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トップページモバマス > ありす「心に咲いた花」:中編

392: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:19:36 ID:xpbloqMQ

連作短編25
凛「ニュージェネレーション」

ある日、街頭テレビに映し出されるアイドルの姿を見た。

何気なく足をとめたその一瞬が、私の運命を変えたのかもしれない。

アイドルに興味があるか?

スカウトにはあまりにも唐突で素っ気ない言葉にも関わらず、私は顔をその声の方へ向けた。

それが、私の物語の始まりだった。

関連SS
ありす「心に咲いた花」:前編

ありす「心に咲く花」:前篇
ありす「心に咲く花」:中篇
ありす「心に咲く花」:後篇















393: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:20:29 ID:xpbloqMQ

ちひろ「ようこそ、シンデレラガールズへ」

凛「えっと、ここがアイドル事務所?」

統括「狭いのはこの女が賃料を渋ったからだ、俺に目を向けるな」

マストレ「とはいえ、最低限の設備はある。後はお前が大きくすればいいだけの事」

統括「言われるまでもない」

ちひろ「あはは、少し狭いのは置いておいて」

凛「はい」

ちひろ「まずは、お話を受けてくれてありがとうございます。
    これからは私達が貴方がサポートします。あ、私が社長の千川ちひろです。ちひろさんでいいからね」

マストレ「アイドル達のレッスンは私が行う、他に妹が三人いるが……紹介はレッスンの時でいいな」

統括「プロデューサーは現在、俺だけだ。必然的に俺がプロデュースする事になる」

凛「一人?」

ちひろ「二人、採用予定ですから。そこは心配なく」


394: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:21:04 ID:xpbloqMQ

マストレ「早く採用しないと営業どころではないな」

凛「他に所属してる子はいないの?」

ちひろ「双葉杏ちゃんに、佐久間まゆちゃん。今はまだこの二人だけ」

凛「聞いた事ないけど」

統括「デビューはまだだ、来月にはデビューさせる予定だが」

ちひろ「二人ともいい子ですから、仲良くなれると思いますよ。それから――」

「失礼しまーす!!」

「未央ちゃん、駄目だよ遅れてきたのにそんな入り方」

ちひろ「来ましたね、大丈夫ですよ。凜ちゃんもまだ来たばかりですから」


395: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:21:34 ID:xpbloqMQ

未央「りんちゃん? あ、君?」

凛「そうだけど」

未央「へえ、名前は?」

凛「渋谷凜」

未央「じゃあしぶりんだね!」

凛「し、しぶりん?」

未央「そう、私は本田未央。で、この子はしまむー」

凛「しまむー?」

卯月「違うよ! ねえ未央ちゃん本当にそれ私のあだ名にするの?」

未央「もっち!」

卯月「うう……」

マストレ「早く自己紹介しないと事務所内での呼び名がしまむーになるぞ」

卯月「島村卯月です!」


396: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:22:05 ID:xpbloqMQ

凛「あ、うん分かった」

卯月「しまむーじゃないからね!」

凛「分かってるよ、そんな変な名前の子だったら可哀想」

未央「何か人のネーミングセンスがぼろくそ言われてる……」

統括「自信があったのか?」

未央「統括だから――」

統括「その後に続く言葉次第でデビューはなくなると思え」

未央「宜しくお願いしますプロデューサー!」

凛「ねえ、一つ質問」

ちひろ「何でしょう?」

凛「この二人は?」

ちひろ「凜ちゃんと一緒に事務所に入るアイドル候補生ですよ」

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397: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:22:37 ID:xpbloqMQ

凛「スカウトしたんだ?」

統括「したのは俺じゃない」

ちひろ「私がしました。こう、ティンときたので」

未央「私達の方がスカウトされたの早いから、まあ先輩かな!」

卯月「先輩って、一緒に今から契約するんだから同じだよ。頑張ろうね」

凛「うん、よろしく」

ちひろ「ここからスタートです、色々とあると思うけど頑張ってね」

トレ「さて、今日が最初のレッスンなんだけど」

未央「はい! 宜しくお願いしまーす!」

トレ「元気でよろしい、皆はどうしてアイドルになりたいって思ったの?」

卯月「凄い人をライブで見たんです、見に行ったのは偶然なんですけど何か凄くて」

未央「あ、同じだ」

凛「……こんな偶然あるんだ」


398: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:23:10 ID:xpbloqMQ

トレ「ちなみに誰? もしかしたら会えるかも」

未央「試しにせーので言ってみようよ」

卯月「流石にばらばらだと思うよ」

未央「いーのいーの、しぶりんもいいよね?」

凛「いいよ、せーの」

未央「え? 同じ?」

卯月「同姓同名の別人……じゃないよね」

凛「こんな事ってあるんだね」

トレ「……」

卯月「トレーナーさん?」

トレ「え?」

未央「もしかして知ってるとか?」

トレ「いえ、ごめんなさい。私もそんなに詳しくなくて、男性よね?」


399: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:23:47 ID:xpbloqMQ

卯月「はい、結局ライブはその一回きりなんですけど」

未央「うん、でもこの本田未央を唸らせるだけのものだったからね!」

トレ「そっか、だからちひろさん……」

凛「ちひろさんがどうかしたの?」

トレ「ううん、じゃあその子に追いつく為にもレッスン始めましょうか」

未央「ユニット?」

統括「そうだ、もちろんソロでの活動も行うが当面は三人で活動してもらう」

卯月「三人ですか……」

凛「一人じゃ頼りないって事?」

統括「そういう事ではない、事務所の方針だ。どうしても嫌というならソロでも構わないが」

凛「別にそこまでは言ってない、いいよ」


400: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:25:41 ID:xpbloqMQ

卯月「ユニットなら名前ですね」

未央「スペシャルアイドルズ!」

統括「来月には発表する、名前が決まらないならこちらが決めるが」

凛「大丈夫、考えるから」

未央「え、スルー?」

統括「なら、話は以上だ」

未央「何かとんとん拍子に話が進んでいくねぇ」

卯月「デビューかあ」

凛「……」

未央「どったのしぶりん?」

卯月「緊張するよね、私も何かドキドキしてきた」

凛「あ、うん。名前、どうしよっかなって」

未央「だからスペシャルアイド――」

卯月「凜ちゃんが決めたらいいんじゃない?」


401: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:26:12 ID:xpbloqMQ

凛「私が?」

卯月「何か凄くいい名前を思いつくんじゃないかなって思うから」

未央「ほうほう、それをこの未央ちゃんが判断すると」

卯月「多数決で決めるよ」

未央「私の意志は?」

卯月「だから一票」

未央「もう何の意味もない票だよ!」

凛「……ユニットか」

ちひろ「やっぱり、嫌だったりする?」

凛「違うよ、ただ考えてなかったからちょっと戸惑っただけ」

ちひろ「そうね、貴方たちがこの事務所の最初のユニットになる」


402: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:26:45 ID:xpbloqMQ

凛「大丈夫なのかなって」

ちひろ「何か不安?」

凛「統括から聞いてますか?」

ちひろ「彼の妹さんのこと?」

凛「卯月と未央をこの事務所に連れてきたのはちひろさん?」

ちひろ「私にも見る目はあるんですよ」

凛「でも、私と彼女達とは違う」

ちひろ「同じですよ、私にはそう見えます」

凛「そうかな」

ちひろ「貴方達には彼らには行けなかった場所まで行って欲しいなって思ってるんですから」

凛「行けなかった場所?」

ちひろ「そう、新しい時代は凜ちゃん達が開くんだよ」


403: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:31:17 ID:xpbloqMQ

先P「ニュージェネレーション?」

統括「そうだ、この事務所の看板にする」

先P「面白い」

統括「そうか?」

先P「彼らの跡を継ぐアイドルの育成って事でしょう?」

統括「あいつらに跡を継がせる気はない」

先P「これは失礼、では?」

統括「765の時代がこれから来る、それはもう分かっていること。なら俺にできるのはただ一つ」

先P「それに負けないだけのアイドルになれるんですかね、彼女は」

統括「それがあいつの願いであり、俺の願いだ」


404: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:31:48 ID:xpbloqMQ

杏「デビューおめでとう」

凛「そんな棒読みの祝福なんて初めて聞いた」

杏「これでも精一杯感情を込めたつもりなんだけどね」

凛「じゃあ、そのまま受け取っておく。ありがと」

杏「名ばかりの先輩はあっという間に追い抜かれちゃったよ」

凛「そうは思わないけど」

杏「そうだ、プロデューサーが増えるらしいよ」

凛「また? 四人目?」

杏「再来月くらいの話みたいだけどね、まあアイドルの数も増えてきたし」

凛「ふうん、私には関係ないかな」

杏「だよね、まあどんなのでも杏のスタンスは変わらないけど」

凛「確かに変わりそうにはないね」


405: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:32:19 ID:xpbloqMQ

卯月「新しいプロデューサーさんの写真が来たよ!」

未央「何でそんなにハイテンション?」

卯月「だって見てほら!」

未央「……こんな事ってあるんだ」

凛「何、そんなに凄い人なの?」

未央「凄いよ見てほら!」

凛「うん? ああ、この……」

未央「運命かも!」

卯月「プロデューサーになってたんだね」

未央「うーん、アイドルとしては会えなかったかあ」

卯月「それよりも凄いことだよ、一緒にお仕事できるかも」


406: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:34:25 ID:xpbloqMQ

凛「ちょっとこれ借りていい?」

未央「どーぞどーぞ、もう存分に」

卯月「あ……」

未央「どうしたの? カップ焼きそばをダバーっとやっちゃったみたいな顔して」

卯月「妹さんのこと、忘れてた」

未央「あ」

卯月「うわあどうしよう!」

未央「うーむ、しぶりんが重く受け止めてないことを祈るしかないって」

卯月「ああもう私の馬鹿!」

未央「場合によっては私達もあんまり近づかない方がいいかも、この人がいい人か悪い人か抜きにして」

卯月「大丈夫かな……」


407: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:40:31 ID:xpbloqMQ

凛「ちひろさん」

ちひろ「何でしょう?」

凛「とぼけるんだ」

ちひろ「そんなつもりありませんよ、何のお話でしょう?」

凛「プロデューサーが増えるって聞いたけど」

ちひろ「統括さんには内緒ですよ」

凛「反対されるから?」

ちひろ「はい、ただ反対する理由は凛ちゃんとは違いますけど」

凛「理由はどうあれ反対するのに採用するんだ」

ちひろ「凛ちゃんは何で反対するんでしょうか?」

凛「何でって」

ちひろ「アイドルじゃない彼を見るのが嫌ですか?」


408: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:41:03 ID:xpbloqMQ

凛「そうじゃなくて」

ちひろ「彼女に何かしたかもしれないから?」

凛「……」

ちひろ「まずはゆっくりと見てみたらどう?」

凛「見るって、何を」

ちひろ「彼がプロデューサーとしてアイドルとどう向き合うか、アイドル達が彼をどう受け止めるか」

凛「それで失敗したら――」

ちひろ「その時はその時で、責任を取るのは私です」

凛「何をするかも分からないのに、そんな賭けに――」

ちひろ「もし、興味があるのなら」

凛「ここにいるの?」

ちひろ「はい、今は。きっと驚くと思いますよ」

凛「……」


409: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:41:33 ID:xpbloqMQ

マストレ「行かせていいのか? 会った途端にトラブルになるかもしれん」

ちひろ「大丈夫ですよ、凛ちゃんも彼もそんな子ではありません」

マストレ「とはいえだな」

ちひろ「それに、ちゃんと向こうには私から話を通しておきましたから」

マストレ「そこまでして彼を入れようとする理由は何だ? 凛ではないがトラブルの種を持ち込むのは私も懸念を抱かざるをえない」

ちひろ「今のままの方が私は不安なんですよ」

マストレ「何か不安材料でもあるのか?」

ちひろ「凛ちゃん達の成長には、彼が必要だと思いますから」

マストレ「そこまで言うなら私からは何も言わないが」

ちひろ「信じてますから」


410: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:42:13 ID:xpbloqMQ

凛「たるき亭……まさかここ?」

店員「いらっしゃいませ」

凛「あの、人を探してるんですけど」

店員「人? ここは私と店長がいるだけだけど」

凛「えっと、こういう人なんですけど」

店員「ああ何だ、彼の知り合い? なら上だよ」

凛「上?」

店員「そう、ああでも今は出てるんじゃないかな」

凛「じゃあどこかで待って」

店員「お腹すいてる?」

凛「……注文してもいいですか?」

店員「もちろん! ここはその為の場所だから、何にする?」


411: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:42:57 ID:xpbloqMQ

凛「鯖の塩焼き定職」

店員「ふふっはーい!」

凛「何で笑われたんだろう……でも上? 上には何が」

「あーもう! 何であいつのせいで私まで!」

「仕方ないよ伊織、僕らも迷惑かけたんだからさ」

「そんな事は分かってるわよ!」

「じゃあもう落ち着きなよ……」

凛「いおり? いおりって――」

伊織「あら、確か……」

凛「渋谷です、渋谷凛」

真「わーニュージェネレーションだ! 初めて見た! 伊織本物だよ本物」

伊織「そりゃそうでしょ、私達だって本物よ」


412: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:43:31 ID:xpbloqMQ

真「その輝きはね」

伊織「何の輝きかしら?」

真「さーて何だろうね」

店員「人を探してるって来たから、上にいるって教えておいたよ。はい塩定」

真「へー誰かを探してるんだ」

伊織「うちにいるのなんて探す価値もないのしかいないわよ」

真「ボク達だったら何度か顔を合わせてるけど、アイドルじゃないの?」

凛「はい、多分」

真「多分?」

凛「アイドルをやってたと思うんです」

真「アイドルをやってた……」


413: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:44:04 ID:xpbloqMQ

伊織「年は?」

凛「恐らくなんですけど、まだ10代後半から20台前半くらい」

真「分かった!」

伊織「いるわよ、それに当てはまる人物」

凛「本当ですか?」

伊織「いきなり嘘をつくほど意地悪じゃないわ」

真「そうかな?」

伊織「ちょっと黙ってなさいよもう!」

真「でも何の用?」

凛「多分、ライブに行ったことがあるんです」

真「本当!?」

伊織「物好きなのね」


414: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:44:55 ID:xpbloqMQ

真「失礼だよ伊織、後で言いつけるよ」

伊織「何よ、事実じゃない」

真「また自分が見れなかったらって」

伊織「話が進まないじゃない! それでファンだったってこと?」

凛「そう、かもしれないんですけど」

真「何か事情があるのかな」

伊織「まあ問い詰めはしないわよ、でも来てもらって悪いけど今はいないわよ」

凛「知ってます、外出中だと」

真「戻ってくるのいつ頃?」

伊織「さあ、上でピヨピヨ言ってるのに聞けば分かるんじゃない?」

真「うん、そうだ!」

凛「って、はいあの!?」

真「一緒に行こう! まだ何人かいると思うし!」


415: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:45:59 ID:xpbloqMQ

伊織「人の都合も聞かずに何を言ってるのよ」

真「大丈夫だって、違う事務所の話も聞きたいし。いいよね!?」

凛「は、はい」

真「じゃあ行こうすぐ行こう!」

凛「ま、待ってまだ塩鯖!」

伊織「ごめんなさいね、後で皿は返すから。持っていくわ」

真「まっこまっこりーん!」

千早「そんなに慌ててどうしたの?」

真「ゲストを連れてきたよ!」

千早「ゲスト?」

小鳥「お客様?」

真「そうです、渋谷凛ちゃんです!」


416: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:46:36 ID:xpbloqMQ

凛「ど、どうも」

真「そういえば伊織は?」

伊織「ここにいるわよ」

真「あ」

伊織「どうして私がこんな事をしなくちゃいけないのかしら」

真「あははは……ありがと」

千早「確か……シンデレラガールズの」

凛「はい、先日はどうも」

小鳥「会ったことあるの?」

千早「はい、何度か」

真「でも千早だけ?」

千早「ええ、他の皆は出てるけど」


417: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:47:23 ID:xpbloqMQ

小鳥「あの真ちゃん、私もいるんだけどな」

伊織「事務員がいなかったら問題じゃない」

真「ああそうだ小鳥さん、聞きたい事があるんだ」

小鳥「何かしら?」

伊織「私の担当はいつ戻ってくるのかってことよ」

小鳥「ちょっと待ってて……えーっと1時間もしない内には戻ってくると思うわ」

伊織「良かったわね、時間の無駄にはなりそうになくて」

凛「担当?」

伊織「そうよ、10代で元アイドルでプロデューサーなんて世界でも一人しかいないでしょうね」

凛「本当にプロデューサーなんだ」

真「まあ、聞いただけじゃ信じられないよね」


418: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:49:11 ID:xpbloqMQ

小鳥「そうよね、本当に頑張り屋さんだから」

凛「そう……ですか」

千早「何か用なの?」

伊織「何か訳有りみたいなのよね」

千早「何もないといいけど……」

伊織「今日は何時までいるの?」

千早「春香と彼にちょっと頼みごとをしてるから、帰ってくるまではいるわ」

伊織「ふーん、夜まで帰ってこないと思うけど?」

千早「大丈夫よ、暇つぶしの道具は色々と用意してるから」

真「あ、戻ってきたかな?」

伊織「やっとね、さあ何が始まるのかしら」


419: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:51:46 ID:xpbloqMQ

765P「戻りました」

真「何だプロデューサーか」

伊織「タイミング悪いわね」

765P「何で帰って早々に俺はそんな事を言われなくちゃいけないんだよ」

伊織「待ち人がいるのよ」

765P「待ち人?」

凛「お邪魔してます」

765P「シンデレラガールズの渋谷凛?」

凛「はい、初めまして」

765P「もしかして……ああいや、何か用かな?」

伊織「だから言ったでしょ、人を待ってるの」

765P「人ね、分かった俺が対応しよう」


420: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:52:20 ID:xpbloqMQ

真「分かったんですか?」

765P「まあな、社長から話は聞いてるから」

伊織「社長?」

小鳥「そんなに大きい話なんですか?」

765P「少なくとも彼女にとってはそうだろう」

千早「やっぱり何かあるのね」

765P「とはいっても俺達には直接には関係のない話だ、応接室は空いてます?」

小鳥「今、用意します」

765P「いえ、俺がやります。ちょっと使うな、入ってこないように」

真「分かりました」

765P「少しいいかな?」

凛「はい」


421: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:52:54 ID:xpbloqMQ

伊織「何かしらね」

真「そんなに重要なことなのかな」

千早「プロデューサーが言うなら、そうなんじゃないかしら」

小鳥「大事にならないといいけど……」

765P「さて、実は君がここに来ることは知ってた」

凛「ちひろさんからですか?」

765P「ああ、社長と彼女は知り合いでね。事務所の設立にはうちの社長がちょっと絡んでる」

凛「なら、私が来た理由も知ってますよね?」

765P「知ってる、だけど今日は会わない方がいいと思う」

凛「理由を教えてもらえますか?」

765P「早すぎる」

凛「それは何がですか?」


422: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:54:40 ID:xpbloqMQ

765P「会うなと言ってるんじゃない、ただ彼にはまだ時間が必要だ」

凛「シンデレラガールズに来るんですよね?」

765P「その通り。正直なところ俺は反対だけど、彼がそう決めたなら俺はそれを応援する。
     もちろん、上手くいかなければまたここに戻ってきたっていい」

凛「反対?」

765P「彼に何があったかは知ってるね?」

凛「大体は」

765P「俺に知った風な事を言われても君は反発するだろうし、それも理解できる。
     だからこれは単純に俺の我儘だ。いつか君と話すにしろ、それは彼がもう少し成長してから
     の話にして欲しいんだ」

凛「どうせ上手くいかないに決まってる」

765P「一応、連絡先は君に渡しておく。君が彼を失格とするなら、その時は俺も彼女に
     話をするから」

凛「……分かりました」


423: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:55:41 ID:xpbloqMQ

真「もう帰っちゃうの?」

小鳥「まだ帰ってきてないけど、いいの?」

凛「はい、目的は達しましたから。突然すみませんでした、失礼します」

千早「何だったんでしょうね」

伊織「今、出てきたのが説明してくれるでしょ」

765P「悪いが無理だ」

伊織「まさかあそこの事務所と何か問題でも起こしたんじゃないでしょうね」

765P「そんな訳ないだろ」

律子「戻りました」

真「あ、律子。さっき――」

律子「その事でプロデューサーにお聞きしたいんですが」

765P「さっきのメールのことか?」


424: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:56:31 ID:xpbloqMQ

真「メール?」

律子「俺がメールするまで事務所には戻ってくるなってメール、お陰で時間の潰し方に困りましたけど」

765P「すまん、伊織たちが分かっちゃうからな」

真「分かってましたよ?」

伊織「何を言ってるのよ馬鹿プロデューサー」

千早「それ位は理解して言葉を選びましたから」

小鳥「ピヨ?」

765P「あれは全て芝居か?」

伊織「いきなりあのプロダクションから人が来たら誰だってあいつに用があるって思うわよ」

真「だけどほら、彼……」

律子「ああ、だから共通点が多い私って事にしようとしたのね」


425: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:57:10 ID:xpbloqMQ

真「そういうこと、それで勘違いでしたーって帰そうかなって」

765P「なら礼を言わないといけないか」

千早「今度、そのプロダクションに彼は行くんですよね?」

765P「そうだ、自分から決着を着けにいくのは感心だが」

伊織「そう上手くいくのかしらね」

真「無理しちゃって」

伊織「そんな訳ないでしょ! いなくなったら清々するわ」

律子「はいはいそこまで。それでプロデューサー、大丈夫そうなんですか?」

765P「大丈夫でなければこっちで本格的にプロデューサーとして働いてもらうさ。
     正直、人手不足はこっちも深刻だ」

千早「とりあえず、来た事は内緒にしましょうか」

765P「それがいいだろうな、他のアイドルにも他言無用。いいな?」


426: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:57:41 ID:xpbloqMQ

春香「わー雪だ!」

P「冬なら雪も降るだろ」

春香「分かってないなあ」

P「で、千早に頼まれたものはどうするんだ?」

春香「あ」

P「あ、じゃない。忘れたらまた春香ったら……って溜息をつかれる」

春香「えっと、CDだよね?」

P「聞いたのは春香だろ」

春香「Pくんも傍にいたでしょ?」

P「タイトルがうろ覚えだ、行けば分かるだろ」


427: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:58:23 ID:xpbloqMQ

春香「最悪、電話して聞けばいいよね」

P「春香がな」

春香「あそこでいいかな?」

P「入ってみて探せばいい」

春香「わー私のもある」

P「なかったら問題だ」

春香「Pくんのもあるかな?」

P「あったら問題だ」

春香「中古の10円コーナーとか」

P「それはそれで物悲しいが」

春香「聞きたかったなあ」


428: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:58:55 ID:xpbloqMQ

P「聞いただろ」

春香「あれはオーディションの為の歌で、アイドルとしての歌じゃないよ」

P「はいはい、俺は探してるからな」

春香「待って、私も行く!」

P「えーっと」

春香「タイトルは?」

P「俺の記憶が確かなら、さよならの代わりに」

春香「さよならの代わりに」

P「そうそう、アルバムだからこの辺りなんだけど」

春香「私、あっちの方を探してくるね」

P「はーい、ってあっちってアイドルコーナー……ある訳ないだろ」


429: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 16:59:38 ID:xpbloqMQ

春香「あった?」

P「あったよ、これだな」

春香「じゃあお会計してくるから」

P「いいよ、俺が出す」

春香「いいからいいから、待ってて」

P「あんなに動ける元気だけは見習いたいが」

春香「お待たせしました」

P「とっとと帰ろう、いつまでも外にいたら寒い」

春香「その前に、はい」

P「何だこれ?」

春香「私達のベストアルバム!」

P「音源は持ってるぞ?」


430: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:00:17 ID:xpbloqMQ

春香「ちゃんとしたCDで聞いて欲しいから、あっちに行っても」

P「……聞いてたのか」

春香「頑張るって決めたんだよね?」

P「まあな、どうなるか分からないが」

春香「聞いてね、絶対」

P「聞くさ、言われなくたって」

春香「私ね、初めてのオーディションでPくんに会えて本当によかったって思ってる。
   プロデューサーや千早ちゃん達や……Pくんに会えなかったら今の私は絶対にないから」

P「そこまで感謝されてるならとっとと一番上まで行ってくれ、目標がはっきりしてた方がいい」

春香「何の目標?」

P「俺が今から出会うであろうアイドル達の」


431: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:01:18 ID:xpbloqMQ

春香「いつか、一緒にその子達とステージに立てたらいいな」

P「それまでにプロデューサーとデートの一回でもできるといいな」

春香「で、でででででデート!?」

P「あのさ、いらないお節介だがそんなんだと美希と勝負にすらならないぞ」

春香「だって、うう……」

P「これなんだからなあ、ほら愛しのハニーが待ってる。さっさと帰るぞ」

春香「あ、待っ――」

凛「すみません、大丈夫ですか?」

春香「ててて、こっちこそごめんね」

凛「落としましたよ」


432: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:01:48 ID:xpbloqMQ

春香「ありがとうございます」

凛「いえ」

P「おーい、春香!?」

春香「待って、置いてかないで!」

P「何をやってんだ」

春香「ちょっとぶつかっちゃって」

P「ちゃんと謝ったか?」


433: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:02:20 ID:xpbloqMQ

春香「謝ったよ、でも奇麗な子だったな」

P「ふーん、まだ見えるか?」

春香「うーんと、いないね」

P「残念」

春香「ここに可愛いアイドルがいますよ! アイドルが!」

P「見えない」

春香「もう!」

凛「本当にいるんだ……楽しみだよ」


434: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:03:01 ID:xpbloqMQ

加蓮「ふう……」

トレ「こんな言い方なんだけど、見違えたね」

加蓮「目標ができたから、立ち止まってなんかいられない」

奈緒「まだまだ、これくらいじゃ駄目だ」

トレ「そうね、頑張りましょう」

凛「……」

卯月「凛ちゃんおはよ、凛ちゃん?」

凛「え?」

卯月「あの二人が気になるの」

凛「負けたんだよね、あの二人」

卯月「それと輿水さんだっけ、担当いないんだって。何かあったのかな?」

未央「喧嘩別れしたとか? あんたと一緒じゃ私たちは勝てなーいとか」


435: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:04:00 ID:xpbloqMQ

凛「だったら笑い物だけど」

卯月「でも楓さんを担当して順調だって話は聞くよ、仲が悪いって話もきかないし」

未央「じゃあ逆かな? こんな出来の悪いの見てられるかーって」

卯月「初めから勝った方をプロデュースするつもりだったってこと?」

未央「優秀なのかな、聖來さんも自分から担当を変えたっていうし」

卯月「本当に悪い人ならそんな事しないよね」

凛「監視してるって考え方もある」

未央「聞いてみる?」

卯月「でも誰に?」

凛「ちょっと聞いてくるよ」


436: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:04:45 ID:xpbloqMQ

卯月「聞いてくるって」

未央「しぶりんって時々、私以上に積極的になるよね」

卯月「どうやって切り出すんだろう」

統括「島村、本田」

未央「またそうやって呼ぶ」

卯月「どうしたんですか? 何だか小声ですけど」

統括「少し、話をしておく」

未央「何々? お仕事の話?」

統括「仕事ではないが、事務所にかかわる話だ」

卯月「大事な話なんですか?」

統括「判断はお前たちに任せる」


437: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:05:26 ID:xpbloqMQ

凛「調子よさそうだね」

加蓮「ニュージェネレーションが声掛けてくれるなんて光栄」

凛「見たよ、楓さんとのあれ」

奈緒「うわ、出回ってんのか」

凛「負けたのは相手が悪かっただけじゃない? 惹きつけられたよ」

加蓮「駄目、あんなのじゃ」

凛「そう?」

加蓮「結局、私達が期待に応えられなかったのは事実だから」

奈緒「まあ、悔しかったら練習するしかないよな」

凛「確かついてた若い男の人がいたよね?」

奈緒「Pさんか? よく知ってんな、まだあの人ここに来て日が浅いのに」


438: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:06:06 ID:xpbloqMQ

加蓮「もうプロデューサーとして活動してるの?」

凛「うん、楓さんと聖來さんと佐々木千枝って子が最近になって見てるって聞いたけど」

奈緒「そっか、頑張ってるんだな」

加蓮「負けないようにしないとね、私達も」

奈緒「そんで、いつかな」

加蓮「うん」

凛「どうだったの? 合わなかったとか?」

加蓮「ううん、寧ろ私をこの世界に真正面から向き合わせてくれた人」

奈緒「聞くと長くなるから早めに撤退した方がいい」

加蓮「何でそういうこと言うかな」

奈緒「犠牲者は少ない方がいい」


439: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:06:37 ID:xpbloqMQ

加蓮「ふうん、ならあれは言っちゃっていいんだ」

奈緒「何だよ」

加蓮「Pさんに会えないからって一人で――」

奈緒「あーあー!!」

加蓮「言われたくなかったらしなければいいのに」

凛「……」
――

統括「どうした? 仕事の前だ、もう少し何とかしろ」

凛「聞いてるよね? 水本ゆかりの件」

統括「聞いている、許可は出した」


440: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:07:15 ID:xpbloqMQ


凛「どうして?」

統括「本人が希望したなら止めはしない、それだけだ」

凛「人が足りなくなるんじゃない?」

統括「また入れればいいだけのこと」

凛「そんな風に他のアイドルは割り切れるかな」

統括「同等の成果を出せばある程度は本人の希望に沿う形にはする」

凛「私も?」

統括「そうしたいのか?」

凛「……今度の舞台、チケット取れないかな」

統括「見てどうする」

凛「少し気になっただけ、本当にプロデュースできてるのかどうか」

統括「どの道、俺は顔を出す予定だ。ついてくる気があるなら来ればいい」

凛「それを見て判断するんだよね」

統括「もちろんだ」


441: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:07:48 ID:xpbloqMQ

凛「橘ありすって、統括がスカウトしたの?」

統括「いや、自分から事務所に履歴書を送ってきた。それを見てちひろが採用した、それだけだ」

凛「ふうん、自分で」

統括「気になるか?」

凛「別に」

統括「凛から見ても、似ていると思うか」

凛「さあね」

統括「ならあいつが入れ込むのも無理はないか」

凛「入れ込むって」

統括「知らないか? あいつのスケジュールの大半があの少女との仕事だ」

凛「露骨に贔屓するタイプなんだ」

統括「それとは違うと思うがな」

凛「あいつの肩を持つの?」

統括「仕事と私事は別だ」


442: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:08:20 ID:xpbloqMQ

未央「神谷さんと北条さん?」

卯月「確かに担当はいないみたいだけど」

凛「あのままにしておくのももったいないと思う、実力はあるんだから」

卯月「だからって言っても統括さんはなんて言ってるの?」

凛「好きにしろって、だから好きにする」

加蓮「ごめん、今までずっと誘ってもらったけどやっぱり断る」

凛「……そう」

加蓮「お詫びと言ってはなんだけど、休みを合わせて遊ばない? 凛に合わせるから」

凛「いいよ、場所は私が決めていいんだ?」

加蓮「どこでもいいよ、奈緒にもメールしとくから」

凛「分かった、決めておく」


443: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:08:53 ID:xpbloqMQ

卯月「もしもし凛ちゃん? どうしたのこんな時間に」

凛「会うことにした」

卯月「……そっか、誘われたの?」

凛「遠まわしにね、断られちゃったし」

卯月「本当に来るって思ってた?」

凛「分かんないよ、人のことなんて」

卯月「嘘、分かってたと思う。凛ちゃん優しいから」

凛「馬鹿を言わないで、そんな訳ない」

卯月「気持ちが落ち着いたら教えてね、あったこと」

凛「何もないよ」

卯月「待ってるからね」


444: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:09:48 ID:xpbloqMQ

未央「変わってなかったのは私の方だった、ねえ」

卯月「何かあったのかな?」

未央「連絡もあれからないんでしょ?」

卯月「うん……」

未央「まあ暗い顔してても仕方がないって」


445: 以下、名無しが深夜にお送りします 2013/12/30(月) 17:11:51 ID:xpbloqMQ

凛「……」

卯月「凛ちゃんどうだった? 一緒にまゆちゃんに会ったって聞いたけど」

凛「どうすればいいのかな」

卯月「何かあったの?」

凛「後ろ向きなまま歌っても意味がないんだってさ」

卯月「凛ちゃん泣いて――」

凛「ねえ卯月」

卯月「……凛ちゃん」

凛「私はどうしたいのかな?」

次回6日
本年は大変お世話になりました。どうぞよい年をお迎えください


448: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:04:44 ID:nYGYdFWk

連作短編26
ほたる「泰らかな葉の下で蛍は静かに瞬く」

ほたる「あの、私はこの世界でやっていけるでしょうか?」

P「今までだってやって来たんだろう? 大丈夫だよ」

ほたる「でも、今までは……」

P「シンデレラだって元の意味は灰かぶり、初めから幸せだった訳じゃない」

泰葉「では私も灰かぶりですか?」

P「泰葉は虐めてる側だな」

泰葉「本当に虐めましょうか?」

P「待て! 冗談だ冗談!」

泰葉「せめて魔法使いとかあるでしょう!」

ほたる「ふふっ」

P「お、笑った」


449: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:05:35 ID:nYGYdFWk

泰葉「愛想笑いですよ、Pさんの駄目っぷりを嘆いてるんです」

P「え」

ほたる「いえそんな事ありません!」

P「って言ってるぞ!」

泰葉「何で真に受けるんですか、馬鹿ですか」

P「馬鹿って、馬鹿って言ったな!」

泰葉「はい、言いました」

P「この……」

ほたる「本当に、ここは不思議な場所です」


450: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:06:11 ID:nYGYdFWk

千枝「とはいっても、これどこの事務所のお話なんでしょうね?」

春菜「ふーむ、この記事で分かるのは事務所が燃えて死者が出たという事だけ」

千枝「でもPさんがこれを見て飛び出していったってことは」

春菜「何か関係があると見た方がいいね」

千枝「でも二年前って千枝はまだアイドルでもありません」

春菜「私もそうだし、この事務所でその頃アイドル事務所にいたとなると」

千枝「あ、心当たりがあります!」

春菜「誰?」

千枝「最近、事務所に入ってきた方ですよ。白菊ほたるさん」

春菜「ああ、そういえばPさんがそんな事を言ってたような」

千枝「もしかしたら何か知ってるかもしれません

春菜「でも、いいのかな」


451: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:06:51 ID:nYGYdFWk

千枝「あんまり、昔の事とか聞かない方がいいでしょうか?」

春菜「うーん、こうそれとなく聞いてみるのはどう?」

千枝「それとなくですか?」

春菜「そうそう、二年前にこんな風に潰れた事務所があるって知ってる? みたいな」

千枝「あくまで世間話のような感じにするんですね?」

春菜「そうそう、それでほたるちゃんから言い出してきたら話を詳しく聞く」

千枝「言葉を濁されたら?」

春菜「即時撤退を」

千枝「了解しました!」


452: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:07:22 ID:nYGYdFWk

春菜「でも事務所が潰れるって想像がつかない」

千枝「この事務所もいつか倒産しちゃうんでしょうか?」

春菜「うーん、どうでしょう」

千枝「そうなったら私どうしましょう?」

春菜「いや、その年ならいくらでもやり直しがきくから」

千枝「こんな暗い話しても仕方ありません、とりあえずお話を聞きましょう」

春菜「任せて大丈夫?」

千枝「はい、どーんと任せてください」

春菜「なら、もう少し細部を決めようか」


453: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:07:57 ID:nYGYdFWk

ほたる「別の事務所のお話……ですか?」

千枝「実はこんな記事を偶然、事務所で見つけてしまいまして」

ほたる「芸能事務所で火災……死者2名……」

千枝「何だか怖い話ですよね? 千枝、全然こういうの想像つかなくて」

ほたる「うん、そうだね」

千枝「ほたるさんはどんな事務所にいたんですか?」

ほたる「どんな……」

千枝「あ! その言いたくなかったら無理には」

ほたる「この事務所も、潰れてしまったんでしょうか」

千枝「も?」

ほたる「私の前の事務所……潰れちゃって」

千枝「」

ほたる「こっちこそごめんね、変な反応になっちゃって」

千枝「い、いえ! 千枝の方こそごめんなさい!」


454: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:09:15 ID:nYGYdFWk

春菜「それで即時撤退と」

千枝「とんでもない話題を出してしまいました」

春菜「大人しく聖來さんかPさんに聞いた方がいいね」

千枝「後できちんと謝っておきます」

春菜「下手に他の人に聞いて変な事になるくらいなら……」

泰葉「何のお話ですか?」

春菜「」

千枝「」

泰葉「えっと、驚かせてしまったんでしょうか?」

千枝「い、いいいいいいえ!」

春菜「何でもないです、何でもないですから」


455: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:09:49 ID:nYGYdFWk

泰葉「あ、何か落としましたよ? 雑誌の記事?」

春菜「」

千枝「」

泰葉「事務所で火災発生……死者2名重傷1名軽傷1名、二年前の記事なんてどこから?」

春菜「作り物ですよ、よくできてるでしょう?」

泰葉「この事務所、聞いたことがあります」

千枝「あははは、よく似た名前かもしれませんね」

泰葉「潰れていたんですか? でもこんなニュースだったら当時の私に耳に入らない訳……」

ほたる「泰葉さん?」

泰葉「お疲れ様、一つ聞きたいんだけどいい?」

春菜「この展開は……」

千枝「大丈夫でしょうか」

春菜「もう流れに身を任せるしか」


456: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:10:34 ID:nYGYdFWk

ほたる「さっきの記事ですか」

泰葉「見たの?」

ほたる「はい、千枝さんから」

泰葉「どうして私には隠したんですか?」

千枝「えーっと」

ほたる「それはその……私の前の事務所が潰れてしまったって話をしてしまいまして」

泰葉「ああ、それで」

春菜「決してわざとでは!」

泰葉「分かってますよ、苦労してきたんだもんね」

ほたる「いえ、そんな」

千枝「泰葉さんでも分からないんですか」

泰葉「そもそも、この記事はどこから出てきたの?」


457: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:12:13 ID:nYGYdFWk

千枝「聖來さんの部屋からです……」

泰葉「入ったの?」

千枝「その、たまたま開いてて」

泰葉「個人で集めてるだけなのかもしれないし、別に問題が起きてないなら――」

千枝「それをみたPさんが血相を変えて飛び出していって」

泰葉「Pさん?」

春菜「だから私達もこうして気にしてて」

泰葉「ちょっと、軽く調べてみましょうか」

春菜「でも、取っ掛かりがこの記事だけでは」

泰葉「ネットで出てくるかな」

千枝「千枝の部屋に来ますか?」

ほたる「持ってるんですか?」


458: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:12:43 ID:nYGYdFWk

千枝「色々と使い道があって」

春菜「ああ、Pさんとの写真の管理とか――」

千枝「早く行きましょう!」

ほたる「壁紙、プロデューサーさん……」

泰葉「隠す気もないんですね」

千枝「千枝の宝物です!」

春菜「まあ今は違う話がメインだから」

千枝「えっと事務所の名前……」

泰葉「出てきませんね」

春菜「事務所の名前自体が消えてる」

千枝「潰れちゃったら全て消えてしまうんですか?」


459: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:14:17 ID:nYGYdFWk

泰葉「いえ、少なくとも何らかの記録が残っていてもおかしくない。その事務所に所属していた子のファンサイトとか
   引退してからも残ってることは多いから」

ほたる「私のいた事務所の名前で検索してみますか?」

泰葉「大丈夫?」

ほたる「大丈夫です、えっと」

春菜「出てきた」

千枝「こんな事務所もあったんだ」

ほたる「やっぱり出てきますね」

泰葉「この記事を書いた人に会えればいいんだけど」

千枝「どの雑誌かも分かりません」

春菜「記者の名前で検索してみる?」

千枝「うーんと、あれ?」

泰葉「出てこない」


460: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:15:09 ID:nYGYdFWk

ほたる「この記事でしか使わなかった名前なんじゃないでしょうか」

千枝「本名じゃ駄目だったんですか?」

泰葉「本名で書くと身の危険が生じる可能性のある記事ということ」

春菜「この事務所、どんな事務所だったんですか?」

泰葉「奴隷商人、と言われてました」

千枝「どれい……」

泰葉「育てて売り飛ばす、そう言われていたのを聞いただけですから何とも言えませんけど」

春菜「あまり真っ当な事務所ではなかったかもしれない?」

泰葉「断定はできません」

千枝「聖來さんがわざわざ記事を取ったっていうことはPさんに関係あるんでしょうか」

泰葉「……一つ、皆さんに質問があります」

春菜「何ですか?」

泰葉「Pさん、プロデューサーになる前は何をしていたか知っている人はこの中にいますか?」


461: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:16:17 ID:nYGYdFWk

ありす「はい」

千枝「ありすちゃん!?」

春菜「いつから……」

ありす「千枝の宝物です!」

ほたる「ほとんど最初からですね」

泰葉「それは本人から聞いたんですか?」

ありす「他に知る術を私は知りませんから、それで何の話ですか?」

千枝「えっと、じゃあ千枝が一から説明します」

ありす「なるほど、分かりました」

春菜「Pさんってプロデューサーになる前って何かしてたの?」

千枝「聞いたことありません」

泰葉「私も本人から聞いたというか自分で気づいた事なので」


462: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:16:47 ID:nYGYdFWk

千枝「いつ聞いたの?」

ありす「一緒に出かけた時に、少し」

泰葉「では、この事務所に心当たりは?」

ありす「それは……ないです」

泰葉「あまり面と向かって聞かない方がいいかもしれません」

千枝「Pさんの過去……」

春菜「勝手に聞くのも気が引けますけど、ここまで聞いて何も聞くなというのも」

泰葉「アイドルだったんですよ、あの人」

春菜「アイドル!?」

千枝「だからかっこいいんだあ」

春菜「そんな呑気な話かな」


463: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:17:54 ID:nYGYdFWk

ほたる「アイドル……」

ありす「この事務所に所属していたか、あるいは知っているか」

泰葉「関係者でしょう、聖來さんはこの事務所以外に所属していたことはないでしょうから」

千枝「じゃあ何で今更それを調べてるの?」

春菜「考えられる可能性は……」

千枝「ここにいた人たちがPさんに接触してきたのかも」

春菜「接触って」

泰葉「ここにいた事をばらされたくなかったら金を払え」

千枝「そんな!」

泰葉「私はともかく、そういう事をしていた事務所に所属していたことを知られたら、アイドルの中には嫌悪感を示す人もいるかもしれません」

千枝「千枝はPさんを信じます!」

ありす「それは言うまでもありませんが、他の人はそう受け止めないかもしれません」


464: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:18:27 ID:nYGYdFWk

泰葉「事務所の評判が落ちかねないから、とか」

千枝「もしそうなったら」

泰葉「彼はこの事務所を去ることになります」

千枝「絶対に嫌!」

春菜「ですが、今になってばれるなんて事あります?」

泰葉「どこかの記者が嗅ぎ付ければ、あるいは。私も彼がどんな活動をしてたかまでは知りませんから」

ほたる「私のせいかもしれません」

泰葉「何かあったの?」

ほたる「私がこの事務所に来たからばれてしまったのかも」

千枝「それはないです」

春菜「いくらなんでも」

ほたる「でも! 私が所属する事務所はどこも」


465: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:20:23 ID:nYGYdFWk

泰葉「過去がそうだとしても、ここは違いますよ。ここはそういう場所ですから」

ほたる「でも……」

千枝「どうしましょう?」

泰葉「あまりこちらから動くと却って逆効果かもしれません」

千枝「黙って待つんですか?」

春菜「噂が広まったら取り返しがつかなくなるよ」

ありす「誰か頼りになる人を……」

泰葉「ある程度、この世界に詳しくてなおかつPさんの味方になってくれそうな人」

先P「おいおいそれで俺の所に来たのか?」

泰葉「ええ」

先P「また地雷を自ら踏みに来るとはね、こんなおっさん頼りにしてどうにかなる気なのか?」


466: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:21:50 ID:nYGYdFWk

泰葉「今、職を失いたくはないでしょう? もし仮説が正しければこの事務所は持たないかもしれません」

先P「ほう、プロデューサーを脅すとはいい度胸だ」

泰葉「脅しますよ、貴方であろうと千川ちひろであろうと」

先P「……岡崎、この世界でここまで生き残ってきたその器量は認める。だがな」

泰葉「私は聞きました、知っているか知らないか」

先P「知っていた」

泰葉「はい?」

先P「もう少し詳しく言おうか、その事について他言しない事を条件に俺はこの会社に入った」

泰葉「あの記事を書いたのは貴方ですか?」

先P「それは契約上、答えられないな」

泰葉「質問を変えます、なら最初に知らなかったと言えばよかったのでは?」

先P「嘘は嫌いでね。後、白菊の言った事はあながちでたらめでもない」


467: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:22:22 ID:nYGYdFWk

泰葉「どういう事ですか?」

先P「一度目なら偶然、二度目なら奇跡、三度目ならそれは?」

泰葉「……必然」

先P「そう思えば、そういう記事を書きたい記者が寄ってきてもおかしくない」

泰葉「そこに彼がいて、過去を知っている誰かがいれば」

先P「そういう事をほじくり返そうとするのもいるかもな」

泰葉「もしそうなら」

先P「白菊ほたるとP、どちらの手を取る?」

泰葉「そんなの、考えたくありません」

先P「だがそんな日が来るかもしれん、頭に入れておけ」


468: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:23:00 ID:nYGYdFWk

聖來「今なら誰もいないかな。うん、Pくんは気付いてくれたみたい」

ありす「何をでしょう?」

聖來「こんな時間まで起きてるなんて、肌に悪いよ?」

ありす「眠れなくなる原因を作ってくれた人に言われたくありません」

聖來「酷い言われ方。ま、仕方ないね」

ありす「あまり他人の過去をばらまくのは感心しません」

聖來「うん、今回だけ。もう何もしないよ」

ありす「問題ないんですね?」

聖來「私はいつもPくんの味方、って訳じゃないけど彼に害する事は絶対にしない」


469: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:24:05 ID:nYGYdFWk

ありす「……あまりそういう事をしないで下さい」

聖來「はは、やっぱりまだ心配?」

ありす「聖來さんを本気で敵に回したくないです」

聖來「……気を付けるよ」

ありす「いえ、こちらこそ夜遅くに失礼しました。おやすみなさい」

聖來「おやすみ」

ありす「はい、これでようやく眠れます」

聖來「Pくん、君は本当に凄いね。凜がああなるのも分かるなあ……あーあ、まさか12歳に本気でびびる日が来るなんて」


470: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:26:11 ID:nYGYdFWk

P「という訳で、いいかな?」

ほたる「……」

P「白菊さん?」

ほたる「はい!?」

P「ごめんね、こんな朝早くから。スケジュールの都合でどうしようもなくて」

ほたる「申し訳ありません、もう一度宜しいですか?」

P「もちろん、今日の仕事はCM撮影。サンタの格好は初めてかな?」

ほたる「いいんでしょうか、私がサンタなんて……」

P「サンタが自信なさげに立ってたらプレゼントを貰う子供が不安になっちゃうよ」

ほたる「途中で落としそうです」

P「ブリッツェンに拾ってもらえばいいさ」

ほたる「あの……プロデューサー」


471: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:27:08 ID:nYGYdFWk

P「まだ聞きたい事ある?」

ほたる「いえ! 頑張ってきます」

P「今日は見れそうだから、頑張って」

ほたる「雪ですか?」

P「そう、いい感じに降ってきたから撮れるなら撮りたいって。さ、これ着て」

ほたる「わざわざ用意してくれたんですか?」

P「本番は衣装だから寒いけど、なるべく中にいるといい」

ほたる「何から何まですみません」

P「俺に対してすみませんは禁止、言う方も言われる方も暗くなっちゃう」

ほたる「では、何と言えば」

P「ありがとう、かな」

ほたる「……ありがとうございます」


472: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:27:47 ID:nYGYdFWk

P「どういたしまして、じゃあ待ってて。外を見てくる」

ほたる「暖かい……きっとコートのせいだけじゃない」

スタッフ「白菊さん! 出番です、お願いします!」

ほたる「はい!」

白く清く甘く 

舞い散る粉雪

願いは絶対に叶う 靴下の魔法

ほたる「だからもっと、あなたを好きになる」

監督「はい、OK!」

P「不幸って言うけど、こんな風に雪が降ってくれたんだからラッキーだな」

ほたる「きっとプロデューサーのお蔭です」

P「そんな力は俺にはないって、ちょっと出来を見てくる。先に戻ってて」


473: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:28:17 ID:nYGYdFWk

ほたる「ありがとうございました」

P「お、覚えたな。その調子、それじゃまた後で」

ほたる「よかった、上手くいった」

男「おっと」

ほたる「あ、すみませ――」

男「久しぶりだなほたる」

ほたる「あ……えっと……その」

男「何だ? もう忘れたのか? 薄情だな」

ほたる「失礼します!」

男「さあて、本命はどこかな?」

P「えーっと、この次は……白菊さんを送って会議か。寒いからラッキー」


474: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:28:48 ID:nYGYdFWk

ほたる「あの……」

P「ああ、着替えた? 送ってくから乗って」

ほたる「プロデューサー!」

P「えっと、どうした? 何かあった?」

ほたる「あの最近、何か変な事とかありませんか?」

P「変な事? 例えば?」

ほたる「……誰かの視線を感じたりとか」

P「それはアイドルの君が気にする事だよ」

ほたる「でも」

P「俺は大丈夫、何を気にしてるのかと思ったら。白菊さんこそ、そういう事には気を付ける様に」


475: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:29:37 ID:nYGYdFWk

ほたる「私なんかより」

P「これでもこの世界の事は分かってるつもりだ、ちゃんと対処はできるから。ね?」

ほたる「何かあったら、絶対に教えて下さいね」

P「分かった、約束」

男「ほーう、噂は本当だったか。さて」

記者「もしもし」

男「よう」

記者「何だお前か、昔の担当の様子はどうだ?」


476: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:30:13 ID:nYGYdFWk

男「楽しそうにしてるぜ、相手がどんなのかも知らないで」

記者「事務所を潰した者同士、気が合うんじゃないか?」

男「いやいや楽しそうでいいね、若さが羨ましいよ」

記者「嫌だねえ、昔の事はもう忘れたのかな」

男「会っても挨拶もなかったよ、礼儀がなってないな」

記者「また、教えてやったらどうだ?」

男「言われなくても、そうするさ」


477: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:30:47 ID:nYGYdFWk

女P「配置はここと、ここ?」

P「他にないですし、ここに時間をかけるよりは」

先P「じゃあ次のイベントは泰葉をメインにほたるって事でいいのか?」

P「それで構いません、統括はどうですか?」

統括「それでいい、当日はお前が指示を出せ」

P「分かりました」

統括「少し席を外す」

女P「相変わらずの忙しさね」

P「まあ、統括ですから」

先P「ああそうだ、P」

P「何です?」

先P「そのイベントについてだが、良からぬ噂がある」

P「もしかして、白菊さん絡みですか?」


478: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:31:23 ID:nYGYdFWk

先P「何か言われたか?」

P「少し」

女P「何かって何よ?」

P「最近、変な事はありませんかって」

女P「変な事ってどんな?」

P「視線を感じるかとか」

女P「何? 熱狂的なファンとか?」

P「いえ、恐らく彼女が言いたいのはそうではなく」

先P「何らかの不幸がお前に訪れるんじゃないかって心配してるんだろう」

P「でしょうね、とはいえ俺は別に気にしてないんですけど」

先P「一応、気を付けておけ。何かあれば連絡しろ」


479: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:31:58 ID:nYGYdFWk

P「白菊さんといい先輩といい心配性ですね」

女P「何かあれば遠慮なく言いなさい、あんたには少し借り過ぎてるからこの辺りで返しておかないと」

P「無利子ですから大丈夫ですよ」

女P「借りた物はすぐに返す主義なのよ」

P「じゃあこの前、貸したボールペン返して下さいよ」

女P「あ」

先P「先が思いやられるな」

女P「あんただけには言われたくない」


480: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:33:03 ID:nYGYdFWk

ほたる「泰葉さん」

泰葉「ほたるちゃん、次のイベント一緒だってね」

ほたる「はい、宜しくお願いします」

泰葉「それで、どう?」

ほたる「あの、その事についてご相談が」

凛「相談?」

まゆ「……渋谷さん? そんな所に立ち止まって」

凛「静かに、何か話してる」

泰葉「前の事務所のプロデューサー?」

ほたる「はい、顔を合わせてしまって」

泰葉「早速、か」

ほたる「どうしましょう? やっぱりプロデューサーに伝えた方が」

泰葉「何かしてくるような人なの?」


481: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:34:16 ID:nYGYdFWk

ほたる「分かりません、怒られてばかりでしたから」

泰葉「危害を加えてこないならいいんだけど」

ほたる「プロデューサーのあの記事と関係ないですよね?」

泰葉「答えを出すには早計、仕事中はなるべく一人にならない様に。できる限り私が傍にいるから、いない時はPさんの傍にいる様にして」

ほたる「分かりました」

凛「前の事務所?」

まゆ「白菊さんは他の事務所から移籍してきた人ですから、恐らくその事かと」

凛「話が見えてこないけど、あの記事って?」

まゆ「……憶測ですけど、Pさん絡みの記事だとすると」

凛「聖來さんに渡したって言ってたね」

まゆ「もし見たのだとしたら」


482: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:35:11 ID:nYGYdFWk

凛「関連付けてるのかも」

杏「そうじゃない?」

凛「杏!」

杏「大きな声を出すとばれるよ」

凛「何の用?」

杏「まだ後ろ見ながら歩いてるのかと思って」

凛「……関係ない」

杏「行ってみたら? 気になるんでしょ?」

凛「指図される覚えもない、もう行くから」

杏「はあ、お互いに餓鬼だね」

まゆ「どうして気にするんですか?」

杏「そう見える?」

まゆ「私の事も、渋谷さんの事も」

杏「今日、舐めた飴が美味しかったからじゃない?」


483: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:36:49 ID:nYGYdFWk

ありす「Pさん」

P「よう、世間はクリスマスまっしぐらだけどありすはどうだ?」

ありす「サンタを信じるような年ではありません」

P「信じてくれないとサンタも報われないだろ、世界を回ろうってのに」

ありす「サンタにお願いしたってプレゼントなんて貰えません」

P「何をお願いしたんだ?」

ありす「今日はお母さんが早く帰ってきますように」

P「……叶わなかったのか」

ありす「枕元にプレゼントはありました、それだけです」

P「そうか、悪かった。サンタも忙しいんだな」

ありす「Pさんは何をお願いしますか?」


484: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:38:37 ID:nYGYdFWk

P「俺か? うーん」

ありす「アイドルとしての自分、ですか」

P「ありす、それだけはない。俺は納得してステージから降りた、それは本当だ」

ありす「望まない形だったとしても?」

P「ふさわしい形だったさ、少なくとも俺にとっては。それこそサンタからの贈り物だ」

ありす「人が死んだのにですか」

P「……言ったろ、俺にとってはだ。あの記事だけで結びつけたか、勘がいいな」

ありす「Pさん、サンタは信じていますか?」

P「もちろん、心の底から信じてる」

ありす「どうしてですか?」

P「一度も俺の所には来なかったから」

ありす「来なかったものを信じるんですか?」


485: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:39:20 ID:nYGYdFWk

P「普通の子はサンタが枕元に来て、ああ本当はお父さんなんだなって気付いて、それでも気付かないふりしてお父さんサンタが来たよって喜んで」

ありす「……」

P「俺は眠れなかったよ、怖くて。今年は来るだろうか、ああ来なかった。今年は来るだろうか、ああ来ない。それでも心のどこかで待ってるんだよな、
  諦めたと思ってもクリスマスの夜は眠れない。きっと今年もそうなんだろうな」

ありす「いつか来ますよ、Pさんの所にも」

P「なら、いい子にしておくよ」

どうしてこんな事をしたんだ!?

ああもう駄目だな、あんたのところとは仕事できないよ

お前のせいだ! お前のせいでこの事務所は!

ほたる「ごめんなさい!! ……夢? そっか、夢」


486: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:39:53 ID:nYGYdFWk

P「クリスマスライブならサンタクロースに望月さんといるんだが」

泰葉「その二人は大忙しみたいですね」

P「クリスマスと言えばこの二人だからな、本人達も分かってるようできつめのスケジュールでも
  何の文句もなくやってくれてる」

泰葉「お正月は茄子さんですね」

P「前日からスケジュールは埋まってるよ、まあ他のアイドルもあんまり変わらない」

泰葉「でも、いいですね」

P「何がだ?」

泰葉「ツリーがあって、リースがあって、色んな飾り付けを見るとやっぱり心が躍ります」

P「照明とか柱とかもクリスマス仕様だし、気分は盛り上がるな」

ほたる「お、お待たせしました」

泰葉「うん、かわいい」

P「俺の所にもこんなサンタが来ないかなあ」


487: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:40:27 ID:nYGYdFWk

泰葉「クリスマスの晩に行きましょうか?」

P「何をくれるんだ?」

泰葉「靴下の中に入ってます」

P「はあ?」

泰葉「いいです! 言った私が馬鹿でした!」

P「白菊さんはもらえるなら何がいい?」

ほたる「もらうなんてとんでもないです!」

P「サンタ相手に恐縮する姿も見てみたいけど、例えばさ」

ほたる「じゃあ……鏡がいいです」

泰葉「鏡?」

ほたる「はい、きちんと笑える様に」


488: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:41:25 ID:nYGYdFWk

P「もう既にアイドルの鏡だと思う」

泰葉「別に上手くないですからね」

P「言ってみただけだよ!」

男「いい場所じゃないか」

ほたる「あ……」

泰葉「Pさん」

P「白菊さんを下げて、どなたですか?」

男「私、こういったものです」

P「ああ、取材の方でしたか。失礼、私は」

男「知っていますよ、CGプロ最年少のプロデューサー」

P「取材でしたら後で必ず時間を作りますので、今は宜しいですか?」


489: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:43:02 ID:nYGYdFWk

男「構いませんよ、でしたら少しステージの方を見せて頂いても?」

P「どうぞ、私どもは席を外しますが手を触れないようにお願いします。何かありましたらスタッフにお声掛けください」

男「どうも」

P「さて、聞こうかな」

泰葉「ほたるちゃん、知ってるの?」

ほたる「前の事務所の時の、プロデューサーです」

P「プロデューサーから記者にねえ、そういえば怒られてばかりだったとか言ってたっけ」

泰葉「ああいう反応にもなるのも無理はないですね」

P「取材、どうする? 断ってもいいけど、あるいは泰葉だけにするとか」

ほたる「いえ、そんな迷惑は掛けられません」

P「相手もそういう過去があるなら強くは出てこないだろうから」

ほたる「受けます! 受けさせて下さい」


490: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:44:45 ID:nYGYdFWk

P「……分かった、取材には俺も立ち会う。泰葉」

泰葉「分かってます、何かあれば打ち切りましょう」

P「取材はライブ後にしよう、そうすれば疲れてるから短時間にできる。事前の打ち合わせもない突然の
  依頼だ、こっちのわがままを聞いてもらうさ。さ、リハーサルだ」

泰葉「この曲の合間のMCがこの話題で――」

ほたる「ここで着替えですね、それでその後に――」

泰葉「最後、ツリーの後ろの台に乗って天井部まで。高いけど大丈夫?」

ほたる「経験はありますから、大丈夫です」

泰葉「無理しないでね、途中でも言ってくれたら変わるから」

ほたる「お気づかいありがとうございます、でも大丈夫です。ここで逃げたら、泰葉さんにも
    プロデューサーさんにも申し訳ないですから」

泰葉「気にしなくていいから、自分のベストを尽くす事だけを考えて」


491: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:45:50 ID:nYGYdFWk

凛「ここだよね」

まゆ「結局、来ちゃいましたね」

凛「お互い、クリスマスは似合わないからね」

まゆ「明日は引っ張りだことお聞きしてますけど」

凛「クリスマスとは関係ないよ、年始の番組の収録だから」

まゆ「会いに行きます?」

凛「見て帰る。それだけ、どうせ何もない」

P「……このツリー、本当に高いなあ」

スタッフ「今回のライブの目玉ですから」

P「高さはどれくらいです?」

スタッフ「8メートルです、作るのに苦労しましたよ」

P「そうでしょうね」

スタッフ「実は一つ仕掛けがありましてね」


492: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:46:21 ID:nYGYdFWk

P「ああ、両側から引っ張るとってサンタが出てくるっていう」

スタッフ「はい、ちょっとした演出ですけどね。これは子供達に人気なので今年も変えてないんですよ」

P「力とかいります?」

スタッフ「少し、ですけど彼女たちでも問題ありません。タイミングを合わせて両側から引っ張ってもらえれば」

P「分かりました。それともう一つ質問なんですが、取材に来てる記者のリストあります?」

スタッフ「申請を出してる会社のでよろしければ、取ってきましょうか?」

P「場所さえ教えて頂ければ私が取りに行きます、どこでしょう?」

スタッフ「事務所にあります、鍵は開いてます。誰かいるでしょうから声を掛けてください」

P「ありがとうございます」


493: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:46:53 ID:nYGYdFWk

泰葉「これを引っ張っればいいんだね」

ほたる「出てこなかったらどうしましょう?」

泰葉「そんな心配しなくても大丈夫」

ほたる「失敗したら何も変わってないって思われて……」

泰葉「見せてあげればいい、どれだけ成長したか。それを記事にしてもらえればきっと、貴方の成長を願ってる誰かに届くから」

ほたる「……はい」

泰葉「頑張ろうね」

P「急がないと開演時間だな、えーっとこれで……ない。無許可? だったら問答無用で断れるか。
  何だ悩む必要なかった、終わったらすぐに帰ろう」

男「それは悲しいなあ」

P「……何か?」


494: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:47:39 ID:nYGYdFWk

凛「始まった」

まゆ「普通のファミリー向けですね」

凛「白菊ほたるの関係者が何かしてくると思う?」

まゆ「Pさん絡みでなければ何があろうと知りません」

凛「へえ、そうなんだ」

まゆ「はい、それは変わりません」

男「折角の再会なんです、もう少し友好的にいきましょうよ」

P「残念ながらあまり喜んでいるようには見えませんでしたが」

男「緊張でしょう、仕事ですから多少なりとも厳しく接します」

P「それで、私と話していてもつまらないでしょう? 取材でしたら後日、正式に申し込みをお願い
  します。無碍に断るようなことはしませんのでご心配なく」

男「一つ、交渉したい」

P「もう始まってるんです、後にして頂けますか」

男「プロダクションを新たに設立する予定でしてね」


495: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:48:20 ID:nYGYdFWk

P「おめでとうございます、でしたらこれからはライバルですね」

男「白菊ほたるをこちらに返して頂きたい」

P「彼女はシンデレラールズのアイドルです、返すなんて言い方も不愉快だ」

男「これでもあの子とはそれなりに長く仕事をしたのでね、情もある。正直、貴方に預けておくのは
  心配なんですよ」

P「私に何か問題が?」

男「事務所を潰した、とお聞きしていますが。アイドルだった頃に」

P「……よくご存知だ」

男「そんな不運を背負った者が二人もいては事務所としても心配になるのではないかと、あくまで
  私は好意で申し出ているのですよ」

P「ご心配なく、経営は順調ですから」

男「これから何が起こるかも分からないのに」

P「貴方に心配される筋合いはありません」


496: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:48:59 ID:nYGYdFWk

男「ほう……では貴方の過去が世に出たとしても構わないと?」

P「構いませんよ、今となってはさして意味もない」

男「ですが妹さんは大層、活躍されているそうじゃないですか」

P「……それが?」

男「まだ強気ですか」

P「それを受けてアイドルを続けるかどうかはあいつが決めること、私にどうこうする権利はない」

男「冷たいですねえ、家族なのに」

P「だからといって白菊ほたるを渡す訳にはいきません、彼女に限らずどのアイドルも宝ですから」

男「おやおや、誤解ですよ。私は白菊ほたる以外のアイドルを要求はしません」

P「ならばお断りだ、記事にしたいならすればいい。私は一向に構いません」

男「鷹富士茄子がその幸運を売りにしてアイドルとして成功したように、白菊ほたるの不幸もまた
  お金になる。違いますか?」


497: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:49:35 ID:nYGYdFWk

P「そもそも前提がおかしいですよ、茄子さんは幸運だからこれだけのアイドルになったんじゃない」

男「失礼、では言い方を変えましょう。その境遇は本人が望む望まないに関わらず金になる。
  これは合っていますね?」

P「そういう売り方をしようと言うのなら、本人は絶対に首を縦に振りませんよ」

男「では、本人が首を縦に振れば貴方は構わないと?」

P「もちろん、それが本人の希望であれば」

男「お忘れなきように」

P「一応、報告しておくか。おっと、その前にステージだ」


498: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:50:21 ID:nYGYdFWk

凛「もう何も起きないね、無駄な心配だったかな」

まゆ「どうしてそこまで心配するんですか?」

凛「関係ない」

まゆ「関係ないと思うなら私と一緒にいる意味もないと思いますよ」

凛「私が原因で何かあったら目覚めが悪いだけ」

泰葉「それでは、皆にクリスマスプレゼントです」

ほたる「今から――」

P「あーあ、もう下らないこと話してたらここまで進んじゃったか」

スタッフ「調べものは終わりました?」

P「お陰様で、助かりました」

スタッフ「目玉に間に合ってよかったですよ、結構凄いですよ」


499: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:50:58 ID:nYGYdFWk

泰葉「用意はいい?」

ほたる「はい!」

泰葉「いくよ!」

スタッフ「ん? あれ? 紐が……」

凛「ちょっとおかしくない?」

まゆ「泰葉さんが戸惑ってますけど」

男「駄目だぞほたる、お前は」

P「泰葉の側が切れてる!? 白菊さん駄目だ引っ張るな!!」

ほたる「え?」

泰葉「ほたるちゃん避けて!!」

P「くそっ!!」

スタッフ「駄目だ今から行っても!!」

男「不幸にならないと意味がないんだよ」


500: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:52:25 ID:nYGYdFWk

凛「ツリーが……」

まゆ「倒れる!!」

ほたる「……あ、あ」

泰葉「大丈夫!?」

スタッフ「幕を下ろして! すぐに!」

泰葉「ほたるちゃん! よかった、怪我はなさそうだね」

ほたる「違うんです……早く……早く……」

泰葉「ほたるちゃん?」

ほたる「ツリーが倒れてきて……どうしようもなくて……」

凛「大丈夫!?」

泰葉「渋谷さん?」


501: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:53:28 ID:nYGYdFWk

凛「ちょっと気になって、それより誰も怪我はない?」

泰葉「私もほたるちゃんも大丈夫です」

まゆ「……Pさんは?」

泰葉「始まってからは見てませんけど」

まゆ「どこに」

ほたる「プロデューサーさん!!」

泰葉「待って! 今は冷静に」

ほたる「いるんです!!」

凛「いる?」

まゆ「まさか」

泰葉「……いるって」

ほたる「この下にプロデューサーさんが!!」


502: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:54:38 ID:nYGYdFWk

千枝「ケーキ作り?」

ありす「どこかの誰かさんがプレゼントを貰ったことがないと言うので」

千枝「手作りなんだあ、Pさん喜ぶだろうなあ」

ありす「誰もあの人だなんて言ってないけど……」

千枝「けど?」

ありす「想像に任せます」

千枝「千枝もあげるんだ、まだ途中なんだけど」

ありす「マフラー?」

千枝「可愛いでしょ? 千枝のとお揃いにするんだ」

ありす「いいんです、形に残らなくても心には残りますから」

千枝「早く帰ってくるといいね」

ありす「……うん」


503: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:55:14 ID:nYGYdFWk

「え!?」

「怪我!?」

「それで病院は?」

千枝「何だろう、騒がしいね」

ありす「何かあったのかも」

春菜「いた!」

千枝「どうかしたんですか?」

春菜「落ち着いて聞いて」

ありす「そういう春菜さんが焦ってますが」

春菜「ステージ上でツリーが倒れる事故があったみたいで」


504: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:55:55 ID:nYGYdFWk

千枝「誰がいたんですか?」

春菜「泰葉ちゃんとほたるちゃん」

ありす「無事なんですか?」

春菜「その二人に怪我はないんだけど、その二人のどっちを庇ったかまでは聞いてないんだけど」

千枝「……その時、一緒に誰かいたんですか?」

春菜「Pさんが、いてね」

ありす「いて、どうしたんですか?」

春菜「ツリーの下敷きになったって電話が」


505: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:56:34 ID:nYGYdFWk

医者「目立った外傷はありませんが、今日は念のため入院した方がよろしいかと」

先P「分かりました、よろしくお願いします」

女P「何だって?」

先P「とりあえず問題はなし、軽度の脳震盪だろうということだ。意識も助けられた時点ではあったし今も会話は可能だ。とはいえ、仕事は無理だ」

女P「借りを返すいい機会よ」

先P「ちょっと様子を見てくる、報告は任せていいか?」

女P「やっとく、あんたも無理しないように」

先P「あいつみたいに体は張れないさ」

P「先輩!?」

先P「寝てろ、英雄になった気分はどうだ?」

P「そんなんじゃありませんよ」

先P「警察に捜査を依頼した、人為的な何かがあるかもしれん」


506: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:57:36 ID:nYGYdFWk

P「白菊さんは?」

先P「寮に帰した、ショックが大きくてな」

P「白菊さんのプロデューサーだったって名乗る男の話は?」

先P「岡崎から聞いた、そっちの方も調べてる。厄介な話になるかもしれん」

P「その人、俺の事も知ってたんですよ」

先P「お前の?」

P「はい、俺の過去です」

先P「お前の過去と白菊の過去は関係あるのか?」

P「事務所を潰してる、という点は一致します」

先P「……少なくともだからといって今回の件が許される訳でもない」

P「白菊さんに何かしてくる可能性があります」

先P「見ておく、お前は今は休め」

P「お願いしますね、こんなの頼めるの先輩くらいしかいませんから」


507: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:58:21 ID:nYGYdFWk

先P「何を言ってんだ、馬鹿」

杏「病室、そこ?」

先P「そんな顔をするな、生きてるぞ」

杏「あのさ」

先P「何だ? 行かなくていいのか?」

杏「必要なら私は全て差し出すから、遠慮しないでいい」

先P「最初からする気もない」

杏「ん、任せる」

先P「さあて、やり過ぎたな……小僧」


508: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:58:52 ID:nYGYdFWk

聖來「そっか、行ってたんだね」

凛「ちょっと、気になる話を聞いたから」

聖來「ごめん……色々と振り回してるね」

凛「何でだろう」

聖來「Pくんのこと?」

凛「あんな庇い方しなくたって、いくらでもやり方はあったはず。なのに」

聖來「うん、そういう子なんだよね」

凛「自分を傷つけてそれで……こんなの」

聖來「私さ、自分のやった事から逃げようとしてたんだ」

凛「聖來さんは悪くないよ」

聖來「自分からプロデュースさせてあげるなんて言っといて、何も知らなかったんだから。そんな罪悪感から逃げたいが為に振り回した。それがこんな結果」

凛「知ってても同じだったよ、少なくとも私は」


509: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 02:59:33 ID:nYGYdFWk

聖來「Pくん体も思うようには動かないって、知ってた?」

凛「……」

聖來「アタシは凄く怖い、もし自分がそうなったらなんて思ったら震える。彼は一人で耐えたんだよね、どんなに怖くても笑ってて」

凛「分からない、何も」

あい「一応、話を総合すればこういう事らしい」

楓「そうですか」

あい「単純な事故ではない可能性があるようで、警察が動くそうだ」

楓「行っても、迷惑でしょうね」

あい「無理をするのが目に見える。そういう男だ、彼は」


510: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:00:07 ID:nYGYdFWk

楓「待つのは慣れてますけど、痛いです」

あい「プロデューサーとしては美談だが、彼個人の立場を考えると私も誉められないよ。どれだけの人間が肝を冷やしたか」

楓「他の子達は?」

あい「ショックの大きい子達は寮で待機、誰とは言わないが体調を崩した子もいる。特に張本人はね」

楓「そうですね」

あい「周りに責めるような子はいないだろうが、それでも相応の感情が生まれても仕方がない。
子供にそんな整理が簡単につくはずがないんだ」

楓「早く帰ってくるといいんですけど」

あい「こればっかりは、誰にも分からないさ」


511: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:00:45 ID:nYGYdFWk

春菜「一応、落ち着いてはいるみたい」

亜子「とんでもない事になってたんだね」

泉「事務所が騒然としたから何かあったんだとは思いましたけど」

さくら「怪我しちゃったの?」

春菜「外傷はないみたいだけど、念の為に」

沙紀「Pさんが怪我したってのは本当っすか!?」

春菜「まだまだ説明係は終わりそうにないかな」


512: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:01:16 ID:nYGYdFWk

千枝「そ、その良かったですね! 怪我もなくて」

泰葉「いいよ、無理しなくて。何で止めなかったのって責めてくれたって構わない」

千枝「そんなこと言ったって、Pさん喜びませんから」

泰葉「何も考えずに引っ張った、警戒して当然の場面だったのに」

千枝「生きてますから、大丈夫です。誰も悪くありません、たまたまそうなっちゃっただけです」

泰葉「そうかもしれない、けど」

千枝「ほたるさんは?」

泰葉「部屋に入ったきり出てこない、今はまだそっとしておいて欲しい」

千枝「ショックですよね、千枝もそうなったら」

泰葉「問題は、明日も仕事だということ」

千枝「ほたるさんですか?」

泰葉「本来なら休ませるべきなんだけど、仕事の規模が大きくて」


513: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:03:08 ID:nYGYdFWk

千枝「代役は?」

泰葉「いない、いないならいないで誰かを回せばいいんだけど……ほたるちゃんがどうするか」

千枝「出ようとするんでしょうか?」

泰葉「かもしれないし、こればっかりは話してみないと」

千枝「まだ、出てこないんですよね」

泰葉「これから事務所に行って相談してみる」

千枝「プロデューサーさんにですか?」

泰葉「何とかしないと」

女P「聞いてる、そっちの対応が後手になってたか」

泰葉「ほたるちゃんはどうします?」

女P「彼女単独のクリスマスライブとはいえ、今やれば相手にどうぞ狙って下さいというようなもの」

泰葉「では、中止ですか?」


514: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:04:13 ID:nYGYdFWk

女P「ネットではファンも諦めムード、こちらも安全を考慮してって説明もしやすい。改めて時期を設定して
   それまでに問題を片づけられたらってところね」

泰葉「犯人の検討はついてるんですか?」

女P「その言葉は控えなさい、まだそうだと決定した訳じゃない。事故かもしれないんだから」

泰葉「ですが」

女P「分かってる、前の事務所の代表だった人間と連絡は取った。確かにそういう名前の社員がいたみたいだけど
   あちらもそれ以降の事は知らないみたいだった」

泰葉「名刺は本物ですか?」

女P「そういう会社もある、けど私は知らないのよ。この業界に入ってそれなりに経つけど、無名か……あるいは新しく作ったか」

泰葉「そちらに連絡は?」

女P「先Pが行った」

泰葉「あの人が?」

女P「何故かやる気なのよ、まあ可愛い後輩が怪我したんだもの。気持ちは分かるけど」


515: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:05:35 ID:nYGYdFWk

泰葉「一人で行くなんて」

女P「不味いならそれはそれで何とかするでしょ、私達は私達にできることをするしかない。とりあえず、泰葉はほたるについてあげなさい。
   参ってるでしょうから、心のケアは必要よ」

先P「俺の車の傍で女の子が待ってる、プライベートなら嬉しいシチュエーションなんだが」

凛「悪かったね、私で」

先P「いーや、別に。現地にいたそうだな」

凛「少し、気になって」

先P「乗れ、どうせ帰る気も無いんだろう?」

凛「話が早くて助かるよ」

先P「さて、何の用かなお嬢さん。しかしツアーが終わって番組収録の貴重な合間だろうに、何でついてこようと思った?」

凛「どこに行くの?」

先P「質問に質問で返すか」


516: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:06:06 ID:nYGYdFWk

凛「礼儀がなってないからね」

先P「白菊に接触してきた男がいる会社」

凛「警察とか興信所を使えばいいのに」

先P「下手に使うとそこから情報が漏れかねないんでね、念には念を入れとくまで」

凛「ふうん」

先P「そんなにPが気になるか?」

凛「別に」

先P「嘘を付くときは多少なりとも感情を入れた方がいい、ぶっきらぼうにすると逆効果だ」

凛「……参考にしとく」

先P「一つ、矛盾点があってな。そこが気になってる」

凛「矛盾?」


517: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:08:02 ID:nYGYdFWk

先P「その男は白菊を自分の立ち上げる会社に入れたがってる、おかしいだろ?」

凛「何で? あれだけ人気がある子なら入れようとしてもおかしくない」

先P「だがその子は前の事務所もその前の事務所も倒産してる曰くつきの物件だ、縁起が悪い事は確かだろう?」

凛「偶然でしょ?」

先P「確かにプロダクションの倒産は珍しい事じゃない、大手だって経営には頭を悩ませてる状況だ。ただあの子の場合、期間が短すぎてな」

凛「何を疑ってるの?」

先P「あの子は何かのスケープゴートにされてるんじゃないかと疑ってる」

凛「生贄?」

先P「そう、俺は人の不幸も幸運も信じちゃいないんでね。そういった要素を排除して考えれば、一つ見えてくるものがある」

凛「白菊ほたるが入った事務所が潰れたのは他に何か理由があったってこと?」

先P「今はそこまでしか言えん、それから先は話を聞いてからだ」


518: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:09:16 ID:nYGYdFWk

凛「ここ?」

先P「名刺に記載されてる住所はここだな、まあいきなり命を狙われることも無いだろう」

凛「いきなり行って話してくれるの?」

先P「相応の報酬は払う、で」

凛「行くから」

先P「仰せの通りに、だが口は挟むなよ」

社長「どうも、シンデレラガールズのプロデューサー直々とは」

先P「互いに社交辞令は省きましょう、要件はお分かりですね?」

社長「ええ、一応は」

先P「単刀直入に、あれを庇う意思はありますでしょうか?」

社長「あれ呼ばわりは心外ですが、もし彼がやったという証拠が出ればどうこうする気はありません」

先P「つまり証拠が出なければ?」


519: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:10:20 ID:nYGYdFWk

社長「処分する理由がない、そんな事をすれば私が訴えられてしまう」

先P「お言葉ごもっとも、ですがこちらもはいそうですかとは引き下がれない。大切な社員が怪我をしているもので」

社長「もちろん、正式に依頼があれば協力は惜しみません。ですが、色々と知られたくない情報もあります。
   こう言っては何ですが我々はアイドルの情報を売って生計を立てている身」

先P「それはこちらも理解しています、ですから一つお話を」

社長「何でしょう?」

先P「白菊ほたるのライブが明日、中止になります」

凛「……」

社長「それは……ショックが大きかったのでしょう。残念です」

先P「ですが、だからといってイベントを中止にしてしまうのは我々としても得策ではない」

社長「何か代わりのイベントでも?」

先P「元々は白菊ほたるのライブ、誰が行っても代わりにはなりません。ですが、それ相応のアイドルは用意します」

社長「例えば?」


520: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:11:34 ID:nYGYdFWk

先P「さあ? もしかしたら案外、近くにいるかもしれませんが」

社長「ふむ、それが事実なら確かに美味しい情報ではありますが。おいそれと動かせますか?」

先P「ニューウェーブのライブの件、ご存知ではありませんか?」

社長「ああ、なるほど。確かに信用性は高そうですね」

先P「それにしても誰もいませんね、社員は彼だけですか?」

社長「まさか、もう少しおりますが……そうですね今日はそうかもしれません」

先P「では、業務の邪魔でしょうから私どもはこれで」

社長「折角いらしたのに、まだいて下さっても構いませんよ?」

先P「いえ、仕事もありますので」

社長「それは残念、またお時間のある時にゆっくりとお話ししましょう」

先P「ええ、ぜひ。ああ、もし何か忘れ物をするかもしれませんがその時は――」

社長「お預かりしておきますよ、必要な時に取りに来てください」


521: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:12:26 ID:nYGYdFWk

凛「あの白々しい会話は何?」

先P「いくつか情報は貰えただろう?」

凛「あんまりアイドルに詳しくないのかな?」

先P「いや逆だ」

凛「そんな風には見えなかったけど?」

先P「ニューウェーブのライブにニュージェネレーションが出たって話を知ってただろう?」

凛「私も知ってるし、噂は広まってると思うけど」

先P「噂は広まってるが見た人間は少ない、そんな情報を耳にしたからと言って信じるならそれは三流だ」

凛「適当に話を合わせたって事?」

先P「違う、あれはそれが事実だときちんと確証を得ているからこその反応だ。それなりには働いてるんだろう」

凛「あの人も何かしてると思う?」

先P「どちらでもいい、今回のターゲットは彼じゃない」


522: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:13:19 ID:nYGYdFWk

凛「どうするの? 戻ってくるまでここで待つ?」

先P「そんな無駄な事はしない、後で忘れ物は取りに来るが」

凛「忘れ物って、何を置いてきたの?」

先P「とっておきのクリスマスプレゼントだ」

泰葉「ほたるちゃん、あの……泰葉です。いる?」

千枝「ほたるさん!」

泰葉「いないのかな?」

千枝「でも、行く所なんて」

泰葉「……まさか」


523: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:14:57 ID:nYGYdFWk

男「やっと来たか、そんな暗い顔されるとショックだな」

ほたる「早く行きましょう」

男「素っ気ないねえ、まあいい」

ほたる「私をどうしたいんですか?」

男「どうしたいも何も、君の望むとおりにしよう。あそこにはいられないだろう?」

ほたる「……また同じような事が起こるんですか?」

男「ほたるがいたら、そうかもしれません」

ほたる「もしそうなら、もう離れます。これ以上、迷惑は掛けられませんから」

男「いい子だ、大丈夫。君の居場所は俺が用意しよう」

ほたる「いえ、もう辞めますから」

男「……何だって?」

ほたる「アイドルを……辞めます」


524: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:15:43 ID:nYGYdFWk

男「何を言ってる?」

ほたる「だって、また移籍してもこんな事が起こるんですよね?」

男「次もそうだとは限らない」

ほたる「嫌です、もう私以外の誰かが不孝になるのは見たくありません」

男「アイドルを辞めたら、誰も不幸にはならないのか?」

ほたる「分かりません、けどこのまま続けるよりは」

男「ならそれを報告してくるといい、あのプロデューサーに」

ほたる「もう関係ありません」

男「関係ないんだな?」

ほたる「……はい、関係ありません」

男「そうか、残念だ。なかなか未来ある若者だったが」

ほたる「私さえいなければ何も起きません」

男「本当にそうかな?」


525: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:16:29 ID:nYGYdFWk

ほたる「……え?」

男「ここで終わらせてしまうのはもったいない。それに不運には立ち向かわねば、これからも起きてしまうかもしれないよ……不運が」

ほたる「貴方は……もしかして……」

男「続けてくれるかな? 君はアイドルなんだから」

社長「ああ、戻ったのかい?」

男「ええ、僅かな時間でしたがありがとうございました」

社長「その口ぶりからして目途が……ああ、その子が君が言っていた」

男「ええ、どうです? いい子でしょう?」

社長「確かシンデレラガールズの子だろう? いいのかい?」

男「ええ、正式な移籍はまだですが」

社長「君が独立したら真っ先に記事にさせてもらうよ」

男「ぜひ」

社長「そうか、それはおめでたい話だ。ああ、少し留守番を頼んでもいいかな?」


526: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:18:10 ID:nYGYdFWk

男「お出かけですか?」

社長「少し仕事だ、30分ほどで戻る」

男「どうぞ、最後くらいお役に立ちますよ」

社長「ありがとう、君がほたるさんかな?」

ほたる「……」

社長「移籍するのであれば、しっかりとこれからの話を彼とする事だ。私は席を外す、だからしっかりと話すんだ」

ほたる「しっかりと……」

社長「自棄にならない様に、道を誤らなければ未来はきっと明るいはずだ」

男「その通り、さすが社長。いい事を仰る」

社長「では、失礼するよ」

男「社長の言う通り、未来の話だ」


527: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:19:37 ID:nYGYdFWk

ほたる「移籍って、会社を作るんですか?」

男「いや、独立とは言ったが実際はある会社に入る」

ほたる「どういう事ですか?」

男「君の不運は金になる、所属した事務所が潰れる噂はとうに広まってる」

ほたる「……それが、どうしたんですか」

男「つまり、移籍した先で何が起きてもおかしくないって事さ」

ほたる「何が起きてもって」

男「例えばツリーに少し細工をしたりしても、ね」

ほたる「は、犯罪です」

男「震えた声で言われても怖くないな、それに証拠はもうない。ツリーは撤去されたし、実行したのは俺じゃない」

ほたる「そんな事をしてもシンデレラガールズは潰れません」

男「潰すつもりなんてないさ、君を一時的にでも拾ってもらった事は感謝しているが」


528: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:23:50 ID:nYGYdFWk

ほたる「前の事務所も……」

男「もしかして本当にトップアイドルになれるとまだ思ってるのか? 鏡を見てみろ、誰がそんな不器用な笑顔に魅力を感じるんだ?」

ほたる「あの人達は――」

男「お前に期待なんかしてない、物珍しさで入れただけだ。今までだってそうだったろう?」

ほたる「私は……」

凛「……盗聴だなんていい趣味してるね」

先P「録音機能付きの優れもんだ、意外と早く帰ってきてくれたな」

凛「でもこれだけで証拠になる?」

先P「昨日の舞台の監視カメラと、スタッフへの聞き込み。金銭の流れでもあれば完璧なんだが」

凛「警察にこれそのまま教えたらいいのに」

先P「盗聴で捕まるぞ」

凛「そこはほら、ここの社長が勝手にやったってことにして」


529: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:24:49 ID:nYGYdFWk

先P「……知恵が回るのはいい事だが」

凛「駄目かな?」

先P「それは最終手段だ、そんな事に使われてましたなんて広まったら白菊もやりにくくなる」

凛「そっか……どうする? 本当にライブやろうか?」

先P「使えるセットは白菊用だ、望ましいのは本人に出てもらうことなんだが」

凛「でもそうするとあの社長さんに嘘ついたってことになる」

先P「相手も分かっての反応だ、気にするな」

凛「別にいいよ、一人でもやれる」

先P「元々は無関係の問題だ、あいつも関係ないってことがこれではっきりした。
   必要以上に首を突っ込む必要はない」

凛「やりたいようにやるって言った」

先P「最終手段だと思っておけ、統括の許可がない限りはやらせん」

凛「許可さえあればいいんだね」

先P「それまでは大人しくしておけ、明日までに片を付ける必要もない」


530: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:25:22 ID:nYGYdFWk

女P「分かった、報告が早くて助かるわ」

先P「とりあえず目処はついた、後は追い詰め方だが」

女P「何か当てでもあるの?」

先P「使い道をなくすのが手っ取り早い」

女P「そんなの一朝一夕にできることじゃないでしょ」

先P「白菊の価値を落とすようなことはしないさ、やるならあの男の方だ」

女P「事務所が潰れても生き残ってるんでしょ? しぶといと思うけど」

ちひろ「そうでしょうか?」

女P「……社長、いきなり出てくるのは辞めてください」

先P「これはこれは、おはようございます」

ちひろ「おはようございます、楽しそうなお話ですね」


531: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:26:08 ID:nYGYdFWk

先P「楽しいですよ、お仕事ですから」

ちひろ「あんまりやりすぎたらいけませんよ」

先P「胸に留めておきます」

女P「あんたの場合、留めるだけでしょうけど」

ちひろ「代替ライブの件、了解しました。準備だけは進めましょう」

女P「凛にやらせるんですか?」

ちひろ「凛ちゃんだけではありませんから、大丈夫ですよ」

女P「まだ私に何か隠してます?」

先P「今から言うから怒るな、作戦会議といこうか」

ちひろ「はい!」

先P「いや、社長はする事ありませんからね」

ちひろ「はい!」

先P「お願いですから何もしない様に!」


532: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:27:16 ID:nYGYdFWk

まゆ「……」

統括「心配なら止めはしない」

まゆ「行く資格なんて、ありませんから」

統括「佐久間、一つ聞こう。どうして俺に好意がある演技など続ける?」

まゆ「……」

統括「これまで否定も肯定もしないままいたが、そこだけは不可解だ」

まゆ「不可解だなんて、統括に言われたくありません」

統括「確かにそうだが、別問題だ」

まゆ「いいじゃないですか、それで」

トレ「失礼します。あ、お話し中でした?」

まゆ「いえ、もう行きますから」

トレ「何かあったの?」

統括「行ってやれ」


533: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:28:14 ID:nYGYdFWk

トレ「だからいつも言葉が足りないんですよ」

統括「分かるだろう?」

トレ「これとそれとは話が別」

統括「誰もかれも」

トレ「頑固なのは皆、同じですよ」

統括「そういえば、妹は大人しくしているのか?」

トレ「今はね、騒いでもどうにもならないって分かってるみたい」

統括「物わかりがよくていいことだ」

トレ「私は分かりますよ、まゆちゃんの気持ち」

統括「さっぱりだ」

トレ「でも、そう言いながら付き合ってあげたんですよね?」

統括「流していただけだ」

トレ「そうやって中途半端に構うから、愛梨ちゃんも戸惑っちゃうんですよ」


534: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:28:45 ID:nYGYdFWk

統括「あいつはおかしいだけだ」

トレ「そうなると、私もおかしいって事ですか?」

統括「……放っておいていいのか?」

トレ「まゆちゃんなら大丈夫ですよ、貴方が頑張ることはないんです」

統括「統括とは名ばかりだな」

トレ「気を使われているのよ、先Pさんからは特に」

統括「食えない男だ」

トレ「似た者同士ってことです」

凛「全くだね」

トレ「お帰りなさい」

統括「報告は受けた、随分と大冒険だな」

凛「いい経験させてもらってる」


535: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:30:02 ID:nYGYdFWk

トレ「ほたるちゃんの?」

凛「そう、実際に入ってから何かあったの?」

統括「いくつか、とだけは答えておく。いい目印ではあるらしい、ここが潰れると得をする
   事務所もいくつかある」

凛「それでも潰れないんだ?」

統括「当たり前だ、今までの事務所とここを同じにするな」

凛「じゃあ、白菊ほたるは?」

統括「辞めさせたいのか?」

凛「なら私が関わっても問題ないよね?」

統括「好きにしろ、どうせ凛の思う通りにはならん」

凛「言ってくれるね。今の言葉、忘れないから」

統括「好きにしろ」

トレ「いいの? 行かせてしまって」

統括「佐久間と違ってあれは読みやすい」

トレ「単純?」

統括「あいつに似てるからな」


536: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:31:29 ID:nYGYdFWk

泰葉「はあっ……はあっ、早く探さないと」

「きゃっ!」

泰葉「すみません!」

「泰葉ちゃん?」

泰葉「美優さん!?」

美優「また、だね」

泰葉「はい?」

美優「辛そうな顔」

泰葉「あ……」

美優「事故、大丈夫だったって聞いたけど。そうよね、プロデューサーさんがあんな事になったら」

泰葉「違うんです」


537: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:32:11 ID:nYGYdFWk

美優「そんな風には見えないけど」

泰葉「違う訳じゃないんですけど、でも何ていうかその」

美優「落ち着いて、深呼吸できる?」

泰葉「すみません、いつもこんな情けない姿ばかり」

美優「しっかりしすぎてる位だから、たまにはいいんじゃない?」

泰葉「いつも、こうして慌ててばかりです」

美優「ほたるちゃん?」

泰葉「分かっちゃいますか」

美優「そう……」

泰葉「私が引いたんです、ツリーの紐」

美優「知ってる、だから必死なの?」

泰葉「そうなんでしょうね。Pさんに対しても、ほたるちゃんに対してもこのままだと」


538: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:32:45 ID:nYGYdFWk

美優「私はここしか知らないけれど、泰葉ちゃんにとってここはどう?」

泰葉「凄く暖かい所です、色々な意味で。こうして他のアイドルに相談する事もありませんでしたから」

美優「ほたるちゃんにとってもそうだったのかな」

泰葉「きっと、あんまりいい思い出がある様には見えなくて。だから私は……」

美優「大丈夫、泰葉ちゃんがいるんだから」

泰葉「私は何も」

美優「今、どこにいるか分かる?」

泰葉「いえ」

美優「絶対に大丈夫。まずは泰葉ちゃんがそう信じないと、ね?」

泰葉「……はい」


539: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:33:22 ID:nYGYdFWk

まゆ「どうして、か」

肇「はい?」

まゆ「あ……」

肇「えっと、すみません。つい反応してしまいまして」

まゆ「誰か待っているんですか?」

肇「待っていれば、帰ってくる気がして」

まゆ「……どんなに待っても帰ってきませんよ」

肇「でも待ちたくなっちゃったんです。星があんなにあったのに、この願いだけは叶えてくれそうにありませんね」

まゆ「意味のない事です」

肇「待っている間って、色々な事を考えますよね?」

まゆ「そうでしょうか?」

肇「私は待つことが多いんです、土を寝かしている時も釣竿を持っている時も。だから待つ間、いつも考え事ばかりしてます」

まゆ「堂々巡りするだけです」


540: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:36:08 ID:nYGYdFWk

肇「そうかもしれません、でも私はまゆちゃんは凄いと思います」

まゆ「私が?」

肇「はい、だって私は好きだと思ったら自分から行ってしまいますから」

まゆ「何の事ですか?」

肇「Pさんの事ですよ?」

まゆ「それこそ、何の事でしょうか?」

肇「きっと、この事務所で気付いてるのは私だけでしょうけど」

まゆ「戯言です」

肇「私が誰より見てきたあの人ですから、視線が重なれば嫌でも気付きます。まゆちゃんは可愛いですから、本当は言わないつもりでした。
  けれど、やっぱりそれは違いますから」

まゆ「私はそんな――」

肇「陶器の出来の良し悪しも、今日は釣れるかなとか考える事はたくさんあります。それは全て自分次第、ですがこればっかりは
  私だけの力ではどうにもなりません」

まゆ「何のお話でしょうか」

肇「まゆちゃんにとって、統括さんは壁に見えます」


541: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:36:38 ID:nYGYdFWk

「だから何度も言っているだろう!? どうして分からない!!」

「あーあこう壊れちゃったよ、誰かさんがいるせいかな」

「あの、貴方と一緒に仕事したくないの。分かって?」

「向いてないよ、アイドル」

ほたる「違う!!」

社長「うなされていたが、大丈夫かい?」

ほたる「あ、す、すみません」

社長「落ち着いて、彼ならいない。夜まで戻らないだろう」

ほたる「夜まで、じゃあそれまでは」

社長「ここにいてくれて構わない、帰りたいなら助けもしよう。望んできた訳ではないんだろう?」

ほたる「帰る場所なんて、私には」

社長「先ほど、君の事務所のプロデューサーとアイドルが来たよ」

ほたる「プロデューサー!?」


542: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:38:30 ID:nYGYdFWk

社長「アイドルの方は渋谷凛だったね、あんな大物が会いに来てくれるとは驚いたよ」

ほたる「それで、その」

社長「どうやらもう一人の方が気になるみたいだね、名刺をくれたよ。この人だ」

ほたる「……二人、ですか?」

社長「そう、どうやらお望みの人物とは違ったみたいだね」

ほたる「酷いことをしてしまったんです」

社長「酷いこと?」

ほたる「だから、もう」

社長「迷惑は掛けられない?」

ほたる「……はい」

社長「それは、その人から酷いことをされたって言われたのかな?」

ほたる「違います! そんな事を言う人じゃありません!」

社長「そんな事を言う人ではないのに、君は行ってしまうのかい?」


543: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:39:36 ID:nYGYdFWk

ほたる「だって、でも」

社長「会ってみようとは思わないのかな?」

ほたる「会って、きっとまた私は……いらないって……」

社長「君の人生は君だけのものだ、何も全てに答えを出さなくてもいい。今、君がすべき事だけを
   すればいい」

ほたる「すべきこと……」

社長「実は先ほど来た彼らなんだが、どうやら慌てていたようで忘れ物をしてしまったようなんだ。
   しかし私はここを離れる訳にはいかなくてね、ああ困った困った。誰かこの事務所に詳しい人が
   どこかにいればいいんだが」

ほたる「忘れ物ですか?」

社長「ああ、ここに置いておいたら彼が困るかもしれない。君も最後まで迷惑は掛けたくないだろう?」

ほたる「私の為に来たんですか?」


544: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:40:25 ID:nYGYdFWk

社長「それは彼に聞くといい、聞かなければ分からないだろう?」

ほたる「これは、プロデューサーさんの為」

社長「そう、それでいい。ちゃんと届けるんだよ」

ほたる「あの、渡したら」

社長「ここに戻ってきてもいいし、どこへ行ってもいい。それは君次第だ」

ほたる「ちゃんと、戻ってきます」

社長「ほら、今の内に」

ほたる「行ってきます」

社長「全く、いい事務所を作ったじゃないか。ちひろ」


545: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:42:09 ID:nYGYdFWk

ほたる「プロデューサーさんの為、忘れ物を届けに来ただけだから。それだけ、それだけ」

肇「思わぬ来客、でしょうか」

まゆ「待ち人ではありませんでしたね」

肇「これもまた一興です」

ほたる「忘れ物を届けに来たんです」

肇「忘れ物?」

まゆ「どなたのですか?」

ほたる「プロデューサーさんのです」

肇「クイズですね」

まゆ「先Pさんですか?」

ほたる「はい、今はどこにいるか知ってますか?」

肇「戻ってくるまで一緒に待ちましょうか」


546: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:43:39 ID:nYGYdFWk

ほたる「いえ、もう私は」

凛「いた!」

ほたる「凛さん!」

まゆ「いきなり近くで大声……」

凛「ごめん、ちょっと意外だったから」

肇「そんなに意外なんですか?」

凛「まあ、ちょっとね。よかった、ちょっといい?」

ほたる「置いていきますから!」

凛「あ……」

まゆ「早急過ぎます」

凛「言わないで、確かに焦ったけど」

肇「何か用事でも?」

泰葉「ほたるちゃんが来たんですか!?」


547: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:45:01 ID:nYGYdFWk

凛「来たけど、走って――」

泰葉「追いかけます!」

肇「あの、一体」

まゆ「もしかして、知らないんでしょうか?」

凛「肇、昨日と今日のスケジュールは?」

肇「昨日からライブでしたから、今日はそれが終って午後からレッスンだけです」

まゆ「その状態でPさんを待ってたんですか?」

肇「はい、きっと今も外回り中なんでしょうね」

凛「まゆ、話題を向けた責任とってね」

まゆ「……元はと言えば凛さんが見に行こうなんて言い出したから」

凛「ついてきたのはまゆでしょ!?」

まゆ「その前にあんな騙し討ちみたいなお迎えする人が何を言ってるんですか!」


548: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:46:14 ID:nYGYdFWk

凛「私がしなかったら自分から会いに行く勇気もなかったくせに!」

まゆ「そんなの凛さんには関係ありません!」

凛「そもそも統括に対してあんな態度とって今さらPさんPさんって!」

肇「あの」

まゆ「今さらじゃありませんし統括に対しては完全に凛さんの想像です!」

凛「誰が見てもそうだって思うから噂が流れるんでしょ!」

まゆ「私はただ――」

肇「あんだーごらぁ!!」

凛「」

まゆ「」

肇「やっと静かになってくれました」


549: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:46:44 ID:nYGYdFWk

まゆ「あんだーごらあ?」

肇「大丈夫です、皆さん静かにしてくれないと困ってしまいますって岡山弁で言っただけですから」

凛「そうなんだ、勉強になったよ。迫力あったから驚いちゃった」

肇「あ、でもその事についてもお話していたんですよ」

凛「その事?」

肇「統括さんについてです」

凛「ああ……」

肇「でも、今は優先して聞かないといけないお話があるみたいですね」

凛「実は、さ」
――

肇「そうですか、入院ですか」

まゆ「恐らく、今日中には出てくると思いますけど」

肇「いない時に起こらなくてもいいのに」


550: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:47:30 ID:nYGYdFWk

凛「いたらいたでパニックだったけどね」

肇「それでほたるちゃんも泰葉ちゃんも」

凛「多分、あのプロデューサーが責めるようなことを言うとは思えないけど」

肇「言いません」

まゆ「分かるんですか?」

肇「いえ、そう信じてるだけです」

凛「明日のライブ、私が代わりにするから」

まゆ「本気ですか?」

凛「彼女が戻ってこなければね」

肇「必要ないと思いますよ」

凛「まあ、こればっかりは肇と同じかな。いいチャンスだと思ったんだけど」

まゆ「戻ってくると思いますか?」


551: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:48:25 ID:nYGYdFWk

肇「あんな顔した泰葉ちゃんが追いかけていったんですから、私は逃げ切れる自信がありません」

凛「準備だけはしとく、まあ大人しく引き下がるつもりもないけど」

まゆ「そこは引き下がりましょう」

凛「じゃあ続きといこうよ」

まゆ「何のです?」

肇「統括さんのお話ですか?」

まゆ「……少し用事が」

凛「一緒に行ってあげる、ね?」

まゆ「……一度しか、言いませんから」


552: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:50:17 ID:nYGYdFWk

泰葉「ほたるちゃん!!」

ほたる「来ないで下さい!」

泰葉「駄目! このままじゃ絶対に――」

ほたる「また、傷つけてしまいますから。こんなの嫌なのに、でもどうしようもなくて!」

泰葉「傷付いてる」

ほたる「なら――」

泰葉「いなくなったら、もっと傷つく」

ほたる「どうして……私なんか」

泰葉「わがままだけど、でも私は誰にもいなくなって欲しくない」

ほたる「初めからいなかったって思って下さい、それでいいんです。泰葉さんと会えただけで私は充分です」

泰葉「私と会えて、よかったって思ってくれてる?」

ほたる「当然です、だってずっと……ずっと」


553: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:51:05 ID:nYGYdFWk

泰葉「私もほたるちゃんと会えてよかった、今まで進んできた道が認められたような気がして。嬉しかった」

ほたる「頑張って下さい、離れても応援してますから」

泰葉「幸せなんだよ。仲間がいるって、一緒に同じ星を見て前へ進める。今まで知らなかった幸せがここにある。
   それはほたるちゃんも同じ、まだ私達は前に進める」

ほたる「……行けません」

泰葉「ほたるちゃん、きっと今からでも」

ほたる「だって、まだ傷つけてしまったら耐えられませんから。きっと泰葉さんもプロデューサーさんも私を助けようとして」

泰葉「助けるよ、だってそれが当たり前だから。Pさんはほたるちゃんだから助けたんじゃない、仲間だから」

ほたる「……」

泰葉「もう一度だけ手を伸ばして欲しいの、せめて明日まで」

ほたる「明日」

泰葉「何も言わずに移籍なんて駄目だよ、皆が心配するから」

ほたる「明日が、最後です」


554: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:51:45 ID:nYGYdFWk

凛「話はまとまったみたいだね」

泰葉「凜さん!?」

凛「ごめん、聞いちゃった。あんまり遠くに行ってなくてよかった」

ほたる「あの、さっき来たって」

凛「ああ聞いた? 本当、ちょっとこの忘れ物を一緒に聞いて欲しくってさ」

泰葉「忘れ物?」

凛「そう、誰かさんが忘れていったとっておきの物」

泰葉「……?」

男「ふう、思ったより時間が掛かったか」

ほたる「お疲れ様です」

男「ああ、遅くなって悪かった」

ほたる「明日、ライブに出ます」

男「ライブ?」

社長「前の事務所に残っていた最後の仕事だよ」


555: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:53:05 ID:nYGYdFWk

男「ああ、そういえば……」

社長「違約金、君に払える金額ではないと思うが?」

男「分かってますよ、終わり次第すぐに――」

ほたる「それでお願いなんですけど」

男「珍しいな、最後くらい聞いてやってもいいが」

ほたる「見に来てくれませんか?」

男「ライブをか? 悪いが――」

ほたる「見に来て欲しいんです!」

男「何を必死になっている?」

社長「この子の使い道に彼らも気付き始めたという事さ」

男「まさか」

社長「あれだけのアイドルを抱えている事務所だ、情報網もまた大きい」


556: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:54:06 ID:nYGYdFWk

男「なるほど、さすが侮れない」

社長「終わり次第、すぐに手続きを終わらせないと」

男「どんな手を使ってくるか分からないと」

社長「そういう事だ、さすが理解が早い」

男「それほどでも、分かった。時間は?」

ほたる「13時です」

男「楽しむといい、最後のライブだ」

先P「よし、引っかかった」

女P「何でこんな簡単に引っかかるのよ」

統括「白菊ほたるの有用性がそれだけ高いのだろう」

女P「だからって私ならまず疑うけど? 丸腰で相手の陣地に入ってどうすんのよ」


557: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:54:47 ID:nYGYdFWk

統括「白菊の所属していた事務所のリストだ」

女P「これがどうしたの?」

統括「前年の決算報告を見てみろ」

女P「……何でこれで潰れたのよ」

統括「前に言ったろう白菊は目印だ」

女P「ここを潰すって誰かが決めてたとか?」

先P「どっかの誰かだ、彼女が選ばれたのは不運としか言いようがない。そこは事実だ」

女P「何それ、黒幕は誰よ?」

統括「今のところは不明だ、一つ言えるのは簡単に尻尾を出す様な馬鹿ではないという事だ」

先P「分かってるのは、この子が入った事務所はなぜか集中攻撃を受けて潰れるって事だけだ。まあ、表に出せない理由は色々とあるんだろうさ」

女P「よく入れたわね?」


558: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:55:51 ID:nYGYdFWk

統括「そんなもの千川に聞け」

女P「よくやるわねあの社長……」

先P「作戦は予定通り、いやいいねえ。勝てる戦いってのはやる前からわくわくする」

女P「ここも色々とやられたの?」

統括「やられはしたが、問題はない。些細な事だ」

女P「そこを追えば辿り着きそうなものだけど」

統括「黒かもしれん」

女P「黒……あのおっさん!?」

先P「何だ知ってんのか」

女P「何度かやりあったから……なら手は出さない方がよさそうね」

統括「そういう事だ、今は目の前の問題だけを片づける」

先P「言われなくとも、決行しますよ」


559: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:57:22 ID:nYGYdFWk

P「さて、体は動くな」

加蓮「そうだね」

P「……よ、よう」

加蓮「やっほ」

P「事務所には病院の場所まで教えてなかったんだけどなあ」

加蓮「私、この病院でも診てもらってた事あるから。友達の看護婦さんが教えてくれた」

P「そうか、友達多いんだな」

加蓮「うん」

P「それじゃまた明日――」

加蓮「待って」

P「……悪かったよ、軽率だった」

加蓮「別に謝って欲しいんじゃないよ、本当に元気かなって思っただけ」


560: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:58:20 ID:nYGYdFWk

P「冷えるな、さっさと事務所に行かないと」

加蓮「近いし、歩こうよ。リハビリにもなるでしょ?」

P「リハビリってそこまでじゃないよ」

加蓮「いいからいいから」

P「その服を見せたいから出てきたんじゃないだろうな」

加蓮「冬だね」

P「12月だからな」

加蓮「さっき凜からメールがきた」

P「何て?」

加蓮「明日、ほたるちゃんの代わりにライブに出るって」

P「無理もないな、話す機会を設けないと」

加蓮「Pさんは、私が同じような事になっても助けてくれる?」


561: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 03:58:53 ID:nYGYdFWk

P「そうならない様な状況を作らない事から考える」

加蓮「もう、そういう答えが欲しいんじゃないよ」

P「俺は王子様じゃないから」

加蓮「私だってお姫様じゃないよ」

P「まだシンデレラだろ?」

加蓮「魔法はいつまでも続かないよ、誰にも。Pさんだってそうでしょ?」

P「俺は今も魔法に掛かったままだよ」

加蓮「まだ続いてるの?」

P「まだ。それでもいつか終わるんだろうが、きっとまだ当分は続くんだろう」


562: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:00:49 ID:nYGYdFWk

子供の頃から、私は自分の不幸を意識してばかりだった。

今日はトラックに轢かれかけたとか、植木鉢が倒れてきたとか。

くじを引けば全て外れで、おみくじも大吉で。

そんな私が生まれて人を幸せにできた時がある、それは――

凛「私がまず最初に出ればいいんだよね」

先P「本当にやれるのか? リハもなしにソロだぞ?」

凛「問題ないよ、私の心配する暇があるならほたるの心配して」

先P「そこまで言うなら何も言わんが」

凛「……あそこまで言われて、黙っていられるほど私はクールじゃない」


563: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:01:38 ID:nYGYdFWk

女P「準備は?」

統括「順調だ」

先P「しっかし、四人揃って同じ現場ってのも初めてだな」

女P「何、あいつ来るの?」

先P「昨日、事務所に顔を出したらしい。いきなり復帰はさせんが、話を聞いて見に来ると言ったそうで」

女P「仕事熱心ね」

P「そうでもないですよ、今日は仕事する気ありません」

女P「させないわよ、何の為に三人も来てると思ってんの」

P「壮観ですよね、事務所のプロデューサー勢ぞろい」

統括「あまり意味はないが」

P「牽制的な意味合いですか?」


564: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:03:28 ID:nYGYdFWk

統括「いざという時、動ける人数は多い方がいい」

P「白菊さんは?」

先P「控室、それから言ってなかったが」

P「はい」

先P「移籍問題が起こってる」

P「でしょうね」

先P「動じないな」

P「予想してましたから、あの男がちょっかい掛けてきたんでしょう?」

女P「実はあれも故意だって証拠あるのよ」

P「被害届出して警察……ああそうか、根本的な解決にはならないか」

女P「やっぱりそういう話になるのね」

P「それで渋谷さんがライブやる理由は? 別に最初から白菊さん出しても」


565: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:04:41 ID:nYGYdFWk

先P「本人の強い希望だ、前座扱いでいいと。白菊への風当たりを和らげるクッション的な役割だと言っていたが」

P「統括、何か知ってます?」

統括「今回は知らん」

P「なるほど」

女P「少し力みすぎてる気がするのよね、あんた何か言ったんじゃないの?」

P「あ……」

女P「あ、って何よ」

P「いえ、少し心当たりがあるなーって」

女P「うちの看板に何を言ったのよ!?」

P「言ったの俺じゃなくて杏なんですよね」

女P「アイドル同士で何をやってるのよ……」

P「あはは、本当に仰る通り」


566: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:05:27 ID:nYGYdFWk

統括「お前は控室に行ってこい、他にも何人か様子を見に来てるのがいる」

泰葉「Pさん!」

P「久し振り、でもないな。元気か」

泰葉「私は大丈夫です、Pさんこそ」

P「平気じゃなかったら来てないよ、他に誰か来てる? 渋谷さんは知ってるけど」

泰葉「さっき、佐久間さんを見ました」

P「現場にいたから気になったか、あるいは気になってるのはまた別の事か」

泰葉「スケジュールは知ってますか?」

P「大体は、渋谷さんが前座とは」

泰葉「それから、ほたるちゃんが出るんですけど」

P「移籍問題が起こってるんだろ?」

泰葉「私だけじゃ……何もできなくて」

P「泰葉じゃなかったら今日、出る気になってたかも怪しいよ」

泰葉「ですが、今日だって大丈夫かどうか」

P「行ってくるよ。何とかなるから、心配するな」


567: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:06:11 ID:nYGYdFWk

まゆ「来たんですね」

P「早速か」

まゆ「少し、気になりまして」

P「渋谷さんか?」

まゆ「ほたるちゃんと言わないのは冷たすぎますか?」

P「いや、今は彼女より渋谷さんの方が問題だろう。まあ、彼女も自分で見つけてもらうしかないんだけど。杏も言葉が足りないんだよなあ」

まゆ「昨日、少し聞かれたんです……統括さんについて」

P「壁か?」

まゆ「肇さんと同じ事を言うんですね」

P「何となく、かな。想像通りでよかったよ、それじゃ」

まゆ「想像通り、ですか」


568: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:07:14 ID:nYGYdFWk

ほたる「もうすぐ……でも……私は」

P「入るよ」

ほたる「プロデューサー!?」

P「それだけ大声が出せるなら問題なさそうだね。昨日、退院したんだ。退院って言っても一日ベッドで寝てただけだけどね」

ほたる「申し訳ありませんでした」

P「深刻に受け止めなくていいから、結果として何も無かった訳で」

ほたる「私がそこにいなければ起きなかった事ですから」

P「そんな事ないし大丈夫、白菊さん程じゃないけど不幸なら俺もそれなりに耐性があるから」

ほたる「事務所のこと、ですか?」

P「それもあるし、まあ色々と。19年も生きてると色々あるから」

ほたる「皆さん、強い人ばかりですね」


569: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:09:16 ID:nYGYdFWk

P「そう?」

ほたる「泰葉さんもプロデューサーも、それに凛さんも」

P「渋谷さん?」

ほたる「事件を目の前で見てるのに冷静で、今日も一人じゃ危ないだろうからってライブまでしてくれる事になって」

P「そう見える?」

ほたる「本当に、強いなって」

P「それは違うと思う、渋谷さんは白菊さんが思うより強くない。そう見せるのは確かに上手いけど」

ほたる「だって今日も現に」

P「俺からすれば、白菊さんの方が遙かに強いと思う」

ほたる「私はそんな」

P「アイドルから離れた俺だから思うのかもしれない、今まで幾つも事務所が潰れてきたんだろう? この世界の暗い部分も誰よりも見てきたはずだ」

ほたる「それは、そうですけど」


570: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:09:56 ID:nYGYdFWk

P「それでもこの世界にいる、それは君だけが持つ強さだと思う」

ほたる「私が……私がこの世界にいるのは」

P「っと、始まるな。ステージ、見に行かないか?」

ほたる「凛さんのですか?」

P「理由はどうあれ君のためである事は確かだし、客の入りも見ておいた方がいい」

まゆ「満員ですね」

凛「当然」

まゆ「今日は凛さんのファンばかりではありません」

凛「それも当り前、分かってて立つんだから」

まゆ「どうしてですか?」

凛「証明したいから、杏の言葉は見当違いだって」

まゆ「気負いはありませんか?」

凛「無いよ、一人だって問題ない」


571: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:11:33 ID:nYGYdFWk

先P「Never Say Never、すっかり定番曲になったな」

女P「ソロライブって久しぶりよね?」

統括「久しぶり? 違うな」

先P「最近やったなんて話は聞いてませんが」

統括「当たり前だ、初めてだからな」

ほたる「わあ……」

P「確かに硬さはないか、声も伸びてるけど」

まゆ「いえ、これでは」

P「そうなんだろうな、統括があんまりいい顔してない。これでも本調子じゃないのか?」

いける 大丈夫 いつもと変わらない私だ

真っすぐ前だけを見ていればいい それでいい


572: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:12:45 ID:nYGYdFWk

まゆ「ソロで歌う凛さんを初めて見ましたから、偉そうなことは言えませんけど」

先P「あー、分かってきた」

女P「これを見越して出したの?」

統括「いつか、越えなければならない壁だ」

女P「だからってこんな時にやらなくたって」

よし ここからサビに入って

あれ? いない

いない?

いないって

誰が?

P「何か探してる?」

まゆ「いつも当たり前の様にいるのに、今はいないんですから」


573: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:13:16 ID:nYGYdFWk

P「なぞなぞか?」

まゆ「Pさん、一歩前に出てもらえませんか?」

P「一歩? これでいいか?」

まゆ「充分です」

誰がいないんだっけ?

今は一人で

誰も――

女P「動きが!?」

先P「止めますか?」

統括「続けさせろ」

先P「あいあいさー」

何でそんな顔をして私を見るの?

どうしていつもそこで立ち止まったまま

私はここにいるのに


574: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:13:49 ID:nYGYdFWk

P「終わらせる覚悟はあっても、か。なるほど言い得て妙だ」

まゆ「Pさん?」

P「終わらせるのって簡単なんだよ」

まゆ「そうでしょうか?」

P「簡単だ、アイドルだろうが何だろうが。そこで歩みを止めればいい、けど続けるとなると話は別」

まゆ「渋谷さんは終わらせる気なんですか?」

P「杏にはそう見えてるんだろうな」

まゆ「Pさんと彼女がアイドルを辞めたから、でしょうか」

P「そこは何とも言えないけど、」

ほたる「凛さん……」


575: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:15:19 ID:nYGYdFWk

「終わらせる為に歌うの?」

どうしてそんな事を聞かれなくてはいけないのか

アイドルとして目指すと決めた

彼を超え、その姿をいつか見てもらえたらって

だけど、その夢はもうすぐ終わる

そうなればもう私は

アイドルを続ける意味も、歌う意味も

女P「ちょっと、間奏も終わるのに!?」

先P「止まってないか?」

統括「……」

凛「……あ」

P「不味い、完全に意識がステージから離れてる」


576: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:16:54 ID:nYGYdFWk

まゆ「止めます?」

P「統括の判断次第、俺は何も――」

目を開けば すぐそばにある
見つけ出した希望を信じているから

P「って」

先P「おお」

女P「は?」

統括「……まあ、いいだろう」

泰葉「ほたるちゃん!?」

凛「な」

ほたる「ごめんなさい、巻き込んで」

凛「あ、うん」


577: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:18:24 ID:nYGYdFWk

P「本来、彼女のライブだからか盛り上がってはいるな。戸惑いも混ざってるけど」

まゆ「行かせてよかったんですか?」

P「完全に予想外だけど、結果オーライ。こんな事するタイプには見えなかったけど」

女P「歌い切っちゃった」

先P「これが狙いだったんです?」

統括「俺は超能力者じゃない」

女P「まさかPがけしかけたんじゃ」

先P「違うだろ、あの顔は」

統括「面喰ってるな」

まゆ「自分が巻き込んだから、と本気で思っているんでしょうか」

P「多分、そうなんだろうな」


578: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:20:14 ID:nYGYdFWk

凛「……」

P「お疲れ、少し――」

凛「少し、休んでる」

まゆ「このままライブする気ですね」

P「何も起きなければいいんだが」

ほたる「あの、皆さん心配掛けてごめんなさい。大丈夫です、怪我もありません」

男「さあて、最後の挨拶だ。ほたる」

「それは絶対に違う」

男「ん?」

ほたる「私は今日――」

P「停電!?」

まゆ「真っ暗で何も――」

P「とにかく安全を確保しないと!」

「大丈夫ですよ」

P「ふぁい?」


579: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:20:53 ID:nYGYdFWk

「予備電源の場所は……ここですね、ああなるほどこのトラブルかあ」

P「ちょっと、あのここ関係者以外」

「分かってます、分かってますから」

P「いや、あの――」

まゆ「……つきました」

「ね? 大丈夫でしょ?」

P「あの、貴方は」

「名もなき者、とでも」

P「はあ?」

「いいんです、私はそれで」


580: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:22:00 ID:nYGYdFWk

先P「消えたり点いたり忙しい」

女P「で、どうしてほたるはステージ脇を見て固まってるのよ」

先P「俺に聞くな、どうします?」

統括「残念な報告が一つある」

先P「はいなんでしょう」

統括「千川が勝手に動いたらしい」

先P「あの社長……何をやったんです?」

統括「何も言わん、ただ指示が一つ降りてきただけだ」

女P「何て?」

統括「何もしないように、だそうだ」


581: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:23:12 ID:nYGYdFWk

ほたる「……っ、どうして……?」

「白菊ほたるちゃんかい? 来てくれてありがとう、まだ小さな事務所だけどきっと君はいいアイドルになる。
 僕も協力するから、二人で頑張ろう」

「私でも……人を、人を幸せになれるでしょうか?」

「もうできてるよ」

「え?」

「君がアイドルになるって決めてくれて僕は今、とっても幸せだから」

P「どうする、完全に止まってる。統括は……」

まゆ「手でバッテン作ってます」

P「はあ? 放置!?」

「ほたる。君の好きな様に、好きな所で、思うままに」

「音源、流しますね」

P「はい? いや勝手に」


582: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:24:38 ID:nYGYdFWk

「大丈夫、あの子なら」

P「大丈夫って何を根拠に――」

ほたる「あの、今日で……今日で私は」

泰葉「頑張れ……頑張れ……」

「頑張れほたる!!」

泰葉「え?」

ほたる「あ……」

P「いい声援ですね」

「実は、ちょっと声を掛けてみたんです。最初のファンクラブに入ってくれた人たちへ」

P「最初の? って、まさか貴方」

まゆ「凄い、こんな」

「ほら、言ったでしょ? 大丈夫だって」


583: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:25:19 ID:nYGYdFWk

P「本当に……その通りですね」

ほたる「今日で私は、下を向くのを止めようと思います」

たくさんの人が応援してくれてる

それは分かってた ずっと分かってた

目を背けたのは私 目の前の不幸に目を奪われて

私はその先にある光から目を逸らした

自分の幸せの為に 誰かを不幸にしなくちゃいけないなら

そんな幸せいらないって そう思って

いつでも振り向けばそこには 私に差しのべられた手がいくつもあった

「後悔した事もあったんです、アイドルになることが彼女にとってよかったのかどうか。アイドルにしてしまった自分は彼女に酷い事をしてしまったんじゃないかと」

P「最初のプロデューサー、って理解でいいんでしょうか?」

「そんな大層なものではありません、小間使いみたいなものです。それでも上に無理を言って
 スカウトしてサポートしたんですが……僕にプロデューサーとしての才能はなかった」


584: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:26:45 ID:nYGYdFWk

P「プロデュースなんて時の運もあります、私とてこの先どうなるか」

「失礼を承知で申し上げます、実は貴方を調査させて頂きました」

P「彼女をプロデュースするにふさわしい人物か? って事ですか」

「ええ、その……次の事務所もその次の事務所も酷かった様でして。偶に見かけても、どこか暗くて。そんな顔を見ていても何もできない自分がいて」

P「それなら私も信用できませんよね」

「そういう訳じゃないんです」

P「違うんですか?」

「見苦しいですが、ある時からあの子の表情が変わったことに気付きました。どこか暗かった顔が明るくなって、
 はっきりと前を見るようになった。花火を背景に撮影した写真が……ああこれだ」

P「ああ、それですか。反響もそれなりに大きかったんですよ」

「嫉妬しました」

P「へ?」


585: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:30:04 ID:nYGYdFWk

「情けない話、嫉妬したんですよ。そんな表情を直に見たであろう誰かに」

P「それで誰か調べたんですか?」

「こんなんですが、まだこの世界の端っこの方にぶら下がってますから。カメラマンには簡単に連絡が取れました。
 それから貴方を見つけて、失礼ですがまずその素性を調べました」

P「結果、過去に事務所を潰した極悪人だったと」

「本当の極悪人を何人か知ってますが、彼らは貴方の様にそんな顔で自嘲はしませんでしたよ」

P「自嘲する以外に過去を振り返る術を知りませんので」

「だから悔しかった、その若さで彼女の魅力を引き出せる貴方が。だから彼を唆して、何が起こるか分かっていながら情報を与えました」

P「……」

「元アイドルで、アイドル達からの信頼も厚い。業界内の評判も上々、ほたるを任せるには最適な相手。そんな事は分かってた、
 分かっていたのに……止められなかった」

P「もし、証言をしかるべき場所で求められた場合――」

「お話します、私の知る限り全て」


586: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:30:53 ID:nYGYdFWk

P「お願いします、その代わりと言ってはなんですが」

「できることなら何でも」

P「これが今日のセットリスト、既に予定は狂ってますがどうするかはお任せします」

「お任せ?」

まゆ「Pさん?」

P「衣装は予備で何着か用意してますし、実は裏にまだあります。何かされるのが怖かったので独断で発注しちゃいました」

「いや、それを私に伝えて――」

P「嫉妬するくらいなら対抗してきた方が私としても面白いです、それで彼女が更に輝けるなら担当を変えたっていいんです」

「……本気ですか?」

P「嘘と思ってるなら怒りますよ、音源はそちらに。現場の指揮はお任せします、と言っても完全に一人も難しいでしょうから待ってて下さい。今、補助の人間を呼びますから」

女P「P? どうしたのよ、ライブの途中でしょ?」

P「ニューウェーブの時の貸しを返してもらおうかと思いまして」

女P「……変なことじゃないでしょうね」

P「あははは」

女P「何か呼ばれたから行ってくる」


587: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:32:00 ID:nYGYdFWk

先P「骨は拾う」

統括「どこに撒けばいい?」

女P「後で覚えておきなさい!」

P「今から来ます、ちょっときつい人ですけど優秀な人ですから」

「どうして私の為に――」

P「貴方の為じゃない、白菊さんの為だ。意味が分からないなら帰ってもらって結構ですよ」

「……責任は取れませんよ」

P「私だって取れません、いいんです。今から来る人間に押しつけちゃえばいい」

「この曲が終わったら、少し時間が欲しい」

P「まゆ、いいか?」

まゆ「はい」

P「俺は席を外す、何かあったら連絡くれ」

まゆ「本当にこれでいいんですか? 過去まで調べられて」

P「いい。あの時、何があろうと全て受け止めると決めた」

まゆ「……分かりました」


588: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:32:39 ID:nYGYdFWk

女P「いきなり来いって言ってどうすればいいのよ?」

P「思ってたより早かったですね」

女P「何事かと思って、それで何をすればいいの?」

P「彼のサポートを」

女P「誰よ?」

P「まあ、ちょっとした関係者です。今日のライブは全て彼にお任せしましたので」

女P「後で聞かせてくれるんでしょうね」

P「彼の口から聞けるんじゃないでしょうか、責任は全て統括にぶん投げましょう」

女P「それならいいけど、分かった。どこか行くの?」

P「する事がありますから、お願いします」

女P「休みなのに頑張るんだから」


589: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:33:34 ID:nYGYdFWk

まゆ「私の事もご存知ですか?」

「詳しいことまでは知りませんが、一応は」

まゆ「もし彼にまた何かするのであれば、私は何の遠慮もしませんから」

「……覚えておくよ」

まゆ「5分、Pさんの頼みでも貴方に与える時間はそれだけです」

「充分です」

ほたる「その、お久しぶりで――」

「後ですべて話す、すまない。俺が全て悪い」

ほたる「いえ、私が駄目だったから」

女P「何だか知らないけど、とりあえず話を進めた方がいいんじゃないの?」

「今日、ライブの指示は俺が出すことになった」

ほたる「プロデューサーさんは?」


590: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:34:09 ID:nYGYdFWk

女P「どこかに行った、まあ今の会話で何となく正体は察したけど。できるの?」

「やらなければ、彼にも彼女にも怒られてしまいますから」

女P「ならやりなさい、構成はどうするの?」

「考えてました。この3年間。僕ならどうしようかって思って温めていたものが」

ほたる「分かりました、選んで下さい。私が選ぶよりその方がいいと思いますから」

「ありがとう」

統括「凛」

凛「何? 笑いに来たの?」

統括「生憎、俺にそんな趣味はない」

凛「何でだろう? 歌えなかったよ」

統括「……」

凛「終わらせる覚悟以外に必要なものって、何? どうしよう? このままじゃ私、あの子を送り出せない」

統括「俺は、一度として終わらせろと言った覚えはない」


591: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:35:21 ID:nYGYdFWk

凛「でもそうするしかない、待っても待っても何も変わらなかった。何もだよ!?」

統括「本当にそうなら、俺はプロデューサーとして無能という事だな」

凛「何が言いたいの? そんな目で見ないで」

統括「あいつが変わらなければならないのは同意見だが、その前に出来る事もある。何の為に千川がこの事務所に
   Pを入れたか、何の為にニュージェネレーションを作ったか、もう少し考えろ」

凛「考えて、答えは出るの?」

統括「戻れ、事務所のイベントだ。やると言った以上、途中退出は認めん」

凛「戻っても、もう終わってるでしょ」

統括「凛にとってはそうかもしれんが、そうではない者もいる」

凛「統括にとっても終わりでしょ?」

統括「それが凛と何の関係がある?」

凛「……戻るよ」


592: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:35:52 ID:nYGYdFWk

統括「さて、訳の分からない指示を寄越してきた理由を聞こうか」

ちひろ「そうして欲しかったかと思いまして」

統括「千川」

ちひろ「ちひろ、ですよ。お姉ちゃんでもいいのに」

統括「阿呆」

ちひろ「無理やり社長を押し付けといそんなこと言うんだ」

統括「凛の背中を押すには一苦労、か」

ちひろ「そう、担当のプロデューサーもだけど」

統括「結局、俺は何一つ変われなかったな」

ちひろ「変わったよ、前ならそんな事も言わなかった」

統括「……そうだな、そうなんだろうな」


593: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:36:22 ID:nYGYdFWk

ちひろ「それに、私たちが変われなくてもあの子達が変えてくれる。私達も、ひょっとしたら世界を」

統括「夢物語だ」

ちひろ「うん、でもまだ夢を見られる。それってとっても素敵な事だよ」

ほたる「次は――」

女P「はいこれ! 全く、人をこき使うのは上手いわね」

「後悔したくありませんから、きっとこれが最後でしょうし」

女P「何があったかは後で聞くけど、支える側がそんな顔してどうするの」

ほたる「最後の曲、クリスマスにふさわしい曲を用意しました。今日だけは、私も本当に魔法をかけられる気がするんです。
    もっと私を好きになってくれるように、もっと貴方を好きになれるように」

「メリークリスマス、ほたる」

トィンクル メリークリスマス メリークリスマス

始まるウィンターランド 歩いていこう

トゥインクル メリークリスマス メリークリスマス
 
めぐりめぐる 愛のメリーゴーラウンド


594: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:36:56 ID:nYGYdFWk

「終わった、か」

女P「お疲れ様、もういいわね?」

「本当に、ありがとうございました」

女P「あの子にも言っておきなさい」

まゆ「いえ、Pさんに言われたからしたんです。彼の為ではありません」

女P「五分って言われたのに、二曲続けて歌った子の台詞じゃないわね」

まゆ「今日はクリスマスです」

女P「それが?」

まゆ「だからいいんです、教えてもらいましたから」

女P「……あの子も分かんないわね」

ほたる「プロデューサー!」

「もう俺はプロデューサーじゃないよ」

ほたる「まだ、今日は終わってません。だから……まだプロデューサーです」

「魔法の時間は終わったんだよ、全て終わりだ」


595: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:38:48 ID:nYGYdFWk

ほたる「私はシンデレラガールズのアイドルです」

「そうだな、立派になった」

ほたる「アイドルになって。それでも不運は続いて……だけどここまで続けてきて、またこんな事が起きて。でも、楽しいんです。
    終わらせようと思って来たのに、終わらせられなかった。私にもこんな景色が見られるって、教えてくれた人が……見ていてくれるから」

「頑張れ。もうそれしか言えないが、活躍を祈ってるよ」

女P「それでさよならでいいの?」

「はい、満足です」

先P「よう」

P「どーも」

先P「で、例の男は?」

P「あの人が警察に引き渡したそうです、証言も全てしてくれるという事なので」

先P「そうかい、解決して何よりだ。こっちの策は無駄になったが、まあそれもいい」

P「被害届け、実は彼の分は出さないでおこうかと」


596: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:39:24 ID:nYGYdFWk

先P「お前の怪我の?」

P「ええ、どうしようかなと」

先P「まあ、したいようにすればいい」

P「だからちょっと提案があるんですよ。どうせ起訴されたって彼に実刑なんかつく訳ありませんから」

「ああ、ここにいましたか」

P「お疲れ様です、ここで見てましたがよかったですよ。感動しました」

「それは彼女の力です、僕の力じゃありません」

P「アイドルの力を引き出せる事も、プロデューサーには大切な力です」

「いい思い出になりました、ありがとうございます」

P「一つお知らせ、というか提案ですが」

「何でしょう」

P「私から貴方に対して被害届けを出す気はありません」


597: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:40:27 ID:nYGYdFWk

「情けですか?」

P「いえ、それから警察には貴方に対して私は罰する気は全くない事を伝えます。あれはあくまで、彼の単独犯だと。そう白菊さんにも説明するつもりです」

先P「おいおい、いいのか?」

「どういうおつもりですか?」

P「うちで働きません?」

先P「これだよこのおぼちゃんは」

「……失礼ながら、それはどういう意味でしょうか」

P「そのまんまです。最初は雑務でしょうけど、評価次第では私と同じ位置に、もしかしたら上に行くこともあるかもしれません」

先P「社長に話は通してんのか?」

P「これから、ですけど大丈夫だと思いますよ。経験者ですし、今の見れば運営もできそうです」

先P「その為にやらせたのか?」

P「はい、何の意味もなく思い出作りさせるほど俺は優しくありません」

先P「いやそれにしたって」


598: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:41:06 ID:nYGYdFWk

P「どうします? もし断れば被害届け出してそれ相応の損害賠償を請求しますけど。白菊さんもそのまま移籍させちゃうかもしれませんね」

先P「それ、選択肢になってないぞ」

P「言いましたよ、そこまで優しくないですって」

「君は――」

P「もしよければ、社長に話を通しますよ」

「……本当にいいんですか?」

P「その代わり、一つ約束して下さい」

「もちろん、全てをアイドルに捧げる覚悟です」

P「違います、貴方が幸せになることです」

「幸せ?」

P「彼女は疫病神なんかじゃないって、貴方が証明するんです。彼女にこの世界を教えた貴方にしかできない、仕事以上に重要なことです」

「それはまた、重大な仕事ですね」

P「破ったら、本気で怒りますからね」


599: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:41:52 ID:nYGYdFWk

「とはいえ、大丈夫ですよ。彼女が前を見ているのに、私一人だけ後ろを見ている訳にはいきませんから」

P「それまでは、私が預かります。奪ってください、早くしないと本当に全て奪ってしまいますよ」

先P「ったく本当に――」

泰葉「Pさんはそういう人ですから」

先P「全て聞いてたって顔してるな」

泰葉「こうなるだろうな、と思っただけです」

P「そんなに分かりやすいかな」

泰葉「私は個人的には反対です」

P「まあ、そう考えるのも無理はないな」

泰葉「だから、最初アイドルの仕事に同行する場合は私の仕事を優先して下さい」

P「いいのか?」

泰葉「終わった後にPさんに全て報告しますから、ちゃんと私と話す時間を作ってくれたらの話です」

先P「これはこれは、ほうほう」

泰葉「それでもいいなら、私は賛成に転じます」


600: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:42:40 ID:nYGYdFWk

P「作る作る、それくらいでいいなら」

泰葉「あんまり事務所の人に聞かれたくない話ですよね?」

P「まあ、大っぴらにする必要はないか」

泰葉「なら事務所で話しするのも不味いですね」

P「ああ、でもそうなると」

泰葉「私の部屋に来ればいいんです、誰にも聞かれる心配はありません」

P「なる……いやちょっと待――」

泰葉「いいですよね?」

P「お、おお」

泰葉「なら決まりです」

P「先輩」

先P「知らん」


601: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:43:22 ID:nYGYdFWk

面白い事務所だ、アイドル自ら部屋に招くとは」

泰葉「ええ、ですから期待を裏切らないで下さい。Pさんが信じる限り、私も貴方を信じますから」

先P「怒らせると本当に怖い」

泰葉「何でしょう?」

先P「いや何でも」

P「……雪か」

泰葉「ホワイトクリスマスですね」

P「そろそろサンタも、出発する頃かな」

まゆ「助けるつもりが、助けられてしまいましたね」

凛「分かってる」

まゆ「白菊さん、言ってました。終わらせようと思っても終わらせられなかったと」

凛「私は……」

まゆ「立ち止まっているのは、私達だけかもしれません」


602: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:44:10 ID:nYGYdFWk

ちひろ「二人とも、こんな所にいた」

凛「ちひろさん……申し訳ありませんでした」

ちひろ「いえ、結果的に成功しましたから。私は気にしてませんよ」

まゆ「来ていたんですか」

ちひろ「二人にお仕事です」

まゆ「私と凛さんの二人に?」

ちひろ「いえ、三人です。もう一人は――」」


603: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:44:49 ID:nYGYdFWk

ありす「サンタを待たせるとはいい度胸です」

P「わざわざ待ってるサンタなんて世界に一人しかいないと思うが、ってかこのケーキ……」

ありす「今度こそ、この一皿で黙らせます」

P「前の収録の料理の改良か、あの西園寺さんが絶句した伝説の回」

ありす「美味しいよって言ってくれました」

P「完全に一呼吸おいてからな」

ありす「大丈夫です、今回はアドバイスも貰いました」

P「誰からだよ、トマトでキャッチボールしようしたのなら何の参考にもならないからな」

ありす「葵さんからです、私だって聞く相手は選びます」

P「よし食べる」

ありす「クリスマスなので、オーソドックスに攻めました」

P「普通が一番だって……よかった食える」

ありす「素直に美味しいと言えばいいんです」

P「美味しい美味しい」


604: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:45:36 ID:nYGYdFWk

ありす「先ほど泰葉さんから今日のPさんはいい子だったと聞きましたから」

P「泰葉から俺はどういう風に見られてるのか気になってきたんだけど、何か掌で踊らされてるような」

ありす「プレゼントですよ、気が向いたから作りました」

P「至れり尽くせりだな、ありがとう」

ありす「だから私にも何かプレゼントするべきです」

P「プレゼントを要求するサンタって前代未聞だが」

ありす「いいんです、所詮サンタなんてプレゼントを渡す口実に過ぎません」

P「イヴが傷つくぞ」

ありす「イヴさんだってプレゼントを渡せば喜ぶはずです」

P「はいはい、用意してるよ」

ありす「最初から素直に出せばいいんです」

P「はい、これ」

ありす「……CDですか? でもカバーも何もありません」


605: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:47:02 ID:nYGYdFWk

P「これは、俺がアイドルとして最後に歌った曲だ」

ありす「アイドルとして?」

P「記事は見たんだろう? 千枝と春菜が見たんだ、ありすにも話はいったと思うが」

ありす「それは私が知ってもいい事なんですか?」

P「知りたい、とは言わないのか?」

ありす「私は今のPさんしか知りません、それが全てです」

P「そうか、それは火災の起きた日のオーディションで歌った曲だ。後にそれはあるアイドルの曲として
  世に出る事になった」

ありす「という事は販売されてるんですか?」

P「されてる。それなりのヒットになって、そのアイドルは今の地位を築いた。
  興味があるなら聞いてみるといい、手に入れるのは簡単だから」


606: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:48:00 ID:nYGYdFWk

ありす「そんな言い方をするという事は、この歌に意味があるんですね」

P「ある、何故ならそのアイドルとありすが共演する事になったからだ。他にも渋谷さんとまゆも出る」

ありす「これを歌うんですか?」

P「アイドルが他のアイドルの曲を歌う企画があって、それにありすが選ばれた」

ありす「妙な仕事ですね」

P「相手方の希望でもあるし、俺の希望でもある」

ありす「分かりました、ちなみにタイトルは何ですか?」


607: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/06(月) 04:49:28 ID:nYGYdFWk

765P「START」

律子「もう、聞いてないで手を動かして頂けますか?」

765P「悪い悪い、ちょっと振り返ってた」

律子「振り返るにはまだ道半ばですよ」

765P「合格者が決まっているオーディションだから、気兼ねなく俺は春香を送り出した。規模も大きかったし、場馴れするにはいい機会だろうと」

律子「春香が合格したと聞いた時、社長とプロデューサーの顔色が変わった瞬間を私は忘れません」

765P「噂だけは聞いていた。だからその後、火災のニュースを聞いてすぐに結びつけた」

律子「社長が彼を連れてきて、本当に色々ありましたよね。特に春香は……」

765P「CGプロに移った彼が、今どうなっているかは分からない。立ち直ったようには見えたけど」

律子「頑張っているって、そう信じているからこそ春香もこの仕事をOKしたんですよ。信じましょう、私は信じてます」

765P「そうだな……信じよう」

次回は16日
765とのクロス回です、苦手な方はご注意下さい。


610: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:13:25 ID:7QF46twI

連作短編27
ありす「START」

 START、出発する、始める。

今時、小学生でも知っている単語が綴られたCDケースをそっと彼女は机の上に置いた。

「ラララお出かけ、って転んじゃった」

 そっと口から洩れるその歌詞と、彼女の頭の中の人物が上手く結びつかない。

「どうして今になって」

 アイドルだった、そう告げられてから一年。あれから二人の間でその話題が出た事はなかった。

挫折した、そう聞かされそう信じて。疑いもせずに必死に彼の背中を追いかけ続けてきた。

そんな彼が久しぶりに、アイドルだった頃に踏み込んだ。

「聞いてどうなるっていうんですか」

 一人、軽く愚痴を零しながらそっとケースを開ける。

逸る気持ちを必死に沈めて、震える手が彼の最後に残した足跡を掴んだ。

パソコンがデータを読み込み、画面に再生ボタンが表示される。


611: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:14:32 ID:7QF46twI

「再生……」

 イヤフォンから流れるその声に、彼女が最初に抱いたのは――。

「あーりーすーちゃーん!!」

「えっ!?」

 扉の向こうからの声にありすは顔を思い切り上げ、悶絶した。

「いった……」

「大丈夫!? 何だか凄い音したよ?」

「心配ない、ちょっとぶつけただけ」

 痛む頭を押さえながら、ありすは元凶を半ば八つ当たりに睨みつける。

「何でこんな所に頭を……」

「入っていい?」

「うん、もう起きたから」

「どうしたの? ぶつけたの?」

「机に」


612: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:15:25 ID:7QF46twI

遠慮なく入ってきた少女がありすの頭と机を交互に視線を移動させ、訝しげに顔を傾げる。

いくらふいに眠りに落ちたとはいえ、机の真下に頭が移動すると想像できるほど、人の想像力は豊かではない。

「器用だね」

「そんな褒め言葉いらない」

「何か聞いてたんだ、珍しいね」

「少し。それで千枝、何か用?」

 千枝、と呼ばれた少女は少し悪戯な笑みを見せ、ありすの顔を下から大仰に覗き込んだ。

「昨日のサンタさんはどうだったのかなと思って」

「普通に渡した、それだけ」

「本当にそれだけ?」

「それだけ」

 押し問答を繰り返すも、相手は佐々木千枝。その嘘はあっさりと崩れ落ちる。

「そのCD、昨日まではなかったよね?」

「う……」

 責めるような口調とは裏腹に、千枝の顔には満開の笑顔が咲いていた。


613: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:16:23 ID:7QF46twI

「……うん」

 ついに観念してありすは頭を少しだけ下げた。他のアイドルならともかく、どうにも彼女にだけにはありすは敵わない。

「千枝は昨日は会えなかったから、渡すのは今日になるけど。ありすちゃんのケーキは喜んでくれた?」

「美味しいって」

「そっか、よかったね」

 互いの気持ちを分かっていながら、二人は笑みを交し合う。

抱くにはまだ早すぎる想いに押し潰されそうになりながらも、彼女達は前を見ようと決めた。

「おはよう、相変わらずの仲の良さだね」

「あいさん、おはようございます」

 廊下に出ると、爽やかに透る声が響く。

先に気付いた千枝が頭を大きく下げ、ありすもそれに続く。

「頭でもぶつけたのかい?」

「……残ってますか?」

「その様だ、後で鏡を見るといい」

 頭をポンと叩かれ、あいがその場を後にする。今日の彼女は朝から地方に移動の為か、部屋の前には既にキャリーバッグが用意されていた。


614: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:16:57 ID:7QF46twI

「サックスの演奏会なんだって、千枝も生きたかったなあ」

「事務所に行ったら、絶対に言われる」

「Pさんに? いいんじゃない、頭なでてくれるかも」

 それもいいな、と一瞬でも思った煩悩を振り払いありすは足を速める。

ペースを崩される事に慣れてるとはいえ、やはり12歳。素直に受け入れるにはまだ時間が必要だった。

「ふひわはthたじゃpたあた」

「飲み込んでからにしたら?」

「ほうふる」

 朝早く、いつもなら登校前の学生達で賑わう食堂も冬休みに入った今はまばら。

いるのは雑誌に目を通している相川千夏や眼鏡のカタログを見てにやにやしている眼鏡オタクくらいのもので。

「食べたら事務所に行く?」

「一応、仕事の打ち合わせもあるから」

「Pさんと?」

「他にいない」


615: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:18:18 ID:7QF46twI

「本当に一年間、ずっとPさんだったね」

 一年間、特定のプロデューサーのみと仕事を行う。言われるまでもなくそれが珍しい事であるとありすも自覚していた。

それがどういう意味を持つのか知らないまま時が流れ、そして昨日その意味を知った。

「これからも一緒です」

 あの歌を聞き続けても分からないなら聞くしかない。どんな答えが返ってこようと、取るべき道などもうありすには一つしか見えないのだから。


616: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:18:53 ID:7QF46twI

「聞かせたんだ?」

「まあな、そろそろ頃合いだ」

 17歳にしてはかなり、いや非常に幼い体躯の女性がこたつの中で頭を垂れていた。

よく暖房の効いた室内に過剰なまでの防寒具、そん懸命な彼女の対策の結果。

「それにしても暑いんだが」

 対面に座る男は半袖だった。

まるで今から海にでも、と言わんばかりの服装だが季節は年末。

「ここは夏か」

「夏なんだよ、杏がそう決めた」

「そんなんで野外ライブ大丈夫かよ」

「杏の出る時だけ室内にしよう」


617: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:19:27 ID:7QF46twI

「どこにそんな箱を抑える金があるんだ」

 こたつの上には蜜柑とお茶、双葉兄妹の冬のいつもの光景だが今日は一つ増えていた。

「今日も仕事?」

「打ち合わせがある、765と」

「あっちって兄貴と同じ様な人がいるんでしょ?」

「そう、元アイドルで19歳で今は765のプロデューサー。担当するは竜宮小町」

「そんな風変わりなのが世界に二人もいるなんてね」

 杏がこたつの上の書類にちらと目をやる。765、CG合同企画、と銘打たれた書類には6名のアイドルの名が記されている。

「天海春香に如月千早に星井美希って、共演しても食われるだけじゃない?」

「食われて上等」

 杏の言葉をさして気にも留めず、彼の視線はテレビに向けられていた。

既に10年が経過しようとしているテレビには、アイドルの理想像が輝いている。

「追いかけてきた、この一年……いや、二年」


618: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:21:00 ID:7QF46twI

仕事納め、12月下旬の最後の仕事。

公務員、民間を問わず大抵の社会人が迎える年中行事もここCGプロでは、

「あー何で正月も仕事かねえ」

 無縁だった。少し薄くなってきた頭を掻き毟りながら、壮年の男性が書類と格闘していた。

抱えるアイドルの量に比例して増える仕事に、彼でなくとも愚痴の一つや二つ漏らしたくもなる。

「それ以上やるとはげるんじゃない?」

 その隣、整理整頓が一見よく行き届いたように見える机から澄んだ声が飛んだ。

「生憎こっちはそちらと違って忙しいんでね」

「あっそ」

 返ってきた皮肉も何のその、そっけなく返したその足元には彼に劣らないだけの書類が積まれている。

本来それは、彼女の仕事ではない。ただ、目に付くところに置いておけば彼の目に入る。

それを避ける為にも、彼女は今日何本目かも分からない栄養ドリンクを流し込んだ。


619: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:21:30 ID:7QF46twI

「おはようございます」

「よう、少年」

「少年って年でもないですよ、せめて青年にして下さい」

 彼らの対面に座る形で腰を下ろしたのは、この事務所で最年少のプロデューサー。

10代でその地位に着いた彼は、机の上を見渡して意外そうに声を上げた。

「仕事がない」

「また羨ましいねえ」

「取りました?」

「俺にそこまでの余裕はねえよ、俺にはな」

 そう返され、彼は隣で黙々と仕事を進める女性に視線を転じる。

「借りはこの前のあれで返してもらったと思うんですが」

「あんた大きな仕事あるんでしょ?」


620: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:22:03 ID:7QF46twI

「だから? と返しますよ、年末で忙しいのはお互い様でしょう?」

 したところで何の得もない仕事の奪い合い、という珍妙な光景も彼らにはよくある事だ。

「先輩の顔を立てといて損はないと思うけど?」

「後輩に仕事させるのが先輩の仕事ですよ」

「病み上がりに仕事させるほど鬼じゃないわ、黙って専念しておきなさい」

 さあ今日はどっちが勝つのやら。と周りのスタッフが賭けを始めた時、思わぬ乱入が入った。

「その通りです、だから今日は私の相手をするべきです」

「あら、今日はお洒落ね」

「王子様に会いに来たんだからな」

 そんな先輩二人の茶化しを完全にスルーして、ありすは自らの担当プロデューサーの前に陣取る。

手にしているのは、昨晩に渡されたCDとマフラーが一枚。


621: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:22:59 ID:7QF46twI

「もう聞いたのか?」

「聞きました」

「早いな、早いのは感心だけど」

 そう言いながら彼の視線はもう一つの手の内に向けられる。

どう考えても手編みと思われるマフラーだが、パスタすら難航した少女がこんな短時間で習得したとは思えない。

「何か失礼な事を考えているようですが」

「考えてる、そのマフラーはありすが作ったにしては出来すぎてる。千枝か?」

「……正解です」

 少しの間を置いて返された答えに彼は安堵の表情を見せる、これで作ったと言われたら安心して首にも巻けない。

間違いなく針が刺さりGO TO HELL、そんなのは輝子のシャウトだけで充分だ。

「どうしても行けなくなったそうで、代行です」

「俺より優先する事情って、緊急事態か?」

「ある意味」

 お腹を下して現在緊急進行形の緊急事態だ。あのケーキが原因ではない。繰り返す、あのケーキが原因ではない。


622: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:24:18 ID:7QF46twI

「何か顔色が悪いぞ」

「何を言っているんですか、こんな大きな仕事を前に体調を崩している暇などありません」

「そ、そうか」

 謎のみなぎる気合を前に、彼は先輩二人に目配せする。行ってこい、との許可を受け彼は降ろしたばかりの腰を上げた。

「場所を変えるか」

「ここも今日は空いてますね」

「年末にまで事務所にいようなんてアイドルは極少数だって」

 空席の目立つカフェテリアで、ありすはメニューを見て即決する。

何のことはない、苺こそが正義だ。

「苺は世界の奇跡です」

「何だその世界レベルみたいな物言いは」

「あの人と一緒にしないで下さい」

 注文に苺サンデーを選び、彼女は精神を整える。


623: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:24:55 ID:7QF46twI

「言っとくが仕事の話だからな」

 一足早く来た紅茶に砂糖を入れつつ、彼が釘を刺す。

「分かっています」

 そう言いながらも緩む口元に一抹の不安が彼に宿る。

「やる気はあるよな?」

「あのCDは何のつもりですか?」

 彼女がその声に込めた感情は困惑、そしてほんの少しの痛み。

「あれだけ上手く歌えるなら歌えばいいんです」

 彼から彼女へ渡されたのは、彼の足跡。

STARTはSTARTでも、それは天海春香の声ではなく彼によって歌われたもの。

「俺がアイドルとして最後に歌った曲だ、今になって思えば笑えるよな。終わりなのにSTARTって」


624: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:25:36 ID:7QF46twI

「どうしてこれを私に渡したんですか」

 問いではなく責めるような口調になるのは、考えたくもない可能性が既に頭の中にあるから。

聞いてしまったありすだからこそ思いつく、最悪の現在。

「俺の声だが、今の俺とは違うだろ?」

「ほんの少しだけですが」

「そう、ほんの少し。それでも聞けば誰もが分かってしまう、少しだ」

 待望の苺サンデーが来ても、ありすは手を付けなかった。形を徐々に崩していくクリームが、彼に重なって見えた。

「記事は見たよな?」

 嫌だ、そう彼女の心が叫ぶ。そんな話は聞きたくない、答えたくもない。

「芸能事務所で火災発生。死者二名、軽症一名、そして重傷者一名」

「それが……何だって言うんですか」

「まあ、想像通りのことだ」

 ありすを気遣ったのか、あるいは口に出すにはまだ振り切れていないのか。

彼自身もよく分からないまま、答えは濁された。


625: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:26:35 ID:7QF46twI

「だから天海春香に託したんですか?」

「いや、負けたんだ。アイドルとして完膚なきまでに。そのオーディションでな」

 その差は明らかだった、言い訳のしようもない圧倒的な差。

技術でも経験でも埋めようのないアイドルとしての差だったが、彼に去来したのは絶望でも羨望でもなく。

「純粋に凄いなって思った、歌もお世辞にも上手いとは言えなかったけど見惚れた。
 この子はきっとアイドルとして大成する。そう思わせるだけの力があったし、それは現実になった」

「負けたから辞めたんですか?」

「……さあな、答えを出すには俺はまだ若すぎる」

「私の歌、そっくりです」

 彼女の口から搾り出すように発せられた声に、彼は眉を顰める。

「ありすはそう思ったんだな」

「Pさんもそう思ったはずです、だから私を……私を」

 最後まで言葉は紡がれる事なく、虚空の彼方へ思いは消える。

何をぶつければいいのかも分からないまま、ありすの胸には嫌な自分が現れては消え、ついに顔を出した。


626: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:28:18 ID:7QF46twI

「私はPさんの代わりですか?」

「ありすはありすだ、そうだろう?」

「なら、どうしてこんな時に!」

 この歌を歌った時に天海春香が傍にいたのなら、彼女がありすの歌を聴いても同じ感想を持つに決まっている。

失われてしまったアイドルとしての自分を、彼は橘ありすに求めていると。

「どうしてこんな時に……歌を聞かせようなんて思ったんですか……」

 力ない問いかけに、二人の間に沈黙が横たわる。

仕方なしに苺に手を伸ばした瞬間、それは彼の手にあった。

「あ」

「いつまでも食べないからいらないのかと思った」

「私が頼みました!」

「どうする? ここにあるぞ」

「そんな意地悪を言わないで下さい!」

 ありすがテーブル越しに無理やり手を伸ばす。が、そこは大人と子供。


627: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:29:13 ID:7QF46twI

「大人しく返して下さい」

「ま、冗談は置いといて」

「冗談にしてはたちが悪すぎます」

 返ってきた苺をすぐに口に含み、少しだけ彼女の胸が軽くなる。

やはり、苺はよいものだ。

「知らないまま歌ったところで、きっと春香はありすと同じ感想を抱くと思う」

「当然です」

「その時、いきなり言われたらありすがショックだろうと思って」

「それは……そうですが」

 そう言われてはありすには返す言葉が無い。


628: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:30:05 ID:7QF46twI

だがそう言われても引き下がるわけにはいかなかった。

「それならそれで、最初からこの企画そのものを受けなければよかっただけの話です」

「行ってみるか?」

「行ってみるって……どこにですか」

 返事の代わりの提案に、ありすが身構える。

そんな彼女の様子を微笑ましく見つめながら、彼は告げた。

「765プロ」


629: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:32:31 ID:7QF46twI

CGプロから徒歩4分の最寄り駅。

三線が連結する便利な駅だが、それだけに人も多く気を抜けばはぐれるのも一瞬だ。

「嫌かもしれないが手を離すなよ」

「分かってます」

 傍から見れば仲の良い兄妹にしか見えないプロデューサーとアイドルは、何とか電車に滑り込んだ。

「東京ってどんな時間の電車もこれだもんな」

「これでも少ない方です」

 誰も彼女がアイドルとは気づかない、アイドルもここでは完全に日常の一部だ。

「ここから何駅先なんですか?」

「三駅」

「意外と近いんですね」

 路線図を見てありすが大体の場所を判断する。

都心でも郊外でもない微妙な場所、そこにトップアイドルを13人も擁する事務所がある。

そんなとんでもない非日常が、日常の中にある。


630: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:33:06 ID:7QF46twI

「降りるぞ、少し歩くからな」

「Pさんはここから通ったんですか?」

「いや、近くに部屋を借りてた。狭いボロアパートだったけどな」

 ビルの合間を二人が歩く、やはり誰も気づかないがありすはそれでよかった。

 今は誰にも、この時間を邪魔されたくない。

「見たら驚くぞ、信じられないくらいしょぼいから」

「CGプロも似たようなものです」

「いや、それ以上。アイドルの収入だけでビル建つはずなのに、あそこから離れようとしないんだよな」

「誰かに行く事は連絡してあるんですか?」

「プロデューサーが出迎えてくれるぞ、奇跡のプロデューサーが」

「きせき?」

「そう、奇跡」

 何のことだか分からないまま、ありすは目的の場所にたどり着きそして。


631: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:33:41 ID:7QF46twI

「……」

 絶句した。

「ほら、驚いた」

「古い雑居ビルにしか見えません」

「見てみろ、765って書いてあるだろ」

 確かに上へ視線を転じればそう書いてある窓はある、あるのだがそれをありすは765プロと認めたくない。

「おかしいです! あれだけのアイドルがいるならもっとマシな場所があります」

「一年前の俺も思ったし今日の俺もそう思う、もっと言うなら一年後の俺もそう思うって断言できる」

「こんな所で満足なんでしょうか」

「まあ、全てが始まった場所だろうから。そこは俺にも分からない部分だ、行くぞ」

 程よく緊張感がほぐれた事にも気づかぬまま、ありすは二階へ上がろうと向かったエレベーターに故障中の表示を見た。

「さて、一応ライバル会社だ。姿勢を正して言葉遣いに気をつけるように」

「言われるまでもありません、ネットで調べてきました。完璧です」


632: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:34:17 ID:7QF46twI

「完璧か、ここで言われると笑えるな」

「馬鹿にしてますね」

「いや、同じようなことを言ってるのがここにもいるからさ」

 ノックするドアの感触は一年前と同じ、それでも時間は流れていることを証明するかのように看板は色あせていた。

「空いてますよ、CGプロダクションのプロデューサーさん」

「……わざとらしい」

「入ってもいいんでしょうか?」

「いいんだろうさ」

 時間丁度とはいえ、確認もせずに招き入れる管理体制に一抹の不安を覚えつつ彼は遠慮なしに扉を開け、

「引っかかったー兄ちゃんやっぱり変わってない……」

 過激な出迎えを受けた。

「……」

 ありすが。


633: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:35:13 ID:7QF46twI

「あれ?」

「何ですかこの事務所は!!」

 頭から思い切りたらいを受け本日二度目のこぶを作った少女は、あらん限りの声を振り絞って怒りをぶちまけた。

「本当にごめんなさい!」

 アイドル事務所の中でも抜群の所属人数を誇るCGプロにもいない双子アイドルが、ありすの前で頭を下げていた。

「本当はこっちに当てるはずだったのにー」

「何で開けるだけ開けて入ってこないのさ」

「律子の声真似したんだろうが俺には通用しない」

「だったら先に私に教えて下さい!」

 ありすが至極当然の突込みを入れ、彼も押し黙る。改めて落ちてきたであろうたらいを見ればそれなりの一品で、この為だけに用意したのかと

思うと、彼もまた呆れる以外に無い。

「暇なのかお前ら」

「これからお仕事、だからちょっと遊ぼうと思ったのに」

「兄ちゃんもつまらない大人になっちゃったね」


634: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:35:51 ID:7QF46twI

「ちょっと目を離したと思ったら」

 彼が反論する前に、その後ろから鋭い声が飛ぶ。声の正体など彼と双子には確認するまでも無い。

彼と同じく10代でプロデューサーの職に就いた女傑、秋月律子。

「げ!」

「げ、じゃないでしょ! 何をやってるのあんた達は!」

 すぐに飛ぶ叱責の声に亜美、真美共に震え上がる。

言葉だけで人は震え上がることをありすは今日、初めて学んだ。

「さっさと行きなさい!」

「アイアイサー!」

 揃って事務所から逃げる様に出て行く二人をため息混じりに見送った後、改めて律子は彼に手を差し出した。

「ようこそ、765プロへ」

「やっと同じ立場だ」

「新米プロデューサーが何を言ってるんだか」

「新米でも同じプロデューサーだ」


635: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:37:09 ID:7QF46twI

しっかりと握られた手に、少しの感傷を残して別れた日の事が思い浮かぶ。

互いにプロデューサーとして上り詰めると誓い合い、切磋琢磨し合ってきた仲だ。

「どうなる事かと思ったけど、順調の様ね」

「ここでの経験のお陰かな」

「抱えてるアイドルの数はこことは比べ物にならないでしょ?」

「担当してるのはそう多くないよ、この子みたいに手間の掛からない子も多いから」

 彼がそっとありすの背中を押し、彼女は初めて765プロと向かい合う。

「橘ありすです」

「彼からここの事は聞いてる?」

「いえ、全く」

「そう、なら私も自己紹介しないとね。秋月律子、ここでプロデューサーをしているわ」

「しかし律子がいて何で二人はあんな事をやろうと思ったんだよ」


636: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:39:31 ID:7QF46twI

「ちょっと席を外した隙に……よ。本当に油断も隙も無いわね」
 
 彼の問いに律子はやれやれといった表情で首を振る、律子さえ彼女達の扱いには未だに手こずっていた。

「年を重ねるごとに手が込んでいくのよね」

「随分とお粗末だったけどな」

「座ってて、お茶でも出すから」

 案内されずとも彼は馴染み深い古びたにソファに腰を下ろした、隣でありすが周りを興味深そうに眺めている。

それはIA大賞やIU大賞のトロフィーであったり、各自が無造作に置いている私物であったり、

「あ……」

「懐かしいな、俺が出て行くときに撮ったんだ」

 彼がここで生きていた証の一つが、陽に照らされていた。

「本当にいたんですね」

「ああ、いた」

 ありすの掌の中に13人のアイドルの笑顔があった。加えて、彼女の知らない人達の笑顔も。

「社長と小鳥さんとここのプロデューサー二人、今日はいないみたいだな」


637: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:40:30 ID:7QF46twI

静かな事務所の中で、律子がお茶を入れている音だけが響く。先の双子の喧騒が嘘の様で、彼はソファにそっと背中を預けた。

「今日は律子以外はいないのか?」

「もう少ししたら千早が顔を出すと思う、美希も。春香はちょっと用があるみたいで」

「二人も来るのか?」

「貴方だから」

 律子が彼の向かいに座り、合同企画と銘打たれた書類を示す。

「まずはお話ありがとうございます、765プロは喜んでこのお話をお受けします」

「ありがとう、無理を言っちゃって」

「もう無理は何度と無く聞いてきたから」

 ありすが企画書に目を通す、改めて見ても彼女にはにわかに信じられない企画だ。

「本当にこの曲を私が歌うんですか?」

「その為の企画だから、それにメリットは私達にもあるのよ」

「やっぱりあの噂は本当なのか?」

 脈絡の無いように聞こえる質問に、ありすが目を通すのを止め彼に目をやる。

ただただ真剣な眼差しの向こうで、律子は静かに頷いた。


638: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:41:24 ID:7QF46twI

「本当よ、新人を入れる予定。いつまでも13人って訳にはいかないでしょ。だから後輩との交流も慣れさせておかないと。
 他にいない訳じゃないけど、やっぱり絡みは少ないから」

「変わっていくんだな、何もかも」

「それでも、変わらないものもある。変われないものも」

 いつか、彼が彼女に言った言葉だ。そしてそれは今も、彼らの胸の内にある。

「うちからは渋谷凛と佐久間まゆ、そしてここにいる橘ありすを予定してる。三人とも力はある。
 見劣りはするが、企画として成立させる自信はある」

「私達もそう思ってはいません、チェックもしてるわ。いいアイドルね」

「今はまだ、お世辞と受け止めておく」

「だそうよ」

「構いません、まだ何もしてませんから」

 素っ気なく返ってきたありすからの言葉に、律子と彼は顔を見合わせ苦笑する。

ここまでのストイックさは誰に似たのか、もう問いかけるまでもない。

「リハも本番も年が明けてから、レッスンも年明け?」

「その予定、凜やまゆにも詳しいスケジュールはもう伝えてあるから」


639: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:42:38 ID:7QF46twI

「年が明けるのね、今年もあっという間だった」

「本当なの、律子は美希をもっと大事したらって思うな」

 彼の後ろから手が伸び、お茶と共に出してあった茶菓子が彼女の口へ放り込まれる。

「よう、忙しいところ悪いな。美希」

「別にいいの、久しぶりだね」

 その名を聞いて、ありすがまじまじと現れた人物の顔を見る。

昨年のIA大賞の受賞者であり数々の賞を総なめにした、トップアイドルに最も近い存在。

「この人が……」

「橘ありすちゃん?」

「はい、ご存知なんですか?」

 名前を呼ばれありすが思わず敬語で問い返す、それだけこの世界で彼女の存在感は大きいものがある。

「気になってたから、美味しいねこれ」


640: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:43:31 ID:7QF46twI

「選んだのは雪歩か?」

「今日は私。あと美希、勝手に取らない」

 ありすの反対側にぴょこんと降りた美希が、律子の説教を聞いて彼にウインクして見せる。
 
変わってないでしょ? と言わんばかりの悪戯な笑みだ。

「いるなら手土産の一つも持って来ればよかったな」

「そうなの、相変わらず肝心な所が抜けてるね」

「悪かった、リハの時は何か持ってくるよ」

「約束なの」

「……約束か」

 何の気なしに美希から発せられたのは、765が誇る歌姫の代表曲。

「あのライブも懐かしいわね」

「大変だったなあれは、流石にあれ以上のライブはうちではまだないな」

「あ……」

「あ、置いてけぼりにしちゃったな」

 思い出話に花を咲かせ過ぎたか、と気遣う彼の視線をありすが入口の方へ導く。


641: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:44:07 ID:7QF46twI

「いえ、そうではなく」

「千早! 来てるなら言えばいいのに」

 その誘導にいち早く気付いた律子が声を掛けるが、掛けられた当人はどこか困惑していた。

「本当に……来ていたんですね」

「って、律子から連絡受けなかったのか?」

「う、受けました! 受けましたけど」

 彼の隣で美希が必死に笑いを堪えているのをありすが不思議そうに眺め、そして千早の表情を見てすぐに悟った。

「え……」

「違うから、安心しなさい」

 耳打ちされた声にありすが振り向けば、律子が二人の様子を微笑ましそうに見つめながらそっと続ける。

「色々とあるのよ、あの二人も」

「あの、今のは――」

「黙っといてあげる、それにしてもこんな子供までなんて」

「子供じゃ……子供ですけど」


642: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:45:33 ID:7QF46twI

反論もできずにありすが黙り込むのを見て、美希は先から口元が緩みっぱなしだ。

「千早と美希って最近は顔を合わせる機会ってあるのか?」

「こっちの情報あんまり入れてないの?」

「一度100名以上のアイドル事務所のプロデューサーになってみろ、他の事務所の同行なんてスタッフ任せになる」

 実際、所属アイドルの仕事を持ちかけられてもプロデューサーである彼ですら即答はできない。

相手も理解を示してくれている内はいいが、スケジュール管理を全てデータで管理してもそのデータ量は膨大な物。

「学校みたいね」

 千早の率直な感想も、よく彼の仕事相手からも言われるものだ。

「中学と高校なら1クラスは余裕で出来る。実際、講師呼んで授業もしてもらってるぞ」

「授業?」

「テスト前とか、アイドルやってるから勉強できませんじゃ親御さんに申し訳立たないし。
 事務所で全て済ませた方が手っ取り早いだろ?」

「導入すれば……」

 律子を始めとする周囲の視線が自然と一点に集中する。興味のない話題ににうとうとし始めていた美希は、珍しく慌てて口を開いた。

「律子さん美希は大丈夫なの、だからそんな真剣な顔しないでいいって思うな!」


643: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:46:39 ID:7QF46twI

「紹介しようか?」

「ちょっと待つの!」

 調子に乗った彼の提案を美希が必死の形相で制する間に、千早が律子の横で企画書に目を通す。

「この企画、私達は何を歌うの?」

「え?」

 そしてぶつけられた質問に彼が固まる。何の話だ? とその問いを律子にぶつけようとして、

「……何も知らない」

 首を横に振って必死に否定する律子を見た。

「俺は曲の使用許可とあわよくばレッスンしてくれたらってお願いをしに来たんであって、出演依頼をしに来た訳じゃないからな」

「スケジュール空けちゃったよ、三人とも」

「え」

 美希の言葉に律子が項垂れるが、それ以上の修羅場を迎えているのが向かいで頭を抱えていた。

「本物の前でカバーって、俺だって本人が歌えよって思う! 完全に見劣りする! というか呼ぶ金がない!」

「お金? スポンサーさん見つけてくればいいの?」


644: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:47:42 ID:7QF46twI

「お金? スポンサーさん見つけてくればいいの?」

「企画そのものを変える気か」

 本気になるとプロデューサー以上の営業能力を発揮する彼女なら、それくらい容易い事だ。だがそれは同時にプロデューサーとしての敗北を
意味しているようで、彼としても簡単にはいとは言いたくない。

「変えちゃおうよ、その方が楽しいよ」

「千早、何か言ってやってくれ」

「いいんじゃない? 空いてるなら、ほら……LIVEバトルでしたっけ?」

「ライブ……」

「バトル……」

 千早からの思わぬ提案に彼だけでなくありすも絶句する。

そんな勝敗の見えた勝負、したところで彼らにメリットがない。あるとすれば、歌えれば何でもいい千早が喜ぶくらいだ。

「いいかも」

「美希!?」

 最後の壁まで難なく突破され、彼は言葉を失う。ここまでくると最早――。


645: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/15(水) 04:48:52 ID:7QF46twI

「律子、誰の差し金だ?」

「私が聞きたい……」

「765で群を抜いて忙しい三人のスケジュールが年始の同じ日に都合よく空いてるなんて、
 偶然の一言で片づけられる訳ないだろ。誰かが調整してる」

「私が決められる訳ないじゃない、そんな事ができるのは――」

 ここで彼と律子の思考が合致する。そうだ、その観点から犯人を考えれば――。

「あんのプロデューサー!!」

 二人の若きプロデューサーの怒声が、事務所を飛び越えどこまでも響き渡った。

次回、24日。何回かに分けて投下する予定です。


648: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:25:35 ID:6NmjOSSI

「シンデレラガールズですよ! シンデレラガールズ!」

 ありす達が出て行ってから僅か数分後、こちらもプロデューサーとアイドルがCGプロを見上げていた。

天海春香と並んで事務所を見上げるスーツ姿の男性は、その立派なビルを見て羨望の声を上げた。

「……大きいな」

「うちと比べたら凄い差ですね」

「言うな、惨めになる」

 様々な企業が入った雑居ビル、と言えば765と同じだがこちらはどう見てもオフィスビルの様な洒落た言葉が似合う。

アイドルの所属数に差があるとはいえ、彼も自社の在り方に疑問符を付けざるを得ない。

「新人さんが来たらきっと入りませんよ?」

「分かってる、分かってるんだが」

 引越し先の候補はいくつかあっても絞り込めないのは、新人教育による経費がどれだけ嵩むかまるで

予想が付かない事も原因の一つ。ここまで一気に増えることになるとは、彼とて全くの予想外だ。

「ここですね、広いなあ」


649: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:26:50 ID:6NmjOSSI

「200名弱のアイドルがいるんだ、これ位は必要なんだろう」

 ELVを降りればもうそこは彼女もよく知るアイドルの世界、ガラス越しに見える世界には765とは比較にならない数の

スタッフが慌しく動き回っている。

「知ってる子とかいますかね?」

「迷惑だけは掛けるなよ」

「分かってますって」

 躊躇いなくインターフォンを春香が押すと、間髪入れずに返事がくる。

「ご用件を宜しいでしょうか?」

「765プロダクションのPです、千川さんとのお約束なんですが」

「……少々、お待ち頂けますか」

「約束してるんですよね?」

「そのはずだが」

 相手のトーンは明らかに警戒するもの、彼女と電話で約束を取り付けている彼からすれば心当たりもないが、もしもという事もある。


650: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:28:10 ID:6NmjOSSI

「春香がいるから、俺が嘘を付いてるって思われる心配がないのは救いだな」

「私も偽者扱いされたらどうしましょう?」

「もう少し自分の知名度を信じろ」

 この業界にいて春香を知らないスタッフがいるなら、それはもう相手が勉強不足だと言わざるを得ない。と彼は思う。

とはいえ、全くの専門外なら話は別だが。

「お待たせしました、どうぞ」

「おお、自動で開くのか」

 室内に踏み込むと、暖房のよく効いた空気がまずは彼らを出迎える。よくよく中を見回してみれば、アイドルらしき子も

ちらほらと見え、その数の多さに彼は息を巻いた。

「本当に凄いな」

「プロデューサーさん、あの人」

「ん? 確か」

 春香が多くのスタッフに囲まれて衣装のチェックをしているアイドルを見つけ、彼に耳打ちする。

一際目立つそのスタイルは、彼も充分に知るアイドルの一人だ。


651: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:29:53 ID:6NmjOSSI

「新緑の歌姫、って呼ばれてますよね」

「いつか千早とぶつかる日が来るかもな」

 765の中で近いのは千早、あるいは貴音か。と彼の頭の中が目まぐるしく動く。これだけのアイドルがどういう仕事を得て、

どういう活動をしているかは、彼にしても非常に重要な情報源だ。

「お待たせしました、大変申し訳ありません。社長はただいま席を外しておりまして」

「ああ、なら待たせて頂けますか? 少し早過ぎたかもしれません」

 出てきたのはそれなりに若い女性だが、彼は何となくその地位を察した。

「ここのプロデューサーだろうな」

「え? あんな綺麗な人がですか?」

「何となく、あっちにいるのもそれっぽいな。何人いるのか知らないがうちよりはまともな勤務形態だ」

 彼が視線を送る先にもスタッフに何やら指示を送っている男性が一人、その向かいに空席の机が一つ。

「あそこが彼の席かもしれない」

「本当にプロデューサーしてるんでしょうか」


652: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:31:48 ID:6NmjOSSI

「してるだろう、企画書に彼の名前はあったし」

 今回の企画、最初に提案してきたのは彼。それをCGプロと765プロの間で協議し、企画書は完成した。。

彼の提案とは違った形で。

「今頃、あっちで俺に対して盛大に悪口大会が始まってる気がする」

「悪いのは私達ですよ」

「美希と千早が乗ってきたらかな、まあ俺も多少の無理は通したが」

 今回、こうしてわざわざ彼が出向いたのもその無理を押した事に対する礼もあった。

もちろん本来の目的が第一であることに変わりはないが。

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 独立した応接室に通され、その内装に彼は目を奪われる。

「うわあ……」

 春香も同様なのか、視線は彼と同じくその無数のトロフィーや写真に向けられる。

「今、お茶を持ってこさせますので。社長が到着次第、ご連絡いたします」


653: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:32:50 ID:6NmjOSSI

「凄いですね、これ」

「流石に圧巻の一言だな」

 棚に所狭しと並べられたトロフィー、シンデレラガールズの投票結果。ついこの間まで行われていた記念イベントの概況、

先輩格である彼らをしても圧倒される。

「本当にこんな所で働いてるんだ」

「俺もここにするか」

「プロデューサーさん……」

 冗談とも本気ともつかない彼の態度に春香が呆れ顔になったかと思うと、すぐに表情は固くなった。

「彼も、こっちの方がいいんですよね」

「どうでしょうか?」

 扉の方から返ってきた声に春香が顔を上げる。いるのは、想像と遥かに違う優しげに微笑む女性。

「お待たせしました、少し別件の仕事は入ってしまいまして」

 黄緑色の独特なデザインのスーツを着こなした女性がここの社長と気付くまでに、春香が数瞬を要して理解する。

既に気付いていたのか隣では彼が立ち上がり名刺を差し出していた。


654: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:34:05 ID:6NmjOSSI

「765プロの者です、本日は――」

「はいよく存じております、お掛けになって下さい。我々の方がこの世界では若輩者、どうぞお気楽になさって下さい」

 CGプロ社長、千川ちひろ。10代のプロデューサーが異例中の異例なら20代で芸能事務所の社長を立ち上げた彼女も十分に異例だ。

ある程度の下地はあったとはいえ、これだけの事務所に急成長させた手腕は業界内でも注目の的だ。

「ご用件は……一つしかありませんよね」

「ええ、この企画書の通りに話が進めばと考えておりますが」

 当初、彼から提案された企画は、765プロの楽曲をCGプロのアイドルがカバーするというもの。

大々的な企画ではなく、カバーアルバムを一枚でも出せたらという控えめなものだったがそこに両者の社長が食いついた。

これを一つの切っ掛けにしたいと。

「人員の交流はあるのに、アイドル間の共演は僅か。これでは寂しすぎますから」

「……大丈夫でしょうか」

 願っても無い話であることは確かだが、彼とて懸念材料はいくつもある。今回の企画に選ばれたアイドルはその半数が関係者だ、何も無い訳がない。


655: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:37:09 ID:6NmjOSSI

「もう時間がありません」

 ちひろからの言葉に春香がぴくりと動く。無理もない、彼女のアイドルとしての姿を最後に見届けたのは彼女なのだから。

「私は大丈夫です、それよりも」

「彼も、それは変わりありません。ただ……」

「渋谷凜ですか」

「隠しても仕方がありませんか」

 懸念はそこだ。765のプロデューサーとして、アイドル間のトラブルは避けなければならない。

例え、彼女に時間があろうとなかろうと。

「白菊蛍のライブの件は聞いています、うちでも同様のトラブルはなかった訳じゃない。信じてはいますが、大丈夫でしょうか?」

 一年前、相対した時の彼女に早すぎると言った彼の思いは今も変わっていない。まして、そんな不安定な精神状態であるなら尚更だ。

何かあってからでは、今まで積み重ねてきたものが崩れ落ちかねない。

「これが、私が打てる最善の手です。もちろん、採取的な判断は現場の方にお任せしますが」

「それは私と彼にという事でよろしいでしょうか」

「はい、今回の件は彼に動いてもらうつもりですから」


656: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:38:26 ID:6NmjOSSI

「今、彼女は?」

「別室に、場を設けましょうか?」

 彼が横にいる春香に回答を委ね、春香が首を縦に振った。会わなければ、来た意味がない。

「分かりました、少々お待ちください」

 ちひろが立ち上がり、一礼して部屋を出る。と同時に、プロデューサーが深く息を吸い込みゆっくりと吐き出した。

「何を話す気だ?」

「そんな、特別な話をするとかじゃないです。それに友達なら……私の事も知ってるでしょうから」

 春香とて良い感情を抱かれているとは思っていない、凜にとって春香は極めて微妙な立ち位置にいる。

彼女のアイドルとしての最期の姿を見届け、そして彼のプロデューサーとしての始まりを見届けた。

関係者でありながらその枠の外側から見つめる観察者、言ってしまえば関係がない。

「ただ、会わないでいるのも変かなって」

 あの日、凜が会いに来たのは彼に会う為。それを分かっていながら春香はただCDを受け取っただけで何も言わなかった。

事務所に帰って来てから千早の様子を見て、それは確信に変わった。そんな様子を見ていた彼もまた、何も言う事はなくあの日は過去になった。


657: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:40:01 ID:6NmjOSSI

「失礼します」

 ふいに、馴染み深い声が彼女の耳に届く。今まで共演した事はなかった訳ではない。それでも互いにカメラの前以外で言葉を交わすことはなかった。

今まで交わらなかった線が、ようやく交わる。

「渋谷凜、知ってるよね?」

「うん、天海春香です」

 素っ気なく発せられてはいるが、その声は春香と同じ。緊張感を帯びた、そして不安を抱えた一人の女の子の声だ。

「席を外そう、終わったら読んでくれ」

 プロデューサーサーが席を立つ。少しの間、凜との間に沈黙を挟んで向かい合うが結局は何も言わず立ち去るのみ。

「来たんだ?」

「うん、来ちゃった」


658: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:41:06 ID:6NmjOSSI

愛想はないものの、拒絶されている訳ではない。そう思った春香が笑みを作り手を差し伸べ――。

「ふざけないで」

「……ご、ごめんなさ」

 振り払われた手を見てから、笑みが固まる。彼女に向けられた感情は、春香もよく知るもの。

「どうして……どうして今更になって……」

 彼女自身、抑えきれない何かを吐露するかの様にもがく中で、振り絞る様にそれは発せられた。

「全て壊した癖に!!」


659: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:42:51 ID:6NmjOSSI

「良かったんですか?」

 多少、ぶっきら棒な声が統括の声に届く。彼専用に用意された部屋の扉にもたれかかる様にして、一人の少女がだらしなく背中を預けている。

少し長めのポニーテールにジャージ姿の女っ気もまるでない格好だが、本人は気にした様子もない。

「何がだ?」

 対して、彼も声のトーンは似たようなもの。違うとすれば、そこに多少の気だるさが加わっているくらいか。

「凜もまゆも心の整理が付いていないのにこんな仕事をさせてる事についてです」

「他社のアイドルのカバーをこんな仕事呼ばわりとはうちも名を挙げたな」

「そういう意味じゃありません」

 ルキトレの軽い睨みに彼は軽い両手を挙げるのみ、会いたくもない顔を見に来た彼女としては戦果がそれだけでは面白くない。

「凛ちゃんと天海春香を会わせていいんですか?」

「止めろと言って止まるのか?」

「それを止めるのが貴方の役目です」

 ふいに扉がノックされ、ルキトレが慌てて立ち上がり開く。現れたのは、この企画3人目のアイドル。


660: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:43:50 ID:6NmjOSSI

「お呼びでしょうか」

「まゆちゃん」

 ルキトレの呼びかけに反応もせず、まゆが統括の机の前に立つ。普段の柔らかな笑みも無く、ただ真っ直ぐに視線を彼に向ける。

「話は聞いたな?」

「はい」

「765プロとの合同企画だ、間違ってもミスはするな」

「一つ、お聞きしても宜しいですか」

 簡潔なやり取りを聞きながらルキトレが首を捻る。イメージとしてはもう少し互いに親密な印象だったが、

これではただの仕事のやり取り。常に傍についていると言われているにしては、淡々とし過ぎている。

「この企画の意図か?」

「凛さんはまだ家に?」

「今、天海春香と会っている」

「それは」

 正直、まゆにとって望む展開ではない。様々な可能性を考えても、これはリスクが大きすぎる。


661: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:48:45 ID:6NmjOSSI

「千川の意向だ、俺でもあいつでもない。それは向こうの社長も同意したこと」

「何も起きない保障はありません」

「寧ろ、起きて欲しいんだろう」

 話がいまいち掴めないルキトレは先と違う理由でまた首を捻っていた。渋谷凛と天海春香なら双方の看板アイドル、

共演するのであればこれ以上ない美味しい話に思えるが。

「強引にでも前に進めるという事ですね」

「そう思う者もいる、嫌なら断ればいい」

「本当に終わらせるんですか? 今まで続けてきたものが無駄になります」

「俺の好きにできるなら好きにしている」

 返ってきたのは僅かながら感情を読み取れる程度の、淡々としたもの。これ以上の追求は無用とばかりに、彼は

そのまま言葉を紡ぐ。

「それなら尚のこと、進める人間だけでも進まなければ意味がない。そう千川は考えたんだろう」


662: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:50:09 ID:6NmjOSSI

「貴方は……進めるんですか?」

「さあな」

 終われば進めるのか、それは彼にだけではない。まゆにも凛にも、更に言うなら彼や杏にも降りかかる問題。

誰もが答えを出せずとも、時間は過ぎていく。

「年明けにもレッスンは始まる、それからもう一つ知らせておくことがある」

「何でしょうか」

「今回の企画、LIVEバトルの形式になる」

「は!?」

 ルキトレが思わず立ち上がる、幾らなんでもそれは無理がありすぎる。

それはまゆも同様で、口を開けても言葉が見つからない。共演以上にメリットのない、暴走だ。

「希望を出したのは俺ではない」

「なら一体誰が?」

 ルキトレの問いに、統括はいつも通りの無表情なまま短く返した。

「凛だ」


663: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:53:38 ID:6NmjOSSI

振り絞られた感情の後に残ったのは、沈黙ではなく嘆息だった。

 言葉が見つからない春香の前で、凛は焦点の合わない視線を当てもなく彷徨わせる。

「ずっと追いかけてた、追いかけ続けてきたんだ。デビューするまで頭の片隅に追いやっていた世界に飛び込んで、
 ここからだって思ったら追いかける先は後ろにしかいなくて」

 乾いた笑みと共に、彼女はその場にへたり込んだ。か細い指先が、当てもなく床の上を這い回る。

「それでも進めば何かあるって、そう信じてここまで来た。けど何も変わらなかった、あの子は目覚めない。
 彼はもうこの世界には戻れない、それだけだった」

 時計の針が時を刻む、残酷に狂おしく。

「あの日、顔を合わせたよね? 覚えてる?」

「覚えてる、拾ってくれたよね?」

 一瞬の邂逅、それでも忘れることはなかった一瞬。


664: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:54:35 ID:6NmjOSSI

「私はあの日から一歩も前に進めてないのかな」

「そんなことないよ、頑張ってるの知ってる」

「頑張れば進めるなら、そんなに楽なこともないよね」

「アイドル……辛い?」

 春香の問いに、彼女は何も返さない。這わせていた指を止め、支えにして体を起こし向かい合う。

「確かめたい、どう足掻いても駄目ならやってみるしかないから」

 全ての感情を押し込めて凜が春香と向き合う。これは彼女から、未来への宣戦布告だ。

「勝負してよ、天海春香」


665: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:55:42 ID:6NmjOSSI


「ああもういつもいつも勝手に決めるあの人は!」

「一言、たった一言でも相談してくれれば!」

 その頃、765では未だにプロデューサー二名による愚痴合戦が展開されていた。

見守るアイドル三名は、三者三様でその様をただ見守っているばかりだ。

「律子、今あの人どこにいるんだ?」

「駄目、連絡とろうとしても繋がらない」

「うちにいるんじゃないだろうな」

 彼が携帯を取り出し、アドレス帳の一覧を表示させる。

「凄い数」

「アイドルは全員登録してる、使うのはごく一部だが」

「多いの?」

 千早がその数を見て驚嘆の声を挙げるが、美希はその中身の方に興味津津だ。

「色んな人がいるね」

「ん? まあな、美希だってこんなもんだろ」


666: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 21:59:15 ID:6NmjOSSI

最初に先輩プロデューサー二名の欄で止まるが、すぐに切り替える。業務の邪魔はしたくない、外回りの可能性も捨てきれない。

それなら互いに時間の無駄だ。

「こっちも出るか分からないんだが」

 事務所にいるとはいえ仕事だ、都合よく時間が空いているかどうか彼にも、

「電話に出んわ」

「いや、出ながら言われましても」

 ワンコール、そんなにタイミングが良かったのだろうかと思いつつもこれ幸いにと彼が本題に入る。

「今日、事務所にお客さんとか来てません?」

「お客さんですか? 見てませんけど」

「何か変わった人とか、でも衣装合わせ中ですよね? すみません、仕事中に」

「探してみます」

「無理にしなく――」 

 念を押す暇もなく通話は一方的に切られ、彼は諦めて天を仰いだ。


667: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:00:19 ID:6NmjOSSI

「誰かに繋がったんですか?」

「楓さん、でも知らないって。探してみるって言ってたけど」

「楓さんですか」

 ありすがその名を反芻する。ありすが彼女にどの様なイメージを抱いているかは不明だが、少なくとも周囲は好感触だった。

「楓さんってあの落ち着いた人ですよね?」

「律子、それはそうなんだがあの人の場合はちょっと違うんだよ」

「とっても面白い人なの?」

「美希好みか……いや千早好みかも」

「私ですか?」

「25歳児って言われてるくらいだから」
 
 あの独特の空気感は言葉で説明しようとしても難しい、歌姫と呼ばれる歌唱力は凄まじいがどこか子供っぽい。

「千早と似てるかも」

「私とですか?」


668: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:03:02 ID:6NmjOSSI

「いや、本当に何となくな。しかし手詰まりだな、戻るか」

 打ち合わせをしようにも、双方が企画の全容を把握していないのでは話が進まない。

厄介払いされたのでは疑いたくなる手際のよさに、黙って引き下がるのも彼の性分ではない。

「来たのにもう帰るの?」

「何か起こる前にな、どうせ美希達とは年明けに会う。それに」

「Pさん?」

「この子は置いてく」

「置いて……」

 置いてく、の言葉に何故かありすの双眸が潤む。

「いや、捨ててく訳じゃないんだから。鍛えてやってくれ」

 そう言葉を足して、最後に頭をポンと叩いた。


669: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:05:32 ID:6NmjOSSI

「完全に邪魔者って顔をされたな」

 765プロのプロデューサーとして早数年、これまでも様々なアイドルの顔を見てきた彼もあそこまで露骨に

邪魔者扱いされたのは初めてのこと。他社をふらふらとうろつく訳にもいかず、彼はこの寒い屋上で暇を持て余していた。

「こういう時に貴音とか美希とか恋しくなるな」

 アウェー特有の疎外感に苛まれつつ、煙草に火を付けようとしてすぐに消した。

「すみません、ちょっと暇を持て余してしまいまして」

 現れたアイドルに謝罪しつつ、彼は愛想笑いを作る。彼もプロ、アイドル相手なら緊張もない。

「いえ、探していましたから」

「私を?」

「はい、貴方を」

 意外な返答に彼が目を丸くする、この事務所に顔見知りは今のところ彼だけなのだが。

「高垣楓さんですよね?」

「ええ、他の方に見えますか?」


670: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:06:23 ID:6NmjOSSI

「いえ」

 纏う雰囲気はどこか浮世離れしたもの。打ち解ける取っ掛かりも見出せない彼が言葉を選ぶ前に、彼女の表情がやや引き締められた。

「765プロダクション」

「ええ、その事務所でプロデューサーをしております」

 彼が手探り状態のまま言葉を返す、用件を探ろうにも困ったことに全く心当たりがない。

「先ほど、私の担当のプロデューサーから電話がありました。変わった人は来ていないかと」

「変わった人……それが私だと?」

「寒空の下でため息をついているなら、それは変わった人だと思います」

「確かに」

 言われてみれば返す言葉もない、まして他社だ。とはいえ、

「その担当のプロデューサーが私のことを変わった人だと?」

「はい」

「……そうですか」

 あんな風変わりな過去を生きてきた人間に変わった人扱いされるのか、と嘆きたくなる。

しかし少なくともこれで彼女の用件ははっきりした、言うなれば彼からの伝書鳩だ。


671: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:07:15 ID:6NmjOSSI

「分かりました、連絡を取ってみます」

 今頃、律子と二人で愚痴合戦の最中である事は想像に難くない。戻ってくるのも時間の問題。

それまでに春香と凛の間で片がつくかどうか、あるいは彼を入れての問題となるのかまだ分からない。

「お知り合いですか?」

「仕事上の友人です」

 嘘ではない。元同僚、の言葉を置き換えればこうなるというだけの事。

「それだけではありませんよね」

「それだけです、恐らくスケジュールの――」

「私は鳩です」

「鳩?」

 何の話かだろうかと考える暇もなく、彼女の口は開いた。

「貴方は鍵ですか?」

「鍵?」

「鍵なら私は必要ありません、彼にも」


672: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:08:20 ID:6NmjOSSI

「鍵とは……何の鍵です?」

「檻を開く鍵です」

 言われたところで彼の疑問符は増え続けていく。檻、鍵、二つの言葉とこの状況を考え整理する。

口振りからして檻は彼のこと、であるなら――。

「貴方は鳥ですか?」

「鳩です、ぽっぽっぽ」

「であるなら、私は鍵です」

 少しだけ和らいだ彼女の空気が引き締まった。当然、それを分かった上で彼は敢えて続ける。

「檻の中を入れ替えるのも、可能性としては考えています」

「今いる檻の中の鳥がどうなっても?」


673: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:08:52 ID:6NmjOSSI

「どうなっても」

 まだ踏み込まないと決めていた領域に彼は踏み込まざるを得ないでいた。

というより、彼女に踏み込まされていた。ここで引けば、彼が持っていかれてしまう。

「我々によって必要な力ですから」

 このまま終わらせたくはなかった、それが彼の我侭としても。 

「今日のところは、これ位にしておきましょうか」

「助かります」

 これは彼の本心、25歳ともなればそれ相応の重みを持つ。彼のよく知るアイドルにはない重みを。

「最後に決めるのは、あの人ですから」


674: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:10:26 ID:6NmjOSSI

階下に戻ると、すぐに彼に声が掛かった。

「どこに行ってたんですかプロデューサーさん」

「少し、話は終わったのか?」

「今日のところは、ですけど」

「そうか、やっぱり難しいな」

 今日、顔を合わせただけで問題が解決するような浅い問題ではない。

何より、彼の隣にいる少女はまだ問題を直視できてはいないのだから。

「どうする? このまま帰るか?」

「まだ用があるんですか?」

「会わないままでいいのかって聞いてるんだ」

 最早、時間は残されていない。それは単純に流れた時間の長さではなく、培ってきた絆が彼らとの絆を超えてしまうまでの猶予。


675: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:15:33 ID:6NmjOSSI

「……大丈夫ですよ、年明けには会うんですから」

「屋上でここのアイドルと話したよ、彼が担当しているアイドルと」

「頑張ってるって言ってました?」

「彼をここから連れていくなって言われた、真剣な目で」

「そう、ですか」

 返答に困った春香が逃げ場を求める様に振り返り、そして見つけた。

「春香?」

 それは、一年ぶりの邂逅。

「やっぱり春香か、久しぶり」


676: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:17:33 ID:6NmjOSSI

765P「車を持ってくる、待ってろ」

P「プロデューサーどこ行ったんだ?」

春香「車を持ってくるって」

P「そうか、俺もありすを置いてきてるから乗せてもらっていいか?」

春香「わざわざ戻ってきたの?」

P「LIVEバトル」

春香「あ……」

P「渋谷さんか?」

春香「うん、ごめんね。黙ってて」

P「謝るのは俺の方だ、言い出したのはこっちなんだから」

春香「本当に、プロデューサーなんだね」

P「正真正銘のプロデューサーだ、雑用とは呼ばせねーよ」


677: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:20:41 ID:6NmjOSSI

春香「何か……大人になったね」

P「そうか?」

春香「うん、落ち着いたというか何て言うか」

P「大人ね、まだよく分からないな」

春香「私はこの一年で変われたかな?」

P「……綺麗になった」

春香「え」

P「ほら、早く来ないと助手席取っちまうぞ」

春香「ちょ、ちょっと待って!」


678: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:24:56 ID:6NmjOSSI

美希「着いたの」

ありす「どこですかここ?」

美希「お堀だよ」

ありす「堀?」

美希「うん、堀」

ありす「……」

 と言われても、とありすが押し黙る。鍛えてあげるの! と意気揚揚に美希を先頭に出てきたかと思えば、

着いたのは堀。彼女でなくても反応に困る。

千早「まあ、反応に困るわよね」

 事情を知っている千早はありすに同情の面持ちだ。どんな凄い何かが待っているのかと期待する気持ちも分かるが、

そこは星井美希。一筋縄ではいかない、良くも悪くも。


679: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:26:04 ID:6NmjOSSI

美希「あそこにいるよ、先生」

ありす「……鴨しかいませんが」

美希「だから鴨先生」

ありす「あの、私はもしかして冗談を言われているのでしょうか」

千早「残念だけど多分、本気だと思う」

 困ったありすが判断を千早に仰ぐも、そう答えられては納得するしかない。

美希「何が残念なの?」

ありす「頭が」

美希「先生は偉大なの!」

ありす「鳥は鳥です!」

美希「凄い鳥なの!」

千早「いつでも自然体でいられるって言い方をしてみたらどうかしら?」


680: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:30:09 ID:6NmjOSSI

美希「さすが千早さん」

ありす「美希さんとは大違いです」

 千早の提案にすぐさま乗りかかるのは子供ゆえか尊敬からか。とはいえ、そんな二人の同調はすぐに終わり、喧騒はすぐに訪れる。

美希「連れてきたのは美希!」

ありす「連れてきただけです!」

美希「ぷんぷかぷんぷん!」

ありす「意味が分かりません!」

美希「ありすちゃんにはまだ分からないかな、千早さんなら分かるよね?」

千早「……そうね」

ありす「本当ですか?」

 懐疑的なありすの視線を受け、必死に頭の中でぷんぷかぷんぷんを別の言葉に置き換えようと試みるが、そんな人生初の試みが咄嗟に上手くいく訳もなく。


681: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:35:31 ID:6NmjOSSI

千早「アイドルとしてデビューした頃は、歌が全てだった。歌さえあればほかに何もいらないって」

ありす「……」

千早「今も私にとって歌は大きいけれど、でもそれだけじゃない。それはこんなのどかな時間だったり、仲間と過ごす時間だったり……ってごめんなさい。
   これだと答えになって――」

 出てきたのは千早自身も何を言っているのと自らに突っ込みを入れたくなる言葉の羅列、これで納得される訳が――。

ありす「分かります」

美希「何で千早さんだとそうなの!?」

ありす「私が納得したからいいんです」

美希「美希は納得いってない!」

千早「それにしても、まだ連絡ないわね……プロデューサーまだ帰ってこないのかしら」

 これ幸いにと千早が話題を変える、頭の中では未だにぷんぷかぷんぷんの解釈を巡って凄まじい議論が沸き起こっていたが。

美希「どうする? どこかで遊んじゃう?」

ありす「遊びだったんですか」

千早「そうね……」

 これ以上ここにいると、また二人の間で喧嘩が起こりかねない。ならば、と千早は考える。

自分のテリトリーに二人を引きずりこんでしまえばいい。


682: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:38:17 ID:6NmjOSSI

ありす「カラオケ」

美希「なの?」

千早「三名、一時間で」

ありす「千早さんってカラオケ好きなんですか?」

美希「美希は聞いたことないけど、そういえば春香が行ったって言ってたような」

 慣れた様子で手続きを進める千早を美希が意外そうな面持ちで見つめていた。春香ならともかく、彼女が進んでこういう場所に来るイメージが彼女にはなかった。

千早「私から歌わせて」

 86点!!

ありす「凄い……」

千早「そんな……また……」

美希「千早さんどうしたの? 上手だったよ?」

 採点結果を凝視したまま固まる千早を、美希が不思議そうに見上げる。平均点よりもかなり上、美希が聞いても心地のいい歌声だが当の本人の反応は優れない。

千早「いいわ、そっちがその気なら」


683: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:40:40 ID:6NmjOSSI

92点!! 98点!! 72点!! 87点!!

ありす「高得点ばかり」

美希「でも千早さん満足してないの」

千早「足りない……あの時にあって今ここにないもの……そうよ!」

 自らが求める数字が現れない事に千早は苦悩していた。自身の歌はあの時と変わらない、いやそれ以上と自負している。あの時と違うのは、

千早「臨場感よ」

ありす「採点は機会ですよね?」

美希「美希もそう思うな」

千早「お願い、私に力を」

ありす「マラカス?」

美希「振るの?」

千早「さあ立ち上がって!」

店員「あの、そろそろお時間」

千早「延長で!」

 後にありすは語る。生涯において、決して忘れることはない1時間になったと。


684: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:43:36 ID:6NmjOSSI

P「ありす曰く、ここらしいんですけど」

 Pがメール画面を片手に困惑の表情を浮かべていた、律子にありす達はと訪ねれば出かけたとの返事。

ならばとありすにメールを送れば、返ってきたのがこの場所だった。

765P「カラオケ? 誰の発想だ?」

春香「……千早ちゃんだと思います」

P「千早?」

春香「この前、一緒に行ったことがあって……」

P「何か意味深だな」

 Pが詳しく聞こうと思った矢先、店から出てくる人影が三つ。

千早「やっぱり正解だったわ」

美希「疲れたの……」

ありす「一曲も歌えないカラオケって意味あったんでしょうか」

 晴れ晴れとした顔で先頭を行く千早と、その後を歩くありすと美希。

これだけで、中で何があったか春香は悟った。あの時の完全再現だ。


685: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:51:21 ID:6NmjOSSI

美希「千早さんの単独ライブと変わらないの」

P「何か、春香の心配が当たってそうだ」

春香「ううん、当たった」

美希「ハニー!」

765P「美希! 外でやめろって!」

美希「いいのいいの!」

 振りほどかれようとも美希には関係ない、地獄の1時間を耐え抜いた彼女には待望の清涼剤だ。

春香「千早ちゃんが言い出したの?」

千早「ええ、折角だから」

春香「大変だったでしょ?」
  
ありす「……はい」

春香「……だよね」

 同じ経験を共有した者にしか持てない、一種の連帯感が両者に生まれる。

ありすは今日、初めてまともな765のアイドルに出会えたと思った。


686: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:52:20 ID:6NmjOSSI

千早「次に会うのは年明けね」

P「どうなる事やら」

美希「楽しみにしてるの」

P「こっちこそ」

春香「またね、Pくん」

 互いにエールを交わし、違う道を進む。企画がこうなった以上、次に会う時は完全にライバル。

それでも今は、と彼も素直に応えた。

P「ああ、また」

 帰り道、送っていこうかとの誘いを断って二人は駅までの道をのんびりと歩いていた。

寒風は厳しいが、先まで室内にいたありすにとってはいい気分転換だ。

P「少しは勉強になったか?」

ありす「一つ」

P「一つだけ?」

ありす「変人にならないとトップアイドルってなれないんですね」


687: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:54:03 ID:6NmjOSSI

P「……いやそんなことはないだろ、きっと」

 違う、とは言えず彼は言葉を濁した。何を言ったところで、事務所に帰れば実例がもりだくさんだ。

ありす「それからPさん」

P「ん?」

ありす「どうして私を選んだかの答えをまだ聞いてません」

 痛いところを突かれ彼が足を止める。言うべきか否か迷った末、言えなかったのは自分の弱さ。

それでも、自分だけが逃げ続けるのはもう終わりだ。

P「本番までには決着をつけるから、それまで待ってくれないか?」

ありす「決着ですか?」

P「そう、決着。本当はもうとっくの昔に決まってた勝負なんだけどな。1年間ずっと逃げ回ってたけど、
  俺だけ逃げ回って他の奴には向き合えなんて言えないし」

ありす「それが終わったら教えてくれるんですね?」

P「……約束する」

 それだけを答えて、彼は再び歩き出した。新しい年は、もうすぐそこだ。


688: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:56:22 ID:6NmjOSSI

P「明けたな」

杏「あけおめ」

P「未成年だから休めって言われたけど、いいんだろうか」

杏「これでいいんだよ、正月まで働きたくない」

P「紅白出たくないのか?」

杏「楓さんに任せとけばいいんだよ、似合うし」

P「着物姿は綺麗だった、統括が全体を仕切ってたけど」

杏「で、はい」

P「何だその手」

杏「くれるものがあるでしょ?」

P「くれるもの?」

杏「お年玉」

P「俺より稼いでるのに集るのか?」


689: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:57:26 ID:6NmjOSSI

杏「こういうのは気持ちなんだよ」

P「はい気持ちあげた」

杏「この……」

P「貰う側にも態度ってのがある」

杏「あーんず! だーいすきなおにいちゃんからお年玉もらえたら、とってもはぴはぴ!」

P「なあ、真剣に聞く。何をどう考えたらその行動に結びつくんだ?」

杏「10万は固いと思ったのに」

P「ファンにやれよ」

杏「ファンにやっても同じ反応だよ、鍛えられてるから」

P「お前のファンと友達になれそう」

杏「嫌だよそんなの」

P「よし、着替えろ出るぞ」

杏「マジ?」

P「お年玉、欲しいんだろ?」


690: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 22:58:33 ID:6NmjOSSI

杏「で、どこに行くのさ?」

P「お年玉の一言で外に出ようと決めたお前に驚きだよ」

杏「いいよ、どうせ車だし」

P「二人で外出ってのもなかったからな」

杏「休み、合わなかったし」

P「合わせてもな、たまに仕事先で顔は合わせてたけど」

杏「苗字、合わせないの?」

P「母さんの旧姓は嫌か?」

杏「嫌じゃないけど、何で別々にしたのかなって」

P「だって俺の苗字って業界内だと有名だから、あの事務所って勘繰られるぞ」

杏「いいよそれくらい」

P「俺が嫌なの」

杏「何それ」


691: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:00:11 ID:6NmjOSSI

P「どこに行くか聞かないんだな」

杏「聞いて答えてくれるの?」

P「答える」

杏「……どこ?」

P「俺達が知ってる神社なんて一つしかない」

杏「あの神社、祈っても何にもならなかった」

P「なったろ、プロデューサーとアイドルだ。とんでもない力だ」

杏「それ神社のお陰?」

P「そりゃ色々と思うところはあるけどさ、神様に当り散らしてもなあ」

杏「案外、愚痴くらいなら聞いてくれるかも」

P「愚痴? 妹がアイドルになりました、俺より遥かに売れてます。嬉しいんですけど何か複雑です」

杏「兄がプロデューサーになったはいいけど、ハーレム作ろうとしてます」

P「ハーレム……」

杏「今年は何人増えるんだろうね」

P「増えねえよ!」


692: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:01:21 ID:6NmjOSSI

杏「杏が言うのもなんだけど、地味な神社だよね」

P「そもそも何を祀ってんだろうな」

杏「知らない」

P「だからご利益なかったのか」

杏「自分の名前も知らない相手に願われたって、叶える気しないよね」

P「覚えるか?」

杏「めんどい」

P「今更だよなあ」

杏「何か肝試しみたい」

P「正月なのにこの静けさは不気味だ」

杏「だって目立ちたくないからってわざわざ外れの無名神社に来てたんじゃん、人なんていないよ」

P「昔は所属していたアイドル一緒に来てたから」


693: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:02:10 ID:6NmjOSSI

杏「そんな時代もあったね」

P「あったあった、ほらお賽銭」

杏「くれないの?」

P「お前な」

杏「いいじゃん、杏の分も入れておいてよ」

P「お前の願いなんて知れてるけど」

杏「当ててみなよ」

P「楽したい」

杏「外れ」

P「嘘だろ!?」

杏「何その反応」

P「今年一番驚いた」

杏「面白くないから」

P「笑わせてねえよ、じゃあ何なんだよ?」


694: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:04:23 ID:6NmjOSSI

杏「そっちは?」

P「俺? んなもん給料上がりますようにだ」

杏「嘘」

P「嘘じゃねえよ、これも本当」

杏「いいけどさ、言わない方が叶う気がする」

P「神様の力になんか頼ってたまるか」

杏「それはいいけど、人に頼ることは覚えてね」

P「頼りっぱなしだと思う、割と本気で」

杏「それは結果的に頼ってるってだけ」

P「お賽銭くれたら聞いてやる」

杏「あげる」

P「……冗談だぞ?」

杏「いいよ、別にこれくらい」


695: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:04:56 ID:6NmjOSSI

P「それで気が済むなら」

杏「ん」

P「さて、御神籤でも……」

杏「考えることは同じ、だね」

P「みたいだな、上がってくるけど素直に待つか?」

杏「そんな言い方をするってことは何か考えてるんでしょ?」

P「ちょっとだけな」

まゆ「はあ……寒い……」

 汝の願いを答えよ

まゆ「え?」

 汝の願いを答えよ

まゆ「Pさん?」


696: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:06:02 ID:6NmjOSSI

杏「下手」

P「声優の経験もあるのに……どうしてばれた」

杏「だから下手だって」

まゆ「あの」

P「あ、おめでと。まゆ、歩いてきたのか?」

まゆ「下までタクシーで、それで」

P「じゃあ帰りは乗ってけ、送ってやるから」

杏「そこまでして来る場所?」

P「去年も来たのか?」

まゆ「いえ……去年は」

P「仙台だっけ? 三人とも激動の二年だったよな」

まゆ「……怒らないんですか?」

P「何て怒ればいいんだ?」


697: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:09:34 ID:6NmjOSSI

まゆ「私のせいって言えばいいじゃないですか!」

P「誰より自分を責めてる人間を怒っても何にもならないってもう知ってるから」

まゆ「それでも!!」

P「怒られてどうにかなるのか?」

まゆ「どう……」

P「目が覚めた時、動かないなって思った。声を出してみて、違うなって思った。
  やるせなさはあった、これで終わりかって。医師から話を聞いてもどこか他人事で、
  もしかしたら動くんじゃないかって思ったけどやっぱり動かなかった」

杏「……」

P「誰のせいにする気も起きなかったよ、負けた俺が悪い」

杏「天海春香のせいとは思わなかったの?」

P「話が通ってて俺が受かる前提だったのに負けたんだ。もうそんなの納得するしかない」

杏「できるの?」

P「あいつは太陽なんだよ。絶対に手の届かない太陽、伸ばしたところで俺みたいなのは落っこちる。
  で、実際に落っこちた」


698: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:13:18 ID:6NmjOSSI

杏「まだ落ちてない」

P「落ちちゃった、ごめんな」

杏「車、戻ってる。忘れないでね」

P「忘れてないって、ちゃんとやるから」

まゆ「杏さん、来たんですね」

P「お年玉に釣られてな、家族は?」

まゆ「家に」

P「そっか……最後に会ったのはもうずっと前だな」

まゆ「どうしてここに来ようと思ったんですか?」

P「まゆが来るかなって思って」

まゆ「……嘘が上手になりましたね」

P「LIVEバトル、聞いたか?」

まゆ「凛さんの希望と聞いてます」

P「曲がりなりにも決着をつけたいんだろうな、形にしないと納得できないから」


699: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:14:55 ID:6NmjOSSI

まゆ「Pさんは勝てると思いますか?」

P「いや、勝てなくていいと思う。まだ」

まゆ「まだ?」

P「それはありすも同じ、慌てなくていいんだ。時間はあるんだから」

まゆ「どうして――」

P「何でアイドルしようと思った?」

まゆ「……」

P「モデルやってたんだよな? そっちを続けようとは思わなかったのか?」

まゆ「いるんです」

P「何が?」

まゆ「Pさんが、ずっと私の中に」

P「迷わなかったのか?」

まゆ「迷いました、迷いましたけど」


700: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:17:11 ID:6NmjOSSI

P「何か決め手でもあったのか?」

まゆ「迷うならやれと言われまして」

P「……統括?」

まゆ「はい」

P「あの人も分からないな」

まゆ「この前、言ってましたよね。壁だと」

P「まゆにとっての統括って話か?」

まゆ「そう見えますか?」

P「見えるって言うか……んーと、まずまゆは一途で可愛い」

まゆ「かわっ!?」

P「驚くなよ、そんで不器用」

まゆ「料理とかもできます」

P「そういう事じゃないよ」

まゆ「……何が言いたいんですか?」

P「だから、俺に何かあったところでそう簡単に好きな人を変えられない。そいつがどんな馬鹿でも」


701: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:24:28 ID:6NmjOSSI

まゆ「馬鹿じゃありません」

P「ほら」

まゆ「そうやって……すぐにからかうんですから」

P「だから統括に目移りしたって聞いてもあんまり信じてなかった、でも事実でもいいと思ってた。
  そこまで変ったんなら、それもいいかなって。でも、そのまんまだった。何にも変わってない、いたのは俺がよく知ってる佐久間まゆだった」

まゆ「変わりましたよ」

P「でもそれは佐久間まゆとしてだ」

まゆ「どうして、ここに来る気になったんですか? 抱えなくてもいい問題に自ら飛び込んで苦しんで……それで答えが出るんですか?」

P「違う、逃げたんだ」

まゆ「逃げた?」

P「見たくなかった、だから逃げた。ここは俺にとってただの逃げ場だったんだよ、だから杏やまゆがいた事も知らなくて驚いて……顔を合わせずらかった」

まゆ「そうは見えません、入って立派に」

P「がむしゃらに進んだ、でもそれはあそこにいるよりマシだって自分に言い聞かせたからってだけだ」

まゆ「どうしてそんなに自分を卑下するんですか、そんなの聞きたくありません」

P「お前は壁越しでも俺を見続けただろう、俺はそれもできなかったんだよ」


702: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:28:32 ID:6NmjOSSI

まゆ「Pさん、あの……もしかして」

P「ありすに俺の歌を聞かせた」

まゆ「それはっ」

P「託す訳じゃない、代わりになってくれとも思ってない。けど、そうでもしないときっと春香は進もうとは思わないから」

まゆ「……私が示します」

P「まゆ?」

まゆ「言って下さい、彼女に」

P「いいのか?」

まゆ「Pさんはやっぱり意地悪ですね」

P「はは、治らないかな」

まゆ「Pさんはプロデューサーですから、もっと世界を広げて下さい。たくさんのアイドルを見て、たくさんの人と出会って、たくさんの夢を知って」

P「知って……どうするんだ?」

まゆ「そして最後に、まゆを見てくれたらそれでいいですから」


703: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:31:26 ID:6NmjOSSI

杏「お帰り」

P「ほい、約束の。まゆもやるよ」

杏「ありがと」

まゆ「まゆにもですか?」

杏「……ふーんって!」

P「何だ?」

杏「これ仕事場への地図じゃん!」

P「あ、間違えた」


704: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:38:59 ID:6NmjOSSI

マストレ「さて、また年始から凄い仕事だな」

P「千早がarcadia、美希がedeNってもう本気ですよね、こっちがカバーなんだからあっちもカバーするのかと思ってたんですが。
  何でよりによって200万も売った曲を持ってくるのかと」

マストレ「天海春香はまだ未定か?」

P「特に何も、別に教えてくれてもくれなくてもいいんです。あっちが好きに知らせてきただけですから」

マストレ「勝つ気も無いのだろう?」

P「勝たせてくれるんですか?」」

マストレ「少なくとも、あの三人はそう思っているようだ」

P「……らしいと言えばらしいですね」

マストレ「別にこちらを応援しろとは言わないが」

P「しますよ、プロデューサーなんですから」

ルキトレ「あ、いた!」

P「いたって何だよ、レッスンの邪魔はしないから安心しろ」


705: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:42:02 ID:6NmjOSSI

ルキトレ「身体は?」

P「復帰してから正月休みまで貰ったんだ、働ける」

ルキトレ「無理しちゃ、駄目だよ」

P「あんなのがそんな簡単に起こってたまるか、大丈夫だ。レッスン頼むな」

ルキトレ「あ……」

マストレ「追いかけたいか?」

ルキトレ「今はまだ、追いつけないから。レッスン手伝ってくるね」

マストレ「……どいつもこいつも」


706: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:50:12 ID:6NmjOSSI

凛「好調みたいだね」

まゆ「負ける訳にはいきませんから」

凛「あんまり拘るタイプには見えないけど、違うんだ。意外」

まゆ「連敗は許されません」

凛「連敗? 一度は負けたの?」

まゆ「ええ、ですから二度目は許されないんです」

凛「それは誰との勝負?」

まゆ「春香さんですよ」

凛「私は違うんだ?」

まゆ「違います」

凛「言いきられちゃった、今の私は眼中にないってこと?」

まゆ「目的が違いますから」

トレ「確かに変わった、少しだけど。でも確かな一歩」

凛「トレーナーさん」


707: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/24(金) 23:54:19 ID:6NmjOSSI

トレ「凜ちゃんはどう? 歌ってみて、レッスンで何度か歌った事はあるけど。ステージ上はやっぱり違うでしょう?」

凛「どうなんだろう、他人の歌は初めてだから」

トレ「やるからには勝てるように」

凛「天海春香は前を見て進み続けてきた。それが正しいのか、違うのか。私が見てるのは本当に過去なのか、それは間違ってるのか。
  これが一番はっきりするから」

トレ「……正解なんて、一つじゃないよ」

凛「でも、きっと何かの答えはあると思う」

ありす「凜さん」

凛「おはよ」

トレ「おはよう、ありすちゃんもう少し遅くてもよかったんだよ?」

ありす「いえ、一つお願いがあるんです」

トレ「レッスンは今日はSTARTよね?」

ありす「参考資料があるんです」


708: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:00:27 ID:u3tAqZLc

トレ「参考資料?」

ありす「はい、これです」

トレ「CD……STARTなら事務所で用意したよ?」

ありす「天海春香のではありません、それはカバーです」

凛「他の人がカバーしたのを聞いて参考にしようって思ったの?」

トレ「カバーなんて……」

まゆ「どなたのですか?」

ありす「それは……秘密です」

凛「アマチュア?」

ありす「言ってしまえばそうです、ですが私と似ていますので」

トレ「それなら参考になるかも、聞いてみましょうか」

ありす「お願いします」

トレ「一曲しか入ってないけど、これでいいの?」

ありす「はい」


709: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:02:02 ID:u3tAqZLc

凛「何か」

まゆ「元の曲とまるで別物」

ありす「ここからです」

トレ「男性?」

凛「これっ!?」

まゆ「嘘……」

トレ「二人ともどうしたの?」

凛「いえ……まゆ」

まゆ「間違いありません、ありすちゃんこれをどこで?」

ありす「Pさんからです、参考にしろと」

トレ「彼から?」

凛「どういうこと?」


710: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:04:37 ID:u3tAqZLc

まゆ「まゆに聞かれても、何て言えばいいのか」

凛「でもこれ間違いないよ」

まゆ「……託す相手は、まゆではなかったということですね」

凛「悔しい?」

まゆ「いえ、言いましたから。最後に見てくれたらそれでいいと。それでも、あの子にも負ける訳にはいかなくなりました」

凛「気付かなかった、今まであの子の歌を聞いた事がなかったから。でも丁度いい、託すって言うのならこれで二人まとめて相手にできる」

ありす「知っているんですか?」

凛「知ってたら何?」

ありす「いえ」

凛「いいな、純粋に目指せるんだ」

ありす「目指している訳ではありません」

凛「参考にしたいから持ってきたんでしょ?」

ありす「はい」


711: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:05:17 ID:u3tAqZLc

凛「ありがと」

ありす「どうして凜さんがお礼を言うんですか?」

凛「ちょっとね、これはプロデューサーがいつ歌った曲なの?」

ありす「……知ってるんですか」

凛「まあね」

ありす「最後だと言っていました、アイドルとして最後だと」

まゆ「あの時」

凛「心当たりあるんだ」

まゆ「恐らく、最後のオーディションの時かと」

凛「本当に最後だ、残ってたんだ」

まゆ「貴方が紡ぐんですか? 過去と未来を」

ありす「私は私の歌しか歌えません、これはあくまで参考です。比べられない為に」

トレ「とりあえず、一通り歌って見ましょうか」

ありす「宜しくお願いします」


712: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:07:13 ID:u3tAqZLc

美希「春香」

春香「美希、珍しいね。屋上に来るなんて」

美希「曲、決めてないの?」

春香「……どうしよかなって」

美希「何でもいいんじゃないの? それとも本番まで黙っとく?」

春香「STARTは、元々は私の曲じゃない」

美希「だから?」

春香「私が歌ってもいいのかなって、本当はありすちゃんに歌って欲しいのかもしれない」

美希「本気で思ってる? だったら失礼だね、Pくんにもありすちゃんにも」

春香「だって! 私がいるからPくんは」

美希「逃げたね」

春香「っ!」


713: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:08:03 ID:u3tAqZLc

美希「今更なの、1年って変わるには充分だよ。春香も美希も変わった、Pくんも変わった」

春香「それは、そうだけど」

美希「春香に勝ちたいのは美希も同じ」

春香「何を言って……IA大賞は」

美希「出なかったよね」

春香「出ても同じだったよ」

美希「勝ったら、ハニーに言うから」

春香「言うって、美希」

美希「そんな所にいる春香はどう思われるんだろうね、笑われちゃうかもね。あはっ!」

春香「私は……」

美希「明日、待ってるから。楽しみにしてる」

千早「美希」

美希「千早さん、隠れてなくてもよかったのに」

千早「負けないから」

美希「そうこなくっちゃ、なの」


714: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:10:07 ID:u3tAqZLc

千枝「ありすちゃんおは……起きてたんだ」

ありす「うん」

千枝「緊張してる?」

ありす「してるけど、歌う事じゃなくて」

千枝「じゃなくて?」

ありす「何だろう、よく分からない」

千枝「見てるよ、ちゃんとありすちゃんに入れるね」

ありす「頑張るから」


715: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:13:48 ID:u3tAqZLc

凛「行ってくるね、どんな結果になっても報告に来るから」

統括「凛」

凛「統括、来てたんだ」

統括「行け」

凛「言われなくても行くって」

統括「……すまない」

凛「……何それ」

統括「プロデューサーが俺でなければ、ここまでお前は」

凛「だから、ここまで来れた」

統括「俺もだ」

凛「そう、なら少しはお似合いなのかもね」

統括「寝言は寝て言え」

凛「いってきます」


716: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:15:44 ID:u3tAqZLc

杏「何か決めたって顔をしてるね」

P「分かるか?」

杏「まあ、まゆはこっちに来るの?」

P「現地に一緒に行く事になってる」

杏「生放送なんて凄い企画になったね」

P「765の力だな」

杏「投票は視聴者を対象に投票形式、ここまで母数を大きくしたらとんでもない差になりそうだね」

P「操作」

杏「できるの?」

P「誰がするか、おっと来たな」

杏「出る」

まゆ「おはよ――」

杏「おはよ、またお洒落だね」


717: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:16:47 ID:u3tAqZLc

まゆ「……」

杏「何?」

まゆ「雨でしょうか」

杏「言う様になったね、着替え中。だから仕方なく」

まゆ「でしたら」

杏「入れると思う?」

まゆ「はい!」

杏「今日のあれ、まゆには絶対に入れない」

まゆ「当てにしてません」

杏「この……ちょっと近づけたからって」

P「そこ、二年前に戻ってるぞ」

杏「千枝なら妥協するけどあれとか嫌」

P「何の話だよ!!」


718: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:18:19 ID:u3tAqZLc

まゆ「行ってきます」

杏「はいはい、とっとと行って」

P「昼飯は冷蔵庫」

杏「分かってる」

まゆ「夕飯はまゆが作りますね」

杏「え」

P「作るか?」

杏「無理」

P「だとさ」

まゆ「楽しみにしてて下さいね」

杏「ある意味」

P「じゃあな」

杏「すっかり元気になって……まあ、悪くない。悪くないよね?」


719: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:19:42 ID:u3tAqZLc

765P「曲順は番組の冒頭でくじで決める」

P「セットは統一、どこまでも公平にですか」

765P「それと春香だが、すまない。直前まで公表しない事になった」

P「それならそれで、別に対策とかありませんから」

765P「というか、本人が決めあぐねてる」

P「順番、遅らせますか? 別に最初から決めても構いませんよ」

千早「いえ、予定通りさせて下さい」

P「千早」

千早「でないと意味がありませんから」

P「いいのか?」

千早「一番手でも最後でも同じです」

P「あくまで真剣勝負か?」

千早「歌に妥協はしたくありません」


720: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:21:41 ID:u3tAqZLc

P「それで春香がどうなったとしても?」

千早「勝つ為に来ましたから」

P「……分かった」

千早「私は春香の様にはできませんから、できるのは歌う事だけです」

P「……何だかんだで、春香の為だったりするあたりは千早か」

スタッフ「すいません!」

765P「はい!」

凛「投票は全員の歌が終わってから10分間、賞品も無いあくまで真剣勝負」

ありす「……」

凛「集中? 緊張?」

ありす「順番も決まってません」


721: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:23:10 ID:u3tAqZLc

凛「そう、まゆはどうしたのかな」

まゆ「いますよ」

凛「どこ行ってたの?」

まゆ「挨拶に、まゆだけ面識がありませんでしたから」

凛「会ったの?」

ありす「少しですが、よく知ってますね」

まゆ「先ほどお聞きしましたから」

凛「……ちょっと行ってくる」

美希「凜ちゃんだっけ? あふぅ」

凛「一人?」

美希「みーんなどこかに行っちゃったよ、美希はここでお昼寝」


722: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:25:36 ID:u3tAqZLc

凛「ひ、昼寝?」

美希「本番までまだ少しあるよ?」

凛「よくこんな状況で」

美希「春香なら屋上なんじゃないかな」

凛「屋上?」

美希「最近、よく行くから」

凛「ありがと」

美希「ううん、春香をお願いします。なの」

凛「は?」

美希「凜ちゃんみたいなタイプが一番かなって、美希じゃ駄目みたいだから」

凛「駄目って、私は別に」

美希「負けないよ」

凛「私も、負ける気ありません」


723: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:26:42 ID:u3tAqZLc

765P「少し時間が余ったな」

P「煙草でも行きます? 時間になったら連絡しますから」

765P「なあ」

P「何です?」

765P「戻ってくる気はないか」

P「また何を」

765P「俺のせいか?」

P「それこそ見当外れもいいところです」

765P「本当にそうか?」

P「ちょっと、外の空気を吸ってきます」

765P「……逃げられたか、そればっかりだな俺は」

P「やれやれ、あの人も全く」


724: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:29:15 ID:u3tAqZLc

春香「あ……」

P「よう、気が合うな。気分転換か?」

春香「Pくんは?」

P「気分転換、かな。でも丁度よかった」

春香「曲……決められないよ」

P「直前までに決めればいいさ、何を歌ったってファンは喜ぶ」

春香「どうしてSTARTなの?」

P「俺の終わりで、春香の始まりの歌。それじゃ駄目か?」

春香「私が奪った歌」

凛「……天海春香とプロデューサー?」

P「それはもう1年前に通り過ぎた道だ、忘れたのか?」

春香「忘れてない! 忘れてないけど」


725: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:30:33 ID:u3tAqZLc

P「ごめん、逃げて。本当は迷ってたんだ、このままCGプロに行ってしまっていいのかって、ここにいる未来もあるんじゃないかって。
  それでも俺は逃げた、見たくないって思っちゃったから」

春香「私のせいだよね」

P「眩しくなったんだ、それは春香だけじゃない。千早が、美希が、皆が眩しかった。成り行きで入った場所が、いつしか眩しすぎて」

春香「それはプロデューサーや律子さんや小鳥さんや社長や……Pくんがいたから、頑張れたんだよ」

P「ありがとう、そう思ってくれてるなら嬉しい」

春香「戻ってくるつもりは……ないの?」

P「上手くいくわけないと思ってた」

春香「シンデレラガールズが?」

P「100名以上のアイドル、社長はほとんど素人。手探りなまま何とか1年持っただけ、そんな印象だった。だから逃げ場には丁度いいなって思った。
  だけど入ってみたら、凄い輝いてた。笑っちゃうよ、眩しくて逃げてきたのに逃げた先も眩しくて……眩しすぎて、慣れちゃったよ」

春香「本当に?」

P「色んな思いがある、前向きだったり後ろ向きだったり。でもそれでいいんだって思えた、いつも前を向いていなくていい。いつも笑ってなくてもいい。
  それでも最後には皆が笑って、明日へ向かって進んでいける。ずっと前から分かってた、分からないふりして逃げて、でも思い知った」


726: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:33:11 ID:u3tAqZLc

凛「……」

P「俺はアイドルが大好きなんだ。ステージ上で輝いて、失敗して落ち込んで、レッスンで汗を流して、懸命に夢を届けようとするその姿が」

春香「Pくん、私は――」

P「歌ってくれたのが春香でよかった、春香だから俺は受け止められた。太陽みたいで、泣き虫で、転んだり跳ねた。そんな春香だから俺は……」
アイドルをまた好きになれた」

凛「……!!」

P「好きに歌えって、春香が泣いてたらあいつだって心配する。起きた時に笑って迎えよう、それが俺達が進んできた道の証になる」

春香「Pくん、あの、あのね」

P「泣くなよ、アイドルなんだから歌ってこい」

春香「……頑張るから」

P「へいへい」

凛「青春をありがとう」

P「……扉に隠れてたのか」

凛「いいもの見せてもらった」


727: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:34:34 ID:u3tAqZLc

P「本当にいい性格してるな」

凛「何あの半端な告白」

P「別にそういう告白をする気なんてないっての」

凛「付き合える見込みがないからこっちに逃げて女探ししてたの?」

P「何とも悪意のある言い方だなおい、統括に言うぞ」

凛「いいよ」

P「この事務所のアイドルは本当に……」

凛「まあいいや、お互い頑張ろうね」

P「もう時間だろ、さっさと行け」


728: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:35:18 ID:u3tAqZLc

凛「勝ったら一つ言う事を聞いてよ」

P「勝ったらな」

凛「そうだね、プロデュースして欲しいな」

P「俺に?」

凛「アイドルはいいよ、何か可哀想だし」

P「可哀想……」

凛「だから代わりに歌うよ。二人合わせればもっと届く、それにさっきの言葉は私も共感したから」

P「さっきって?」

凛「私もアイドルは大好きだから、じゃあ下で待ってる」

P「……白菊さんの時は泣きそうな顔してたくせに」


729: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:36:50 ID:u3tAqZLc

765P「戻ってきたか」

P「今からですよね?」

765P「何か顔が赤いぞ、どうした?」

P「いえ、ちょっと色々と」

765P「まあいいが、抽選だ」

美希「1番!」

P「げ!」

765P「一番手だからって委縮するタイプじゃないぞ」

P「よく知ってますよ」

千早「2番です」

P「固まってくれたのはラッキーか……次は渋谷さん引いてしまえ」

ありす「3番です」

P「何でお前は妙な所で」

765P「……変な念を送るからだ」


730: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:38:52 ID:u3tAqZLc

まゆ「4番」

凛「5番」

P「うわ、3連発」

765P「自動的に春香は最後か」

P「ちょっと、確認してきますね」

美希「1番だよハニー!」

765P「それは順番であって順位じゃないからな」

美希「決まった様なものなの」

春香「美希、それだと私がドベって事になっちゃうんだけど」

美希「違うの?」

春香「逆にしてあげる!」


731: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:39:54 ID:u3tAqZLc

千早「私は5位ってこと?」

春香「千早ちゃん……意地悪」

美希「そういえば春香、凜ちゃんに会った?」

春香「会ってないけど、私に会いに来たとか?」

美希「屋上にいるって案内したの、行き違いになっちゃったのかなあ」

春香「……あ」

765P「そういえば……Pも外の空気を吸ってくるとかなんとか」

美希「美希、もしかして酷い事しちゃった?」

凛「そうだね、なかなかいい青春だった」


732: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:40:45 ID:u3tAqZLc

春香「あれはそんなのじゃないから!」

凛「プロデューサーもただの男だって分かっただけ収穫かな、ありがとう。ちょっと吹っ切れた」

春香「あ、あははははは」

まゆ「ただの男ではありません、凄い人なんです」

千早「そうね、だから私達も応えないと」

765P「もう一人の子はどうしたんだ?」

凛「さっきまでいたのに、どこだろ?」


733: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:42:07 ID:u3tAqZLc

ありす「Pさん」

P「ありす」

ありす「直前まで担当アイドルに一声も掛けないなんていい度胸です」

P「忙しかったんだよ、3番手だな」

ありす「凛さんとまゆさん、Pさんの事を知っているようですが」

P「聞かせたのか?」

ありす「唖然としてました」

P「唖然ね、あの二人は直に聞いたことがあるってのに」

ありす「直にですか」

P「まあ、一人はもう古い付き合いだから」

ありす「だからこの三人なんですか?」

P「俺の意向はありすだけ」


734: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:42:49 ID:u3tAqZLc

ありす「……それで、教えてくれるんですか?」

P「もう俺は歌えないって話はしたよな?」

ありす「しました」

P「で、実はありす以外の5人は知ってたりする。とっくの昔に」

ありす「一人だけ仲間外れですか」

P「俺が自分からアイドルだったって言ったのもありすだけだよ」

ありす「そういう言い方は、狡いです」

P「俺の性格なんてもう知り尽くしてるだろ?」

ありす「1年で全てが知れる程度の人にここまでついていこうなんて思いません」

P「765からこっちに来て……実はあんまりやる気なかった、来た理由も来た理由だったから」

ありす「何ですか、誰かに振られて逃げてきたんですか?」

P「……ゲームの主役にそういう奴がいるのか?」

ありす「凛さんが言ってました、プロデューサーもただの男だったって」


735: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:43:26 ID:u3tAqZLc

P「俺は最初からただの情けない男だよ」

ありす「それは知ってます」

P「泣かされそう」

ありす「泣くのは結果が出てからです」

P「だからプロデューサーとしてやれるかどうかなんて未知数だったし、通用するとは思ってなかった」

ありす「してますよ」

P「加蓮がいて奈緒がいて、幸子がいて楓さんがいて、そんな奇跡の積み重ねで何とか綱渡りしてた。
  綱渡りしながら何とかこらえてたらある日、隣に綱渡りしてるのを見つけた」

ありす「……私ですか?」

P「他にいるか?」

ありす「そんな馬鹿みたいなことする趣味はありません」

P「名前で呼ぶな、馴れ馴れしくするな。空き時間はミステリーかゲームに没頭、音楽の勉強の為であってアイドルそのものに
  さして興味はないと公言。この上ない綱渡りだったと思うが」

ありす「……」

P「こいつ落ちたら俺も落ちようかなって思って、あの日に誘ったんだ。運命を他人任せにした記念すべき瞬間」


736: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:44:12 ID:u3tAqZLc

ありす「どんな記念ですか!」

P「だから話してみた、どんな反応するかなって思って」

ありす「あの無駄にシリアスな語りは嘘だったんですか?」

P「あれもあれで本当、ありすが落ちたら落ちようって決めて吹っ切れてたから言えた。
  諦めきれないけど、でも一人で進むにも限界だったから。道連れにしてやろうかと」

ありす「色々な意味を込めて言います、大概な人ですね」

P「どうも」

ありす「それでよくここまで続きましたね」

P「だってそんなイメージ持ってたのを連れ回したら全てついてきて、ついには待てますかときた」

ありす「どんな気持ちで聞いてました?」

P「いつ落ちるのかなって」

ありす「今すぐ落ちて下さい」

P「ありすより先に落ちるのは嫌だな」

ありす「それだけで続けられたんですか? そこまで追い詰められてた人が」


737: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:45:41 ID:u3tAqZLc

P「落ちないから」

ありす「落ちましょうか?」

P「俺より先には落ちるのは無理だろ?」

ありす「足を引っ張りますから」

P「お前な」

ありす「嘘ですよ。多分、そんな事をしたところで千枝が邪魔してくるだけです」

P「千枝を何だと思ってんだよ」

ありす「仲間です」

P「……だから落ちないか」

ありす「私が綱渡りをしていたのは認めます、ですがPさんは違います」

P「俺の方が先に綱の上にいたと思うが」

ありす「私がいるのを見つけて、わざわざ隣の綱の上に乗ってきただけです」

P「そんなの変人にも程がある」


738: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:46:17 ID:u3tAqZLc

ありす「自覚してなかったんですか?」

P「そんな悲しい自覚はしたくない」

ありす「本当に情けない人は綱渡りしながら人の問題に頭から突っ込んでいきません。綱から綱へと飛び移りながら落ちたい落ちたい言ってる人がいて誰が本気にするんですか」

P「落ちたいからやってるだけかも」

ありす「その人は誰かの前で落ちるような真似はしません、落ちるなら誰もいない所で落ちていく人です」

P「買い被りすぎだ」

ありす「Pさんのこれまでなんて知りません、知ってるのはこの一年だけです。でも、この一年は誰よりも見てきました。見てきたから言えます」

P「ありす、時間だ」

ありす「Pさんが誰よりもこの世界に夢を見ているから、私も隣で夢を見ていられるんです」

P「……そんな必死になるな、今からステージに立つんだぞ?」

ありす「心配しないでください、仕事はきちんとします」

P「大きくなったな、たった一年なのに」

ありす「当然です、誰が育てたと思ってるんですか」

P「本当に言う様になったな。いってこい、ありす」

ありす「いってきます、Pさん」


739: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:47:34 ID:u3tAqZLc

美希「美希の聞いてた?」

P「聞こえてた、千早もかっこいいな」

美希「Pくん」

P「言った」

美希「……そっか」

P「そうだよ」

美希「男の子だもんね」

P「そうだよ優しい男の子だ」

美希「優しいだけじゃ駄目なの」

P「駄目でいいんだよ」

美希「美希は諦めないから」

P「俺は諦めた訳じゃないよ、気づいただけだ」


740: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:48:36 ID:u3tAqZLc

美希「強がり」

P「ここで強がれるほど大人じゃないよ」

美希「どうめいも今日で終わりだね」

P「同盟? ああ、あったなそんなの」

美希「美希が勝つのをそこで黙って見てればいいの!」

P「ふられたら言えよ、おにぎり作ってやるから」

美希「あっかんべー!」

千早「何を話してたの?」

P「春香はあっちだぞ?」

千早「感想を」

P「いつもどおり、いつもどおり過ぎて笑ったよ」

千早「……ごめんなさい」

P「それは前も聞いた、誰も気にしてない、伊織や貴音が何か言ったのか?」


741: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:50:13 ID:u3tAqZLc

千早「いえ……」

P「春香は強くもないが千早の思うほど弱くもなかった、辛かっただろうけどさ」

千早「辛かったのは、プロデューサーも同じはずです」

P「最初に俺を事務所で見た時の春香の反応を見れば誰だって思う。現にすぐに問い詰められて事情が発覚して、大変だったよなあ」

千早「私は邪魔だと言いました」

P「実際、邪魔だったよ」

千早「あの時の私は――」

P「妹がいるって話を前にしたよな?」

千早「え、ええ」

P「アイドルになってたよ」

千早「アイドル……?」

P「そう、嬉しいやら寂しいやら。何か変わってないけど、変わってた」

千早「もしかして事務所も」

P「同じ、苗字が違うからばれてないけど。いや、気づいているのが一人いたな」

千早「今は?」


742: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:51:45 ID:u3tAqZLc

P「一緒に住んでるよ、兄妹だから」

千早「……そう」

P「悪かった、過去にこだわるななんて偉そうに。やっぱり家族っていいもんだな」

千早「何か、喧嘩してばかりだったわね」

P「言ってなかったけど、最初に春香に会った時に言われたんだ。千早に歌が似てるって」

千早「春香から見れば似たもの同士ってこと?」

P「かもな、違うと思うんだけどなあ」

千早「準備、できたようね」

P「ここからが俺達の――」

ありす「STARTです」


743: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:52:56 ID:u3tAqZLc

765P「この曲調」

まゆ「Pさんの……」

凛「へえ」

美希「こんな曲だっけ?」

千早「歌うの春香のSTARTよね? 予定変更?」

春香「……この子」

P「最初からそのつもりだった、か」

美希「何か、千早さん……ううん違う、でも」

凛「まゆ」

まゆ「……Pさんです」

凛「本番でいきなり変えてくるなんてね、流れを変えてくれたのは感謝だけど」

まゆ「負けられない理由が増えました」

凛「なら、踏ん張りどころだね」


744: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:54:44 ID:u3tAqZLc

スタッフ「あの」

P「はい?」

スタッフ「視聴者からのメールが番組にきているんですが、その中に貴方の名前が入ったものが」

P「私の?」

スタッフ「懐かしいとか、また聞けて嬉しいとか」

P「……見せてもらえますか?」

スタッフ「こちらです」

千早「本当にたくさん……懐かしくて涙が出てきました、また歌ってくれる日を待ってます。大好きなアイドルが頭に浮かびました、どこで何してるんだろうなあ。
   彼がいたから私は頑張れました。まだ応援してます、どこにいるか探してもらえませんか?」

P「どうして……この曲はあそこにいた人しか知らないはず」

千早「分かるのよ、本当に応援していたからこそ」

P「……何だよもう……本当に……」

 その一歩がこの今へあの未来になる

P「俺の一歩も無駄じゃなかったのかもな」


745: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:57:39 ID:u3tAqZLc

ありす「ふう……」

まゆ「どうしてその曲にしようと思ったんですか?」

ありす「Pさんが渡ってきた綱ですから」

まゆ「つな?」

ありす「一緒に歩きたいと思いました、それだけです」

P「ありす」

ありす「歌いましたよ」

P「ああ、聞いてた」

ありす「それだけで――」

美希「わ」

凛「抱きしめた……」

P「ここに来てよかった、ありすでよかった。ありがとう、いい歌だった」


746: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:58:20 ID:u3tAqZLc

ありす「え、えっとP,Pさん、ここでそんなあの」

P「ん? あ、悪い」

ありす「別に悪くありませんけど! もっと流れととタイミングと時間を考えてですね」

美希「ほとんど同じなの」

765P「美希、そこは突っ込んでやるな」

凛「へえ、今度は年下にするんだ?」

P「待て、何だその目は」

まゆ「年下でも小学生はいけませんよぉ、Pさぁん?」

P「そんな意味は込めてない! ほら出番だろ、行ってこいって」

まゆ「見てますから、見ていて下さいね」

凛「壁越しに?」


747: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:59:06 ID:u3tAqZLc

まゆ「結果は一緒に報告に行きましょうね、渋谷さん」

凛「望むところ、私がまゆより上だったって横断幕掲げてもらうから」

P「嫌だそんな事務所」

美希「楽しそうだね」

765P「戻ってこないなんて、本当にもう余計なお世話でしかないんだろうな」

美希「寂しい?」

765P「ま、少しはな」

美希「ハニーには美希がいるから大丈夫!」

P「ほら! いい歳したおっさんが中学生をたぶらかしてるぞ!」

765P「こっちを巻き込もうとするな!!」


748: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 00:59:55 ID:u3tAqZLc

凛「歌えたよ」

P「難しい歌だったな」

凛「……魔法使いだと思ってたのかもしれない」

P「誰が?」

凛「プロデューサーが」

P「何の魔法だよ」

凛「何でも知ってて、何でもできるのに何もしない。だから苛立ってたのかも」

P「違うってばれたか」

凛「ただの男だった、何か一生懸命でどこか抜けててどっかの誰かに似てるただのプロデューサー」


749: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 01:00:29 ID:u3tAqZLc

P「統括のこと言ってるのか?」

凛「聞いてたかな」

P「絶対に聞いてる」

凛「うん、私もそう思う」

P「……まあ結局、憧れは憧れなんだよな」

凛「歌うよ、彼女にも届くように」

P「届くさ、叩き起こしてやる」


750: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 01:01:15 ID:u3tAqZLc

春香「聞いてて懐かしかったよ」

ありす「……春香さん」

春香「なあに?」

ありす「この歌を歌えたのは春香さんのお陰です、ありがとうございました」

春香「私のお陰じゃないよ、これは――」

ありす「歌い続けてくれましたから、こういう企画ができたんです。だから春香さんのお陰でいいんです」

春香「頑張って歌ってくるね! ありすちゃんに負けないように」

ありす「……必ず、いつか超えて見せますから」


751: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 01:02:07 ID:u3tAqZLc

765P「で、結果だが」

美希「何なの! 何なのなの! ぷんぷかぷんぷんなの!」

P「惜しかったな」

美希「千早さんの壁は大きかったの……」

千早「本当にいいのかしら……」

765P「文句なしだ、おめでとう千早」

凛「い、一票差?」

まゆ「報告に行きましょうね、凛ちゃん!」

凛「この……」

ありす「千早さんと美希さん以外、順番がそのまま順位になったんですね」

P「あっちの隅で座り込んでるのどうします?」

765P「暫くそっとしておこう。春香の敗因は、まあ君だろうな」


752: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 01:02:43 ID:u3tAqZLc

ありす「私ですか?」

765P「話題性は抜群だった、春香はちょっと二番煎じになっちゃったか」

P「上位なんて凄いぞありす、快挙だ」

ありす「次はもっと上を目指します」

P「そうか、にしても渋谷さんとまゆは一票差か……まさかな」

ありす「何か?」

P「いや。よし、帰るか」

ありす「一緒に、ですよ」

P「ああ、一緒にだ」


753: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 01:03:23 ID:u3tAqZLc

ちひろ「見てましたよ、お疲れ様でした」

P「まあ何とか下に三人が固まるのは回避できました」

ちひろ「そんなPくんにご褒美です」

P「ボーナスですか?」

ちひろ「どうぞ」

P「何ですかこれ……あ、見つかったんですか」

ちひろ「頼まれてましたから、Pくんの事務所にいた子達が何をしているかのリストです」

P「ありがとうございます、元気にしてるなら一安心です」

ちひろ「本当に安心ですか?」

P「ええ、本当に」

ちひろ「ご褒美はそれだけじゃありませんよ」

P「スタドリでもくれるんですか?」


754: 以下、名無しが深夜にお送りします 2014/01/25(土) 01:05:09 ID:u3tAqZLc

ちひろ「そんなのじゃありません、休暇です」

P「休暇? だってイベントも迫ってきてるんですよ?」

ちひろ「それは私達に任せて下さい、怪我が治ったとはいえまだ本調子でもないんですから」

P「しかし」

ちひろ「社長命令です、会いに行ってあげてください。きっと待ってます」

P「……本当に待ってるんでしょうか?」

ちひろ「今のPくんなら、大丈夫」

P「行くだけ、行ってみます」

終わり 次回は2月1日
残り3話 確かに分かりにくいので残りは台本形式でいきます
それにしてもクロスは難しい



転載元:ありす「心に咲いた花」
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1383562133/




次回→


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