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トップページシャニマス > 【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】 CHAPTER 02:前編

591: ◆zbOQ645F4s 2022/01/09(日) 17:37:43.10 ID:VIg00xsT0

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GAMEOVER

カザノさんがクロにきまりました。

おしおきをかいしします。



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関連スレ
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592: ◆zbOQ645F4s 2022/01/09(日) 17:38:30.08 ID:VIg00xsT0


かつてこの国を席巻した大予言、ご存知の方も多いでしょう。

来る世紀末、空から恐怖の大魔王がやってくる。
地上は等しく滅ぼされ、人類も滅亡し、新しい世界がそこから始まるとかなんとかかんとか。

よくもまあこんな突拍子もない話をメディアやマスコミで持て囃し、終わりの時がやってくるなんて喚いていたんだからお笑いですよね!
子供世代はそんな話があったこともつい知らず、すくすくと育っとりますがな!


……でも、その予言は本当は外れてなんかいなかったんです。


滅亡の時は、今この時。

神殿の祭壇、その上で空を仰ぐ風野さん。
その眼前には今にも地上に降り注ごうとしている流星群の数々が……!


593: ◆zbOQ645F4s 2022/01/09(日) 17:39:02.83 ID:VIg00xsT0

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落下予測地点

超高校級の占い師 風野灯織処刑執行



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594: ◆zbOQ645F4s 2022/01/09(日) 17:40:09.40 ID:VIg00xsT0


神仏の怒りを鎮めるにはお供物と昔から相場が決まってますよね!
恐怖の大魔王だって、きっと捧げものをすれば鎮まってくれますよ!

風野さんも粛々とそのための儀式を執り行います。
トライアングルを象った魔法陣を描き、その四隅にはパリパリに焼いた餃子を並べていきます。
そして捧げるのは彼女の歌声。
イルミネーションスターズのアイドルとして活躍する彼女の歌声は聞く者すべてを魅了しますね。
清流のように澄んだハミングが空に響き、魔法陣もそれに共鳴するように輝き始めます!
トライアングルの三頂点から発せられたピンクと黄色と蒼の光は空で交わり一つの閃光に。


さあ、届けよう!
私たちの希望、そして私たちの祈りを!



天に打ちあがる輝きを、恐怖の大魔王は受け入れてくれるのか________!



595: ◆zbOQ645F4s 2022/01/09(日) 17:41:33.32 ID:VIg00xsT0


*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*

さあ、今日の運勢一位は獅子座かそれとも魚座かどっちなんでしょう〜?

ごめんなさーい、今日一番悪い運勢なのは魚座のあなた!
神様にお願いしても、聞いてもらえないかも!
どれだけ頑張っても無理なものは無理だと諦めるのも一つ選択肢ですよ!

ラッキーアイテムは傘、空から降り注ぐ隕石もこれで防げちゃうかも?

それでは今日も1日張り切っていきましょう!
いってらっしゃ〜い!

*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*:;;;:*☆*


……あ、いってらっしゃいも何ももう、風野さんは隕石が祭壇に直撃して瓦礫の下でペシャンコでしたね。
せっかく綺麗に焼いた餃子もこれじゃ台無しだよ!

ラッキーアイテムをちゃんと持ち歩かないからこういうことになるんですよ?
皆さんはちゃんと朝の占いを聞いてから出かけるようにしましょうね♪


599: 更新前に現在の状況を整理します ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:00:35.72 ID:Gmun8+E70

現在の主人公の情報
【超社会人級のシンガー】斑鳩ルカ

‣習得スキル…特になし
‣現在のモノクマメダル枚数…70枚
‣現在の希望のカケラ…18個
‣現在の所持品
【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】


600: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:01:23.31 ID:Gmun8+E70


‣親愛度
【超高校級の占い師】風野灯織…0【DEAD】
【超社会人級の料理人】 月岡恋鐘…0
【超大学生級の写真部】 三峰結華…0
【超高校級の服飾委員】 田中摩美々…0
【超小学生級の道徳の時間】 小宮果穂…0
【超高校級のインフルエンサー】 園田智代子…0
【超大学生級の令嬢】 有栖川夏葉…0
【超社会人級の手芸部】 桑山千雪…0
【超中学生級の総合の時間】 芹沢あさひ…0
【超専門学校生級の広報委員】 黛冬優子…0
【超高校級のギャル】 和泉愛依…0
【超高校級の???】 浅倉透…0
【超高校級の帰宅部】 市川雛菜…0
【超高校級の幸運】 七草にちか…0【DEAD】
【超社会人級のダンサー】 緋田美琴…0


601: それでは2章スタートです ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:02:40.82 ID:Gmun8+E70






_____みんながどう思うのか気になるんすよ!




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602: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:03:59.34 ID:Gmun8+E70


だって、こんなコロシアイだなんて外の世界じゃまずありえないじゃないっすか?
明日自分が生きているかもわからない、そんな状況映画でしか見たことがないっす!

わたしもすごい毎日ドキドキして、夜になると体が意味もなく震えたりするんっす。
多分これって「怖い」って事だと思うんっすけど、それって本当にみんな同じなんすかね?

だって、今から人を殺すって人が「怖い」って思ってたら殺すこともできないじゃないっすか。
だからきっと、わたしたちと違った気持ちの人がいると思うっす。
今はいなくても、やがて「怖い」じゃなくて別の気持ちになる人が出てくると思うんすよね。

そういう人が何を考えて、何を感じて、何を思って人を殺すのか。
そして、人を殺した後、学級裁判に挑んでる時はどんな気持ちになるのか。

わたしはそれがすっごく気になるっす。



……だって、わたしはそんなこと今まで考えたこともなかったっすから!




603: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:05:07.75 ID:Gmun8+E70

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CHAPTER 02

厄災薄命前夜

(非)日常編


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604: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:05:55.30 ID:Gmun8+E70




《美琴「奈落」

美琴「ステージの下。私は一人になる。誰の助けもない、誰も隣にいない。出番を待つその時間に、自分自身を顧みる」

美琴「……でも、ここを出れば私は孤独ではなくなる。私を待ち構えてくれる人が、ファンが、スタッフが、プロデューサーが」

美琴「……そして、隣に立ってくれるパートナーがいる。その人たちのために、【すべて】がある。私の【すべて】はそのためにある」》





605: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:07:06.35 ID:Gmun8+E70

【ホテル ルカの部屋】


「……クソッ」


ベッドから見上げた天井はシミひとつなく真っ白で、忙しなくファンだけが回り続けてブンブンと音を立てる。
その音が妙に煩わしく感じると同時に、喉に渇きを覚えた。
備え付けの冷蔵庫には一応の飲料はあるが、そういう気分じゃない。


……一応は私も成人している身だ。
こういう気分の時には【その力】に頼ることが許される。


「……行くか」


606: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:08:32.90 ID:Gmun8+E70

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【ロケットパンチマーケット】


さっきの今で、月明かりが薄気味悪い。
背中を突き刺す光の一つ一つに嫌悪感を覚えながら、足早に目的を果たすためだけに向かう。


道中特に人影はなし。誰ともすれ違わなかったのはラッキーだ。
どうせ283プロの連中は七草にちかの一件でまだ立ち直ってもないだろうし、煩わしい会話もしなくて済む。
用件だけ済ませてさっさと個室に戻ってしまおう。
あのスーパーの棚の並びはなんとなくは頭に入っている。

と、私はまるで無警戒に店内に踏み入ってしまった。




……もっと慎重になるべきだったという後悔を、私は数分の後にすることになる。



607: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:09:49.46 ID:Gmun8+E70






千雪「……あら? ルカちゃん……?」

(……!)






608: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:11:59.67 ID:Gmun8+E70


高校生以下が半数以上の283プロ、まさかこんなところにいるとは思いもしなかった。
手芸女は口をポカンと開けて間抜けに私の姿に驚いている。


ルカ「……帰る」

千雪「ま、待って! 大丈夫……その、誰にも言わないから……」

(誰にも言わないってなんだよ……私が気恥ずかしさから逃げようとしてるとでも思ってるのか?)

ルカ「……私は誰かと話をしに来たんじゃない、そこの棚のそれに用があるだけ」

千雪「ここの棚って……お、お酒……?」

ルカ「……悪いかよ」

(学校の先生にでもなったつもりか?)

千雪「……ううん、ルカちゃんの気持ちはわかるから」


そういうと手元の籠を少し揺らして、私に中身を見せてきた。
なるほどこいつの籠にも酒瓶の影が見える。
裁判の疲れと心に追った傷とを癒すためにそのはけ口を探しにやってきたらしい。
何もこちらから言葉は送らなかったが、手芸女は何を思ったのか自嘲気味に口を開いた。


609: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:13:02.25 ID:Gmun8+E70


千雪「大人ってずるいよね、こんな時でも逃げ道があるんだもの。……でも、今この島にいるみんなはそんな逃げ道もなく現実に向き合うしかない」

ルカ「卑怯者って言いたいのか?」

千雪「ち、違うの! えっと……その……」

(なんでこいつはこんなあたふたしてまで私を呼び止めるんだ? 話題もちゃんと用意してすらいないくせに……)

(……チッ、七草にちかに限らず283プロの連中はこんなのばっかかよ)


いつまでたっても理由なく会話を続けようとする手芸女に業を煮やした私は語気を強めて言葉を吐き捨てる。


ルカ「悪いけど、お前の無駄話に付き合うつもりはない。イラつくんだよ」

ルカ「言いたいことがあるなら、もっとスパッと言ったらどうなんだよ」

千雪「……!」


針で刺すような私の言葉に手芸女は面食らった様子で、左足を少し後ろにやった。
私はこういう交渉には慣れっこだ。相手が少しでも下手に出る様子があるなら、圧で押し通してしまえば相手は臆して勝手に引っ込んでいく。
今回もその範疇。普段からほんわかした雰囲気を巻き散らかしているような、奥手で弱気な相手なら私が御しきれない道理がない。


610: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:14:27.08 ID:Gmun8+E70





____そう、思った。




千雪「……わかった」

ルカ「……あ?」

手芸女は一度は引いたその左足を、今度はもっと図々しく私の方に向かって踏み込んできた。
逃避の防御姿勢とは魔反対、臨戦態勢といったところ。

不安で揺れる瞳を私のもとに矯正して、奥歯で何かをぎりぎりと噛み潰している。
手芸女は生唾をひとつごくりと飲み込むと、口を開いた。



千雪「ルカちゃん、本当にありがとう」




611: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:17:02.41 ID:Gmun8+E70


「ありがとう」その五文字が理解できず、一度目の前の宙に描いてみた。
やっぱり違う。裁判の終わりにも283プロの連中が私たちに投げかけてきたその言葉は、何度確かめようとも私には不適切な言葉だと思う。
何かを施してくれた相手に、その謝意を示すために使われるその言葉は、もっと善人で、もっと余裕綽々として、もっと背筋の伸ばした日の当たる人間に向けられるべき言葉だ。
少なくとも、私が受けていい言葉なんかじゃない。
だから私は強い言葉でその五文字を拒絶した。


ルカ「……裁判終わりにも言ったはずだ、私は何も礼を言われる謂れはない」

ルカ「不愉快なんだよ、押し付けてくんじゃねー」


それでも、手芸女はその身を揺らがせることもせず、正対したままだ。


千雪「ルカちゃん、あなたが言っているのは私たちを立ち直らせたにちかちゃんの言葉についてのこと……だよね?」

ルカ「じゃあ……違うのかよ?」

千雪「うん……私はルカちゃん自身が美琴ちゃんと向き合ってくれたことに対する感謝をしたいの」

ルカ「美琴と……?」

千雪「私たちと美琴ちゃんとの間にはまだ隔たりがある……そして、それを真に理解してあげられるのはルカちゃんだけだもの」

(……! こいつが言ってるのは、美琴と私との【解散】のことか……)


何を理解した風な口ぶりで、本来ならそうやって言葉を返すところだが、手芸女にその言葉はぶつけられない。
こいつからにじみ出ているものは、そういう表面的なものではない。
もっと奥底にしみついた、海泥みたいなドロドロとした淀んだ感情。私もよく知るそれが透けて見えている。


612: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:18:02.31 ID:Gmun8+E70


千雪「裁判の時……ルカちゃんが美琴ちゃんと正面からぶつかり合ってくれたおかげで、最後の最後にシーズの二人はお互いの素直な感情を打ち明けられたんじゃないかなって思うの」

ルカ「……」

千雪「美琴ちゃんが納得していなくても、多数決の投票できっと間違った道にはなっていなかった。でも……それじゃダメなんだよね」

千雪「本当の気持ちを押し殺したままなんて……辛いもの」

ルカ「……お前、それって」

千雪「……」

(こいつも、そういう経験があるってことか……?)


私に手芸女のことはわからない。
所詮美琴と同じプロダクションに所属しているだけの存在で、それ以上の興味も関心もない。
だが、こいつが持っているそれは、近からずも遠からずという距離感で私と美琴の間の溝と類するものらしい。



でも、だからと言って……受容するわけにはいかない。



613: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:19:58.87 ID:Gmun8+E70


ルカ「……手芸女、お前の言いたい事はわかった。わかったけど……それでも違うんだよ」

ルカ「私は……まだ向き合えちゃいない」


情けない話だけど、私はまだ七草にちかのように一歩を踏み出す事ができていない。
私が裁判でやったのは、ただの癇癪のぶつけ合い。
シーズの二人が、死の間際にいつかの私たちのような道に向かおうとしていたから、それが見苦しくて足掻いただけ。
実際、七草にちかもそれはよくわかっていた。

じゃないと、【私の手本】なんてクソ生意気な口を叩くわけない。
あいつは、私に美琴のことを託そうとした。
あいつの願いを受け入れるつもりは全くない。

でも……私がここで生きていくのなら、それと同じことをしなくては生きては行けないだろう。
今この瞬間も、美琴のことを思うだけで胸が張り裂けそうだ。



千雪「____別に、いいんじゃないかな」




614: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:21:28.06 ID:Gmun8+E70


ルカ「……はぁ?」

千雪「まだ向き合えていない……きっとそれでもいいと思うの」

ルカ「お前……他人事だからって適当なこと……!」

千雪「適当なんかじゃないわ。……私たちは、にちかちゃんに生かされた。生きている私たちには時間がある、悩んで、つまづけるだけの時間があるんだもの」

ルカ「……!」


『七草にちかに生かされた』。
とんでもないことを口にしてくれたものだ。あんなに憎くて恨めしくてたまらない存在だったあいつに恩義を感じろとでも言うのか?


千雪「ゆっくりでいいの、ゆっくりとでもルカちゃんの答えが見つけられればそれでいいんじゃないかな」

ルカ「……知ったような口利きやがって」

千雪「ごめんね、お節介焼いちゃって」


正直なところ、手芸女の論法は非常に癇に障った。
自分の中の経験と勝手に類似を見出して推し量り、分かったような気になる。それでいて臆面もなく教訓じみたくさい言葉で諭してくる。
ドラマに出てくる『理想の教師』みたいなそれは、私が一番苦手とする相手だ。


615: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:22:32.23 ID:Gmun8+E70


ルカ「本当、メーワクこの上ねーよ」



でも、だからこそ……こいつのその腹の内を見てやりたいと思った。

たった数年ごとき年上だからって、よき理解者ぶった余裕を見せびらかしてくる、その面の皮の厚さを検証してやりたいと思った。
無駄に透き通ったその言葉に、一点の濁りもないのか、明かりに透かして見てやりたいと思った。
……幸いにも、今日は月光夜だ。
夜を利用して、それを検証するにはもってこい。


ルカ「……だから、迷惑料。付き合ってくれんだろ」


千雪「……! ふふ……ええ、喜んで」

ルカ「言っとくけど、まだ成人したばっかなんだよ。酒の良し悪しなんか知らないから、任せる」

千雪「それじゃあ熱燗なんか挑戦してみる? 日本酒もコンロも揃ってるから……案外おいしいの」

ルカ「……おう」

千雪「やった! それじゃあおつまみも選んじゃおうかな~」

ルカ「……好きにしな」


616: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:23:41.20 ID:Gmun8+E70

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【千雪のコテージ】


千雪「ごめんね、少し散らかっているけど……好きなところに座ってくれていいから」

ルカ「……おう」

(なんだ、この部屋。やたらといい匂いっつーか……雰囲気が違うっつーか……)

千雪「さっそく始めちゃいましょ! ……ふふ、誰かと飲み交わすなんて久しぶりだからなんだかテンション上がっちゃうな!」

ルカ「……そうかよ」

千雪「よし、それじゃあ早速ルカちゃんには私のとっておきの飲み方を伝授しちゃうぞ!」

ルカ「……」


スーパーを出た私たちはそのまま手芸女の部屋へ。
薄桃色でファンシーな雰囲気ある部屋はなんとも収まりが悪くてはじめソワソワしていたが、
その中で飲み交わす日本酒のミスマッチさが妙に滑稽ですぐに部屋の空気は気にならなくなった。


617: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:25:01.53 ID:Gmun8+E70


はじめこそ無言だったものの、酒を入れ始めるとアルコールが口元の緊張をほぐしていき、自然と口から言葉が継いで出た。
私の口から出る愚痴や妬み嫉みも、手芸女は文句ひとつ言わず受け止めて、真剣に話を聞いていた。
そんな手芸女に気をよくしたのか何なのか、私も自然と守ろうとする領域の防衛線を徐々に徐々に無自覚に下げ始めていた。


ルカ「……別に七草にちかに嫉妬してたわけじゃねえんだよ、それより____」

千雪「……それより?」

ルカ「美琴を失ったことが辛くて……この島で美琴を見た時に、嬉しさと辛さが同時に湧き上がってきて、さ……」

千雪「そっか……」


裁判を終えた疲れからか酔いは思ったよりも早く回って……正直記憶もしっかりしない。
酒の勢いに任せて余計なことも口走った気がする。


618: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:26:00.44 ID:Gmun8+E70


ルカ「美琴のやつはさぁ! 放って置いたらすぐに食事をゼリーとかで済ませようとするからさぁ! 私は、私は毎回お弁当作ってやったりさぁ!」

千雪「確かに美琴ちゃんの食生活はちょっと心配かも……」

ルカ「だろぉ?! あいつやっぱ変わんないんだな……!!」

◇◆◇◆◇◆

ルカ「美琴の家すごいんだぞ?! マジで家具なんかも全くないから……どういう生活してんだって話だ!」

千雪「そういえばこの前家電を新しくするとかで、事務所に美琴ちゃん用の荷物が届いてたのをちらっと見かけたなぁ」

ルカ「ま、マジか……?! あいつ、家電とか使えんのか!?」

千雪「ふふっ、それはちょっと美琴ちゃんに失礼よ」

◇◆◇◆◇◆

ルカ「あいつ、寝るときはやけに寝相がよくてよ……子供みたいな顔して眠るんだ」

千雪「ふふっ、美琴ちゃん普段は大人っぽいから意外ね」

ルカ「そう! そうなんだよ! 寝息も静かでさ、だからついつい構いたくなっちまうっつーか……!」

千雪「あら、美琴ちゃんのがお姉さんでしょ?」

ルカ「そうなんだけど、そうなんだけどさ……わかんだろ? な?!」


というか、もはや酒のせいで体裁を取り繕うことすらもおざなりになっていたはずだ。
本当、酒というものは恐ろしい。自分の中の知らない自分を曝け出し、本人はそれすらも無自覚なのだから。

何時間話し続けていたのかもわからないが、手芸女はずっと表情豊かに私の話に耳を傾け続けて、
それが心地よくて心地よくて、気がつけば私は机に突っ伏して眠ってしまっていた。


619: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:27:07.02 ID:Gmun8+E70

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≪island life:day 6≫
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【千雪のコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も前回気分で張り切っていきましょう~!』


「……はっ?!」

酒に完全に呑まれていた私は目を覚まして困惑。私の部屋とは雰囲気が180度違う、ファンシーな空気感。
まさに『知らない部屋』というやつだ。そして傍には手芸女が幸せそうに口元を緩めて机に涎を垂らしながら眠りこけている。


620: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:28:42.52 ID:Gmun8+E70


「なんで私がこんなところに……」


スーパーでこいつと言葉を交わした事はなんとなく覚えている。ただ、そこからここに来るまでの経緯の記憶は朧げだ。
283プロの連中のことだ、どうせ余計な世話を焼いて無理矢理にでも私を連れ込んできたんだろう。


(……チッ)


余計な真似をしやがって。
顔を見た瞬間虫唾が走り、私を立ち上がらせた。足早に扉へと向かい、そのドアノブを掴む。


「……」


手首を少し下げるだけ、それだけのことなのに扉は開かなかった。
どうも手に力が入らないらしい、苦笑混じりのため息をつくと、私は踵を返してそのまま近くのベッドに座り込んだ。


「……ったく」


確かこいつらは8時から朝礼をやってるんだったか。30分前に起こせば用意も間に合うだろう。
……私が付き合うのは、それまでだ。


621: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:29:57.05 ID:Gmun8+E70


_____
_______
_________

千雪「……! や、やだ……寝ちゃってた……」

ルカ「みたいだな、アホ面晒してよく眠ってたよ」


なんて軽口を叩くと手芸女は途端に顔を赤くして自分の手で覆った。
おいおい、私より年上なのになんだその『花も恥じらう乙女』風な反応は。


千雪「ごめんね……ルカちゃん、私恥ずかしいところ見せちゃったかな」

ルカ「……お互い様だと思う、私も大概だったよ」

千雪「じゃあ……今日のことは二人だけの秘密にしよっか」


そういって手芸女は右手の小指を私に向かって突きつけてきた。
おいおい、今度は『指切りげんまん』ってか……? 流石にそいつは勘弁だ。
私は手の甲で適当にそれを跳ね除けると、背を向けて再度扉の前に立った。今度こそこの部屋を出ていく。


622: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:31:28.74 ID:Gmun8+E70


千雪「あら? どこに行くの?」

ルカ「どこって……自分の部屋に決まってるだろ」

千雪「……朝ごはんは?」

ルカ「こっちで適当に済ませる、放っとけ」


こいつとの晩酌はほんの一晩の気まぐれ。この先交わることのない平行線が、たまたま掠めた程度のこと。

そのはずなのに、私じゃないもう一方の平行線は、突如として折れ曲がり、私の行く先を塞いだ。


千雪「ダメ、通しません」

ルカ「は、はぁ? なんでお前にそんなこと言われなきゃなんないんだよ」

千雪「ダメったらダメなんです! こうなったら私、結構しぶといんだから」

ルカ「答えになってねー……」


頬を風船みたいに膨らませて、手をブンブンと振り回して私の行く先を塞ぐこいつはとても年上には見えない。
それなのに、その振る舞いの先にある空気感が妙に幅を利かせてきて、私はしどろもどろになる。


623: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:33:53.98 ID:Gmun8+E70


千雪「朝ごはん、今日からルカちゃんにも一緒に食べてもらいます!」

ルカ「……嫌だ」

千雪「食べてもらいます!」

ルカ「嫌だっつってんだろ!」

千雪「めっ! ちゃんと年上の言うことは聞きましょう!」


……ダメだ、こいつ本当に譲る気ないみたいだぞ。


千雪「ずっと皆心配してたんだから……ルカちゃん、私たちを殺すなんて大見得切って、一人で行動してばっかりで」

ルカ「……それは、その言葉は……まだ生きてるかんな?」


せっかくの脅しの言葉もこいつの前ではすっかり鈍刀だ。
語尾が妙にうわずって様子を伺うようじゃ、むしろ逆効果。ここぞとばかりに手芸女は詰めてくる。


624: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:35:35.78 ID:Gmun8+E70


千雪「……気持ちはわかるわ、でもね。このままずっと一人でいたんじゃ、生き残れるものも生き残れなくなっちゃうかもしれないわ」

ルカ「余計なお世話だ、私は自分のやりたいようにやって生き延びる……」

千雪「ううん、それじゃルカちゃん、いつか一人で抱えきれなくなって倒れちゃうかもしれないじゃない?」

ルカ「だからそんなのしないって……」

千雪「どうして言い切れるの?」


……クソッ、どこまで纏わりつくんだよ。

正直なところ、こいつの言うところは所々で私の急所をついてきている。
誰かを殺す、なんて宣言をしたもののその所在は今や私にも分からない。
元々そんな勇気があったのか、七草にちかの顛末を見届けてからはそれすらも確証を持てなくなっていた。

そして、一人で過ごすことのリスクをこの前の裁判で嫌と言うほど思い知らされた。
七草にちかとあの中学生の猛追。七草にちかが心変わりしていなかったなら、私の方が骸になっていた可能性は十分ある。


千雪「ねえ、ルカちゃん。今日だけでもいいの。私たちと一緒に朝ごはんを食べてくれないかな?」


……クソッタレ。


625: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:36:30.70 ID:Gmun8+E70


ルカ「……った、わかったよ! 行けばいいんだろ!」

千雪「わぁ! よく言えました!」

ルカ「お、おちょくってんじゃねー……」


いつもの威勢がまるで出やしない。こんなんじゃ、『カミサマ』も聞いて呆れる。


千雪「じゃあちょっと待ってて、私もすぐ支度するから」

ルカ「……は?」

千雪「え? 行くんだよね、朝ごはん」

ルカ「いや行くけど……おい、まさか一緒に行くとか言うつもりじゃねーよな?! それは流石に受け入れられねーから!」

千雪「もう、ルカちゃんさっきと言ってることが違うぞ?」

ルカ「いや、だから! ちゃんと朝食会には顔出すから! 一緒に行くとかそれは流石に……ない!」

(小学生でもそんなのやんねーって!)

千雪「ふふ……じゃあ、ちゃんと朝食会に顔を出してね? 信頼してますからね」

ルカ「はいはい……」


ったく……あいつが起きるのを待ってたせいでひどい約束を取りつけられてしまった。
なんとか一緒にレストランに行くなんて脳内お花畑な約束だけは退けたが、こりゃ顔出さないとしつこいだろうな……

私は一度自分の部屋に戻って身なりを整えるだけ整えて、重い足取りでレストランへと向かった。


626: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:37:44.01 ID:Gmun8+E70

-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】


ここに来るのは、島に来た初日。探索段階の時に来たっきりだ。
食事はスーパーのレトルトで済ませていたし、283プロの連中が集まる空間は自分から避けていた。
そしてそれは283プロの連中も知ってのことで。


結華「おはよー……ってルカルカ?! な、なんで?!」

ルカ「なんで……って」

(クソッ……どこから説明すればいいんだ)


メガネ女の向こう側にはすでに283プロの連中が何人も集まっており、須く全員が私に向かって驚愕の表情を浮かべている。
そんなに私が来るのが意外……まあ、そりゃあ意外だよな……


627: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:38:55.32 ID:Gmun8+E70


メガネ女への申し開きが思いつかず、説明しあぐねていると、私の後ろで扉が開いた。


千雪「ごめんなさい、遅くなっちゃって……」

結華「あっ、ちゆきち姉さん! 見て! ルカルカが今日は参加してくれるみたいで……」

ルカ「……よぉ」

千雪「わぁ! 本当に来てくれたのね、ありがとう!」

(お前が無理矢理来させたんだろうが……)

千雪「よくできました!」

ルカ「な、バッカ……頭を撫でんのはやめろ!」

結華「えーと……これは、ルカルカの反抗期が終わったとかですか?」

ルカ「調子乗んなメガネ女!」

結華「……そういうわけじゃなさそうだね」


私の朝食会参加というイレギュラーは手芸女が代わりに経緯を説明してくれた。
とはいえ二人きりで飲み交わした、なんてところは暈しながらだったけど。


628: ×ちゆきち姉さん 〇千雪姉さん ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:40:12.10 ID:Gmun8+E70


結華「えーっと席は……」


メガネ女が座席を探しに見やると、それに応えるようにして美琴が美琴の隣の席を引いた。


ルカ「美琴、い、いいのか?!」

美琴「ここ以外に座れないでしょ、早く座って」

ルカ「お、おう!」


意気揚々と美琴の隣に腰掛ける。
美琴のやつ、相変わらず最低限しか食べてないんだな……また料理作ってやりたいけど……今はまだ食べてくれないだろうな……

久しぶりに相方の隣に座ってソワソワしていたが、すぐ後に違和感を感じとる。この場にいる全員の視線が私に注がれている。
殺せる宣言をしておいて朝食会に突然参加してきた人間への好奇の視線……というだけではない。
むしろ、そんな表面的な部分じゃなくて、もっと奥底のものを覗いているような。

(……ああ、そういうことか)

気づいた。
この席は、元々使っていた人間がいたんだ。
そして、この席は美琴の隣の席。ともなると、元の持ち主は言うまでもない……



____七草にちかの席だったんだ。



629: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:41:18.68 ID:Gmun8+E70


智代子「なんだか……ちょっとだけ、寂しくなっちゃったね」

千雪「ルカちゃんが来てくれたけど……灯織ちゃんとにちかちゃん……それに透ちゃんと雛菜ちゃんも来なくなっちゃったから……」

美琴「……浅倉、透……」

結華「ま、まあ、今まで来なかったルカルカが来てくれた方に目を向けようよ! これからは協力してくれるってことなんでしょ?!」

ルカ「え? いや、別にそんなつもりじゃ……」

あさひ「……」


始まった朝食会はまるでお通夜のような雰囲気だった。
私がいることもあるんだろうが、裁判自体が昨日の今日で誰も立ち直れてなんかいない。

会話をまともに交わすこともなく、淡々と食事を口に運んでいる。
なんとも居心地が悪くて、料理もまるで味がしない。
さっさと食べ終えてこの場を後にしたい。

そんな想いが込み上げてきていたところで、それは始まった。


630: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:42:35.53 ID:Gmun8+E70


バビューン!!

モノクマ「この度はお悔やみ申し上げます!」

ルカ「モノクマ……出やがったな」

美琴「……!」


すっかり意気消沈している283プロの連中を嘲笑いに現れたかのようなタイミング。
そしてそれは当たらずも遠からず、お通夜のような雰囲気に合わせたのか何なのか、モノクマのやつは喪服の格好をしていやがった。


恋鐘「こげんタイミングでなんの用たい?! うちらはまだ、二人のことを……」

モノクマ「えーっとどうするんだっけな……」

冬優子「あのー……聞いてますか?」

モノクマ「わっかんねぇな……」

愛依「馬の耳にナントカってカンジだね……」


631: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:44:00.79 ID:Gmun8+E70


モノクマ「ホラ、モノミ! 先に行ってこいよ」

モノミ「えぇ……? あちしが先なんでちゅか……? あちしもやり方わかんないでちゅよ……」

モノクマ「いいからいいから、焼香なんて大体皆毎回適当にやってんだから! 適当にちぎって握ってポイしてこい!」

モノミ「ぼんやりしすぎでちゅ! 更年期のおふくろさんじゃないんでちゅから!」

モノクマ「じゃあ灰を全部握り込んで、死体の上から振りかけるんだっけ?」

モノミ「そんなアウトローな焼香聞いたことないでちゅよ! おおうつけでちゅ!」

モノクマ「じゃああれだ、灰を枯れた木に振りかけて……」

モノミ「それじゃ花咲か爺さんじゃないでちゅか! このお葬式はペット葬じゃないんでちゅよ!」

モノクマ「もうええわ!」

モノミ「それはあちしの台詞でちゅ!」

夏葉「……そんなくだらないやりとりを見せつけるためだけに現れたのなら帰ってもらえるかしら」

夏葉「まして喪服なんて着込んで……灯織とにちかの死を踏み躙るなんてこの上なく不愉快だわ」

モノクマ「ちぇー、オマエラがすっかりお通夜だから葬式ごっこしたら乗ってくれると思ったのになー」

摩美々「やるわけないじゃーん……ほら、さっさと撤収てっしゅー」

モノクマ「はいはい、分かりましたよ! ノリ悪いんだから、ったくもう……」


ただただ不快なショートコントを繰り広げたモノクマはすぐにその姿を消した。
本当にこのためだけにやってきたってのか……なんなんだ、あいつ。


不味かった食事が更に不味くなって、手をつける気力も失いかけたところで、モノクマに取り残されたモノミの姿が目についた。


632: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:46:01.33 ID:Gmun8+E70


ルカ「お前は帰んねーのかよ」

モノミ「……」

千雪「……モノミちゃん?」

モノミ「違うんでちゅ、あちしは……あちしは……ミナサンのお役に立ちたいんでちゅ!」

ルカ「よく言うぜ……この前の事件の時だってお前はただ指を咥えて見てただけ。裁判で私たちを助けようともしなかったじゃねーか」

モノミ「指を咥えようにも全身縄で縛り上げられてまちたし……管理者権限は全部モノクマに奪われてまちゅから……」

(……管理者権限?)

モノミ「でも、それでも! あちしの想いはミナサンと常に共にありまちゅ!」

摩美々「口だけなら何とでも言えるケドー、今のモノミの信用度って相当に低いよー?」

モノミ「分かってまちゅ……だから今回はミナサンのために、ちゃんとした成果をもってきまちた!」

美琴「……成果?」


モノミ「はいっ! ミナサンのために、モノケモノを一体倒して、第2の島への入口を解禁してきまちた!」


633: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:47:31.89 ID:Gmun8+E70


愛依「第2の……島?! ま、マジで?!」

果穂「たしか中央の島からわたれるゲートの前に、ずっとモノケモノがいたはずです……あれをモノミさんが、たおしたんですか?!」

モノミ「はい! マジカルステッキが無い分苦戦しまちたが、ステゴロでどうにか倒してきまちた!」

果穂「すごいですーーーーーーー!!」

冬優子「じゃあ……新しいところに行けるんですね?」

美琴「もしかしたら……この島では見つからなかった手がかりも、その新しい島なら見つかるかもしれない」

智代子「脱出の方法もあったりしないかな?!」

摩美々「まあ過度な期待はしないほうがいいかもだけどー、調査はしないとダメだねー」

(新しい島、か……)

夏葉「モノミ、まだあなたを完全に信用することはできない……」

夏葉「あなたに対する信頼は、今後じっくりと時間をかけて検討していくわ、ごめんなさいね」

モノミ「有栖川さん……いいんでちゅ。ミナサンに罪は無いんでちゅからね、あちしはあちしの働きで、いつかミナサンからの信頼を勝ち取ってみせまちゅ!」

結華「それじゃあ今日は朝食食べ終わったらすぐにそっちに移動かな?」

ルカ「まぁ、そうするしかねーな」

千雪「透ちゃんと雛菜ちゃんはどうしようか……」

モノミ「それならあちしにお任せくだちゃい! ミナサンと違って、あちしは元々信頼されてないでちゅから、拒絶もされにくいはずでちゅ!」

冬優子「それ、自分で言っちゃうんだね……」

結華「ここはモノミの言う通りにしようか! とにかくさっさと朝ごはん食べて、調査に出かけましょー!」


さっきまでのカタツムリみたいな速度が嘘のように、私たちは咀嚼もそこそこに食事をかっ込んだ。
脱出の方法があるかもしれない。そんな希望が薄いことは全員わかってはいた。ただこの不安に満ちた鬱屈した空気の中に投げ込まれた明確な行動理由、それに飛びつかないわけがなかった。

何かをして気を紛らわせたい、そういう後ろ向きかつ前向きな感情で私たちは島を渡った。


634: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:48:37.73 ID:Gmun8+E70

-------------------------------------------------
【第2の島】


「ここが第2の島……」


第1の島とは少し雰囲気が違う。
南国めいた陽気は少しばかり息を潜め、どこか原生風な空気感とも言うべきか。
とにかくやたらと目を引く大樹がこの島の一角を占めているらしい。


結華「さ、調査は分担して行おうか!」

(……まあ、そうなるか)


朝食会の流れのまま来てしまったために、283プロの連中と一緒だ。
こいつらとわざわざ一緒に捜査なんてしたくないし、手芸女との約束は朝食会の参加までだ。

……ここから先は自由にさせてもらう。


千雪「ルカちゃん、一緒に捜査しない?」

ルカ「……嫌だ」


635: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 21:50:32.06 ID:Gmun8+E70


千雪「もう……つれないなあ。私たち、一緒に朝ごはんを食べた仲じゃない?」

ルカ「それなら283プロの連中の方がよっぽどだろ、なんでわざわざ私なんだよ」

千雪「ルカちゃんと一緒にやりたいから、それが理由です」

ルカ「理由になってない……さっきもこんなやり取りしなかったか?」

千雪「ふふ……ホントね! でも、それならもう分かるんじゃない?」

千雪「こうなった時の私は、しぶといんだって」

(……チッ)

ルカ「わかったよ、好きにしろ」

千雪「はーい♪」

(283プロの連中ってのはどいつこいつもこうなのかよ……!)


さて、とりあえず電子生徒手帳でマップの確認をしておくか。

パッと目につく大樹の纏わりつくそれは【遺跡】と呼ばれるものらしい。
ジャバウォック諸島というのはそれなりに歴史のあるものだと風野灯織が言っていた。それにまつわるものなんだろう。

この島にも【ビーチ】があるようだけど、規模は第1の島より大きいな。
【シャワールーム】と【ダイナー】も併設されていて、海水浴場といった方が正確かもしれない。

【ドラッグストア】……スーパーマーケットにはなかった医薬品が手に入るのか?
確かにこの島で病気でも拗らせようもんならたまったもんじゃないな。

【図書館】……まあ、私は基本は用事はないだろうけど、一応見ておくだけは見ておこう。


千雪「ルカちゃん、どこから探索する?」

ルカ「……黙ってついてこい」


【探索開始】

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.遺跡
2.ビーチ
3.ドラッグストア
4.図書館

↓1


636: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/12(水) 22:09:44.61 ID:iGbaLVHo0

2


637: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:14:43.06 ID:Gmun8+E70

2 選択

【コンマ 61】

【モノクマメダル1枚を獲得しました!】

-------------------------------------------------
【ビーチ】

ビーチに行くにはこの駐車場付きの【ダイナー】を抜けていく必要があるらしい。
ダイナーなんて日本じゃそうそう見かけない、洋画なんかでは割とポピュラーなジャンクなレストランといったところだ。


千雪「……」

ルカ「……何ボーっとしてんだよ」

千雪「え? ううん、別に……なんでもないの」

(そんな物欲しそうな顔しておいて何でもないことはないだろ……)

ルカ「ついでだ、ちょっと腹ごなししてから行くぞ」

千雪「えっ、う、うん……! ありがとう……!」

ルカ「チッ……」


638: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:15:54.48 ID:Gmun8+E70

-------------------------------------------------
【ダイナー】


ボックス席とカウンター席がそれぞれいくつか設けられており、入店するとすぐにジャンキーな香りが鼻をくすぐる。
ジュークボックスに南国風な観葉植物があちらこちらに見受けられ、まるで異世界のような空気感だ。
大きな窓は開けた視界からの陽光を余すところなく店内に取り入れ、日中なら照明をともす必要もないだろう。


千雪「う~ん、いい香り! なんだかお腹が空いてきちゃうかも!」

ルカ「……おう、そうだな」

智代子「あっ! 千雪さん、ルカちゃん! せっかくだから一緒に食べない?」

果穂「ハンバーガー、すっごくジューシーでおいしいです! 二人もいっしょにどうですか!?」

千雪「せっかくだしいただいちゃおうか、ね?」

ルカ「……おう」

智代子「すぐそこのカウンターにハンバーガーのセットは揃ってるから温めたらすぐに食べられるよ!」

ルカ「このパティとか誰が用意してるんだよ」

千雪「わぁ、トッピングも自由にできるのね! せっかくだから色々詰め込んじゃおうかな?」

(……いつだったか、美琴とファストフードの店に行った時)

(あいつはハンバーガーなんか目もくれずにサラダを貪り食ってやがったな……)


639: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:17:09.84 ID:Gmun8+E70


智代子「はい、ボックス席だから四人掛けで座れるよ! ルカちゃん隣どうぞ!」

ルカ「……っす」

果穂「千雪さんはこっちにどうぞ!」

千雪「ふふっ、お邪魔します!」

智代子「せっかくだし食べながらでいいから、ここまでの調査の共有でもしませんか!」

果穂「はい! あたしたちは放クラのみんなと……【美琴さん】といっしょに調さをしてました!」

ルカ「……っ!? み、美琴と?!」

智代子「うん……前回はにちかちゃんと一緒に調べたみたいだけど、もういなくなっちゃったから。仲のいい夏葉ちゃんと一緒に行動することにしたみたい」

(……美琴)

ルカ「二人は今、どこにいるんだよ」

果穂「今はビーチのシャワールームのほうにいると思います……ルカさん?」

智代子「す、すごく鼻息荒いよ……?!」

ルカ「うっせえ……なんでもないっての」

(さっさとこれを食べ終えてシャワールームに行かねーと!)


バクバクバクバク


千雪「まぁ! ルカちゃん、よっぽどお腹が空いてたのね……それじゃあ私も」

ルカ「……さっさと食わねーと置いてくからな」

千雪「いただきまーす!」


ボトボトボトボト


ルカ「!?」

果穂「ち、千雪さん……! 中身がいっぱいおちちゃってます!」

智代子「あはは、ハンバーガーって食べるの難しいよねー!」

千雪「ごめんね……なかなか慣れてないから」

(こいつ……急がないといけないってのに……!)


640: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:20:03.82 ID:Gmun8+E70

-------------------------------------------------
【シャワールーム】

海水浴場の手前のそこそこの大きさの平屋。
扉はダイナー側と海水浴場側の二か所で、海水浴場側は砂浜と直結している。
内装はと言うとシャワールーム兼更衣スペースの他に倉庫とそこそこ大きな休憩スペース。
備え付きの冷蔵庫には飲料水をはじめとした飲み物が所狭しと並んでいる。


夏葉「水泳は全身を扱う運動として、トレーニングにはもってこいだわ。運動の後のエネルギーチャージにうってつけの飲料も揃っているし、ここはいい環境みたいね」

美琴「水泳か……ちょっと興味があるな。教えてもらってもいいかな」

夏葉「ええ、もちろんよ」

(……美琴)


美琴は小金持ちと一緒にトレーニングを話のタネに談笑していた。
もともとストイックなところがある者同士、意気投合するのは納得はいく。

だけど、緋田美琴という人間を知っている私からすれば、二人の交流の様子はどこか寂し気で、見ているだけで空虚なものがこみあげてくる印象だ。


641: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:22:22.45 ID:Gmun8+E70


ルカ「……美琴」


思わず言葉が口を継いで出た。


美琴「……何?」


美琴と最後にちゃんとした言葉を交わしたのはあの裁判きり。今朝の朝食会で隣に座ったものの、会話という会話はしていない。


ルカ「……」


私が美琴に言うべき言葉とは何なのだろうか。解散した時からずっとそれを悩んでいた。
美琴という存在が私のそばを離れてから、ずっと私の人生は無価値だった。
何をしたって、感じるものはない。誰に応援の言葉をかけられても胸に響かない。
名前が売れて、アイドルとして成功を重ねても達成感も何もない。

今の私は、がらんどうだ。
斑鳩ルカ、カミサマという器でしかなくて、その中には何も入っていない。
これを満たすことができるのは、美琴だけだ。


ルカ「……あ、あのさ」


だから、私が言うべき言葉は本当は、分かり切っている。
七草にちかが死の間際にぶちまけたように、惨めに、図々しく、泣き縋って、自分の存在を無理やりにでも美琴に刻み付けるべきなんだ。
言葉らしい言葉なんて本当は必要じゃない。


____七草にちかに、ならなきゃいけない。


642: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:24:09.56 ID:Gmun8+E70


美琴「……」

ルカ「……ッ」


わかっているのに、何も出てこなかった。
必死に水面にそれを持ち出そうとしても、上から強い力で押し込められる。
顔を出して呼吸することもできない息苦しさに悶えるだけ。
肩で呼吸をすることが抑えられない。

私はまだ、七草にちかにはなれない。


ルカ「……」

千雪「ルカちゃん……」

美琴「……ごめん、夏葉ちゃん。もう大丈夫、行こうか」

夏葉「美琴……あなたはそれでいいの?」

美琴「……今はまだ、私も前に進めそうにないから」

夏葉「……ええ」


砕けそうな膝を抑えながら、二人の背中を見送ることしかできなかった。


643: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 22:25:20.71 ID:Gmun8+E70


千雪「……一回、深呼吸しよっか」

ルカ「……あ? お、おう……」


手芸女が私の背中をさする。それに合わせてゆっくりと息を吸い込み、吐いた。


千雪「……ルカちゃん、ゆっくりでいいの。私たちはまだそれだけの時間がある」

千雪「……そばにいるからね」


うざったい。鬱陶しい。
そういう言葉が沸き上がってきたけど、それは口には出さなかった。

ただ黙って立ち上がって、シャワールームを出た。
手芸女もまた、それに黙ってついてきた。


____本当に283プロの連中ってのはおせっかいなもんだ。


-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.遺跡
2.ドラッグストア
3.図書館

↓1


644: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/12(水) 22:57:14.31 ID:UB6NHFZE0

1


645: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 23:14:25.50 ID:Gmun8+E70

1 選択

【コンマ31】

【モノクマメダル 1枚を手に入れました!】

-------------------------------------------------
【遺跡】


島に入った時から嫌でも目に付くのがこれだ。数千年という時が流れでもしない限り、こんな風に木の根っこが建造物に絡みついたりはしないだろう。
天高く聳え立つそれは麓からでは全貌が見えない。


ルカ「とりあえず近づいてみるぞ」

千雪「あっ……待って!」


近づいてみたが、あるのは私の身長を優に超す大きさの扉。
しかもドアノブがあってそれをひねって開けるような単純な扉ではなく、もっと電子的で近未来的な……全く見なれない扉だ。


ルカ「……これ、なんなんだ?」


しかもその扉の表面にはデカデカと『未来』の二文字。
私たちの良く知る漢字で掘られている……ということは、この遺跡は私たちと同じ文化圏のものだということになる。それもまた妙な話だ。


千雪「扉を開けるには、そっちのパネルでパスワードを入力するみたいね」

ルカ「……なるほど、なんか適当に入力してみるか?」

千雪「ま、待って! それはやめた方がいいと思う……ほら」


手芸女が指さした先、そこには洋画に出てくる武装組織が振り回しているようなマシンガン銃、その銃口が私へと向けられていた。


ルカ「おいおい……マジかよ」

千雪「下手に失敗しちゃうと、その後がわからないから……皆にも近づかないように言った方がいいかなぁ……」

ルカ「遺跡だっつーのに電子盤だのマシンガン銃だの近未来なのか古代なのかどっちなんだよ……」


少なくともこの扉は今は開けられそうにない、立ち去るほかないか……。
そう思って振り返った直後。


646: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 23:15:24.43 ID:Gmun8+E70


透「えっ」

ルカ「……て、てめェ……!」


浅倉透とそのお仲間の登場だ。
ここにまさかいるとは思っていなかったのか、虚を突かれた様子で間抜けに口をポカンと開けている。
掴みかかって詰問の一つや二つやってやろうかと思ったが、反応が早かったのは向こう側。
能天気女が浅倉透の服の裾を強引につかみ、そのまま引っ張り去ろうとした。


雛菜「透先輩、別のところ行こ~?」

千雪「ま、待って……! 二人とも!」

雛菜「え~、雛菜たちは何の用もないし、話したくもないんですけど~」

ルカ「待てよ、何もこっちだってただ疑おうってんじゃねー。話せる範囲でいいからそいつから話を聞きたいだけなんだっての」

透「……」

雛菜「何も透先輩から話すことなんてありませ~ん!」

千雪「雛菜ちゃん……」

雛菜「別に雛菜たちも他の人の邪魔するつもりはないから、もう放っておいてください」

雛菜「雛菜たちは雛菜たちで何か別の道を探しますから~」


647: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 23:16:14.26 ID:Gmun8+E70







雛菜「もし邪魔してきたら、こっちだって手段は考えますけど」






648: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 23:17:44.93 ID:Gmun8+E70


ルカ「……ッ!」

(こ、こいつ……今何考えてやがった……!?)


能天気女のこちらに向けた視線は、この島に来てから何度か私たちの間に存在したそれだ。
かつて私が七草にちかに向けたもの、そして死の間際七草にちかが浅倉透に向けたもの。
研ぎ澄まされた、冷たくて鋭利で、淡々としたもの。


____【殺意】だ。


雛菜「じゃ、雛菜たちはまだ調査の途中なので~」

千雪「行っちゃった……」

ルカ「……チッ」


私からすれば傍目に見る仲たがいというだけで、この状況には少しばかりの居心地の悪さで済む話だが、283プロの連中は違う。
仲良しごっこが生き甲斐みたいな連中の間で起きた裏切り行為について、こいつらの受けている衝撃は私が思うよりも大きいみたいだ。
手芸女は何か大切なものを失ってしまったといった表情で、俯いて言葉を発さない。


649: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 23:18:23.11 ID:Gmun8+E70


ルカ「……」

かといって私も励ましの言葉なんてかけたりはしない。
別にこっちからすれば本当にどうでもいい話だ。
ただ重要なのは浅倉透という人間が敵なのか味方なのかがわからないという一点のみ。
私はこの島で生き残ると決めた、その障害となるかどうかだけは見定める必要がある。


……それにはこいつらの力が必要だというのも確かだろう。


ルカ「……行くぞ」

千雪「え、う、うん……」

ルカ「……止まっててもしょうがない、違うか?」

千雪「……ふふ、ありがとう。ルカちゃん」

ルカ「……チッ」


しかし課題は山積だ。浅倉透に話を聞こうにも、あの能天気女が遮ってくるんじゃどうしようもない。
梃子でも動きそうにないあいつをどうにかする必要があるな……


650: ◆zbOQ645F4s 2022/01/12(水) 23:20:00.96 ID:Gmun8+E70


申し訳ない、今日の所はこれでいったん終了です。
また明日、探索パートの途中から再開します。
安価だけ出しておくので、どなたか書き込んでくださると幸いです。
それではお疲れさまでした。

-------------------------------------------------
【行動指定レスのコンマ末尾と同じ枚数だけモノクマメダルが獲得できます】

1.ドラッグストア
2.図書館

↓1


651: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 00:27:05.19 ID:WuUBTWhl0

1


652: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:07:14.16 ID:IfDtM3Tz0

1 選択

【コンマ判定19】

【モノクマメダル9枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…81枚】

-------------------------------------------------
【ドラッグストア】

ドラッグストアなんて最近だといろんな物を取り扱っているイメージだが、ここは文字通り【ドラッグ】の【ストア】らしい。
目に入るのは薬品類のみ。鼻を突くのはツンとした化学系の香り。思っていたよりディープな意味でのドラッグストアのようだ。


ルカ「……おい、これって毒薬じゃねーのか?」

千雪「う、嘘……毒薬……?」

ルカ「コトキレルX……これなんかモロだな。飲んだら遅効性の毒で呼吸困難だってよ」

千雪「そ、そんな……本当に?」

ルカ「本当も何も、今の私たちの状況はそういうもんだろうがよ」

千雪「……」

(……警戒はしておいた方がいいだろうな)

摩美々「霧子がいれば、色々聞けたかもねー。正直こんな薬だけ見せられても何が何だかサッパリじゃない―?」

結華「あはは、確かに……風邪薬とかの見慣れたやつ以外は何が何だか……」

恋鐘「なんね、このラムネみたいな薬……?」

摩美々「えっ、ちょっ……それって……法的にまずいやつじゃないのー……?」

恋鐘「ふぇ、ふぇ~~~~~~?! こ、これってそげんまずかもん~~~~~?!」

ルカ「学校で習うだろ……間違っても服用なんかすんじゃねーぞ」

(……まあ、この島で司法なんか機能していないような気もするけど)

(ていうか、そもそもどこの国なんだ? ここ……)

-------------------------------------------------
【残り選択肢が一つになったので自動で進行します】

【コンマ判定によりモノクマメダルの獲得枚数を決定します】

↓1


653: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 21:21:14.43 ID:ZoTUtcTX0

ほわっ……


654: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:25:59.85 ID:IfDtM3Tz0


【コンマ判定 43】

【モノクマメダル3枚を獲得しました!】

【現在のモノクマメダル枚数…84枚】

-------------------------------------------------
【図書館】

これまたとんでもない図書館があったもんだ。
四方八方を本棚という本棚が埋め尽くし、空間には本特有のどこかかびたような匂いが立ち込めている。
その脇には悪趣味なモノクマの銅像も添えて。
まあ……私がここに世話になることはそうそうないだろう。


あさひ「すごいっす! 見たことない国の言葉の本もあるっす!」

愛依「あさひちゃん、それ読めるの?」

あさひ「読めない!」

愛依「アハハ、それでも楽しめちゃうんだからやっぱあさひちゃんすごいわ~!」

ルカ「……図書館にはおおよそ似つかわしくないやかましい連中だな」

千雪「そうかなぁ? あさひちゃんにはこの図書館はうってつけだと思うけど」

あさひ「わっ! 世界殺人鬼名鑑!? 変わった本がいっぱいっす!」

冬優子「あさひちゃん、本を持ち出すときにはこのカウンターに書いておかないとダメみたいだよー?」

あさひ「了解っす! ……ありゃ、本によっては持ち出せない本とかもあるっすね」

愛依「キンオビ……デ?」

千雪「禁帯出じゃないかな、持ち出しちゃいけない本にはこのマークがついているみたいよ」

冬優子「あさひちゃん、本を借りるときは注意してみるようにしようね」

あさひ「……」

(……おいおい、あいつの集中力どうなってんだ……? さっきの今でまるで聞いてないぞ……?)


まあここに来ることはそうそうないだろうけど、本の貸し借りにはカウンターを経由する必要があること、
なかには禁帯出の本もあるってことぐらいは覚えておいた方がいいだろうな。


655: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:26:53.90 ID:IfDtM3Tz0

◇◆◇◆◇◆

ルカ「大体調査はこんなところか……」

千雪「脱出の方法は見つからなかったね……」

ルカ「そんなもん期待するだけ無駄だってことだよ。わかり切ってたことだろ」

千雪「うん……」

ルカ「……」

ルカ「じゃあな、お疲れさん」

千雪「えっ、ル、ルカちゃん?! どこ行くの?」

ルカ「あ? 調査は終わっただろ、帰るんだよ。自分の部屋に」

千雪「ダメよ、この後はみんなでまた調査結果の報告をしなくちゃ」

ルカ「おいおい……まさかそれにまで付き合えって言うんじゃねーだろうな」

千雪「人と一度交わした約束を破っちゃダメなんだぞー」

ルカ「そんな約束なんかした覚えもないんだけど……」

千雪「……」

(……すごい圧を感じる)

ルカ「はぁ……わかった、わかったよ。いけばいいんだろ」

千雪「やったぁ!」

(……やれやれ)


656: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:28:44.69 ID:IfDtM3Tz0

------------------------------------------------
【第1の島:ホテル レストラン】


夏葉「皆、とりあえず調査お疲れさま。さっそく情報の共有と行きましょう!」

結華「う、うん……そうしよっか」

(……ほかの連中の反応も芳しくはない、どこも同じようなもんか)

あさひ「図書館にはすごいたくさんの本があったっす! 気になったんで、ちょっと持ってきてみたっす!」

冬優子「本を持ち出すときには、ちゃんとカウンターで手続きをしなくちゃいけないみたいで……一部本は持ち出し出来ないものもあるみたいです」

果穂「あさひさん! どんな本を借りたんですか!?」

あさひ「これ! 世界殺人鬼名鑑!」

智代子「えっ、ええっ!? あ、あさひちゃん!?」

(……おいおい、この状況じゃ洒落になんねーぞ)

あさひ「世界のいろんな殺人事件について書いてあるんだけど……これとか面白いよ! ライスボール・ダイナソー!」

愛依「ら、ライスボール……? ダイナソー……?」

摩美々「直訳すればおむすび……恐竜……?」

千雪「え……?」

あさひ「なんか殺した相手の口におにぎりを詰め込んだことからついた名前らしいっす、事件自体は未解決みたいっすね」

果穂「そんな……ゆるせません! そんな悪がのさばってるなんて、ゆるせません!」

夏葉「あさひ……その本が興味深いのは理解したわ、ただ今この場で共有するコトは控えてちょうだい。私たちは人の生き死にの少し敏感になっているの、人によっては刺激に感じてしまうわ」

あさひ「え……ごめんなさいっす」

愛依「あさひちゃん、今じゃなくて後でうちと一緒に読も~!」


657: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:30:14.36 ID:IfDtM3Tz0


◆◇◆◇◆◇◆◇

摩美々「第2の島ではドラッグストアもあったケド、どっちかと言えば薬品保管庫っていう方が正しいかもー」

恋鐘「薬の中には人の体によくない毒もあったばい……持ち出されないように警戒したほうがよか!」

結華「うん……図書館と違ってこっちには持ち出しに制限とかもなさそうだから、目を光らせておいた方がいいかもね」

美琴「ただちゃんと有用な薬も入ってはいたよね」

摩美々「それはそうー、ちゃんと風邪薬とか解熱剤はあったからぁ、病気しても大丈夫にはなったねー」

冬優子「いくらか使えそうなものはまとめてこの救急箱に入れておいたので……千雪さん、預かってもらっていてもいいですか?」

千雪「まぁ、ありがとう。うん、責任をもって預かっておこうかな」

果穂「千雪さんなら安心です!」

(……まあ、おせっかいなこいつが持っているのが一番だろうな)

◆◇◆◇◆◇◆◇

果穂「第1の島より大きな海水浴場がありました!」

夏葉「ダイナーとシャワールームが備え付けられていた、本格的なレジャー施設といった様相だったわ」

美琴「倉庫にはウエットスーツやカヤックも入っていたから、興味があれば覗いてみるといいと思う」

智代子「なんだか色々できそうだよね! せっかくだし何かイベントでもやってみるといいかなー!」

愛依「ダイナーもだし、このレストランも出し、食材はマジでどっから補充されてんだろうね?」

あさひ「モノミが補充してるって最初は言ってたっすけど、やっぱり魔法なんっすかね?」

(得体も知れねー方法だけど、とりあえずはそれに肖るしかねーんだよな……)


658: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:31:42.74 ID:IfDtM3Tz0


◆◇◆◇◆◇◆◇

ルカ「……島の一角にあった遺跡は見たか? あの建物自体は謎だが……立ち寄らないほうがよさそうだ」

千雪「扉にはパスワード式の認証モニターがついていたけど、その脇にマシンガンがついていたから……下手に刺激してほしくはないかな」

智代子「ま、マシンガン?!」

夏葉「ブローニングM2式機関銃……今もアメリカをはじめとした世界中で量産されていているごく一般的なマシンガンだったわ」

(マシンガンにごく一般的も何もないだろ……)

あさひ「やっぱりパスワードを間違えて入力したらそれで撃たれちゃうんすかね?」

果穂「そ、そんな……マシンガンでうたれちゃったら、しんじゃいます!」

摩美々「基本的には無視するしかなさそーだねー……」

結華「パスワードがこれだ!って分かるものとかあれば使えるけど……流石に確証もない状態で使う訳にはいかないなぁ……」


659: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:33:09.75 ID:IfDtM3Tz0


全員が全員同じような報告をし終えて、進展は当然何もなし。
こうなると改めて八方ふさがりだという現実に直面せざるを得ない。
息の詰まるような閉塞感がまたやってきた。


結華「……とりあえずは、それぞれ警戒しながらまたここで過ごすしかないってこと……なんだよね」

摩美々「来るかもわからない助けを待って、ね……」

冬優子「大丈夫です、きっと誰かが来てくれますよ……ふゆたちのことを心配して皆動いてくれているはずです!」

智代子「そう思うしかない……いや、そう信じるしかないもんね……!」

(……どこまで行っても空元気、か)


椅子を引いて立ち上がった。
報告会も終わり、これで手芸女からの要求もすべて満たしてやった。
ここまでするつもりもはじめはなかったのに、我ながら人が良いことで。


660: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:34:31.73 ID:IfDtM3Tz0


ルカ「……じゃ、とりあえず私は行くぞ。もう今日は何もないだろ?」

結華「あっ……え、うん! ルカルカ……今日はありがとう!」

冬優子「うん! ルカちゃんと一緒に行動できて、今日はすごくうれしかったな!」

ルカ「……チッ」

果穂「ルカさん! またいっしょに調べましょう!」

あさひ「ルカさん、明日の朝ごはんも待ってるっすよ!」


ただ退出する、それだけのことなのに283プロの連中はいつまでも声を張って私の背中に呼びかけ続けていた。
言葉を返しもしない、振り返りもしない、悪態をつくだけの存在に、だ。

本当に、理解しがたい。
でも、その理解できなさは不思議と不快じゃなかった。



……いや、こういうと情にほだされたみたいで気持ちが悪いな。

訂正する。正確には、『もっと気になるものがあって283プロの連中どころではなかった』、だ。


661: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:35:21.11 ID:IfDtM3Tz0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


一日ぶりに自分の部屋に戻った私はすぐにシャワーを浴びて、楽な格好でベッドに横になった。
酒に呑まれるままの睡眠では精神の疲弊を解消しても、体の疲れはとれちゃいない。
やっと得られた休息に歓喜するように足はすぐにどろっと蕩けていき、マットレスから離れられなくなってしまった。
手足をそこに投げ出して、頭だけを働かせる。

今日は手芸女のせいで散々な目にあった。
出たくもない朝食会に顔を出して、したくもない共同調査をして、最終的には報告会までも参加してしまった。
……この島に来てから久しぶりの交流、完全に嫌だったとは言わない。
言わない……が、ずっと脳裏にあるもののせいで満足に楽しめない節はあった。


662: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:37:36.32 ID:IfDtM3Tz0


浅倉透の存在、それが気がかりなのは間違いないが、あいつよりもよっぽどの危険分子が私たちの中には存在している。
七草にちかと風野灯織の事件、その裏で動いていた何者かの存在。
平気な顔して私たちの中に潜んで仲間面して、二人の死に涙を流して見せた【狸】。


≪「私たちの中に潜む【狸】は何を考えてやがる……?」

「あはは、やっぱり気づいてたんっすね」

思わず振り返った。
今のは、幻聴じゃない。
確実に私の後ろにいた、【何者か】の声だ。≫


……あの時私が聞いた声は、確かに【超中学生級の総合の時間 芹沢あさひ】だった。
あいつが、本当に【狸】なのか……?
だとすれば、あいつと一緒に行動しているストレイライトの連中は……?


食事会では口にしなかったが、このまま私たちが何かの進展を見いだせない限りは【狸】は必ず仕掛けてくる。
コロシアイの連鎖を絶やさないために、事件を起こしに来るはずだ。
【狸】自身が手を汚すにしろ、汚さないにしろ。


663: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:38:59.98 ID:IfDtM3Tz0


私は、あいつらが仲間割れをする分には別に問題ない。
むしろ今の仲良しムードには反吐が出るくらいだ。
ただ、その仲間割れの結果私の命まで脅かされるというのなら、それは阻止しなくちゃいけない。


「……チッ」


【狸】を見極めるために、やらなくちゃなんねーか……


【斑鳩ルカの自由行動において交流が解禁されました!】


□■□■□■□■□■□■□■□■
☆斑鳩ルカの交流について

新主人公におきましても自由行動で他のアイドルの皆さんと交流をすることができます。
前章で惨たらしい死を遂げた前主人公から受け継ぐものは、アイテムと希望のカケラ、そしてモノクマメダルの三つになります。
わずかばかりに上がっていた親愛度は引き継がれてはおりませんが、ご了承くださいませ。

なお、現在のシナリオの状況として【浅倉透】【市川雛菜】【緋田美琴】の三人とは親愛度を上げる交流ができないことをあらかじめご了承ください。
シナリオの進展によって彼女たちとの交流が解禁されるかも、一生そのまま解禁されないかも……?
□■□■□■□■□■□■□■□■


664: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:40:37.70 ID:IfDtM3Tz0

____
______
________

=========
≪island life:day 7≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


耳障りなアナウンスとともに目を覚ます。今日は、傍らに手芸女の姿はない。一晩ぶりの穏やかな夜に、疲れは十分とれたみたいだ。
ただ、気分は晴れない。ずっと【狸】の影が頭をチラついて、吐く息はどっしりと重たい。

今日から私がするべきなのは、この【狸】の動きを封じるための監視。
万が一にも私が巻き込まれて死なないように、学級裁判なんて博打に挑まされないように、そのための安全確保。


「……気は進まないな」


手っ取り早いのは毎朝の朝食会への参加。そこに顔を出せば嫌でも他の連中と顔を突き合わせる。
……行くしかないだろうな。


そう思って扉を開けた途端。


千雪「おはよう、ルカちゃん」

ルカ「……うわ」


……手芸女が満面の笑みで待ち受けていた。


665: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:41:25.53 ID:IfDtM3Tz0


千雪「ルカちゃん、生活習慣はしっかりしているのね。えらいえらい」

ルカ「……っせえ」

千雪「ルカちゃん、これからどうするの?」

ルカ「どうするこうするも……朝食会だろ、わざわざ迎えに来なくても行くから」

千雪「えっ!?」


よほど私の口から参加の意志が出たことが意外だったらしい。
わざとらしいほどに口を開けて、それを手のひらで覆い隠す。


ルカ「……5分だ。5分経ってからレストランに来い。私と同じタイミングで来たら殺す」

千雪「もう、冗談でもそんな言葉使っちゃダメよ」

ルカ「……じゃあ、殴る」

千雪「及第点かな」

ルカ「……ハッ!」

(……あ?)

(……私、何笑ってんだ? いや、嘘だろ……気持ち悪い)


私は自分の気色の悪い笑い声に戸惑いながら、足早にレストランへと向かった。


666: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:43:04.00 ID:IfDtM3Tz0

-------------------------------------------------
【レストラン】

ルカ「……」

結華「る、ルカルカ……おはよう! 今日も来てくれたんだ!」


流石にまだ私の存在には全員慣れていないらしく、入室と同時にどよめきが起きる。
そんなこと気にしていても仕方ないので、目も向けず、耳もくれずに美琴の隣に腰かける。


美琴「……」

ルカ「……」


……相変わらず、私たちは無言だ。


667: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:44:22.42 ID:IfDtM3Tz0


結華「今日でこの島に来て一週間かぁ……」

恋鐘「もうそがん経つと? ……はぁ、助けも全く来んねぇ……」

夏葉「ダメよ、気を落としては。ここはジャバウォック島……日本から遠く離れた異国の地。助けが来るまでにはそう……時間がかかるのよ」

あさひ「そういえばジャバウォック島ってどこにあるっすか? これだけ温かいし、南半球っすか?」

夏葉「ええ……確かそうだったような……」

夏葉「……あれ、おかしいわね。正確な情報が思い出せないわ……」

あさひ「……?」

ルカ「……ったく」


毎日毎日同じような会話をして気を紛らわして、生産性なんかなにも無い。
得るものも何もないし、監視という役目がない限りは御免こうむりたい空気感だ。
私は誰とも会話をすることなく、淡々と食事を口に運びながら他の連中の様子を伺っていた。


___そんな中、突然。


果穂「ルカさん、ルカさん! お話、きいてみてもいいですか?!」

ルカ「……あ?」

果穂「この島に来てから、ルカさんとお話したことまだあんまりなくて……ルカさんのこと、もっと知りたいと思ったんです!」


私の返答も確かめぬまま、小学生は近くの椅子を引いてきたかと思うとそこにチョコンと腰かけた。
背丈こそ成人女性並みのこいつだが、その表情と素振りと内面は幼いらしい。
私の苛立ちには鈍感な様子で、首を傾げて返答を待つ。
一言激烈なものをぶつけて退けようとも思ったが、ここは283プロの連中の目がある。
下手なことはできやしない、観念して小学生と会話してやることにした。


千雪「……ふふっ」


……遠くに手芸女の影が見えたのが、ひどく目ざわりだった。


668: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 21:46:56.39 ID:IfDtM3Tz0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

ひどいパッションのごり押しを受けた。
質問にどれだけ適当に返してもやたら食いついてきやがって、無理やりに話を引き延ばされた。
逃げよう逃げようとしても食いつかれて、いい迷惑だ。
あの小学生がテンションを上げれば、周りの連中もそれに呼応して盛り上がって、いつの間にか私もその輪の中に入れこまれたかたち。
手芸女はそこまで見越して、あのガキを差し向けてきやがったんだろう。

本当におせっかいで鬱陶しい女だ、次あったら文句の一つや二つ言ってやらねえと気が済まない。
それで……また迷惑料を取り立ててやるのも悪くないかもしれない。


「……は?」


前言撤回、流石に今のはない。
違う、違うんだって。


【自由行動開始】


気を取り直して、監視の再開だ。
怪しい行動をしている人間、変な腹積もりを抱えた人間がいないかどうかのチェックの時間だ。

……気は進まないけど、やるしかない。


1.交流する【人物指定安価】
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


669: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 21:54:06.68 ID:WuUBTWhl0

1 果穂


670: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 22:03:59.71 ID:IfDtM3Tz0

1 果穂選択

【第2の島 図書館】


最初の監視の対象には、小学生を選んだ。
さっきの今で話をしたばかりだし、こいつなら他の連中のように色眼鏡をかけてくることもない。
取っ掛かりとしては一番気楽だ。
……まあただ、こいつと絡んでいるのを他の連中に見られるのはどことなく気恥ずかしい。


ルカ「……こんなとこで何してんだ」

果穂「あっ、ルカさん!」

果穂「……あ、大きな声出しちゃいました……えっと……ジャスティスファイブの本をさがしてるんですけど……」

ルカ「ジャス……なんだ?」

果穂「ジャスティスファイブ、すっごくかっこよくてつよい、正義のヒーローです!」

ルカ「……はぁ」


正義だのなんだの、やっぱり中身はただのガキだな。
でも、この年頃の女って、もっと普通……ヒロイン物とかを見るんじゃねえのか……?

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


671: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 22:14:06.93 ID:Yd+mBBEn0

2


672: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 22:16:29.90 ID:IfDtM3Tz0

2 選択

【プレゼントを渡しませんでした】

-------------------------------------------------

……しかし、全く持って謎だ。
私は芸能界に飛び込んでから、組んだのは美琴ぐらいのもので解散して以来はずっと孤独の身。
ただ一人での立ち回りばかりだった私からすれば、この小学生の活動は完全に理解の外だ。
5人もの大人数のユニットで、更には年齢もバラバラ。
そしてそれを率いているのがこの最年少の小学生だという。


果穂「……ルカさん? あたしの顔に、なにかついてますか?」

ルカ「いや、別に……よくわかんねーと思ってよ」

果穂「え?」

ルカ「いや、お前は確か……ユニットのセンターなんだろ? あんな年上ばっかりのユニットで、やりづらかったりしねーのか?」

果穂「しません!」

ルカ「即答だな……」

果穂「夏葉さんも樹里ちゃんも凛世さんもちょこ先輩も、みんなみんなすっごくすっごくたよりになるんです! あたしがちょっとこまることがあったら、すぐに気付いて声をかけてくれますし……」

果穂「何かできてないことがあったら、ちゃんと教えてくれて、あたしも勉強になります!」

(……こいつはよく懐いてるみたいだが、まあそんなものか)

(ユニットのセンターなんて所詮はお飾り、別にだれがなろうと変わんねえんだろ)

果穂「それに、そんなみなさんが、あたしにセンターをまかせてくれているから……あたしも、みなさんに恥じないような最高のリーダーになろうってがんばってます!」

ルカ「あ……?」

果穂「放クラのみなさんが、センターは小宮果穂ってどうどうと言えるように、夏葉さんみたいにかっこよくて、凛世さんみたいにやまとなでしこで、樹里ちゃんみたいにやさしくて、ちょこ先輩みたいに明るいセンターになるのをめざしてるんです!」

(……ハッ、殊勝なこった)

(まだ、こいつは芸能界って言うのがどんな世界か知らねえ。この世界が救いもない非情な世界だってことを知らねーから、目を輝かせていられる)

(……こんなやつも、いつかはこの世界の澱みと汚れを知る時も来るんだ)


1.……まあ、せいぜい頑張りな
2.あんまり夢見んじゃねーぞ
3.自由安価

↓1


673: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 22:25:35.63 ID:WuUBTWhl0

1


674: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 22:37:53.75 ID:IfDtM3Tz0

1 選択

283の連中はいけ好かねえが、わざわざ小学生を泣かすような真似はすることもない。
この場は適当に流しておくとするか。


ルカ「……まあ、せいぜい頑張りな。お前の周りにいる年上連中も、それなりに期待してるからこそ託してるんだろうしな」

(ユニットの中がどうあれ、結果を決めるのはその外側の人間社会だ)

(……じきに思い知るだろ、そう甘い世界じゃないってのは)

果穂「はい、ありがとうございます!」

果穂「放課後クライマックスガールズが最強最上、銀河一のアイドルになる日までがんばります!」

(……ここまで来たらもういっそお笑いだな)

果穂「ルカさんにも負けない、かっこいいセンターになって見せます!」

ルカ「……私? かっこいいって、そんな風に見えてんのか」

果穂「……? ルカさんって、カミサマって言われててすごくたくさんの人に応えんされてますよね?」

果穂「それって、ルカさんがすごくかっこいいからですよね……?」

ルカ「……お前は銀河一になるんだろ、私なんかに目くれてる暇があったら、もっと別のやつをライバル視しとけ」

果穂「どういう意味ですか……?」

ルカ「……悪い、邪魔したな。私はもう行く」

果穂「あ、ルカさん……!」


私があいつらに応援されてる……?
流石は小学生、なんにもわかってねーんだな。
あいつらはただ無責任に、思考停止に、私に自己を投影して悦に浸ってるだけの存在でしかない。


……【応援】なんて、今までもらったこともねーのに。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【小宮果穂の親愛度レベル…1.0】


675: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 22:43:38.07 ID:IfDtM3Tz0

【ルカのコテージ】

なんというか、事務所の気風を体現しているような奴だったな。
自分たちの未来が明るいものだと信じて、仲間とともに突き進む。

今の私からしてみれば対極ともいえるような存在だ。

……私にもかつて、あんな時があったのだろうか。

自分の幼少期の思い出を掘り起こそうとしたが、やっぱりやめた。
記憶の奥底に潜ろうとしても、その手前で躓いてしまうのだ。

きっと、私がそうだったであろう……あいつと組んだ当初の記憶を見るのが怖くなる。

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…18個】

1.交流する【人物指定安価】※美琴、透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


676: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 22:44:42.17 ID:ZoTUtcTX0

1 千雪さん


677: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 22:51:44.53 ID:IfDtM3Tz0

1 千雪選択

【第1の島 牧場】


(……うわ)

千雪「あら、ルカちゃん……お散歩?」

ルカ「お前と一緒にすんな、これは……その、偵察だ」


誰でもいいから適当に監視しようと思ったら蛇が出た。
よりにもよっての相手は、私と出会えたことがよっぽど嬉しいらしく、今朝も見たあの胸やけがしそうな程の笑顔を浮かべている。


千雪「今朝は果穂ちゃんとお話してたみたいだけど、どう?」

ルカ「どう……って言われてもな」

千雪「……」ニコニコ

ルカ「……ンだよ」

千雪「……」ニコニコ

ルカ「そ、それやめろ……マジで!」

千雪「はーい、ごめんなさーい」

(こいつ……ホントに年上かよ……)

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【家庭用ゲーム機】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


678: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 23:05:49.45 ID:ZoTUtcTX0

連投ですが
1 家庭用ゲーム機


679: 人も多くないですし連投大丈夫です ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:13:56.78 ID:IfDtM3Tz0


【家庭用ゲーム機を渡した……】

ルカ「これ、使わねーから貰っとけ」

千雪「あら、プレゼント……?」

ルカ「廃品回収だ。……なんか、てめェはガキ連中の面倒を見る機会も多いみたいだからな、それでも使えば時間つぶしにはなるんじゃねーのか」

千雪「あら、ゲーム? ……ふふ、こうみえて、私甜花ちゃんに鍛えられてるから結構強いんだぁ」

ルカ「あっそ」

千雪「ルカちゃんも今度やってみましょう! 負けないんだから!」

ルカ「……やらねーよ」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより親愛度が多めに上昇します】

-------------------------------------------------

千雪「ルカちゃんが朝食会に出席してくれるようになって、私すごく嬉しいなあ」

ルカ「お前が無理やりに出席させてんだろうが……」

千雪「一人で食べるご飯より、みんなで食べるご飯の方がちょっとだけ美味しかったりしない?」

ルカ「別に、味は何も変わんねーよ」

千雪「……でも、食べるものの栄養価もずっと良くなってるのよ?」

ルカ「……は?」

千雪「ずっと、レトルトしか食べてなかったでしょ。ダメなんだぞー、若いうちからそんな食事してちゃ」


手芸女はむすっと頬膨らませて私の食生活を非難した。
実際、手芸女の言うとおりだ。283プロの連中を避ける目的から、食事はもっぱらスーパーのレトルト食品。
でも、別に我慢してまでやっていたわけではなく、この島にくる以前から私の食事はそういう傾向にあったのだ。
ライブパフォーマンスをすればするほどすり減る精神とともに食欲も減るようで、旨いまずいも気にしなくなっていた。
時間のかからない食事を、適当に済ませれられればそれでいいと思っていた。


千雪「ちゃんとお野菜を取らないと、美容にも悪いわ。せっかくのすべすべのお肌も荒れちゃったら勿体ないでしょう?」

ルカ「私はそういうのは別にどうでもいいんだよ」

千雪「どうでもよくない、お姉さんが許しません」

ルカ「お前一体いつから私の姉貴になったんだよ……」


別に私は一人でいいってのに、こいつは何かにつけて付きまとおうとしてくる。
そこまでして283プロの気色の悪い仲良しの輪に取り込みたいのか。

……ここで一発、ガツンと言ってやるか。
私は馴れ合いはしねえ。ただ自分が生き残ることしか頭にないってことを分からせてやる。


1.うるせえ、ほっとけよ
2.そういうの迷惑なんだよ
3.自由安価

↓1


680: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/13(木) 23:31:43.41 ID:Yd+mBBEn0

1


682: 今日は7日目までにしておきますね ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:40:26.23 ID:IfDtM3Tz0

1 選択

ルカ「うるせえ、ほっとけよ……てめェは善意でやってるのかもしれねーが、それが相手にとって迷惑になるとか考えたことはないのかっての」

千雪「えっ……」

かましてやった。
実際これは自分の本意。
裁判の後、確かに一時の疲労から心を許してしまった瞬間こそあったが、別に私はこいつに信頼も何も抱いているわけじゃない。
むしろそれで調子づいて面倒役を買って出ているこの状況は鬱陶しくて仕方がない。

それに、私と一緒に行動すればこいつが283プロの連中と過ごす時間も減る。
それは私以外の連中からしても望ましいことじゃないだろう。

残念なことだが、水と油という言葉は覆せないのだ。
私と連中とでは、どうやっても入り混じることなどできやしない。

私の強い拒絶を前に、流石に手芸女も口をポカンと開けてショックに打ちひしがれていた。
あんな生ぬるい環境にいれば、衝突らしい衝突も今までまともになかったんだろう。
だが、そんなことは私の知るところではない。


ルカ「じゃあな、二度と顔見せんなよ」


これで終わり、そう思った。


千雪「確かにあなたからすれば迷惑かもしれない……けどね、だとしても引いちゃいけない局面があるって思うの」

ルカ「はぁ?! お、お前……」

千雪「ルカちゃん、あなたをこのまま一人にして……後悔だけはしたくないの」


手芸女はなおのこと食い下がる。
そして、それは……無性に私の癇に障った。


ルカ「……ざけんな」


一気に手芸女に詰め寄って、どすの利いた声を放つ。
これ以上寄り付くな、そういうメッセージを込めて、睨みつけた。



……それでも。


千雪「私は真剣です」


手芸女は私の目を見て、少しも億す様子すら見せなかった。


ルカ「……チッ」


気が付けば私は背を向けて走り出していた。
手芸女の据わった肝を前にして、敗北を認めたのか、こちらが恐怖したのか。
その答えは知らない、知りたくもない。
ただ、私は『二度と顔を見せるな』という言葉の効力を失う形でその場を離れてしまったことだけは事実だった。


千雪「……私、あきらめは悪い方なんだから」

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…2.0】

【絆のカケラを手に入れました!】

【現在の絆のカケラの数…19個】


683: 今日は7日目までにしておきますね ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:41:48.60 ID:IfDtM3Tz0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


当然と言えば当然だが、目立って怪しい人間はいなかった。
まあここでボロを出すようじゃこっちも苦労していない。
前回の事件では私たちも気づかぬうちに工作をし終えていて、その暗躍に気づいている人間すら、そう多くはない。
私の関知しないところで、【狸】の化かしは既に始まっているのかもしれない。

……ダメだ、手掛かりも確証も何もない。


「……チッ」


そう思うとなんだか気が立って、眠る気にはならなかった。



684: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:42:54.41 ID:IfDtM3Tz0

-------------------------------------------------
【第1の島:ビーチ】


眠れないままに身を任せて、島を歩いていた。
相変わらず空には全く様相の変わらぬ満月が照り付けており、肌に張り付くような嫌悪感を抱かせた。
夜風に当たれば気分がよくなるなんて、まやかしだと思う。
そうして歩くうちに、自然と足は私をまたあの海岸へと運んでいた。

いつだか、美琴と七草にちかがレッスンをしていた……あの海岸。

もう時計はとっくに十時を回っている。
流石の美琴もレッスンを切り上げて自分のコテージに戻っていることだろう。
そう思っていた。


美琴「……はぁっ……はぁっ……」

(み、美琴……?!)


満月の月光しか明かりのない、暗闇の中で美琴はそのすらりとした手足を相も変わらず振り回していた。
それはダンスの練習というにはあまりにも余裕がなく、自傷行為というにはあまりにも美しいものだった。
シャツは汗で全身にぺたりと貼りつき、息をするたびに全身が浮き沈みを繰り返す。


____はっきり言って、異常だった。


685: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:44:48.58 ID:IfDtM3Tz0


ルカ「……バカ野郎!」


気づけば私の体は美琴を無理やりにその場に突き崩していた。
美琴の体はまるで紙のように軽く、無抵抗なままに砂浜に倒れ込んだ。
たった一瞬の接触だったのに、私の手には美琴の汗がべたりと付着した。


ルカ「お、お前……いったい、いったいいつからやってんだよ……!」

美琴「……はぁ……はぁ……」


私の問いかけに美琴は答えない。というよりも、答えることができない。
さっきの今で呼吸が収まっちゃいないのだ。


ルカ「なんで……こんな真似を……お前……」


島に来た時から毎晩のようにレッスンをしていたことは知っていた。
それでも、ここまでのことはしていなかったはずだ。
地に付す美琴の体は引きつり痙攣すらも引き起こしており、水分をまともにとっていないことが一目に見て取れた。
すぐに美琴の口にミネラルウォーターを当てて無理やりにでも流し込む。


美琴「……げふっ!」


呼吸が上がったままの美琴は苦しそうにそれを吐き出した。


686: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:46:59.11 ID:IfDtM3Tz0


ルカ「……おい、美琴……? 何やってんだよ……」

美琴「……はぁ……ルカ、離して……私は、やらなくちゃいけないの……」

ルカ「は、はぁ?! バカ言うなよ……そんな体でこれ以上やったら、お前が死んじまうって!」

美琴「……それでも、やらなくちゃ」


介抱する私の腕を跳ね除ける美琴の力は、異常なまでに強かった。
その細腕のどこにそんな力があるのか、私をそのまま突き飛ばすようにしたかと思うと、すぐに立ち上がってその身を乱暴に捩り始めた。


美琴「……はぁ……はぁ……」

ルカ「美琴……お前、何やってんだよ……!」


その時の光景は、あの日によく似ていた。

私の手から美琴が離れてしまった『あの日』。
あの日も確か、月が嫌味なほどに綺麗に照りついていた。
私の言葉に無機質に返事をして、そのままレッスンを再開した時の美琴の姿。
私がいくら言葉を投げかけても美琴は聞こうとせず、一心不乱に自分の体を無理に動かしていた。


687: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:48:30.41 ID:IfDtM3Tz0


いつか美琴は言っていた。

どれだけ辛い時があろうとも、どれだけ悲しい時があろうとも、レッスンに打ち込んでいる時間はそれを忘れられる。
無理やりにでも未来に目を向けて、体を動かしていれば零れ落ちる涙もない。涙に割く水分は、すべて汗に変わる。

今の美琴は、【泣いている】。
全身に涙が伝い、シャツがその身に張り付くほどに、泣いている。

____その理由は、分かり切っていた。


ルカ「お前……【七草にちか】がそんなことを望むと思ってるのかよ……!!」

美琴「……!」


嗚呼、本当に病みそうだ。
どこまでいっても、『七草にちか』という存在が美琴にとって大きいものになっていたということを実感させられる。
無理やり突き飛ばしても止まらなかった美琴の動きは、その名前一つで止まってしまうのだから。

七草にちかという名前を前にした美琴は途端冷静になり、次の瞬間には敵意を私に向けてきた。


688: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:50:27.81 ID:IfDtM3Tz0


美琴「……勝手なことを言わないで。私はにちかちゃんと約束した、必ずSHHisの緋田美琴としてアイドルの頂点に立つ。そのために一分一秒だって無駄にできない」

ルカ「お前とあいつとの約束はわかる。でも……それが自分の命を削ってまで練習することと同じじゃないだろ……?! お前の今のダンスで感動する人間なんかいないって……!!」

美琴「ふざけないで」

ルカ「ふざけてんのはお前だよ、美琴……!!」


私の絶叫を境に、やり取りは途絶えた。
美琴は肩で呼吸をしながら押し黙り、ただ私のことを見据えている。その傍らには敵意を添えて。
きっと美琴は私のことを見ていない。


美琴が見ているのは、『七草にちか』の影だ。


689: ◆zbOQ645F4s 2022/01/13(木) 23:51:10.27 ID:IfDtM3Tz0



美琴「……帰るから」


静寂は四、五分と経たなかった。私たちの間ではそれほどの時間ですら耐えづらい。
同じ空間にいるというだけで、お互いがお互いの胸を刺す。
先に耐えかねたのは美琴の方だった。
適当に荷物をその手に抱えると、私の隣をすり抜けて早足に逃げていった。

流石に、今の様子を見ても練習を再開することはないだろう。だが……


ルカ「……七草にちか、私は……」


あの時七草にちかが死に際に見せたお手本、私がなるべき『私』の姿……私が私自身に向き合って、美琴にも向き合う。
本当の自分自身で、美琴と正面からぶつかり合う。
そのために残された時間は……そう長くはないらしい。



_____美琴が、自分自身を壊してしまう前に。





692: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:04:32.22 ID:EbFPAfXe0

____
______
________

=========
≪island life:day 8≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


美琴を突き飛ばした時の感触が、妙に手に残っていた。それは一晩明かした後でも同じこと。
無論汗が付着した手は洗ったし、そのじっとりした感じこそ残ってはいないのだが、この手に残っているのは美琴の体の【軽さ】だった。
美琴という存在を失って空っぽになった斑鳩ルカの器と同様に、中身を失って空虚な器と化した緋田美琴のその体は、見かけ以上に軽かった。

あいつは、その器にそそぐものを求めて、自分の命を削っているんだ。

窓から太陽を見上げた。こちらの事情を何ら知らない太陽は、今日も我が物顔で空を陣取り、鬱陶しい日差しで照り付ける。
その明るさは、何も秘密を許さない。
腹に抱えたものを引きずり出して、曝け出させようとしてくる。

うるさい、うるさい、うるさい……!
言われなくても、私が一番わかっているんだ。

……わかっては、いるんだ。


693: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:05:42.10 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】

これで参加するのも三回目。
どよめきは一日ごとに小さくなり、わざわざ視線を向けてくる人間の数も減った。

しかし、これで過ごしやすくなるとはいかないのが昨日の事情。
美琴は私に対して一切の反応を見せず、顔を背けるようにして外を見つめている。


(……チッ)


その隣に座る勇気は持ち合わせていなかった。


ルカ「……おい、手芸女」

千雪「ん……? ルカちゃん……?」

ルカ「その……一緒に食べていいか」


手芸女は私からのお願いに一瞬表情をぱぁっと明るくしたが、すぐに美琴に視線を向けて、その表情を押し戻した。
私と美琴との間に横たわる事情、その一端を知る数少ない人間は、致し方がないことといった様子でしずしずと席を空けた。


694: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:06:53.93 ID:EbFPAfXe0


千雪「うまく……いかなかったのね」

ルカ「……おう」

千雪「ルカちゃん、前にも言ったけど……焦る必要はないの。私たちには時間があるんだから」

千雪「生き残った私たちには悩んで、ぶつかって、解決するまでの時間が残されているの」

ルカ「……」


本当にそうだろうか。生きながらえたからと言って、時間が残されていると言えるのだろうか。
少なくとも、私たちの間に横たわる問題は時間で解決されるようなものじゃないし、緋田美琴という人間はその時間の間に壊れてしまう恐れさえある。


(お前に、何が分かるんだよ)


心の中で悪態をついた。
目の前で穏やかな微笑みを見せているこの女に、手元のフォークを突き立ててやりたいほどの衝動が沸き上がり、それを無理やり押さえつけた。


(自己嫌悪、どころじゃない)


695: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:09:20.55 ID:EbFPAfXe0


千雪「……ルカちゃん?」

ルカ「……悪い、私と美琴のことは……もう、触れないでくれ」

千雪「……」

ルカ「……」


手芸女は何も言葉を発さずに、ゆっくりと頷くようなそぶりを見せた。
頷いたと断定しないのは、それが不完全な所作だったから。
首を完全に縦に振るのではなく、少しだけ下に落とすだけのような行動。
きっと私の要求をそのまま飲み込む気にはならなかったからだろう。本当にお節介な女だ。


千雪「……」


必死に何か言葉を探しては、これじゃない、それじゃないと落胆するような息をつく。
そんな真似をされると、こちらに非がなくとも罪悪感が湧いてくるというものだ。
今回ばかりは、別の話題を自分から持ち出す。


ルカ「な、なあ……昨日話した小学生、あいつってさ。確かセンターやってんだろ……? す、すげえよなぁ……」

(あー……くそ、死にたい)


普段から人づきあいが広い方じゃない。
自分が行けると思った人間とだけしか深い交流はしてきていない、自分自身の会話下手を呪った。


696: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:11:15.28 ID:EbFPAfXe0


私の素っ頓狂な話の持ち出し方に、手芸女は少し苦笑する。
ただ、この話題自体はそう悪いものでもなかったのか、それを発端として話題を切り返してきた。


千雪「……ねえ、ルカちゃん、今日ね。何人かで海水浴をすることになっているの。もしよかったら、来てくれないかな」

ルカ「……は?」

千雪「さっきルカちゃんも気にしてた、果穂ちゃんも来るの」

ルカ「……嫌だ。泳ぐのとか、趣味じゃない」


せっかく気を回してくれたのに、勝手に口から拒絶の言葉が出た。
でも実際、考えたくもない。こいつらと一緒に海水浴だなんて。


千雪「ううん……大丈夫。私も今日は泳ぐつもりはないから、今日は保護者係。水分補給とか、パラソルとかで面倒を見てあげるの、手伝ってもらえないかな?」

ルカ「……」


美琴の方を見やった。私への拒絶から始まったぴりつきが、ほかの人間にも広がりを見せているのか、今日の美琴は一人で黙々と食事をしている。


ルカ「……」


あの細身に、食事はどれほど届いているんだろうか。
私の目には美琴の食事がアンドロイドがオイルを充填しているような、動力源を確保するためだけの無機質な光景に映った。


ルカ「……わかったよ、お前の手伝いをすればいいんだろ」

千雪「ありがとう、ルカちゃん。お昼、第2の島のビーチに集合ね」


手芸女の誘いを私は受けることにした。


697: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:12:38.29 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------

【ルカのコテージ】

(……)

(……まだ、あいつの誘った海水浴までは時間があるな)

【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…19個】

1.交流する【人物指定安価】※美琴、透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


698: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/14(金) 21:17:28.28 ID:7mlQnUTA0

1 千雪さん


699: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:23:41.89 ID:EbFPAfXe0

1 千雪選択

【ホテル レストラン】

さっきの今だが、妙に美琴の姿が頭にこびりついてしまっていた。
元からそんな表情豊かに食事をしたり、味の感想をしゃべったりする性質ではない奴だが、
あそこまで無機質に食事を摂っている姿は流石に見ていて胸が苦しい。

あれは食事なんかじゃなくて、がらんどうになった体の中に押し込むためだけの動作でしかない。

……そんなやつが、何がパフォーマンスだよ。


千雪「あら、ルカちゃん……もしかして、朝ごはん足りなかった?」

ルカ「ちげーよ……お前は何してんだ」

千雪「海水浴の準備、ジュースとかはここの冷蔵庫のものを持って行こうかと思って」

ルカ「……ふーん、まあガキどもにはジュースぐらいがちょうどいいだろうな」

千雪「……大体の物は見繕ったから、そろそろ休憩にしようかな」

ルカ「やかんなんか取り出して、コーヒーでも淹れんのか」

千雪「インスタントだけどね。ルカちゃんも飲む?」

ルカ「……一杯だけな」

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【携帯ゲーム機】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


700: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/14(金) 21:28:23.22 ID:wzFqNtRW0

1 携帯ゲーム機


701: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 21:42:47.06 ID:EbFPAfXe0


【携帯ゲーム機を渡した……】

ルカ「……いらねえからやる」

千雪「また廃品回収?」

ルカ「そうだ、他意はねーから要らなかったらそっちで捨てろ」

千雪「はーい。……それにしても、またゲーム?」

ルカ「この前のはガキと遊ぶ用、そっちはてめェで遊ぶ用だ」

千雪「……このゲーム機、甜花ちゃんも持ってたものかしら」

ルカ「……その辺の事情は知らねーけどよ」

千雪「……うん、ありがとう。ルカちゃん」

(……まあ、普通には喜んだか)

-------------------------------------------------

ルカ「……」

千雪「……」


さっきの今、私は拒絶したばかり。
流石に美琴のことについて踏み込んでくるつもりはないらしい。
多分、そういうのは……【後】でやるんだろう。

それに私も、まだ話す整理がついていない。
お互いが押し黙るこの空間も嫌なので、海水浴という分かりやすい話題に飛びついた。


ルカ「海水浴って誰が来るんだ?」

千雪「えっ……えっと、あさひちゃんと果穂ちゃんと、それに愛依ちゃんと夏葉ちゃんが一緒に遊んであげるんだって」

ルカ「なるほど、ガキ連中とその世話役か……」

千雪「ふふっ、あさひちゃんも果穂ちゃんも第2の島に渡れるようになってからずっと泳ぎたがってたから念願適ったって感じかな」

ルカ「そういやモノクマが出てくる前も、真っ先にモノミに水着貰いに行ってたな……」

千雪「こんなに美しい海なんだもの、きっと楽しいと思うわ」

ルカ「……海は確かに綺麗かも知んねーけどよ、状況が状況だろ」

千雪「え?」

ルカ「コロシアイなんて強いられて、実際死人も出てるのに……ガキってのは気楽なもんだな」


しまった。別に空気を壊したかったわけでもないのに、昨晩のことを引きずって沈んだ心が勝手にネガティブな言葉を吐き出した。
海だの南国だの、そういう眩しい言葉が出てくるたびに、私には影が落ちる。
明るい話題になると、マイナスな考えばかりが浮かんでくるのはもはや病気のようですらある。

流石にこればっかりには少しばかり手芸女も不愉快な思いをしたようで、一瞬眉を顰めるようにした。


千雪「ルカちゃん……私にはいいけど、そういうことはあの子たちの前では言わないでほしいかな」

ルカ「……悪い」

千雪「できる限り、不安とか恐怖とか、そういうものは私たちで遠ざけてあげたいの。少しの間でも忘れられるように、楽しい、嬉しいの時間をあの子たちのために作ってあげたいと思っているの」

ルカ「……」


1.だったら、私なんか呼ばない方がよかったんじゃねーのか
2.でもいつかは向き合わねーといけないだろ
3.自由安価

↓1



703: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/14(金) 21:47:05.56 ID:BS8zbjxGO

1


704: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:02:15.90 ID:EbFPAfXe0

1 選択


ルカ「だったら私なんか呼ばない方がよかったんじゃねーのか」

千雪「……ルカちゃん」

ルカ「私はお前らとは違う、別に前を向こうとか仲間と協力しようとかそういうベクトルで物事を考えてない」

ルカ「生き残るために割り切ってるだけだ。だから仲良しムードとかそういうのとも無縁だ」

ルカ「今みたいに、口を開けばお前らの指揮を下げるようなことだって言う」

ルカ「なんでそんなに私に構うんだよ」

千雪「……」


自分の意志とは別に言葉が出た。
私の舌は手芸女に対してやたら刺々しい疑問をつらつらと並べ、必死に距離を取ろうとしている。
違う、こんなことが言いたいんじゃない。
こんなの……美琴とおんなじだ。
自分の思ってることを言うのが怖くて、関係をぶち壊してなんとか退路を作り出そうとする。
戻って戻って、取り返しのつかないところまで行ってしまった前例だってあるのにこの舌に定着した癖は直せそうもない。

(ああ、最悪だ)

自分自身の悪癖を恨んだ。



千雪「……信じてるから」


でも、それに対する手芸女の回答は明瞭かつ単純だった。


千雪「ルカちゃんは確かにちょっと口が悪いかもしれません」

ルカ「なっ……」

千雪「でも、ルカちゃんが本当にただ割り切ってるだけじゃ、私とこんな風に話してもくれないと思うの」

ルカ「それはお前が強引に距離を詰めてきたからだろうが……!」

千雪「それに、今ルカちゃんは美琴ちゃんと頑張って向き合おうとしているでしょ?」

ルカ「……あ?」

千雪「それって、ルカちゃんは一生懸命一歩を踏み出そうとしているってことじゃないのかな。自分のこれまでの殻を破って、変わろうとしている。そのことってすごく大変で苦しいのに……」

千雪「それでも頑張ってるルカちゃんが、前に進もうとしていないって言うのは……ちょっとおかしいかも?」

千雪「だからね、ルカちゃんがいても私たちは盛り下がったりなんかしない。むしろ、その背中を見て、自分たちも頑張ろうって思えるんだ」

ルカ「……」


敵意に満ちた言葉をこうも丸め込まれてしまうと、こちらも形無しだ。
カップ半分ほどに残ったコーヒーを一気に飲み干して、乱暴に机に置いた。


ルカ「……ごちそうさま」

千雪「お粗末さまでした♪」


……本当に食えない女だよ、こいつは。


-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…3.5】


705: 自由行動は手癖で書いてるので多少書き溜めと齟齬があるかもしれませんがご容赦を ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:04:29.24 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


そろそろ時間だ。太陽も頂点に上る少し手前、予定していた集合時刻も近い。


(……)


別にそこに前向きなスタンスはない。昨日話したからといって、小学生にそれほど愛着があるわけでもない。
ただ、見たくないものを見ないで済むように、その穴を埋めるための何かを求めていただけ。


何も持たず、何も考えず。ゆっくりと部屋を後にした。


706: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:05:42.48 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------
【第2の島:海水浴場】


特に着替えも何も必要ない。
準備は手芸女が自分でやると言っていた、私はアイツと一緒に日陰に備えて泳いでいる連中の面倒を少し見てやるだけ。


砂浜につくと、丁度手芸女がパラソルを立てている途中だった。
手先が器用な割に、こういう設営のようなことは苦手なのか、
柱を砂にうずめるのに随分と苦労していた様子だったので、ひったくるようにして代わりに挿してやる。

手芸女は過剰な動作で私に感謝を示した。
そのままビニールシートを引いて、そこに二人並んで座る。
潮風が頬を撫でる中、ただぼんやりと海を見つめていた。
海で泳いでいるのは小学生と中学生、そしてその連れ。
数人のやかましい連中が、大声を上げて水をかけあっている。


千雪「ふふ……楽しそうね」

ルカ「……おう」



707: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:07:24.02 ID:EbFPAfXe0


あんな光景、ずっと無縁だった。
私も美琴も学生の早いうちから芸能界に飛び込んで、空き時間はすべてレッスンに充てていたから。
きっと二人で華々しいステージに立てる、その瞬間を信じて、これまでの人生の大半をなげうってきた。
それが無駄だったなんてことは言わない、実際今の私はそれなりに成功して、それなりにファンがいて、カミサマなんて言われてそれなりに崇められている。

……でも、こんなのを求めてやってきたわけじゃない。
こんな空虚な栄光で終わるんだったら、空き時間をレッスンなんかに充てるんじゃなかった。
同じユニットの仲間として、肩を並べて雑談するでもいい、時には事務所を抜け出して近くの喫茶店でケーキをつつきあうでもいい。
ただ笑いあって、顔を見つめあえたらよかった。


ルカ「……」

千雪「ルカちゃん、聞いても……いいかな?」

ルカ「ホント、お節介だな」

千雪「ごめんね……つい、気になっちゃって」

ルカ「まあ、いいよ……わかってて来たし」

千雪「……美琴ちゃんは、なんて?」

ルカ「……何も。私なんか眼中にない」


裁判の終わり、エレベーターに乗り込む直前。
あの時には一瞬だけ美琴と何かを通わせることができたとは思う。
それも、七草にちかの言葉を借りた不十分なものではあったけど。

でも、それが最後。
美琴は一度たりとも、『斑鳩ルカ』のことを見ちゃいない。


708: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:09:25.51 ID:EbFPAfXe0


千雪「……ルカちゃんは、美琴ちゃんのことをどう見てるの?」

ルカ「……どうって、言われても」

千雪「今の美琴ちゃんは、ルカちゃんと一緒だった時の美琴ちゃんと……違う?」

ルカ「……」


私と一緒だった時の美琴_____

私の中の美琴の記憶はもう、鮮明ではない。
ほんの少し前の出来事でも、緋田美琴という人間は私の中で都合のいいように作り替えられてしまっている。
ずっと、美琴だって私のことを思い続けてくれていると思っていた。
でも、この島に来て七草にちかとのそれをまざまざと見せつけられて。
現実と虚構とが私はわからなくなってしまっていた。
いつか、美琴は戻ってきてくれるって。
美琴は、こっちを見てくれるって。そう思っていたのに。

私はいつからか美琴を見ることをやめた。
美琴の中にある、私の隣に立っていた人間を必死に美琴から見出そうとしていた。

要は、自分自身が変わる気力もない臆病者だ。


ルカ「……わかんねえ」

千雪「……そっか」


709: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:10:49.68 ID:EbFPAfXe0


千雪「……あっ」


突然素っ頓狂な声を上げた。つられて顔を持ち上げると、海から続々と連中が砂浜に上がり始めていた。
満面の笑みで手を振る小学生たちに、手芸女はあわてて笑顔を取り繕い、手を振ってこたえた。
私はそこまで愛想よくするつもりはない、無言で近くのクーラーボックスからジュースを取り出して脇に置いた。


ルカ「好きなの取りな」

果穂「はいっ! ありがとうございます!」

あさひ「果穂ちゃん果穂ちゃん、次はどっちが深く潜れるか勝負しようよ!」

愛依「アハハ、潜るんだったらゴーグルつけよっか! 持ってきてたはずだからさ~!」


本当に能天気な連中だ。
心の底から海水浴を楽しんでいるこいつらの心中には曇り空のカケラほどもないんだろう。
でも、私の心はこんなにも鈍く重たい、海に入ろうものなら何もせずとも海底に沈んでしまう。


710: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:12:11.46 ID:EbFPAfXe0


千雪「休憩するなら日陰どうぞ、私は帽子があるから」

夏葉「果穂、お言葉に甘えましょう。休憩するときはしっかりと身を休める。徹底したほうがいいわ」

果穂「は、はい! ありがとうございます!」

千雪「いえいえ」


私と美琴がユニットを組んでいたころ、毎日切迫した空気に身を置いていた。
というよりも事務所がそういう方針だったのだ。すぐ隣にいる人間は、同じ席を狙うライバル。
交わす言葉は啖呵ぐらいのもの。
見せる表情は殴り合いの前の硬直したもののみ。
こんな小学生連中みたいな笑顔なんか、何年も親にも見せちゃいない。


あさひ「ルカさん、この海すごいんっすよ! 地平線までなんにも見えないっす!」

ルカ「お、おう……そうだな」

果穂「海が透明で、お魚が泳いでるのも見えるんです!」

ルカ「そ、そうなのか……?」

あさひ「すごかったね! エンゼルフィッシュもいたよ!」

果穂「イソギンチャクもカラフルできれいでしたー!」

あさひ「ねえ、果穂ちゃん! ルカさんのために何か海から持ってこれないかな!」

ルカ「あ? い、いいよそんなの……」

果穂「そうですね! うーんでも、どんなのがいいですか……? 魚は……もってこれません……」

愛依「お、いいじゃんいいじゃん! ヤドカリとかさっき見たよ~?」

あさひ「ヤドカリ! 面白そう!」

ルカ「……聞いてねーし」

千雪「……ふふっ」


711: ×地平線 〇水平線 ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:14:55.59 ID:EbFPAfXe0


____
_______
_________


千雪「本当に元気だよね、圧倒されちゃうくらい」

ルカ「……ホントな、こっちの反応なんかお構いなしじゃねーか」

千雪「ふふっ、たじたじだったね。ルカちゃん」

ルカ「るせー」

千雪「でも、ルカちゃんも嫌じゃなかったでしょ?」

ルカ「……」

千雪「黙ってても、口元が緩んでる」

ルカ「……! う、うるせー……見んじゃねー……!」

千雪「果穂ちゃんもあさひちゃんも……純粋で素直な子でね、誰とでもあんな風に気軽にお話しできるんだ」

ルカ「……ガキってのはそういうもんだろ」

千雪「子供って無敵だもん。……大人になるにつれて、そんな純粋さはどうしてもなくなっちゃう……大人になんか、なりたくないなぁ」


随分と妙なことを言う。私よりよっぽど大人なはずの、お前がそれを言うか。
でも、手芸女の表情は冗談めかして茶化すようなものではない。
遠くを穏やかに見つめて、その視線は何かを帯びている。


712: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:15:59.62 ID:EbFPAfXe0


千雪「素直な気持ちを言うのって難しいよね。だって、素直な気持ちなんて、自分にもわからないもん」

ルカ「……」

千雪「大人って、なんでも隠しちゃうの。周りの人が、自分自身が傷ついちゃうって、理解するより先に感じ取って隠しちゃう。大人になるまでの道のりで、経験を積んでそれがわかっていくから」

千雪「でも、そのせいで出さなきゃいけないものも奥深くにしまい込んじゃって。そうなるとなかなか引っ張り出せない。衣替えとおんなじ」

千雪「これから着たいなって服に限って奥にしまい込んじゃってること、ない?」

ルカ「……ハッ、確かにな」

(……今の私が、まんまその通りだな)


自嘲気味な笑いを含ませた返答に、手芸女は私の顔を覗き込むようにした。
これまでにないほど真剣な表情で、眉にも力がこもっている。


千雪「……ねえ、ルカちゃん」

ルカ「……なんだよ」



千雪「まだ、私たちは大人にならなくていいんじゃないかな」



713: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:17:05.74 ID:EbFPAfXe0


ルカ「……お前」

千雪「大人ぶるには、経験が足りてない。まだまだ半人前ですぞー……なーんて」

ルカ「……」


最後の言葉は柔和な表情だった。
それこそこいつ自身が言うように、大人のイメージとは縁遠い、にへらとしたあどけない笑顔。
締まりのないその口元が、妙におかしかった。
思わず吹き出すようにして、私は顔を少しだけ伏せた。


ルカ「ぷっ……くっだらねえ」

千雪「あっ、ひどいー!」

ルカ「……お前だって、人のこと言えないだろ。【千雪】」

千雪「……えっ、ルカちゃん、今……?」


手芸女の反応よりも先に、自分自身がそれに驚いた。


ルカ「なんでもない」

千雪「えー、ちゃんと聞いたもの! もう一回!」

ルカ「言わない」


手芸女が肩をガクガクと揺さぶるのが、妙に心地よかった。
ずっと前から知っている旧友のように緊張がほぐれていくような感覚、ついつい意地悪したくなってしまうような感覚とも言うべきか。
そんな知己の間柄でもない限りは抱かないような感慨を、ここで持つこととなったのだ。


714: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:18:59.38 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


「……これでよし、と」


海水浴終わり、私たちはスーパーに寄って帰った。
持ち帰ったのは水槽とその他飼育用の設備、そして餌となる野菜類。
飼育するつもりなんて元々なかったが、283プロらしいごり押しを受けて譲り受けることとなった。
私だって人の心がある。子供からのプレゼントをそうそう無碍にはしない。


≪千雪「まだ、私たちは大人にならなくていいんじゃないかな」≫


いや、まだ私も子供なんだったな。


「ぷっ……アハハッ!」


アイツの言葉の何をそんなに真に受けてるんだか。
自分が滑稽でたまらなくて、つい吹き出してしまった。


「……さて、時間はまだあるな」


【自由行動開始】


-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…19個】

1.交流する【人物指定安価】※美琴、透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


715: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/14(金) 22:42:23.48 ID:7mlQnUTA0

1 あさひ


717: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 22:51:40.54 ID:EbFPAfXe0

1 あさひ選択

【第2の島 図書館】


……いた。
ようやっと見つけたのは監視の大本命、芹沢あさひだ。

さっきの今で海水浴終わりだというのに、まるで疲労の色も見せずに熱心に読書に励んでいる。
私だったら泳いだ後なんて疲れて活字の一つも読めやしないだろうな。

怪しまれないように、適当に口実をつけて近くに座る。
あいつの海水浴の招待は受けて正解だったかもしれない。
理由としてはうってつけだ。


ルカ「お前たちにもらったヤドカリ、一応は世話見てやることにしたから」

あさひ「……」

ルカ「……おい、聞いてんのか」

あさひ「……」


だが、真隣に座って話しかけてもまるで反応がない。


ルカ「おい、シカトこいてんじゃねえぞ!」

あさひ「わっ!? ……あれ、ルカさん、いつからいたっすか?」

ルカ「……ずっと隣に座ってたんだがな」

あさひ「ルカさん、図書館で大きな声出しちゃダメっすよ」

(……こいつめ)

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【キルリアンカメラ】
【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


718: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/14(金) 22:55:35.64 ID:DMPUMGfR0

1 キルリアンカメラ


719: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:07:33.05 ID:EbFPAfXe0


【キルリアンカメラを渡した……】

あさひ「ルカさんルカさん、そのカメラなんっすか?!」

ルカ「ま、待て飛びつくなって……渡してやるから落ち着け」

あさひ「なんか普通のデジカメと違うっすね。これ、どういうカメラなんだろう」

ルカ「キルリアン写真?ってのがとれるって言ってたけど、お前分かるか?」

あさひ「キルリアン写真……なんなんだろう、ちょっと調べてくるっす!」

ルカ「あっ、ちょっと待て! おい!」

ルカ「待てって! おい!!!!!!」

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

-------------------------------------------------

つくづくこいつという奴が読めない。
七草にちかの裁判の時、いくつか残された疑問。それを旧館前で口にした時、確かにこいつの声がした。
だが、それ以降のこいつはどうだ?
アホ面引っ提げてそこら中を走り回り、小学生やギャル女と遊んでは騒ぎ倒している。
さっきの海水浴だって、ゴーグルをつけずに海中で目を開けて痛い痛いと喚いていた。
裁判の時にやたら冴えた推理で議論をリードしていたくせに、そんな様子はほとんど見えない。
本当に、こんな奴が【狸】なのか……少しばかり不安になる。


ルカ「……お前、何読んでるんだよ」

あさひ「これっすか? これ、野草の図鑑っす」

あさひ「この島ってすごくいろんな植物があるじゃないっすか。元の世界にいた時じゃ見たことのないやつもいっぱいあって、それで気になって調べてるっす」

(……まさか、それで毒でも作ろうってんじゃ)

あさひ「このアザミとかって海岸沿いに生えてるらしいっすけど、食べられるらしいっすよ!」

(……なんなんだこいつは、本当に)

あさひ「でもこれって日本でも見られる野草らしいっすね、もっとこの島だけの野草とかってないのかな……」

あさひ「……」

ルカ「あー、おいおい。自分だけの世界に入るな」

あさひ「あだっ!? なんっすかルカさん」

(こいつのペースに付き合ってるとまるで話が進まない)

(まずはそれとなく探りでも入れてみるか……?)


1.お前、七草にちかの事件をどう思ってる?
2.このコロシアイ南国生活、怖くないのか?
3.自由安価

↓1


720: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/14(金) 23:10:53.18 ID:DMPUMGfR0

1


721: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:20:10.19 ID:EbFPAfXe0

1 選択


ルカ「……お前、ちょっと話に付き合え」

あさひ「……? なんっすか?」

ルカ「……お前、七草にちかの事件をどう思ってる?」

あさひ「『どう』って……どういう意味っすか?」

ルカ「あの事件は、本当に終わったと思ってるのか聞いてんだ」

あさひ「言ってる意味が分からないっす。あの事件はにちかちゃんが犯人でおしおきもされたっす。にちかちゃん以外のクロはいないっすよ」

(クロは確かにいねえが……すっとぼけてんのか?)

あさひ「でも、不思議なところならあるっすよね」

ルカ「……! や、やっぱお前……」

あさひ「透ちゃん、本当にこの島の外の人と通じてるのかな……」

ルカ「そ、それもそうだけど……そっちじゃなくて」

あさひ「……? なんかルカさん、変な感じっす」

ルカ「……あ?」

あさひ「……そんなんじゃ、捕まえられないっすよ」

ルカ「……てめェ」

あさひ「あの事件に関与してるのはもう一人いるはずっす。でも、それは今のルカさんじゃきっと捕まえられないっす」


それは、中学生から私に正面からたたきつけられた挑戦状だ。
捕まえられるものなら捕まえてみせろ、その言葉のニュアンス通り、中学生は生意気な笑みを浮かべていた。

……上等だ。


ルカ「……ああ、ちゃんと証拠を掴まねーとダメだもんな」

あさひ「そっすね。可能性だけじゃ、結論にはできないっすもん」

(……よく言うぜ)

あさひ「じゃ、とりあえず私は行くっすよ。愛依ちゃんとこれから、ヤシの実でジュース作る約束なんで!」

ルカ「え? お、おう……」

(……しかし、本当、こいつはどっちの顔が本当なんだ)

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【現在の芹沢あさひの親愛度レベル…2.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…20個】


722: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:21:38.55 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


……さて、いよいよこの時が来た。

昨日の今日で、今朝にも感じたあの美琴の身体の軽さは抜けきっていない。
吹けば飛んで行ってしまいそうな、押せば破れてしまいそうな、そんな淡く薄い、軽い感触。
でも、この感触を忘れてしまう頃に、また顔を突き合わせるんじゃ遅いはずだ。
不格好な形でも、【触れようとした】、【掴もうとした】。その事実が生きているうちに、今度こそ美琴を捕まえてやらないと、意味がない。

まだ緋田美琴という人間が、斑鳩ルカという存在を覚えているうちに。


723: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:22:35.89 ID:EbFPAfXe0


部屋の隅を見やった。
豆粒みたいな大きさのヤドカリは、何をするでもなく水槽の中をいそいそと動きまわっている。

あれは、私がまだ子供であることの証拠。
わがままに、取り繕いもせずに、自分の感情を吐き出す権利があることの証拠。
それを私はあいつらから譲り受けたんだ。

____なら、その権利を行使するしかないだろう。


「……よし、行くぞ」


見てろ、七草にちか。
お前が見せてきやがったブサイクな手本とは大違いの、一世一代の仲直りってやつを見せてやる。
せいぜい地獄で腰を抜かして、獄卒に咎められてろ。



緋田美琴の隣に立つのは、私だ。




724: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:24:53.04 ID:EbFPAfXe0

-------------------------------------------------
【第1の島:ビーチ】


「……はぁっ……はぁっ……」


美琴は昨日と同じように、月明かりの下で自分の体を痛めつけていた。
狂ってしまったマリオネットのように、手足は可動域のギリギリで振り回し、それに伴って瞳の中では何か赤黒いものが燃え滾っている。
狂気を孕んだその光景に、思わず言葉を失いかける。
決意を僅かに鈍らせるほどの威圧感が、そこにはあった。

でも、もう引かない。逃げない。
どれだけ苦しい現実でも目を背けない。目を背けてしまえば、形のない黒いものがまた私たちの目を覆ってしまうから。
正面からぶつかって、ぶつかって、ぶつかって。
それでやっと光がさす。


「すぅ……」


大きく息を吸った。
今の美琴は何をしようが、きっとその意図を解そうとしない。
自分の中にある七草にちかの虚像を追うための、都合のいい理屈を並べ立てて、それに文句をつける外野を悪と見なすだろう。
いつかの私と、同じだ。



____だから、【そんな思考も吹き飛ばすぐらいのもの】をくれてやる。




725: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:25:36.56 ID:EbFPAfXe0







「美琴―――――――――――――――!!!!」






726: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:27:11.49 ID:EbFPAfXe0


私にできるのは、この咽喉をつぶすぐらいの声量で叫び続けること。
島中に響き渡るぐらいの大声で、美琴に向かって呼び掛ける。


「美琴―――――――――――――――!!!!」


何度でも、何度でも。


「こっち向け―――――――――――――――!!!!!」


波音、潮風、虫の声。そのいずれも聞こえなくなるぐらいに上書きしてやる。


「私はここだ―――――――――――――――!!!!!」


間違いなく私の声は聞こえているはずだ。


「……チッ」


でも、どれだけ叫んでも美琴は無視を決め込んだ。背を向けたまま、自分の体を破壊することに勤しんでいる。
上等だ、それなら……認めさせてやる。

生意気なんだよ、緋田美琴_____!




「……負けてられるか!」



727: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:28:29.06 ID:EbFPAfXe0


私は美琴の隣に立ち、次の作戦に出た。
私の声をどうしても聞かないというのなら、次にするべきは無理やりにその視界を奪ってやること。
美琴が目指してやまない、人を魅了する最高のパフォーマンスというものを魅せつけてやればいい。


「美琴!」


美琴のそれは、私の意志とは無関係に網膜にしみついていた。
自分の体を痛めつけることも厭わずに、限界を超えて動かしていた体。
その苦痛と葛藤とが、私の胸に深く突き刺さり、瞼を下ろしても、空を眺めても、勝手に再生されてしまっていた。
だから、嫌でもその振付は覚えてしまっている。


「お前がしたいのは、こんなことなのかよ」


美琴に合わせて振りを完全に模倣する。
四肢をふるうたびに、関節や筋組織が悲鳴を上げる。
鈍い痛みが徐々に体を締め付ける中、舌を噛んで無理やりにその痛みを忘れさせた。


「お前は、何を見ているんだよ」


私は美琴の域には達していない。
美琴の目指すパフォーマンスに、同じ水準で立つことは適わない。
でも、だからといって、横に立つことを諦めたくはない。
自分の体が壊れようとも、美琴の【耀き】を前に、背を向けるようなことはもうしたくない。


「お前が見るべきものは、そんな虚像なんかじゃないだろ……!」


_____美琴にも、私の【耀き】を見てほしい。





「……ッ!」


ドサッ


728: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:30:11.48 ID:EbFPAfXe0


今度、砂浜に突き飛ばされたのは私の身体だった。
私のダンスがよほど目障りだったのか、それとも説得の声が耳障りだったのか。
それはわからないが、私を突き飛ばした美琴の顔はぐしゃぐしゃで、燃え盛るその瞳は、ほかでもない私自身をしっかりと捉えて睨みつけていた。


「ルカには……ルカには関係ないでしょ……!!」


譫言のようにその一文を繰り返す美琴。
かつて強い語気で私を拒絶したのと全く同じ文面、だが今の美琴はそこに却って脆弱さを晒け出している。
突き崩すなら、今しかない。


「関係ないワケねーだろ! 美琴は、なんでいっつも自分のことばっかり……!」
「知らない、知らない……! ルカなんか、ルカなんか……!」
「違うんだよ……美琴……! 私が美琴に見てほしいのは……【美琴を見てる、私】なんだよ……!」
「……ッ!」


私は、気づいてほしかった。
美琴のことを信頼して、美琴のことを愛して、美琴のことを応援している人間がそばにいることに。
美琴に必死についていって、横にどうにか並び立つことで私のその想いに、気づいてほしかった。
別に友情だの恋愛だの、そんな俗的な話にしたいわけじゃない。
ただ、横に立とうとする人間の感情の重さを、美琴にも知ってほしかった。





「どうして、一人だって思いこんじまうんだよ……美琴……!」





729: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:31:29.06 ID:EbFPAfXe0


七草にちかの想いを汲むことができた、今の美琴ならわかってくれると信じた。


斑鳩ルカという人間が、カミサマなんて称号を必要としていないこと。
斑鳩ルカという人間が、かつてその横に立っていたこと。
斑鳩ルカという人間が、七草にちかと同じように美琴のことを想っていたこと。


____斑鳩ルカという人間が、美琴と過ごした時間を何よりも大切に思っていること。




「私じゃ、ダメなのかよ……!」
「……」
「美琴……お前の夢を、また一緒に追わせてくれよ……!」



730: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:32:24.20 ID:EbFPAfXe0


それでも、美琴は涙一つ流すことはなかった。
それは私もだった。感情の波は既にその決壊地点を超えているが、目元は砂漠のように乾いている。
涙のための水分が、もう体には残されていないのである。
土砂降りの雨にあったかのような両者の身体はただ小刻みに震え、嗚咽を漏らすだけ。
震える口元で、美琴は小さく息を一つついた。


「美琴……」


その瞳にかつて盛っていた豪炎は、焚火のように穏やかな揺らぎになっていた。
敵意という感情の抜け落ちたそれを、私に静かに向けたかと思うと、美琴は数瞬の躊躇いののちにそれを差し出した。


「ルカ……立てる?」


私の目の前には、美琴の右手があった。


「ハッ……!」


不格好な笑顔でそれに答えて、震える手でそれを掴んだ。


731: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:35:18.85 ID:EbFPAfXe0

____
______
________


「いい年して……お互い随分と意地張ってたもんだな」
「ふふ……そうかもね」


一度は立ち上がったものの、お互い体はボロボロで、立っているとふらっと倒れてしまいそう。
海岸沿いに並んで生えているヤシの木の一つにもたれかかるようにして、並んだ夜空を見上げる私たち。


「でも、驚いちゃったな。ルカが折れるとは思わなかったから」
「……ハッ、世話焼きな連中がいたからな」
「え?」


認めたくはないが、もし【あいつ】がいなかったら美琴とこうやってまた肩を並べて話をするなんてことはなかっただろう。
強引に私を連れだして、勝手にいろんなことを体験させて、無理やり交友の幅を広げて。
年上のお姉さん、なんて本人が言っていてもやっていることは母親といった様相の方が正しい。
やられている最中では疎ましくも、後に思うとその意味が重大であったことを知れるという点でも、母親然した振る舞いに感じる。


732: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:36:15.28 ID:EbFPAfXe0


「……いい事務所に入ったな、美琴」
「……うん」
「正直羨ましいよ、私はいまだに事務所にそんな関係の人間は一人だっていない。そんなものを必要とすれば、付け込まれちまうからな」


私も美琴の後を追って、同じ事務所に入っていれば、こんな回り道をしなくても済んだのかもしれない。
いや、そんなのはいくら考えても後の祭りという奴だろう。


「だからこの島にいる間ぐらいは……いいかもな」
「ルカも、変わったね」
「……うるせー」


美琴の柔和な表情に思わず頬が綻ぶ。こんな表情は、前にユニットをやっていた時にも見ることはなかった。

美琴の奴、随分と笑顔は幼いんだな。
普段がクールな面してやがる分、その笑顔の破壊力はなかなかのものだ。


そんな笑顔が見れる自分の幸運には、感謝してならなかった。


733: ◆zbOQ645F4s 2022/01/14(金) 23:37:23.96 ID:EbFPAfXe0


「……さて、と。とりあえず寝るか」
「え? ……ああ、もう夜時間なんだっけ」
「それどころかテッペン回るっての。明日も朝食会はあるんだ、今から寝とかないと身が持たないぞ」
「うん……そうだね」


近くにあった荷物を適当にまとめて美琴は私の隣に立つ。
こうしてみると、相変わらず美琴の奴のスタイルは化け物じみている。
その横顔も端正な顔立ちで、これだけで月光に映えているのがなんともにくい。
でも、これからはまたこの姿を何度でも見ることができる。そう思うと拳を天にも掲げたい心地だった。


「……じゃ、行くぞ」
「うん」


そして私たちは歩き出す。
自分たちのコテージ、戻るべき場所へ。


……絆が紡ぎ出す、【明日】に向けて。


737: ◆zbOQ645F4s 2022/01/16(日) 21:03:14.52 ID:22Mip92F0

____
______
________

=========
≪island life:day 8≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


この島に来て以来の晴れやかな目覚めだ。
ずっと心に重く沈んでいた鉛を引き上げて放り出してやったんだから当然のこと。
うんと一つ伸びをして、柄でもない溌溂とした声を上げる。


「よし、行くか!」


嫌々参加していたはずの朝食会も、今日ばかりは楽しみで仕方ない。
また美琴と並んで食事ができる、しかもかつてのように気兼ねすることもなく。

待ち望んでいた理想の景色を思うようにそこに実現することができるのだ。
私は準備もそこそこに、急ぎ足でレストランへと向かった。


738: ◆zbOQ645F4s 2022/01/16(日) 21:05:06.33 ID:22Mip92F0

-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】


結華「あっ、ルカルカ。おはよう、今日も来てくれたんだ」

ルカ「おう、おはよう」

結華「……え? ル、ルカルカがあいさつした……? え、え、え……?」


なぜだか勝手にバグりだしたメガネ女を他所に、私は足早で美琴の隣についた。


美琴「ルカ、おはよう」

ルカ「おう! おはよう美琴!」


まさか美琴とこうやってまた、挨拶をかわせる時が来るなんて思いもよらなかった。
美琴は晴れやかな表情で食事を口に運ぶ。
私はそれを頬杖をつきながら、我が子を見守るような生暖かい視線のもとに見つめるのだった。


千雪「あら、ルカちゃん……うまくいったの?」

ルカ「おう……ま、まあな」

美琴「千雪さん……なんだか、お世話になっちゃったみたいで」

千雪「ううん、いいの。一歩を踏み出したのはルカちゃん、私は何も」

美琴「こんな状況じゃなければ何かお礼でもしたのだけど」

千雪「二人の笑顔が見れただけで私は嬉しいから大丈夫。気にしないで」


千雪はその言葉通りに上機嫌になり、鼻歌交じりに朝食をつついた。
それを周りに言いふらすでも、自慢するでもなく、自分の功績を一人で確かめて喜んでいる。


ルカ「……いい奴だな」

美琴「……でしょ?」


739: ◆zbOQ645F4s 2022/01/16(日) 21:09:07.49 ID:22Mip92F0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


自分の部屋に戻ってからも、なんだか現実であることに自信が持てなかった。
ここ数年燻ぶり続けていた思いが晴れて昇華されて、背負っていた荷物もなくなった。
こうなってくると、逆に違和感を覚えるものだ。


「……へへっ」


指で水槽のヤドカリをつついた。ヤドカリは外敵を察知したのか、逃げまどい岩陰にその身を隠す。


「……お前のおかげでもあるんだぞ」


このヤドカリを渡してきた小学生と中学生。あいつらの存在もわずかながらも影響している。
人と人との交流というのは、本当に度し難いものがある。


「……会えたら、言っとくか。お礼」


まだ今日は始まったばかりだ。
私がやるべきなのは【監視】、それだけじゃない。

____同じ島で暮らす者同士の【交流】だ。


【自由行動開始】


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
☆斑鳩ルカの交流について

おめでとうございます!
積年の想いを打ち明けたことにより、緋田美琴様との交流が解禁されました!
以後交流相手として選択することが可能です。

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…20個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


740: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/16(日) 21:12:49.91 ID:VY6fadzu0

1 千雪


741: ◆zbOQ645F4s 2022/01/16(日) 21:19:39.11 ID:22Mip92F0

1 千雪選択

【第2の島 海水浴場】


まあ、やっぱり一番に報告したいのは……こいつだ。
出会った当初は勝手にこっちの領域にずけずけと踏み入ってくる厚顔無恥な女だとばかり思っていたが、今となってはこいつに頭が上がらない。
あの時、スーパーで出会っていなければ。
あの時、飲み交わしていなければ。
私はいまだ美琴と口を利くことができていなかっただろう。


ルカ「よう。……何やってんだ」

千雪「ルカちゃん……ちょっと潮風を浴びながら読書でもと思って。お向かいどうぞ」

ルカ「……ん」

千雪「私、なんだか感激しちゃったな。まさか本当に二人が仲直りしちゃうなんて」

ルカ「私も、まだ現実味がねーよ」

千雪「ふふ……そうだよね、ずっとつらかったんだもんね」

ルカ「別に、そんなんじゃねーよ」


私はただ静かに水平線の方を見つめた。
こんなに穏やかな気分で見れる日が来るなんて、私も思ってもいなかったな。

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‣現在の所持品

【トイカメラ】
【表裏ウクレレ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


742: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/16(日) 22:10:11.23 ID:Gl1e4yOH0

1 表裏ウクレレ


747: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 20:54:59.56 ID:VpymNLoy0

【表裏ウクレレを渡した…】

ルカ「これ、あんまり私は楽器の演奏とかはやらねーし……やるよ」

千雪「なんだか変わったウクレレね、両面に弦が張ってあるみたい」

ルカ「お前、こういうのやったことあんのか?」

千雪「ううん、未経験。でもせっかくルカちゃんが私のために新しい世界の入り口を持ってきてくれたんだもの、頑張ってみようかな」

(……特にこっちは何も考えずに手についたもんを渡したんだが、そんな受け取り方をすんのか)

(まあ、普通には喜んだかな)

-------------------------------------------------

美琴とのことが解消したことで、私の中にも幾分か余裕が生まれた。
前には眩しくて見れなかった太陽も、今はそれほどではない。
自分たちのいるこの島がどれほど自然豊かなものだったのか、今日になって初めて知った。


ルカ「……そりゃ、こんな島ならガキは泳ぎたくなるよな」

千雪「ね、泳がせてあげたくなっちゃった私の気持ちもわかった?」

ルカ「前よりはな。……まあ、あの海水浴も参加して正解だったよ。自分がまだまだガキだってこと、お前に教えられなきゃ気づかなかっただろうからな」

千雪「ふふ、そうなんだよね。……でもね、それも私は別の人に教えてもらったことなんだ」

ルカ「……え? そうなのか?」

千雪「うん……私も、前に一度自分の思っていることを中々口に出せなくて、それで悩んだことがあったの」


≪千雪「裁判の時……ルカちゃんが美琴ちゃんと正面からぶつかり合ってくれたおかげで、最後の最後にシーズの二人はお互いの素直な感情を打ち明けられたんじゃないかなって思うの」

ルカ「……」

千雪「美琴ちゃんが納得していなくても、多数決の投票できっと間違った道にはなっていなかった。でも……それじゃダメなんだよね」

千雪「本当の気持ちを押し殺したままなんて……辛いもの」

ルカ「……お前、それって」

千雪「……」

(こいつも、そういう経験があるってことか……?)≫


そういえばこいつと初めて飲み交わしたあの晩、私と美琴の間に横たわる軋轢をスーパーで話した時。
こいつの目の中に私は同じものを見た。
かつて経験したであろう、自分の心の奥底に感情を仕舞い込むことで負った傷跡。

……今の私なら、その傷を知ることが、知ろうとすることができるかもしれない。
それを、してしまってもいいだろうか。


1.なあ、その時のことって聞いてもいいか?
2.……そうかよ
3.自由安価

↓1


748: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/17(月) 21:12:47.42 ID:pBRM3kG70

1


749: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 21:37:10.54 ID:VpymNLoy0

1 選択


……前までの私なら、訊ねることはできなかった。
自分自身が超えられていない溝に対する解答を挑みもせずに求めるようで、なんだか卑怯に感じていた。
それに、きっとその傷跡に向き合った話をただの美談と断じて、真正面から素直に受け止めることができなかっただろう。

今耳を傾けられるのは……美琴とのことがあったからだ。


ルカ「なあ、その時のことって聞いてもいいか? お前が、自分の気持ちを伝えられなくて苦しんだっつー時の話」

千雪「ルカちゃん、聞いてくれるの?」

ルカ「てめェもさんざん私の話を聞いたからな、こっちだって聞いてやらねーと採算がとれないだろ」

千雪「……うん。ルカちゃんは、アプリコットって雑誌……知ってる?」

ルカ「あ? 聞いた事あるような……ないような」

千雪「私が学生の時の雑誌だから、ちょっと前の雑誌なんだけどね。女の子が興味を持ちそうなファッションとか雑貨とかが詰め込まれた、私にとって宝箱みたいに大好きで大切な雑誌なの」

千雪「その雑誌が復刊することが決まって……その表紙モデルのオーディションがあったの」

ルカ「……へぇ」


口から『よかったじゃねーか』という言葉が出かけたが、抑え込んだ。
この話はそれぞれの傷跡という文脈に載る。この後の結びは私にも見えているのだ。


750: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 21:38:04.04 ID:VpymNLoy0


千雪「アプリコットからのお話は、甘奈ちゃんにやってきたの」

ルカ「……お前じゃ、なかったんだな」

千雪「私の大切な甘奈ちゃんが、大切なアプリコットからお仕事をいただけたのは純粋にうれしかった。でもね、それだけじゃない気持ちがあるってこと、薄薄気づいてたけど……自分の気持ちを一度無視しちゃった」

ルカ「……」

千雪「そんな時に、わがまま言ってもいい、私はまだ自分の気持ちに素直になれる子どもだって教えてくれた人がいたの」

ルカ「それで、どうなったんだ?」

千雪「甘奈ちゃんと一緒にオーディションを受けた。ユニットの仲間同士でぶつかったの」

ルカ「……!」


私が見ていた一面だけのこいつとは、その行動は全く違った印象を受けた。
相手のことを慮って、そのためにできるコトばかりを探している。そんな風に思っている節もあった。
でも、こいつは自分の気持ち、欲望に従って、仲間とぶつかり合うことを決めた。
相当な判断だったのだろうと思う。


千雪「私は結果として勝つことはなかったけど……でも、やってよかったなって思ってるの」

千雪「やらない後悔よりやる後悔、でしょ?」


それはただ自分の気持ちに向き合うということだけじゃない。
その衝突をしてもいい相手だと、信頼のできる相手だとユニットの仲間を再認識したことを意味する。
こいつにとってこの経験は傷跡というよりも、【刻まれた】大切な思い出なんだろう。


ルカ「……なんだ、もっときつい話なのかと思ったぜ」

千雪「もぅ……私は当時結構悩んだんだから」

ルカ「ハッ……そん時からずっとてめェはお人よしだな」


……そして、それは私にも同じことが言えるのかもな。
美琴との別離も、いつか笑って話せる日が来るのかもしれない。


ルカ「……またてめェに教えられたな」

千雪「え? なんのこと?」

ルカ「……なんでもねーよ」


-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…5.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…21個】


751: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 21:41:47.75 ID:VpymNLoy0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

なんというか、あいつと一緒にいると考えさせられることばかりだな。
ガキっぽい無邪気なところもありながら、年長者であるべきところはしっかり年長者の振る舞いをして。
またあいつに余計なことを教えられてしまった。

……まあ、絶対あいつ本人には言ってやらねえけど。

あいつに言ったらガキ扱いされること請け合いだ。


「……ほんと、癪なやつ」


さて、まだ時間はあるな。


【自由行動開始】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…21個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


752: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/17(月) 21:48:22.15 ID:OxW12vyj0

1 こがね


753: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:01:26.75 ID:VpymNLoy0

1 恋鐘選択

【第1の島 ロケットパンチマーケット】


なんとなく小腹が空いたこともあって、口につまめるスナックでも探そうかと入ってみたスーパーマーケット。
入ってすぐの野菜売り場、そこには長崎女の姿があった。
なにやら野菜を見比べながら唸っている。相当に集中しているらしい。


ルカ「……何をそんなに見てんだ?」

恋鐘「むむむむ……ん? あれ、ルカなんばしよーとね! ルカも料理でもすると?」

ルカ「いや、お前がやたら集中してっから気になっただけだよ……私はただスナック菓子でも取りに来ただけだ」

恋鐘「お菓子、そういえばもうそんな時間とね! 野菜選びに時間ば使うてすっかり忘れとったばい!」

恋鐘「芯が細か方がうまかニンジンになるとよ、出来る限りええもんにしたくてじ~っと見とるんよ~!」

ルカ「へー、詳しいんだな」

恋鐘「ふふーん、これくらいは常識ばい!」


得意ぶって連発してきた野菜豆知識を適当に聞き流して過ごした……

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【トイカメラ】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


754: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/17(月) 22:15:53.02 ID:pBRM3kG70

1 バール


755: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:27:56.80 ID:VpymNLoy0

【バールを渡した】

恋鐘「ふぇ? なんね、ルカ。こいって工具じゃなか?」

ルカ「あー、なんかミステリーとかサスペンスだとありがちだろ。『バールのようなもの』でどうこうっての」

恋鐘「聞いたことあるようなないような……」

ルカ「護身用にでも使いな」

恋鐘「そ、そがんこと言われてもこげんもん使ったことなか!」

(……まあ、そりゃそうだよな)

(……こんなもん、誰に渡せばいいんだよ)

-------------------------------------------------

さっきの野菜の目利きといい、毎朝レストランで支度をしている様子と言い、こいつは何かと料理好きな一面が目立つな。
いわゆる女子力ってやつか? ……まあ、私とは無縁な話だな。


ルカ「お前、しょっちゅう料理とかしてんのか?」

恋鐘「ん~? まあ、寮でおばさんがおらん日はご飯作ることもあるし、時々事務所のキッチンば使ってみんなに料理ふるまうこともあるたいね」

ルカ「よくやるな……洗い物とかそういうのが面倒で私は全くだ」

恋鐘「確かに沢山皿使った後はちょっと骨ば折れるけんど、十年以上料理もやっとると慣れてしもうたばい!」

ルカ「十年以上って……マジか」

恋鐘「うちは実家が料理屋やけんね! 子供んときはよう手伝いしとったとよ」

ルカ「そうなのか……道理であんなに飯作んのもうめーわけだ」

恋鐘「……ルカって人を褒めたりするんやね」

ルカ「私を何だと思ってんだよ……」


思えばこいつとこうやって二人で話すことはこれまであんまりなかったな。
【狸】探しもまだ結局終わってはいないし、他の連中のことを知っておいて損はない。
もう少しこいつの話を聞いてみることにするか。


1.得意料理は何なんだ?
2.寮ってなんか住みづらくねーか?
3.自由安価

↓1


756: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/17(月) 22:38:55.10 ID:9r/O60Ke0

1


757: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:51:03.15 ID:VpymNLoy0

1 選択

こんだけ料理が好きなら、得意料理の一つや二つあるんだろ。
試しに聞いてみるとするか。


ルカ「お前、そんなの料理が好きなら特に特意な料___」

恋鐘「ちゃんぽんばい!」

ルカ「だいぶ食い気味に来たな」

恋鐘「うちの出身の長崎といえば、ちゃんぽん! ちゃんぽんと言えば長崎! そしてちゃんぽんといえばうちばい!」

恋鐘「ルカもこの前……そういえばルカはパーティには参加しとらんかったとね、あの時もうちが腕に寄りばかけてばりうまかちゃんぽん作ったとね!」

(あのパーティ、そんなこともやってたのか)

(鼻息荒くして前のめりに語るあたり……相当な自信なんだろうな)

ルカ「……でも、そうは言われてもな」

恋鐘「ん? ルカ、どげんしたと?」

ルカ「その……ちゃんぽん、あんまよく知んねーんだよな」

恋鐘「ふぇぇぇぇぇぇぇ?!?!?!?!」

ルカ「うっせえよ! 急に大声出すなって……!」

恋鐘「ちゃんぽんを食べたことがなか……?! そげんこつがあり得るばい……?!」

ルカ「いや、なんとなくは知ってんだぜ? あのあんかけ焼きそばみたいなやつ……」

恋鐘「なんばいいよっと!? あんかけ焼きそばとちゃんぽんは全く別物ばい! チャーハンとピラフぐらい違うとよ!」

(それほとんど一緒じゃねーか!)

恋鐘「わかったばい……ルカ、覚悟ば決めんね、うちが本物のちゃんぽん食わしたる! お腹と背中がくっついて……入れ替わるぐらいに腹空かせとって!」

ルカ「え? あ、おい! どこ行くんだよ!」


急にヒートアップしたかと思うと、そのままどこかに行ってしまった。
しまったな……何か面倒なたきつけ方をしてしまったらしい。
これだから283プロの連中は面倒なんだ……こりゃしつこく粘着されるぞ。

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【親愛度が上昇しました!】

【月岡恋鐘の親愛度レベル…1.5】


758: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:52:27.20 ID:VpymNLoy0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

ピンポンパンポーン

いつもより上機嫌に自分の部屋に戻ってきた私を出迎えたのは、いつもの夜時間とは違った調子のチャイム。
これは確か、前に一度聞いたことがある。
私たちの記憶を奪っているとか抜かした、ふざけた漫才の予告のチャイム。
……だとすると、これはまた。


『えー、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会よりお知らせです!』

『オマエラ、大ニュースだよ! 開発部門がついに、とうとう、【とんでもないもの】を作ってしまいました!』

『きっとオマエラも驚くだろうな、驚きすぎてひっくり返るだろうな、ひっくり返ってマントル突き抜けてブラジルまで行っちゃうだろうな』

『とにかく、ジャバウォック公園に緊急集合―! 来なかった奴はハブだよー!』


……【とんでもないもの】?
皆目見当もつかないが、この様子を見るに、私たちに大きくメリットがあるようなものではない。
モノクマ、そして黒幕の欲求を満たすだけのろくでもないものに違いないはずだ。


「……拒否権はない、か」


今朝からの上機嫌にすっかり水を差された気分。
不安と不快と苛立ちと、黒々としたものをごちゃまぜにして部屋を出た。


759: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:54:14.63 ID:VpymNLoy0

-------------------------------------------------
【中央の島:ジャバウォック公園】


モノミ「あっ、斑鳩さん! よかった、ちゃんと来てくれまちたね!」

ルカ「……おう」

美琴「ルカ、こっち」


公園には既に他の人間の姿も見える。
私は美琴の隣に立って、ほかの連中の注目する、その視線の先にあるものを注視した。


ルカ「あれは……【ゲーム機】か?」


私自身あまりゲームに詳しいわけではない。
レッスンをバックレてゲーセンにこもったときなんかによく見かけた筐体が、公園の中央に違和感剥き出しでぽつんと置かれている。


千雪「前に甜花ちゃんに教えてもらったゲームに似てる……」

果穂「ゲーム、ですか?」

智代子「ゲームセンターとかのゲームって、確かにあんな感じだよね! お金を入れたら動くのかな?」

夏葉「ひとまずは様子見しましょう、智代子。モノクマのことだから、何を仕掛けているかわからないわ」

(流石に誰も迂闊に手を出そうとはしていないみてーだな……)

透「……」

雛菜「……」

(そして、あいつらも一応はちゃんと集まってる、と……)


760: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:55:56.44 ID:VpymNLoy0


得体のしれない筐体を前に、緊張が走る中。
あいつは堂々とまた姿を現した。

バビューン!!

モノクマ「皆さんお集まりのようですね!」

夏葉「モノクマ……現れたわね」

モノミ「やいモノクマ! こんな時間にミナサンを呼び出して何事でちゅか!」

今回はモノミは完全に関与していないらしい。私たちと同じ側に立って野次のような言葉をモノクマにぶつける。

あさひ「モノクマ! とんでもないものってなんっすか?! 何を見せてくれるっすか!?」

愛依「あ、あさひちゃん!? な、なんでそんなノリノリ……!?」

モノクマ「ふっふっふっ、いいですねえ。反応がいい子は先生大好きですよ!」

モノクマ「では発表いたしましょう……今回の動機はこちら!」





モノクマ「新作ゲーム・【かまいたちの真夜中】でございまーす!」





761: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 22:58:02.79 ID:VpymNLoy0


(……は?)

智代子「げ、ゲームが……動機……なの?」

モノクマ「はい! こちらのゲームはホラーサスペンスを題材にしたADVゲーム! みんなでプレイすれば心もハラハラ不安でドキドキ! その焦燥に駆られてコロシアイに挑むこと請け合い!」

美琴「え……?」


流石に全員が全員困惑した。
前回の動機は、少なからず全員にゆさぶりを与えてきて、その結果一番動揺の大きかった七草にちかの堰が決壊することとなり、コロシアイになったのに。
今回はゲームで不安を煽る……?
ずいぶんとこじんまりした、的を外れたような動機で拍子抜けだ。
だが、まだ警戒を緩めるわけにはいかない。モノクマのことだ、ただそれだけで終わるはずもない。


ルカ「おい、モノクマ……このゲームをクリアしないと私たちを殺す、なんて言い出さないよな?」

美琴「ルカ……」

ルカ「だってそうだろ、こんなゲームだけだなんて怪しすぎる……絶対裏があるはずだぞ」


762: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 23:00:12.64 ID:VpymNLoy0


だが、モノクマは私の質問を受けても表情を特に変えることもなく。


モノクマ「そんなペナルティなんかないよ! むしろ逆、クリアした人にはクリア特典を用意しています! ま、それがいらないならプレイしなくたっていいよ」

摩美々「えー、じゃあなんのために呼んだのー?」

モノクマ「ボクは純粋に南国生活に飽き飽きしているだろう皆のために、新しい娯楽を用意しただけのこと! 後はオマエラに全部お任せするよ」

(……マジか)

モノクマ「じゃあね! プレイした感想、是非後で教えてね!」

バビューン!!


私たちに任せる、その言葉は文字通りの意味らしい。モノクマはそれ以上何も言うこともなく、すぐに姿を消してしまった。
プレイするもしないも私たち次第。あいつはクリア特典がある、としか言ってこなかった。


763: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 23:01:08.07 ID:VpymNLoy0


智代子「なんだか拍子抜けだね……てっきり誰かを人質にとるとか、物騒なことを言い出すのかと思ったけど」

愛依「で、ゲームはケッキョクどーする……?」

摩美々「決まってるでしょー、こんなの無視するに限るってー」

結華「まあそれが賢明だよね……クリア特典って言われても、そんなにメリットがあるとも思えないし……」

冬優子「その特典こそがコロシアイの動機になっちゃうかもしれないもんね……」

あさひ「えー、やっちゃダメなんすか?」

夏葉「モノクマが提示してきた動機である以上、なんらかの意図が絡んでいるのは明白よ。あさひの好奇心はわかるけど、ここは我慢してもらえないかしら……」

あさひ「むー……」

雛菜「……透先輩、どうする~?」

透「……まあ、やっちゃダメっぽいし。うちらもそれに従っとこ」

雛菜「は~い」


その場に居合わせた人間の相違は『無視』。
プレイしないことで生じるデメリットも特にないし、クリアで得られるメリットも詳細不明。
わざわざそんな怪しいものに手を付ける理由もないだろう。

でも、それゆえにモノクマの意図が読めない。
このゲームにアイツは何を隠している?
このゲームで本当に、コロシアイが引き起こされると思っているのか……?


764: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 23:02:13.71 ID:VpymNLoy0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


あれから特に何事もなく、全員で公園を出てそれぞれの部屋に戻った。
美琴もここ数日のオーバーワークを受けて、今日は早くに休むらしい。
また元気になったら、私と一緒に練習もすると言ってくれた。


「……へへっ」


コロシアイの動機も大したことない、美琴との約束も取り付けた。
なんだかすべてがうまく進んでいるような気がした。
あんなに不気味で仕方なかった満月も、今やそれほど怖くもない。
月明かりに照らされるどこか厳かな空気の夜に、私は静かに目を閉じた。


……でも、今になって思えば。
この時の私は呑気が過ぎていた。
ゲームをプレイしない、だなんて口約束。
美琴と仲直りする前の私なら信じるはずもなかったのに。


765: ◆zbOQ645F4s 2022/01/17(月) 23:03:05.82 ID:VpymNLoy0






人は強くなれば、どこかが必ず弱くなる。
人を信じるということは、いずれ誰かに裏切られるということなんだ。







767: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:01:37.35 ID:rPjYemXB0

____
______
________

=========
≪island life:day 9≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』

美琴との不和を解消してから、目覚めがいい。
他の連中の目を避けるようにして行動していたが、今はそんな気兼ねもしていないから随分と楽になった。

ただ、やはり昨日発表された動機は少しばかり気がかりだ。
全員で島を渡り、解散するまでは私も同席して見届けたが、あの後深夜にコッソリ誰かが抜けだして筐体に手を付けた可能性は多分にある。

だとしても、それを明らかにする術などないし……

(……今は考えても、仕方ないか)

とりあえずは美琴に会うためにレストランへと向かうことにした。


768: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:03:06.46 ID:rPjYemXB0

-------------------------------------------------
【レストラン】


結華「ルカルカおはよう!」

ルカ「おはよう」

結華「ホント毎朝毎朝別人じゃないかって思うよ……」


随分な言われようだが気にも留めない。
今日も一直線に美琴の隣の席についた。


美琴「おはよう、ルカ」

ルカ「おっす……あ? お前……シャワーでも浴びたか?」

美琴「え? ……うん」

ルカ「やっぱな、いつもの美琴と違って石鹸の匂いがしたからよ。朝からジョギングでもやって来た口か」

美琴「すごいね、わかるんだ」

ルカ「まあお前の相方やってた時期も短くはないからな」


私が自慢げに答えると、美琴は少し気恥ずかしそうにはにかんだ。


769: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:05:20.94 ID:rPjYemXB0


摩美々「まあ、昨日の今日なんで一応確認しときますケドー。あのゲームやった人っていますかぁ?」

(……誰も手を上げない)

夏葉「昨日全員で決めた通り、あのゲームは無視することにしましょうね。何が引き金になって事件を導くかもわからない、得体のしれないものには関与しない方が吉よ」

果穂「はい! みんなでルールをまもれば安心ですね!」

ルカ「……ま、大丈夫だろ。そこの中学生には首輪でもつけておいた方がいいかもしれないけどな」

あさひ「え……わたしっすか?」

結華「あはは、でもあさたんも分かってくれてるはずだから大丈夫だと思うよ?」

あさひ「昨日夜にやりに行こうと思ったら冬優子ちゃんにすごく怒られたっす、だからもうやらないっす!」

結華「前科はあったんだ……」

冬優子「あさひちゃん、みんなで決めた約束はちゃんと守ろうね?」

あさひ「はっきりダメって言われなかったから、別にいいと思ったっす。でも、みんなが嫌ならやらないっす」

(おいおい、大丈夫かよ……)

智代子「誰も動機に触れてないんだったら大丈夫! 今日もいつも通りに脱出に向けて調査だね?!」

摩美々「それと、ノクチルの二人の懐柔かなー」

千雪「透ちゃんと雛菜ちゃん、大丈夫かな……」

ルカ「この前遺跡で会った時、私たちの邪魔はしないとは言ってたし……一応はそれを信用するしかねーだろ」

美琴「……」


朝食会はゲームに触れたかどうかの確認で終わった。
全員それにはノーと言う返答をしたが、その真偽のほどは定かではない。

信用するしか、ないのか……?


770: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:06:23.14 ID:rPjYemXB0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


ただ、調査と言っても目新しい成果など出てこないし、同じところをなぞるようじゃどうしても退屈を感じてしまうのも確か。
でもこの退屈に負けちゃいけない。
あのゲームでこの退屈を紛らわせようなんて、そんな邪な考えを抱く前に、思考を他の連中との交流で埋め尽くせ。

今はそれしかない。


【自由行動開始】

【事件発生まで自由行動は残り3回です】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…84枚】
【現在の希望のカケラ…21個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


771: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:22:49.81 ID:RKlOEZCI0

2


772: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:28:32.57 ID:rPjYemXB0

2 選択

【第1の島 ビーチ】


要らないものをひたすらに他の連中に押し付けてきたが……こう手元にほとんど残ってないとそれはそれで寂しいものがあるな。
確かこのヤシの木に取り付けられてる機械でアイテムの補充ができるんだったか?

実用的なものが何か出てこないとも限らないし、ちょっとだけやってみんのもありだな……


-------------------------------------------------

【モノモノヤシーンに挑戦します】

【使用するメダルの枚数を指定してください】

【現在のモノクマメダル枚数…84枚】

↓1


773: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:34:09.04 ID:RKlOEZCI0

15


774: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:37:51.69 ID:rPjYemXB0

15枚選択

【コンマ判定を行います】
【このレスより直下15回連続でコンマ判定を行い数値に応じたアイテムを獲得します】

↓1~15 ※連投可


775: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:42:42.87 ID:RKlOEZCI0



776: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:43:32.16 ID:RKlOEZCI0



777: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:44:52.18 ID:RKlOEZCI0



778: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:45:31.49 ID:RKlOEZCI0



779: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:46:17.00 ID:M0Z4njArO

せい


780: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:46:34.24 ID:RKlOEZCI0



781: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:47:31.22 ID:M0Z4njArO

ほい


782: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:47:52.94 ID:RKlOEZCI0



783: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:48:09.88 ID:M0Z4njArO

はい


784: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:50:09.48 ID:eyRM9GZ40

むんっ


785: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:50:44.32 ID:RKlOEZCI0

はい


786: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:50:56.03 ID:M0Z4njArO

あい


787: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:51:46.72 ID:eyRM9GZ40

ほわっ


788: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:52:12.79 ID:RKlOEZCI0



789: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 21:53:47.64 ID:M0Z4njArO

えい


790: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 21:56:58.64 ID:rPjYemXB0


【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【シルバーリング】
【メスシリンダー】
【ドライビングニトロ】
【第二ボタン】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】
を手に入れました!


「……ガラクタが15個ってとこか」


気まぐれに回しては見たものの、どれも使い道に困る品ばかり。
結局は他の連中に押し付ける廃品回収にしか使えなさそうだな。


「……はぁ」


またこいつらの押しつけ相手を探す冒険の始まりだな。

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…69枚】
【現在の希望のカケラ…21個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


791: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 22:06:05.61 ID:eyRM9GZ40

1 千雪


792: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 22:15:06.67 ID:rPjYemXB0

1 千雪選択

【第2の島 図書館】

しょうもない道具ばかりがまた溜まってしまったが、あの中学生なら予想外の所に興味を持つだろう。
そう思ってこの前あいつに会った図書館にやってきたが、出会ったのは別の人物だった。


ルカ「よう、読書中か」

千雪「あら、ルカちゃん? ごめんなさい、探してた?」

ルカ「いや、別に。ちょっとぶらついてただけだ……あ、読んでる途中なら別にいい。そのままで」

千雪「ううん。せっかく来てくれたんだもの、お話したいわ」

ルカ「私もただの気まぐれだしな……それなのにお前の邪魔しちまうのは流石に……」

ルカ「それならこうするか、私もここで本を読む。お前もそのままでいい」

千雪「……! 読書会ってこと?」

ルカ「まあな。……でも普段活字なんか読まねーからよ、お前のオススメとかあるか?」

千雪「任せて、ルカちゃんにちょうどおすすめの本があったの! えっと……どこかしら」


本をじっくりと読むなんていつ振りだろうか。
普段身を置かない時間の過ごし方を体験して、なんだか新鮮な気分だ……

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【シルバーリング】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【ドライビングニトロ】
【第二ボタン】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


794: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 22:19:22.89 ID:eyRM9GZ40

1 第二ボタン


798: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 22:28:27.01 ID:rPjYemXB0

大丈夫です!
ちょっとズレちゃっただけだと思うのでお気になさらないでください~

794の安価を採用しますね

-------------------------------------------------

【第二ボタンを渡した…】

ルカ「お前、裁縫とか好きだったよな? これ、使えんじゃねーのか?二

千雪「あら、ボタン? そうね……お洋服に縫い付けることぐらいはできるけど……これって制服のよね?」

ルカ「ん……まあ、そうだな」

千雪「しかも、これって卒業式に憧れの先輩からもらうものじゃない?」

ルカ「……あ?」

千雪「ふふっ、ありがとう。ルカちゃんの気持ちはちゃんと受け取りました!」

ルカ「待て……なんか変な誤解してねーか? 違うぞ、違うからな……?」

【PERFECT COMMUNICATION】

【親愛度がいつもより多めに上昇します!】

-------------------------------------------------

こいつともよく話をしてきたが、その実こっちはこいつの事を未だよく知らない。
283プロのアイドルということで関わることを避けて来たし、興味もそこまで持たないようにしていた。
アルストロメリアっつーユニットで、双子の姉妹と三人でアイドルをやっているという話だったか。それすらあいまいだ。


ルカ「なあ、お前んとこのユニットの話聞いてもいいか?」

千雪「……? それって、アルストロメリアのことかしら?」

ルカ「ああ、実際あんまよく知らねーんだよ。283のアイドルとまともに関わってこなかった……ていうか共演は避けてたし」

千雪「そうかー、どこからお話しようかな。甜花ちゃんと甘奈ちゃんのことは知ってる?」

ルカ「双子の姉妹だろ? 名前ぐらいは知ってっけど」

千雪「そう、とっても仲良しのきょうだいでね。二人ともお互いのことが大好きみたい」

ルカ「ふーん……」

千雪「この前も二人で買い物に行ったみたいで、甜花ちゃんが甘奈ちゃんのコーデで可愛く大変身してたの!」

(アルストロメリアってのはいわゆる『かわいい』の権化みたいなユニットだ)

(私みたいなやつとは魔反対、共演でもしようもんならソフトクリームにタバスコソースをぶっかけるようなもん。要は水と油ってわけだな)

千雪「それによく一緒に寝てるし……」

ルカ「……ん?」

千雪「そういえばこの前甘奈ちゃんが甜花ちゃんの歯磨きするときの歯ブラシを新しくしたって言ってたっけ……」

ルカ「お、おい待て待て! なんだ……その、そいつら! 双子の姉妹、なんだろ? 双子ってことは年齢も離れてねーし……それに、そんなに幼いわけじゃないだろ?」

千雪「まだまだかわいい高校2年生よ?」

ルカ「十分な年じゃねーか……」

(お、おいどうなってんだ……いくら仲が良いったって度を超えてるだろ……)


1.そんだけ仲良かったらお前の挟まる隙間もないんじゃねーのか?
2.おかしいと思わねーのか?
3.自由安価

↓1


799: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/18(火) 22:33:31.40 ID:GTGUjbij0

1


800: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 22:43:37.52 ID:rPjYemXB0

1 選択

私があまりコミュニケーションが不得手だということもあるが、そんな二人の間に割り込むなんてまるで想像できない。
ましてやこいつはそこそこ年上と来た。
まるでユニット内部の様子がイメージできない……


ルカ「なあ、その……失礼な言い方かもしれねーけどさ。そんだけその姉妹の中がよかったら、お前の挟まる隙間もないんじゃねーのか?」

ルカ「二人だけで世界が完結するっつーか……」

千雪「あら、そんな風に聞こえちゃった? ふふ、ご心配には及びません。私もその姉妹の一人なんですから」

ルカ「はぁ?」

千雪「かわいい妹二人みたいなものでね、二人ともよく慕ってくれるし……私も二人のことを頼っちゃうんだ」

千雪「別に二人の間をこじ開けたりなんかしなくても、あの二人なら大丈夫。それに、前にも話したでしょ?」

千雪「私たちは、素直に気持ちをぶつけ合える間柄だから」

ルカ「……!」

ルカ「ハッ、いらぬ心配ってわけか」

千雪「ふふっ、ルカちゃんからしたらイメージつきにくいかもしれないけど……年の差があるっていうのも結構いいものなんだぞ」

千雪「アルストロメリアは仲良し三姉妹、今は胸を張ってそう言えるんだ」


……なるほどな、私の物差しが古かったってだけの話か。
美琴と和解する前の私からすれば人と人の間の関係性はもっと格式ばったもので、その線上にない者を拒絶するものだとばかり思っていた。
でも、こいつが教えてくれた自分の気持ちを素直に伝える、それさえあれば別の関係性の結び方もあるってことなんだもんな。

まだ私にはイメージが難しい関係性であることは間違いないが、その一端を掴むことができた。
……そんな気がする。


-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…7.0】

【希望のカケラを入手しました!】

【現在の希望のカケラの数…22個】


801: ◆zbOQ645F4s 2022/01/18(火) 22:45:53.96 ID:rPjYemXB0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


283プロのユニット、前まではまるで興味を持ちもしなかったが今は少し違う。
自分のこれまで知らなかった世界に触れるってのも案外悪くねーもんだな。

……ハッ、すっかり丸くなりやがって。
我ながら滑稽だ。


【自由行動開始】

【事件発生まで自由行動は残り2回です】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…69枚】
【現在の希望のカケラ…21個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


803: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/19(水) 00:34:59.44 ID:Fy7Py5ZN0

1 千雪


805: 自由行動、千雪選択より再開します ◆zbOQ645F4s 2022/01/20(木) 20:57:51.05 ID:NxZO6r4R0

1 千雪選択

【第2の島 ドラッグストア】


この島に来てからというもの、時々頭痛に襲われることがある。
多分環境が変わったことと、更にはストレスもあっての偏頭痛だと思うがいい加減煩わしい。
いつも使っている頭痛薬はあるだろうかと覗いてみると、またあいつの姿があった。


千雪「あら、よく会うねルカちゃん。どうしたの?」

ルカ「お前私の後をつけて先回りしてんじゃねーよな……? まあいい。私はただ頭痛薬を取りに来ただけだ、お前こそなんでこんなところにいんだよ」

千雪「うん……このドラッグストアって危険なお薬もあるじゃない? 時々様子を見に来て、持ち出されてないか注意してるの」

ルカ「マジか……お前、マメなんだな」

千雪「マメっていうか、心配性なだけなのかも」

ルカ「まあこの島ではそれぐらい危機意識が高い方がいいと思うぜ、で、大丈夫なのか?」

千雪「うん、全部揃ってるし動かされた様子もないから、とりあえずは」


こいつ、お節介な女だとは常々思ってたが、ただ心配性なだけなのか……?
この島に来てから、気が休まる瞬間はなさそうだな……

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【シルバーリング】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【ドライビングニトロ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】
【オカルトフォトフレーム】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


806: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/20(木) 21:03:55.92 ID:DE4dap/n0

1 オカルトフォトフレーム


807: 生乾き 2022/01/20(木) 21:13:45.23 ID:NxZO6r4R0


【オカルトフォトフレームを渡した……】


ルカ「……ん」

千雪「あら、また廃品回収? ふふっ、よく溜まるのね」

ルカ「うるせーよ、要らねーなら返せ」

千雪「ダメです、これはもう私の物なんだから。……あら、フォトフレーム?」

ルカ「なんかこういう思い出とかって、お前らは大事にしそうだと思ってよ。なんか適当に写真入れとけ」

千雪「ふーん……」

千雪「……ルカちゃん、このフォトフレーム写真を入れた瞬間になんだか変わった編集をされるんだけど」

ルカ「え? ……ゲッ」

千雪「心霊写真……になっちゃうフォトフレームみたいね」

(うっ……別のものを渡すべきだったか……?)

-------------------------------------------------

この前はユニットのやつの話を聞いてみたが、今回はこいつ自身の話を聞いてみるか。


ルカ「そういえばお前、ラジオしてんだよな。……なんだっけ」

千雪「もしかして、パジャマ・ジャム・ジャミングのこと? 知ってくれてるなんて嬉しいなあ……もしかして聞いてくれたりなんかも……?」

ルカ「まあ深夜の時間帯だからな……ラジオつけっぱだとたまに」

(やけ酒なんかした晩に、偶然耳にした程度だけど)

ルカ「なんかやたら人気だよな、お前のラジオ」

千雪「どれくらいの人に聞いていただけてるのかはわからないけど……お便りを毎週送ってくださる方もいて、私の番組を楽しみにしてくれてる人がいるって言うのはすごく有難いことだと思ってるかな」

(まあ、こいつに話を聞いてもらいたくなるって言う視聴者連中の気持ちも分かるっちゃ分かる)

(ちゃんと話を聞いたうえで、重くなりすぎないように機転の利いた、ちょっぱし“お茶目”な切り返しをしてくるんだもんな)

ルカ「でもたまにはあるんじゃねーか? 返事に困るお便り、みたいなの」

千雪「うーん……そうだなぁ、返事に困るというか、全くこれまでの人生で出会うことのなかったお話が届くことは時々あるかも」

千雪「もちろん作家さんがある程度は選んでくれてるんだけど、時にはすぐにいい返しの思いつかないお便りもあってね、その時には自分の未熟さを実感しちゃう」

ルカ「それこそお前みたいなのは変に粘着質な野郎からのお便りとか有りそうだもんな」

千雪「でも、どんなお便りでも……この人は誰かに今の自分の気持ちを知ってもらいたい、聞いてほしいからお便りを送ってくれてると思うの。だから、私はその一つ一つをちゃんと拾えるようなパーソナリティになりたいって思うかな」

ルカ「ハッ……まるでカウンセラーだな」


なるほど、こいつはラジオをやること自体結構気に入ってんだな。

私のとこに来るのは変に自己陶酔した、私のイメージを誇大解釈したようなハガキばっかり。
アイドルとしてのキャラクター像の違いはこういうところにも出るのか……

1.今度ゲストに呼んでくれよ
2.やっぱ番組によってリスナーも違うんだな
3.自由安価

↓1


808: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/20(木) 21:21:03.37 ID:DE4dap/n0

1


809: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:23:17.95 ID:NxZO6r4R0

>>807はトリップをミスしていますがIDでわかる通り>>1です
進行には支障はありませんが、一応トリップを以後変更して書き込みます

-------------------------------------------------

ルカ「……なあ、今度お前の番組にゲストに呼んでくれよ。なんかお前の話聞いてると、そのリスナー連中のお便りっての読んでみたくなった」

千雪「あら、いいの? 大歓迎、むしろこっちからお願いしたいくらい!」

ルカ「いっつも私んとこに来るのはなんか気色の悪い文面ばっかだからな……お前んとこのやつ読んで息継ぎしてーんだ」

千雪「こら、そんないい方しちゃダメよ?」

ルカ「お前も私のとこのやつ見たらきっと考えが変わるぞ。カミサマだなんて言って持て囃す連中なんだ、察しはつくだろ?」

千雪「うーん……でも、ルカちゃんのことが大好きで送ってくれてることには変わりないじゃない?」

ルカ「大好き、ねぇ……?」

千雪「それはともかく、番組に来てくれるのは嬉しいな。二人でどんなお話しようかしら」

ルカ「あー……そういやそうだな、こういうオフじゃなくて外向きの会話だもんな」

千雪「あんまりいつもみたいにルカちゃんをいじったら悪いかしら」

ルカ「いじってる自覚はちゃんとあったんだな……」

千雪「ふふっ、ルカちゃんの反応がいいから」

ルカ「……ハッ」

今に笑い澄ましてろ、私がラジオに出るときにはむしろこっちが責め立ててやる。
トークペースをかき乱しまくってやるから覚悟も決めておくんだな。

……そのためにも、まずは生き残んねーとな。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…8.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…23個】


810: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:24:40.49 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『ただいま、午後十時になりました』

『波の音を聞きながら、ゆったりと穏やかにおやすみくださいね』

『ではでは、いい夢を。グッナイ…』


昨日は動機の発表があって思うように行動できなかったけど、今日はまた美琴も自主練を再開しているはずだ。
ちょっと顔をのぞかせてみるか。


811: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:27:10.19 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【第1の島 ビーチ】


ルカ「おー、やってるやってる」


美琴は相変わらず海を背景にして一心不乱に舞い踊っていた。
でも、これまでとは明らかに違う。
自分をぞんざいに扱った、乱暴という言葉でひとくくりにできるようなそれではない。
自分の身を痛めつけることもなく、見るものが思わず息をのむ美しさを持った、
それでいて情熱と気迫とを感じさせるような……【美琴らしい】美琴の姿があった。


ルカ「おーい、美琴―」

美琴「……はぁっ……はぁっ……」

ルカ「……ハッ、相変わらずの集中力だな」


懐かしい。同じ事務所に所属していたころのことをつい思い出す。

仕事終わりに事務所に帰ると、レッスン室の明かりがまだついていて、
そこからはシューズとフローリングとが立てるイルカの鳴き声のような音が聞こえてくるのだ。
扉を開けると、一気に彼女の熱気がわたしを包む。
散らした汗と、上がる体温、口から洩れる息吹。
退屈な仕事で冷め切った私を一気に引き戻してくれるその瞬間が、たまらなく好きだった。

扉が開かれようとも、声をかけられようとも、彼女は気づかない。
その目は鏡に映る自分の動きを見るために、その耳は流れるBGMと自分の体の立てる音を聞くために。それ以外の用途の一切がそぎ落とされているのである。


ルカ「……しゃーねーな」


だから、私は彼女の隣で同じように踊るのだ。
パフォーマンスは、ライトが照らす全員を統合することで完成する。
最高のパフォーマンスを追求する美琴からすれば、同じ舞台に上ってきた人間を気にしないわけにはいかないのだ。


美琴「……ルカ、ちょっと鈍った?」

ルカ「ハッ、生意気言ってんじゃねーよ」


そこからは、ステージの幕開けだ。


812: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:28:45.63 ID:NxZO6r4R0


____
______
________


ルカ「いったん休憩、いいな?」

美琴「あ……うん。そうだね」


美琴は自分じゃ休憩を取らない。
休んでいる時間があるなら、それもレッスンに充てねばならないと本気で思っている人間だ。
だからそういう調整は私の役目。美琴にタオルと水とを手渡した。


美琴「……あれ」


汗をぬぐいながら美琴がぽつりとつぶやいた。


ルカ「……どうした? 美琴」

美琴「いや、今……誰か通った気がしたんだけど」


美琴はビーチ入り口から続く、島を一周する道を指さした。
ここを抜けて左手にその人物は走っていった、と美琴は主張する。


ルカ「……こんな時間にか?」

美琴「……勘違いだったのかな?」


今はもう夜時間が始まって一、二時間は経とうかという頃合い。
普通なら出歩きはしないと思うが……


美琴「ごめん、大丈夫。とりあえずあと少しだけやろっか」

ルカ「お、おう……」


今から追いかけたとてその正体がわかるとは思えない。
一旦その人物のことは他所において、練習を再開することにした。


813: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:29:54.67 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


「美琴のやつ……相変わらずだな」


一体あの底なしの体力はどこから来るのか。
ほんの少し付き合っただけでこんなに疲労がたまるのに、あいつは平気な顔してばかり。
昔からこういうところが癪。


「……つくづくアイドルだよ、美琴は」


水槽のヤドカリを指でつついて、そう漏らした。

美琴は私なんかよりよっぽど技術が高いし、スター性だってある。
でも、それでも私は美琴を夢の舞台へ連れていくことは適わなかった。
それは七草にちかも同じことで。


「……頑張んないとな」


弱音を吐いてなんかいられない。
今私がすべきことは、一刻も早く体を休ませてまた美琴に追いつくための努力をすることだ。

すぐにベッドに横になって目をつむった。
意識が遠のくまでに時間はかからなかった。


814: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:31:12.03 ID:NxZO6r4R0

____
______
________

=========
≪island life:day 10≫
=========

【ルカのコテージ】

キーン、コーン…カーンコーン…

『えーと、希望ヶ峰学園歌姫計画実行委員会がお知らせします…』

『オマエラ、グッモーニンッ! 本日も絶好の南国日和ですよーっ!』

『さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょう~!』


美琴と練習した翌日。
予想通りというか、予定通りというか……私の身体には疲労が残り、筋肉痛もひどくなっていた。
ソロ活動を始めてからはそこまで激しい振り付けなんかはやってこなかった、
美琴がダンスの道をとことん追い求めたのとは対照的に、私が武器にしたのは歌唱力だった。

フラストレーションをぶつけた歌詞と歌声とは、不思議と同世代の女から注目を集めて、今の立ち位置。
芸能界というのはよくわからない。
まあ、今この島にいる限りはそんな人気や注目だなんてのも意味をなさないのだけど。


「……よし」


それよりも、今はこの久しぶりの痛みが心地よい。
美琴という人間の存在を強く実感できるこの痛みが、何よりも嬉しいのだ。

私はどこか浮足立つ気持ちを抑え、レストランへと向かった。


815: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:32:48.80 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【ホテル レストラン】


もはや私がやってくることに驚く人間はいなくなった。
適当に挨拶をこなせば、すぐに美琴の隣にいける。
そうしてまた食事をして、会話にも少しは混ざる。

穏やかな日常というものが、少しずつだが形成されつつあった。


結華「え? は、花火大会?」

あさひ「はいっす! 昨日、愛依ちゃんと一緒にスーパーに行ったらこ~んなおっきな打ち上げ花火があったんすよ! せっかくならみんなでやりたいっす!」

愛依「スーパーには手持ち花火とか線香花火、ねずみ花火なんかもあったし。せっかくならうちもやってみたいなって思って~」

あさひ「公園とか海岸とか、花火ができそうなところもいっぱいあるっすよ!」

摩美々「公園は今は無理じゃないー? あのゲームの筐体があるわけだしさー」

あさひ「じゃあ第2の島の海水浴場っす! あそこならシャワールームに荷物を置いたりできるっすよ!」

結華「まあ確かに都合はいいか……」

ルカ「おい、美琴。花火だってよ」

美琴「花火か……あんまりやったことないかも」

ルカ「だよなー……」


東京でも結構あちらこちらで花火大会なんかはやっているものだが、美琴からすればそんな時間あるなら……以下略。
手持ち花火すらもまともに触ったこともないんじゃないか?


816: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:34:01.02 ID:NxZO6r4R0


果穂「たのしそうですー! あたし、やりたいです! 花火!」

千雪「これだけ人数がいれば、花火も見ごたえがありそうね」

摩美々「ま、いいんじゃないー? どうせ時間ならたっぷりあるんだしー」

恋鐘「やるんだったらちゃんと安全には注意せんといかんよ! バケツにありったけの水をため込んでおくばい!」

夏葉「手伝うわ、恋鐘。せっかくなら安心してみんなに遊んでほしいもの」

結華「もうやる方向で進んじゃってるけど、みんなは大丈夫?」

冬優子「うん♡ ふゆ、なんだか今からワクワクしてきちゃう!」

ルカ「私たちも異議なしだ」

結華「よし、決まりっ! それじゃあ今晩は第2の島の海水浴場で花火大会!」

あさひ「やったっすー!」

果穂「やったー!」


817: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:35:27.62 ID:NxZO6r4R0


美琴「……問題は、あの二人だよね」

結華「とおるんとひななんかー……」

恋鐘「ずっとうちらのことを避けとるけん、ここ数日はまともに会話もできとらんたい……せっかくなら二人も一緒に遊んでほしか……」

愛依「あっ、それならさ……おーい! モノミちゃ~ん!!」


バビューン!!

モノミ「およびですか、和泉さん!」

ルカ「は……? お前、何してんだよ……」

愛依「この前の第2の島の調査の時も、モノミちゃんが二人を呼んでくれたじゃん? 今回もそうしてくれないかな~って思って!」

モノミ「浅倉さんと市川さん、でちゅか?」

冬優子「うん……二人とも、ふゆたちと行動はしたくないって、ずっと会えてないんだ」

モノミ「うぅ……らーぶらーぶしてもらうはずが、そんな絶縁状態だなんて……」

美琴「……」

(美琴の奴、やっぱりまだ浅倉透に敵意を抱いてんだな……)

果穂「モノミさん! あたしたち、透さんと雛菜さんといっしょに花火をしたいんです!」

結華「三峰たちじゃ避けられて、説得どころじゃないから……お願いできないかな?」

あさひ「呼ぶのに成功したら花火大会にも参加していいっすよ」

(……鬼だな)


818: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:37:06.49 ID:NxZO6r4R0


モノミ「ミナサン……あちし、ミナサンが頼ってくれて感無量でちゅ……!」

モノミ「わかりまちた! ミナサンのために、あちしが一肌脱ぎまちゅ!」

愛依「さっすがモノミちゃん! 頼りになる~!」

モノミ「えへへ、あちしにできるのはこれくらいでちゅから」

摩美々「ふふー、結構扱いやすいですね。あのぬいぐるみー」

恋鐘「こら、摩美々! モノミはうちらのために動いてくれるんよ、そげん言い方はよくなかよ!」

(……まあ、モノクマに比べたらよっぽど都合がいいぬいぐるみなのは間違いないな)


モノミはそのまま促されるままに姿を消した。
アイツのことだ、きっとすぐに二人の説得に向かうことだろう。


智代子「二人はモノミに任せるから……わたしたちは準備をしなくちゃだね!」

結華「花火を持っていくのは当然として、こがたんの言ってたように安全面を考慮した用意も必要だよね」

美琴「それに加えてゴミ袋も必要かな。島での暮らしは自然に気をつかわなきゃいけない、ポイ捨てをするわけにはいかないから」

ルカ「さすが、よく気が付くな美琴!」

愛依「じゃあ、昼間のうちにその準備はしておかなくちゃ!」

果穂「えへへ、すっごくたのしみです!」

あさひ「うん! ワクワクするね、果穂ちゃん!」

千雪「ふふふ……」

結華「じゃあ分担は____」


819: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:38:48.76 ID:NxZO6r4R0


そのまま私たちは花火大会の準備に向けて話を進めることとなった。
花火を集める係、水の入ったバケツを用意する係、ごみ箱の準備をする係、花火中のお菓子やドリンクを用意する係(放クラの甘党女からの強い要望があった)……

私はどれに参加しようか……?


【花火大会の準備を行います】
【選択したメンバーとの親愛度が少し上昇する選択です】


1.花火を集める係【あさひ、果穂、愛依、摩美々】
2.水の入ったバケツを用意する係【恋鐘、夏葉】
3.ごみ箱の準備をする係【結華、千雪、美琴】
4.花火中のお菓子やドリンクを用意する係【智代子、冬優子】

↓1


820: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/20(木) 21:40:13.88 ID:X0A0TKPY0

4


821: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:50:11.30 ID:NxZO6r4R0

4 選択

【第1の島 スーパーマーケット】

花火選びはガキどもの相手をしなきゃいけないし、バケツの用意は力仕事……
美琴と一緒の仕事をしてもいいが、単純にこっちのほうが楽そうだ。
そう思い私はお菓子とドリングを用意する係に立候補した。


智代子「ルカちゃんはどんなお菓子が好き? なんでも入れて大丈夫だからね!」

ルカ「お、おう……」

冬優子「ち、チョコちゃん……それって、今晩の花火大会の分なんだよね……? 一週間の備蓄用とかではなくて……」

智代子「え? あはは、ちがうよ、流石にこれ全部わたしが食べるわけじゃないよ!」

冬優子「そ、そうだよね……」

智代子「わたしの分はまた別のカートで用意するから、これはみんなで食べる分!」

ルカ「……こいつ、小金持ちが別の用意で監視できないからってタガが外れてやがんな」

冬優子「……甘ったるいのばっかりじゃないの」ボソッ

ルカ「……? なんか言ったか?」

冬優子「う、ううん! なんでもない! ルカちゃんは何か食べたいお菓子とかある?」

ルカ「そうだな……私はこういう甘いやつよりもっとしょっぱいやつ……こういうポテトチップスとかのがいいな」

冬優子「……!」

ルカ「酒……はガキの手前入れないほうがいいか。あーでも、こういう酒のつまみみたいなやつは食いたいかもな……」

冬優子「ル、ルカちゃん入れちゃおっか! そういうしょっぱいのとか……ほら、成人してる人も何人かいるし、きっと食べてくれると思うな!」

ルカ「お? お、おう……そんじゃ入れるか……」

(気のせいか? やたらこいつが喜んでいるような……)


【親愛度が少し上昇しました!】

【現在の園田智代子の親愛度レベル…0.5】

【現在の黛冬優子の親愛度レベル…0.5】


822: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:52:05.48 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【第2の島:海水浴場】

いつだったか千雪に付き添って海水浴に付き合ったビーチにはずらりと花火大会の準備が揃っていた。
中学生と小学生は嬉しそうに手持ち花火を火も付けていないのにぶんぶんと振り回し、高校生以上は段取りと注意事項とを確認する段階に移っている。
もちろん私と美琴もその例に漏れない。


夏葉「どこまで厳格に判定を下すかはわからないけど……使い終わった花火は速やかに処理するようにしておいて。モノクマのことだから、勝手な裁量で動く恐れもあるわ」

千雪「ゴミ袋は常に用意しておくから、ポイ捨ては絶対しないようにしてね」

智代子「飲み物はシャワールームの冷蔵庫を使うことにしました! 花火大会が本格的に始まったらクーラーボックスに移動させるね!」

美琴「ビニールチェアも備え付けてあったから出しておいたよ。気軽に使ってくれて構わないから」


しかし本当に奇妙な因果だ。
まさかこの私が283プロの連中と肩を並べて花火なんかに興じることになるなんて。
しかも自分から協力して、なんだからな。


千雪「ルカちゃん、どうしたの?」

ルカ「ハッ……なんでもねーよ」


823: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:52:57.94 ID:NxZO6r4R0


結華「準備もひと段落したことですし、とりあえずは解散かな?」

恋鐘「まだ日も沈んどらんし、花火をするには少し早いばい」

智代子「花火大会自体はいつからする?」

夏葉「そうね……この前のパーティは灯織が脅迫状のこともあって夜時間以降にしていたけれど……夜時間を過ぎてからでは果穂に少し厳しいわ」

冬優子「そっか……小学生だと、九時には眠くなっちゃうか……」

愛依「じゃあ八時ぐらい? それぐらいなら日も沈んでるし、大丈夫じゃない?」

結華「そうだね、それぐらいにしておこっか」

結華「おーい! わんぱくガールズー! 花火大会は八時からだから、昼寝しておくなら今の内だよー!」


メガネ女の呼びかけに、波打ち際でじゃれあっている小学生と中学生は「はーい」と大声で返事をした。


結華「よし、それじゃ今度こそ解散だね!」

摩美々「お疲れさまでしたぁ」

千雪「花火大会、いい思い出にしましょう!」

ルカ「美琴、私たちも行こうぜ」

美琴「うん」

ルカ「……? 美琴、どうかしたか?」

美琴「……ううん、なんでもない」

ルカ「……? まあ、いいか……」

(美琴の奴……どうしたんだ?)

(今美琴がぼうっと見てたのは……ストレイライトの【ぶりっ子女】か? 一体、どうして……?)


824: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 21:54:16.05 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


花火大会の準備を終えて、私たちはそれぞれ自分の部屋へと戻った。

特に他にやることはないし……まだ時間はあるし、せっかくなら他のやつと話でもしてくるか。


【自由行動開始】

【事件発生前最後の自由行動です】

-------------------------------------------------
【現在のモノクマメダル枚数…69枚】
【現在の希望のカケラ…23個】

1.交流する【人物指定安価】※透、雛菜を除く
2.モノモノヤシーンに挑戦する
3.自動販売機を使う
4.休む(自由時間スキップ)

↓1


825: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/20(木) 22:06:04.81 ID:Q6si7nsA0

1 千雪


826: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:11:10.22 ID:NxZO6r4R0

1 千雪選択

【第2の島 図書館】


時間をつぶすにしても当てがなく、なんとなくふらっと立ち寄った。
この前あいつに進めてもらった本がことのほか面白く、続きが気になっていたというのもある。
そんな思い付きで扉を開けると、目に飛び込んできたのはあいつの姿だった。


千雪「……! ル、ルカちゃん……読書?」

ルカ「え? おう……お前、今は読んでなかったのか?」

千雪「え、ええ……何を読もうかなって迷ってたところで突然扉が開いて、びっくりしちゃった」

ルカ「そ、そうか……」

千雪「でも、せっかくルカちゃんに会えたんだし……本を読むよりも、お散歩したい気分かも」

ルカ「散歩……? まあ、いいけど……」

千雪「それじゃ決定! 島の辺りをぐるりと歩きましょう!」


そんなわけでなんだか強引に連れ出される形で散歩をすることになった。
まあ、たまには潮風を浴びるってのも悪くはないかもな。

-------------------------------------------------
‣現在の所持品

【ココナッツジュース】
【ジャバの天然塩】
【ひまわりの種】
【エプロンドレス】
【新品のサラシ】
【オスシリンダー】
【シルバーリング】
【メスシリンダー】
【トイカメラ】
【ドライビングニトロ】
【蒔絵竹刀】
【絶対音叉】
【七支刀】
【バール】

プレゼントを渡しますか?
1.渡す【所持品指定安価】
2.渡さない

↓1


827: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/20(木) 22:13:35.87 ID:X0A0TKPY0

1 シルバーリング


828: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:21:44.91 ID:NxZO6r4R0


【シルバーリングを渡した……】

千雪「わぁ……綺麗な指輪……これ、本当に私に?」

ルカ「ああ……いっつも要らねえもんばっか押し付けてばっかだから、たまにはな」

千雪「……嬉しいなあ、ルカちゃんが私のために……」

ルカ「別にそんなんじゃねえ、なんか……その、中元みたいなもんだ」

千雪「お中元は今はシーズンオフじゃない?」

ルカ「し、知らねーよ!」

千雪「ふふ、ありがとう」

(ここまで喜ばれると流石に照れるな……)

【PERFECT COMMUNICATION】

【いつもより多めに親愛度が上昇します!】

-------------------------------------------------

散歩中の話題はやはり、今日の晩に予定されている花火大会についてだった。
私はお菓子と飲み物の用意係、こいつは美琴と一緒にゴミ箱の準備。それぞれやっていることは別だったので、どんなことをしたのかの雑談に花が咲いた。


ルカ「それでよ、あの甘党女……今度はアメリカのホームパーティでも見ないようなチョコエッグ持ってきやがって」

千雪「まあ……そうなの?」

ルカ「木製のハンマーがねえと割れないようなの、花火しながら食えるかってんだ……お前らの事務所の連中、一体どうなってんだよ」

千雪「ふふ、花火大会とはまた別に遊べそうね」

ルカ「お前がやったのはゴミ箱の準備だろ? 結構地味な仕事だよな」

千雪「そうだなぁ、仕事で言えば地味かもしれないけど、段ボールをちゃんと立ててそこにゴミ袋をセットするのって案外手間なのよ」

ルカ「まあな……夏祭りとかでよく見るあれか」

千雪「そう、美琴ちゃんと結華ちゃんがてきぱきやってくれて助かったけど、一人だったら倍はかかってたと思うな」

ルカ「ハッ、お前は確かにどんくさそうだもんな」

千雪「あっ! ひどい~! また虐めたな~!」


しかし、本当につくづく思う。
あの七草にちかの裁判の後、まさかこんなことになるなんて考えもしなかった。
私が283プロの連中と一緒に遊んだり、何かを企画したり……

桑山千雪、全部全部、こいつのせいであり……こいつのおかげ、なんだよな。


1.……今日の花火大会、楽しみだな
2.もっと、いろんなことがやりたい……なんてな
3.自由安価

↓1


829: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/20(木) 22:30:19.89 ID:DE4dap/n0

2


831: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:37:24.73 ID:NxZO6r4R0

2 選択

こいつと一緒に過ごすうちに、私の中にわずかに生まれた衝動。
それは自分自身でも無自覚で、目をそむけたくなるほどに青臭い……羞恥心も抱くような。
そんな認めたくもないような言葉が、口から出た。

ルカ「もっと、いろんなことがやりたい……なんてな」

千雪「……!」

ルカ「私は、美琴ともそうそう遊んだりなんかしてこなかった……それが今、こうやって他の連中とつるんで何かやろうとしてるなんて」

ルカ「……ちょっとだけ、楽しいと思ってるのかもしれねえ」

千雪「……私ね、この花火大会は決してあさひちゃんと果穂ちゃんのためだけにやるんじゃないって思うの」

千雪「この島にいるみんなが協力して打ち上げる花火には、きっともっと大切な意味がある」

千雪「感動をみんなで共有するんだもの、きっと私たちの間にはこれまでなかったものが生まれて、今あるものはより強くなる」

千雪「ルカちゃんも、それを感じてくれたら嬉しいな」

ルカ「……」

千雪「だから、必ず。もっとみんなで色んなことをしましょうね、約束」

ルカ「……指キリげんまんなんてやらねえ」

千雪「もぅ……つれないなあぁ」


約束だなんて言葉も、長い間聞いてこなかった気がする。
この島の暮らしは、私のこれまでを大きく変えてしまっている。
良くも悪くも……


今のところ、その割合は……ちょっとだけ前者が上かもしれないな。

-------------------------------------------------

【親愛度が上昇しました!】

【桑山千雪の親愛度レベル…10.5】

【希望のカケラを手に入れました!】

【現在の希望のカケラの数…24個】


832: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:38:38.19 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【ルカのコテージ】


窓から差し込む光はいつの間にか陽光から月光へと変わり、涼しい風が吹きつける静かな夜がやってきた。
そろそろいいぐらいの時間だろう。


「……よし、行くか」


花火大会だなんて、まるで趣味ではない。
でも、美琴と本来一緒に過ごすはずだった時間、ユニットを解散してから抜け落ちてしまった時間を埋めるためには都合がよかった。
ワクワクとも違うソワソワを胸に抱きながら、私は部屋を後にした。


833: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:39:50.44 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【第2の島 海水浴場】


あさひ「あっ、来た! お~い、こっちっすよ~!」


ビーチにつくと、既に数人の姿があった。
ずっと日中ソワソワしていた小学生と中学生、そしてその世話役連中だ。


ルカ「……おう、気が早いな」

果穂「えへへ、30分前からちょこ先輩と来ちゃってました!」

ルカ「は、早くねーか?」

智代子「果穂が楽しみで居ても立っても居られないって言うから……せっかくだからあさひちゃんと愛依ちゃんを誘って!」

愛依「ホント二人ともすごく元気でさ、さっきまでは四人でビーチバレーしてたんだ~」

(これから花火やるってのに体力使って大丈夫か……?)


834: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:41:00.95 ID:NxZO6r4R0


智代子「まだみんなが来るまでには少し時間がありそうだし……ルカちゃんもせっかくだし一緒に遊ぶ?」

ルカ「え? ……まあ、いいけど」

果穂「ほんとですかー!? あ、でも5人じゃビーチバレーはできないかな……」

愛依「じゃあ鬼ごっこでもする?」

あさひ「いいっすね、負けないっすよー!」

ルカ「……ったく」


早く着いてしまったがために面倒なことに巻き込まれてしまった。
柄でもなく年下連中に付き合って走り回って……声上げて……バカみてえ。


ルカ「おっし、捕まえた!」

あさひ「ルカさん、意外と足はやいっすね」

ルカ「ハッ、緋田美琴の元パートナー舐めんじゃねーぞ!」


やってるうちに熱くなっちまってるのも相当にアホくさい話だ。

そんな素っ頓狂な時間の潰し方をしているうちに、徐々に283プロのメンツも揃ってきた。


835: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:42:32.53 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆

恋鐘「とうちゃ~~~く! ……って、なんね、もう楽しんどるばい!? うちも混ぜて~~~~~!」


速攻で鬼ごっこの輪に加わった長崎女。

◇◆◇◆◇◆

結華「おっ、やってるねやってるね! さすがの行動力だね、少女諸君!」


軽妙な言い回しで茶化すメガネ女。

◇◆◇◆◇◆

夏葉「あら、果穂に智代子はもう来ていたの? ……智代子、クーラーボックスの中身がなんだか少ない気がするのだけど」


甘党女を眉をひそめて諫める小金持ち。

◇◆◇◆◇◆

千雪「ふふっ、ルカちゃんったら……」


何を勘違いしているのか上機嫌になるのはあいつ。

◇◆◇◆◇◆

冬優子「こんばんはー、今日は楽しもうね♡」


鬼ごっこには加わらずビニールチェアに腰かけるぶりっ子女。

◇◆◇◆◇◆

美琴「ごめん、皆もう集まってたんだね」


なぜだか集合の段階ですでに汗ばんだ様子の美琴。

◇◆◇◆◇◆

摩美々「ふぁ……眠た……」


マイペースに集合時刻に遅刻して現れた小悪党。

◇◆◇◆◇◆


こうして今朝の打ち合わせに参加していたメンバーは全員そろったのだが、最終的にノクチルの二人がやってくることはなかった。


836: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:43:48.73 ID:NxZO6r4R0


あさひ「モノミ、説得ダメだったっすかね?」

果穂「透さんと雛菜さん……あたしたちのこと、きらいになっちゃったんでしょうか……」

(まあ、正直そういうことなんだろうな……)

夏葉「……いいえ、今は少しだけ気持ちが通ってないだけ。きっと二人も分かってくれる時が来るわ」

冬優子「う、うん! とりあえず今はここにいるみんなで楽しもう?」

あさひ「そっすね!」

愛依「そうそう、うちらが楽しんでたら、二人もその空気に誘われてやってくるかもしれないじゃん?!」

摩美々「そんな小学生じゃないんだからさぁ……」


とはいえ、あの二人がこれから集合するとも思い難い。
小学生と中学生をあんまり遅い時間まで待たせるのも酷だ。
私たちは今いるメンバーで花火大会を始めることにした。


あさひ「わ~~~~~! すごい、すごいっす~~~~~!」

果穂「あさひさんの手持ち花火、すっごくカッコイイですー! 色が途中でかわるんですね!」


色とりどりの手持ち花火があちらこちらで着火。
スーパーにある花火を根こそぎ持ってきたと言っていたが、なるほどこれなら数時間単位で遊べそうだ。


837: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:44:54.57 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆


美琴「えっと……これって、こうであってるのかな」

智代子「み、美琴さん!? それ、逆、逆!」

ルカ「おい、美琴……お前それ天然なのか……?」

美琴「ごめん……あんまり触ったことなかったから」

智代子「み、美琴さん!? チャッカマンから直は危なすぎるよ!?」

美琴「えっと……火をつけるんじゃなかったの?」

ルカ「あそこの蝋燭を経由するんだよ! バッカ、もう……貸せ!」

美琴「ルカ、ありがとう」

智代子「あはは! ルカちゃんもにちかちゃんと一緒で面倒見気質なんだね」

ルカ「はあ? あんなチンチクリンと一緒にしてんじゃねーよ!」

美琴「ルカ、もう火花でてるよ」

ルカ「え? あ、アッッッッッッッッッッッッツ!!!!!!!!!!!!!!!!!」


838: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:46:17.33 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆


あさひ「冬優子ちゃん冬優子ちゃん! これやってみたいっす!」

冬優子「あさひちゃん? どんな綺麗な花火なのかな?」

あさひ「これっす!」

冬優子「……よりにもよってなんでヘビ花火なのよ」

あさひ「なんか火をつけたらモリモリ出てくるらしいっす! わたし、見てみたいっすよ!」

冬優子「愛依ちゃん、やってあげてもらえるかな?」

愛依「冬優子ちゃん……やったげたいのは山々なんだけど……ちょっとごめん」

冬優子「愛依ちゃん……? どうしたの……? もしかして、体調悪い?」

愛依「ご、ごめん……うちもう無理! シャワールームのトイレにいるから、なんかあったら呼んで!」


タッタッタッタッ


冬優子「え、ええ……?」

あさひ「冬優子ちゃん、冬優子ちゃん! 早く火をつけてほしいっす!」

冬優子「はぁ……なんでふゆがこんな地味な花火を……」


839: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:47:18.68 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆


摩美々「ふははー、花火のカーテンですー」

果穂「ま、摩美々さん……! すごくかっこいいですーーーー!!」

結華「ま、まみみん!? それ何個持ち?! あ、危ないって!」

夏葉「花火を複数着火して掲げるだなんて……摩美々、その発想はなかったわ! 負けていられないわね!」

結華「な、なっちゃんまで……?! あーあー、もうめちゃくちゃだよ」

果穂「あたしも負けてられません! 残りの花火を束にして……」

結華「あー、ストップストップ! ほら、年長者がふざけると教育に悪いんだから……二人とも、いい加減にしとかないと!」

夏葉「果穂、火の扱いは慎重にしましょう」

結華「なっちゃんがそれ言う……?」


840: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:49:45.70 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆


私も他の連中に交じって適当な花火を手に取り、それをぼんやりと眺めていた。
すると、私のもとに千雪がやってきた。手には二本の線香花火が握られており、片方を私に向かって差し出す。


千雪「ほら、ルカちゃん。線香花火をどうぞ」

ルカ「お、おう……サンキュー」

千雪「せっかくだし、どっちが長持ちさせられるか勝負でもする?」

ルカ「ハッ! それじゃあ負けたほうが勝った方の命令を一つ聞く、いいな?」

千雪「乗った! ふふ、負けないぞー!」


二人の線香花火に灯がともり、戦いの火ぶたが切って落とされる。

……とはいえ、線香花火なんて地味なもの。
しゃがみこんで二人の花火を見つめているうちに、自然と言葉を交わす。


841: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:51:25.02 ID:NxZO6r4R0


千雪「……ルカちゃん、どう? 花火」

ルカ「どうって……綺麗、だよ」

千雪「うん、すっごく綺麗……でもね、この花火が今見れるのは、ルカちゃんが自分でその一歩を踏み出したから。ルカちゃんが私に相談してくれて、美琴ちゃんに気持ちを打ち明けられたから」

ルカ「別に、私はお前に相談なんかした覚えは……」

千雪「ふふ、そうね。ごめんなさい」

ルカ「まあ……でも、今こうやって過ごせて、良かったなとは思うよ」

千雪「ルカちゃん……」

ルカ「そ、その……さ。まあ、その……お前が貢献した部分も多少なりともあるのは……認めるしさ……」

千雪「……」

ルカ「あ、あり……ありが……」

千雪「……」

ルカ「あーっ! やっぱムリ、ナシだナシ!」

千雪「えー、聞きたかったのになぁ」

ルカ「お前がそんな風に含み笑いしながら見つめてくるから恥ずかしくて言えたもんじゃねーんだ! ハッ、もう一生言ってやんねー!」

千雪「もう……意地っ張りなんだから」


842: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:53:02.26 ID:NxZO6r4R0


千雪「……あ」

ルカ「あ?」

千雪「ルカちゃん、線香花火、落ちてるよ」

ルカ「え……あ、あああああ!? お、お前今のはずるだろ!?」

千雪「私は何もしてないもの、今のはルカちゃんの負けですー」

(く、クソ……!)

ルカ「はぁ……わかったよ、私の負けだ。なんでも命令を言いな」

千雪「そっか、命令かぁ……考えてなかったなぁ」


千雪は顎に人差し指を当てて、首を傾げる。
しばらく思慮したかと思うと、ぱぁっと顔を明るくしてその命令を持ち出した。



千雪「じゃあルカちゃんには、お友達を作ってもらおうかな」




843: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:53:53.59 ID:NxZO6r4R0


ルカ「は、はぁ……?」

千雪「283プロのみんなともっと仲良くしましょう!」

ルカ「い、いやいや……今も花火大会に参加はしてるだろ?」

千雪「うん、だからその調子でみんなと関わり続けてほしいの。悩んだり、苦しんだりしたときに、一人で抱え込まないように」

ルカ「なんだよそれ……」

千雪「お酒の力がなくたって、ちゃんと自分から相談できるようになりましょう!」

ルカ「はいはい、わかりましたよ……」

(……ったく、こいつはどこまで世話焼き気質なんだよ……)


と、千雪の命令に辟易していた頃。
向こうで一段と大きな騒ぎ声が上がった。その中心にいるのはやはりあの小学生と中学生。
二人は長崎女を囲むようにして、目を輝かせている。


844: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:55:04.83 ID:NxZO6r4R0


恋鐘「打ち上げ花火もやるばーい!」

あさひ「わっ! すごいすごい! 本格的っす!」

恋鐘「ふふーん! スーパーにあったとっておきたい! 見とって! 夜空にばり眩しか花火打ち上げちゃるけん!」

果穂「恋鐘さん、あたし今から心臓がどきどきしてます!」

摩美々「恋鐘、それ大丈夫なやつー……?」

恋鐘「確かウルトラスペシャルビッグ花火って書いてあったばい」

摩美々「うさんくさー……」

結華「まあ花火コーナーにあったやつなら大丈夫じゃない? それより、みんなちょっと離れとかないと危ないかもだよ」

果穂「わかりました! あさひさん、はなれたところで打ちあがるところは見ましょう!」

あさひ「うん! 冬優子ちゃんのところで一緒に見よう!」


他の連中が離れたのを確認して長崎女が打ち上げ花火の導火線に火をつける。
長崎女もすぐにその場を離れ、私たち全員はその花火筒に視線を注いだ。


845: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:56:38.36 ID:NxZO6r4R0


あさひ「どんな花火が打ちあがるのかな!」

果穂「恋鐘さんはどんな花火なのか知ってるんですか?」

恋鐘「うちも知らんとよ、花火の説明はあんまり書いてなかったけん」

冬優子「こ、恋鐘ちゃん……それ、大丈夫なんだよね?」

夏葉「見て! もうすぐ導火線を燃やし尽くして、花火そのものに着火するわよ!」


小金持ちの言うとおり、火は花火本体に到達。
あと数瞬のうちにパーンという音とともに宙にそれが打ちあがる。


智代子「あ、あれ……打ちあがらないね……?」


ただ、花火はまるで無反応。


恋鐘「おかしかね~……確かに火は到着したはずやけんど……」

あさひ「……? なんか様子が変っすよ?」

ルカ「……あ? なんだ、あれ」

美琴「ルカ?」

ルカ「……あの花火筒の中、なんかヘンじゃねーか?」


むしろ、その火はそのまま花火を焼き尽くすほどの勢いで燃え上がり……その表面を包んでいた紙はだんだんと焼き切れていく。
そして、その中にあった、それが姿を現した。


ルカ「……あれって」


……【爆弾】だった。




846: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:57:51.12 ID:NxZO6r4R0


夏葉「みんな、急いで離れて! とにかく走るのよ!」

恋鐘「ふぇ~~~~~~~!? なんで、花火に爆弾がまざっとーと!?!?」

結華「こがたん、原因理由は今は後! 早く逃げないと!」

智代子「果穂、手を放しちゃダメだよ!」

果穂「ちょこ先輩、ありがとうございます!」

冬優子「あさひちゃん、どこ!? 逃げないと……危ないのに!」

あさひ「冬優子ちゃーん! 早く逃げないと危ないっすよー!」

冬優子「なんでふゆより後に気づいたくせにあんな遠くにもう逃げてんのよ……!」


小金持ちの呼びかけに応じた私たちは蜘蛛の子散らして一目散にビーチの外へ。
あの爆弾がどれほどのものなのかわからない私たちは振り返る余裕もなくとにかく遠くへ遠くへ。
そうやって走り抜けて、ダイナーの前程まで進んだとき頃だっただろうか。



ドッカーン!!




847: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 22:59:22.79 ID:NxZO6r4R0


背後からけたたましい爆発音が響いた。
それと同時にすさまじい衝撃が走る。まるで地震でも起きたかのように地面がぐらつき、私たちはその場に膝をついた。


ルカ「おいおい……マジかよ」

美琴「びっくりした……」

恋鐘「ハイパージャンボメガ花火は爆弾だったばい……?!」

摩美々「さっきと名前変わってないー……?」

果穂「あ、あぶないところでした……あのままみんなで花火を囲っていたら、あたしたち……」

智代子「うぅ……間一髪だったね」

あさひ「あはは! すごいドキドキしたっす!」


そしてタイミングを狙いすましたかのように姿を現したのはアイツ。


バビューン!!

モノクマ「PERFECT!! 見事勇者たちは攻撃を回避した!!」

ルカ「も、モノクマ……テメェの仕業か……!」


848: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:00:57.81 ID:NxZO6r4R0


モノクマ「いやはや……喜んでくれた? ボクからのビックサプライズだよ!」

冬優子「ビッグサプライズって……ふゆたちは死んじゃうところだったんですよ!?」

モノクマ「まあまあ、リアル脱出ゲームみたいなもんだよ。ちょっとばかり臨場感が強すぎたかもしんないけどさ」

結華「臨場感なんて域じゃないと思うけど……モノクマ相手じゃ言っても仕方ないか」

モノクマ「うぷぷぷ! でもテレビ番組でもよくあるじゃん、爆破ドッキリとか頻出でしょ?」

智代子「こんなに地面が揺れるほどの爆発ドッキリなんてないよ!」

モノクマ「オマエラったらあんなに必死な顔して逃げちゃって……うぷぷ、撮れ高抜群だったよ!」

美琴「そういえば……一応ロケ中って言う触れ込みだったっけ」

ルカ「……ハッ」

モノクマ「ボクもさ、一発の爆発で全員おじゃんなんてトッチラケなわけ。もし逃げるのに失敗しても死にはしないように調整はしてたさ」

ルカ「ホントかよ……」

摩美々「それよりわざわざ出張ってきて何の用―? 花火大会に水差しに来たのー?」

モノクマ「用件は今話した通りだよ。ドッキリなんだからちゃんとネタばらしをしないと締まらないでしょ?」

夏葉「締まりなら今もついてないと思うわ」

モノクマ「ま、そういう訳でボクは満足したんでそろそろ撤収しますー! あ、もう爆弾は混ざってないから花火大会中に怯える必要はないからね!」


バビューン!!


849: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:02:35.07 ID:NxZO6r4R0


智代子「本当にそのためだけに来てたんだ……」

結華「……どうする? モノクマはああ言ってたけど」

千雪「安全が確保されているなら中断する必要もないんじゃないかな? 花火もまだ結構残ってたはずよね」

果穂「はい、まだ試していない花火がたくさんあります!」

夏葉「さすがに打ち上げ花火を今からやり直すのは少し気が引けるわね……手持ちだけにしておきましょうか」

冬優子「せっかくみんなで準備したんだし、最後まで楽しめる分はやっちゃいましょう!」

あさひ「冬優子ちゃーん、いつまでそこにいるっすか? はやくビーチ戻るっすよー」

ルカ「……ったく、とんだ邪魔が入ったもんだな」

美琴「本当にね、心臓が止まるかと思った」

ルカ「よく言うぜ、美琴は表情もほとんど変わってなかったぞ」

美琴「そう?」

ルカ「昔っからそうだけどな。ほら、行くぞ」

モノクマの水差しに文句を垂れながら道を引き返す。
爆発沙汰なんて大きなものはあったが、まだ花火も半分も消費し終わっちゃいない。
それにモノクマ本人がもう危険はないと言っている以上はここで引き上げる理由もない。


……そんな中、千雪は一人立ち止まっていた。


850: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:04:17.46 ID:NxZO6r4R0


ルカ「……おい、どうした?」

千雪「……ごめん、ちょっと……透ちゃんと雛菜ちゃんのところに行ってくる」

ルカ「え? なんでだよ」

千雪「今の大きな爆発ならきっと……島中どこにいても揺れに気づいたと思うから、説明して安心させてあげないと」

ルカ「おいおいお人よしだな……そもそも居場所も分かるのかよ」

千雪「大丈夫、見つからなかったらすぐに戻ってくるから。ルカちゃんは先に行ってて!」

ルカ「え? お、おう……」


千雪は一刻も早く、といった様子で私の言葉を強引に振り切り、一人ビーチから離れてどこかに行ってしまった。
別にわざわざそんな説明までしなくとも、とも思うが、孤立状態だった私を救い上げた千雪のことだ。もうそういう性分なのだろう。
放っておくことにした。


美琴「ルカ?」

ルカ「おー、すぐ行くー」


花火大会はすぐに再開された。


851: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:05:45.50 ID:NxZO6r4R0


◇◆◇◆◇◆

結華「それでは花火大会の再開を祝して、こんなのはいかがでしょうか!」

恋鐘「なんね結華、それは打ち上げとは違うばい?」

結華「噴出花火でございます! 火をつけてしばらくするとあら不思議!」

果穂「噴水みたいに火花が出てきてきれいですー!」

あさひ「すごいすごい! 一気にいっぱいつけたらもっときれいになるよ!」

結華「ほどほどにね、さっきの今なんだし慎重にするように!」

あさひ「はいっす!」


852: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:06:36.07 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆


美琴「これ、何かな」

ルカ「え? お前、これも知らねーのか? 花輪っつって、火つけたら暴れまわるタイプの花火だよ」

美琴「暴れる? これが?」

ルカ「ったくしょうがねーな……ほら、見てな」

カチッ

バシュウウウウウウウウウ

ルカ「こんな風に光りながらくるくる回んだよ」

美琴「すごい……綺麗だね、ルカ」

ルカ「そんなに目を輝かせて……ガキかっての」

美琴「ごめんね、でもあんまり見たことなかったから」

ルカ「別に悪いなんて言ってねーだろ。ほら、次のやつも火つけるぞ」

美琴「うん、お願い」

ルカ「……ハッ」


853: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:07:31.77 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆


あさひ「冬優子ちゃん冬優子ちゃん、次はこのロケット花火やってみたいっす!」

冬優子「ごめんね、あさひちゃん。ふゆ、ちょっと行かなくちゃなんだ」

あさひ「え! 愛依ちゃんだけじゃなくて冬優子ちゃんも体調悪いっすか?!」

結華「あれ、ふゆゆ。どっか行くの?」

冬優子「うん……えっとね、ちょっと愛依ちゃんの帰りが遅いからドラッグストアでお薬とってきてあげようかなって」

結華「大丈夫? なんだったら三峰もついていくけど」

冬優子「ううん、大丈夫! すぐに戻ってくるから!」

結華「気を付けてね、もう暗いから」

冬優子「ありがとう結華ちゃん♡ それじゃ、あさひちゃんは別の人と一緒に花火を楽しんでね!」

あさひ「えー、結華ちゃんに取りに行ってもらえばいいじゃないっすか」

冬優子「ううん、ふゆの手で取りに行ってあげたいから! ごめんね、あさひちゃん」

あさひ「むー……」

結華「ほら、あさたん。三峰達と一緒に花火やろ? ちょうど今まみみんも退屈そうにしてたからさ、ロケット花火なんかいい刺激だよ」

あさひ「わかったっす……」


854: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:08:34.31 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆

ヒューーーーーー……

パンッ!!


果穂「たまやーーーーーーーーーーー!!」

あさひ「かぎやーーーーーーーーーーーーー!!」

ルカ「……なんだよ、結局打ち上げ花火やってんじゃねーか」

結華「まあ、これやらないと締めらんないでしょってことで。火をつける前にしっかり火薬の確認もしたから多分大丈夫だよ」

美琴「うん……すごく綺麗」

夏葉「ええ……幻想的な光景だわ」

智代子「だねぇ……まさか、この島でこんな景色が見れるなんて思わなかったな」

結華「あっ、そうだ! 写真撮っとこうかな、せっかくだし!」

果穂「あっ! 結華さん! あたしにもその写真貰えますか!」

結華「うん、もちろんいいよ!」

果穂「ありがとうございます! えへへ、これでこの島を出た時に樹里ちゃんと凛世さんにも見せられます!」

夏葉「果穂……ええ、そうね。今のうちにたくさん思い出話を作っておかないといけないわね」

(……)


855: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:10:32.33 ID:NxZO6r4R0

◇◆◇◆◇◆

こうして花火大会は幕を下ろした。
耳には火薬のはぜる残響が今も残り、瞼を下ろしてもあの火花が浮かび上がる。
始まる前は子供じみた饗宴と期待もしていなかったが、私は無自覚のうちに随分と楽しんでしまったらしい。
一人口角を上げている自分に気づき、慌ててその頬に力を入れる。


結華「いやぁ~、やったやった! もう花火もほとんど使いきっちゃったよ!」

果穂「はい! みなさんありがとうございました! あたし、すっごくすっごくたのしくて……この先もずっとこの花火のことを忘れないと思います!」

あさひ「またみんなで何かやるっすよ! スイカ割りとか、肝試しとか!」

智代子「き、肝試し!? そ、それは……い、いいかな……」

夏葉「ええ……おすすめはしないわ……」

あさひ「……? そうっすか?」

美琴「私も何かまたやるのは賛成かな。今日、すごく楽しかったから」

ルカ「……まあ、私も美琴が行くなら付き合うよ」

摩美々「……」

恋鐘「摩美々? どげんしたと?」

摩美々「いや、花火大会が無事終わってよかったのは良かったんだけどさぁ……」

摩美々「全然、帰ってこないなーと思って」

夏葉「そういえばそうね……千雪と冬優子……それに愛依に至っては爆発騒ぎが起きる前からその姿が見えないわ」

あさひ「……違うっすよね?」

ルカ「……あ?」


856: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:11:44.19 ID:NxZO6r4R0






あさひ「……灯織ちゃんみたいに、殺されてたりなんか、しないっすよね?」






857: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:13:02.17 ID:NxZO6r4R0


ルカ「……!!」


さっきまでの浮かれていたムードは一転、途端に緊張が走る。
まさか、そんなことあるはずがない。そう思う気持ちとは無関係にどうしても湧き上がってしまう疑念が一つ。
それは幽かに、でも確実に、存在を主張し、徐々にその領域を拡大していく。

体の震えが、始まった。


結華「念のため、探しておいた方がいいよね」

摩美々「探しておいた方がいいっていうか探さなくちゃダメだと思う……この大会に参加していない透と雛菜の動向がわからない以上は、余計にねー」

恋鐘「ま、摩美々は二人を疑っとうばい!?」

摩美々「あくまで可能性の話でしょー、ていうか今はそんなことで議論してる場合じゃない。違う―?」

美琴「そうだね、手分けして早いとこ探しておかないと」


858: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:13:54.44 ID:NxZO6r4R0


あさひ「冬優子ちゃんはドラッグストアに行くって言ったから、多分そこにいるはずっすよ。わたし、そっちを探しに行くっす」

結華「待って! 一人で行くのは危ないし……三峰もついていく!」

夏葉「とりあえずはこの島の中を探したほうがいいわね……遺跡の方も見ておきましょうか、智代子、果穂。いいかしら?」

智代子「うん、ついていくね!」

果穂「はい、わかりました!」

ルカ「私と美琴は図書館に行ってみる、いいか?」

美琴「わかった」

摩美々「じゃあ私と恋鐘で島の外周をざっと見てみよっかぁ。私が左回りで、恋鐘が右回りねー」

恋鐘「うん、任せといて!」

結華「発見次第すぐに連絡するようにしよう! とにかく……早いとこ三人を見つけないと……!」


すぐにその場で役割分担をし、散開。
この場に居合わせる全員が早くこの目の前の可能性を否定したくて仕方なかった。
万に一つの、そして私たちが一度自分の目で確認してしまった、その可能性。

絶対に在っちゃならない、その可能性を。

私と美琴も、その否定衝動に突き動かされて、走り出した。


859: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:15:59.98 ID:NxZO6r4R0

-------------------------------------------------
【図書館】


ルカ「ここだな……」


図書館は外からは中の様子が伺い知れない。
重厚な扉は中と外とを断絶するかのようで、それがこの夜の月明かりに照らされていると余計に不気味だ。


美琴「行こう、ルカ」

ルカ「……おう」


妙に静かな夜だった。
さっきまでは花火が何度も何度も打ちあがって、爆ぜる音が島中に響き渡っていたというのに、
今は風に草木が靡く音と、自分自身の心臓の鼓動しか聞こえてこない。

でも、鼓動は今やあの花火の炸裂音なんかよりもよっぽど大きい。
体の内側からドクンドクンと騒ぎ立てる爆音が、今にも心の臓を突き破って、体をバラバラにしてしまいそうなほど。

今はまだ可能性、万に一つの、あってはならない可能性。
頭ではそう分かっている、だからこの扉を引くことにそう臆す必要なんてない。


860: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:17:07.21 ID:NxZO6r4R0


でも、人間というのも一つの生命体だ。
理性よりも先に本能が立つ。
頭でわかっていることでも、本能の主張の前には無力。

本能は、今この瞬間も声高に叫んでいる。

『この扉を開けてはいけない』

咽喉元を汗が伝った。手は震えている。膝も今にも砕けそうだ。
予感はいつしか確信に変わっていた。


美琴「ルカ……」

ルカ「……クソ」


でも、だとしても、私たちは止まることは許されない。
真実に目を背けてはいけない、私は生きていくと決めた。
七草にちかという人間を切り捨てたからには、ここから先もずっと、切り捨てていく責任がある。
途中で投げ出すわけにはいかないんだ。

深呼吸一つ、覚悟を決めた。


ルカ「……行くぞ」


861: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:18:08.39 ID:NxZO6r4R0


その扉は、すんなりと開いた。

それもそのはず、鍵なんかかかっていたら、誰にでも開かれた知識と学習の場である図書館の存在意義が揺らいでしまうからだ。

いつでもだれでも、図書館は寛容に受け入れる。

そしてこの世界の知識と教養とが凝縮された何千何万もの数を揃えた本を誇らしげに開陳して待ち構えているのだ。

だから、私たちがここに踏み入れたなら、本来最初に目に入るのは、むせ返るほどの活字をその内に孕んだ本棚たちだったはずなんだ。





_____間違っても、






862: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:19:06.82 ID:NxZO6r4R0






【大量の本の山にもたれかかるようにして、腹部から血を流し首を垂れる桑山千雪の成れの果て】なんかじゃない。





863: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/20(木) 23:19:37.54 ID:NxZO6r4R0

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CHAPTER 02

厄災薄命前夜

非日常編


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867: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 20:57:15.56 ID:qKk8P9Px0

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CHAPTER 02

厄災薄命前夜

非日常編

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868: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 20:57:58.63 ID:qKk8P9Px0


遠くに波の音がした。
頭の後、そのずっと向こう。風に押し流された海水が何度も何度も浜に押し寄せて、潮風はそのたびに打ちあがる。
それは私の背後から図書館の中へとずかずかと入っていく。
私の頬を撫で、美琴の横を通り、そして千雪のもとへとたどり着く。
私の感じているこのこそばゆさを、彼女も感じているはずなのに……



____千雪は、ピクリとも動かなかった。



869: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 20:59:22.80 ID:qKk8P9Px0


ルカ「嘘……だろ……?」

美琴「ルカ、ストップ。近づいたところで、もう」

ルカ「そ、んなわけねぇ……あいつは、千雪は……こんなところでくたばるはずがないんだ……!」

ルカ「おい! お前、私が283の連中に馴染めるように面倒見るんじゃなかったのかよ……なんで、なんでそんなところで寝てんだよ……!」


自分でも空虚な言葉を吐いていると思った。
手で触れて確認するよりも、耳を心臓に当てて聴くよりも、もっと簡単な方法で彼女は死んでいると断定できた。
下腹部から漏れ出るその赤黒い液体。図書館のフローリングの上に水たまりを作っている。
何百ミリリットルというその液体を見れば、掬い上げたところで手遅れだということは明白だった。


ルカ「……クソッ!」


静かな図書館に私の憤りだけが響いた。


美琴「……ルカ、とりあえず他のみんなを呼んでくるね」


美琴は今の私を放っておくという選択肢を取った。
それは間違っちゃいない。私は返答になっていないようなあいまいな声を出し、美琴を見送った。

残されたのは、私と千雪のみ。


870: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:00:10.02 ID:qKk8P9Px0


「……」


千雪の艶やかな魅力ある体は無力に床に投げ出されている。
瞳も穏やかに閉じており、長いまつげが夜光に照らされている。
是だけ見れば眠っているように見えなくもないが、その体に熱はなく、腹は鮮血に染まっている。


「……こんなことなら、言っておけば良かったな」


物の数時間前の話だ。肩を並べて線香花火をした時、私と千雪は言葉を交わしていた。


≪千雪「……ルカちゃん、どう? 花火」

ルカ「どうって……綺麗、だよ」

千雪「うん、すっごく綺麗……でもね、この花火が今見れるのは、ルカちゃんが自分でその一歩を踏み出したから。ルカちゃんが私に相談してくれて、美琴ちゃんに気持ちを打ち明けられたから」

ルカ「別に、私はお前に相談なんかした覚えは……」

千雪「ふふ、そうね。ごめんなさい」

ルカ「まあ……でも、今こうやって過ごせて、良かったなとは思うよ」

千雪「ルカちゃん……」

ルカ「そ、その……さ。まあ、その……お前が貢献した部分も多少なりともあるのは……認めるしさ……」

千雪「……」

ルカ「あ、あり……ありが……」

千雪「……」

ルカ「あーっ! やっぱムリ、ナシだナシ!」

千雪「えー、聞きたかったのになぁ」

ルカ「お前がそんな風に含み笑いしながら見つめてくるから恥ずかしくて言えたもんじゃねーんだ! ハッ、もう一生言ってやんねー!」

千雪「もう……意地っ張りなんだから」≫


871: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:02:21.95 ID:qKk8P9Px0


本当に図々しいやつだった。
この島に来て初めてまともに絡んだというのに、個人の事情に踏み込んできたかと思うと、
こちらの都合はお構いなしで他の連中に無理やり巻き込んだりして、私個人の時間は滅茶苦茶に脅かされてしまっていた。

でも、その【滅茶苦茶】がなければ私は美琴と復縁することなんてできなかった。
七草にちかのように危機迫った事情もなかった私は言い訳ばかり並べたてて動きもせずに、いたずらに時間だけを過ごしていたはずだ。
本当の気持ちをさらけ出す、その一歩を踏み出させてくれたのは千雪だった。

結局、その千雪に対する素直な本当の気持ちは口に出せないままに終わってしまった。
それも、他の何者かによって、強制的に迎えさせられた終わりによって。
夜の静けさに沈んだその体にはもはやどんな言葉を投げかけても届くことはない。


「……千雪」


こうやって名前を呼んだのも、あの海水浴以来。
生きている間にもっと名前を呼んでやればよかった、はしゃがせてやればよかった。
……でも、してやれなかった。
私の勝手なプライドが阻んで、その機会を逃してしまった。


872: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:03:49.08 ID:qKk8P9Px0


「……ッ」


いくら後悔してもし足りない。
千雪から教わったことだというのに、まるで活かすことができなかった自分が嫌になる。
確か、学びは還元してこそのものだと中学の先公が講釈垂れていたことがあった。
その時はくだらないと一蹴して耳をふさいでいたが、ちゃんと聞いておけばよかった。
だって、後悔がこんなに苦しいなんて知らなかったから。

きっと千雪はここで私が泣きじゃくることを求めちゃいない。
だから、涙も零さず、声も出さずに泣いた。
肩を震わせて、荒い呼吸をした。
これが死を悼むには十分だとは思わない。
でも、千雪に私の気持ちを知ってもらいたくて、でも言えなくて、そんな中、なんとか絞り出したのがこれだった。

今の私に、嘆く時間はない。
千雪が死んだということは、次は私たちの番。
生きるか死ぬかの戦いが待ち受けていることを意味する。



____行くしか、ないんだ。



873: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:05:09.29 ID:qKk8P9Px0

____
______
________


美琴が一人にしてくれたのは正解だった。
自分の中の感情に折り合いをつけることができた。
今はただ、立ち上がらないといけない。震える自分を奮い立たせて、その武器を手に取る。
七草にちかを切り捨てたその時から私の行く道はただ一つ。
ただ生き残ること、そこからぶれるんじゃ死んでいった奴らにも顔向けできやしないんだから。


あさひ「……あっ、ルカさん。……千雪さん、だったんっすね」

ルカ「中学生……お前か」


最初にやってきたのは中学生だった。
ひょっこりと扉の後から首をのぞかせると、表情を俄かに曇らせて、私の横に立った。

ピンポンパンポーン!

『死体が発見されました! 一定の自由時間の後、学級裁判を開きます!』


すぐにあのアナウンスが鳴り響いた。
学級裁判、その言葉の重みを私たちは知っている。
隣の中学生の肩にも力が入るのが見て取れた。


874: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:06:59.82 ID:qKk8P9Px0


すぐに他の連中も図書館へと集まった。
花火大会に参加していた連中、途中で抜けていた連中、そもそもやってきてもいなかった連中。
その全員が図書館の惨状を見て、すぐにその言葉を失った。


恋鐘「ち、千雪~~~~~!? な、な、何が起きたと?!」

愛依「ち、千雪さん……?! マジ……?!」

夏葉「そんな……どうして、千雪が……」

バビューン!!


全員が集まったタイミングを見計らったようにどこからともなくあいつがまた姿を現した。
随分と上機嫌な様子で鼻歌交じり、こいつからすれば本懐というところなんだろう。


モノクマ「ふぅ~、やっと、やっと、やっとだよ! 待ちかねたよね、待ちかねすぎて福が来るよね!」

ルカ「……モノクマ、お前が出て来たってことはそう言うことか?」

モノクマ「うん、見ての通りだよね。オマエラには、二回目の学級裁判に挑戦してもらいます!」

冬優子「二回目の学級裁判……やっぱり、またあれをするんですね……」

摩美々「クロとシロで、命を懸けた舌戦……はぁ、憂鬱―」

モノクマ「オマエラがどう思おうと、生き残るためにできるのはただ一つ。この学級裁判に勝ち抜くことだよ!」

モノクマ「そうじゃないと、七草さんみたいにスクラップだからね!」

美琴「……ッ!」ガタッ

ルカ「待て美琴、あいつを殴ればオマエが殺される……今は抑えろ」

美琴「……ごめん、ルカ」


875: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:09:36.64 ID:qKk8P9Px0


モノクマ「ルールに関してはもうオマエラも承知のことだろうから、説明は省くよ! とにかく頭を働かせて、犠牲にすべきなのは誰なのか、しっかりと見極めることだね!」

あさひ「……」

果穂「……うぅ」

智代子「果穂、大丈夫……? やっぱり、辛いんだったら、灯織ちゃんの時と同じでわたしが一緒に外で休むよ?」

果穂「……ちょこ先輩……今回は、あたしもいっしょに調ささせてください……! つらくて、泣きそうでも……あたし、にげたくないんです……」

智代子「……わかった、果穂……一緒に頑張ろう!」

雛菜「みんな透先輩のこと疑ってたけど、結局雛菜たちと無関係なところで殺人が起きちゃったね~」

透「……」ギュッ

雛菜「……透先輩?」

透「あー、ううん。なんでもない」


それぞれの面持ちは違っていた。
これから先に起こるさらなるコロシアイに備えて思考を張り巡らせる者、ただ怯えて沈痛に耽る者、今度こそはと奮起する者……
私の表情はどうだっただろう。
前回の事件の時、私はまだこいつらとの間に線引きをしていて、ただ足を引っ張られないように、巻き添えにならないようにと言うことしか頭になかった。
でも、今回はそうじゃない。

殺された桑山千雪という人間が、私に託したものがある。

それを踏みにじるような真似は、すべきじゃない。



____今回も、間違えるわけにはいかないんだ。




【捜査開始】


876: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:11:37.14 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------

モノクマ「さて、それじゃあ今回もモノクマファイルを渡しておくからそれを足掛かりにして捜査を進めていってちょうだいね!」

ピピッ

手元の電子生徒手帳から電子音が聞こえたかと思うと、画面には前回ぶりのポップアップ。
死体の見分記録、モノクマファイルだ。 

『被害者は桑山千雪。死亡推定時刻は午後9時前後。死体は下腹部を矢で貫かれており、内臓の損傷も激しく、出血量も多量であるため、死因は失血死であると断定する』


ルカ「まあ、今回も見ての通りだな……」

美琴「それにしても、矢で貫かれているってどういうことなんだろうね。犯人は弓でも引いたってことなのかな」

ルカ「さあな……それも含めて調査しないといけねーな」


コトダマゲット!【モノクマファイル2】
〔被害者は桑山千雪。死亡推定時刻は午後9時前後。死体は下腹部を矢で貫かれており、内臓の損傷も激しく、出血量も多量であるため、死因は失血死であると断定する〕

-------------------------------------------------


877: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:12:40.70 ID:qKk8P9Px0


モノクマ「じゃ、そういうわけなんで……ボクは裁判の時間までゆっくりコーヒーでも淹れてようかな!」

モノクマ「コーヒーは、一滴一滴丁寧にドリップすることでコクとうまみが生まれるんです……」

バビューン!!

果穂「初代のライダーさんが今のモノクマと同じことを言ってました……! まさか、黒まくは、藤岡___」

夏葉「コーヒー好きなんてこの世には星の数ほどいるわ、果穂」


モノクマは今回も捜査の時間は基本的に不介入なんだろう。
私たちが自分の手で、真実にたどり着かなきゃならない。

でも、決して孤独な戦いじゃない。
前回と状況は違う。


ルカ「……やるぞ、美琴」

美琴「うん……頑張ろう」


___今回は、共に戦う仲間もいる。

さて、調べるべきなのはまずはこの【図書館内】だよな。
島が開いた当初の調査でしかまともに見ちゃいねーし……
そして、千雪の【死体周辺】……ここからも逃げちゃならねー。
それと、【花火大会を途中で抜けた連中への聞き込み】だな。今回の事件はアリバイが割とつかみやすいはずだ、そこから犯人を絞ろうか。

よし、整理は出来た……後は行動だ。

-------------------------------------------------

1.図書館内を調べる
2.死体周辺を調べる
3.花火大会の途中で抜けた人間への聞き込み

↓1


878: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 21:15:15.25 ID:l+JXWtmi0

2


879: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:16:19.08 ID:qKk8P9Px0

2 選択
-------------------------------------------------
【死体周辺を調べる】

(……)

(…………)

美琴「ルカ、大丈夫?」

ルカ「ん、あ、お、おう……大丈夫だ、大丈夫に決まってるだろ」


そうは言ったものの、流石に少しばかり堪える。
ここ数日嫌と言うほど付きまとってきたあいつが、今私の前で事切れているという事実はことのほか大きく私を揺さぶった。

……まだ言えてない言葉も、山ほどあったのに。

その後悔ばかりが浮かんできては消え、浮かんできては消えを繰り返す。
でも、そんなことにかかづらっている暇はない。
今はただ、思考を麻痺させて、生き抜くための道を見つけなくちゃならないんだから。

-------------------------------------------------
1.死体を調べる
2.凶器を調べる
3.死体を動かしてみる

↓1


880: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 21:24:52.23 ID:l+JXWtmi0

2


881: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:26:25.58 ID:qKk8P9Px0

2 選択
-------------------------------------------------
【凶器を調べる】

死体の付近に転がっているのは、銀色の矢だ。
先っぽの矢じりにはべったりと血が付着しており、これが千雪の命を奪った凶器であることは容易に見て取れた。


ルカ「……チッ、見るだけでもなんだかイラついてきやがる……」

美琴「……痛ましいね」

ルカ「こんなので腹をぶち抜かれたらたまったもんじゃねー……千雪のやつ、どんな苦しみを受けながら死んだんだ……」

美琴「これを刺されただけじゃ即死……でもないだろうね。灯織ちゃんみたいに心臓を貫かれてたわけじゃないし」

ルカ「……クソッ!」


どれだけ私が憤ろうとも後の祭り。
千雪の命を奪った犯人はそんな私を見て嘲笑っているのだろうか。


(……上等だよ)

美琴「……この矢の型番は、BT-49みたいだね」

ルカ「……ああ、羽の部分に刻印されてるな」

美琴「犯人はいったい、どこでこんな凶器を見つけて来たんだろうね」

ルカ「……おおかたスーパーマーケットじゃねーのか? 風野灯織が使ってた暗視スコープもあそこで調達したんだろ」

美琴「……スーパーって便利なだけじゃないんだね」

ルカ「普通のスーパーは便利なだけだぞ」


コトダマゲット!【凶器の矢】
〔死体のそばに転がっていた銀色の矢。型番はBT-49で、先端の矢じりには千雪の血がべったりと付着している〕

-------------------------------------------------
1.死体を調べる
2.死体を動かしてみる

↓1


882: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 21:32:22.52 ID:l+JXWtmi0

1


883: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:35:10.25 ID:qKk8P9Px0

1 選択
-------------------------------------------------
【死体を調べる】


ついさっきの出来事がフラッシュバックする。
線香花火で勝っただの負けただのしょうもない小競り合いをして、私のすぐ隣で笑っていた千雪は、潮風に中てられてすっかりその体温を失っている。

まるでそっくりに作られた蝋人形のようだ。
でも、ここにあるのは本物。私と一緒に同じ時を過ごしていた、桑山千雪というアイドルだ。

そこから目を背けちゃいけない、これも私が生き残るためなんだ。


ルカ「……モノクマファイルにあった通りの状態だな、腹をぶっ刺されたせいで大量の血が流れてて、それが原因で死んじまってる」

美琴「ほかに目立った外傷はなさそうだね」

ルカ「脛に切り傷みたいなのがついてるけど……まあこれぐらいは日常生活でつく範疇だしな」

美琴「特に外傷がないってことは、犯人と争うこともなかったのかな」

ルカ「そうだろうな、まあこいつの場合は犯人と対峙したとて抵抗しそうな性格でもないしな」

美琴「……そうかも」

ルカ「……ホント、お人よしなやつだったよ」

美琴「それにしても、すごい出血量だね」

ルカ「ああ……地面にぶちまけてる血は他のところに散らされてる様子もねえ、死体が動かされたってこともないだろうな」

美琴「そうだね、綺麗な血だまりになってる」

ルカ「あくまで千雪はこの図書館の中で殺されたんだ」


コトダマゲット!【現場の血痕】
〔千雪から漏れ出た血の痕。腹から出た血液はその場に血だまりを作っており、ほかには散らされた様子もない。あくまで図書館内で千雪は殺害されたものと思われる〕

-------------------------------------------------
【選択肢が残り一つになったので自動進行します】


884: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:37:37.83 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------
【死体を動かしてみる】


千雪の死体をしゃがみこんで調べていると、千雪の下に何かが敷かれるようになっているのに気が付いた。

ルカ「……これ、なんだ?」

美琴「どうやら本の一つみたいだけど……なんだか様子がおかしいね、明らかに死体で隠すように置かれてる」

ルカ「というより千雪が覆いかぶさったみたいな感じだな……ちょっと引っ張り出してみるか」


私と美琴は二人で少しだけ千雪の身体を押してみた。
ずるずると動くにつれ、本にかかっていた体重は軽くなり、やがてするりと抜き取ることができた。
だが、本はべったりと千雪の血が付着していて、もはや中を見ることも適わない状態。


美琴「……読めないね」

ルカ「わかるのはこの本の表紙の材質が厚紙だってことぐらいか……」

美琴「でも、この本は山積みになっていたところと少しずれた位置で下敷きになっていたんだし、何か意味があると思う」

美琴「千雪さんが自分の血でこの本を隠そうとした、とか」

(千雪が死の間際に隠そうとした本、か……)


コトダマゲット!【血まみれの本】
〔千雪の死体の下敷きになっていた本。血液にまみれた本は中を読むこともできそうにない〕


死体の近くで調べられるのはこんなところか。
さて、調査は俯瞰的に、情報は足で稼がないといけないな。
労力を惜しまず、時間の許す限りは調査を続けるとするか……

-------------------------------------------------

1.図書館内を調べる
2.花火大会の途中で抜けた人間への聞き込み

↓1


885: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 21:52:18.64 ID:sTkvKzjy0

1


886: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 21:54:08.56 ID:qKk8P9Px0

1 選択
-------------------------------------------------
【図書館内を調べる】


図書館の中はなんだか最初にやって来た時とはかなり雰囲気が変わっていた。
あの荘厳とした本棚の数々は横倒しになり、本があちらこちらに散乱している。


美琴「……どうしたんだろう、これ」

ルカ「人の力でどうこうってレベルじゃねーな、こりゃ」

美琴「ルカ、フラストレーションがたまったときとか物に当たってなかった?」

ルカ「……」


……とりあえず、人の手によって引き起こされた事態ではないだろうな。
何か図書館の館内がこんな滅茶苦茶に荒れていることには何か原因があるはず。
それも考えておかなくちゃいけないだろう……

さて、どこから調べる……?

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1.入口付近
2.受付
3.あさひに聞き込み
4.二階

↓1


887: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 22:01:49.98 ID:hDMjMvb/0

1


888: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:05:08.89 ID:qKk8P9Px0

1 選択
-------------------------------------------------
【入り口付近】

図書館に踏み入って以来、扉は開けっぱなしだ。
観音開きの扉は押して開いて入場するタイプ。要は入る時は押して入って、出るときは引いて出る形式だ。


美琴「……なんだろう、あれ」

ルカ「どうした? 美琴」

美琴「扉の上に、何か取り付けられてるの……ちょっと待って」


美琴が指さした先には何か機械のようなもの。
そう高い位置にはないが、私からすれば台が必要な高さ。
美琴はそれに背伸びもほとんどしないまま手を届かせてみせた。

ピッ

美琴「……あ、点いた」

ルカ「んだそれ、カメラか?」

美琴「……うん、そうみたい。見て」


美琴が不慣れな手つきで私に手渡してきた。
美琴は昔からそうだ。
家電だなんだのを買って来ては私に初期設定を任せてきて、そのくせまるで使いやしない。
そもそもほとんど家に帰らないって言うのに、性懲りもせず買ってくるんだから付き合わされるこっちの身にもなってほしい。


889: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:06:22.33 ID:qKk8P9Px0


ルカ「チッ……しょうがねえなあ……」


美琴の代わりに操作する。
カメラはどうやら感応式の設定が為されており、誰かが入退室を行った際に写真を撮影する仕組みになっているようだ。
写真は一日ごとに消去されるため、今残っているのは今日の分の出入りのみ、ということになるらしい。


美琴「何枚か撮影されてるね」

ルカ「ああ、そりゃ千雪がここに入った分は間違いなく撮影されてるだろうからな……」

美琴「とりあえず、見てみようか」


美琴に促されるままに写真を開いた。
なるほど、確かに一枚目は千雪が図書館に入ってくるときのもののようだ。
表情はどこか強張っているようにも見えるが、先入観もあるだろう。


ルカ「どうやら千雪は一人でこの図書館にやってきたみたいだな」

美琴「途中で花火大会を抜けた時も一人だったよね」

ルカ「ああ、そのままここに来たと考えていいだろうな」


890: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:07:59.10 ID:qKk8P9Px0


そして、二枚目の写真に移る。


ルカ「……あ?」


だが、そこに映っていたのは意外な人物だった。


美琴「これって……【冬優子ちゃん】?」

ルカ「どっからどう見ても、あいつだな……なんでこんな図書館にわざわざ……?」


確かにぶりっ子女も花火大会を途中で抜けていたはずだ。
でも、あいつは同じユニットのギャル女のための薬を探しにドラッグストアに行ったんじゃなかったか?


ルカ「……もう一枚、あるぞ」


そして最後の三枚目。そこに映っていたのは、今度は退出するぶりっ子女の姿だった。


ルカ「……これが三枚目ってことはここから先出入りした人間はいないってことだよな」

美琴「うん、そうなるね」

ルカ「……」

美琴「あの子、図書館に何のために来ていたのかな」

ルカ「……さあな、でもあいつが私たちに嘘をついていたことだけは間違いない」

美琴「……」

ルカ「一応、この嘘について糾弾するのは裁判の時にしよう。今下手に刺激すると、現場を荒らされたりしかねないしな」

美琴「……うん、わかった」


コトダマゲット!【図書館の入退館管理カメラ】
〔図書館の入り口に設置されていたセンサー式のカメラ。利用者の入退館を感知して自動で写真を撮影する。千雪が入館する写真、冬優子が入館する写真、冬優子が退館する写真の三枚が撮影されていた〕

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さて、他の所も調べるか……

1.受付
2.あさひに聞き込み
3.二階

↓1


891: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 22:11:28.95 ID:sTkvKzjy0

2


892: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:13:32.30 ID:qKk8P9Px0

2 選択
-------------------------------------------------
【あさひに聞き込み】

前回の事件の時にも思ったが、こいつは年の割に肝が据わりすぎだろう。
千雪の死体を興味深そうにのぞき込んで、首を何度もうんうんと捻っている。


ルカ「おい、中学生」

あさひ「……」

ルカ「おい、聞いてんのか!」

あさひ「……」

美琴「ねえ、あさひちゃん」

あさひ「あっ、美琴さん! どうしたっすか?」

(なんでだよ……!)

美琴「事件の調査中にごめんね、何か話でも聞けたらなって思ったの」

あさひ「話っすか? でも、わたし、ずっと花火大会にいたんで、何も知らないっすよ?」

ルカ「私たちが聞きたいのはぶりっ子女とギャル女についてだ」

あさひ「ぶりっ子女にギャル女っすか……?」

美琴「ストレイライトの二人、途中で抜けちゃってたよね? その時に、あさひちゃんは何か聞いてないかなって思って」


893: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:14:29.86 ID:qKk8P9Px0


あさひ「ああ、そのことっすね。確か、愛依ちゃんが離脱したのはヘビ花火をやろうとしたときっす」

あさひ「火をつけようとしたところで、愛依ちゃんが体調悪くなったからってシャワールームのトイレに行ったっす。その時、冬優子ちゃんも一緒にいたっすね」

ルカ「体調が悪くなった、か」

美琴「確かに彼女、気が沈んでいるだけじゃなく、顔色も少し悪い気がするね」

あさひ「で、冬優子ちゃんはロケット花火をやろうとしたところで愛依ちゃんのために薬を取りに行くって抜けちゃったっす」

美琴「ふふ、友達想いなんだね、あの子」

ルカ「……お人よしって言うんだよ、そういうの」

あさひ「あの後結華ちゃんが一緒に遊んでくれたっすけど、冬優子ちゃんも一緒にやってほしかったっすー」


ストレイライトの二人が花火大会から離脱する際、常にこいつが居合わせていた。
こいつの証言はやつらのアリバイを語る上ではどうやら重要な意味を持ちそうだ。


美琴「ありがとう、あさひちゃん。いい話が聞けたよ」

あさひ「そうっすか? なら、良かったっす!」


……ただ、こいつを素直に信じ切っていいのか少し疑問だけどな。


コトダマゲット!【あさひの証言】
〔あさひは愛依と冬優子が花火大会を離れる際にその場に居合わせていた。愛依はあさひと冬優子に体調不良のためシャワールームのトイレに行くと告げて離脱。冬優子はあさひと結華に薬を取りにドラッグストアに行くと告げて離脱した〕

-------------------------------------------------
さて、他の所も調べるか……

1.受付
2.二階

↓1


894: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2022/01/22(土) 22:17:26.70 ID:Y6mzWeK+0

1


895: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:21:16.67 ID:qKk8P9Px0

1 選択
-------------------------------------------------
【受付】

図書館の一角には重厚なデスクが置かれ、その上には羽ペンと帳簿、そしてバーコードリーダーが置いてある。


美琴「借りるときはここで読み取って記録をつけてから持ち出すことになってるみたいだね」

ルカ「ふーん……美琴、お前はここ使ったことあるのか?」

美琴「いや、全然かな。時間があれば自主トレに充ててたから」

ルカ「だろうな、私も一緒だよ」


ざっと帳簿に目を通した限り、頻繁に利用しているのは中学生ぐらいのもので後はチラホラ別の人間の名前があるぐらい。
今回の事件とは特に関係もないだろう。


ルカ「特に手掛かりはなさそうだな、別の所行くぞ」

美琴「……」

ルカ「……美琴? どうした、何か気になるのか?」

美琴「ああ、うん。これなんだけど……」

ルカ「なんだそれ、【図書館利用規則】……?」

美琴「この図書館を使うときの決まりのようなものなんだけど、なんだか学校みたいだなって」

(学校、ねぇ……)


そういえばこの南国生活を取り仕切っているのも希望ヶ峰学園だって話だったか。
こんな状況になっている時点でその情報も信用できるかは怪しいが。


ルカ「まあ、ちょっと見るくらいはしておくか」

美琴「うん、ルールは破ったら怒られちゃうからね」

ルカ「ハッ……もうそんな歳じゃねーっての」


コトダマゲット!【図書館利用規則】
〔①図書館の本はみんなの共有財産です。大切に使いましょう。
②館内での飲食は禁止です。飲食物を持ち込む際はカバンに入れるようにしてください。
③館内ではお静かに。他の利用者の迷惑にならないようにしてください。
④本を借りる際は受付でバーコードを読み取り、その旨を記帳してください。
⑤一部の本は貸出禁止となっていますので借りる前に確かめるようにしてください。〕
-------------------------------------------------
【選択肢が残り一つとなったので自動進行します】


896: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:23:25.29 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------
【図書館二階】

図書館の一階も滅茶苦茶だが、二階も相当だ。
この図書館は中央が吹き抜けな構造で、その手すりに覆いかぶさるように倒れている本棚がいくつもある。


ルカ「こりゃ、アホほど本も下に落下してるな」

美琴「千雪さんの死体のそばの本棚の山はここから落ちたものが積みあがったんだろうね」

ルカ「ハハ……後から直すったってキリがねーな、これじゃ」


足の踏み場もないような二階を慎重に進んでいくと、奥まったところに見なれない物体を見つけた。


ルカ「……あ? なんだ、これ」

美琴「弓……にしては形状が特殊だね」


弓を横に倒したようなものが、金属製の持ち手に取り付けられている。
よく見ると持ち手の部分には指をかけるトリガーのようなものがあり、右手で握るのにはうってつけの形状をしている。


ルカ「……これ、ボウガンってのじゃないのか?」

美琴「ボウガン?」

ルカ「弓矢が撃てる銃ってやつだよ、本物を見るのは初めてだ」


基本は普通の銃と変わらない。弾を自分でセットして、照準を合わせて撃つだけ。
その撃つだけ、をしたこともないから難易度はどれくらいの物かはわからないが。


897: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:24:14.19 ID:qKk8P9Px0


美琴「ちょっと私も触ってみてもいい?」

ルカ「おう、気をつけろよ」

美琴「……『BT-38』、これがこのボウガンの型番なんだね」

ルカ「あ? そんなの書いてたのか……細けぇとこまでよく見んな……」

美琴「どうやらこの型番と同じ型番の矢を使わないと撃てないみたいだよ」

ルカ「そりゃそうだろ、銃だって違う口径の弾を打つことはできないからな」

美琴「そうなんだ」

ルカ「そうなんだ、って……」


時々美琴は真顔で知れっと素っ頓狂なことを言う時がある。
中学生ぐらいの年齢で東京で一人過ごしてきたということもあって多少なり世間知らずな面もあるとは思うが、こちらからすれば少し不安になるものだ。


ルカ「……もしかして、気に入ったのか?」

美琴「銃を気に入るって何……おかしなこと言うね、ルカ」

ルカ「えらく長いこと触ってるからよ……特に何もないなら行くぞ、時間もそう余裕があるわけじゃない」

美琴「うん、わかった」


コトダマゲット!【ボウガン】
〔図書館の二階に落ちていたボウガン。型番は『BT-38』で、同じ型番の矢でないと撃つことはできない〕
-------------------------------------------------
【選択肢が残り一つとなったので自動進行します】


898: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:26:03.58 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------
【花火大会途中で抜けた人間への聞き込み】

今回の事件については、怪しいと思われる人間がかなり絞られている。
前回の事件で言う私……要は、事件中のアリバイがない人間だ。

花火大会から途中で抜けた人間、ギャル女とぶりっこ女。
そしてそもそも参加をしていない適当女と能天気女。
この計四人には、全員アリバイがない。
それぞれアリバイを検証すれば、おのずと真実は見えてくるはずだ。


ルカ「……おい、ギャル女」

愛依「……ルカちゃん、な、なに……? うちに……話……?」

ルカ「お、おう……おい、大丈夫なのかよ」

愛依「だ、だいじょぶ……ヤマは越えたから……」

(……ヤマ?)

美琴「愛依ちゃんが花火大会を途中で抜けたことについて、聞いておきたいの。いいかな?」

愛依「う、うん……でもうち、何も知んないよ?」

愛依「花火大会やってたら、途中で急にタイチョー悪くなっちゃってさ……そこからはずっとトイレにコモりっぱなし」

ルカ「終わるまで、ずっとか?」

愛依「ずっと……ホント、マジつらかったんだから……」

(この表情……嘘はついてねェか……)

美琴「ごめんね、しんどいところ無理やり話を聞いちゃって」

愛依「ううん、気にしないで……」

ルカ「……無茶はすんなよ」


899: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:26:56.31 ID:qKk8P9Px0


◆◇◆◇◆◇◆◇


ルカ「おい、話聞かせろ」

冬優子「ルカちゃん? どうしたのかな、そんな怖い顔して……」

ルカ「これは生まれつきだよ、悪かったな」

美琴「いま、皆のアリバイを聞いて回ってるんだけど冬優子ちゃんの話も聞かせてもらえないかな。冬優子ちゃんは途中で花火大会を抜けてたでしょ?」

冬優子「は、はい……でも、それは愛依ちゃんのための薬を取りに行ってたからで……」

冬優子「ふゆはずっとドラッグストアにいました、それだけですよ」

(……表情は崩れない、か)

ルカ「……」

冬優子「ルカちゃん、これでよかったかな?」

ルカ「……今のところはな」


900: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:28:56.53 ID:qKk8P9Px0


◆◇◆◇◆◇◆◇


(……と、あの二人の聞き込みに美琴を連れて行くのは危険か)

ルカ「おい、美琴。悪いんだけど、花火大会の会場に忘れ物しちまったみたいだからとってきてくれねーか」

美琴「え、何?」

ルカ「あー……ドリンク、ドリンクだよ。千雪のことで頭がいっぱいになっちまってたけど、急に喉が渇いてきやがった。私は今は千雪のそばにいてやりたいから、頼むよ」

美琴「……うん、わかった」


強引な言い分ではあったが、美琴は承諾してくれた。
図書館を出ていく背中を見送ると、私は二人のもとへ駆け寄った。


ルカ「おい、てめェら、話聞かせてもらうぞ」

雛菜「え~、なんですか~? 雛菜たちに何か用事~?」

透「……え」

ルカ「事件の直前、何してたか話せ」

雛菜「そんな風に凄まれなくてもそれぐらい話しますけど~」

透「……うちらはずっと一緒にいたよ。私の部屋で」

ルカ「……それは実質アリバイがないってことだな?」

雛菜「え~! ひどい~~~~! 一緒にいたって言うのもちゃんとしたアリバイでしょ~!」

ルカ「テメェらが大して仲良くもない他人同士なら、な。幼馴染同士という関係性がある以上庇い立てが生じる可能性もある、その証言じゃ信用できないな」


901: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:30:19.41 ID:qKk8P9Px0


透「あ、じゃあさ。立てる立てる、証人」

ルカ「証人?」

透「おーい、モノミ―」


適当女が宙に向かってそう叫ぶと、どこからともなく子供用靴を鳴らした時のような間の抜けた足音が聞こえてきて、やがてそいつは私たちの前に姿を現した。
……ぜえぜえと肩で息をしながら。


モノミ「はぁ……お呼び……はぁ……でちゅか……?」

ルカ「お前、モノクマみたいに瞬間移動とかできねえのか?」

モノミ「はぁ……本来は……はぁ……できたんでちゅけど……」

透「権限は奪われちゃったんだって、モノクマに」

ルカ「はぁ……」

ルカ「で、テメェらの証人ってのは、こいつなのか?」

雛菜「うん~! ね、モノミは事件が起こる前、どこで何してた~?」


902: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:31:52.93 ID:qKk8P9Px0


モノミ「はぁ……どこで……はぁ……何してた……はぁ……といいまちゅか……」

モノミ「はぁ……されてた……はぁ……っていうか……」

ルカ「……あ?」

透「こいつがさ、うちらを呼びに来たの。でも、行けないし、断ったんだ。そしたら無理やりにでも連れて行こうとするし」

雛菜「せっかくなら、この際モノミのこと調べちゃお~って!」

モノミ「はぁ……おむつの中まで……はぁ……まさぐられまちた……」

ルカ「……」

ルカ「……まあ、わかった。お前らのアリバイには証人がちゃんといるってことだな」

雛菜「そうです~、だから事件とは完全に無関係なんですよね~」


疑わしさで言えばピカイチな連中だが、今回の状況を見るに無関係だということは覆しようもないだろう。
こいつらにかける容疑はない、他を当たるか。


コトダマゲット!【モノミの証言】
〔花火大会の最中、透と雛菜の説得に向かったところ逆に部屋で二人立ち合いの下監禁状態となってしまったので、透と雛菜は事件に関与することができない〕


903: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:33:13.67 ID:qKk8P9Px0

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適当女と能天気女に聞き込みを終えたタイミングで、丁度美琴が帰ってきた。
手には新品のボトル、そして何か怪しいアルミ製の紙。


ルカ「サンキュー美琴……ところで、そっちの手に持ってるのは何だ?」

美琴「ああ、うん。ドリンクがもうなさそうだったから、シャワールームの冷蔵庫からボトルを拝借したんだけどね、その脇のゴミ箱にこれが捨てられてたの」

ルカ「ちょっと貸してみ」


アルミ製のそれは、紙というよりは袋といった形状をしている。よくカップ焼きそばなんかにある、マジックカットで開封して中の粉を取り出すそれだ。
でも、袋の外側に書いてある文字は『ふりかけ』なんかじゃない。


ルカ「……『ヨクデール』、これ、下剤みたいだな」

美琴「下剤……?」

ルカ「ああ、平たく言えば便秘薬だ。出すもんが出ないときに使う奴だな、健康な状態で使えば腹を壊すもとになる」

美琴「誰か、便秘だったのかな」

ルカ「さあな、もし仮にそんな奴がいたとしても聞くのはデリカシー的に問題ありだな」


コトダマゲット!【下剤の残りかす】
〔シャワールームのごみ箱に捨てられていた袋。中には粉末の下剤が入っていたものと思われる〕


904: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:34:06.91 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------

ルカ「大体の調査は終わったな……今回の事件の輪郭も、少しずつだけど見えてきた気がする」

美琴「……ねえ、ルカ」

ルカ「あ? どうした、何か気になることでもあるのか?」

美琴「気になる、というか……私たちはこの事件について大事なことをまだ知らないんじゃないかな」

ルカ「大事なこと……?」

美琴「【動機】、モノクマの用意していたあのゲーム、全く触れていないでしょ?」

(……!)


美琴が口にしたのは、つい数日前にモノクマの持ち込んだゲームの筐体。
あの時、全員で口約束だがプレイはしないという方針で固まったはずだ。
だが、こうして事件が起きてしまった以上、それは守られなかったことを意味するだろう。
成程確かに、この事件を追う上で無視することはできない要素ではある。


ルカ「やってみるか、【かまいたちの真夜中】」

美琴「うん、それがいいと思う」


犯人が千雪の命を奪ったその瞬間、何を考えていたのか。
それを私たちは知る必要がある。

私たちは足早に中央の島のジャバウォック公園へと向かった。

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905: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:35:17.37 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------
【中央の島:ジャバウォック公園】

公園の広場の中央にぽつんと置かれた筐体。
特にコードを引いている様子もないのに、どうやって動いているというのだろう。


美琴「ルカもプレイはしたことないんだよね?」

ルカ「おう、あの約束は一応守ってたからな。というかあんまり興味もなかったからなんだけど」

美琴「そうなんだね……特にお金とかも必要じゃないみたい。早速プレイしてみようか」


適当に手元のボタンを押すと、ゲームはすぐに起動した。
真っ暗な画面にプロダクトメッセージがポップアップする。


『MONOKUMA SOFT
Licensed by Monokuma Inc.
DANGANRONPA』

『注意
 この作品はノンフィクションであり、実在の人物団体とは一切関係あります』


ルカ「……あ?」

美琴「なんだか妙なメッセージだね……」


906: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:36:38.56 ID:qKk8P9Px0


『かまいたちの真夜中
 Press any button』

ルカ「これがタイトル画面か……なんだかおどろおどろしいな」


薄っすらと暗い背景に赤いドロドロと気味悪いフォント、いかにもな雰囲気が漂っている。
どこかで聞いたようなタイトルだとは思ったが、BGMまで妙なデジャブを感じる調子と来た。


美琴「尻込みしてる時間はないんじゃない?」

ルカ「誰が尻込みなんか……とりあえずやってみるぞ」


美琴にせかされるままボタンを押した。
確かに今の私たちに時間はない。どんなゲームなのかはわからないが、この中にヒントがあるというのなら、早急にクリアしなければならないのだ。

しばらくのロード画面を挟むと、シナリオが始まった。
どうやらこのゲームは学校に監禁された女子高生たち数人を登場人物としたホラーサウンドノベルゲームらしい。
ボイスはついてはいないが、状況に応じたSEやBGMがついており、それを読み進めていくことで物語が展開していく。
画面上には実際の学校を撮影したかのようなリアルな写真が映り、人を象ったであろう薄紫の影がその中に現れる。


907: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:38:06.62 ID:qKk8P9Px0


『この学園で過ごして、既に何日もの時間が過ぎた。外からの助けも来ない毎日、衰弱していく肉体、すり減らす精神。E子が体調を崩すのも無理がないことで、私たちは今日の朝食会でも彼女を心配する話題で持ちきりだった。

A子:D子? ど、どうしたの……?
D子:A子ちゃん……あのね、E子ちゃんの病気がまた悪化しちゃったんだ……
G子:つい先ほどD子がまた、朝食を持って行ってくれたんだ。しかし、どうやらE子の病状が芳しく無いようでね……
A子:そうなんですか……
D子:うん、E子ちゃん咳が止まらないみたいで……F子ちゃんも厳戒態勢だって言ってた……
B子:昨日はだいぶ元気そうだったのにね……
A子:だいぶ良くなったと思ってたんだけど……こればっかりは仕方ない……のかな
C子:お体のこと故、C子たちに何もできないのが大変歯がゆい思いです……
D子:咳が止まらない中で絞り出した『ありがとう』の一言で涙を禁じえなかったよ……うぅ……E子ちゃん……
A子:D子……

食堂の机に突っ伏してすすり泣くD子。D子とE子は双子の姉妹なんだもん、ただでさえ現実離れしたこの状況で、心のよりどころである姉が病魔に侵されているんじゃ気が気でないはずだ。でも、私たちに医学の心得がある人間なんていない。ただ彼女に寄り添って、肩に手を乗せることしかできない、無力な自分を呪った』


美琴「……」

ルカ「どうした? なんだか考え込んで」

美琴「……この登場キャラクター達、なんだか見覚えがある気がするの」

ルカ「はぁ?」


美琴は私のプレイを後ろから覗きながら、何か訝し気に首をひねった。
心当たりがあるが、それが何だかわからない。その居心地の悪さに喘ぐようなしぐさだ。
とはいえ、私からすればその感覚もさっぱりだ。
気にせずに進めていくことにした。


908: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:39:12.45 ID:qKk8P9Px0


『数時間後、D子の部屋。
D子は自分のデスクの引き出しに忍ばせていたそれを手に取ると、部屋の照明に透かしてみた。
銀色の刀身は照明の光をギラギラと反射させ、眩い。
これから、肉にその刃先を突き立てて、鮮血に汚れようというにはあまりにも美しすぎる輝きだった。
その輝きに思わず大きな唾を一つ飲み込み、D子は独り言つ。

D子:……ごめんね、E子ちゃん
D子:D子ってばダメな妹だ、お姉ちゃんに相談もしないで勝手に突っ走って……
D子:でもね、こうするしかないんだ
D子:他のみんなを殺さないと……ダメなんだ

D子の胸にあるのは諦観、そして決意だった。
八方ふさがりと言うほかない彼女自身の状況を嘆き、喚き、苦しみつくした末での決断。
もはや彼女の心にそのストッパーはない、崖の下から転げ落ちるまで、力いっぱいにそのアクセルを踏み込むところまで彼女は進んでしまっていた』


ルカ「……おいおい、殺すとか言い出したぞ、こいつ」

美琴「……どうやら、正常な判断ができない状態にあるみたいだね」

ルカ「でも、前後の文脈がすっぽ抜けてるからまるで状況が読めねーぞ? なんで急にこいつは殺すなんて話になったんだよ」

美琴「……これがもし、彼女なのだとしら」

ルカ「あ? 美琴、また考え事か?」

美琴「ううん、気にしないで、続けて」


909: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:41:01.03 ID:qKk8P9Px0


『私は朝食会を終えてからは他の人と交流をしていた。学園脱出の糸口を探すため、脱出のための協力を強固なものにするため。ただの時間つぶしに沿う言い訳をして、動いていた。そうでもしないと気がふれそうだったから。

A子:ふぅ……いったん自分の部屋に戻って、持ち物の整理でもしようかな

その瞬間だった。

C子:どっひゃあああああああああああ……!!!!

私の背後、寄宿舎でなくその向こう側、学校の方から耳を劈くような悲鳴が聞こえてきた。
恐怖の中に絞り出したにしてはやけに澄んでいるその声の持ち主は、きっとC子の物だろうとすぐに見当はついた。
こんな声を上げるなんてただ事ではない、気が付けば私は声のした方へ走り出していた』


ルカ「もしかして、さっきのD子が動き出したのか?」

美琴「そう考えるのが自然だよね……あの子、かなり危うい状態だったみたいだから」

ルカ「……本当、随分と悪趣味なゲームだな」


910: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:42:16.27 ID:qKk8P9Px0


『C子:A子さん……
 B子:A子! C子が……C子が……!
 A子:C子、大丈夫……? な、何があったの……?

 私の問いかけにC子は言葉を詰まらせた。
説明の仕方がわからない、といった調子で口をまごつかせるC子に、B子が手元のカメラを見せることを提案する。
私は二人からカメラを受け取って、そのモニタに視線を落とした。

____なんだこれは。

全身紫がかったてるてる坊主のような奇妙な存在。
その口元は口裂け女のように吊り上がり、その割れ目からは牙のようなものをのぞかせている。
怪物と形容するにたる、恐ろしい見た目のものがそこに立っていた。
その手には刃物らしきものが握られており、廊下の明かりを反射して不気味に光っている。

A子:C子……? これは……?
C子:はい、C子はこちらの……怪物さまに襲われたのでございます……』


ルカ「もしかして、こいつが『かまいたち』なのか……?」

美琴「ゲームのタイトルがここで回収されるんだね」

ルカ「なるほど、D子が殺人鬼となった時の姿が『かまいたち』ってわけだ。このゲームはその『かまいたち』が人を襲いまわるまでを描いた作品になるんだな」


911: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:44:17.47 ID:qKk8P9Px0


『B子:こ、怖かったよねC子……
 A子:だ、大丈夫なの?! ケガとかは……?
 C子:幸い、直接的に斬られたり刺されたりなどは……ただ、もみ合いになった際に足をくじいてしまいました……

C子の足首辺りは青あざのようになっておりなんとも痛ましい。
咄嗟のことでパニックだったんだろう。

C子:転んだ状態ではとどめを刺されてしまいかねない……そこで皆さんをお呼びしたのです……
A子:それであの絶叫だったんだ……C子にしてはすごい声量だったもんね……

C子は今現在も肩を震わせ、恐怖におびえている。
命を奪われなくてよかったと安どする一方、道の存在がこの学園内をうろついているという恐怖感が私の中にもふつと湧いてきた』


『すぐにG子も、C子の声に反応して集まってきた。
説明するよりも見たほうが早い。私自身がそうされたように、G子にもすぐにその写真を見せた。

G子:な、なんなんだい……これは……
A子:どうやらC子がこの写真の人物に襲われたようなんです……ほら、見てください……刃物を握っています
G子:本当だ……これはまずいね……! この人物は、今どこに?
C子:C子が声を上げると、すぐに階段に向かい廊下を走って逃げていきました……
G子:……! 大変だ……F子は今、保健室でE子の看病中だ。犯人の逃げた方向と一致している……!
B子:そういえば、ほかにもいない人がいるよ……!
A子:急ぎましょう、C子も保健室まで一緒に来て!
C子:はい、お供いたします……

事態は緊急を極めた。
C子を襲った人間が、もし他の人間を襲うことがあれば、学園内に血が流れるどころでは済まない事態となる恐れさえある。
鼓動は自然と早まり、体は熱を帯びた。』


ルカ「E子にF子、最初の朝食会の時に出てきた名前だな」

美琴「E子は病気で倒れていて、F子がその看病をしているんだったね」

ルカ「で、不審者はその二人がいる方面に逃げていったのか」

美琴「……無事なのかな」


912: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:45:28.10 ID:qKk8P9Px0


『急いで保健室の扉を開けると、F子はキョトンとした様子で私たちを出迎えた。

F子:あれ……みんな、どうしたの? またお見舞いに来てくれたのかな……
G子:F子、無事かい?!
F子:うん……G子さん、心配してくれてありがとう……?
B子:まだ安心できないよ! 不審者を捕まえないと!
F子:あ、あの……何か、あったのかな……
A子:F子さん、先ほどC子が何者かに襲われまして……
私たちがC子の捻挫痕を見せるとC子は血相を変えて保健室の奥から救急箱を持ち出した。
F子:C子ちゃん……?! い、急いで治療しないと……!!
F子:ど、どうしよう……湿布……テーピングもした方がいいかな……
G子:F子……C子の治療も存分にしてくれて構わないが……その、不審な人物を見かけたりしなかったかい?
F子:え……?
C子:細かな説明は、こちらをご覧くださいませ……

C子のカメラに映った、あの不審者。
F子は即座に私たちと恐怖感、不安を共有したらしく、震え上がるようにした。

A子:この不審者が廊下を抜けて、階段の方に行ったらしいんだけど、何か見なかったかな?
F子:……あ!
G子:何か思い当たることでもあるのかい?
F子:うん……ついさっきなんだけど……誰かが思いっきり勢いよく階段を駆け上がるような音が、聞こえた気がするんだ……
B子:それだよ! 不審者は二階に逃げたんだ!
A子:急ぎましょう、今なら不審者を捕まえられるかも!
C子:あ……
G子:C子は無茶をしちゃだめだ。F子、頼めるかい?
F子:うん……いってらっしゃい……!

私たちは手負いのC子を保健室に預け、不審者の後を追うことにした。
Fこの証言通りなら不審者は上の階に行ったことになる。この学園にある階段は廊下の突き当りのそれだけだから、逃げ道はないはずだ。』


ルカ「なんだかきな臭い流れになってきたな」

美琴「一応二人は無事だったみたいだけど、不審者の動向がつかめないね」

ルカ「これ、どうなるんだ……? D子もずっと出てきてねーし……ここでC子とF子が離脱するの、すげー嫌な予感がするんだけど」


913: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:48:23.24 ID:qKk8P9Px0


『A子たちを見送ると、C子は改めてベッドに腰かけて、捻った足首をF子に差し出した。
F子は捻挫の痕を確かめると、落ち着いた口調で安心の言葉を持ち出した。
 
 F子:大変だったね……C子ちゃん……
 C子:はい……あまりに突然のことで、動転してしまいました……
 F子:少し捻っちゃっただけみたいだから、動かさなければすぐによくなるよ……!
 C子:はい……F子さん、ありがとうございます……
 C子:申し訳ありません……大変な苦心をされているときに……

C子が口にしたのは、F子が看病をしているE子のことだろう。
つい先ほどからもずっと病室では彼女の咳が鳴りやまない、病状は良くないんだろう。
そして、面倒を見続けているF子の顔にも少しばかりの疲労が見て取れた。
そんな状況下で足首を捻ってしまったことにC子は少しばかりの罪悪感を感じてならないのである。

 F子:ううん、気にしないでほしいな……
 F子:みんなが健康で、元気でいてくれることが一番だから……
 F子:そのために、頼ってくれることが……嬉しいんだ……
 C子:F子さん……痛み入ります……

F子はC子の恐縮した様子に、笑顔で事も無げに答えた。
きっとF子からしてもこれは本心なのだろう。彼女が超高校級の保健委員と呼ばれるにたるのは、この博愛の精神、そしてホスピタリティからなのだ。

と、その時だった。
廊下に接するドアの窓に何か影が映ったかと思うと、その向こうからガタッと大きな物音がした。

 F子:今の……?
 C子:F子さん……! もしやすると……先の不審者かもしれません……
 F子:不審者さんは、上の階に逃げたはずだよね……? 誰なのかな……


914: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:49:00.18 ID:qKk8P9Px0


俄かに走る緊張。
今この場にいるのは、夜通しの看病で疲労している人間、手負いの人間、そして病人だけ。
刃物を持った不審者相手に抵抗する術など持たない。

 C子:鍵を、閉めましょう……!
 F子:う、うん……!

出来るのは、扉の鍵を閉めて侵入を拒むことだけ。
この学園では鍵のかかった扉を破壊することは禁じられている。
鍵をかけるコトさえできれば、少なくとも時間稼ぎにはなるはず。その間に他の人間が戻ってきて助けてくれるかもしれない。
そんな淡い期待だった。

でも、忘れていた。
今この部屋に、健康な状態の人間は一人としていない。
俊敏な不審者よりも先に動けるはずなどなかったのだ。

ガラララッ

???:ミツケタ』


ルカ「……おい、これ……そういうことなのか……?」

美琴「『かまいたち』がC子とF子そしてE子を襲った、そうなるんだろうね」

ルカ「でもどうなってるんだ? 不審者の野郎は上の階に逃げたんじゃ……」

美琴「……どこからこの不審者はやってきたんだろうね」

ルカ「それにしても、これはまずいだろ……あいつは刃物を持ってる……」

美琴「……早く続きを読もう」


915: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:49:55.51 ID:qKk8P9Px0


『ピピピピピ……

G子:出た! あいつだ!

学園中に響き渡るG子の叫び声。
私たちは不審者の後を追って、二手に分かれて調査をしていた。
私はB子と一緒に学園の二階、そしてG子さんは三階だ。
G子さんが声を上げたということは、不審者は三階に潜伏していたことになる。私たちは慌てて階段の方へと向かった。

G子:急いでくれ、階段を既に下っていった!

私たちが階段についたときには既にその声が響いていた。
不審者は随分と足が速いらしい、既に追跡を逃れて階下に逃げ込んだようだ。

ここで逃がすわけにはいかない、私とB子は目くばせをして、すぐにその後を追って一階へと降りた』


916: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:50:32.04 ID:qKk8P9Px0


『ピピピピピ……

階段を駆け下りると、一つ目につくものがあった。

A子:保健室の扉が、開いている……?

さきほどF子さんと別れた時に確かに閉めたはずの扉が開いている。
不審者が校内に潜伏している以上は、F子たちが自ら危険に身をさらすはずもない。
この扉を開けたのは、“別の誰か”ということになる。

犯人の動きはある程度掴めている。
B子を襲った後三階へと逃げた犯人は、潜んでいたところをG子さんに目撃されて一階へと逃げてきた。

なら、この扉を開けたのは……

A子:まさか……!!
B子:A子!

まだ間に合う。そう思っていた。
だって事件はまだ起きている真っ最中。私たちはみんなその中心にいる。
だから頑張ればどうにでもなる、防げるはず。

____本気でそう思っていた。

だから、この鼓膜を破りそうなほどに早まる鼓動を止めたくて……
保健室を覗き込んだんだ』


ルカ「……」

美琴「……」


917: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:51:54.20 ID:qKk8P9Px0






『【保健室の中には、腹部の刺し傷から大量の出血をして息絶えるE子の姿があった】』





ルカ「……ッ!」


そのモノローグとともに、これまでの背景と同じように実写の写真が浮かび上がってくる。
ただ違うのは、今回はそこに人の姿がはっきりと映っているということ。

___モノローグの文章と同じように、腹部から大量に血を流して、息絶えている人の姿が。



しかも、その死体は……283プロダクションのアイドル・【大崎甜花】のものだった。



918: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:52:49.24 ID:qKk8P9Px0


ルカ「はぁ……!? な、なんだよ……これ……」

美琴「甜花ちゃん……?! ど、どうして……!?」


目の前に突如として現れたよく知る人物の死体写真、それに戸惑い声を上げている最中にも拘らず、ゲームは無関係に進行していく。
エンディングのスタッフロールが、物悲しいBGMとともに流れていく。
制作者・楽曲提供なんてデタラメな部分もあったが、動揺に呑まれる私たちをさらに揺さぶる文言がやがて姿を現す。


919: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:53:58.22 ID:qKk8P9Px0


『 CAST
    カザノヒオリ
          ハチミヤメグル
    シラセサクヤ
    ユウコクキリコ
    オオサキアマナ
    オオサキテンカ
    モリノリンゼ 』


920: 919のCASTが一部ズレていますが書式の問題なので特に意味はないです ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:55:51.31 ID:qKk8P9Px0


そこに在ったのは、283プロの人間の名前。
しかも、ついさっきの死体写真の大崎甜花をはじめとしたこの島にいない人間の名前ばかりだった。


美琴「やっぱり、そうだったんだ……」

ルカ「美琴?」

美琴「登場キャラクターの口調とか、関係性とかが283プロのみんなによく似ていると思ったの……それに、ゲームの開始時のメッセージ。このゲームはノンフィクションだって言葉……もしかして、この事件は本当にあったものなんじゃないかな」

ルカ「はぁ……?! お前ら、この南国生活よりも前に殺しあってたって言うのかよ!」

美琴「……わからない、私たちには記憶がないから」

ルカ「……マジかよ」


とんでもない秘密を知ってしまった。このゲームは、ただの娯楽なんかじゃない。
失われた記憶の中にある禁忌を孕んだ、パンドラの匣。


ルカ「なあ、今の被害者の大崎甜花って……千雪のユニットメンバーだったよな」

美琴「うん、そうだよ」

ルカ「そいつがE子なんだとしたら、姉妹であるD子って大崎甘奈ってことになるよな……?」

美琴「……」

ルカ「あいつら、姉妹で殺しあったってことなのか……? それだけじゃねえ、C子とE子も……大崎甘奈が手にかけて……?」

美琴「あのゲームを見る限りは、そうなるね」


俄かには信じがたい事実だった。
というか、実際今も現実である心地はまるでしていない。
ただモノクマというのはあんなにデマカセばかりであるくせに、こちらの不都合になることばかりは嘘をつかない。
その点から見るに、あの『ノンフィクション』という言葉には不吉な予感を抱いてならないのだ。


921: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:56:58.25 ID:qKk8P9Px0


美琴「アルストロメリアの二人が深くかかわる事件……千雪さんの死にも何かしら関与はしていそうだね」

ルカ「……ああ、犯人はきっとこのゲームをプレイして、それで……」


と犯人への導線が見えかけたその時だった。
目を離していた筐体から妙に高いSEが鳴り響き、慌てて視線をそちらに移す。
エンドロールもその全てが終わり、画面上には『END』の文字が出ていた。


ルカ「……あ?」


かと思うと、その左側にぼんやりと白い文字が浮かび上がってくる。

『Normal END』


ルカ「ノーマル、エンドだぁ……?」


どうやら今の展開はただの幕引きではないらしい。
他にも種類ある中のひとつにたどり着いただけ、“通常”の終わりということは“本当”の終わりも存在しているということだ。


ルカ「これで終わりじゃねえってのかよ……!?」

美琴「ルカ、もう一度やり直そう。このゲームには私たちの知るべき真実がきっと隠れてる」

ルカ「でもどうやって別のエンディングに行くんだよ、ノベルゲームで選択肢も特にない、ただの一本道だったんだぞ!」

美琴「それは……」

ルカ「クソッ、なんだってんだ……このゲームは!」


922: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:58:22.84 ID:qKk8P9Px0


キーンコーンカーンコーン……

『浦島太郎って知ってるかな。妙な正義感にかられた漁師の男が亀を助けて、そのお礼に改定の竜宮城で色ボケしちゃう話なんだけど、彼が惚けている間に地上では700年も時が過ぎちゃうんだ』


『世界に絶望した彼は、お土産に持たされた玉手箱を開けて、その煙を吸い込むことで老人になってしまう。それがみんなもよく知る終わりだよね』


『でも、このお話には続きがあって、彼はその後に鶴になっちゃうんだ。そのまま彼は千人が住むとされる蓬莱山っていう理想郷を目指す旅に出るっていう夢と希望のある終わり方なんだよね』


『じゃあなんでそれが童話ではカットされてるかって言うとね?』


『そんな理想郷、存在しないって大人たちはみんな知ってるからさ。まともな教育も受けてない低学歴の浦島太郎は分からなかったけど、この世界に救いなんて本当はないんだよ。過ぎた時間を埋めることなんてできやしない、彼がやったのはただそこからの逃避なんだ』


『オマエラは過ぎた時間、取りこぼした真実、犯した失態から逃避したりするなよ! いくら嘆いても返っては来ないんだからね!』


『それじゃあモノクマロックの前に集合! 時間の流れも忘れちゃうような壮絶なスペクタクルへとご招待だよ~!』


923: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 22:59:25.77 ID:qKk8P9Px0


まるで私と美琴の動向を見張っているかのようなタイミングでのアナウンス。
一度でも事件前にこのゲームに触れていれば、そう思わずにはいられない悔しさがこみ上げる。
だが、悔しいがモノクマの言うとおりだ。取りこぼした真実を嘆いていても、それが戻ってくることはない。
私たちはその事実をしかと受け止めて、次にできることを探さねばならない。


ルカ「美琴、仕方ねェ……行くぞ。今手元にある武器で戦うしかねえんだ」

美琴「うん、そうだね」


私たちのコロシアイ南国生活の前にあったかもしれないコロシアイ。
ぼんやりと浮かび上がった可能性とそれに対する恐怖と好奇心。
それを必死に抑え込むようにして、私たちは公園を出た。


コトダマゲット!【かまいたちの真夜中】
〔モノクマが今回の事件の動機として用意したゲーム。ノンフィクションのゲームであると銘打ってあり、ゲーム中では283プロの人間によるコロシアイが収録されていた。ルカと美琴のプレイではノーマルエンドにしかたどり着けなかった〕


924: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:00:42.40 ID:qKk8P9Px0

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【中央の島:モノクマロック】

相変わらずこの岩山には見慣れない。
前回の裁判で突然姿を現したかと思えば、中には巨大なエレベーターが通っていて、その先には学級裁判場が広がっている。
予算がいくつあっても間に合う代物ではない。
私たちの今おかれている非現実的な状況を体現しているのがこのモノクマロックなのだ。


夏葉「ルカ、美琴……お疲れ様、捜査はまとまった?」

ルカ「……そんな顔に見えるか?」

夏葉「ご、ごめんなさい……そんなつもりじゃなかったの」

ルカ「ハッ……」


小金持ちをあしらって私は近くのヤシの木にもたれかかった。
まだ思考がまとまらない、今回の事件において有力な容疑者は絞られてはいるものの、あのゲームの情報がそれを邪魔する。
どちらともつかない思考のおぼつかなさが焦りとして私を襲う。


925: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:01:45.27 ID:qKk8P9Px0


冬優子「愛依ちゃん、大丈夫? 無理はしちゃ、ダメだよ?」

愛依「うぅ……なんとか、第二のヤマも超えたから、いける……はず」

あさひ「……」

恋鐘「前回もやったとけど、なんでこう夜にばっかり裁判なんやろ……眠気もあって思考がまとまらんたい……」

摩美々「恋鐘は目が覚めてても大して変わんないでしょー」

結華「こらこら……それは犯人に文句案件だね、こがたん」

果穂「あたし、今回は自分で調さしました……あたしもいっしょに、最前線でたたかいます!」

夏葉「ええ、頼もしいわね果穂。あなたの冴えた推理、聞かせてもらうわよ!」

智代子「果穂はえらいね、こんな時なのにちゃんと正面から立ち向かうことができて。……わたしは、まだまだだなぁ」

透「二回目、やるんだね」

雛菜「透先輩、緊張してる~?」

透「緊張てかさ、後悔」


今回の事件は、なんとしても私自身の手で決着をつけたい。
その思考が根底にあったことは否定しない。
桑山千雪という人間から受けた影響は、この中では私が一番大きいだろうから。
それに報いたいという衝動だけは、否定しちゃならないんだ。


926: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:02:53.18 ID:qKk8P9Px0


だが、時間は待っちゃくれない。
生き残った13人全員が海岸に集うと、すぐにそれは始まった。

ゴゴゴゴゴゴゴ……

内臓の内側から揺さぶるような地面の振動が合図。
顔を持ち上げると、モノクマの岩石像からちょうどエレベーターが射出されるところだった。


果穂「みなさん、行きましょう! 犯人さんとの真剣勝負、ぜったいに勝って帰らないと!」

あさひ「果穂ちゃん、やるき十分だね!」

果穂「はい! 千雪さんのためにも、負けられないです!」

(……気持ちは同じ、ってか)

透「しゃー、かますかー」

雛菜「透先輩、今回もやっちゃって~!」

愛依「透ちゃん、前回そんなかましてたっけ……?」

摩美々「むしろにちかにかまされた方だと思うケドー」


927: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:04:11.26 ID:qKk8P9Px0


次々とエスカレーターに乗り込んでいく。
巨大なモノクマ像に飲み下されるような見た目のこれは、やっぱり不快だ。
ただ、もっと不快なのはこの期に及んで尻込みしようとする足の震え。
悟られないように表情だけは取り繕ったが、張本人の自分が一番わかる。


ルカ「……知ったことか」


だが、そんな感情は無視をする。
私は私のやりたいようにする、そのための障壁はすべて乗り越える。
たとえ、自分の感情であってもそれは同じことなのだ。
恐怖を感じてしまうなら、それ以上に奮い立たせてしまえばいい。
頬をぴしゃりと叩いて、無理やり足を動かした。

私たち全員がモノクマロックに飲み込まれると、エスカレーターは収納され、エレベーターが起動した。


928: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:05:23.03 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------
【モノクマロック内部:エレベーター】

ゴウンゴウンと音を立て下っていくエレベーター。
あちらこちらで情報共有に勤しむ声もそれに交じって聞こえてくる。
私はそれに混じることはせず、隅で壁にもたれかかっていた。

乗り込んでしまえば、不思議と恐怖は感じなかった。
もう逃げ場がない、自分がどうしようともエレベーターでその場所に運ばれてしまうと知っていたからだろうか。
ある種の諦観的な反応が、かえって私の気持ちを落ち着かせていたように思う。
それくらいに私は静かに、穏やかに、到着の時を待っていた。

自分でも、その凪は少し不思議だった。
千雪を殺されたことに対して憎悪に燃えるとか、悲嘆にくれるとか、反応はいくらでもあったのに、それをしなかった。
でも、この凪はきっと私が千雪のすぐそばにい続けたからこそなのだろうと思う。
千雪は自分が殺されたとて、遺された仲間にそんな反応をされることを良しとしないだろうことが容易に想像つく。

むしろそれで自分の胸を痛めてしまうだろう。
だから、そういうのは全部後だ。
今は私は、私にできることをする、ただそれだけだ。


美琴「ルカ……生きて帰ろうね」

ルカ「当たり前だ、勝つぞ」


長い長い降下の果てに、エレベーターはたどり着いた。
命を懸けた騙しあいの舞台、学級裁判場に。


チーン!


929: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:06:41.08 ID:qKk8P9Px0

-------------------------------------------------
【地下裁判場】

バビューン!!

モノクマ「お、来たね来たね! 首を長~~~~~~~~~~~~~~~くして待ってたよ!」

モノミ「あぁ~~~~~! 首が長く伸びすぎて、あちしを締め付けてまちゅ! いやでちゅ! 拘束するならせめて麻縄にして! 生暖かくて気持ち悪いでちゅ!」

モノクマ「うるさい! 学級裁判に立ち会わせてもらえるだけでも幸運だと思うんだな! 世界には裁判の傍聴に行きたくてもいけない、貧困に悩む子供たちであふれてるんですよ!」

モノミ「貧困に悩む子供たちは多分裁判に興味なんかないでちゅよ! ユニセフもそこはノーマークでちゅ!」


エレベーターの扉が開いた先には、前回も踏み入れた学級裁判場。
七草にちかが命を落としたその舞台は、なんだか様変わりしていた。
ギラついた配色だった壁紙はなんだか柔和な色に差し替えられ、あちらこちらにぬいぐるみなどのファンシーなモニュメントが置かれている。
これから命のやり取りをするとは思えないほどで、余計に悪趣味だ。



930: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:07:41.18 ID:qKk8P9Px0


モノクマ「被害者の桑山さんに合わせて、キュートでハートフルな内装にしてみたんだ! あ、そこらへんのぬいぐるみは裁判が終わったら持ち帰ってくれてもかまわないよ!」

ルカ「……ふざけてんな」

愛依「モノクマがふざけてんのは前々からだけどねー……」

摩美々「まあ、裁判の進行には何も影響ないでしょー。私たちがやるべきことも変わらないんだしー」

透「見つけなきゃだね、犯人」

果穂「はい! ぜったいに見つけてみせます、しんじつはいつも一つ! ですっ!」

智代子「うんうん、今回も見つけられるはずだよ! みんなで協力すれば大丈夫!」

夏葉「ええ、犯人を除いても12人の仲間たちがいる……そのことを忘れないでちょうだい」

(12人の仲間たち……か)

(そういえば、前回の事件では七草にちかとは他に暗躍している存在、【狸】がいたが……今回はどうだ?)

(裏で事件をかき乱そうとしているあいつが、今回も関与しているのなら……12人の仲間を妄信しちまうのはまずいんじゃねーのか……?)

(……)

(……いや、ちがう。今これを言ったところで不安を煽るだけだ。私が生き抜くためにも、こいつらに余計な不安をかけるべきじゃねー)

(今は、この仲良しごっこの邪魔をしないことの方が大切だ)

ルカ「……やるぞ、なんとしても」



931: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:08:49.14 ID:qKk8P9Px0




桑山千雪、超社会人級の手芸部。




年の割に落ち着きがなくて、子どもっぽい言動も多くて、それでいてお節介だという面倒くさい女だった。
一人酒を飲んで寝ようとした夜に、あいつに出会ったせいで、私は散々に振り回されることになっちまった。
朝食会への参加、海水浴の協力、花火大会の運営……そして、美琴との復縁。
今こうして私が美琴と改めてタッグを組めたのはあいつの存在があってこそだった。
私たちはまだ大人になる必要なんかない、後先考えず感情をぶつけたっていい、子どものままでいい。
そう教えてくれなくちゃ、私は変わることなんかできなかった。

私はその恩に報いなきゃならない。
カミサマを、ただの“人”に戻してくれた、その恩に。

この裁判はあいつの弔い合戦である以上に、大きな意味を持つ。



932: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:09:48.68 ID:qKk8P9Px0


美琴「……ねえ、ルカ」

ルカ「なんだよ」

美琴「前回の裁判で、ルカが言ってくれたこと。今でも覚えてるんだ」

ルカ「はぁ? なんのことだよ」

美琴「にちかちゃんも最後に私たちを信じてくれた、だから私たちもまた信じなおせばいいっていう言葉」

ルカ「……それは、ほとんど七草にちかの言葉だろ」

美琴「でも、それに気づかせてくれたのはルカじゃない」

ルカ「……知らねー」


私は戦う。
私を救ってくれた千雪の死に報いるために。
千雪が託してくれたものをしっかりと引き継ぐために。
私の中に芽生えたそれを、枯らさないために。


美琴「信じてるよ、ルカ」


そして、もう二度と、何も失わないために。


933: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:10:49.69 ID:qKk8P9Px0






この命がけの学級裁判を、生き抜くんだ_________。





936: ◆vqFdMa6h2. 2022/01/22(土) 23:42:11.72 ID:qKk8P9Px0

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【裁判前準備パート】
☆裁判を有利に進めるアイテムを獲得することができます
 何か購入したいものがある場合は次回までにその旨を書き込んでください。
 指定が多ければ多数決、特に購入指定が無ければ何も購入せず裁判を開始します。

‣ルカの現在の状況
【現在のモノクマメダル枚数…69枚】
【現在の希望のカケラ…24個】


【自動販売機】
≪消耗品≫
【ヒーリングタルト】…5枚
〔誰の口にも合いやすいマイルドな口当たりの優しい甘さ。裁判中に使用すると発言力を2回復できる〕

【ヒーリングフルーツタルト】…10枚
〔フルーツをトッピングして満足感アップ。裁判中に使用すると発言力を4回復できる〕

【高級ヒーリングタルト】…15枚
〔国産フルーツを贅沢にトッピングした高級タルト。裁判中に使用すると発言力が最大まで回復する〕

【プロデュース手帳】…15枚
〔これは彼と彼女たちが過ごしてきた美しき日々の証。誰よりも理解者たる彼は、いつだってそばで戦ってくれる。裁判中に使用するとノンストップ議論・反論ショーダウンを無条件クリアする〕


≪希望のカケラ交換≫
【花風Smiley】必要な希望のカケラの数…20個
〔毎日の自由行動回数が2回から3回になる〕

【Scoop up Scrap】必要な希望のカケラの数…30個
〔他のアイドルとの交流時に、所持品の中で何が渡すと喜ばれるプレゼントなのか分かる〕

【霧・音・燦・燦】必要な希望のカケラの数…10個
〔発言力ゲージが+2される〕

【幸福のリズム】必要な希望のカケラの数…30個
〔他のアイドルとの交流時の親愛度上昇が+0.5される〕

【I・OWE・U】必要な希望のカケラの数…20個
〔発言力ゲージが+3される〕

【われにかへれ】必要な希望のカケラの数…20個
〔集中力ゲージが+3される〕

【ピトス・エルピス】必要な希望のカケラの数…20個
〔反論ショーダウン・パニックトークアクションの時コンマの基本値が+15される〕

【おみくじ結びますか】必要な希望のカケラの数…10個
〔集中力ゲージが+2される〕

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転載元:【シャニマス×ダンガンロンパ】にちか「それは違くないですかー!?」【安価進行】
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1637235296/



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