スポンサーリンク

トップページモバマス > 【モバマス】社長「新社屋は全館禁煙にしようとおもう」 P「なんだと」 ちひろ「なんだと」

1: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 20:53:08 ID:wPD8


:~某芸能プロダクション社長室~

プロデューサー(以下P)「プロダクションのビルを新築する? 」

千川ちひろ「はあ、なんでまた」
snkwchr

社長「なんでって君らのおかげで事業が滅茶苦茶でかくなったからだよ。アイドルも160人近く居るし、この雑居ビルじゃいい加減狭いでしょうよ」

P「まあ、確かにそりゃそうですね」

ちひろ「プロダクションに来たアイドルたちも居場所がなくて、プロデューサーさんのデスク周りにたむろしてたりしますもんね」

P「森久保くんなんか余程居所に困ってんのかいつも森久保Pの机の下に居たりしますね、そう言えば」

ちひろ「机の下友達もできてなんだか楽しそうですけどね」



2: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 20:53:54 ID:wPD8

社長「とにかく、全てのアイドルが常にプロダクションに詰めてるわけじゃ無いとしても余裕が無さすぎる。幸い資金はドーンと余裕があるし、このビルの横に用地取得の見込みが立ったから、一発そこにババーンとでかいビルを建てようじゃないかと」

P「……隣ってパチンコ屋じゃありませんでしたっけ」

ちひろ「今月末で畳むらしいですよ。世知辛い世の中ですねえ」

P「今更だけど芸能プロダクションの建物がパチンコ屋の隣ってどうかと思ったよね……」

社長「まあ当時私もどうかと思ってたけど、この建物安かったんだよ……」

ちひろ「確かに古い雑居ビルとはいえあの値段は破格でした」

P「僕らと菜々さんしか居なかったころが懐かしいですねえ(←菜々P)」


3: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 20:55:43 ID:wPD8

社長「最初は厳しかったけど、君を始めとした少数精鋭のPたち、そして一文の無駄も許さないちひろ君の敏腕アシスタントぶりのおかげで事業はここまで大きくなった。建物を大きくして君らやアイドルが働きやすい環境を整えたいし、うちのイメージも改善したい」

P「なるほど、解りました。正直広くなるのは有り難いですね」

ちひろ「資金には随分余裕がありますし、いいタイミングかもしれません」

社長「年頃のアイドルも過ごしやすいおしゃれな空間にしようと思うよ」

P「まあ社長の会社だから好きにすればいいのでは」

社長「中庭にカフェとかあって、屋上が庭園になってる感じねウフフ」

ちひろ「あっ、カフェいいですねカフェ。大賛成です」

社長「あとこの機会に全館禁煙にする」

P「なんだと」

ちひろ「なんだと」




スポンサーリンク



4: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 20:57:29 ID:wPD8

社長「うん。全館禁煙。せっかく新しい建物だもん。ヤニで汚すの勿体ないじゃない」

P「いやいや、いやいやいや」

ちひろ「建て替えは必要ありませんよ社長。この建物で十分ですよ社長」

社長「なんだい突然意見が変わったじゃないか」

P「古い建物には古い建物の良さがあるじゃないですか。ぼかぁこの建物が好きだなぁ」

ちひろ「アイドルのみんなもここに愛着があるし、この建物がなくなったらきっと悲しみますよ、ね?」

社長「応接室がひとつしかないから打ち合わせの業者もプロデューサーも順番待ちしてるし、狭いからLMBGのミーティングなんか毎回レッスンスタジオでやってる有様じゃないか。限界だよ」

P「否定できない正論で詰めて来る!」

ちひろ「まあLMBGが全員入れるミーティングルームってなかなか無いと思いますが……」


5: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 20:59:34 ID:wPD8

社長「だいたい親御さんから大事な娘さんをたくさん預かってる環境で、我々が四六時中プカプカ煙草ふかしてるってどうなんだい。隣がパチンコ屋なのと変わらんぐらいイメージ悪いだろ」

ちひろ「私たちと一緒にチェーンスモーク徹夜深酒を繰り返していた社長さんが、真人間みたいな事を……!!」

P「ちくしょう、自分は禁煙に成功したからって」

社長「まあしょうがないよね。子供生まれたからね」

P「まあ、確かに奥さん許さないですよね」

ちひろ「娘さん、もう一歳でしたっけ」

社長「そうそう来月で一歳。いやもう可愛くて」

P「社長がこういう顔でデレるようになるなんて思わなかった……」

ちひろ「時は流れるものなんですね……」

社長「まあ、世間的にも受動喫煙とか厳しいというのもあるけど、子供出来たからかなあ。煙草の煙を不快に思ってる子もいるだろうし、仁奈ちゃんみたく小さい子の健康は我々が意識してあげないといかんだろうとか思うようになったんですよ」

P「うーん、ぐうの音も出ない」

ちひろ「喫煙者の多い業界でしたが、これも時の流れ、ご時世と言うものでしょうね……」


6: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:07:21 ID:wPD8

社長「新規のプロダクションが次々出来て業界がまだ若かった頃はアウトローも結構居たし、喫煙飲酒に寛容な雰囲気もあったんだけどね」

ちひろ「ああ確かに。私が知ってるプロデューサーさんたちってみんな変人ぞろいでしたね」

P「なんでそこで僕を見るんですか僕はままともですよ僕は」

ちひろ「ひとりで100人以上のアイドルスカウトしてくる人間のどこがまともですか」

社長「うん。そういう連中が業界を大きくしてきたって面はある。だけどある程度事業が大きくなって会社が立場というものを持つようになれば、我々も社会的信頼というものを大事にしていかなくちゃいけないだろう。まさに時の流れだよ」

ちひろ「うわあ、社長が社長みたいな事言ってる……」

P「まったく、人をヤナギランみたいに言って……」

社長「まあ、そう言いなさんな」

ちひろ「? 」


7: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:07:48 ID:wPD8


P「とはいえ僕を始めとして実際喫煙者多いですよ、ウチ。禁煙しろとか言ったら暴動ですよ暴動」

社長「まあそこは大丈夫。ちゃんと喫煙所を整備するから」

ちひろ「あっ、ちょっと安心しました」

社長「ちひろ君もけっこう吸うもんねえ」

P「たぶん僕より吸いますよ」

ちひろ「なにぶんストレスの多い仕事なもので。おほほ」

社長「ま、そういうわけでね。各プロデューサーに、順次備品の掃除を進めておいて欲しいと伝えておいてくれ。時間はあるから急がなくていいからね」

P「はい」

ちひろ「はい」

社長「あ、それとこの機会に新人Pも入れていくつもりだからちひろくんそのへんの手配もお願いね」

ちひろ「え」


8: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:08:49 ID:wPD8

社長「P君は新社屋が完成するまでにいっぺん業務関係の資料まとめておいてね。紙のぶんも全部テキストデータにしておいて」

P「急がなくていいとか言ってたのに結局忙しくなるんじゃないですか!」

ちひろ「これ多分新社屋完成までに次々仕事が生える奴ですね」

P「これから年末に向けて大型ライブ企画とかで忙しいというのに……」

社長「そう言いなさんな。私だってこれから新社屋移行までは鬼のように忙しいんだからね? 」

P「それは仕方ないですよ社長言い出しっぺなんだもん」

ちひろ「そうそう自業自得です」

社長「もうちょっと私に優しくしてくれても良かあないかい!?」

◆◆◆


9: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:12:22 ID:wPD8



:~半月後・某芸能プロダクション前~

島村卯月「でね、その時美穂ちゃんが……あれっ」
smmruzk43

本田未央「? どしたのしまむー」
hndmo53

卯月「ほら、お隣のパチンコ屋さんの敷地、工事の車が入ってます」

未央「あ、本当だ」

渋谷凛「なくなるって話、本当だったんだね」
sbyrn44

卯月「私たちがプロダクションに来てからずっとあったものが無くなるのって、なんだか変な感じです」

未央「うーん、確かに。賑やかすぎるしいつも車が出入りしてるし、お父さんたちがいい顔しないし、正直普段はちょっとじゃまかなー、とか思ってたけど、無くなるってなると、うん」

卯月「あ、私のパパとママも難しい顔してました」

凛「……」

卯月「凛ちゃん、どうしたんですか?」

未央「何か考え事?」

凛「あ、いやその。このあたり、これから大変だな、って思って」

卯月「大変……?」


10: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:14:56 ID:wPD8

凛「ほら、近くに、うどん屋さんさんがあるじゃない」

未央「ああ、おいなりさんがおいしいとこ!」

卯月「私、あそこのおでん大好きです」

凛「あの店のお客さんて、ここのパチンコ屋の客が多かったはずでしょ。大丈夫かなって」

未央「……ああ、そういう」

凛「店ってさ、それ一軒で成り立ってるものじゃないから。この周辺の食べ物屋とかは、きっとこれから大変だと思う」

未央「そっか、しぶりんちは商店街の花屋さんだっけ」

卯月「そういう事、考えたことなかったです……このあたり、どんな風になっちゃうんでしょうか」

凛「わかんない。廃業する店もあると思うけど、結局は変化を受け入れてやってかなきゃいけないものだし……」

卯月「む、難しいですね……」


11: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:15:54 ID:wPD8

未央「あ、明るい話もしようよ。そこにうちのプロダクションの新しいビルが建つんでしょ」

凛「うん、私のプロデューサーも言ってた。本決まりらしいよ」

卯月「中庭にカフェが出来るってちひろさんが言ってました」

未央「おおー、カフェー。なんか思ったより立派な感じになるんだね……」

凛「確かにうちのプロダクション、狭かったもんね。ミーティングルームもすぐ塞がっちゃってたから、私いつも事務室のプロデューサーのデスクまで行って立って打ち合わせしてたけど、狭くてさ」

未央「狭いと文句言いつつも、デスクのとこで打ち合わせしてるときのほうが嬉しそうなしぶりんなのであった……」

凛「!」

未央「距離が近いもんね、ふっふっふ」

凛「みーおー! 」

卯月「り、凛ちゃん、そうなんですか!?」

凛「し、知らない! ほら、行くよ! (脱兎)」

卯月「あっ、待ってください凛ちゃーん!」


◆◆◆


12: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:21:11 ID:wPD8

~某日深夜・事務室兼プロデューサー詰め所~

残業中のP「……(カタカタカタ)」

残業中のちひろ「……(カタカタカタ)」

P「……ちひろさんまだ帰らないんですか」

ちひろ「プロデューサーさんこそ」

P「いやあ、アイドル関係の業務は終わったんだけど、業務資料の打ち込みがね、けっこうあって」

ちひろ「紙資料多いですもんねえ。このごろは写真撮るだけでPDFに変換してくれるアプリなんかもありますよ」

P「マジですか試してみようかな……で、ちひろさんのほうは。例の面接の話ですか」

ちひろ「それもあるんですけど新社屋に移るにあたって外部の業者も入るんで……ほら」

P「新人のPにトレーナーの増員に……ああ、撮影スタッフや音響スタッフも」


13: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:23:11 ID:wPD8

ちひろ「一階にコンビニが入ったり、医務室ができたりね。これまで入ってくれてたお掃除のおばちゃんは、新しく入る清掃会社の社員扱いになるみたいです」

P「ほんと大きくなるんだなあ……これ社長、実はかなり前から新社屋計画を進めてたんだな」

ちひろ「だと思いますよ。それに合わせて大増員して。飛躍……というか、百何十人てアイドルを活動させるのにふさわしい体制を作ると」

P「確かに、今まで我々2人で現物合わせみたいなことばっかやってましたからねえ。大変だったなあ」

ちひろ「それもまた楽しかったですけどね」

P「確かに。おかげで今業務資料をまとめるのに苦労する羽目になっているわけですが」

ちひろ「あはは……まあ、ちょっと一服しませんか」

P「いいですね。吸います?」

ちひろ「吸いましょう……あー。新社屋禁煙かあ」


14: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:27:36 ID:wPD8

P「喫煙所はあるって話でしたけどね。このさい禁煙してみたらどうです。社長に出来たんだし」

ちひろ「うーん……でもほら。社長って禁煙してから太ってませんか。凄く」

P「結構あるらしいですね煙草やめたら太ったって話」

ちひろ「えええ」

P「体が健康になるのと、あと口寂しくてなんか食べるようになるからって」

ちひろ「そういや社長も一時期なんか口に入れてもごもごさせてましたね。あれ何だったんだろ」

P「昆布とかだったみたいですよ」

ちひろ「それでもあんなに太るんですかやだー!」

P「あははは」


15: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:29:48 ID:wPD8

ちひろ「コスプレにも差し支えるしアイドルみんなに親しまれる頼れる綺麗なお姉さんの地位が失われてしまう……」

P「アイドルぞろっといる仕事場で綺麗なお姉さんを名乗るんだからちひろさん肝太いですよねえ」

ちひろ「自称する権利はあると思います」

P「確かに。まあ、その地位を守るために間食減らしたりランニング始めたり……」

ちひろ「あーあーあー正論は聞こえませーん……っていうかそんな時間ないじゃないですか私たち! 毎日残業で! そういうわけで間食もおなじくやめられない!!」

P「Pも事務スタッフも増員されるし、余裕出来るんじゃないですかね。一時的な混乱はあるかもだけど、撮影スタジオも入るんなら移動の手配も減るわけだし」

ちひろ「あ、なるほど……本当に色々変わるんだなあ」

P「そうですね。ちひろさんや僕がランニング始めるぐらいには転換期です」

ちひろ「え、プロデューサーさんも禁煙を?」

P「それはまだ考えてないんですが、運動不足でちょっと足腰弱ってきてて」

ちひろ「うわあ」


16: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:31:49 ID:wPD8

P「あまり体力落ちるとプロデューサー業に差し支えますからね。時間が出来るなら始めようかなと」

ちひろ「プロデューサー業のためですか。そこは健康のためとか言いましょうよ」

P「まあアイドルプロデュースに命かけてますからね僕」

ちひろ「これが冗談じゃないのがこの人の恐ろしいところですよね……でもそうかあ。変わるんだなあ」

P「社長と僕とちひろさんと菜々さん。4人でプロダクションを立ち上げて」

ちひろ「心さんやニュージェネの3人が来てくれたのがその後すぐでしたっけ。なんか随分昔のことみたい」

P「アイドルが増えて、森久保P君たちが来て、このさいだからってこの雑居ビルを買い取って」

ちひろ「あのとき盛り上がったなあ。あちこちガタが来ててそのあとしばらく大変だったけど」

P「ありましたねー。結局クーラーつけるとゴボゴボ音がするのっていつまで続いたんだろ」

ちひろ「どうだっかな。もう覚えていませんね」

P「……」

ちひろ「……」


17: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:36:08 ID:wPD8

P「……新社屋、楽しみですね」

ちひろ「まあ移行のせいで今目の前に積みあがってる仕事がなければですが」

P「確かに!」

ちひろ「……もうひと頑張りしましょうか」

P「そうしましょう」


◆◆◆


18: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:39:44 ID:wPD8

~数日後・事務室兼プロデューサー詰め所(大掃除中)~

安部菜々(割烹着装着)「プロデューサーさんに、大事なお話があります」
abnn53

P「なんですかナナさん。僕はデスクの掃除でいっそがしいんですよ」

菜々「普段から片づけておかないからですよ、もう」

P「普段に片づける暇があったと思いますか」

菜々「……ありませんでしたね!」

P「ね!」


19: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:42:04 ID:wPD8

菜々「まあでもせっかく新しい社屋に移るんですもの。綺麗にしておかなきゃですよプロデューサーさん」

P「解ってます解ってます……で、大事な話ってなんですか」

菜々「あのですね、この部屋に、風景写真の額がかかってるじゃないですか」

P「ああ、そこの金メッキの趣味悪い額縁」

菜々「今掃除してて判明したんですが、あれ、金メッキじゃないです」

P「えっ」

菜々「クロムメッキです。クロムメッキがヤニを被って金色に見えてたんです……!!」

P「え……うわ本当だ! ずっと金だと思ってました」

菜々「ナナもすっかり金メッキだと思ってましたよ。いったいいつからこの状態だったんでしたっけ」

P「さあ、普段書類とモニターばかり見てて、写真とかまともに眺めた事なかったし……待てよ。もしかしてちひろさんのあのケバい蛍光黄緑のスーツも本当は青いスーツで、ヤニのせいで黄緑になってるだけなのでは……」

菜々「そんなわけないじゃないですかちひろさんに殴られますよ」

P「ごめんなさい」


20: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:45:00 ID:wPD8

菜々「それにしてもどれだけみんな煙草吸ってたんですかこの部屋」

P「アイドルが居ない時は全員ほぼ四六時中……?」

菜々「もー。ちょっとは控えないとですよ? これはちょっと腰を据えて掃除に取り組まないとですね……」

P「いやすんません……というかですね」

菜々「?」

P「なんでナナさんが掃除してくれてるんですか。一応業者が入る前に各プロデューサーが自前で掃除する算段になってるでしょ。いや手伝ってくれるのは有り難いんですが」

菜々「……ナナたち、この建物にはお世話になったじゃないですか。だから少しでも綺麗にして恩返ししたいとみんな思って」

P「ナナさん……」

菜々「あとプロデューサーさんたちに任せておいたら絶対期日までに終わらないとみんな思ってですね」

P「ぐうのねも出ない!!」


21: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:49:28 ID:wPD8

菜々「まあそういうわけで、アイドル有志で分担してお掃除手伝ってるというわけです」

P「アイドルでお掃除……ということは響子とかも?」

菜々「はい。給湯室やレッスンルームをお願いしてます。さすがにこのニコチンまみれの部屋を未成年に掃除させるのは許されない……!」

P「いやほんとすんません……って17歳。ナナさんも17歳!! 」

菜々「ハッ。も、もちろんそうですけどね!?」

P「……やっぱり、煙いの気になってましたか」

菜々「今更ですねえ……」

P「ナナさんとは長い付き合いだし、なんか僕と社長とちひろさんがプカプカ吸ってるところに一緒にいるのが当たり前になってたから、つい」

菜々「……まあ、気になってましたね。ナナは吸いませんし、喉を大事にしたかったですから」

P「面目ない」


22: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:54:15 ID:wPD8

菜々「いい匂いとも言えないし。でも、なんかなあ。それがあるのが当たり前、になってたんですよね。日常の匂いって言うのかなあ。ナナたちの過ごしてきた日々の匂いです」

P「……」

菜々「新しいプロダクションは全館禁煙なんでしょう? 嬉しいけど、煙草の匂いがしなかったら落ち着かないかもしれません。あはは」

P「ナナさん……」

菜々「プロデューサーさん……」

P「外では絶対にヤニの匂いで落ち着くとか言っちゃだめですからね……」

菜々「重々承知しております……!!」



◆◆◆


23: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:58:27 ID:wPD8

~数日後の夜・プロダクション屋上~

ちひろ「……(スパー)」

ちひろ「……ふう(ちらり)」

(どどーんとプロダクション横にそびえ立つ建築途中のビル)

ちひろ「……もうこんなに出来ちゃったんですね」

ちひろ「はあ……」

P「(スタスタ)お、ちひろさんも出て来てたんですか」

ちひろ「ああ、ええまあ。ちょっと休憩に。プロデューサーさんは?」

P「僕もです。向こうに持ってく書類がまとめ終わったんで、通常の業務に戻る前に一服と思いまして(煙草くわえ)」

ちひろ「何とかなるもんですねえ……あ、火、どうぞ(啣え煙草を指さして)」

P「お、ありがとうございます(顔寄せ)」

ちひろ「ん(顔寄せ)」


24: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 21:58:50 ID:wPD8

P「(スパー)ふー……もう、随分出来てるんですね、新社屋」

ちひろ「月末には内装屋が入るって話です」

P「凄いなあ。うち儲かってたんだなあ」

ちひろ「何言ってるんですか、ごっそりアイドルスカウトして稼いだ張本人が」

P「それを活かしたのは社長だし、支えてくれたのはちひろさんでしょ」

ちひろ「まあ確かに私がいなければこんなに早くプロダクションを大きくできなかっただろうという自負はありますね(エヘン)」

P「社長も大ざっぱだからなあ」

ちひろ「おおらか、と言い換えてもいいと思います。社長の立場にはきっとそっちの方が向いてるんですよ」

P「ははは。確かにそうかも」

ちひろ「……」

P「……」


25: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:01:14 ID:wPD8

ちひろ「でっっかいビルですねえ」

P「なんか各プロジェクト用の専用室を作って、レッスンスタジオやミーティングルームも増やすらしいですよ」

ちひろ「ああ、言ってましたね社長」

P「しかもエステルームとかまで入るって」

ちひろ「あっ、不覚にもちょっと新社屋いいかもとか思ってしまった」

P「ん」

ちひろ「?」

P「ちひろさん、やっぱり新社屋嫌なんですか」

ちひろ「……こういうとこ耳聡いですよね、プロデューサーさんは」


26: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:06:04 ID:wPD8

P「いったい僕がどんだけ年頃の女性を相手に仕事してると思ってるんです。後で地獄見るから微妙な発言の変化とかぜっったい見逃せませんよ」

ちひろ「見逃さないじゃなくて見逃せないなところが切実ですね」

P「まあ、望んでやってる事ですから……で、どうなんです。嫌なんですか」

ちひろ「うーん」

P「やっぱり全館禁煙だから」

ちひろ「私をどんなニコチン中毒だと思ってるんですか……嫌じゃないですよ、嫌じゃ」

P「うん」

ちひろ「ただちょっと、落ち着かないって言うか、不安っていうか」

P「不安」

ちひろ「新社屋、撮影スタジオやレコーディングルームまで入るでしょ」

P「らしいです」

ちひろ「新しい社員や外部のスタッフもたくさん入る事になる。こののプロダクションは、新しい段階に入るんだと思います」

P「僕もそう思います。このプロダクションはきっとこれから成熟期に入っていくんでしょう」


27: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:07:50 ID:wPD8



ちひろ「それは素晴らしい事だけど……なんかこう、落ち着かなくて」

P「ふむ」

ちひろ「このビルは古くてごちゃごちゃで、ビルの周りだってパチンコ屋や飲み屋やパチンコ客相手の飲食店でごちゃごちゃしてて。私たちの仕事も手作りで、いろいろなものを積み重ねて、現物合わせでなんとか作り上げて行って……」

P「……」

ちひろ「パチンコ屋がなくなってうちのプロダクションに出入りする人が増えれば、この町もがらっと変わるでしょう」

P「うん」

ちひろ「私たちの仕事もきっと大きくなって、システム化されていくんでしょうね」

P「多分、社長はそれがやりたいんだと思います」

ちひろ「そういう変化が、なんていうかいろいろ一度に起こっちゃって。なんかこう、なんとも説明しがたい落ち着かなさがあるというか……」

P「成る程」

ちひろ「プロデューサーさんは、違いますか?」

P「うーん」


28: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:12:24 ID:wPD8

ちひろ「……そういえば」

P「?」

ちひろ「ヤナギランて何ですか?」

P「紫色の花で、名前はランだけど実はランじゃないという……」

ちひろ「そういうんじゃなくて。言ってたでしょ。人をヤナギランみたいにーって」

P「覚えてたんですか」

ちひろ「ええまあ。いきなり花の話で戸惑いましたから……」

P「……」

ちひろ「……」

P「ヤナギランは、工事で裸にされた土地や山火事の後……まだほかの草花が生えないような荒れた土地に真っ先に入り込んで芽を出すんです」


29: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:12:43 ID:wPD8

ちひろ「逞しい花なんですね」

P「ええまあ。それでうんと繁栄して、大きな群生を作って土地を緑にします。ヤナギランの蜜を吸う虫やヤナギラン自体を食べる動物がやってきて、土地が豊かになる」

ちひろ「なるほど、確かにちょっとプロデューサーさんらしいかもしれませんね」

P「しかし、そうやって豊かになった土地にヤナギランの居所はないんです」

ちひろ「え」

P「そうやっていろいろなものが繁栄して豊かになると、豊かな土地で繁殖する草花にテリトリーを奪われてヤナギランは消えてゆく。日当たりがいいところが好きな花だから、やがて自分たちより背の高い木が生い茂るようになると繁栄できなくなって追われてゆく」

ちひろ「……」

P「……僕はね、人間や会社にもヤナギランみたいなのがいるんじゃないかと思うんです」

ちひろ「ヤナギランみたいな……?」


30: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:15:56 ID:wPD8

P「荒れた時期や草創期には活躍するけど、社会が育って安定したら居場所がなくなる、そんな奴」

ちひろ「……プロデューサーさんは、自分がヤナギランだと思うんですか」

P「さあ。ただ、社長はこのプロダクションをヤナギランにしたくはないんだと思います。ヤナギランの後で高く伸びて長く繁栄していける木々みたいにしたいんだ」

ちひろ「……それは、そうでしょうね」

P「……」

ちひろ「……ああ、私の不安も、それなのかな」

P「ちひろさん」

ちひろ「ねえ、プロデューサーさん。もう一本吸って行きませんか。もうちょっとお話につき合ってくださいよ」

P「もちろん」

ちひろ「菜々さんたちがね、落成記念でパーティーを計画してるそうですよ。社長やプロデューサーさんたちに、これまでもこれからもありがとうって……」


◆◆◆


31: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:18:21 ID:wPD8

~そして新社屋引き渡し当日~

社長「というわけで完成したよこれが新社屋でございます!!(ジャジャーン)」

P「おおー。こうやって間近で見るとデカいなあ……」

ちひろ「ちょっとクラシックというか、洒落た感じなんですね」

社長「アイドルを目指す子が『キャーステキ! こんなプロダクションに応募したーい!!』って思うような建物にしたかったんだよフフ。どう?」

P「裏声がめっちゃ気持ち悪いです」

ちひろ「同じく」


32: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:21:21 ID:wPD8

社長「くそう! まあ、落成式は明日なんだけどね。どうしても先に君たち2人に自慢しておきたくてさ」

P「うわあ、新しい車買ったカーマニアみたいな顔してる」

ちひろ「これは自慢したくて仕方ないんですね」

社長「何とでもおっしゃい。まあまあ見てちょうだいよ。まずここが一階エントランスホールね」

P「うっわ広い」

ちひろ「天井も高い。開放感ある……」

社長「やっぱここが会社の顔だからね。アクセスにも配慮してるし、向こうにガラス越しに中庭が見えるようになってる」

P「これ本当にお金かかってますね。今更だけど大丈夫なんですか」

ちひろ「まあ、いままでは儲かってるけど使う暇がないみたいな状況でしたからね……」


33: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:21:41 ID:wPD8

社長「そしてエレベーターに乗ってこちらが撮影スタジオ。これで宣材もうちで撮ることが出来る」

P「自前でスタッフそろえるんですか」

社長「懇ろにしてもらってるスタジオにお願いして、スタッフ派遣してもらうことになってるよ」

ちひろ「なるほど」

社長「そしてこっちのレッスンスタジオに隣接してるのがエステルーム」

P「うわ本当に作ったんだ」

ちひろ「いいんですかこれ」

社長「なに言ってるの。我々はアイドルで商売してんだよ。彼女らのコンディションに投資しなくてどうすんのさ」

P「なるほど」

社長「そしてそういう姿勢はウチのセールスポイントにもなるわけよ」

ちひろ「あざとい。これはあざとい」

P「言ってることはひとつも間違ってないのにすごい胡散臭さだ」

社長「わははちっとも堪えないよ私は。さて、そんで次。こっちがちひろくんが実際に仕事することになる経理部のオフィス」

P「えっひろい」


34: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:23:55 ID:wPD8

社長「まあ事業大きくなるんでお金周りのスタッフ増やすからね。後輩出来るから大変だよー」

ちひろ「私が後輩の指導とかするんですか」

社長「ちひろ君以外に誰がうちのお金周りを教えられるのさ」

ちひろ「うぐぐそれは確かに」

社長「プロデューサーのオフィスは、もうひとつ上の階になる。各企画ごとにオフィスとアイドルのミーティングルーム、応接スペースが一体になったユニットを割り振る予定だよ」

P「ちひろさんとは仕事場離れるんですね」

社長「まあ、スペースの関係でいままでは雑居だったけど、やっぱり専門化したほうが効率あがるでしょうよ。社屋内の回線はかなりいいものにしたし、むしろ必要な文書のやりとりは早くなると思うよ」

P「……」

ちひろ「……」

社長「なんだい2人して見つめ合っちゃって」

P「いえ何でも」

ちひろ「そうそう何でも」


35: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:27:23 ID:wPD8

社長「まあ案内続けるよ。ボイトレ用の音響は……」

P「……えーと社長、聞きたいことが」

社長「なんだい?」

ちひろ「どうもいままで案内していただいた中にも案内掲示板にも、喫煙所が見あたらないみたいなんですが……」

社長「ああ、喫煙所はね。まず一階におりて(トコトコ)」

P「ふんふん(トコトコ)」

社長「玄関をでて(トコトコ)」

ちひろ「ふむふむ(トコトコ)」

社長「旧社屋との間の路地をこう進んで(トコトコ)」

P「ふむふむ(トコトコ)」

社長「こっちに曲がって進んだこの非常階段下のスペースが喫煙所」

ちひろ「ほぼ屋外じゃないですかやだー!!」


36: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:29:10 ID:wPD8

社長「まあまあ、パーティションで目隠ししてるし椅子もあるから」

P「あっこれこないだの大掃除で捨てるほうに分類した椅子だ」

ちひろ「パーティションもですよ。ひどい。これはひどい。ちゃんと喫煙所作るって話だったじゃないですかー(ジタジタ)」

社長「いや、喫煙所設置するための補助金も出るって話だったからそのつもりだったんだけど」

P「だけど?」

社長「うちの業態だとこの人数では補助金が出ないと解ってですね」

P「これはひどい」

ちひろ「社屋の壁が新しいもんだから椅子のボロさが際だっている」

P「それにけっこう狭い」


37: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:29:30 ID:wPD8

社長「まあ一度に全員が使うわけでもないからね。旧社屋を取り壊して土地が開いたらもうちょっとちゃんとした喫煙所も作る予定だから、それまでは勘弁してほしい」

ちひろ「取り壊し……っていつになる予定なんですか」

社長「まあ、追々」

P「追々ですか」

社長「そうそう。灰皿はここ使う連中で適宜掃除してくださいよ。シケモクが山になって煙吐いてるなんてまずいからね」

P「ははは、了解です」

ちひろ「……」

社長「ちひろ君?」

ちひろ「了解でーす。私業務に戻りますね(スタスタ)」

P「お疲れ様。後で合流しますねー」

社長「ご機嫌損ねちゃったか。うーん、喫煙所がこれなのはやっぱまずかったね」

P「え」


38: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:32:25 ID:wPD8

社長「え?」

P「それ本当に言ってます?」

社長「おいおい、なんだい」

P「新社屋計画の立ち上げから一気だから、わざとかと思ってたんですが」

社長「? そりゃね。君とちひろ君により力を発揮してもらいたいから、がんばったよ私ゃ。だから2人には誰より早く新社屋を」

P「やっぱ大雑把もよし悪しなんだなあ……」

社長「おいおい。ちゃんと話してくれよ」

P「杞憂に終わるかもしれない事なんで。それでは(スタスタ)」

社長「おいおい……ああ、行っちゃった」


◆◆◆


39: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:36:48 ID:wPD8

~1ヶ月後・新社屋非常階段下喫煙所~

(ザアアアアア)

ちひろ「雨、続くなあ」

ちひろ「この長雨が終わったら、春かなあ……」

ちひろ「……(ボー)」

ちひろ「……(スパー)」

P「あ、いたいた」

ちひろ「あれっ、プロデューサーさん。喫煙所に来るの久々じゃないですか」

P「たぶん十日ぶりぐらいです」

ちひろ「なんてことでしょう。プロデューサーさんまで禁煙とか(くすくす)」


40: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:37:16 ID:wPD8

P「いや、単にいっそがしいのとアイドルと一緒の時間が増えて吸いに来る暇がないだけで」

ちひろ「確かにめっちゃ忙しかったですよねこの一ヶ月!!」

P「ほんとにね!!」

ちひろ「経理部の新人にいろいろ教えたりなんだり、これまでと違う仕事ばっかで、ほんともう……」

P「でも、ちひろさんとこはもうしっかり回り始めてるじゃないですか。流石です」

ちひろ「新しい子たち、けっこう優秀ですから。あはは……」

P「……」

ちひろ「?」


41: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:38:40 ID:wPD8

P「ちひろさん、ちょっと痩せました?」

ちひろ「えっ」

P「たぶん3キロぐらい?」

ちひろ「この敏腕プロデューサー、目算が正確すぎる……!」

P「当たってましたか」

ちひろ「はーい正解でーす!!」

P「ダイエット……ではないですよね」

ちひろ「……プロデューサーさん吸わないんですか。なにしに喫煙所に来たんですか」

P「ちひろさんに会いに来たんですが」

ちひろ「えっ」


42: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:42:52 ID:wPD8

P「このごろ会えてないし、実はいろいろちょっと心配で。ここなら会えるかなあと」

ちひろ「……プロデューサーさんにまで心配されるとか」

P「……」

ちひろ「なんか、ちょっと食べられてないんですよね」

P「……」

ちひろ「あ、病気とかじゃないですよ。食べたくないというか、食べる気にならないというか……」

P「……やっぱり、新しい仕事が?」

ちひろ「……」

P「……」

ちひろ「ねえプロデューサーさん」

P「はい」


43: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:43:27 ID:wPD8

ちひろ「私、ヤナギランだと思われてるんでしょうか」

P「……」

ちひろ「ううん、やっぱり私、ヤナギランかもしれないですね。それで苦しいのかな」

P「……」

ちひろ「プロデューサーさん、社長さん、卯月ちゃんたち。部署が別れていままで毎日会ってた人たちに会えなくなって、変わった仕事に馴染めなくて。なんか毎日、なんかちょっと」

P「……うん」

ちひろ「新しい経理部にはいろいろ機械も入って、多分そう遠くないうちに私がいなくても回るようになります。それは素晴らしい事なんでしょう。それが、会社が大きくなるって事なんでしょう。だけどなんか、苦しくて。馴染めなくて……」

P「ちひろさん……」

ちひろ「私はもしかして、もう……」

ちひろ「……」

ちひろ「ごめんなさい。忘れてください」


44: ◆cgcCmk1QIM 22/11/29(火) 22:45:49 ID:wPD8

P「いえ忘れませんが」

ちひろ「えっ」

P「僕にとって、それは、大事な事ですから。それじゃ」

ちひろ「え、それじゃって」

P「社長に話す準備をしてきます」

ちひろ「え、ちょっと、そんな大事にしなくてもちょっと調子悪いだけでその」

P「僕にとっては大事ですから」

ちひろ「あっちょっと待ってプロデューサーさん。プロデューサーさーん!?」


◆◆◆


45: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:07:01 ID:O6TR

~後日深夜・新社屋社長室~

社長(社長鋭意仕事中)

P「失礼します。今いいですか」

社長「おっ、来るの久々だね。お疲れ」

P「まあ、新人教育とか各プロジェクトのアイドル編成とか結構大変でしたからねこの一ヶ月」

社長「いやホントおつかれさん。やっぱちひろ君と君には頭があがらないわ」

P「社長もでしょ。忙しかったの知ってますよ……で、どうです(コンビニ袋からビール)」

社長「おっ、いいですねえ。今日の分は片づいてるし、頂こうかな」

P「はいどうぞ」


46: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:09:40 ID:O6TR

社長「(プシュッ)仕事仕舞ってから呑むのは前の社屋でもときどきやってたけど、新社屋だとめっちゃ悪い事してる気持ちになるのなんでだろうねえ」

P「そりゃあ、新社屋になってからめっちゃ『会社』って感じになったからでは」

社長「違いないねワハハ……で、何」

P「ええまあ、ちょっと聞いておきたい事がありまして」

社長「どうぞどうぞ。酒の分はしゃべりますよ」

P「新社屋を考えるようになったきっかけって何ですか」

社長「……いくつかあるけど、やっぱここ何年かあのパチンコ屋が経営不振で畳むかもしれない、という噂を耳にした時だね。ここだ、と思ったわけですよ」

P「なるほど」


47: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:10:22 ID:O6TR

社長「最初私たちは土地や建物選ぶ余裕もなかったけど、アイドルがどんどん増えてくると、ちいさい子のご両親なんかはパチンコ屋やパチンコ客相手の店が多いプロダクション周りの環境に眉を潜めてた。
今後、親御さんが安心して娘さんを預けてくれるプロダクションを目指すなら、ここを押さえるのが早道だと思ったんだ」

P「別の遊興施設が建ったりしたら、目も当てられませんからね」

社長「そういうこと……あと、やっぱり少数のスタッフが回してる体制が限界に近かったからね」

P「……」

社長「君、ちひろ君、私、菜々さん。うちがたった4人で始まったころから今まで、うちというプロダクションは目が回るほど忙しい中有能なスタッフが現物合わせ、現状合わせでルールや業務を増改築しながら大きくなってきた。九龍城みたいなもんですよ」

P「それは否定できないなあ」


48: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:15:11 ID:O6TR

社長「だけど事業が大きくなってくると、流石にそれは効率が悪すぎる。特定の人間の有能さをアテにしてデカくなっていくことをいつまでも許容してたらその『誰か』は早晩潰れるし、違法建築で増築していくのにも無理がある」

P「うん」

社長「君らが大きくしてくれた事業だ。きちんと今後も健全に大きくなっていけるように会社を変えていくことは、私の責任だと思っている。そのためには増員、業務のシステム化。そういった事は必須で、そうするための入れ物はどうしても必要だったんです」

P「それは確かにその通りです」

社長「だよね?」

P「で、聞きたいんですが」

社長「うん」

P「社長、それで新しくなった体制について来れなくなった連中が出てもやむなし、と思ってたでしょ」


49: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:21:47 ID:O6TR

社長「……まあね。草創期というのはアウトローも多いもんだけど。事業が育っていけば、それに見合った姿に変わっていく必要がある。それができないなら、お互いに不幸でしょう」

P「わかります。で、社長」

社長「うん?」

P「そんなこと言いつつ、僕とちひろさんは普通に続けて行けると思ってますね」

社長「そりゃあね。4人で始めた仕事だし、ウチが大きくなったのはちひろ君と君の力があればこそだよ。社屋を大きくしたかったのも君らの頑張りに応えたかったからだし、仕事の形態が変わって行ったとしても、2人は主要な役割を果たせると信じてる」

P「だけどね社長。どんな丈夫な魚も水槽の水をいっぺんに変えたら弱るんですよ」

社長「え」


50: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:25:32 ID:O6TR

P「いっぺんに環境が変わってやることが変わって。弱ったところに、約束してたことが蔑ろにされてると感じたら。どんな人間だって萎むと思いませんか」

社長「……ああ、なるほど。ちひろくんの喫煙所は、それで」

P「本当は、それも含めて弱さ、強さなのかもしれないですが。僕は、ちひろさんをヤナギランにしてしまうのは、違うと思うんです」

社長「……うん」

P「で、そういうところも含めて、これ見てほしいわけです」

社長「書類? なんだい、酒入れておいてから仕事の話したって十分な検討が」

P「見たら一発でわかりますよ」

社長「……30人新たにスカウトして新プロジェクトを!?」

P「新社屋のゴタゴタで提案が遅れてましたが、フフフ見てくださいどうですかこの粒ぞろいのアイドル候補。他のプロダクションに押さえられたら絶対手痛いですよ。社長悔しくて三日は寝込む奴ですよ」

社長「ぬぐぐ確かに」


51: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:29:50 ID:O6TR

P「新人と、うちの生えぬきアイドルも絡むでかい話になります。こっちで選定したベテランを何人かプロジェクトにつけてください」

社長「わかった。これはベテランが必要しょう。酒が抜けてからもういちど検討して正式に返事をする」

P「お願いします……で、経理も落ち着いたそうですから、ちひろさんもこっちに寄越してください」

社長「専任の経理をつけようってのかい? 別に予算は……」

P「そうじゃないですよ。ちひろさんの本領は、経理じゃないでしょう」

社長「……ああ、確かに。彼女にふさわしい立ち位置が必要だよな」

P「はい。よろしくお願いします」

◆◆◆


52: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:31:22 ID:O6TR

~後日・旧社屋~

P「とまあそういうわけで、新プロジェクトとスカウトチームの仕事場として、旧社屋を使えることになったわけです」

ちひろ「えええええ」

P「ちひろさんにもこのプロジェクトチームに参加してもらいます。つまり今日から仕事場はまたここ!!」

ちひろ「えええええ」

P「まあ、いいかげんボロですから、いろいろやっかいもあると思いますし、アイドルもプロデューサーもごっちゃ、という環境になるでしょうが、禁煙じゃないし悪くないでしょう」

ちひろ「いやまあ禁煙じゃないのは嬉しいですが、待って。ちょっと待って」

P「はい?」


53: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:35:52 ID:O6TR

ちひろ「……嬉しいですよ。そりゃ嬉しいです。なじみがある場所で、プロデューサーさんと近い距離で仕事ができる。嬉しいです」

P「はい」

ちひろ「……でも、そこに私を呼ぶ意味がありましたか。ベテランとはいえ、ただの事務員を、新しいプロジェクトにわざわざ配置する必要がありましたか」

P「……」

ちひろ「もしかして、私を、可哀想と思ったんですか。馴染めないでいる私を助ける、つもりですか」

P「全くないと言えば、嘘になりますが」

ちひろ「……」


54: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:37:14 ID:O6TR




P「僕は、ちひろさんがヤナギランだとは思いません。絶対、樫の木になって伸びていけると思ってる」

ちひろ「……」

P「だけど、樫の木の芽だって、環境が悪ければ枯れる。しっかり芽を出すまで、時間が必要なことだってある。その時間を稼げたらいい、と思ったのは確かです」

ちひろ「……」

P「だけど、僕はちひろさんを事務員として呼んだつもりはありませんよ」

ちひろ「え」

P「ちひろさんはアイドルプロダクションの敏腕アシスタント。そうでしょう」

ちひろ「……あ」


55: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:39:53 ID:O6TR

P「ちひろさんは確かに金の亡者でケチくさくてがめついですが……」

ちひろ「おいこら全部同じ意味じゃないですか」

P「でも、『敏腕事務員』はちひろさんの一部ですよ。プロジェクトを円滑に進め、僕たちが戦っていけるように常にサポートし、色々なアイデアをくれた。『アシスタント・千川ちひろ』は唯一無二で、絶対僕たちに必要なものなんです。それはちひろさんにも、誰にも忘れてほしくない」

ちひろ「……はい、もちろん。それは、私にしかできない事ですね」

P「お願いします」

ちひろ「はい……でもね、プロデューサーさん」

P「はい?」


56: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:40:18 ID:O6TR

ちひろ「……もしそれでもやっぱり。私がヤナギランだったら、どうしますか?」

P「そのときは、新しい荒れ地を見つけて、一緒にヤナギランをやりましょう」

ちひろ「え」

P「ちひろさんがヤナギランなら、僕もヤナギランですよ。新しい荒野をまた緑にする。それは、意味のある事だと思います。一緒にやりましょう。どこまでだって、行きますよ」


57: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:43:05 ID:O6TR


ちひろ「……嬉しいけど、めちゃくちゃ嬉しいけど、プロデューサーさんも愛着あるんでしょう、ここ」

P「当然です」

ちひろ「じゃあ、プロデューサーさんが万が一にもヤナギランにならないように、私がアシスタントしてあげないと、ですね」

P「頼りにしてますよ」

ちひろ「 ……はい。頼りにしててください」

P「どうです。景気付けに一本吸いますか」

ちひろ「いえ。それは、今日の仕事が終わってからにしましょう。こういうのは立ち上げ初日が大事なんですよ」


58: ◆cgcCmk1QIM 22/11/30(水) 00:43:29 ID:O6TR

ちひろ(私は笑ってプロデューサーさんの背を叩き、仕事に取りかかりました)

ちひろ(ヤナギラン。荒れ地に咲いて、消えていく草。考えてみれば、煙草もそうだ。世界中に広がっていたのに、世の中が行儀よくなってゆくなかで居場所を失い、消えていく草)

ちひろ(私がヤナギランやタバコなのか、大きく伸びるほかの何かなのか。それはまだ、私には解りません)

ちひろ(だけど、私を信じてくれる人を。私とずっと歩いてくれるという人の背中を、今はただ押してあげたくて)

ちひろ(私は火に煙るその草の名をいっとき忘れて、プロデューサーさんと一緒に走り出したのです……)


(おしまい)





転載元:【モバマス】社長「新社屋は全館禁煙にしようとおもう」 P「なんだと」 ちひろ「なんだと」
https://wktk.open2ch.net/test/read.cgi/aimasu/1669722788/

スポンサーリンク

このエントリーをはてなブックマークに追加

コメント

コメント一覧

    • 1 名無し春香さん
    • 2022年12月01日 17:10
    • 5
      何この雰囲気、こういうの大好きなんだが。
    • 2 名無しのたかねさん
    • 2022年12月06日 10:28
    • 5
      すばら!
コメントフォーム
評価する
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • リセット
米や※または#の後に数字を入力するとコメント欄へのアンカーが表示できるかも。