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トップページ765プロ > 春香「転ぶ世界は千変万化」

1: 書き溜めあり 2013/04/22(月) 21:00:40.39 ID:uTvdZj7p0

春香「転ぶ世界は千変万化」

世界というものは、時に奇跡を起こしてくれるものだと、私は思っていました。
けれど、そんなことないと知りました。

私は、右足を前に、その一歩を進めました―。

すってんころりと私は転んで、駅のホームから…

遡ること、数カ月前―

P「春香、オーディション行くぞ!」

春香「はい!プロデューサーさん!!」

私、天海春香! 今、アイドルしてます!…といっても、まだまだ、全然売れてないんですけど…。でも絶対!絶対トップアイドルになろうと思って、日々頑張っています!

P「お、元気がいいなあ。オーディションもその調子で行ってこい!! 期待してるぞ」

そう言ってくれるのは、765プロで働くプロデューサーさんです。

いつも、一緒になって私を売り込もうとしてくれたり、励ましてくれたり…本当に、本当に頼りになる人なんです!! 
えっと、その…時々、ダメな部分もあるけど…その部分も魅力的で…///って何言ってんの!?私!?

小鳥「行ってらっしゃい!」

皆「行ってらっしゃーい」

そして、事務所の皆(一緒にアイドルを目指すみんな)や小鳥さん(765プロのデスクワーク担当さんです!)に支えられて、今日もがんばります!



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:02:24.51 ID:uTvdZj7p0

春香「よーし、今日も頑張っていくぞー!…って、うわあっ!?」ツルッ ドッカンガッシャーン

P「春香っ!?大丈夫か」

春香「いてて、あ、プロデューサー/// ありがとうございます」

P「全く気をつけろよ…ていうか両足で転ぶなんて器用だな…」

~オーディション~

審査員「~なのかな?」

春香「私は~です!」

審査員「なるほどね、じゃあ、次は~」

オーディション終了後

春香「どうでした!?」

P「良かったよ!春香」

春香「本当ですか!?」

P「ああ、春香らしさが出てたと思う。審査員の表情も悪くなさそうだったしな。…良し!今から何か食べに行くか!金は俺が出すから、好きなところに行こうか!」

春香「本当ですか!じゃあ、この前雑誌で見かけたおいしい店があるんです!行きましょうプロデューサーさん!」

P「おいおい、そんなに引っ張るなよ」ハハハ


3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:04:01.74 ID:uTvdZj7p0

…とまあ、こんな感じでオーディションを重ねて、踊ったり、歌ったりしながら、私は合格通知を待っているアイドルをやっていました。

―あの日のことは今でも忘れられない出来事だったと思います―

オーディションから少したったある日…

春香「1,2,3,4、」

トレーナー「春香ちゃん、両足を少しずつ出すんじゃなくて、このステップは左足から踏み出す癖をつけてっていったわよね?」

春香「は、はい!」

トレーナー「…うん、出来てるわよ♪この調子で、ミスの部分をなくしていきましょう!!」

春香「はい!」

P「…春香はいますか」ヒョイ

春香「あ、はい!どうしましたプロデューサーさん」ヒョコヒョコ

P「…こっちに来てくれ」

春香「…」

P「春香…オーディション、不合格だったよ」

春香「!…そうですか…」


4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:05:32.84 ID:uTvdZj7p0

P「いや!決して春香の方にミスがあったわけじゃない!実力も発揮できてたし、手ごたえだって十分あった…俺の方が、力量不足だったんだ」

春香「そ、そんなことあるわけないじゃないですか!プロデューサーさんは取っても頑張ってます!私が保証します!毎日毎日、私達の為に!」

P「は、春香…」

春香「元気出していきましょうよ!プロデューサーさん!『明日は明日の風が吹く』ですよ。次やればいいんです!次をやれば!」

P「…そうだよな!ははっ、アイドルに励まされちゃ、世話ないな!よし、俺ももっと頑張るから、春香、明日からもしっかり行くぞ!!」
春香「はいっ!」

P「それじゃあ、春香、気をつけて帰れよ。しっかりな!」

春香「はい、プロデューサーさん、お疲れ様です!!」

春香「…」

春香「…はあ、」

春香(うまくやれたつもりだったんだけどなあ…やっぱりショックだよ…プロデューサーさんにはああ言ったけど、落ちちゃったんだなあ…)

春香「…何か、上手くいかないなあ…上手くいかないかなあ…私…っ!?」ステーン
ガッシャンドッカーン

春香「うわああああ!?」


6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:07:02.41 ID:uTvdZj7p0

春香「…いたたたた…思いっきりずっこけるなんて…何やってんだろ…はぁ…っ!?」

グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!
その時でした。
頭の中が揺れたような、ふわふわしたような。自分の体が浮いているようなそんな感覚。
今思えば―それは始まりでした。

春香「一体なんだったんだろう…頭、打っちゃったとか…?」
その日は、まっすぐ帰って、翌朝、私は一本の電話を取りました。

prrrrr
春香「はい、もしもし」

P「はあっ、はあっ…春香か!?」

春香「プロデューサーさん?いったいどうしたんですか?」

P「どうもこうもない、あのオーディション、合格になったぞ!!」

春香「…へ?」

P「春香がドラマ番組に出られるんだ!やったな春香!」

事の成り行きは簡単。私は、ドラマの脇役に選ばれました。そのドラマの監督が、とっても自分の意見をアドリブなどで入れたがる人で―
尚且つシナリオライターの方も、その意見を受け入れました。
すでにキャストも台本も決まり始めている中で、そんなことがあるのかというような幸運。

順番でオーディション2位の私が―ドラマの出演に選ばれたのです。

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7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:08:46.91 ID:uTvdZj7p0

春香「はあっ…はあっ」
バンッ!

春香「ぷ、プロデューサーさん!」

P「おめでとう春香!やったな!!」

春香「はいっ」グスッ

その日は、事務所の皆もお祝いをしてくれて、人生でもトップ3に入る一日となりました。

ドラマ撮影所
春香「き、緊張するなあ」

P「何せ大舞台だからな…春香!」

春香「は、はい!」

P「いいか、緊張するなとは言わない。緊張しないやつなんていないんだ。ただその上で、お前のすべてをぶつけてこい!
お前はわき役だが、ここからのし上がっていくことだって不可能じゃないんだから!」

春香「プロデューサーさん…はいっ!私頑張ってきます!…ここまでラッキーだったんですから、神さまがいるなら助けてくれますよね!…私、行きます!…うわあっ!?」ステーン

グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!
春香(あ、アレ? またこの感覚だ。体が宙に浮いてるような、ふわふわした感覚…自分の中の何かがうまく育まれていくような…)

P「春香、大丈夫か?! 無事だな、全く気をつけろよ、転んで怪我して、撮影がフイになったら、泣くに泣けないぞハハハ」

春香「アハハ…そうですね。すみません!私行ってきます!」ダッ


9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:10:33.28 ID:uTvdZj7p0

監督「えー、それでは、よろしくお願いします」

春香「よろしくお願いします!」アクション!

相手主役「~」

春香(わ、私の番だ…!い、言わないと…何か言わないと…あ、あれ、セリフ飛んじゃった…何言えばいいんだっけ…!えっと、その…ああああ)

監督「…」

春香「あ…」

監督「…いいよ!すごくいい!これでオッケーだ!!」はい ok でーす!

春香「…へ?」

監督「いやーこのシーンさぁー、セリフ入れようかどうかすごく悩んでたんだよね!今春香ちゃん見て決めちゃったわ!ここの場面、セリフなしで行くわ。」

シナリオライター「あ、監督、私からもいいですか?ここを沈黙にするなら、いっそのこと春香ちゃんも出番増やしてこういうストーリーとして売り出した方が…」

監督「いいね、いいね!君とは20年の付き合いだけど、やっぱわかってる!…うん、こうしよう!」

シナリオライター「春香ちゃん」

春香「は、はい!」

監督「君やっぱ、もう一人の主人公ってことで。昇格で。」

春香「…はい!…えええええええええええ!?」


11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:12:37.78 ID:uTvdZj7p0

まさに、信じられない出来事でした。
あるドラマのワンシーンについて、監督はずっと悩んでいたらしく、シナリオライターさん自身もずっと考えていたというのです。そして、
そのシーンで私がセリフを忘れてしまったこと―そのことがきっかけで、そちらの方が良い結果を生むと、勝手に解釈されたようで…そこからどんどん、シナリオが変わって…

私は、ドラマの主役に一気に駆け上がりました。

ドラマ1回目収録後

P「こんなことってあるんだな…」

春香「そうですね…」

P「おいおい、春香、お前が動揺してどうするんだよ!お前は今から自分の持てるすべてを注ぎ込んでいかないといけないんだぞ!」

春香「アハハ…すみません、なんていうか、その、実感がなくて…ホントにこんなことがあるのかなって…頭ではわかってるんですけど、体が付いていかなくて」

P「なんていうか…気持ちはわかるがな。いきなりドラマの出演が決まったかと思ったら、突然主役に昇格なんてな…」

春香「はい…」

P「でも、またとないチャンスじゃないか!春香!これはお前が今からやっていく礎にきっとなる!
だから、全力を挙げて頑張るんだ!」

春香「…そうですね!よーし!やってやるぞー」

P「じゃあ、春香。また明日な」

春香「はい、失礼します。プロデューサーさん」


13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:15:31.60 ID:uTvdZj7p0

春香「はあ、私が主役か…緊張するなあ…でも、本当にこんなラッキーなことってあるんだなあ…もっと私、活躍しないとなあ…って、うわあ!?」

グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

春香(あ、あれ…まただ、またこの感じだ…一体何が…ふわふわする…)

春香「一体どうなって…?」
ドンッ
春香「わ、」

老人「おかしいのぉ…どこに落としたかのぉ」

春香「?…どうしたんだろう、あのおじいさん」

春香「おじいさん、どうしたんですか?」

老人「あ、ああ、実はこの近くで落とし物をしてしまっての…」

春香「落し物?どんな落し物ですか?」

老人「その、わしの妻の形見の品でな…懐中時計なんじゃよ…」

春香「形見の品…お爺さん!私も形見の品探すの手伝いますよ!」

春香(あんな幸運があった後だもん、無視したら罰が当たっちゃうよね)


15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:17:10.65 ID:uTvdZj7p0

3時間後

春香「あった!ありましたよ!お爺さん!ってまさか警察に届けている人がいたとは…」

警察「これを拾った人は、名乗りもせずに置いて行きましたよ。ハハハ。高級そうな時計ですから、猫ばばすることも出来たんでしょうけど、子供が生まれたらしくて、そんな気が起きなかったと」ハハハ

春香「何にせよ、落し物が見つかるのはいいことです!」

警察「普段からたまーにこうやって家の鍵とか、時計みたいなのを届け出たりする人がいるんだけど、それと同じようなものだね。」

春香「お爺さん!良かったですね!」

老人「おお!まさかこんな所にあるとは!…お嬢ちゃん、ありがとう。ええと、お礼をしなければならないね」

春香「いいですよぉ! そんなの! それより、もう落とさないようにしてくださいね!大切な形見なんですから!」

春香「って、もうこんな時間!? し、終電に間に合わなくなっちゃう!すみませんお爺さん!私帰ります! お爺さんも気をつけて!」ピュー

お爺さん「ありがとう!」

春香「はい!」

春香(まあ、たまにはこんな日があってもいいよね! いい笑顔見せてもらったし!)


16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:20:21.98 ID:uTvdZj7p0

数日後 事務所
ピンポーン

ガチャ
春香「おはようございまーす!!」

P「あ、春香!ちょうどいいところに来た!」

男「天海春香だな?」

春香「へ?あ、はいそうです。えっと、プロデューサーさん…?」

P「ああ、こちら査問内斗という会社から来た男さんだ。」

春香「え!?査問内斗って、あの有名な大会社のですか?」

男「昨日、君はこの老人と会話しなかったかね?」

春香「あ、数日前のお爺さん!」

男「この人は、私達の会社の会長でね…もっともかなり前に仕事を下りて現役引退をしたが、会社の礎を作った、相当な知名人なんだよ」

春香「あ、あのお爺さんが…」

男「君が3時間も一緒になって落とし物を探してくれたことにいたく感激してね…どうにかしてお礼がしたいと、
…ま、ある意味会社の私的使用になるがね。」ハハハ


17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:22:08.76 ID:uTvdZj7p0

春香「そ、そんな!困ってたから、一緒に探すのを手伝っただけで…」

男「そうか…といっても、私達はすでに拾ってくれた人にはお礼をしていてね…君にしないわけにはいかないんだ。それに、君が一緒になって探してくれたあの形見の時計は、実はいくらすると思う?」

春香「へ…?いや、分りませんけど…?」

男「オーダーメイドのスイスの懐中時計で、7000万ほどするんだ。」

P「な、7000万!? 俺にくれ―ゴホン!じゃなくて!」

春香「…」ボーゼン

男「ま、値段の方はずいぶん昔のものだからともかくとして、会長にとってはどんなことがあっても手放したくない品物だったこととは確かだ。そこで、お礼の方なんだが」

男「君をわが社のCMに起用したいと考えている。」

春香「へ!? わ、私をですか!?」

P「は、春香を!?」

男「そうだとも。そちらにとってもメリットになる話だと思うのだが。天海春香さんは現在ドラマの主役だ。
そう言った人をCMに使うのはこちらとしても悪くないし、そちらは知名度の上昇につながる。 テレビ局の方としても、ドラマの主役をいい形で売り出すことが出来るわけだ。」

P「こ、こちらとしては、勿論喜んで承りたい話ではありますが…」

春香「…」

信じられない…。こんなことってあるんだ…。


18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:23:46.88 ID:uTvdZj7p0

男「引きうけてくれるかね?」

春香「は、はい!勿論です!。」

そんなわけで、私はCMの撮影が決定しました。そしてそのCMは―

春香「さあ、あなたも是非!人生を楽しみましょう!」
万能手袋! 便利な手袋! 赤き手袋!大好評発売中!

予想以上に評判がよく、かなりの反響を受けていました。

男「あのCMに出てる女って誰?」

女「何かねー今度のドラマで主演やる天海春香って人らしいよ」

春香「!!」ビクゥ

春香(へ、変装してるけど、ばれてないよね…)

男「ドラマ、面白いの?」

女「んー最近のドラマの中じゃ結構イケてる方だと思うよ。」

男「へーそうなん、俺も見てみよっかな」

春香(えへへ、嬉しいなあ。)ソソクサ

春香「…ここまで来れば大丈夫かな」


20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:25:35.22 ID:uTvdZj7p0

春香「嬉しいなあ、今までだれも注目してくれなかったのに、こんなに上手くいくなんて…といっても、まだまだなんだけど。」

春香「…どうせなら、皆で有名になりたかったんだけど。ま、まあしょうがないのかな。」

春香「…あの感覚…」

気付くと私は、あの感覚のことを思い出していました。頭の芯から全身が浮つくような、例えば緊張で体が自分のものじゃないようなふわふわした感覚。けど、
それが辛いのではなく、心地よい…

その感覚を味わった後、私は必ずと言っていいほど、『幸運』になりました。
そしてその引き金となっていたのは―

春香「転んだことだよね…やっぱり」

いつも、私が転んだときに、その感覚は起きていました。

春香「で、でも転んだだけでそんなことが起きるなんて…そんな非現実的な…アハハ」

春香「…」

私は、実験してみることにしました。
私の願いは、簡単。今の事務所で仕事が大きく舞い込んでいるのが『私』だけだったから。
私は、アイドルみんなのことを考えながら、実験しました。

『皆で、トップアイドルを目指せますように』

私は一歩踏み出し、わざと転びました。まさにすってんころりという擬音がぴったりの転び方をして―

グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!


21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:26:48.62 ID:uTvdZj7p0

春香(あ、あの感覚だ…!)

あの感覚を自分の体に感じました。

その後、私はその日、すぐに家に帰りつき、寝ました。そして、翌朝にはいつもより1時間早く、事務所に到着しました。

春香「おはようございます!」

小鳥「おはよう、春香ちゃん。今日は早いのね」

春香「エヘヘ、その、なんだか落ち着かなくて…」

小鳥「フフ、まあ、理解は出来るわ。なんといったって、今春香ちゃん、飛ぶ小鳥も落とす勢いですものね。」

春香「そ、そんなことないですよ。アハハハハ」

実際の落ち着かない理由は違っていました。私は早く確かめたくて仕方がなかったのです。
あの感覚が何をもたらしてくれたのかを。皆が少しでも一緒にやっていけるようになったのか、本当にそんな幸運が起こりえるのか、知りたかったのです。

春香(…30分経ったけど、1本の電話もない…)

春香(…1時間たったけど、1本の電話もない…)

やがて、他の皆も出勤し始めました。私はいてもたってもいられず、皆に聞いて回り始めました。


22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:28:52.00 ID:uTvdZj7p0

響「はいさーい!」

春香「おはよう、響ちゃん!何かあった?」

響「へ?何かあったかって? いや、別に何もないけど…むしろ、今何かあるとしたら春香の方だと思うぞ」

春香「あ、ああ…うん!そうだよね!」

千早「おはようございます」

春香「おはよう!千早ちゃん。どう?何かいいことあったりした?」

千早「フフ、おはよう春香。そうね、いつも通りだったわ。」

春香「そ、そう…」

皆に同じような質問を行い、そして同じような返答が返ってくる。
全員に聞いた時には、私はすっかり自分の勘違いに肩を落としていました。

春香(はぁ…なんだ、あの時の感覚も思いすごしで、別にそんな幸運になんてなるわけないよね…思えばおかしな話だったしね。)

春香(そんな力があったら、まさしく神様だしね)

そう思いかけた―その時でした。


23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:30:35.17 ID:uTvdZj7p0

P「た、大変だみんな!」

律子「どうしたんですか、そんなに慌てて。全く。ほら!落ち着いて!」

P「落ち着いてなんかいられないよ!皆―」

P「お前たち全員に―大きな仕事が舞い込んだんだ!!」

全員「…はい?」

そこからの話は、どう考えても奇跡としか思えないような幸運の話。

『あずさ』、『亜美』、『伊織』の3名の三人で構成される 竜宮小町が―急きょ、あの有名なタレント事務所ジャニージングアンチャーテッドとコラボして歌うようになったこと。

貴音の食べ歩きが隠れ食べ歩きのグループから話題になり、それがテレビ側の人々に流れ、
食べ番組「働く魔王の食べ歩き日記」のリポーターに選ばれたこと。

真と雪歩が王子と姫様のように、オフの時に笑い合っていたのを見て、二人を出演させてみようと企画「英雄伝説 王子の軌跡」が始まったこと。

亜美と真美のテレビ局内の廊下での掛け合いが面白かったことから、ラジオ番組「キンハート」や特番「月のチービィ3グーイと一緒」に出演が決定したこと。

やよいが作ってきた弁当を見た人がいて、やよいに料理番組「saw シザーハンズ」の案内が来たこと、

千早が倉庫でアカペラで歌っていたところを見た人がいて歌番組「music hospital」の案内が来たこと。

美希の才能を見抜いた人がいて、舞台「the lost of us & soul dark2」の案内が来たこと。

小鳥さんが昔に歌った歌が、今私達が注目されたことで見つかり、ゲーム「ワンドと巨大人形」のCMミュージックに起用されるようになったこと。


24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:32:06.66 ID:uTvdZj7p0

社長に人を見抜く眼力があるということで、『NHKK』の番組『社長のくせになまいきだ』に出演が決まったこと。

プロデューサーさんが買っていた「ロトⅥ~運命扉の選択~」が当たり、百万円が手に入ったこと。そして、そのことを基に、VTRが作られるようになったこと。

響ちゃんに洋服雑誌「war of god」の取材と、動物番組「アサシン・アニマル・クリード」の出演が決まったこと。

律子さんが元アイドルだった頃の経験を語る番組「舞台上のヴァルキュリア」が決定する等

皆が、トップアイドルとしての機会を『幸運』にも手にしました。

皆が大騒ぎして喜んで、あの律子さんでさえ「何で私も!?」なんていいながら大はしゃぎして―私も物凄く嬉しくて、涙が出てきて、喜んで―

同時に、私は確信しました。
『私には、転ぶと幸運が訪れる力がある』と。
何故かはわかりません。どうしてそんなことが出来るのかもわかりません。
けれど、確かに皆を幸運にしたその力は―私の中に実在しました。

―本来ならば、ここで止めておくべきでした。
『幸運にする力』 それはとても素晴らしい力でしたが、余りに強い神様の様な力。
ここで2度と使わずに、やめるべきだった― 私は後に痛感することになります。

けれど、それを分るすべなんてなく、核が危険だとわかっていても人々が使い続けるように―私もまた、その力を―


26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:33:31.52 ID:uTvdZj7p0

春香「よし、今日も撮影、頑張るぞ!」

春香(あの力は便利だけど、やっぱり自分の力でやらないとね!実力が付かないし!)

~ドラマ撮影中~

春香「~」

ハイok でーす!

春香「ふう…」

春香(でもやっぱり、ドラマの撮影って大変だなあ。何回も間違えちゃった…ちゃんと覚えて言えるように頑張らないと…っ!?)

スッテ―ン!

春香(し、しまった!転んじゃった!)

グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

春香(あ、あ…この感覚だ!つい考えごとしてたら、やっちゃった!転んじゃった!)

春香(…ど、どうしよう。)

春香(…き、今日だけ、今日だけはしょうがないよ!うん。だってわざとじゃないし…運も実力のうちっていうし…)

春香(あ、明日からは自分の実力でやるぞ!!)


27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:35:51.45 ID:uTvdZj7p0

その日、私のぎこちなさを見た他の俳優さんや女優さんからアイデアを頂き、仕事は成功しました。そして、
その俳優さんや女優さんが私のことを『幸運にも』他の俳優さんや女優さんにお話ししたことから、多くの人に指導して頂くことが出来ました。

私はみるみる上達し、演技の幅が広がったとネット上でも書きこまれるようになりました。

ネット上での書き込みを見ていたとあるアニメ監督が、私に声優をゲスト出演でやってみないかとオファーをして下さり―
私は、『ラッキーにも』アニメの声優ゲスト出演も果たすようになりました。

~アニメ「FF 0. 10.」アフレコ現場~
春香「シンは―ジャクトだ」

男声優「親父が…親父がアレだっていうのかよ!?」

春香「…そうだ」

ハイ、ok でーす。

男声優「そ、そんなに落ち込まないで。春香ちゃん!初めてにしてはうまいうまい!もっとひどい人も見てきたからさ!」

春香「…はい」

P「あはは、まあ、多少棒読みに聞こえる部分はあるけど、癖になる部分はあったぞ!それに初めてであそこまで行けるのはすごいじゃないか!」

春香「そ、そうですよね!はい!頑張ります。あ、皆さん!お菓子作って来たのでどうですか?」

P男声優「お、いいねえ!ありがたく頂くよ!」

春香「あ、私お茶か何か持ってきますね!」


29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:37:38.00 ID:uTvdZj7p0

~外~
春香(プロデューサーさんも他の人もああ言ってくれたけど、見直したらとってもひどい出来…。もともとプロの人には全然かなわないとはいえ…さすがにここまで棒読みだと、視聴者さんだって白けちゃうよね…。)

春香(…)

春香(……)

―転んでみようかな…―

春香(ッ…!ダメダメ!自分の力でつかみとらなきゃ、実力だって付かないし、力に頼っちゃいけない!)

―でもこんな出来のものを視聴者に届ける位なら―

春香(自分の力で積み上げたものがないと、この先の仕事だって、もし力がなくなったりしたら、やっていけないんだよ!)

―けどこの仕事の出来で叩かれたら、そんなの関係ない…失敗は1回でも、今の私みたいな状態にあるルーキーには、致命的…―

春香(さすがにひどい出来だけど…プロデューサーさんも他の人だって…!)

―いいや、分ってる。お世辞がかなりの部分を占めていることを―

春香「…」

葛藤。たった30分。長いとも短いとも知れない時間。
『力を使うのか、使わないのか』
『実力で行くべきなのか、否か』
悩んだ末に、私は一つの結論を出しました。


30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:40:16.82 ID:uTvdZj7p0

~アフレコ現場~

春香「すみません!皆さん。もう一度、あの部分のシーンから、やり直させていただけませんか?」

新人ルーキーの私からの、無茶な要求。
しかし、それは、意外な方向から受け入れられました。

アニメスタッフ「いや、というか、初めから録り直しだよ。全くとんでもないことだ。」

春香「…」

アニメの会社にハッキング集団が侵入し、ハッキングを仕掛け、アフレコ部分だけが消失する―更にアニメのデジタルデータが世界中に配信される…
そんな事態が起こりうるのかというような―事例。
ほとんどスケジュールがカツカツだった現場は、このアクシデントのおかげで期間延長をしてもらえることになり…
この事件のおかげで注目されたアニメは、一躍放送すら始まっていないのに有名に―
資金も潤沢、時間も頂き、より質の上がったアニメとして放送されました。

その期間の間、私は声優さんたちと仲良くなり、ドラマの仕事や演技の練習、歌やダンスのレッスンの合間にアフレコの練習もさせていただき―

アニメの声優として、著しい成長を挙げました。

注目されたアニメは大成功し、DVDやBDも売れ、2期作製や劇場版も決定し、私のキャラも劇場版の方に出演することが決定しました。

その時の声優演技が評価され、海外ドラマ『プリズン・24・ブレイク』や『ドクターホームのバーンノーティス』などにも声優として出演させていただくようになりました。


31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:41:26.68 ID:uTvdZj7p0

春香「…」

私が、あの力を使ったのは、いうまでもありませんでした。
あの時、私は―

春香(…『私の声優としての力が、幸運に恵まれますように』)
スッテーン!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

――――

力を使いました。そして、私は―
力に甘えてしまってから―
坂を転げ落ちるように、『力』を使いました。

車の存在を知った人が、もう徒歩で歩くことに戻れないように。
冷凍食品の便利さを知った人が、もう料理をしなくなるように。
便利さを知ってしまった人が、今までの努力を怠るように。

私は、困った時にすぐ、力を使うようになりました。


33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:43:11.41 ID:uTvdZj7p0

春香(今日は、難しいレッスンだから、私、何としても成功させないと…!)
スッテーン!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

春香(今日のライブは、今までの集大成だから!頑張るぞ!!…あ、)
春香(念には念を入れないとね!)
スッテーン!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

春香(さすがに、このスケジュールぱんぱんはきついなあ…どうにかならないかなあ…)
春香(…)
スッテーン!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

最初は躊躇いながら使用していた『力』も、慣れてくればドンドン使用しました。
免許取得から3年の車運転手がゆっくり走っていた初心者の頃を忘れたように―
躊躇なく。
成功までの近道として。
失敗しないようにと保険として。
自分の都合よく世界を動かすための手段として。

使い続けました。
どんどんどんどんどんどん

自分だけでなく、事務所の皆の為にも―
今や765プロは、破竹の勢いでのし上がりました。


34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:45:01.88 ID:uTvdZj7p0

~ある日~

貴音「…春香」

春香「四条さん…?」

今や、絶好調の私のもとに来たのは、四条貴音。
ミステリアスなお姫ちん。
それでいて神秘的な765プロの秘密アイドル。

貴音「ここ数カ月、私達はうまくいっていますね」

春香「そうですね!みんな、すっごくうまくいってて、四条さんもすごくて、私、嬉しいです。」

貴音「…春香」

春香「四条さん…どうしたんですか?」

貴音「皆がうまくいっているのは、結構だと思います。けれど、これほどの幸運。妙だとは思いませんか?」

春香「へ?」

ドキリとしました。気付かれることはないと思っていたから。
そして、その時私は少し後ろめたさも感じたのです。
皆が上手くいっているのが幸運によるものだけでなく、実力もある。
しかし、その始まりは私の『力』だった。
だからその時の私は、誤魔化そうとしたのです。


35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:46:46.98 ID:uTvdZj7p0

春香「や、やだなあ、四条さん、偶然ですよ、偶然!」

貴音「だといいのですが、春香、あなたは少し妙です。」

春香「み、妙って?な、何がですか?」

貴音「あなただけ、感じる空気が…いびつなのです。そう、まるで―」

春香「考え過ぎですよ!もー!四条さん、ラーメン食べに行きましょう!ラーメン!」

貴音「は、春香!?そ、そんなに押さなくても」

春香「ほらほら、行きましょうよ!ね」

貴音「…そうですね、私の思い違いかも知れませんね。行きましょうか。」フフ

春香(…ご、誤魔化せた)

でも、そんな生活は―長くは続きませんでした。
私は、あの時の四条さんの気付きに、耳を傾けるべきでした。


37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:48:08.85 ID:uTvdZj7p0

春香「1,2,3,4、」

トレーナー「春香ちゃん、今週からのダンスは、右足で踏み出すようにしましょう。」

春香「はい!」

トレーナー「うん、さすが♪どんどん行くわよ!」

春香「はい!」

私はこのところ絶好調で、『力』に頼らずとも、成功していました。
自信が付いていたのだと思います。
『いざとなったら、転んでしまえばいい。』
こう思っていた私は、心にゆとりがあって、ゆとりがあるからこそ、何でも出来るようになっていました。

数日後に、私は地獄に落とされると知らずに…

~事務所~

春香(3日後の定例ライブ!大成功させないとね!あ、そうだ、願かけにとりあえず転んでおこうかな♪)
春香(定例ライブが成功しますように♪)
私は今朝ならったダンスの要領で右足を踏み出して―
スッテーン!
オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

春香(…?アレ?いつもと感触が違うような…)

いつもの体が浮つくような感覚ではなく…沈み込んでいくような感覚。
今まで育ってきた何かが急速にしぼんでいくようなそんな感覚を味わいました。


38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:50:20.90 ID:uTvdZj7p0

春香「まあ、いっか。願かけもしたし、ライブ、楽しみだな―」

次の日

P「残念だが、定例ライブは中止になった。」

春香「え!?ど、どうしてですか!?プロデューサーさん!!」

プロデューサーさんが言うには『ライブ会場に建築上の崩落が起き、急きょ中止せざるを得なくなった』とのこと。
しかし、このときの私はまだ力を信じていて。
『きっともっといいドームで歌えて、幸運にも今より大きな会場でライブが行えるんだと』―信じていました。

けれど、3日を過ぎて。
ライブが完全に中止になって、過ぎ去って。
私は少し、違和感を覚えました。

春香「あ、アレ?おかしいな…」

今日は、皆での次の定例ライブの練習。そこで私は―転んでみたのです。
スッテーン!
オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

春香(まただ…この沈み込んでいく感覚…で、でも今度こそは!今度こそはラッキーが…)


39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:51:40.75 ID:uTvdZj7p0

~練習場~
アイドル全員「1,2,3,4、」

春香(…絶対おかしかった…いつもの感覚じゃあ、なかった…一体何が…ッ!?)

春香(し、しまった!考えることに気を取られて、遅れちゃった…!)

ドン!

春香「キャ!?」

ドン! 

真「春香!? 美希!?」

伊織「ちょっと!あんた達大丈夫!?」

春香「いたたたた…ッ…足が」ジンジン

美希「は、春香!?」

ピーポーピーポー

ダンスの練習中に、ぶつかったことによる、転倒。ダンス中に遅れた私に美希のぶつかり。
100%私の過失。そして、『たまたま』、ぶつかって足をあらぬ方向に曲げてしまい、私は
全治、1か月―。歩く分には支障はないけれど、ダンスは出来ない。
定例ライブには、ダンスは間に合わない。歌だけになる。

それが、私にされた宣告でした。


40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:53:19.01 ID:uTvdZj7p0

私には信じられませんでした。いいや、信じたくありませんでした。
今まで転ぶことで『幸運』を運んできたこの力が、『不幸』を運んでくるようになったと―

~病院~
美希「ゴメンなさいなの…春香」

春香「…」
その時の私には、美希の謝罪は頭に入っていませんでした。勿論、美希を恨んだわけではなく、許していましたし、気にもしていませんでした。
頭の中にはただ『力』のことしかありませんでした。

春香「…うん…もう行くね。私」

美希「あ…春香…」ガチャ

春香(…た、たまたまだよ…うん。そんなこと、あるわけないのに…きっと力が一時的に私を不幸にしているだけであって、明日には『幸運』に…)
オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

春香(!? こ、この感覚っ…!? 何で!? 私は転んでいないのに…ッ!?)

春香(地面に吸い寄せられる…!?だ、ダメっ!転んじゃう!!)

春香(何で!?何で!?どうして!?)

春香(ダメだよ!もしも、もしも私の考えが正しかったら…『私がっ!』)

『私が不幸になっちゃう』

順序の反転。感覚の後、私は吸い込まれるように―転倒しました。こらえようとして、我慢して、我慢して…
足が絡まって右足が中途半端に踏み出されて…体のバランスが取れなくなって…もんどりうって。私は、転倒しました。


42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:55:14.66 ID:uTvdZj7p0

そして、感覚。
オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

直後。
『たまたま』近くで看護士が手術用の器具を運んでおり、『偶然にも』看護士が転倒し、『私にめがけて飛んできました。』

私はそれを腕でかばいました。
ガッシャーンという音。

普通なら手厚く防護されているようなメス等が、何故か抜き身のまま、私の腕を―

看護士「きゃあああああああああああああああああ」

私の腕は傷だらけで
血だらけで、とてもじゃないけれど、痛々しくて直視できないほどで。

あまりの痛々しさに、
ギプスと包帯が私の腕をぐるぐる巻きにして。
私は出たいと懸命に訴えたけれど。
私のライブ出演は―『中止』になりました。

私は痛みもありましたが、同時にもっと衝撃を受けていました。
「力はもう、私を助けてはくれない。」
『それどころか、私を不幸にする』
その事実に打ちひしがれました。


43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:57:22.93 ID:uTvdZj7p0

そして、その後も不幸は続きました。
最初の『不幸』な転倒の残りが、私に降りかかるように。
まるで、私に訪れる『不幸』が私を不幸にした後、
最後のの力で私を転ばせることを義務としているように。
それが連鎖していくように。

私は引き寄せられ―転びました。
何度も。
何度も何度も。
何度も何度も何度も。

病院の後の1回目の転倒で私は。
春香「―っ!?」

声が大きく出なくなりました。
原因は不明。ですが、歌い手としては致命的でした。

2回目の転倒では、

声が出なくなった私の降板。一時的とは言え、ショックで仕方がありませんでした。

3回目の転倒。

テレビ局の照明が落ちてきて、ガラス片が私の足にささりました。私は、松葉つえを突くようになりました。


44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 21:59:12.60 ID:uTvdZj7p0

4回目の転倒

正体不明の奇病。40度近い高熱が1週間以上続く。

5回目の転倒。

嘔吐。吐血。

6回目の転倒

ストーカーに追われるように

7回目の転倒

私の家にパパラッチが張り込むようになり、プライベートの崩壊。ストレス障害。

8回目の転倒

私の長期休養に伴う全企画の降板

9回目の転倒

不法侵入してきたストーカーに刺される。


45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:00:53.65 ID:uTvdZj7p0

~9回目の転倒から数日後~

私はやっと奇病から解放され、怪我も少し治り、事務所にこられるようになっていました。
しかし、そこにあるのは…

何も書かれていない私の予定と、対照的に予定で埋め尽くされている皆の予定。
とても、空しくて、空虚な気分。
いやな気分

―死にたくなるような気分。

千早「春香、大丈夫?」

春香「…千早ちゃん。」
オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

スッテーン!
私は、転倒しました。
そして何故か襲い来る、猛烈な怒り。

何故私はこんな目に会っているのに、千早ちゃんやみんなはドンドン出世しているのか。
元はと言えば、私の『幸運』のおかげなのに。

私ばかり、こんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目にこんな目に

今まで、考えたこともないような考えが『たまたま』私の頭の中でリフレインし、
気が付くと私は―


47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:02:31.34 ID:uTvdZj7p0

春香「私が大丈夫かって!? 全然大丈夫じゃないよ!!馬鹿にしてるの!?」

千早「は、春香…ごめん、そんなつもりじゃ…」

春香「知らない!千早ちゃんなんか知らない!弟みたいに死んじゃえばいいんだ!歌番組だって落ちちゃえばいいんだ!私のおかげでここまで来れたのに!」

千早「……!」

ピシャ!!
春香「!!」

千早「…いくら春香でも…いくら春香でも…落ち込んでたって、言っていいことと悪いことがあるわ!!」
ツカツカツカ ドン!

それ以来、千早ちゃんは一言も口をきいてくれなくなりました。

10回目の転倒。

親友の喪失―

その後も私は転び続けました。
そして、次々に舞い込む不幸に疲れていました。
いくら泣き叫んでも、いくら後悔しても。あの感覚が襲ってくるたびに、
私は転倒し、不幸になりました。

あるときは、治療薬の容量が間違っていて幻覚が見えるようになり。
あるときは、部屋のコンセントから出火が起こり。
あるときは、本棚が倒れてきたり。

怪我というけがを。病気という病気を。味わいました。


48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:04:36.08 ID:uTvdZj7p0

~数日後~

春香「…罰なのかな」

私はそう考えるようになっていました。
力を使った罰。神でもないのに、運命を左右してしまったことに対する罪。
神様が好き放題してしまった私に怒り、今償うようにしているのではないかと。

春香「グスッ…ウッ…グスッ」

気付くと、毎日涙が出ていて、
何をしているのか、自分でもわからなくなってきていて。

それでも、私は誰も攻められませんでした。

これが、『誰か』のせいに出来たら、きっと楽だったのでしょう。
けれど、これを招いたのは自分でした。自分が『力』を使ったのですから。
自業自得で、誰にも責任転嫁できない。
使わないことも出来たのに、使ったことに対する、罰。

こんなことなら使わなければよかった。
こんなことならこんな力持たなくてよかった。
けれど、使ったのは私で。
この力が悪いわけではない。


49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:06:50.73 ID:uTvdZj7p0

他の誰でもない。自分の使い方。
現に私は、一時的には幸運になった。
そして、今帳尻が合うように不幸になっているだけ。
誰にも文句は言えない。

だからこそ…苦しい。
苦しくて苦しくて苦しくて
何で私がこんな目に…
辛いよ痛いよ。
誰か助けてよ。

プロデューサーさん!千早ちゃん!皆!

誰か…助けてよ…

春香「…何やってんだろ私…馬鹿だよね。自分からやっておいて…自業自得で…」

春香「…行かなきゃ…千早ちゃんに謝らなきゃ…。」

のろのろと立ち上がった私は。
左足を前に出そうとしてバランスを崩し―

春香(―アハハ。また…不幸になるのかな…?)

泣きながら、絶望しながら、転倒しました。

春香(教えてよ神様―。私、どうすればいいの…どうしたらいいの…?)


50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:08:15.23 ID:uTvdZj7p0

スッテーン!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

春香(!)

この感覚は…!
体が浮かび上がるような、魂まで解放されるような。この感覚!

春香「どうして…」

まぎれもない感覚。今までと違う、
春香「幸運…!」

直後。突風。
春香「キャア!…っ!?」

声が戻っていました。今まで出せなかった大声が。まるで芽吹くように。
春香「あ…」
気付くと、涙も止まり…。

そして、私は『幸運』なことに、ある事実に気付きました。

春香「今、私『左足』から踏み出した…?」

思い返す。
この力が目覚めたのは、いつ?
最初に転んで力が出たのは―


51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:10:01.59 ID:uTvdZj7p0

春香(ダンスレッスンの時…。あの時、左足からステップを踏み出す癖がついて…そこから左足で転ぶようになった…)

今まで、思いもつかなかったようなアイデアが頭の中にポンポンとわいてきて。
それが何故なのか分らない。まるで奇跡の様に、ふっと冴えていく頭の中。

いつから不幸になった…?

春香「ダンスステップが右から踏み出すようになってから…」

解いてしまえば、一瞬。あっけない位簡単に出てくる答え。
あまりにもあっけなさ過ぎて、今までの経験が嘘のように。
悩んで苦悩していた私に「幸運」が降り立ったかのように。

解が出たのです。

春香「左足で転べば『幸運』が、右足で転べば『不運』が…」

春香「…!」

私は、ふと自分の心の中に浮かんだその考えを試さずには、いられませんでした。
左足を大きく踏み出して、転ぶ。すってんころりと。
確証もなく。また不幸になるかもしれないのに。


53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:12:04.74 ID:uTvdZj7p0

スッテーン!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

心地よい感覚。
ふわふわ浮きあがるような。

春香「…!」

その30分後、プロデューサーさんが息をついて上がってきました。

P「はあっ、はあっ、春香!!」

プロデューサーさんが持ってきたニュースは、私を刺したストーカーの逮捕でした。
あの時弱っていた私の家に侵入し、私を包丁で刺して逃げていったストーカーが、逮捕されたというものでした。

そのニュースを聞いた私は、確信しました。
力の謎が、少しだけ解けました。

その翌日から。
私は、左足で転び続けました。
何度も何度も何度も。多くの人がこの話を聞いたら、呆れるでしょう。

『あれほどの目にあったのに、まだその力に頼るのかと』

正直に言って、私には考えられなくなっていた部分もあります。
けれど、私は今の境遇から抜け出したかった。
藁をもすがる気持ちでした。

治りたい。歌いたい踊りたい。―笑いたい。


54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:14:02.35 ID:uTvdZj7p0

力のメカニズムは解明しても。まだ危険だとわかっていても。
その時の私は希望に満ちて、同時に不安もありながら、『力』を使っていました。
『依存』していました。

私の世界はみるみる回復し、色を取り戻してきました。
水を得た魚のように、着実に私はあの時の地位を、友情を、全てを取り戻していきました。
…―抹の不安を覚えながら。疑念と不安を隠しながら。

数日後のある日
スッテーン!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

私は立ち上がると、何故か事務所の階段を下って表通りに出ました。
理由は分かりません。『何故だかそうした方がよい気がしたのです』
表には、1台のタクシーがたまたま止まっていました。

春香「すみません!」

私はそのタクシーに乗り込むと、適当に行ける所まで行けることにしました。

ついた先は、人気のない道。
ふらふらと歩いてたどり着いた場所は―墓でした。
そして、そこにある墓の一つは

春香「…如月家」

何故か参らずにはいられなくなって、そこで一礼。
この墓が何を意味するのか分らないけれど、神妙な面持ちで目を閉じているとき。


56: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:16:11.26 ID:uTvdZj7p0

「―春香」

ふと見知った声。

千早「…春香」

友情が決裂した親友、如月千早がそこにいました。

春香「千早ちゃん…」

千早「…どうしてここに」

春香「…どうしてだろうね…何かの縁かな…」

静寂。そして少しして、

千早「…隣、いい?」

春香「うん。」

私と千早ちゃんは二人で、墓にお参りをしていました。

千早「このお墓、優のお墓なの」

春香「…そうなんだ。」

千早「…この前、春香に言われてから…今日オフだから、参ろうと思ったの」

春香千早「…」


57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:18:00.61 ID:uTvdZj7p0

春香「千早ちゃん…あの時は…ごめ」

千早「その先は言わないで、春香」

春香「…」

千早「私も、あなたの気持がわかってなかったから…本当に辛いときを知ってるのに、あんなことしちゃったから」

春香「それは違うよ!」

心の底から、絞り出す言葉は―

春香「私の方こそ…私の方こそ…」

幸運とか不運とかそんなことも関係なく、あの時言った言葉は親友を傷つけるには十分で、言ってはいけないこと。
それを言ったのはほかならぬ自分で、力のせいにだって、してはいけないこと。

千早「…いいの」

千早ちゃんは微笑んで。

千早「一緒にクレープを食べない?」

春香「あ…」

その言葉は
聞きたくて聞きたくて仕方がなかった言葉。
取り戻したくて取り戻したくて仕方がなかったもの。


58: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:19:24.35 ID:uTvdZj7p0

その言葉を聞いた後、私の目には涙があふれて、
気付けば、号泣して。
千早ちゃんの胸に抱きついていました。

そして、私は千早ちゃんに全てを話しました。
力のことも。不幸のことも。何もかも。

千早ちゃんは最初こそ驚いていましたが、信じてくれました。
そして、彼女が切り出した言葉は

千早「春香、もう力を使うべきじゃない。」

きっぱりと力強く。
私の親友はそう述べました。

春香「…うん。」
何故か、納得してしまう私。
あれほど、依存していたのに、『憑き物が落ちたかのように』彼女の話に耳を傾けました。

パチンコ依存症の人間が、突然何かを悟ったかのように。
『幸運にも』やめるきっかけを見つけたかのように。

私は、頭の中でやめる決意が出来上がっていました。
これも力のおかげなのでしょうか。
まるで力自身が自分を封印したがっているような。力を使わなくなるきっかけを作ってくれたような。

私の中に眠る無意識の不安が、やめ時を探してくれたのかもしれませんでした。
私の中の『幸運』がストップをかけてくれたような気がしたのでした。


59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:21:24.67 ID:uTvdZj7p0

春香「…」

それでも私は少しだけ、不安でした。
パチンコや麻薬の様に『辞める』と思っていてもやめられないのではないか。
弱った時に、また使ってしまうのではないか―

千早「どんなことがあっても、私が春香を止めるから。相談してきて」

千早「だって私達、親友でしょ?」

その言葉に―私は喜びと嬉しさを噛み締めながら―

春香「ありがとう…千早ちゃん…」

春香「えへへ、プロデューサーさんにも、相談してみようかな―っ!?」
オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

軽い感覚。
あの感覚。沈み込むような感覚。

右足が吸い込まれる―
すってんころりと転がる体。
驚いて声を挙げる千早ちゃん。

そして、目を見開く私。私は確信して。

春香「千早ちゃん近づいちゃダメ!」

反射的に声を荒げていました。


61: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:23:16.81 ID:uTvdZj7p0

春香「転んじゃった…悪い方に転んじゃった…」

ジリリリリリと
かかってくる電話。

その電話を取った私のもとに届いたのは、
プロデューサーさんが、交通事故にあったという小鳥さんの震えた声でした。

~病院~
春香「…」

プロデューサーさんはぐっすりと眠っているように見えました。
けれど、もう目覚めるかどうかはわからないそうです。
完全なる植物人間。

皆が泣いている横で私は一人、震えていました。
横に立った一人を除いて、皆が泣いていました。

貴音「…春香」

春香「四条さん…?」

貴音「…外に来て下さい。」

春香「…」


62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:25:06.67 ID:uTvdZj7p0

~外~

貴音「あなたですか?」

春香「!」

貴音「教えて下さい。全てを」

ズバリ直球。
私は…貴音さんに全てを話しました。
今思えば、最初に気付いた四条さんに全てを話しておけば、良かったのかもしれません。
全てを聞いた四条さんは、語り始めました。

貴音「…初めに春香に違和感を抱いたのは、私から見て右…つまり春香の左半身の光が少なくなっているように感じたからでした」

春香「左半身…?」

貴音「ええ、まるで、切れかかった電球の様な…」

春香「…」

貴音「ですが、今の話で納得しました。春香、あなたの力が作用していたのです。」

私と四条さんは話しあって…漠然とですが、この力が何なのか、憶測をつけました。

ドラえもんの道具のひとつ。『将来のお金を前倒しして使うことのできる券』
それと同じで、この力は『将来の幸運を前倒しして使うことのできる力』
だから、不幸と幸運のバランスが保てなくなったのではないか。


65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:27:19.14 ID:uTvdZj7p0

私の転倒は、転んだ足の方向の運を放出する。

すなわち、左足なら幸運を。右足なら不幸をそれぞれ放出する。

けれど、幸運も不幸もそれぞれ同じ量しかない。

幸運を使った分だけ、不幸にならなければならない部分が溜まったままとなった。

そのバランスを取る為に、例の感覚が発動し、私を転倒させた。
これが、順序の逆転。不幸になろうとしたのは、私の体が危機を感じて。
自衛した。自己防衛に走った。
幸運が0にならないように。バランスを保てるように。

今まで自分の意思でコントロールしていた力が、
バランスを取る為に無意識に発動した結果。
私は転倒し、不幸になった。

そして、不幸が連続すれば、その間に幸運も溜まり、おのずとバランスも取れ、元に戻る。

分ってみれば、あっけない解答。
私は不幸から脱出するために、また転び続けた。結果、また逆転が起きた。
千早ちゃんと会う為の転倒の後、バランスを保つために私の体は不幸を放出した。

そして、今、プロデューサーさんが私の不幸に巻き込まれた。
私の不幸に。
私のせいで。


66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:29:33.50 ID:uTvdZj7p0

プロデューサーさんが不幸になることは、私にとっての最大級の不幸だったから。

春香「…」

私の身だけならまだ納得出来た。
けれど、何故プロデューサーさんに…!
泣きたい。けど、泣いたってしょうがない。けれど、泣きたい…

貴音「…私には、今の話を聞いて、あなたを責めることができません。」

その言葉を聞いて、私は思う。
攻めてほしかった。叫んでほしい。お前のせいだと罵ってほしかった。
その方がまだ楽だった。何故なら。

貴音の目は赤くはれ上がっていたから。
泣いて、泣いて、泣き叫んだのだろう。
その責任は私にあるというのに。当事者を目の前にして何も言わない

辛かった。
心臓をえぐり取られるような感覚。
鈍器を心に打ち込まれたような感覚。
自業自得。


68: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:34:42.52 ID:uTvdZj7p0

貴音「春香、もう決してその力を使ってはなりません。あなたの放出した不幸を打ち消すためには、
もう一度幸運を使わねばなりません。しかしそんなことをすれば…!」

四条さんは、私のせいだと知りながら、私を励ましてくれました。
私は、嬉しかった。しかし同時に、
『心の底から』罪悪感で逃げたくて、死にたくて、とてもたまらない気持になりました。

逃げても変わらないと知りつつ。立ち向かうしかないと知りつつ、
それでも逃げたくて仕方がない。そんな気持ち。

私は…考えました。
もしも私の幸運を振り絞ったなら…と
おそらくプロデューサーさんは助かるのではないかと思いました。
けれど、自分は…不幸だったあのころに戻るだろう。
いや、もっとひどい。

幸運が0になれば…どうなるのだろう。

貴音「あなたの幸運は、不幸を放出したこともあり、光を取り戻しつつある。けれど、そんなことをすれば」

貴音「最悪の話、幸運が0の人間は…死ぬのではないでしょうか」

死ぬ。今まで考えたこともなかったような単語に、私はとてもくらくらしました。
でも、そう考えるのは確かに自然かもしれませんでした。
幸運が0なら、不幸しか訪れない。そして、最大の不幸と言えば、『死』
十分あり得る話でした。もしも仮に死ななかったとしても、
そこからの生活はひどいもので…とても堪え得られるものではないでしょう。


69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:37:42.85 ID:uTvdZj7p0

春香「…分ったよ。四条さん。千早ちゃんとも約束したから。使わない。…使わないよ」

貴音「…それでいいのです。それで…」
私と四条さんが二人で降りているとき、私は四条さんにペットボトルを渡しました。
千早ちゃんも一緒に来てくれて、二人で話したことを説明して。

千早「…私は春香にいなくなって欲しくない。」

千早ちゃんにストレートに言われた。
親友だからと。もう失いたくないと。
プロデューサーが目覚めないわけじゃないと。
そして、『力を使ったとしても、必ず目覚めるわけではないのだからと』

春香「…」

私はそれを聞きながら
『二人が眠るのを待ちました』 

最初に気付いたのは四条さんだった。大きなあくび。
そして、千早ちゃんも大きなあくびをして、
二人は、ハッとして持っているペットボトルを見た。

一時期、パパラッチに追い回されていた時に飲んでいた睡眠薬。
二人が飲んだ、飲みかけのペットボトル。

二人は、眠気に抗おうとしました。
けれど、長くはもたなかった。


70: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:40:03.35 ID:uTvdZj7p0

やがて二人の寝息が聞こえて。
私は四条さんに「ごめんなさい」といい。
春香「ありがとう。千早ちゃん」と言って

そうして、プロデューサーさんの部屋に入りました。

春香「プロデューサーさん!えへへ、私、来ちゃいました。」

にこやかに笑う私と、眠ったままのプロデューサー。その眠った顔を見ながら。
私は強く踏ん切りをつけ、左足を前に思い切り、転びました。―何度も何度も何度も。

その時願ったことは、今までで一番強い思い。
『プロデューサーさんが助かりますように』

グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!
グワワワワーン!!!
オオオオオオオオオオオオオッ!!

何度も続く感覚。
何故私は親友に嘘をついてまでも、こんなことをしているのか―
プロデューサーさんに死んでほしくなかった。
自分のしたことに償いをしたかった。
理由はいくらも考え付きますが―分りませんでした。


71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:42:13.89 ID:uTvdZj7p0

グワーン!!!オオオッ!!

少しずつ、弱まっていく感覚。
それでも、何度も、何度も、何度も。
転ぶ。転び続ける。

やがて、

P「ん…」

奇跡的にプロデューサーさんが目を覚ました時、私は

素直に嬉しくて、涙が出て、

P「春香…か?」

春香「おはようございます。プロデューサーさん」

春香「そして、さようなら」

そういって、ナースコールのボタンを押した私はすぐに、立ち去りました。
その時の私には、『自殺願望がありました。』

何故だか知らないけれど。
この世のすべてに絶望して。
死にたくて、死にたくて、仕方がありませんでした。

死にたい死にたい死にたい死にたい
死にたい死にたい死にたい死にたい
死にたい死にたい死にたい死にたい


73: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:44:21.01 ID:uTvdZj7p0

右足で転んで。不幸を0にしようとも、初めは考えていました。
けれど、今となってはそんなこともうどうでもよくなっていました。
幸運とは希望。不幸とは絶望。

苦しくても、悲しくても、いいことがあるから人は生きていけるのです。
『明日は明日の風が吹く』とか。『ナンクルナイサ』とか。
明日に希望があるから言えることで、希望がなければ、絶望しかなければ。

それは、生き地獄です。

けれど、絶望も0にしてしまうという選択肢は、ありませんでした。

どちらも0にしてしまえば、本当に何もない私は。
ただただ空虚で空っぽ。
多分それは、絶望があった時よりもひどいのだと。何故か体でわかっていました。

そう分ってしまった私の出した答えは『楽になりたい』でした。
空虚な存在になるのも、これからの絶望に耐えることも出来ない私は
ただ、楽になりたくなったのです。

千早「はっ!?」

私は騒音の中で目覚めました。気付いた時には、春香は消えていました。そして、プロデューサーが目を覚ましたことに皆喜んでいて…
横で四条さんはスースーと寝息を立てていて。
私は、顔を青くしながら春香のことを尋ねて―

気付けば、外に掛け出していました。


75: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:46:01.59 ID:uTvdZj7p0

~30分後~駅のホーム~

春香「…」

私は、駅のホームにいました。
もうすぐ終点。人がいない電車のホーム。

少しすっきりした気分でここまで来ました。
まだ幸運の効果が残っているのだと思いました。
切れた後のことは…想像したくもありませんが。

これから不幸が待っている…それは私には耐えがたいものでした。
私には耐えられないから。申し訳ないけれど、責任逃れかもしれないけれど、
弱い私は『ここで、命を絶つことにしました。』

この自殺願望も、もしかしたら幸運が0になったからかもしれません。
けど、今の私には、全てがどうでもよかったのです。

春香「アハハ…」

怖くて、震えて、情けなくて。
千早ちゃんが知ったらきっと怒るだろうなとか、皆悲しんでくれるだろうかとか。
そんなことを思いながら、私は

泣いていました。


76: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:48:06.74 ID:uTvdZj7p0

春香「死にたくない…っ!死にたくない…っ!でも自業自得だとしてもっ! 私のせいだとしても…」

春香「耐えられないっ…!」

私は世界を恨みました
こんな力、授けなくても良かったじゃあないかと。
ひどい力だと。
使った私が100%悪いのに、自己嫌悪しながらも。
私は恨まずには居られませんでした。

世界というものは、時に奇跡を起こしてくれるものだと、私は思っていました。
けれど、そんなことないと知りました。

私は、右足を前に、その一歩を進めました―。

すってんころりと私は転んで、駅のホームから…

オオオオオーン!
ズズズズズズウウ!!

あの沈み込む感覚をその身に聞きながら
『世界なんか、不幸になってしまえと』
思いながら。

電車が近付く音がして―

私は、目をつぶって―


78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:49:35.69 ID:uTvdZj7p0


……
………?
私は、落ちませんでした。

ガシッ!という音と共に、しっかりと

春香「!」

手首をつかまれる音がしました。
振り返れば、

千早「はあっ、はあっ」

千早ちゃんが。そして―

P「っぶねえ…」

春香「ぷ、プロデューサーさん!?ち、千早ちゃんまで!?」

どうして…?
私の幸運はもう、使い果たしたはず。
死ぬことだって決まっているようなものだったのに…。

千早ちゃんはわたしを抱きしめ、同時に思い切り泣きながら怒って、笑って、
どんなことがあっても私が支えるからといって、
プロデューサーさんは私と千早ちゃんの二人を抱きしめながら。私も何故か号泣しながら

その日の夜が。
終わりました。


80: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:50:37.80 ID:uTvdZj7p0

不幸は―襲ってきませんでした。
それどころか、翌日から、私は『普通の体』に戻っていました。
何故か、力が喪失し、
幸運も不運も普通に起こる、ただの天海春香に。

ここから先は、事情を知っている四条さん、千早ちゃんと話し合って出した話です。
何故、私は助かったのか…。
幸運が0(または0近く)になった私が何故、生きていられるのか。
体が普通に戻ったのか。
その推測を。

答えは、『世界が不幸になったからではないか』というものでした。
はじめはピンときませんでしたが、簡単に説明するとこうなります。


81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:52:02.98 ID:uTvdZj7p0

私の能力は、対象に対し『幸運』、『不幸』を放出する力だったのではないか。
幸運や不幸になった時を思い返してみると、その時の対象は私が思った相手でした。

例えば、765プロの皆だったり。
不幸の事故の時は千早ちゃんの後でプロデューサーさんのことを思っていたり。
(基本的には自分のことを思っていたのですが。プロデューサーさんの場合は自分の不幸でもあったのではないかという推測。)
右足で不幸になる対象は、基本的に自分のことばかり考えていたので、自分ばかりが不幸になってしまったのではないか。

あの時。

最後の最後に私に自殺願望が芽生えたとき、私は右足を踏み出しました。
そして、その対象は「世界」でした。
世界は、私の不幸を受けて、少しだけ、『不幸になった』

会社や人間関係でもよくあるような不幸。
自分のせいじゃないけれど、ミスが起きた。
世界は『不幸にも』私を見逃さざるを得なくなってしまった。

本来ならば、幸運が0の私は
不幸に支配されて、死ぬかそれ相応のみじめな生活を送るはずでした。
けれど、私の不幸が世界を襲い、
世界は私にそう言った生活を送らせることが『不運にも』出来なくなった。

完璧な予定がアクシデントで中断されるように。
いつもなら見逃すはずのない運命が、邪魔が入って私を襲えなかったように。

私の不幸が、世界に向けて放出されたのではないか。
それが、答えでした。


82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:54:15.99 ID:uTvdZj7p0

そして―今の私は…

なんだか、日記のように思い返します。 

私は―今、笑ってアイドルを続けています。トップアイドルとして、歌って踊って…
実は少し惚れちゃった人がいて…でもでも意外とライバル多くて大変で…

けど、楽しい生活を送っています。あの反動なのか、能力が出ることはおろか、ほとんど転ばなくなりました…。
多分、ある種の反動ではないかと思っています。

幸運も不運も同じように起こる、普通の生活。
勿論努力して、トップアイドルには返り咲きましたが。
今の生活は自分の力と、友人やプロデューサーさんの力を借りて、掴みとりました。

今となっては、
世界が不運にも少しだけ不幸になり、ミスをした―けれどその見逃しは、転びの力を見逃しはしなかった―なんて、少し考えたりします。

なぜ、転びの力を見逃さなかったのか…それは、私の意思が、少しだけ、不幸の矛先を操ったとか…色々考えますが、結局わかりません。

けれど、これだけは言えます。


84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/04/22(月) 22:57:52.48 ID:uTvdZj7p0

世界というものは、時に奇跡を起こしてくれるものだと、私は思っていました。
けれど、そんなことないと知りました。

世界とは、時に人の意思に応じます。たったひとりの人間の意思が、世界を動かすことがあるのです。

世界とは、時に奇跡を受け入れるものだと、私は知りました。
そしてその上で私は―

P「行くぞ!春香!今日も張り切ってな!!」
千早「頑張ってね!春香」
春香「はい!プロデューサーさん!!頑張ってくるよ千早ちゃん!」

自分の力で頑張っていこうと、心に刻み込んで
今日を生きています。

終わり





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