ

冬優子「んっ」

P「冬優子……」

冬優子「……なーに」

P「呼んでみただけだ」

冬優子「ふふっ、なによ、それ」

P「嬉しすぎるからか、言葉が見つからなくてな」

冬優子「あっそ」

冬優子「……ふゆ、何でもできるのよ」

冬優子「あんたが、いるから。全然不安とかなくて」

冬優子「むしろ……うん、これからが楽しみなくらい」パッ

P「?」

冬優子「ありがと、P」

冬優子「あんたはこれまでふゆにたくさんのものをくれた……」

冬優子「ほんとに、数え切れないくらいよ」

冬優子「今度は! ふゆがあんたにあげていく番」

P「ははっ、別に、単なるギブアンドテイクな関係ってわけじゃないだろ?」

冬優子「そうだけど、ふゆが納得いかないの! いいからあんたはおとなしくふゆから受け取っておきなさい」

P「そっか。じゃあ、そうするよ」

P「それで、一緒にどうなるかを見守っていこう」

冬優子「あんた……わかってんじゃない!」

冬優子「待たせたわね、プロデューサー」

冬優子「これからは、あんたがプロデュースしてふゆが動くだけじゃない」

冬優子「あんたとふゆの、2人がプロデュースしていくんだから! ふゆたちの人生をね! だから――」

冬優子「――ふふっ、楽しみにしてなさい!!」バッ

P「ああ、楽しい人生にしていこう!」

P(ふと、冬優子がアイドルを始めた頃を思い出す。あの頃は、本当にいろんなことがあって大変だった)

P(それでも、かけがえのない時間であったことは確かだ。そんな記憶が、やはり、とても懐かしい)

P(なぜそんなことを思ったか――偶然にも、楽しそうな冬優子が左手を顔の近くに寄せるようなポーズになって、それがストレイライトの宣伝用に撮った写真みたいだったからだ)

P(あの時と違うのは、冬優子の左手薬指に俺があげた指輪がはまっていることだろうか。そう思うと、回想によって止まっていた時が、また、流れ始めたような気がしてくる)

P(時間は止まることなく流れていく。過去から現在へ、そして、現在から2人の未来へと。そんな中で、俺は、いつだって冬優子と一緒に過ごしていく幸せを噛み締めながら生きていくんだ)


239: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2020/11/21(土) 02:18:20.84 ID:qQJmCYDOO

黛冬優子のエンディングにたどり着きました。

冒頭に戻ります。



中編→http://ssimas72.blog.jp/archives/38112387.html

転載元:【シャニマス】P「よし、楽しく……」- Straylight編- 【安価】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1599288272/

スポンサーリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加

関連コンテンツ

コメント

コメント一覧

    • 1 名無し春香さん
    • 2021年07月11日 13:20
    • 5
      とりあえず前編読了。これだけでも面白いと思ったんだけど、まだまだ続くんだな。残りも読んでいきますー
    • 2 名無し春香さん
    • 2021年08月10日 00:49
    • ん~雛菜やべ~
    • 3 名無し春香さん
    • 2021年09月11日 00:58
    • 5
      いや、すごすぎん?
コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
米や※または#の後に数字を入力するとコメント欄へのアンカーが表示できるかも。