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トップページモバマス > 【デレマス】奈緒「シンデレラガールズ」:後編

245: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:10:11.43 ID:MxKyCuZT0

第8話 すかうてっどがーるず!(前編)



―――346プロ アイドル部門事務所


P「みんな、自分たちのユニット名を決めてくれ」

奈緒「ユニット名?」

加蓮「私たちが決めるの?」

まゆ「プロデューサーさんが決めるのではないんですか?」

P「それでもいいんだけどな。自分たちのユニット名なんだから、自分たちで決めた方がいいだろ?」

美嘉「それは確かにそうだね」

楓「いつまでに考えれば?」

P「そうですね……期限は日曜の朝までで。つまり今日を入れて、あと4日だな。そんだけあれば何かしら思いつくだろ?」

ありす「何かしらって……」

みく「思いつかなかったら?」

P「そん時は俺がテキトーに決める」

加蓮「テキトーに決められるのはやだなぁ……」

奈緒「でもユニット名かー、悩むな」

前スレ
【デレマス】奈緒「シンデレラガールズ」:前編

246: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:10:55.27 ID:MxKyCuZT0



―――レッスン室 休憩中


奈緒「うーん……いいのが全然思い浮かばない」

加蓮「加蓮と奈緒だから……加奈?」

奈緒「ユニットっぽくなくないか? 普通に人名だろ、それ」

加蓮「じゃあ苗字から取って、北条と神谷で……北神」

奈緒「神になってどうすんだ!」

加蓮「もう、奈緒さっきから文句ばっかりじゃん。奈緒も何か案出してよ」

奈緒「え? えーっと…………ゴッドノゥスとかは?」

加蓮「さっきの英語にしただけだし……ボツ」

奈緒「あーっ! いいのが全然浮かばない!」

美嘉「2人とも、随分悩んでるねー」

加蓮「まあねー……そっちはどう?」

美嘉「アタシたちも、まだ全然決まりそうにないよ」

奈緒「やっぱ悩むよなー」

みく「……あっ、いいの思いついた!」

美嘉「え、なになに?」

みく「プリティー☆ネコチャンズ!」

美嘉「ほら、こんな感じで決まらないんだ」

奈緒「そっち大変だな」

みく「美嘉チャン、だめ?」

美嘉「あはは……じゃあ1案として残しておこっか。楓さんは、何かないですか?」

楓「そうね……バスというのはどう?」

美嘉「バス? なんでバスなんです?」

楓「ユニット名がバスで、ユニットバス。……ふふっ」

美嘉「……ほら、こんな感じで決まらないんだ」

奈緒「マジでそっち大変だな」


247: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:11:54.26 ID:MxKyCuZT0



加蓮「ありすちゃんたちも苦戦してるみたいだよ」



ありす「う―ん……いいのが全然浮かびません」

まゆ「PDCというのはどうでしょうか?」

ありす「PDC? どういう意味ですか?」

まゆ「プロデューサーさん大好きクラブの略です♪」

ありす「そんなの嫌です!」



奈緒「あっちはあっちで難航してるなぁ……」

加蓮「うーん、何かいいのないかなー……」

美嘉「あ、じゃあさっきのみくちゃんの案、加蓮たちにあげるよ」

奈緒「いらないけど⁉」

みく「みくあげていいなんて言ってないよ⁉」

美嘉「まあまあ、みくちゃん。さっきのやつさ、プリティーの部分が加蓮の名前とかかってるでしょ?」

みく「……あ、そっか。プリティーは日本語で可憐って意味だもんね。確かに加蓮ちゃんにぴったりにゃ」

美嘉「だからプリティーをそのままにして、あとは奈緒ちゃんの名前をどこかに入れたら、ユニット名として使えるんじゃない?」

加蓮「なるほどね。なら、ネコの部分を奈緒に変えよっか」

美嘉「じゃあユニット名は――」



加蓮・美嘉『プリティー☆ナオチャンズ!』



奈緒「それあたしが可愛いみたいになってるじゃん!」

加蓮「ぷふっ。奈緒ったら、自分で自分のこと可愛いって言ってるし」

美嘉「ウケるー☆」

奈緒「ウケるじゃねーよ! そんな痛々しいユニット名に誰がするか!」

加蓮「いいじゃん、奈緒可愛いよ?」

美嘉「うんうん、可愛い可愛い」

奈緒「か、可愛いとかないから! テキトー言うなぁっ!」

楓「ふふ、奈緒ちゃん可愛いわ」

みく「そうにゃ、奈緒チャン可愛いよ。……ネコチャンには負けるけど」

奈緒「だ、だから、可愛いとか言うなって……」



『かーわいいっ! かーわいいっ! かーわいいっ!』



奈緒「や、やめろぉ――――――――――――っ!」

ルキトレ「……そろそろレッスン再開しますよー」



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248: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:13:18.17 ID:MxKyCuZT0



―――事務所


奈緒「ちくしょうっ、みんなしてあたしをからかいやがって!」

卯月「た、大変だったんだね、奈緒ちゃん」

加蓮「別にからかってないよ。可愛いって言っただけでしょ?」

奈緒「あの可愛いコールはからかい以外の何物でもないだろっ! 新手のいじめか!」

加蓮「ホントに可愛いのに」

奈緒「卯月~、加蓮がいじめる~っ!」


あたしはしつこい加蓮から逃げるように、卯月に泣きついた。


卯月「ふぇっ⁉ か、加蓮ちゃん、そのくらいにしない?」

加蓮「ふふっ、だって可愛いんだもん。卯月もそう思うでしょ?」

卯月「え? えっと……」


あたしは若干涙目になりながら、卯月を見上げる。



奈緒「う、卯月ぃ~……!」



卯月「可愛いですっ!」

奈緒「まさかの裏切り⁉」

未央「かみやん、なら今度は私の胸に飛び込んでおいでっ!」

奈緒「……もういいや、飽きた」

未央「うん、どうせ来ないだろうなーとは思ってたけどね!」

凛「……この茶番、いつまで続くのかと思ったよ」

奈緒「あたしがからかわれたのはホントだぞ。ったく……何がプリティーだ。そういうのはありすのが似合ってるだろ」

ありす「突然私に振らないでください! 何ですかプリティーって⁉」

奈緒「ありすたちのユニット名、プリティー☆ありすチャンズ!……なんか、魔法少女っぽいな」

ありす「勝手に変なユニット名を付けないでください……あれ? まゆさんはどこに……」



まゆ「プロデューサーさん。ユニット名、PDCというのはどうですか?」

P「PDCか。何の略か分からんが、いいんじゃないか?」



ありす「いいわけないです! それは嫌だって言ったじゃないですかぁーっ!」


ありすはまゆのもとへ、とたとたと走っていった。


249: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:14:46.92 ID:MxKyCuZT0



奈緒「……ありすも大変だな」

加蓮「ねぇ、未央たちは何かいい案ない?」

未央「そうだなぁ……」

凛「ユニット名か……」

卯月「そういえば、私たちの時も悩んだね」

凛「うん、色々なアイデアを出したっけ」

未央「そうだったねー。……ぷふっ!」

凛「? 未央、どうして今こっち見て笑ったの?」

未央「くふふ……そうだ、いい案があるよ」

奈緒「未央、いい案ってなんだ?」



未央「プリンセスブルー!」



凛「⁉ そ、それは忘れてって言ったでしょ!」

未央「あれ、そうだったっけ?」

凛「未央~っ……!」

未央「きゃ~、しぶりんこわい~!」

奈緒「なんだなんだ?」

卯月「プリンセスブルーは、ニュージェネのユニット名を考えている時に凛ちゃんが出した案なんだ」

加蓮「え、凛の案なの?……ぷふっ」

凛「もう、加蓮まで笑わないでよ」

加蓮「ご、ごめんごめん。いいユニット名だったから、つい笑っちゃって」

凛「絶対そんなこと思ってないよね」

奈緒「いや、今まで出た案の中じゃ、一番マシな気がするぞ。……これでいっちゃう?」

加蓮「いいかもね」

凛「やめて」



奈緒・加蓮『私たち、プリンセスブルーです!』



未央「わー、ぱちぱちー」

卯月「ぱちぱちー」

凛「なんで卯月まで拍手とかしてるの⁉」

卯月「あっ⁉ つ、つい……ごめんね、凛ちゃん」


250: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:15:40.10 ID:MxKyCuZT0



凛「もう……みんな、そろそろからかうのやめてよ」

奈緒「ま、からかわれるウザさはあたしもよく分かるし、こんぐらいで勘弁してやるか」

加蓮「だね、私もやめるよ。良かったね、凛」

凛「どうして上から目線なんだか……」

未央「まあまあ、しぶりん」

凛「まあまあ……? この流れを作った元凶が、よくそんなこと言えるね?」

未央「お、おぉふ……。しぶりんの体から殺気が……そ、そうだ。今日私、料理当番だった!食材買いに行かなきゃ!」

凛「あっ、逃げる気……⁉」

未央「当番だから仕方ないよ!……あ、みくにゃん、荷物持ち付き合って!」

みく「えぇー……もう、しょうがないなあ」

未央「じゃ、また明日ねー!……明日には忘れててねー!」

凛「絶対忘れないから!」

奈緒(あたしたちがからかったことは、もう忘れてそうだな)

加蓮(怒りの矛先、全部未央に向いてるっぽいしね。ラッキー♪)

凛「―――奈緒、加蓮。言っておくけど、2人がからかってくれたことも忘れてないからね」

奈緒・加蓮『ごめんなさいでした!』


251: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:17:22.87 ID:MxKyCuZT0



―――その日の夜 女子寮 奈緒の部屋


奈緒「未央、一人だけ逃げやがって!」

加蓮「あの後私たち、凛に正座させられて説教まで聞かされたんだから!」

未央「し、しぶりんそこまで怒ってたんだ。からかいすぎたかな……?」

奈緒「卯月が止めてくれたから、案外早く済んだけどさ」

加蓮「あの時は卯月が女神に見えたよ」

未央「おお、さすがしまむー」

奈緒「……ていうか、結局ユニット名決まんなかったな」

加蓮「まあまだ時間はあるし、焦ってもいいの思いつくわけじゃないじゃん」

奈緒「うーん……でも早いとこ決めたいよなぁ」



ありす「早く決めないと……本当にPDCになってしまいます……」



いつの間にか、部屋の中にどんよりとした目のありすが佇んでいた。


奈緒「……ありす、いつの間に来てたんだ?」

ありす「うぅ……あんなユニット名嫌ですぅっ!」

加蓮「おー、よしよし」


《ガチャ―――》


まゆ「すみません」

みく「ありすチャンいるー?」

奈緒「加蓮の胸で泣いてるぞー」

まゆ「そ、そこまで嫌がられるとは思いませんでした……。ごめんなさい、ありすちゃん。ちゃんと2人で、いいユニット名を考えましょう?」

ありす「うぅ……分かりました」

まゆ「それでありすちゃん―――」



まゆ「ユニット名のどこかにプロデューサーさんは入れていいですか?」



ありす「駄目ですっ!」

加蓮「これはまだまだかかりそうだね」

奈緒「だな。さて、あたしたちはどうするか……」


252: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:17:54.58 ID:MxKyCuZT0



―――翌日 街中


奈緒(今日一日、学校でも考えてたけど、いまいちいいのが浮かばないなぁ。こうなったら、本当にプリンセスブルーで……凛が怒りそうだから、それはやめとくか)

奈緒「う~ん……いっそシンプルに……いや、やっぱり凝った方が……ん?」



???「う~、お、重い……」



奈緒(なんか、ちっちゃい子が両手いっぱいに買い物袋ぶら下げてるぞ……買いすぎだろ)

少女「ぐぬぬぬぬ……よいしょ、よいしょっと……あ~、めんどくさがってこんなに買い込むんじゃなかった……う~、手がもげそう……。誰か手伝ってくれたらいいのに……って、いないか……」

奈緒(確かに周りには誰もいないな……あたし以外は)

少女「……あぅっ!……チラッ、チラッチラッ。誰か、優しい人が手伝ってくれないかなー……」

奈緒「わざとらしいな!」

少女「チラチラッ。誰か、手伝って、くれないかなー……?」

奈緒「もうそれいいから! いいよ、手伝ってやるよ」

少女「え? 手伝ってくれるの? なんていい人なんだ……! ありがとう~♪」

奈緒「しらじらしいな!」

少女「じゃあ、そこのマンションのエレベーターまで、よろしく~♪」

奈緒「全部あたしに持たせようとすんなよ! 少しは持てよ!」

少女「……けちくさいなぁ」

奈緒「聞こえてるけど⁉……ったく、なんでこんなに買ったんだ? おつかいにしては多すぎだろ」

少女「おつかい? 違うよ、これは自分で買ったやつ」

奈緒「自分で?」

少女「家でだらだら引きこもるために、一週間分の食料を買い込んだんだよー」

奈緒「なるほど、確かにこれだけあれば―――って引きこもる⁉ なんで一週間も引きこもるんだ⁉」

少女「? だから、だらだらするためって言ったじゃん」

奈緒「そんな理由⁉ その歳でニートかよ!」

少女「ニートに歳は関係ないでしょ」

奈緒「いやいや、小学生がニートとかさすがに――」

少女「小学生?……そっか、そう見えるか。私、これでも高校生だよ」

奈緒「え、そうだったのか⁉」

少女「人を見かけで判断するのはよくないね」

奈緒「た、確かにそうだな。小学生とか勘違いして、悪かったよ」

少女「別にいいよ、これ持ってくれれば」

奈緒「そんなに持ちたくないの⁉ あー、じゃあもういいよ、持ってやるよ!」


253: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:18:35.24 ID:MxKyCuZT0



少女「……なんかさっきからすごいツッコむね。疲れないの?」

奈緒「疲れるよ! ツッコませるようなこと言うからだろ!」

少女「別に毎回ツッコむ必要はないと思うけどなぁ」

奈緒「言われてみれば……なんかもう無意識にツッコんでるな、あたし」

少女「それにしてもあんた、わざわざ人を手伝おうなんて、お人好しだね」

奈緒「あれだけしらじらしい演技しといて、よくそんなこと言えるな……」

少女「だって、それでも無視することできたのに。本当に手伝ってくれるとは思わなかったよ」

奈緒「あんなのほっとけないだろ。こんなに荷物あるのは、事実なんだから」

少女「やっぱりお人好しだね。あ、お礼とかできないから、期待しないでね~」

奈緒「もとから期待なんてしてないけど、自分で言われるとむかつくなぁ」

少女「……あ、そうだ。やっぱりお礼あげるよ」

奈緒「なんで急に気が変わった? すげぇ怪しいんだけど」

少女「ほら、これがお礼の――」



杏「杏のスマイル♪ プライスレス♪」



奈緒「すげぇ⁉ なんてまぶしい愛想笑いなんだ!」

杏「荷物を運んでくれて、ありがとうございましたー♪」

奈緒「さっきと全然キャラが違う! し、知らなかった……人はここまで愛想を振りまくことができるのか!」

杏「ふぅ……おしまい」

奈緒「あ、戻った。今のすごいな」

杏「あれこそ杏の、本気の外向きの顔だよ」

奈緒「あんなのが出来るとは……待てよ? あれならもしかして……」

杏「どうしたの? 早くエレベーターまで運んでよ」

奈緒「分かってるって。でもその前にちょっと話があるんだけどさ。えっと……名前、杏って言うのか?」

杏「そうだけど、話って何? 長いのは付き合ってられないよ」

奈緒「杏さ……」



奈緒「アイドルやらないか?」
杏「やらない」



奈緒「即答⁉」


254: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:19:35.14 ID:MxKyCuZT0



杏「何を言い出すのかと思えば、アイドル? そんなのやるわけないよ。働くのなんて、ありえないから」

奈緒「発想がニートすぎだろ……」

杏「ていうか、なんでアイドルやるかとか聞いてきたの?」

奈緒「実はあたし、アイドルやっててさ。……デビューはまだ先だけど」

杏「へー、アイドルやってるんだ」

奈緒「え、信じてくれるのか?」

杏「え、信じない方が良かったの?」

奈緒「そうじゃないけど、いきなり信じてもらえたの初めてだ。今まではそそくさとその場から離れようとされたり、鼻で笑われたりしてたからさ……」


脳裏に浮かぶのはツインテとちびっ子。


杏「ま、いきなりアイドルとか言われたら『何言ってんだこいつ』ってなるよね」

奈緒「だからあたしは今、猛烈に感動してる……信じてくれてありがとう!」

杏「ど、どういたしまして……?」

奈緒「それじゃあ、話の続きだけど……あたしの所属してる事務所、今アイドル募集してるんだ。で、良さそうな子見つけたらスカウトしろって社長に脅は――頼まれててさ。それで杏にアイドルやらないかって聞いたんだよ」

杏「ふーん……まあ、頑張ってね。残念だけど、杏はやる気ないから」

奈緒「駄目かー……さっきのあれ、アイドルに向いてると思ったんだけどなぁ」

杏「杏はそもそも、働くのが向いてないんだよ」

奈緒「駄目人間だ! 駄目人間がここにいる!」

奈緒(うーん……どうにかして興味持たせられないかなぁ。スカウトもそうだけど、こいつ、ほっといたらマジで駄目な大人になりそうだ。……既に大分手遅れ感はあるが)

奈緒「杏……働きたくないんだよな?」

杏「そう言ってるじゃん」

奈緒「でも、お金がなきゃ生きていけないよな?」

杏「まあ、それはそうだね」

奈緒「……印税って、知ってるか?」

杏「知ってるけど、それがどうし―――ま、まさか⁉」

奈緒「気付いたか。トップアイドルになれば、印税ががっぽがっぽ入る。印税だけで、一生暮らせるくらいに!」

杏「一生……!……い、いや、騙されないぞ! 印税なんて、数%しか入らなかったはず!」

奈緒(げっ、そうだったっけ⁉)

奈緒「た、確かにそうだけど、それでもかなりの額になるって。そ、それにアイドルは印税だけじゃないぞ。他にもえーっと……グッズとか、そういう収入源があるんだ」

杏「とかって何⁉ なんかふわっとしてない⁉」

奈緒(まずい……そういうのよく分からない! せっかくいけそうなのに……いや、こうなったらこのまま押し切る! そういう説明は後でプロデューサーにさせりゃいいんだ!)

奈緒「よ、よく考えてみろ、杏!」



奈緒「アイドルなんて、そんな何十年も続ける仕事じゃない! たかだか数年働くだけで、あとの人生遊んで暮らせるんだぞ!」



杏「な、なんだって―――――――――――――っ⁉」

奈緒「目指せ、不労所得!」

杏「ふろう……しょとく……!」

奈緒「どうだ、それでもアイドルやらないか?」

杏「アイドル……やろうじゃないか! 目指すは印税生活! 不労所得! だらだらし放題だー!」


255: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:20:14.87 ID:MxKyCuZT0



―――346プロ アイドル部門事務所


奈緒「おはよーっす」

P「おう、おはよう」



杏「印税貰いに来ましたー♪」



P「なんだその子⁉ 印税⁉ 何言ってるの⁉」

奈緒「久々にスカウトしてきたんだよ」

P「す、スカウト? じゃあその子アイドルに―――」

杏「……あ、もう無理。ここに来るので大分疲れた……そこのソファ借りるね」

P「いきなりソファで寝ちゃったぞ⁉ この子、本当にアイドルやる気あるのか⁉」

奈緒「あー、いや、その―――」


―――説明中


P「なるほど……お前、スカウトの仕方酷いな。印税で釣るとか……」

奈緒「し、仕方ないだろ! それしか食いつかなかったんだから!」

P「うーん……でもそんなんで大丈夫なのか? 正直――」

杏「すぴ~……」

P「この姿を見るに、不安しかないんだけど」

奈緒「ま、まあ気持ちは分かるけどさ。ほら、さっき写真撮らせてもらったんだけど……これ見てみ」

P「ん?……まぶしっ⁉ 何その笑顔満開の子⁉ え、それこの子⁉ 別人じゃん!」

奈緒「この営業スマイル、かなりの武器になるよな?」

P「そ、そうだな。ここまでの営業スマイルが出来る子は、そうそういない」

奈緒「いけそうだろ?……本人のやる気さえあれば」

P「ああ、いけるかもな。……本人のやる気さえあれば」



杏「すやすや……」



奈緒・P『やる気さえ、あればね……』


256: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:20:54.35 ID:MxKyCuZT0



―――数十分後


加蓮「で、まだ寝てるんだ」

奈緒「そ」

杏「……むにゃ、もう眠れないよ……」

奈緒「なら起きろよ!」

加蓮「ま、その子のことは分かったよ。それより奈緒、ユニット名いいの思いついた?」

奈緒「え?……思いついてないです」

加蓮「もう、しっかりしてよね。私も思いつかなかったけど」

奈緒「それでよくしっかりしてとか言えたな!」

加蓮「だって……うーん、意外と思いつかないよね」

P「お前ら、ちょっと考えすぎじゃないか? もっとフィーリングとかで決めてもいいんだぞ」

奈緒「そんなこと言ったって、一度決めたら変えられないわけだろ?」

P「そりゃそうだけどな。でもよっぽど変なのじゃなきゃ、気にすることないって」

奈緒「……じゃ、もっと気楽に考えるか?」

加蓮「そうしよっか。悩んでても、疲れるだけだし」

P「ま、決まったら教えてくれ」

加蓮「りょーかい、プロデューサー」

P「それと――」

杏「……あめ……」

P「この子は俺とちひろさんで見とくから、レッスン行ってきていいぞ。起きたら、色々と説明したいし」

奈緒「じゃあ、頼んだ。……いつ起きるか分からないけど」

P「早く起きてくれないかなぁ……」


257: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:21:42.96 ID:MxKyCuZT0



―――さらに翌日の朝 事務所前


奈緒「結局これだってのは思いつかなかったな……」

加蓮「明日には決めなきゃなんだから、頑張って考えてよ」

奈緒「だから加蓮も思いついてないだろ⁉ あたしだけのせいみたいに言うなよ!」

みく「みくはあと少しで何か思いつきそうな気がするにゃ……」

未央「みくにゃん、昨日もそんなこと言ってたよ」

ありす「だからまゆさん。お願いですから、何かにつけプロデューサーをユニット名に入れようとするのやめてください」

まゆ「分かってはいるんですけど、なぜかプロデューサーさんが入っちゃうんです」

ありす「無意識だったんですか⁉」

加蓮「これみんな大丈夫なのかな?」

奈緒「やばいかもなぁ……」


《ガチャ―――》


奈緒「おはよーっす」

???「おはよう。その顔は、何か悩み事かしら?」

奈緒「ああ、そうなんだよ―――って誰⁉」

加蓮「え、何? またそのパターン?」

未央「この事務所、ちょいちょい知らない人が何食わぬ顔でいるよね」



???「え……私のこと、忘れちゃったの……?」



奈緒「えっ⁉ ど、どこかで会ったかな……えーっと………………悪い、思い出せな――」

???「まあ、初対面なんだけれど」

奈緒「じゃあ忘れたも何もないじゃねーか! あたしの謝罪返せ!」

???「ふふっ、あなたも面白いわね」

奈緒「それ褒めてないよな⁉」

P「おっ、寮組来たのか」

奈緒「プロデューサー、この人誰だよ?」

P「少し待て。みんな来たら紹介するから」

奈緒「みんな来たらって……それまでもやもやするだろ」

P「まあ、簡単に言うと……うちの新人アイドルだ」


258: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:23:07.08 ID:MxKyCuZT0



―――十数分後


奏「速水奏よ。よろしくね」

P「というわけで、奏だ。俺がスカウトしてきた。……俺が!」

凛「別に強調しなくていいよ」

P「だって最近奈緒ばっかりスカウトしてくるだろ? 俺も負けてられないからな」

奈緒「勝手にライバル意識持つなよ……別にあたしの負けでいいよ」

P「ほーお? さすがスカウト部長さんは余裕がありますねぇ」

奈緒「だからあたしそんなのになった覚えないから!」

P「そのわりにスカウトしてくるんだよな……」

ちひろ「それにしてもプロデューサーさん、いつスカウトなんてされたんですか? 昨日は一日、事務所で仕事漬けでしたよね?」

P「昨日は仕事終わりにちょっと出かけたんですけど、そこで偶然奏と出会ったんですよ」

凛「仕事終わりって、もう遅いよね……。どこに行ってたの?」

P「ちょっと海にな」

奈緒「なんで仕事終わりにそんなとこ行ってんだ。しかも、この前海行ったばっかじゃんか」

未央「プロデューサーって、時々突拍子もない行動とるよね」

奏「ああ、やっぱりそうなのね」

ありす「やっぱり? 奏さんの前でも既に、突拍子もない行動をしてるんですか?」

奏「ええ、あれは今思い出しても……ふふっ」

みく「何したの、Pチャン?」

P「いや、特に何もした覚えはないぞ?」



奏「あら、冷たいのね? 昨日はあんなに激しく私を求めてきたのに」



P「なっ⁉」

凛・まゆ『⁉』

凛「プ、プロデューサー、どういうこと⁉ 答えて!」

P「お、落ち着け、誤解だ! みんな、今のはスカウトのことだ!」

まゆ「そ、そうですよね。プロデューサーさんがそんなこと――」



奏「誤解? ふぅん……昨日は、私にキスをくれたのに?」



凛・まゆ『キス⁉』

加蓮「うわぁ……2人とも固まっちゃったよ」

奈緒「あたしも結構驚いてるけどな。……あ、やばい、凛とまゆの目が妖しい光を灯し始めたぞ」


259: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:23:55.25 ID:MxKyCuZT0



凛「……プロデューサー、キスってどういうこと……?」

まゆ「本当に、したんですか……?」

P「い、いやしたとかじゃなくて――」



奏「とっても甘いキスだったわ……まだ舌が味を覚えてるくらい」



P「何言い出すの⁉」

凛「舌⁉」

まゆ「味⁉」

加蓮「あ、口から魂出てきた」

未央「うおぉう、生々しいね……」

美嘉「舌ってあれだよね。いわゆる……うぁ……っ」

未央「美嘉ねーはしたことあるの?」

美嘉「うぇ⁉ あ、アタシは……ふふ、未央の想像に任せるよ」

未央「ひゃー! 美嘉ねー、おっとなー!」

みく「ありすちゃんにはまだ早いにゃ」

ありす「? ? どうして耳を塞ぐんですか?」

凛「プロデューサー……したんだ……キス……」

まゆ「プロデューサーさん……まゆ以外に……」

奈緒「初対面の女子高生にキス、か……」

加蓮「しかも舌って……」

P「そんな目で見るなよ! キスなんてしてないから!」

奈緒「この期に及んでそんなことを……見苦しいぞ」

P「ホントだよ! 奏、そろそろ勘弁してくれ! ホントのことをみんなに!」

奏「あら? 私はさっきから嘘なんてついていないけれど? キス、くれたわよね?」

P「いやまあね⁉ あげたけどね⁉」

奈緒「ついに認めたか」

P「いや認めたとかじゃないんだよ! 言っただろ、あげたって! 表現おかしいことに気付け!」

奈緒「今さらそんなことを――」

加蓮「いや待って。確かにちょっとおかしくない? キスを『した』なら分かるけど、『あげた』って……それに奏もさっきからキスを『くれた』とは言ってるけど、キスを『された』とは一言も言ってなくない?」

奈緒「……そういえばそうだな。どういうことなんだ?」

P「だからそもそもキスなんてしてないんだよ! 俺は……」



P「魚のキスをあげただけなの!」



『……は?』

奈緒「さ、魚の……キス?」

加蓮「……待って、状況が全然理解できない」

P「だから昨日はな―――」


260: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:24:21.74 ID:MxKyCuZT0



―――昨夜 海岸


P「ふんふーん♪……到着!」

P(いやー、たまにはこういうのもいいよなぁ。1人でまったりと、静かに夜釣り。別に賑やかなのは嫌いじゃないけど、うちの事務所賑やかすぎるからな。たまには静かなのもいいもんだ)

P「さーて、どこで釣るか……いいポイントないかなーっと……ん?」

P(あそこ、誰かいるな。こんな時間に海岸に……釣り仲間かな? いや、それにしてはシルエットがおかしいような……あれ、女の子じゃね? こんな時間になんで……ちょっと心配だし、近づいてみるか)

奏「……はぁ。今日は……いろんなこと、ありすぎたな。なにがなんだか、自分でも……高校生活なんて、しょせん全部遊びなの? だとしたら……私って、なんなのかしら」

P(どうしたんだ、この子? テストの点でも悪かったのかな?……それにしても綺麗な子だな。……そうだ、スカウトするか。たまには俺もスカウトしないと……奈緒に負けてられないし。さて、どう声をかけたものか……奈緒の時のはなぜか失敗だったし……この雰囲気に合った台詞は……よし!)



P「今日は……風が騒がしいな」



奏「……?」

P(……はい、失敗。駄目だ、普通に話しかけよう)

P「ちょっと君、少しいいかな?」

奏「悪いけど、今、話しかけないでくれる? そういうの、求めてないから」

P(えぇー……普通に話しかけても駄目だったー……)

奏「いまの私、怒りと悲しさと寂しさを、ミキサーにかけたみたいな状態なの。そんな心境で、誰かと話す気分じゃないし。だから、ひどい言葉を浴びせられるのがイヤだったら……。ここからすぐに立ち去って?」

P「あ、ああそう」

P(立ち去るか……いや、でもせっかく良さそうな子を見つけたのに、おめおめと諦めるのはもったいなくないか?)

奏「……」

P(それにここで諦めると、奈緒に負けた感じが……俺のプロデューサーとしてのなけなしのプライドが無くなる気が……かろうじて残っているプライドが0に……)

奏「……。あ、待って」

P「へ?」


261: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:25:15.51 ID:MxKyCuZT0



奏「あなた、どうして私に声をかけたの? ナンパにしては……ちょっとおかしかったし」

P「わざわざこんな夜中に、海岸でナンパする奴なんていないって。俺は、芸能事務所のプロデューサーをしているんだ」

奏「プロデューサー……あなたが?」

P「そ。で、君をスカウトしたいんだよ。うちでアイドル、やらないか?」

奏「ふぅん……私をアイドルに……? 冗談でしょう。そういう人、多いのよね」

P「冗談じゃないって。俺は本物のプロデューサーだぞ。こ、この後だって、ザギンでシースー食べる予定だし」

奏「なら、早く行ったら?」

P「いや今のは嘘です、ごめんなさい!」

P(やべぇこの子、奈緒と違ってノリ悪い――いや、逆か。奈緒がノリ良すぎなんだ。初対面だろうとボケた瞬間ツッコんで来るからな、あいつ)

P「でもプロデューサーっていうのはホントなんだよ。本当に君をスカウトしたいんだ」

奏「みんな、そうやって言うのよ。でも、そうじゃない。傷つくのはいつだって言われた方なのに。そんな嘘、もう慣れちゃった」

P「これは嘘じゃないって! 本気でスカウトしてるんだよ。……説得力ないかもだけど。な、どう?」

奏「うーん、どうしようかなぁ……」

P「やろうぜ、アイドル」

奏「フフ、こうなったら、ヤケね。今日の私、おかしいから。そんなに誘いたいなら……」



奏「いま、この場で、キス……してくれる?」



P「……キス? キスが欲しいの?」

奏「してくれたら、なってもいいよ。どう? あなたにできる?」

P「……う、うーん……キスかぁ……」

奏「……なんてね。じょうだ――」



P「よし、分かった!」



奏「えっ……ホントにする気?……ふふっ、まさか乗ってくるなんて――」



P「せいっ!」


《シュッ!》



奏「⁉」


262: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:26:06.86 ID:MxKyCuZT0



P「……」

奏「……」

P「……」

奏「……何を、しているの?」

P「見て分かるだろ? 釣りだよ」

奏「それは分かっているんだけれど……このタイミングで始めた意味を教えてくれない?」

P「君が欲しいって言ったんだろ、キス」

奏「え、ええ、言ったけれど……」

P「キスが釣れるか分かんないけど、とりあえずやってみるから、少し待っててくれ」

奏「釣れる……? キス……鱚? まさかあなた……鱚を釣る気なの?」

P「ああ。見てろ、俺のフィッシングテクを!」

奏「……そう来るのは予想してなかったわ。鱚って……しかも本気みたい」

P「? 本気でスカウトしたいって、さっきから言ってるだろ?」

奏「そうじゃないわ……あっ!」

P「えっ? あっ、もう来た! くっ、中々大きいぞ…………だが……せやっ!」


《ばしゃっ!》


P「よっしゃ、釣れた!……おっ! 見ろこれ、鱚だぞ! 一発で釣れた! やっほい!」

奏「っ!……も、もう駄目ね……」

P「へ?」



奏「あははははははっ!」



P「どうした⁉」

奏「き、鱚って……そっちじゃないでしょ……! しかも本当に釣るなんて……面白すぎよ、あなた……!」

P「え、何? なんで笑ってるの? と、とにかくこれでアイドルやってくれるんだよな?」

奏「……い、いいわ、やってあげても。こんなことされたら、断れないもの」

P「やった! スカウト成功!」


263: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:26:58.55 ID:MxKyCuZT0



―――現在


奈緒「なんで夜釣りとか行ってんだよ!」

P「別に行ったっていいだろ⁉ 合宿で楓さんたちが釣りしたって聞いて、俺もやりたくなったんだよ!」

奈緒「それに鱚とか、紛らわしいにもほどがあるだろ!」

P「奏がわざと誤解させるように言ったんだ! 俺は知らん!」

美嘉「ねぇ、甘いキスって……」

奏「今日の朝に食べたんだけれど、あの鱚美味しかったわ。とっても甘いのよ」

未央「さっきのはただの朝ご飯の感想⁉」

加蓮「なーんかおかしいとは思ったよ。良かったね、凛」

凛「?……何が? 私は最初から、そんなことじゃないかと思ってたよ」

奈緒「嘘つけ」

まゆ「まゆはプロデューサーさんを信じていました」

加蓮「さっきこの世の終わりみたいな顔してなかった?」

奏「ああ、そうそう。その後にドライブデートをしたわ」

奈緒「いや、もう騙されないって」

奏「つれないわね」

楓(釣りだけに……ふふっ)

P「車で家まで送っただけだからな」

凛「……車には乗せたの?」

P「夜中だったし、その方が安全だろ?……なんでそんな目で見る」

凛「別に」

P「ま、まあいいや。みんな誤解は解けたな? とにかくそういうわけで、奏がうちに所属することになった。あと昨日来た杏もな」

加蓮「でもいないよ?」

P「いるよ……そこのソファの裏に」

卯月「……あ、ホントですね」

杏「ぐう……」

みく「寝てるにゃ。ずっとここにいたんだ」

ありす「よくこんな所で寝られますね……」


264: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/21(金) 20:27:46.86 ID:MxKyCuZT0



P「とりあえずほっとけ。さて、新しい仲間が一気に2人も増えたわけだが……社長に報告したら、もっと集めてこいと怒鳴られた」

奈緒「集めてこいって、そんなポ○モンじゃないんだからさ……」

P「俺もそう言ったんだが……なんか先輩、考えてることがあるらしいんだ」

奈緒「なんだそれ?」

P「詳しくは教えてもらってない。とにかくもっと所属アイドルを増やせってさ。奈緒にも言っとけって」

奈緒「あたしもその所属アイドルなんだけどな……」

加蓮「ま、頑張りなよ」

奈緒「他人ごと!」

P「だからみんな。俺は今日、用事済ますついでに町にスカウトに出るから。何かあったら、連絡してくれ」

卯月「はい、分かりました」

P「そして奈緒、お前も今日はスカウトに出てくれ」

奈緒「なんでだよ! あたし今日はレッスンあるんだぞ!」

P「ルキちゃんが風邪ひいたんだ。レッスン休み」

奈緒「また⁉」



つづく


270: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:09:26.31 ID:qA/IsuLu0

第8話 すかうてっどがーるず!(後編)



―――街中


奈緒「……だいたいさ、これプロデューサーの仕事じゃんか。なんであたしがやるんだ?」

加蓮「もうそれ聞き飽きたから。いい加減諦めなって」

奈緒「それにあたしたち、ユニット名考えなきゃいけないっていうのに……」

加蓮「だから私も付いてきたんでしょ。考えながらスカウトしなよ」

奈緒「簡単に言うよ……」

加蓮「事務所の仲間が増えるのは、いいことじゃん」

奈緒「そうだけどさ……。……まあ、それはそれとして」

杏「……ねむ……」

奈緒「散々寝ただろ!」

杏「……あ、そこの公園通って。近道だから」

奈緒「ああ、はいはい―――じゃなくて! なんであたしが杏をおんぶして、家まで送らなきゃいけないんだよ!」

杏「ついでだからいいじゃん」

奈緒「何のついで⁉ こっちに用なんてないんだけど!」

杏「アイドルに向いてそうな子が、その辺を歩いてるかもしれないよ?」

奈緒「そんなポンポン見つかるか!」



少女「こんにちは~」



奈緒「? あ、はい、こんにちは」

少女「ふふっ♪ いいお天気ですね」

奈緒「そうですね~」

加蓮「……知り合い?」

奈緒「初対面だと思う……。あの、どこかで会ったことありました?」

少女「? いいえ、初対面だと思いますよ?」

奈緒「あ、やっぱりそうですよね」

加蓮「なら、どうして声を?」

少女「えっ? すれちがった人にご挨拶するのは、普通のことじゃありませんか?」

杏「確かにそうかもねー。……杏はしないけど」

奈緒「おんぶしてるから、小声でもあたしには聞こえてるぞ」

少女「私、お散歩してるワンちゃんやねこさんにも挨拶しますし……もちろん、あなたたちにもっ♪」

加蓮「あははっ、そういうことですか」

杏「ねぇ、ちょうどいいし、この人でいいんじゃない?」

奈緒「ちょうどいいとか言うなよ!……でもうん、確かにいいな、この人」

少女「どうかしましたか?」

奈緒「あのー、アイドルとか興味あります?」

少女「……アイドル?」


271: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:10:31.73 ID:qA/IsuLu0



―――公園


奈緒「―――ってわけなんだよ、藍子」

藍子「そうですか、奈緒ちゃんたちはアイドルをやってるんですね」

奈緒「ああ、そうなんだ」

藍子「それで……私もアイドルをやらないかって?」

加蓮「うん、どうかな?」

杏「印税もらえるよー」

奈緒「杏、ちょっと静かにしてような?」

杏「でもお金の話は大事じゃない?」

奈緒「ま、まあそうかもだけど、いきなり生々しい話しなくてもいいだろ」

杏「杏は誰かさんに、いきなりその生々しい話されたんだけどなぁ」

奈緒「……」

杏「あとの人生遊んで暮らせるとかも―――」

奈緒「ちょっと黙ろうか!」

加蓮「……奈緒、そんなこと言ってたの?」

奈緒「そんなことより藍子、アイドルやってみる気ないか?」

加蓮「誤魔化したね」

奈緒「……。やってみる気ないか?」

藍子「そうですね……でも、私にはつとまらないと思います。目立つことは得意ではありませんし……」

加蓮「うーん、そっか……」

藍子「それに、他の子にはない特技なんて、なにもありませんから……」

奈緒「特技があればいいってわけでもないって。杏の特技なんて、だらだらすることだし」

杏「それは別に特技じゃないぞっ!」

奈緒「じゃあ趣味?」

杏「趣味とも違うね……」



杏「杏はただ、だらだらしたいからするんだよ」



奈緒「なんか深いようで浅い言葉だな……」

杏「ま、杏はともかくさ、藍子は優しいのが特技なんじゃない?」

藍子「優しい? 私がですか?」

加蓮「あ、そうだね。まだ会ってからそんな経ってないけど、藍子が優しいの分かるもん」

藍子「私の、優しさ……? そんなものが特技になるんですか? 優しいのは、誰でも普通のことだと思いますけど……」

杏「家族とか友達に優しいっていうのは、ほとんどの人がそうだろうけどさ。誰にでも優しい人は、そんなにいないと思うよ。……いや、そういえば、ここにもう一人いたね」

奈緒「……え? あたし? あ、あたしは別にそんな優しいとかじゃ――」

杏「あ、違うか。奈緒はただのお人好しだった」

奈緒「――ないし、お人好しでもないよ!」


272: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:11:01.92 ID:qA/IsuLu0



加蓮「いや、お人好しではあると思うよ」

奈緒「加蓮まで⁉」

杏「やっぱりそうなんだ」

加蓮「うん、346プロのミスお人好し」

奈緒「そんな称号持ってないよ!」

加蓮「お人好しの奈緒がアイドルやってるんだから、優しい藍子もアイドルやれるよ」

藍子「そ、そうでしょうか?」

奈緒「……前半は肯定しないけど、後半はあたしもその通りだと思うぞ。優しい人って、他の人も優しい気持ちに出来るからさ」

藍子「他の人を……」

奈緒「だから、もう一度訊く……あたしたちと一緒に、アイドルやらないか?」

藍子「……。……私が誰かを優しい気持ちにしてあげられるなら、それってきっと、すてきなことですよねっ」



藍子「だから私、高森藍子は……アイドル、やってみようと思いますっ」



奈緒「! なら、これからよろしくな、藍子」

藍子「こちらこそよろしくお願いします、奈緒ちゃん、加蓮ちゃん、杏ちゃん」

加蓮「また1人、一緒に頑張る仲間が増えて、嬉しいよ」

杏「杏は頑張らないけどね」

奈緒「台無しだろ!」

藍子「あはは……」

奈緒「はぁ……じゃあ藍子、いつでもいいから、346プロに来てくれ。これ、うちの社長の名刺。これを受付で見せて、スカウトされたって説明すれば、アイドル部門の事務所に来られるからさ」

藍子「分かりました。……あ、今から行くのは駄目ですか?」

奈緒「え、今からで大丈夫なのか?」

藍子「はい、今日はお散歩の予定だったので」

奈緒「そっか。でもプロデューサー戻ってきてるかな……少し待つことになるかもしれないけど、それでもいいか?」

藍子「はい、大丈夫ですよ」

奈緒「なら一緒に346プロまで行くか」

加蓮「じゃあ、決まりだね」

杏「でもまずは杏を家まで送ってよ」

奈緒「何言ってるんだ? 杏も一緒だぞ」

杏「そっちが何言ってるんだ⁉ どうして杏も一緒に行くことになるのさ! 杏はもう今日は事務所に用はないんだぞっ!」

奈緒「どうせ家に帰っても、だらだらしてるだけだろ? それなら、一緒に事務所まで行こうぜ」

杏「もうあそこにマンション見えてるのに⁉」

奈緒「さ、行くぞー」

杏「こ、ここまで来て帰れないのか……! 藍子の優しさ分けてもらえーっ!」

加蓮(でも奈緒、またおんぶしてくんだ……やっぱりお人好し……)


273: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:11:27.68 ID:qA/IsuLu0



―――原宿


P「……で、なんで付いてきたの?」

奏「あら、駄目だった?」

P「まあ別にいいけどさ。つまんないと思うぞ?」

奏「そう? プロデューサーさんと一緒だと、面白いことの方が多そうよ」

P「そんなに面白くないと思うけどなぁ……スカウトするだけだし」

奏「スカウトね……。女の子ならたくさんいるけど……どの子にするの?」

P「手あたり次第スカウトするわけじゃないって。『これだ!』って感じの子じゃないと」

奏「ずいぶん感覚で決めるのね」

P「感覚の方が、頼りになるからな。俺は見た目だけじゃ決めないんだ」

奏「なるほどね……プロデューサーさんはそういう人なんだ」

P「? そういう人って?」

奏「自分で考えてみたら?」

P「……イケメンということか?」

奏「っ! そ、そうね……っ」

P「笑い堪えてるじゃん! 絶対違っただろ!」

奏「ふふっ、やっぱりあなた最高よ」

P「それ褒めてるのか⁉」

奏「それも自分で考えたら?」

P「……絶対褒めてないな!」

奏「さあ、どうかしらね?」

P「だから、どうなのかを言えって―――」

奏「! 前!」

P「え?」


《どんっ!》


P「おぁっ⁉」

???「きゃんっ⁉」



奏「ちょっと、大丈夫?」

P「いつつ……ああ、俺はな」

???「いたた……」

P「すみません、怪我はないですか?」

???「にょわ?」

P・奏『(にょわ?)』


274: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:11:58.68 ID:qA/IsuLu0



???「うん、きらりんならへーきだにぃ☆」

奏(きらりんさんって言うのかしら……?)

P「た、立てます? 良かったら、掴まってください」

きらりん?「あ……ううん、大丈夫だよ」

P「そうですか?」

きらりん?「うー、よいしょっ!」

P(でかっ⁉ お、俺より身長大きかったのか……倒れてたから気付かなかった)

きらりん?「にゅ? どうかした?」

P「あ、いえ、ぶつかってしまい、申し訳ありませんでした」

きらりん?「んーん、きらりんもよそ見してたから、おあいこっ!」

P「そう言ってもらえると……」

きらりん?「それじゃ―――」



P「ところで、アイドルとか興味ないですか?」



きらりん?「アイドル?」

奏「プロデューサーさん。ぶつかった相手をスカウトするのは、流石に失礼だと思うわ」

P「ま、まあそう思ったんだけど……でも『これだ!』って思って」

奏「『これだ』、ね……」

P「あの、実は私、芸能事務所のプロデューサーをしているんです」

きらりん?「プロデューサー?」

P「はい。それであなたをスカウトしたいんです。うちの事務所で、アイドルやってみませんか?」

きらりん?「え、えええっ⁉ す、スカウトって……まさかまさか、きらりんを⁉」

P「はい、きらりん――あの、お名前はきらりんさんでいいんですかね?」

きらりん?「あ、そうじゃないにぃ。名前はねー、諸星きらりって言うの!」

P「なら、きらりさん。うちでアイドルやりませんか?」

きらり「で、でも、その……きらりん、こんなおっきいし、みんなびっくりしちゃうゆ。アイドルって、ちっちゃくてきゃわゆい子じゃないと……」

P「ちっちゃくてきゃわゆい子なんて、うちの事務所にも2人しかいませんよ!」


275: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:12:32.27 ID:qA/IsuLu0



―――ちっちゃくてきゃわゆい子その1


ありす「へくちっ!」

まゆ「ありすちゃん、風邪ですか?」

ありす「いえ、大丈夫です。それより、ユニット名考えましょう」


276: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:12:59.83 ID:qA/IsuLu0



―――ちっちゃくてきゃわゆい子その2


杏「くしゅんっ!」

奈緒「おうわっ⁉ あ、杏! なんであたしの背中でくしゃみなんてするんだ!」

杏「ごめんごめん、急に出て」

奈緒「せめて横向いてしろよ!」

藍子「杏ちゃん、ティッシュ使います?」

加蓮(……奈緒、それでも降ろさないんだ)


277: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:13:29.59 ID:qA/IsuLu0



―――原宿


P「だから大丈夫です!」

きらり「……でも、こんなきらりんが、アイドルなんて、なれるわけないにぃ……」

P「いやそれは――」

きらり「も、もー! からかうと、ほっぺプニプニ! だよぉ?」

奏「からかってなんていないわ。本気よ、この人」

きらり「え……?」

奏「ね、プロデューサーさん?」

P「ああ、本気だ!」

奏「その証拠に、キスしてもいいって」

きらり「ふぇっ⁉」

P「そんなこと言ってないけど⁉」

奏「あ、するのは私によ?」

P「なんで奏にキスするんだよ! それ本気の証拠にならないだろ! むしろからかってるだろ!」

奏「なら本気の証拠ってどんなものなの?」

P「えっ⁉ え、えーっと……きらりさん、私の目を見てください! この目は本気の目ですよ!」

きらり「め、目?」

P「じー……!」

きらり「え、えぇっとぉ……」

P「じぃー……!」

奏(っ……やっぱり面白いわ、この人)

P「じぃいー……!」

きらり「も、もういいにぃっ! 本気、十分伝わったから!」

P「分かってもらえましたか!」

奏(見つめられて、照れただけの気がするけど……)

きらり「本気の本気だって言うのは、分かったけど……こんなきらりんが、アイドルになれるの?」

P「さっきから『こんな』とか言ってますけど、そんなに自分を卑下しなくていいですよ。きらりさんがアイドルになれるってこと、私が保証しますから」

きらり「……うん、分かった! そこまで言ってくれるなら、やってみるにぃ!」

P「そうこなくっちゃ!」

奏(あら、本当に上手くいっちゃった。……プロデューサー、意外と人を乗せるのが上手いのね。ふふっ、考えてみれば私も乗せられたようなものだし)

P「きらりさん、この奏もうちのアイドルなんですよ」

きらり「え、そうなの?」

奏「一応ね」

きらり「じゃあ、これからよろしく……おにゃーしゃー☆」


278: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:13:59.72 ID:qA/IsuLu0



―――346プロ前


藍子「おっきいビルですね……ここが346プロなんですか?」

奈緒「ああ、この中にあたしらの事務所があるんだ」

杏「本当にここまで戻ってくるとか……」

加蓮「まあ、また奈緒が送ってくれるよ」

杏「……ならいっか。杏は疲れないし」



???『Pちゃん、あそこのおっきいビルがそぉ?』

P『ああ、あれが346プロだ』



杏「ん? なんだ?」

奈緒「……あ、プロデューサーと奏じゃん」

奏「あら、奈緒たちじゃない」

P「事務所の前でどうしたんだ?」

奈緒「スカウトした藍子を連れてきたんだよ」

P「へぇ、それならちょうど良かった。俺たちもそこにいるきらりを―――何してんの、きらり?」

きらり「じー……」

杏「な、何? 杏のことじっと見て」



きらり「ちっちゃくてきゃわゆいーっ!」

杏「なんだぁっ⁉」



奈緒「うぉっ⁉ 杏がもぎとられた!」

きらり「Pちゃん! この子がPちゃんの言ってた、ちっちゃくてきゃわゆい子?」

P「あ、ああ、そうだけど」

きらり「本当に、ちっちゃくてきゃわゆいっ! きらりん、はぴはぴしちゃうにぃ!」

杏「は、放せ~っ! 杏は、杏はぬいぐるみじゃないぞっ!」

加蓮「す、すごい子スカウトしてきたね」

奏「中々の逸材だと思うわよ?」

藍子「こ、これが、アイドルなんですね……!」

奈緒「否定しようと思ったけど、うちの事務所わりと濃いのもいるから否定できない!」


279: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:15:08.66 ID:qA/IsuLu0



―――346プロ内 廊下


きらり「♪」

杏「どうしてこうなった……」

奈緒「良かったじゃんか、きらりに運んでもらえて」

杏「これは違くない⁉ 脇に抱えられるのは荷物と扱いが変わらないぞ!……あ、でも楽」

加蓮「楽ならなんでもいいんだ……」

藍子「アイドル部門事務所……あの部屋がそうですか?」

奏「ええ、そうよ」

P「藍子もきらりも、中で詳しい話をさせてもらうな」


《ガチャ―――》



少女「ようやく戻ってきましたね!」



P「……え、誰? 奈緒、お前がスカウトしたのか?」

奈緒「いや、知らないぞ」

加蓮「今日このパターン2度目だよね」

奈緒「もういいよなぁ。さすがに飽きたって」

少女「なんですかその扱いは⁉ 初対面なのに、ボクに対して失礼じゃないですか⁉」

P「あ、もしかして君……」

少女「ふっ、気づいたようですね。そうです、ボクは――」



P「不法侵入者?」



少女「そうなんですよー! ちょろっと警備の目をかいくぐって―――って、違いますよ! さっきから本当に失礼じゃないですか⁉」

P「あ、そうだ。ちひろさんに聞けばいいんだ。ちひろさーん!」

少女「ボクを無視しないでください!」

ちひろ「ふぁぁ……はい、プロデューサーさん。どうかしましたか?」

P「……もしかして寝てました?」

ちひろ「そんなわけないじゃないですか」

少女「嘘です! さっきからそこのソファで居眠り――」

ちひろ「あ、そこの彼女は不法侵入者です」

少女「――なんてしてなかったですよー! ボクが保証します、ちひろさんはずっと起きてましたとも!」

ちひろ「あ、不法侵入者ではなく幸子ちゃんでしたね。ついうっかり間違えちゃいました」

幸子「しらじらしいですね!」


280: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:15:43.90 ID:qA/IsuLu0



P「ちひろさん、誰なんですこの子?」

ちひろ「彼女は輿水幸子ちゃんと言いまして、社長曰く……『未央ちゃんの再来』らしいです」

P「未央の……再来?」

奈緒「そ、それどういう意味だ?」

加蓮「アイドルとしての才能が、未央と同じくらいにあるってこと?」

P「つまり、期待の新人ということですか?」

ちひろ「いえ」



ちひろ「未央ちゃんと同じように、アイドルオーディションと間違えて別のオーディションを受けに来たそうです」



『…………』

幸子「な、なんですかその残念なものを見る目は! カワイイボクをそんな目で見ないでください!」


281: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:16:51.60 ID:qA/IsuLu0



―――数時間前 オーディション会場


幸子「はい! 1番、輿水幸子です!」

社長「では、志望動機を……いや待て、輿水幸子?……君の番号は10番じゃないか?」

幸子「え? だってここに1……はぁ⁉……ぜ、ゼロがついてた」

社長「……」

他の面接官『……』

他の志望者『……』

幸子「い……い……いやいやいや、勘違いしてもらっちゃ困りますね!」

社長「勘違い?」



幸子「『一番』っていうのは、オーディションの順番ではなく『ボクが一番カワイイ』ってことですから!」



会場の全員『(なんか無茶苦茶な言い訳し始めた!)』

幸子「そうなんです。ボクは何でも一番! ハッキリ言って、ボクが一番カワイイでしょう! 成績で言っても……たぶん一番、身長順で並んでも一番です!」

社長「身長順で一番って、それむしろワースト――」

幸子「というか、アナタたちは相当にラッキーですね! ボクは将来、世界を席巻するであろう存在! そんなボクをオーディションで見つけ出せたわけですから!」

社長「……あ、うん。そうだな」

面接官A(社長、このまま続けるんですか? 番号10番なのに)

社長(今更やめさせるのも面倒だ。どうせ後でやることになるんだし、このまま続ける)

社長「……じゃあ次に特技でも言ってくれ」

幸子「え? 特技……ですか? んー? ノートの清書です! 趣味であり、特技ですからね!」

会場の全員『(趣味であっても特技とは違う気が……)』

幸子「世界で一番カワイイ、このボクの存在自体が、もはやスペシャル。ナンバーワンでありオンリーワン、それがボクなんです。だから、特技とか細かいことは気にしないでください!」

社長「……そうか」

幸子「それより、このオーディション会場にプロデューサーさんはいないんですか?」

社長「……なんて?」

幸子「プロデューサーさんですよ、プロデューサーさん。ボクの不安は、たったひとつだけです。それはプロデューサーさんが、この超新星・輿水幸子を、ちゃんとプロデュースできるか? ということだけです!」

社長(おい、嫌な予感がしてきたんだが……)

面接官A(私もです……)



幸子「ボクをちゃんとトップアイドルにすることが、ここのプロデューサーさんにできますか? どうなんですか⁉」



社長「……」

他の面接官『……』

他の志望者『……』

幸子「……あれ?」


282: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:17:41.65 ID:qA/IsuLu0



社長「……すまない、よく聞こえなかった。今の、もう一度聞かせてくれるか?」

幸子「あ、はい。えー、こほん……ボクをちゃんとトップアイドルに――」

社長「もういい分かった」

幸子「まだ途中ですけど⁉」

社長「……おい、お前もやっぱり聞こえたか?」

面接官A「……やっぱり聞こえました」

面接官B「またかよ……」

志望者A「嘘でしょ……」

志望者B「とんでもないわね……」

幸子「? ? な、何かおかしなこと言いましたか?」

社長「……君、これが何のオーディションか分かっていないだろう?」

幸子「はい? 分からないのに来たりしませんよ。所属アイドルを決めるオーディ―――」



社長「違う! 所属女優を決めるオーディションだ!」



幸子「……え?」

社長「……」

他の面接官『……』

他の志望者『……』

幸子「……。…………し……」



幸子「知ってましたよ⁉ あえてですよ、あえて!」



会場の全員『あえて⁉』

幸子「ほ、ほら、カワイイボクともなれば? 女優としても余裕でやっていけますし? あえて、女優のオーディションを受けてみるのも悪くないかなーと。あえて」

社長「嘘つけ、お前」

幸子「う、嘘じゃないですよっ!……あ、でもやっぱりボクはアイドルになるべきですよね、こんなにカワイイんですし! というわけで……これでボクは失礼しますっ!」


《ガチャ!》


社長「……また逃げたか」

面接官A「どうするんです社長? また追いかけるんですか?」

社長「いや、面倒だ」


《プルルルル―――》


受付嬢『はい、受付です。社長、どうされました?』

社長「今から顔を真っ赤にした少女がそっちに向かうから、捕まえてアイドル部門の事務所に放り込んでおけ」

受付嬢『よく分かりませんが、分かりました』


《――ピッ》


社長「さて、面接を続けるか。じゃあ本当の番号1番から―――」


283: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:18:39.57 ID:qA/IsuLu0



―――現在


P「そうか……君はアホなんだな」

幸子「しみじみと言わないでください! このカワイイボクを捕まえてアホとはなんですか!」

P「まさか、未央と同じことをする子がいるとは……」

奈緒「なあプロデューサー、同じことって……未央も間違えたのか?」

P「ああ、未央は元々モデルオーディションを受けに来たんだ。アイドルオーディションと間違えて」

加蓮「そんな面白エピソードがあったんだ……あとでからかお」

奈緒「ほどほどにしとけよ」

P「それでちひろさん、この子がここにいるということは……」

ちひろ「社長から伝言です。『こいつ、お前がプロデュースしろ』」

P「やっぱそういうことなんだ……まあ、所属アイドルが増えるのはいいことか」

幸子「いやー、あなたは幸運ですね! この世界一カワイイボクをプロデュースできるんですから!」

P「……そーですね」

幸子「なんですかその気のない返事は! そんなんでボクのプロデューサーが務まるんですか!」

P「俺が務まらなかったら、うちに他のプロデューサーいないし、このまま君にはお帰り願うしかないわけだが……」

幸子「そういう返事もいいですよね! 気があればいいってわけじゃないですよ!」

P「何言ってんだ? 返事は気があった方がいいに決まってるだろ」

幸子「だったら気のある返事してくださいよ!」

加蓮「この子、いじられオーラが出てるよね」

奈緒「既に大分いじられてるしな」

P「ま、幸子いじりはこれくらいにするとして」

幸子「幸子いじり⁉」

P「ちょっと言うのが遅くなったが……藍子、きらり、ついでに幸子」

幸子「ついで⁉」


284: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:19:17.32 ID:qA/IsuLu0



P「346プロにようこそ! 俺とちひろさんと愉快なアイドルたちは、お前たちを歓迎するぞ!」

奈緒「誰が愉快なアイドルだ!」


《ガチャッ》


みく「ただいにゃー! ネコチャンアイドル前川みく、ただ今戻ったにゃ!」



奈緒「愉快なのが来た!」

みく「戻ってきてそうそう、その言い草は酷くない⁉」

美嘉「あれ? 奈緒ちゃんたち戻ってきてるんだ」

楓「スカウトはどうだったの?」

加蓮「見ての通りですよ」

ありす「あ、知らない人が3人もいます」

まゆ「大成功みたいですね」


《ガチャッ》


卯月「なんだか事務所が騒がしいね」

凛「見た感じ、全員戻ってきてるみたい」

未央「へぇ、新顔も増えてる」

加蓮「あ、初代オーディション間違えの未央だ」

未央「なんでそれ知ってるの⁉ そして初代って何⁉ 2代目いるの⁉」

奈緒「ほい、2代目の幸子」

幸子「2代目ってなんですか⁉」

未央「え、この子も間違えたの?」

幸子「え、この人も間違えたんですか?」

P「未央はモデル、幸子は女優のオーディションと間違えたんだ」

未央「あはははっ! じょ、女優のオーディションと間違えるって、そんな子いるんだ!」

幸子「あはははっ! モデルのオーディションと間違えるとか、斬新ですね!」

奈緒「どっちも変わらないのに、よく相手のこと笑えるな!」

加蓮「自分を棚に上げてるよ……」

P「おっ、凛たちが帰ってきて、事務所のメンバー全員揃ったな。幸子が入ったから全部で……15人か」

奈緒「これだけいれば、とりあえず社長も満足するんじゃないか?」

P「そうだといいけどな」


285: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:19:57.89 ID:qA/IsuLu0



―――翌日 事務所


P「さて、じゃあユニット名は今日が締め切りなわけだが、その前に聞きたいことがある。……奈緒、加蓮、お前たちのその目の隈はなんだ?」

奈緒「隈? そんなの出来てるのか?」

加蓮「あ、ホントだ。奈緒、隈出来てるよ」

奈緒「そう言う加蓮もじゃんか」

奈緒・加蓮『あははははっ!』

美嘉「え、笑うとこ?」

みく「この2人、朝からテンションが変なんだよね」

ありす「朝ご飯の時、目玉焼きにジャムを塗って爆笑していました」

まゆ「その後、それを嬉々として食べていましたよ」

楓「そんな奇行を……?」

P「そのおかしなテンション……お前ら、昨日何時に寝た?」

加蓮「昨日? 昨日はねー」

奈緒「昨日は2人でユニット名考えてたから、朝まで起きてたぞ」

P「じゃあ徹夜ってことか⁉ 馬鹿か、お前ら!」

奈緒「いやー、しっくりくるのが思いつかなくてさー」

加蓮「結局、朝までかかっちゃったんだー」

P「この前、気楽に考えるとか言ってただろ⁉」

加蓮「やっぱりこれもアイドルとして、真剣にやった方がいいと思って」

P「その気持ちは大事だけども!」

奈緒「ふっふっふ……徹夜で考えたおかげで、最高のユニット名を思いついたぞ」

P「最高って……ど、どんなユニット名だ?」

加蓮「その名も……」



奈緒・加蓮『北神ガ蒼造セシ可憐ナル双姫(オーディンズ・プリンセスブルー)!』



Pたち『(うわぁ……)』


286: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:21:12.67 ID:qA/IsuLu0



奈緒「略してオープリ☆」

P「略さんでいい」

加蓮「北神が北条と神谷にかかってて――」

P「解説もいいから!」

美嘉(大分酷いの来たね……)

みく(Pチャン、このユニット名で大丈夫なの……?)

P(大丈夫なわけあるか!)

奈緒「なあなあ、どうだプロデューサー?」

加蓮「すごくいいユニット名でしょ?」

P「ああ、そうだな。いいユニット名だから、ちょっとこっち来いお前たち」

奈緒「なんだよ?」

P「いいから。2人とも、そこのソファに横になれ」

加蓮「なんで?」

P「いいから。そんでそのまま目を閉じろ」

奈緒・加蓮『?』

P「羊が一匹……羊が2匹……羊が3匹……」

奈緒「……くー……」

加蓮「……むにゃ……」

まゆ「もう寝ちゃってますね……」

P「とりあえず、このまま寝かしておこう」

ありす「正常な判断力を失っていましたからね」

楓「プロデューサー、今日の奈緒ちゃんたちのレッスンは?」

P「こんな状態でレッスンなんてやらせられませんよ。午前中は寝かしときましょう。ルキちゃんに伝えておいてもらえますか?」

楓「はい、分かりました」

P「さて、じゃあ楓さんたちとまゆたちのユニット名を―――」


287: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:21:45.63 ID:qA/IsuLu0



―――数時間後


奈緒「……ん……ふぁぁ……」

P「ん? やっと起きたか」

奈緒「ふぇ?……な、なんでプロデューサーがあたしの部屋にいるんだ⁉」

P「お前の部屋じゃないから! ここは事務所だ!」

奈緒「事務所?……あ、ホントだ」

加蓮「……ん……うるさいなぁ……」

奈緒「加蓮?」

加蓮「……なんで奈緒が私の部屋にいるの?」

奈緒「加蓮の部屋じゃないから! ここ事務所だよ!」

加蓮「……あ、ホントだ」

P「ようやく2人ともお目覚めか」

奈緒「……あたしたち、事務所で寝てたのか?」

P「そうだよ。朝からずっとな」

加蓮「朝からって……えっ、もう昼過ぎ⁉」

奈緒「げっ、マジだ! レ、レッスンは?」

P「午前中は休みにしといた。さて、起きたばかりであれだが……これから説教をします」

加蓮「せ、説教?」

P「お前たちなぁ……アイドルなんだから、体調管理はちゃんとしなさい!」

奈緒「うぅ!」

P「徹夜とか論外! 二度とやらないこと!」

加蓮「うぅ!」

P「はい、分かったら復唱!」

奈緒「これからはちゃんと体調管理します……」

加蓮「徹夜なんて二度としません……」

P「よろしい。……はぁ、マジでもうやるなよ?」

奈緒「分かった……」

加蓮「反省してるよ……」

P「それならいい。さて、ぐっすり眠ったお前たちに聞くが……ユニット名、本当にあれでいいのか?」

奈緒「ユニット名?」

加蓮「どんなのにしたっけ?」

P「北神ガ蒼造セシ可憐ナル双姫(オーディンズ・プリンセスブルー)」

奈緒「あたしたち、そんな痛々しいのにしたの⁉」

加蓮「や、やだよ! そんな恥ずかしいユニット名は絶対に嫌!」


288: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:22:49.21 ID:qA/IsuLu0



P「正常な判断が出来るようになってなによりだ。じゃあ、これは無しだな」

奈緒「なんであんなのいいと思ってたんだ……」

加蓮「徹夜って怖い……」

P「で、それが無しになると、お前たちのユニット名は白紙に戻るわけだが……残念ながら、もう締め切りは過ぎている」

奈緒「え?」

加蓮「ということは……」



P「お前たちのユニット名、俺がテキトーに決めたから」



加蓮「ホントにテキトーに決められたの⁉」

奈緒「も、もう少しだけ時間をくれ!」

P「残念ながら、もう決定事項だ」

奈緒「ちょっとぐらい待ってくれてもいいじゃんか!」

P「駄目なんだよ。今日の朝が締め切りだったのは、その後に雑誌の取材があったからなんだ」

奈緒「ざ、雑誌の取材?」

P「その取材の時に、お前たちのユニット名を記者の人に伝えることになっててな。……で、もう取材は終わった」

加蓮「終わったって……」

P「もう俺の決めたユニット名を伝えたってことだ」

奈緒「なんてことを!」

加蓮「じゃあもう変えられないの⁉」

P「そういうことだ」

奈緒「そ、その人に電話でもして変えてもらえば……」

P「あちらさんに迷惑かかるから駄目」

加蓮「そんなぁー……」

P「まあ別に変なユニット名にしたわけじゃないから、安心しろ」

奈緒「ど、どんなのにしたんだ……?」



P「『なおかれん』」



289: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:23:33.10 ID:qA/IsuLu0



加蓮「奈緒?」

奈緒「加蓮?」

P「平仮名で、『なおかれん』だ」

奈緒「そのまんま!」

加蓮「名前くっつけただけだし……」

P「文句は受け付けません! とっとと飯食って午後のレッスン行け、なおかれん」

奈緒「もう呼び始めた!」

加蓮「なおかれんかー……」

奈緒「はぁ……決まったからには仕方ないし、なおかれんで行くしかないか」

加蓮「まあ、シンプルでいいかもね」

奈緒「それじゃプロデューサー。なおかれん、お昼ご飯食べに行ってくるな」

加蓮「なおかれん、しゅっぱーつ!」

P「……わりと気に入ってね?」


第8話 終わり


290: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/22(土) 14:24:36.51 ID:qA/IsuLu0



―――後日


凛「北神ガ蒼造セシ可憐ナル双姫(オーディンズ・プリンセスブルー)……これ何?」

P「ん? ああそれは―――」

凛「新曲のタイトルだったりするの? いい感じだね」

P「えっ?」

凛「えっ?」



 ほんとにおしまい


294: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/23(日) 15:02:22.96 ID:pG5NbulD0



第8.1話 明かされる真実



―――事務所


幸子「えっ、寮って料理当番制なんですか?」

奈緒「そうだぞ」

加蓮「だから幸子も当番の時はちゃんと作ってね」

幸子「えぇー……そんなルールがあったとは。仕方ないですね」

杏「……あのさー」

奈緒「どうした杏?」

杏「今ちょっと聞こえたんだけど、当番制っておかしくない? 寮で料理当番とか、聞いたことないけど」

みく「うーん……そうかもだけど、うちの寮はそういう風にやってるんだよ」

杏「でもさー、今は人数少ないから大丈夫なのかもしれないけど、もし寮の人数が今よりもっと多くなったらどうするの? 例えば20人分とか作れる?」

まゆ「そ、それは厳しいですね」

杏「でしょ? だから普通は、自分のご飯は自分で調達するんだしさ。寮で当番制は無理があるって」

ありす「言われてみれば……」


295: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/23(日) 15:03:08.77 ID:pG5NbulD0



幸子「そもそも、その当番制って誰が決めたんですか?」

加蓮「さ、さあ? 私が入った時には奈緒にそう言われて、そういうものなんだなって」

奈緒「あたしも未央に言われて…………待てよ? おい未央! あたしが入るまでは寮には未央だけだったはずだろ⁉ 当番も何もないじゃんか!」

加蓮「あ、そうじゃん!」

未央「……ついに気付いてしまったか」

奈緒「じゃあやっぱり……!」



未央「そう! 当番制とか、私が勝手に言い出したことなんだよ!」



寮組『な、なんだってーっ⁉』



296: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/23(日) 15:04:03.06 ID:pG5NbulD0



奈緒「どういうことだ、未央⁉」

未央「それはね……せっかくかみやんが入って来たのに、1人でご飯とか嫌だったんだよー! だってかみやんが入って来るまで、寮には私1人だけだったんだよ?……寂しいじゃん!」

奈緒「管理人のおばちゃんがいるだろ!」

未央「おばちゃんは別でしょ! とにかくそういうわけだよ……ご飯はみんなで作って、みんなで食べたほうが美味しいでしょ!」

加蓮「逆ギレしてるし……」

奈緒「じゃあ当番制でやる必要は別にないのかよ……でも今さら変えるのもなぁ」

加蓮「まあ、朝も作るから規則正しい生活を送れるし……そういう意味じゃ悪くないけどね」

未央「でしょ?」

奈緒「調子に乗るな!」

未央「はい……」


297: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/23(日) 15:04:43.23 ID:pG5NbulD0



奈緒「みんな、どうする?」

ありす「とりあえず、このままでいいんじゃないでしょうか」

まゆ「今は特に作るのに苦労はしませんしね」

みく「そうだね。人が増えたら、その時に考えればいいにゃ」

加蓮「私もそれでいいかな」

奈緒「幸子はそれで大丈夫か?」

幸子「そうですね……なら、ボクもそれでいいです」

奈緒「じゃあ、このままでいいか。……だが未央、お前は後で処罰するからな」

未央「処罰って何する気⁉」



―――未央のその日の夕食は、ありす特製『橘流イチゴパスタ改~ストロベリーづくし~』となった。



第8.1話 終わり


299: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:28:59.53 ID:ESeH7gGO0

第9話 オルゴールの小箱


―――事務所


奈緒「カップリング曲?」

P「そうだ。ファーストシングルのカップリング曲が出来たから、2人に歌詞と曲を渡そうと思ってな」

加蓮「そっか。収録する曲、もう一曲あるんだね」

P「ほれ、これがその歌詞だ」

奈緒「お、サンキュ」

加蓮「曲名は『オルゴールの小箱』だって」

奈緒「なんか洒落た感じの曲名だな。どれ、歌詞は……ふむふむ……こ、これラブソングじゃん!」

加蓮「あ、ホントだ」

P「ラブソングだけど、それがどうかしたか?」

奈緒「ら、ラブソング歌うのか? あたしが?」

P「いや、奈緒と加蓮がだけど……え、何か問題あった?」

奈緒「問題というか……い、いや、大丈夫だ。問題ない」

P「ならいいが。これから数日はこの曲のレッスンになる。2人とも、カップリング曲だからって気を抜くなよ?」

奈緒「わ、分かってるって」

加蓮「りょーかいしましたっ、プロデューサー殿」

P「うん、レッスンではふざけないようにな?」


300: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:29:32.35 ID:ESeH7gGO0



―――廊下


加蓮「奈緒、どうかしたの?」

奈緒「え? 何が?」

加蓮「『オルゴールの小箱』の歌詞見た時、明らかに挙動不審だったじゃん」

奈緒「き、挙動不審? そ、そんなわけないだろ? あ、帰りにポテト食べてく?」

加蓮「食べてくけど、話をそらさない。2人で歌うんだから、隠し事は無しでしょ?」

奈緒「う、そうだよな……」

加蓮「それで、何なの?」

奈緒「いや……あのさ? これ、ラブソングじゃん」

加蓮「うん、そうだね」

奈緒「歌詞にも、好きとかそういうの書いてあるし……」

加蓮「うん、書いてあるね」

奈緒「でもさ……どんな気持ちで歌えばいいか、分からないんだけど」

加蓮「……はい?」

奈緒「だからさ……恋愛の歌とか、どういう気持ちで歌えばいいんだ? あたし、経験ないから全然分かんないんだよ」

加蓮「経験ないって……奈緒、恋したことないの?」

奈緒「……ない」

加蓮「年頃の女子高生なら、普通は恋の一つや二つしてるのに、奈緒は全くしてないと?」

奈緒「そ、そうだよ! 悪いか!」

加蓮「悪くはないけど……私は今、とても残念な人を目の当たりにしてる」

奈緒「そこまで言わなくてもいいだろ⁉ じゃ、じゃあ加蓮は恋したことあるのかよ!」

加蓮「私? そんなの、聞くまでもないでしょ」

奈緒「え、まさかあるの――」



加蓮「ずっと入院してたのに、恋とか出来るわけないじゃん」



奈緒「あたしが悪かった!」

加蓮「あーあ、奈緒のせいで私のガラスのハートに傷が付いちゃったなー……。……ポテト食べたいなー」

奈緒「分かったよ! 見え見えの小芝居だけど、実際無神経だったし、おごってやるよ!」

加蓮「やった♪ 良かったね、傷が治ったよ」

奈緒「ガラス製なのに治るの早いな!……ったく、でもどうする? それなら加蓮も恋する気持ちとか、分かんないだろ?」

加蓮「まあ確かにね。でも、気持ちとかそんなに気にする必要ある?」

奈緒「気持ちが籠もってるかどうかは、大事なとこじゃんか。ルキさんにも、いつも言われてるだろ? 歌には自分の伝えたい思いを込めろって」

加蓮「うーん……でも、こればっかりはどうしようもなくない? 分からないものは分からないんだし」

奈緒「そ、そうなんだよなぁ。どうにかなんないかなぁ……」

加蓮「そうだなぁ……恋してる人に聞いてみるとかは、どう?」

奈緒「恋してる人? そんなのどこに……いたな」

加蓮「いるでしょ? 身近にさ」

奈緒「ああ、2人もいた」


301: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:30:02.29 ID:ESeH7gGO0



―――その日の夜 アイドル寮 まゆの部屋


まゆ「恋する気持ち、ですか?」

加蓮「うん。どんな感じなのか、教えてもらえないかな」

奈緒「ラブソングを歌うには、どうしても知る必要があるんだ」

まゆ「なるほど、そういうことなら構いませんよ」

加蓮「良かった。ありがとう、まゆ」


302: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:30:34.04 ID:ESeH7gGO0



―――1時間後



まゆ「―――つまり、まゆとプロデューサーさんは運命の赤い糸で結ばれているんです。他の誰であろうと、2人の邪魔をすることは出来ないんですよ。うふふ♪ プロデューサーさんのことを考えるだけで、ほっぺたまで真っ赤になっちゃいますよぉ。赤い薬指の糸は永遠に繋がっていて、まゆの心まで真っ赤に震えてて……もうこの恋は真っ赤――」



奈緒「す、ストップストップ! もういい分かった! 十分です!」

まゆ「え、もうですか? まだまだ話せることがあるんですけど……」

加蓮「う、ううん、もう十分参考になったから。ありがとね、まゆ」

まゆ「いえ、また何かあったら、遠慮なく聞いてください」

奈緒「ああ、その時は頼むよ」

奈緒(まゆの恋愛観は、独特過ぎてちょっと理解が難しかったな)

加蓮(プロデューサーのことが大好きだっていうのは、伝わったんだけどね……)

奈緒(こうなったら、もう一人の方に頼るしかないか)

加蓮(うん。でもあっちは素直に話してくれるか分からないから、作戦を―――)


303: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:31:14.62 ID:ESeH7gGO0



―――翌日 女子寮 奈緒の部屋


凛「大事な話って、何? わざわざ寮まで連れてくるなんて」

奈緒「実はだな……あたしと加蓮は今、アイドルとして大きな壁にぶつかってるんだ」

加蓮「このままだと、歌を歌えないかもしれないの」

凛「えっ⁉ そんなことになってたんだ……ごめん、気付かなかった」

奈緒「い、いやいいって。それでさ、その壁を越えるために、凛の力を貸してほしいんだ」

凛「うん、私に出来ることなら、何でもするよ」

奈緒・加蓮(ニヤリ)

加蓮「ありがと、凛」

奈緒「じゃあ遠慮なく聞くけど――」



奈緒・加蓮『プロデューサーへの恋心について教えて!』



凛「そうだね…………は⁉ な、何言ってるの⁉」

加蓮「だから、プロデューサーのことどう思ってるのか、教えてほしいな~って」

凛「なんでそんなこと教えなきゃ……壁にぶつかってるんじゃないの⁉」

奈緒「うん、そう。今度ラブソング歌うことになってさ。でもあたしたち、恋したことないからどういう気持ちで歌えばいいのか分かんないんだよ」

加蓮「それで、恋する乙女にご教授願おうと思ったんだ」

凛「そういうこと……。騙したね、2人とも……!」

奈緒「だ、騙してはいないぞ? 壁にぶつかってるのはホントだし!」

加蓮「そうそう、決して面白半分とかじゃないから。……興味本位とかじゃないから!」

凛「じゃあそのキラキラした目は何⁉ 嫌だよ、絶対にそんなの話したりしないからっ!」

加蓮「さっき何でもするって言ったじゃん」

凛「そ、それは……そうだけど……! で、でもこれだけは無理だから!」


304: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:31:57.65 ID:ESeH7gGO0



奈緒「そっか……」

加蓮「なら仕方ないか……」

凛「ほっ……分かってもらえて良かった――」



加蓮「仕方ないから、未央に聞くね。凛っていつからプロデューサーのこと好きなの?」

未央「そうさねぇ、意識し始めたのは――」



凛「未央――――――っ!」

未央「もがもごっ⁉」

奈緒「一瞬で口をふさいだ⁉」

加蓮「そんなに聞かれたくないんだ……」

凛「い、いつからいたの、未央⁉」

未央「もご……最初からいたよ? 押し入れの中に隠れてた」

凛「こざかしい真似を……っ!」

奈緒「未央に聞くのも駄目か?」

凛「当たり前でしょ!」

加蓮「じゃあしょうがないか……」



加蓮「卯月に聞こっと。凛、プロデューサーのこと好きになって何か変わったりした?」

卯月「えっとね、恋心を自覚してすぐの―――」



凛「卯月―――――――――っ!」

卯月「もごっ」

奈緒「また口を⁉」

凛「卯月までいたの⁉」

卯月「もご……クローゼットの中に隠れてたの」

凛「2人して何してるの!」


305: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:32:45.43 ID:ESeH7gGO0



未央「いやー、かみやんとかれんに頼まれてさ」

卯月「凛ちゃんのこと、教えてほしいって」

奈緒「凛に許可貰うまでは何も聞いてないから、安心しろよな」

凛「許可なんてあげてないよ!」

加蓮「だから、さっき何でもするって言ったでしょ?」

凛「い、言ったけど……言ったけどさ……!」

加蓮「大丈夫、聞くのは私と奈緒だけだから」

奈緒「ありすたちには、大事な話してるから入って来ないでくれって言ってあるし」

加蓮「だから遠慮なく話しちゃっていいよ」

凛「そういう問題じゃないよ!」

卯月「凛ちゃん。奈緒ちゃんと加蓮ちゃんが困っているのは本当みたいだから、ちょっとだけでも話してあげない?」

凛「く……で、でも……」

未央「じゃあさ、あの時のことだけでも話してあげたら?」

凛「あの時……?」

未央「バレ―――」



凛「未央、それ以上口を動かしたら絶対に許さない……!」



未央「……」

奈緒「凛から尋常じゃない殺気が!」

加蓮「バレ? 何、バレって?」

凛「加蓮、そこから先は考えない方がいいよ。思考をそこで停止させて――」



卯月「バレ……あ、そっか。バレンタインの――」



凛「卯月―――――――――――っ!」

卯月「もごご」


306: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:33:32.35 ID:ESeH7gGO0



奈緒「バレンタイン?」

加蓮「へぇ、バレンタインに何かあったの?」

凛「何にもないよ。……あ、そういえばプロデューサーに義理チョコ渡したかな。それだけそれだけ」

未央「……」

卯月「もごご」

奈緒「未央に殺気を送りつつ、卯月の口を封じながら言われても……」

加蓮「絶対何かあったでしょ」

凛「何もないって言ったよね? 聞こえなかったのかな……?」

奈緒「や、やばい。凛の目がマジで怖いぞ。も、もう詮索するのやめとかないか?」

加蓮「えー、でも気になるなー……恋する気持ちについて分かるかもしれないし」

奈緒「そうかもだけど……」

加蓮「凛、真面目に話を聞かせてもらえない? からかったりしないから」

凛「加蓮……で、でもあの時のことだけは……」

奈緒「そんなに話しにくいのか?」

卯月「えっと……そうだね、自分じゃ話しづらいかも」

未央「だからこそ、私たちが代わりに話そうじゃないか!」

凛「……未央、話したいだけじゃないの?」

未央「そ、そんなことないって。かみやんとかれんの為だよ!」

凛「……。…………。……はぁ、もう好きにしたらいいよ」

奈緒「い、いいのか?」

凛「うん。2人のために、私は犠牲になるから」

加蓮「大げさすぎでしょ」

凛「……奈緒、押し入れ貸して。話し終わるまで、籠ってるから」


《ガラッ――》


奈緒「籠るって……本当に入ったし」

加蓮「あの凛の様子……バレンタインに何があったの?」

卯月「あはは……じゃあ、話すね」

未央「事の始まりは、今年のバレンタインの少し前のことだったよ―――」


307: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:34:14.50 ID:ESeH7gGO0



―――2月上旬 事務所からの帰り道


未央「そういえばさー、もうすぐバレンタインだよね」

卯月「あ、そうだね。未央ちゃんは、誰かにあげたりするの?」

未央「兄弟とか、友達とかかなー。しまむーは?」

卯月「私はお父さんに。あと、プロデューサーさんにも渡そうと思ってるよ」

未央「あ、そっか。プロデューサーのこと忘れてた」

卯月「わ、忘れないであげて未央ちゃん」

未央「しぶりんはどうするの?」

凛「私もお父さんにはあげるつもりだけど」

未央「プロデューサーは?」

凛「そうだね……まあ、あげてもいいかな」



未央「本命チョコを?」



凛「……は⁉ な、何言ってるの未央! 義理だよ!」

未央「え、なんで義理なの?」

凛「なんでって……みんなだって義理じゃないの⁉」

卯月「う、うん、私たちはそうだけど……」

未央「しぶりんは本命渡すのかと思ってた」

凛「なんでそうなるの⁉」

未央「いや、だってさ……」



卯月「凛ちゃん、プロデューサーさんのこと好きなんだよね?」



凛「……えっ⁉ い、いやいやいやいやいや! す、好きとかじゃないよ! いや、好きではあるけど、でもそれは恋愛とかそういうのじゃないから! 全然違うから!」

未央「いや、その反応はどう考えても……」

卯月「だよね……」

凛「だ、だから違うのっ!」


308: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:35:53.57 ID:ESeH7gGO0



―――その日の夜、渋谷家 凛の部屋


凛(まったく……卯月も未央も何言ってるのかな……。私がプロデューサーのこと好きとか……)



凛(……好き? 私が、プロデューサーを?……いや、そんなわけないよ。うん、それはない)



凛「だって、プロデューサーだし……。あのプロデューサーだよ? 好きになるとか、そんなわけ…………そんな、わけ……」



凛(でも、そういえば、最近プロデューサーのことをよく考えてる気が……しかもプロデューサーのことを考えると、胸が苦しくなって……)



凛(……え? これって……い、いやいやいやいや、違うよ。そんなんじゃないよ。そんなのおかしいよ。でもこれでもこれ、まさかまさか……)


309: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:37:00.39 ID:ESeH7gGO0











凛「私、本当に……ぷ、プロデューサーのことが…………好き、に?」










310: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:37:46.05 ID:ESeH7gGO0



凛「…………う、うあうぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」


《ドタドタドタ―――ガチャッ》


凛母「り、凛⁉ どうしたの⁉」

凛「―――はっ⁉ な、なんでもない!」

凛母「でも今大声を上げて……」

凛「なんでもないから! 大丈夫だから!」

凛母「そ、そう? それならいいけど……」


《―――ガチャン》


凛「……あ、明日から私、どんな顔して、プロデューサーに会えば……っ」


311: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:38:12.05 ID:ESeH7gGO0



―――翌日、事務所


凛「……お、おはよう」

未央「おはよー、しぶりん」

卯月「おはよう、凛ちゃん」

ちひろ「おはようございます」

凛「う、うん……」

P「おはよう、凛」

凛「⁉」


《シュタンッ!》


P「うおっ⁉」

卯月「凛ちゃん⁉」

ちひろ「なんですか今の動き⁉」

未央「しぶりん、なんで飛びのいたの⁉」

凛「べ、別に特に理由は無いけど」

P「理由も無いのに飛びのいたの⁉」

未央「しぶりん、今の動き忍者みたいだったよ⁉」

凛「そ、そう……き、昨日呼んだ漫画のせいかな」

卯月「ま、漫画を読むとあんな動きが出来るようになるの?」

ちひろ「それは無いと思うけれど……」


312: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:38:47.34 ID:ESeH7gGO0



P「……なあ凛、なんで俺から目を逸らしてるんだ?」

凛「べ、別に特に理由は無いけど!」

P「理由も無く目を逸らされるって結構傷つくんだけど⁉ ほら、こっち向けって!」


《ぐいっ》


凛「ふあっ……⁉」


《ボンッ!》


P「どうした⁉ 急に顔が真っ赤になったぞ⁉ お、おいまさか熱でもあるのか⁉」

凛「無いから! 大丈夫だからあっち行って!」

未央(……ん?)

卯月(まさか凛ちゃん……)

ちひろ(あら……?)

P「いや、でも――」



凛「いいから私から離れて! 半径10m以内に近づかないで!」



P「えぇっ⁉」

凛「わ、私もうレッスン室行ってくるから! プロデューサー、レッスンの様子見に来たりしないでよ⁉」


《ガチャッ!》


P「……り、凛に……」

ちひろ(凛ちゃん、もしかして……)

未央(しぶりん、ついに自覚したみたいだね)

卯月(でも、今の凛ちゃんの台詞じゃ……)



P「凛に嫌われたぁあああああああああああああああ⁉」



卯月(……そうなっちゃいますよね)


313: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:39:23.01 ID:ESeH7gGO0



―――レッスン室


凛(あ、危うく心臓が爆発するかと思った……駄目だ、私。さっきので確信した……。私、プロデューサーのこと……本当に、好きなんだ……)



卯月「りーんーちゃんっ♪」
未央「しーぶーりんっ♪」



凛「ひきゃっ⁉ う、卯月に未央。いつの間に来てたの?」

未央「今来たとこ」

卯月「凛ちゃん、プロデューサーさん泣いてたよ? 『凛に嫌われたぁ!』って」

凛「えっ⁉ べ、別に嫌ってなんか……」

未央「だよねー。本当はその逆だもんね」

凛「逆……?」

未央「しまむー、嫌いの反対はー?」

卯月「好き、だよね」

凛「⁉ ち、ちがっ⁉ すすすすきとかそっそそそんなのじゃないから!」

未央「うんうん、それはもういいからさ。……認めちゃえよ、楽になるぜ?」

凛「だ、だから認めるとか認めないとかじゃなくて……!」

卯月「凛ちゃん、気持ちを隠す必要なんてないよ」

凛「卯月……」

未央「隠してるつもりでも、もうバレバレだからね」

凛「えぇっ⁉」

卯月「み、未央ちゃん!」

凛「うぅぅ…………す……き、だよ」

未央「え? なんて?」


314: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:39:52.01 ID:ESeH7gGO0











凛「私はプロデューサーのことが好きだよ! 悪いっ⁉」










315: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:40:24.32 ID:ESeH7gGO0



―――社長室


P「ひ、ひっく……こ、こんなのって無いですよ……」

社長「こ、後輩、お前な……」

P「凛が……凛に、嫌われるなんて……」

社長「だからと言って私の所に泣きついて来るな!」

P「先輩までそんな冷たいこと言わないでくださいよぉおおおお!」

社長「ええい、うざいやつだ! お前、そこまでメンタル弱かったか⁉」

P「ぐすっ……り、凛はなんというか……担当アイドルというより、妹みたいに思ってたので……ショックが大きすぎて……」

社長「妹か……確かに妹に嫌われるのは、きついものがあるな」

P「でしょう? 先輩、シスコンですもんね……」

社長「お前は私にも嫌われたいのか?」

P「先輩には別に嫌われても……」

社長「なら今度、北極へ出張に行かせてやろう」

P「嫌わないでください、先輩!……うぅ……凛……なんでだよぉ……!」

社長「……重症だな」


316: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:40:56.07 ID:ESeH7gGO0



―――アイドル部門 事務所


社長「千川、渋谷はどこにいる?」

ちひろ「あ、社長。凛ちゃんですか? 今はレッスン室だと思いますが……もしかして、プロデューサーさんがそっちに?」

社長「ああ、泣きついてきた」

ちひろ「どこに行ったのかと思っていましたが……」

社長「あいつ、邪魔にもほどがあるぞ。とにかく、レッスン室だな」


317: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:41:46.48 ID:ESeH7gGO0



―――レッスン室


未央「し、しぶりん、そんな隅っこにいないで、こっち来なよ」

凛「もう未央なんて知らない」

未央「ごめんって! からかった私が悪かったよー! ちゃんとしぶりんの恋、応援するから!」

凛「なっ⁉ お、応援とかいいから!」

未央「でもしぶりん許してくれないし……」

凛「もう許したから! 余計なことしないで!」

卯月「凛ちゃん、プロデューサーさんに告白したりしないの?」

凛「こくはっ⁉ そ、そんなのしないよ!」

未央「なんで?」

凛「なんでも何も……わ、私たちアイドルだよ⁉ 恋愛とか駄目に決まってるでしょ!」

未央「本音は?」

凛「告白する勇気が……はっ⁉」

未央「……うん、アイドルは恋愛駄目だよね」

凛「み、未央~っ!」


《ガチャ―――》


社長「おい渋谷」

凛「し、社長? どうしたんですか?」

社長「どうしたもこうしたもあるか。後輩をなんとかしろ。私の所に泣きついてきたんだぞ」

凛「プロデューサーが⁉」

未央「社長のとこに行ってたんだ……」

社長「まったく、うざくてかなわん。渋谷、あいつのことが嫌いになったというのは本当か?」

凛「い、いえ、嫌いになんてなっていないです」

社長「ふむ……ではあの馬鹿、勘違いで私の所に来たというわけか……一発殴らなくては気が済まんな……!」

卯月「し、社長さん⁉ 落ち着いてください!」

未央「プロデューサーが勘違いするのも仕方ないこと、しぶりんが言ったんです!」

社長「……なんと言ったんだ、渋谷?」

凛「え、いや、その……あの…………」

社長「なんだ、渋谷らしくない。はっきり言え」

凛「あ、あう……うぅ……」

社長「?」

未央「社長、実はゴニョゴニョ―――」


318: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:42:53.01 ID:ESeH7gGO0



社長「!……くっ……くくっ、ははははははははっ! なるほどな、そういうことか! どうりで渋谷の様子がおかしいわけだ!」

凛「未央、何言ったの⁉」

未央「何って、全部話したけど」

社長「くくっ、いや、うん。事情は理解した。そうかそうか……くふっ」

凛「そ、そんなに笑うようなことですか⁉」

社長「だってなぁ……人の恋愛話ほど面白いものはないだろう?」

未央「確かに」

卯月「み、未央ちゃん!」

社長「それにしても、ようやく自覚したのか」

凛「よ、ようやくって……」

未央「そうなんですよ。そしたらプロデューサーとまともに顔も合わせられなくなっちゃったみたいで」

社長「そこまでなのか?」

未央「しぶりん、ゆでだこみたいになってました」

凛「未央っ!」

社長「……こっちはこっちで重症というわけか。だが渋谷、後輩の勘違いは早く解け。このままでは仕事に支障が……いや、既に私の仕事に支障が出ているぞ」

凛「す、すみません」

社長「顔を合わせられないのなら、電話で話してみたらいいだろう。今持っているか?」

凛「は、はい。……。…………」

卯月「り、凛ちゃん? もしかして電話すら……」

凛「で、出来るよ⁉ さすがに電話くらい……くっ!」


《プルルルル―――プルルルル――》


P『はい、もしもし……?』

凛「ぷ、プロデューサー?」

P『凛⁉……ど、どうしました……?』

凛「あ、あのさ……私、べ、別にプロデューサーのこと、き、嫌いとかじゃないから」

P『ほ、本当ですか?』

凛「な、なんで敬語なの……?」

P『ああいや、つい……でも本当に?』

凛「ほ、本当に! だから変な勘違いとかして、落ち込んでないで!」

P『そ、そっか。……良かった。凛に嫌われるって、かなりショックだったからさ』

凛「そ、そうなんだ」



P『凛だって、好きな人に嫌われたりしたら、ショック受けるだろ?』



凛「す、好き⁉ 好きな⁉ わ、わた、すす好き⁉」



319: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:43:25.12 ID:ESeH7gGO0



未央「しぶりんが壊れた!」

卯月「り、凛ちゃん、しっかりして!」

社長(これはいいな……尋常でなく面白いんだが……!)

P『え、何? どした? 俺、なんか変なこと言った?』

凛「すすすす好きっててて、ぷぷぷプロろろろデューサー」

卯月「凛ちゃん、もう駄目だよ!」

未央「しぶりん電話、電話貸して!」

凛「あ、ああぅぅ……」

未央「プロデューサー、なんだか電波が悪いみたい!」

P『え、未央? 電波? あ、どうりでまともに聞こえないわけだ』

未央「とにかくそういうわけだから、もう切るね! ばいばい!」

P『ああ、じゃな』


《プツッ》


未央「なんとかごまかせたね……」

凛「あう、あ、うぁぁぅ……」

社長「普段クールな渋谷が、ここまで壊れるとはな……」

未央「恋は人を変えるというやつですね」

卯月「そ、それは意味が違うような……」

社長「……いや、待てよ? 今日は仕事が無いようだからまだ問題ないが……渋谷はこの状態でまともに仕事が出来るのか?」

未央「……」

卯月「……」

凛「ぁぁ……ぅぅ……」

未央「……プロデューサーが現場にいなければ、なんとかなるんじゃないですか?」

社長「あいつ、付いて行くこと多いんじゃないのか?」

卯月「プロデューサーさんは、他に仕事が無ければ、必ず付いて来てくれます」

社長「……なら無理だろう」

未央・卯月『どうしよう⁉』


320: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:45:12.11 ID:ESeH7gGO0



―――社長室


社長「おい、後輩」

P「あ、先輩。さっきはすみません。もう出ていくんで―――」



社長「お前にこれから少しの間、社長代理を任せる」



P「なに言い出すんですか突然⁉ そんなに怒ってるんですか⁉」

社長「怒ってはいるが、それとは別だ。少し、アイドルたちの普段の仕事ぶりを見てみたくなってな。お前の代わりに、私がプロデューサー代理をすることにした」

P「いや無茶苦茶言わないでくださいよ! そんなの出来るわけないでしょう⁉ 社長の仕事とか、代わりにやれるもんじゃないでしょうが!」

社長「大丈夫だ。今週はそこまで重要な仕事は入っていない。お前でも何とかなるだろう」

P「そうだとしても社長代理なんて――」

社長「いいからやれ! 他の者には私が説明しておく! 言っておくが、お前に任せている間に業績が下がったら、許さんからな!」

P「なら代理とかさせないでくださいよ!」


321: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:45:46.89 ID:ESeH7gGO0



―――アイドル部門事務所


社長P「これでしばらくは大丈夫だな」

未央「会社が大丈夫じゃないんじゃ……」

社長P「少しの間だ。あいつなら上手くやるだろう」

卯月「社長さん、プロデューサーさんのこと、信頼しているんですね」

社長P「まあ……仕事の腕はな。それより、そこでソファに顔を埋めている渋谷のことだ」

凛「……」

ちひろ「凛ちゃん、大丈夫?」

凛「……まだ、大丈夫じゃないです……」

社長P「早くいつも通りの渋谷に戻さなければ……」

未央「でも、どうすればいいんでしょうか?」

社長P「……分からん」

卯月「社長さん⁉」

社長P「うーむ……私は恋愛経験が無いからな……」

未央「え、その歳で?」

社長P「本田、お前も後輩と一緒に代理をするか?」

未央「失言でした! すみませんでした!」

社長P「まったく……。しかしどうすれば……そうだ! あいつに聞けば……」

卯月「あいつ?」

社長P「お前たち、少し待っていろ」

未央「? はい」

卯月「分かりました」


《プルルルル――プルルルル――》


???『お姉ちゃん? 何か用?』

社長P「あー、いや、実はだな―――」


322: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:46:32.71 ID:ESeH7gGO0



―――数分後


社長P「―――助かった。ありがとうな」


《プツッ》


未央「社長、今の誰なんですか?」

社長P「ん? ああ、妹だ」

卯月「妹さんだったんですか」

社長P「さて、渋谷を元に戻す方法だが……」

未央「何かいいアイデア教えてもらえました?」

社長P「今週末に、バレンタインデーがあるだろう? そこで渋谷には、後輩にチョコを渡してもらう」

凛「ちょ、チョコ⁉ ぷ、プロデューサーに……チョ……あぁぅ――――っ!」

ちひろ「凛ちゃん⁉」

未央「しぶりん、こんな状態でチョコとか渡したら死んじゃうんじゃないですか⁉」

社長P「いや死にはしないだろう。それに渡すチョコは別に本命でなくてもいい。義理というていで渡せばいいんだ」

卯月「てい、ですか?」

社長「妹によるとだな、今の渋谷は自身の恋愛感情が膨れ上がっている状態なんだ。そして上手くコントロールできていない。今まで自覚していなかったものを、急に自覚したからだと思われるな。ロマンティックが止まらないわけだ」

未央「ふざけるのやめません?」

社長P「バレンタインに後輩にチョコレートを渡すのは、一度、膨れ上がる恋愛感情に歯止めをかけるためだ。自身の恋愛感情を遠回しにでも相手に伝えられれば、ひとまず落ち着けるだろう」

卯月「な、なるほど……」

社長P「……下手をするとさらに恋愛感情が膨れ上がる可能性があるが、その時はその時だ」

未央「今、小声で何か言いませんでした?」

社長P「何も言っていない。とにかくそういうわけだ。渋谷、聞いていたか?」

凛「……はい」

社長P「やれるな?」

凛「……。…………」

社長P「やれ!」

凛「⁉ は、はい!」

社長P「本田と島村は、渋谷のサポートをしてやれ」

未央「了解!」

卯月「凛ちゃん、頑張ろうね!」

凛「うん……」


323: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:47:11.46 ID:ESeH7gGO0



ちひろ「あの、社長、一つ聞いてもよろしいですか?」

社長P「なんだ千川」

ちひろ「凛ちゃんはアイドルですけれど……恋愛ってしても大丈夫なのでしょうか?」

社長P「恋愛は個人の自由だろう。例えアイドルだろうと、好きにすればいい」

凛「社長……」

社長P「――というのが私個人の考えだが、社長の立場としては見過ごせないことだな。仮に渋谷が後輩に告白して上手くいったら、その時は最悪引退してもらうしかないだろう」

卯月・未央『引退⁉』

凛「引退、ですか……」

社長P「あくまで仮の話だ。そもそも渋谷、お前告白できんだろう」

凛「……うぅ」

社長P「だがまあ、もし本当にそうなったら、あいつと一緒に花屋でもやればいいんじゃないか?」

凛「ぷ、プロデューサーと……花屋……⁉」





P『じゃあ凛、今日も店を開こうか』

凛『うん。……あなた』





凛「きゃわぁ――――――――――――――――――――っ⁉」

卯月「凛ちゃん⁉」

未央「これまでで一番悶えてるよ⁉」

社長「……やはり、早く治さなくては駄目だな」


324: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:47:48.91 ID:ESeH7gGO0



―――島村家 キッチン


卯月「じゃあ手作りチョコ作り、始めよう!」

凛「……手作りの必要あるの?」

未央「本命なんだから、手作りに決まってるじゃん」

凛「ぎ、義理って話だったでしょ!」

未央「それはあくまで義理っていうていなだけでしょ? 実際は本命なんだからさ」

凛「ほ、本命……うぁぅ~~~~~っ!」

卯月「凛ちゃん落ち着いて!」

未央「し、しぶりん、本命って言ったぐらいで取り乱さないでよ!」

凛「……ご、ごめん。私、なんかもう駄目みたい」

未央「恋患いって、ここまで厄介な病気なんだね」

卯月「凛ちゃん、意識しすぎじゃないかな……?」

凛「自分でも分かってるんだけど……」

未央「まあ、それを治すためにチョコを渡すんだしね。チョコ渡せば、元のしぶりんに戻れるって」

凛「あのさ……それ、本当なのかな? いまいち、チョコを渡しても治る気が……」

卯月「凛ちゃん、社長さんを信じようよ!」

未央「そうだよ、しぶりん!」

凛「そ、そうだよね。今は、信じるしかないよね」



卯月・未央(正直、私たちもあの話、怪しいと思ってるけど)



325: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:48:20.27 ID:ESeH7gGO0



卯月「それじゃあ、チョコを作ろうか。型は……やっぱりハート型だよね」

凛「それは無理だからやめて! そ、そんなの渡せないから!」

未央「でも本命って言ったらハートの形じゃ――」

凛「私のハートが持たないのっ!」

未央「そ、そっか。じ、じゃあ別のにしようね」

未央(なんだろう……今のしぶりん、凄く可愛いんだけど。すごくなでなでしたい……!)

卯月「未央ちゃん、どうかした?」

未央「……ううん、ニュージェネの新しい愛玩枠について考えてただけだよ」

卯月「そもそもそんな枠無いよね⁉」

未央「……知らずは本人ばかりなり」

卯月「どういう意味⁉」

未央「さて、とにかく1回作りますか。やるよ、しぶりん」

凛「……うん」


326: 以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2017/04/24(月) 20:49:00.08 ID:ESeH7gGO0



―――社長室


P社長代理「書類の山が、全然減らない……」

秘書「社長代理、この書類追加です」

P社長代理「また増えた! これ絶対代理のやる量じゃないですよ! 早く社長呼んできたほうが―――」

秘書「社長代理ならば、この程度は朝飯前だと―――いえ、むしろ半日戻って夕飯前だと社長がおっしゃっていました」

P社長代理「なんで半日戻ったの⁉ 夕飯前って日が暮れてますよね⁉」

秘書「では私はこれで」


《ガチャ――バタン》


P社長代理「事務的な対応ですね! くそぉ……なんでこんなことに……」


《コンコン》


P社長代理「ひぃっ、また来た⁉……ど、どうぞ」

ちひろ「お疲れさまです、プロデューサーさん」

P社長代理「ち、ちひろさん……! もしかして応援に――」

ちひろ「仕事が大変だと聞いたので、スタドリを差し入れにきました」

P社長代理「これ飲んでまだまだ働けと⁉」

ちひろ「では私はこれで」


《ガチャ――バタン》


P社長代理「また事務的! こ、こうなったらいいさ……やってやらぁ―――――っ!」


327: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:49:33.42 ID:ESeH7gGO0



―――そんなこんなで、バレンタインデー当日 アイドル部門事務所


未央「ついにバレンタインの日がやってきたよ、しぶりん」

凛「うん……」

卯月「いよいよだね……頑張ってね、凛ちゃん」

凛「うん……」

ちひろ「凛ちゃん、応援してるわ」

凛「うん……」

未央「……しぶりん、1+1は?」

凛「うん……」

未央「しっかりしてよ、しぶりん!」

凛「⁉ ご、ごめん未央……」

社長P「渋谷、別に告白しろと言っているんじゃないんだ。チョコを渡すだけなんだぞ?」

凛「わ、分かっているんですけど……」

社長P「それも本命ではなく、義理というていで渡すんだ。緊張することなど何もないだろう」

凛「そ、そうなんですけど……」

社長P「……あーもうっ、じれったい! 渋谷、お前の携帯を貸せ!」

凛「えっ⁉ な、何をする気ですか⁉」


《ピ、ポ、パ……ピッ!》


社長P「……よし! 屋上に後輩を呼び出してやったぞ」

凛「なに勝手なことしてるんですか⁉」

社長P「いいからとっとと屋上に行け! 私は社長室へ行って、後輩の社長代理の任を解いてくる! すぐに奴を屋上へ向かわせるから、それまでに覚悟を決めておけよ!」

凛「そ、そんな……」


328: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:50:01.38 ID:ESeH7gGO0



―――346プロ 屋上


凛「チョコを渡すだけチョコを渡すだけチョコを渡すだけチョコを渡すだけ―――」


329: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:50:34.10 ID:ESeH7gGO0



―――屋上 凛から少し離れた隠れ場所


未央「しぶりん、自分に自己暗示かけてるよ……」

卯月「よっぽど緊張してるんだね……」

ちひろ「見ているこっちまで緊張してきますね……」

社長「お前たち、もうすぐだぞ」

未央「社長⁉ 社長室に行ったんじゃ……⁉」

社長「後輩の任を解いて、すぐさまここに来たんだ。途中でばれないように後輩を追い越すのは大変だったぞ」

卯月「そ、そこまでして見に来たんですか……」

社長「ここまで来て見逃せるか」

ちひろ「あっ、来ましたよ!」


330: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:51:20.34 ID:ESeH7gGO0



―――凛side


P「……あ、凛」

凛「コを渡すだっ⁉ ぷ、プロデューサー⁉」

P「今、なんか変なこと言ってなかったか?」

凛「い、言ってない! プロデューサーの気のせい!」

P「そうか……まあ、疲れが溜まってるからなぁ」

凛「プロデューサー……やつれてない?」

P「社長代理とかやらされたせいで、もうくたくただ。まったく、先輩の気まぐれにも困ったもんだよ」

凛「そ、そっか」

P「凛にもしばらく会ってなかったな。この1週間、ちゃんとやれてたか?」

凛「ま、まあ、うん。だ、大丈夫だったよ」

P「それなら良かった。それで、用ってなんだ?」

凛「! あ、ああ、うん……その…………えっと…………あの……」


331: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:51:52.54 ID:ESeH7gGO0



―――野次馬side


卯月「凛ちゃん、頑張って!」

未央「いけいけ、しぶりん!」

ちひろ「凛ちゃん、ゴーゴー!」

社長「さて、どうなるか……」


332: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:52:53.52 ID:ESeH7gGO0



―――凛side


凛「あ、あの……ぷ、プロデューサー!」

P「お、おお? な、なんだ、凛?」

凛「こ…………これっ! あ、あげる!」

P「え? あ、ありがとう」

凛「……うぅ…………」

P「えっと……これ、何?」

凛「き、今日はバレンタインだからっ!」

P「バレンタイン?……あ、あれ今日か! 社長代理やってたせいで、日付の感覚が曖昧になってた! そっかそっか……じゃあこれ、チョコなんだな?」

凛「そうだけど! わ、悪い⁉」

P「えぇ⁉ い、いや悪くはないけどさ……」

凛「ぎ、義理だから! 義理だからね⁉ 義理チョコなのっ!」

P「3回も言わなくてもよくね⁉ 分かってるって。……でもすげぇ嬉しい。ありがとな」

凛「……う、うん」

P「……そういや、本命あげる相手とかいるのか?」

凛「うぁえぇぇ⁉」

P「そんなに驚くの⁉ ま、まさか本当にいるのか⁉」

凛「いや、それは、いな、いあ、あう……う、うううぁああああっ!」

P「どうした⁉ え、どうしたの⁉」

凛「き、聞いて! 聞いて、プロデューサー……!」


333: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:53:22.22 ID:ESeH7gGO0



―――野次馬side


未央「え、まさか告白しちゃうの⁉」

卯月「凛ちゃん、思い切ってそこまで⁉」

ちひろ「まさかの急展開ですか⁉」

社長「面白くなってきたぞ……!」


334: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:54:34.50 ID:ESeH7gGO0



―――凛side



凛「わ、わた…………私、は…………」




P「う、うん」






凛「…………プ、プロデューサーの…………こと、が…………」






P「うん?」








凛「すっ……………………………………す、き―――」










335: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:55:39.01 ID:ESeH7gGO0
















凛「―――き、嫌いじゃないからっ! プロデューサーのこと!」















336: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:56:11.05 ID:ESeH7gGO0



―――野次馬side


卯月「え?」

未央「なんて?」

ちひろ「はい?」

社長「……ヘタレめ」


337: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:57:01.02 ID:ESeH7gGO0



―――凛side


凛「ほ、ほらプロデューサーこの前誤解してたよね⁉ 私から嫌われてるとか! 誤解解けてるか心配だから、ちゃんと言っておこうと思って! 嫌いじゃないからね⁉」

P「え、ああ、うん、そっか。……いや、でもそれはこの前の電話で分かって――」

凛「ちゃんと分かった⁉」

P「わ、分かりました!」

凛「はぁ……はぁ……」

P「……それで、本命の相手は結局い―――」

凛「⁉」

未央「ひっさしぶりー、プロデューサー!」

P「うおっ⁉ み、未央⁉ どっから出てきた⁉」

卯月「プロデューサーさん、お元気でしたか?」

P「卯月まで……お前たち、どっかに隠れてたのか?」

未央「そんなことより! 私からも義理チョコあげるね!」

P「お、おう? さ、サンキュな」

卯月「はい、プロデューサーさん。私からも義理チョコです」

P「卯月もありがとな。……でもさ、なんでお前たちわざわざ渡す時に義理って言うんだ? 別に言わなくても分かってるぞ」

未央「そこはまあ一応ね」

卯月「一応です」

P「一応ってなんだ」

未央(ふぅ……間一髪だったね、しぶりん)

卯月(ギリギリで間に合って良かった)

凛(2人とも、ありがとう。あのままだったら、私……)

未央(しぶりんはよく頑張ったよ)

卯月(もう十分だから)

凛(うん……。私、もう無理……)

P「? どうしたお前たち?」

未央「何でもないよ!」

P「なんか隠されてる気が……」


338: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:57:28.17 ID:ESeH7gGO0



ちひろ「気のせいですよ、プロデューサーさん」

P「え、ちひろさん? ちひろさんまでいたんですか?」

ちひろ「いたんです。そしてこれが義理チョコです」

P「おお、ちひろさんからも貰えるとは。ありがとうございます」

ちひろ「いえいえ、今日出勤する時にコンビニで買ったものですから」

P「その情報要らなくないですか⁉」

社長「後輩、私からも義理チョコをやろう」

P「先輩までいたんだ……。先輩、今年もチロ○チョコですか?」

社長「毎年それでは芸がないからな。今年は一味違うぞ」

P「お、ということはようやく10円チョコじゃなくなって――」

社長「5円チョコだ」

P「まだ下があっただと⁉」

社長「ホワイトデーには100倍返しでよろしくな」

P「図々しさ半端じゃないですね!……まあ100倍でも500円ですし、それぐらいいいですけど」

未央「プロデューサー、私たちの分も忘れないでね。……特にしぶりんの分を!」

卯月「ホワイトデー、楽しみにしています。……特に凛ちゃんが!」

凛「ふ、2人とも何言ってるの⁉」

P「なぜ特に凛なのかは分からんが、ちゃんとお返しはするよ。みんな、ありがとな」

凛「……チョコレート、溶けないうちに食べてよ」

P「冬なんだから、溶けたりしないだろ?」



凛「……プロデューサーの、ばか」


339: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:57:57.65 ID:ESeH7gGO0



―――社長室


社長「ふふ……今日は実に面白いものが見られたな」

秘書「し、社長」

社長「なんだ?」

秘書「社長が社長代理に業務を任せていられた間の、我が社の株価なのですが……」

社長「ああ、下がったか?……まあ仕方ない。なんとか元の――」

秘書「いえ、むしろ上がっていまして……」

社長「何だと⁉」

秘書「た、たまたま社長代理を任された期間に、上がっただけかもしれませんが……」

社長「あ、あいつ……そういえば、溜まっていた書類はどうした? 見当たらんぞ」

秘書「す、全て社長代理が処理しました」

社長「あれを全部だと⁉ あ、相変わらず後輩のやつ、仕事の腕だけはいいな……これからも、たまに任せてみるのも悪くないか……?」

秘書「そ、それはもうやめてください!」


340: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:58:33.31 ID:ESeH7gGO0



―――翌日 アイドル部門事務所


未央「そういえばチョコは渡せたけど、しぶりん、あの重度の恋患い治ったの?」

凛「うん、もう大丈夫。2人とも、昨日まで迷惑かけてごめん」

卯月「迷惑なんかじゃないよ。ふふっ、凛ちゃんが元に戻って良かった」



P『おーい凛。ちょっと次の仕事のことで話があるんだけど』



凛「あ、うん。分かった」


341: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:59:00.58 ID:ESeH7gGO0



P「―――そういえば、凛。貰ったチョコすげぇ美味かった。あれ、手作りなのか?」

凛「うん、そうだけど」

P「やっぱそうか。手作りだからか、市販のものより美味い気がしてな」

凛「味なんて大して変わらないよ」

P「違うって。……そう言われると自信無くなるけど」


342: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 20:59:34.26 ID:ESeH7gGO0



卯月「普通にプロデューサーさんと話せてる……本当に元に戻ったみたいだね、凛ちゃん」

未央「やっぱり、しぶりんはああじゃないと」

卯月「うん。……うん? あぁっ⁉」

未央「ど、どうしたの、しまむー?」

卯月「み、未央ちゃん! 凛ちゃんの右手!」

未央「右手?……あっ⁉ し、しぶりん―――」



未央「右手で自分のももをつねってるー⁉」



343: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:00:02.89 ID:ESeH7gGO0



P「―――いや、やっぱり美味かった。普通、手作りは市販より美味いだろ?」

凛「それ、どこの普通?」

P「だって手作りには作った人の愛情が籠ってるじゃんか」

凛「……作るの、片手間だったかも」

P「片手間だったの⁉ 愛情0じゃん⁉」

凛「冗談だよ。それなりにちゃんと作ったから」

P「それでもそれなりなんだ!」


344: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:00:55.63 ID:ESeH7gGO0



未央「しぶりん、澄ましてあんなこと言ってるけど、つねるの止めたら絶対また顔真っ赤になるよ⁉」

卯月「表情も、若干にやけが堪えられていないような……プロデューサーさんは気づいてないみたいだけど……」

未央「しぶりん治ってないじゃん! 無理矢理耐えてるだけじゃん、あれ!」

卯月「た、耐えられるほどにはなったって思えば……」

未央「見える、私には見えるよ……しぶりんから出る、恋する乙女オーラが……! 全然隠しきれてないもん!」

卯月「こ、これはもう……どうしようも……」

未央「……だね」


345: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:01:30.65 ID:ESeH7gGO0



P「えぇ……それなりかぁ……。……まあ、それでもいいか。美味かったし」

凛「……ぅぅ」

P「? どうかしたか?」

凛「何が? どうもしてないよ」

P「そっか。ならいいけど」


346: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:03:12.29 ID:ESeH7gGO0






凛(私の作ったチョコ、美味しいって……)










凛(……私、やっぱりもう駄目だ)















凛(プロデューサーのこと…………好きすぎる……っ)















347: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:04:18.83 ID:ESeH7gGO0



―――現在


未央「―――ということがありましたとさ。おしまい」

奈緒「そ、そんなことが……」

加蓮「あったんだ……」

卯月「あったんです」

凛『……笑いたければ笑えばいいよ。さあ笑いなよ、私の醜態を笑いなよっ!』

奈緒「い、いや、そんなこと言われてホントに笑ったらクズじゃんか。笑わないって」

加蓮「からかわないって約束したし、笑ったりしないよ。私たちがお願いして聞かせて貰ったんだしさ」

凛『……笑わないの? 『普段澄ましてるくせに、ぷふーっ』とか』

奈緒「だからそれ最低だろ! そんなこと思ってないから!」

加蓮「まあ恥ずかしいのは分かるけどさ。いい加減押し入れから出てきなよ」

凛『……うん』


《ガラ―――》


凛「―――2人とも、顔がにやけてるんだけどっ!」

奈緒「い、いやー、これは仕方なくないか? 『普段澄ましてるくせに、ぷふーっ』とは思わないけどさ」

加蓮「『普段澄ましてる、あの凛がねぇ……にやにや』とは思うよ」

凛「それ大して変わらないよね⁉……よく見たら、卯月と未央もにやけてるし!」

卯月「あ、あはは、あの時のこと思い出したら、こうなっちゃって」

未央「あの時のしぶりん、微笑ましくてねー」

凛「うぅ……だ、だから嫌だったのに……!」

加蓮「ふふっ、凛の意外な一面が分かったね」

奈緒「恋する乙女モードと名付けようか」

凛「名付けなくていいから!」


348: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:05:01.83 ID:ESeH7gGO0



卯月「それで2人は、恋する気持ちは分かったの?」

奈緒「そうだなぁ、なんとなく分かったような……」

加蓮「分からないような……」

凛「私がこんな思いをしてるのに、それはないよね……?」

奈緒「い、いやうん、分かった気がする! 今、唐突に理解した!」

凛「あからさますぎるよ」

奈緒「ほ、ホントに分かったって。あれだよな……恋って言うのは、自分でも制御できないほどに強烈な思いなんだよな」

加蓮「私も分かったよ。好きな人のことを考えると、その辺を転げまわるくらいになっちゃうんだよね」

凛「2人とも、遠回しに私をからかってるよね?」

奈緒「そんなつもりないって!」

加蓮「そうそう。凛の恋愛話、ホントに参考になったよ。ありがと♪」

凛「……ならいいけど。2人とも、さっきの話は他言無用だからね。誰かに話したら、絶対に許さないよ」

奈緒「わ、分かった分かった」

加蓮「はい、指切りげんまん」

凛「……卯月と未央もだよ? もうこれ以上、あのことを知っている人を増やさないで」

卯月「うん、分かった」

未央「別に隠す必要ないのに」

凛「未央?」

未央「了解しました、サー!」


349: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:05:39.09 ID:ESeH7gGO0



―――翌日 事務所


凛「おはよう」

P「おう、おはよう凛」


《シュタンッ!》


P「なんで飛びのいた⁉」

凛「ちょ、ちょっと今日は勘弁して……明日にはもう大丈夫だから」

P「何が⁉」

卯月(凛ちゃん、昨日あのこと話したから……)

未央(あの時みたいに意識しちゃってるね)

奈緒(あれがそうなのか)

加蓮(ふふっ。凛、かーわいっ♪)

凛「そ、そこの4人。今すぐ、そのにやにや笑いをやめて。……やめてったら!」



 第9話 終わり


350: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:06:23.46 ID:ESeH7gGO0



―――凛の話を聞いた日の夜 女子寮 大浴場


加蓮「まさか、凛にあんなことがあったなんてね」

奈緒「意外だったよな」

加蓮「恋かー……どんなのなんだろう?」

奈緒「話を聞いて、おぼろげには分かった気がするけど……やっぱ実際のとこは、自分が恋してみなきゃ分かんないもんな」

加蓮「奈緒は恋してみたいって思ったりは……しないよね、奈緒だし」

奈緒「それ、どういう意味だ⁉ あ、あたしだって、人並みにそういうのに憧れたりするよ!」

加蓮「えっ、意外。奈緒でもそう思うんだ」

奈緒「別に意外じゃないだろ⁉ あたしだって、年頃の女子高生なんだぞ!」

加蓮「あ、そういえばそうだったっけ」

奈緒「そんな今まで忘れてたみたいな⁉」

加蓮「あははっ。ねぇ、奈緒。私たちは、どんな人を好きになるんだろうね?」

奈緒「……さあなー、想像できない」

加蓮「私は、優しい人だったらいいなーって」

奈緒「そりゃ冷たいよりは優しい方がいいだろ」

加蓮「……そういうの、よくない? そういう揚げ足みたいなの、今はよくない?」

奈緒「うっ、悪かったよ。うんうん、優しい人がいいよな」

加蓮「それと……意地悪じゃない人がいいよね」

奈緒「今の間はなんだ? なんでこっち見てから目を逸らした?」

加蓮「別にー」

奈緒「あたしは加蓮も十分意地悪だと思うぞ!」

加蓮「いやいや、十二分に意地悪な奈緒には負けるよ」

奈緒「こ、このぉ……!」

加蓮「……やる気?」

奈緒「ああ、やろうじゃんか……!」

加蓮「なら、受けて立ってあげる……!」



奈緒・加蓮『くらえぇっ!』



351: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:06:50.28 ID:ESeH7gGO0



―――数分後


奈緒「あははははっ! あ、あたしの負けだからっ! もうやめっ!」

加蓮「そうはいかないなぁ♪……こちょこちょこちょこちょっ!」

奈緒「わひひひひっ! の、のぼせるって!」

加蓮「もみもみ」

奈緒「どこ触ってんだ⁉ や、やめっ、やめろぉ―――――っ!」


352: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/24(月) 21:07:31.62 ID:ESeH7gGO0



―――加蓮の部屋


未央「で、ホントにのぼせちゃったんだ……かれんが」



加蓮「きゅぅ……」



幸子「逆じゃないですか?」

奈緒「ったく、自分がのぼせてちゃ世話ないよな」



 ほんとにおしまい


359: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:04:20.43 ID:DpR3cl+90



―――レッスン室


ルキトレ「―――はい、お疲れさまでした!」

加蓮「ふぅ……」

奈緒「ルキさん、どうだった?」

ルキトレ「そうですねー…………十分合格点です!」

奈緒「よっし!」

加蓮「やった!」

ルキトレ「でも、ライブまでもう少しありますから、明日からは完成度を上げていきましょう」

奈緒・加蓮『はーいっ』


360: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:04:55.17 ID:DpR3cl+90



―――レッスン後 事務所前廊下


奈緒「いよいよもうすぐデビューライブか」

加蓮「なんとか間に合って良かったね」

奈緒「だな」


《ガチャ―――》


奈緒「なおかれん、戻ったぞー」

P「おう、お疲れさん。お前たちにプレゼントが届いてるぞ」

加蓮「プレゼント?」

奈緒「誰から?」

P「俺からだ」

奈緒「加蓮、お菓子でも食べようぜ」

加蓮「確かポテチがあったはずだけど……」

P「一瞬で興味を失っただと⁉」

加蓮「だって、どうせびっくり箱とかでしょ?」

奈緒「そういうのは幸子にでもやれよ」

幸子「なんでボクなんですか!」

奈緒「あ、いたのか」

幸子「最初からいましたよ!」

藍子「まあまあ幸子ちゃん。クッキーでも食べて落ち着いてください」

幸子「そんなことで落ち着きますか! もぐもぐ……あ、美味しいですね、これ」

奈緒「落ち着いてるし……」

加蓮「藍子たち、ティータイム?」

藍子「はい、みんなでお茶会をしてたんです」

きらり「きらりたち、先にレッスン終わったから、事務所でまったりしてたんだぁ」

杏「うーん……飴には紅茶が合うね」

奈緒「え、合うか……?」

P「わりといけるんじゃないか?……じゃなくて! 奈緒と加蓮、俺の話を聞け!」

奈緒「だからびっくり箱とかいいって」

P「違うっつうに!」

奏「でも確かにプロデューサーなら、びっくり箱とかやりそうね」

P「お前らは俺をなんだと思ってるんだ……そんな小学生みたいなことするか」

奈緒「この前、ドアに黒板消し挟んでた奴が言えた台詞か!」

加蓮「もれなく幸子が食らってたね」

P「……たまには童心に返りたい時もある」

加蓮「しょっちゅう返ってるくせに……」


361: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:06:29.42 ID:DpR3cl+90



P「……。……なぁ、前から気になってたんだけど、お前ら俺に冷たくないか? 気のせい?」

奈緒「冷たいって言うより……ぞんざいな扱いかな」

P「より酷くね⁉」

加蓮「プロデューサーがろくなことしないからでしょ……。まあでも、嫌いとかじゃないから、安心していいよ」

P「本当か?」

奈緒「特に好きでもないけどな」

P「その補足いらなくね⁉……ったく、せっかくライブの衣装が届いたってのに」

奈緒・加蓮『衣装⁉』

P「耳ざとい奴ら!」

奈緒「プレゼントって衣装のことだったのか!」

加蓮「どんなの? 見せて見せて!」

P「残念ながら、俺の扱いがぞんざいな2人には、最後に見せることにします。他のみんなが戻ってくるのを、今か今かと待つがいい……!」

奈緒「そういうことするからだろ!」


362: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:07:07.86 ID:DpR3cl+90



―――少し経って


P「デビュー組、全員揃ったな。じゃあ衣装を出すぞー」

奈緒「マジでみんなが来るまで見せなかったな……」

加蓮「やることが小さいんだから……」

P「聞こえてるぞ!……はい、まずは楓さんたちの分です」

楓「ありがとうございます、プロデューサー」

美嘉「へぇ、かっこいいじゃん☆」

みく「……可愛くないよ、Pチャン!」

P「曲のイメージに合った衣装なんだから、そりゃそうだろ。前にも説明しただろ、みく」

みく「む……仕方ないにゃ」

奈緒「みくたちのデビュー曲、クールな感じの曲だったっけ」

P「みくの奴、それで合宿の時に文句言いに来たからな……」

加蓮「文句?」


363: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:07:44.72 ID:DpR3cl+90



―――合宿中の一コマ


みく「どういうことにゃ、Pチャン!」

P「何が⁉」

みく「みくたちのデビュー曲、全然可愛くないよ! ネコチャンアイドルとして、異議を申し立てるにゃ!」

P「ああ、そういうことか。……ふっ、浅はかなり、前川みく」

みく「にゃ⁉」

P「確かに猫は可愛い。ネコチャンアイドルであるみくが、可愛らしい曲を歌う……道理だろう」

みく「うんうん、その通りにゃ。だからもっと可愛い曲に――」



P「それが浅はかだと言っているんだ!」



みく「にゃにゃ⁉」

P「みく、お前に問う……お前の言うネコチャンとは何だ?」

みく「それはもうプリティーで、キュートで、チャーミングで、みんなの心を癒してくれるカワイイ生き物にゃ!」

P「大分似たような単語ばかりだった気がするが……まあいい。確かに猫は可愛いな」

みく「そうでしょー?」



P「だがしかし!」



みく「にゃにゃにゃ⁉」

P「可愛いだけが猫じゃないだろう! よく考えてみろ、みく! お前が言うネコチャンは、そんなにいつも愛想を振りまいていたか⁉」

みく「⁉ ネコチャンは……ネコチャンは普段わりとそっけないにゃ!」

P「そう! 猫は甘えてくるときもあるが、普段は澄ましてる! いつもいつも可愛くにゃんにゃん言ったりはしない! それが本当の猫だろう! みく、お前が目指すのがネコチャンアイドルだと言うのなら、時にクールさも必要なんじゃないのか!」

みく「クールさ……! め、目から鱗にゃ……確かにPチャンの言うとおりかも……」

P「だろう? そしてクールさを見せてから、キュートアピールをすると……」

みく「ぎゃ、ギャップ萌え……! 相手はいちころにゃ!」

P「そう! だからデビュー曲はクールな感じで行こうぜ」

みく「分かったにゃ!……でもやっぱりカワイイのも歌いたいなぁ」

P「そう言うと思って、カップリング曲は可愛い感じのを用意してるから、安心しろ」

みく「さすがPチャン!」


364: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:08:17.98 ID:DpR3cl+90



―――現在


加蓮「そんなやりとりがあったんだ……」

奈緒「それでクールなわけか」

P「そういうことだ。さて、じゃあ次はまゆとありすの衣装だな……これか。ほら、2人とも」

まゆ「ありがとうございます、プロデューサーさん♪」

ありす「これが私たちの衣装ですか……悪くないですね」

奈緒「悪くないって……ありす、目が輝いてるぞ」

ありす「⁉ そ、そんなことありません!」

加蓮「素直じゃないんだから」

P「そういえば、ありすも曲に文句を言いに来たな……」

奈緒「え、また回想入るのか?」


365: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:08:45.72 ID:DpR3cl+90



―――合宿中の一コマ その2


ありす「どういうことですか、プロデューサー!」

P「今度はなんだよ⁉」

ありす「私たちのデビュー曲、全然大人っぽくないです! もっとクールな曲でお願いします!」

P「お前らはどれだけ注文が多いんだ……。逆に聞くが、大人っぽい曲ってどんなのだ?」

ありす「それは……クラシックとか?」

P「アイドルの曲にそれ求めるの⁉ オペラじゃないんだぞ!」

ありす「あ、あくまで例を挙げただけです!」

P「なんの例にもなっていない気がするが……。ありす、そもそも大人っぽい曲である必要はあるのか?」

ありす「そ、それはもちろんあります。え、えっとですね……」

P(今考えるのか……)

P「ありす……そもそも大人なら、大人っぽい曲を歌いたいとか言わないと思うが」

ありす「えっ⁉」

P「だってそうだろ? 大人なんだから、どんな曲を歌おうと、それは大人の曲。大人っぽいとか言わんだろ」

ありす「! 目から鱗が落ちました」

P「お前が大人なら、どんな曲を歌おうと大人っぽいんだ。そうだろ?」

ありす「そうですね、その通りです!」


366: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:09:23.02 ID:DpR3cl+90



―――現在


奈緒「おい、今のはみくのと違って理由になってないだろ。テキトーにあしらっただけだろ」

P「人聞きの悪いこと言うな!……ちょっと誤魔化しただけだ」

奈緒「意味同じだろ!」

P「じゃあ奈緒は、ありすとまゆに大人っぽい曲歌わせた方がいいと思うのか?」

奈緒「……。……やめといた方がいいと思う」

P「そうだろ。優しい嘘と言うのも、時には必要なんだ。まあ、いつかはそんな曲も歌わせてやりたいけどな」

奈緒「ああ、いつかそうしてやってくれ」

P「さて……これで、ちゃんとみんなに衣装を渡し終えたな」

奈緒「おい」

加蓮「プロデューサー、いい加減にしないと本気で怒るよ?」

P「じょ、冗談だよ。えーと……ほれ、お前らの衣装だ」

加蓮「やっと私たちのだよ……。わ、いいね、この衣装♪」

奈緒「へー、これが……え、これ、あたしが着るのか?」

加蓮「何言ってるの?」

P「お前以外に誰が着るんだ」

奈緒「だ、だって、美嘉たちみたいな、かっこいい系じゃないのか?」

P「いや、お前たちの曲はクール系じゃないだろ」

加蓮「奈緒、あの曲にはこれで合ってると思うけど?」

奈緒「で、でもこんな……こんな可愛い衣装、あたしが着るのか⁉ む、無理無理無理無理無理っ! これ着てステージ立つとか、恥ずかしすぎるから!」

P「こ、これそこまで可愛い系か?」

加蓮「そうでもないと思うけど……ありすちゃんたちの方が、ずっと可愛らしい衣装だし」

奈緒「スカートひらひらしてる! そして短い! あと、なんかハート付いてる! この王冠、何⁉ あぅぁ―――――っ!」

P「お、落ち着け!」

加蓮「王冠関係ないし……」

奈緒「き、着れない! こんなのあたしは着れないからっ!」

加蓮「一回着ちゃえば、そんなに恥ずかしくないって」

奈緒「一回も着たくなーいっ!」

加蓮「あー、もう、わがまま言わない! みんな手伝って! 奈緒に無理矢理この衣装を着させるよ!」

美嘉「オッケー☆」

みく「分かったにゃ!」

楓「任せて」

ありす「了解です」

まゆ「奈緒ちゃん、すぐに済みますから」

奈緒「わ、馬鹿やめろ! っていうかプロデューサーいるだろ!」

加蓮「プロデューサー、今すぐ出てって。ついでに私たちも衣装に着替えるから、覗いたりしたら目を潰すよ」

P「怖い!」


367: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:09:55.41 ID:DpR3cl+90



―――廊下


P「おかえりー」

凛「ただいま……こんなところで何してるの?」

P「女子の着替え待ちだよ。学生時代に戻った気分だ」

未央「着替え? 事務所で?」

P「ライブの衣装が届いたから、奈緒たちが着替えてるんだよ」

卯月「衣装が……それはすぐに着たくなりますよね」

P「まあ、約一名そうでもなかったんだが」

卯月「? じゃあ私、ちょっと中に――」

P「いや、今は開けるな! 俺の目が潰されるだろ!」

卯月「どういうことですか⁉」

P「もうすぐだろうから、とにかくちょっと待て」



美嘉『もういいよ、プロデューサー』



P「タイミングいいな……じゃあ開けていいぞ、卯月」

卯月「は、はい? じゃあ―――」


《ガチャ―――》


美嘉「じゃじゃーん☆」

みく「これぞ、クールみくにゃ☆」

楓「あら? 卯月ちゃんたち、戻ってきてたのね」

卯月「わぁ……! 楓さんたち、すごくかっこいいです!」

未央「へー、みくにゃんも意外と似合ってるね」

みく「そうでしょー? クールネコチャンだからね」

未央「何その宅急便みたいな」

みく「そっちじゃないにゃ!」

凛「まゆとありすは可愛らしい衣装だね」

ありす「大人は何を着ても大人ですから」

凛「……? そ、そう」

まゆ「プロデューサーさん、どうですか?」

P「似合ってるぞ、まゆ」

まゆ「うふふ♪ ありがとうございます♪」


368: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:10:44.19 ID:DpR3cl+90


凛「……あれ? 奈緒と加蓮は?」

卯月「そういえば、いないね」

未央「2人の分の衣装も届いたんじゃないの?」

P「届いてるんだが……どこ行ったんだ?」

美嘉「2人なら、あそこ」



奈緒『やだ! あたしはここから出たくない!』

加蓮『なに杏みたいなこと言ってるの! 机の下なんかに入ってたら、衣装がしわになっちゃうでしょ! 早く出てきなって!』

奈緒『いーやーだーっ!』



凛「何をしてるの?」

みく「奈緒チャンがぐずってるんだよ」

P「往生際の悪い奴だ……」



加蓮『しょうがない……きらり、お願い』

奈緒『⁉ そ、それはずるいだろっ!』

きらり『奈緒ちゃん、良い子だから出てくるにぃ☆』

奈緒『や、やめ……いやぁ――――――――――っ⁉』



P「強硬手段に出たか」

凛「無理矢理引きずり出したね」

きらり「―――よいしょっと。奈緒ちゃんをお届けっ☆」

奈緒「うぅ……あたしは杏じゃないぞ!」

杏「その言い方おかしくない? 杏も荷物じゃないぞっ!」

幸子「いつも運ばれてるじゃないですか」

加蓮「全く、やっと出てきたよ。なんで隠れるかな」

奈緒「だ、だってさ……ん?」

P「へぇ……」

奈緒「っ! らぁっ!」

P「危ねっ⁉ の、覗いてもいないのに目を潰そうとするな!」

奈緒「プロデューサー、あたしのこと見てただろ!」

P「見てたけど⁉ 見てたら目を潰すのか、お前は⁉」

奈緒「その目が気に入らない……あたしを馬鹿にする目だ……!」

P「いや、馬鹿になんてしてないぞ⁉」

奈緒「嘘だっ!」



P『ぷふーっwww こいつ、この衣装似合わねーwww』



369: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:11:27.34 ID:DpR3cl+90



奈緒「とか思ってるんだろ!」

P「被害妄想しすぎだ、お前! そんなこと思うか!」

奈緒「じゃあ、なんて思ってるんだ?」

P「いや普通に、似合ってるなって――」

奈緒「らぁっ!」

P「だからやめろっつうに! なんで似合ってるって言ったのに、再度攻撃するんだ⁉」

奈緒「こ、こんなカッコ似合うワケないだろ! 馬鹿にすんなっ!」

P「どう言えば満足なの、お前⁉」

加蓮「いい加減にしなって、奈緒。普通に似合ってるよ、その衣装」

奈緒「加蓮は似合ってるけどさ……あたしは別に―――」

加蓮「奈緒、本当はその衣装着られて嬉しいくせに」

奈緒「なっ⁉ う、嬉しいわけあるか! ちっとも嬉しくなんかないっ!」

加蓮「へー……でも、私は見逃さなかったよ? その衣装を着た時、奈緒の口元が一瞬にやけたのをね!」

奈緒「⁉ にゃ、にゃにを根も葉もないことを!」

P「図星か」

凛「分かり易いね」

奈緒「ち、違うっ! そんな、そんなにやけたとか――」

加蓮「奈緒、写真撮るよー? はい、決めポーズ」



奈緒「キラッ☆」

《パシャッ》



『………………』



奈緒「……はっ⁉」

加蓮「そ、そんなポーズまでやっといて、嬉しくないとか……っ」

P「最高に笑顔だったな」

凛「うん、今まで見た中で一番の笑顔だった」

卯月「奈緒ちゃん、可愛いです!」

未央「かみやん……ナイススマイル!」

奈緒「う……うぁ……うぁぁ……」

加蓮「奈緒、素直になりなって♪」

奈緒「う、うわ―――――――――――んっ!」


370: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:12:20.18 ID:DpR3cl+90



―――数分後


P「―――よし。みんな、衣装のサイズが違ったりはしなかったみたいだな。問題なくて良かった」

凛「衣装とは別の所で問題が発生してる気がするけど」

奈緒「うぅ……もう嫌だ……恥ずかしさで死ぬ……」

加蓮「死なないから」

P「奈緒、お前そんなんでライブとか出来るのか?」

奈緒「! で、出来るに決まってるだろ!」

P「そんな真っ赤な顔で言われても説得力無いんだが……」

奈緒「あ、赤くなんかないっ!」

P「ゆでダコみたいだけど⁉」

加蓮「大丈夫、プロデューサー。このカッコを奈緒に慣れさせればいいだけだよ」

P「慣れさせる?」

奈緒「ど、どうやって?」



加蓮「このカッコで、今から社内をぐるりと回って来るの」



奈緒「なに馬鹿なこと言い出してるんだ⁉」

加蓮「馬鹿なことじゃないでしょ。人前に出れば、そのカッコも慣れるって」

奈緒「人前に出るのがおかしいだろ!」

加蓮「ついでにライブの宣伝もすれば、一石二鳥!」

奈緒「身内に宣伝してどうすんだ!」

加蓮「じゃあ外行きたいの?」

奈緒「い、行きたくないけど……」

加蓮「ならいいじゃん。さすがに私も、この衣装着て外歩くのはきついし。宣伝すれば、他の部署の人がライブに来てくれるかもしれないでしょ? 少しでも多くの人が来てくれた方が、嬉しいしさ」

奈緒「い、いや、確かにそうだけどさ」


371: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:12:57.31 ID:DpR3cl+90



加蓮「というわけでプロデューサー、行ってくるけどいいよね?」

P「うーん……まあいっか。会議してるとことかには行くなよ?」

加蓮「りょーかい」

奈緒「ホントに行くのか⁉」

美嘉「あ、宣伝するなら、アタシたちも行くよ」

楓「みんなのライブだものね」

加蓮「じゃあ、全員で行こっか」

みく「うん、面白そうにゃ!」

ありす「わ、私もこの衣装で人前に出るのは多少恥ずかしいんですが」

まゆ「じゃあ、奈緒ちゃんと一緒に克服しましょう」

奈緒「なんでみんな乗り気なんだよ! は、放せ加蓮! あたしは行くとは――」

加蓮「奈緒が行かなきゃ意味ないでしょ。さ、行くよー」

奈緒「い、嫌だぁ―――――っ!」


《ガチャ―――バタン》


P「本当に往生際が悪いな、奈緒の奴」

凛「プロデューサー、大丈夫なの? 他の部署の迷惑になるんじゃ……」

P「まあ大丈夫だろ。もうすぐ定時だし。うちの会社、良い人ばっかだしな」

凛「楽観的なんだから……」


372: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:13:27.36 ID:DpR3cl+90



―――1階 ロビー


加蓮「私たち、今度の日曜ライブやるので、良ければ見に来てくださーい!」

奈緒「場所言わなきゃ来れないだろ!」

加蓮「詳細はWEBで」

奈緒「サイトのアドレスは⁉」

加蓮「この辺に出てるでしょ」

奈緒「現実世界じゃテロップは実装されてないんだけど!」

若手社員「へー、漫才ライブをやるのか」

奈緒「いや漫才ライブじゃなくて、アイドルのライブですよ!」

若手社員「あ、言われてみれば、そんな感じの衣装だ。てっきり漫才コンビかと思ったよ」

奈緒「うち、お笑い事務所じゃないでしょう⁉」

女子社員「あなたたち、アイドル部門の子?」

加蓮「はい、そうです」

女子社員「ふふ、可愛い衣装ね。2人とも似合ってるわ」

加蓮「ほら奈緒、似合ってるって」

奈緒「い、いちいち言わなくていいっ!」


373: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:13:55.18 ID:DpR3cl+90



―――3階 食堂


美嘉「カリスマJK、城ケ崎美嘉でーす☆」

みく「ネコチャンアイドル、前川みくにゃ!」

楓「夕飯はぶりの照り焼きにします、高垣楓です」

みく「楓さん、それ何の紹介にもなってないにゃ!」

美嘉「おばちゃんたち、暇だったらライブ見に来てね」

食堂のおばちゃんA「あいよ」

おばちゃんB「子供と一緒に行こうかねぇ」


374: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:14:22.27 ID:DpR3cl+90



―――5階 廊下


まゆ「さあ、ありすちゃん」

ありす「ら、ライブやります。ぜひ来てください」

おじさん「ほう……お嬢ちゃんたちが?」

ありす「はい」

おじさん「ふむ……時間があれば、ぜひ行ってみるとしよう」

ありす「あ、ありがとうございます!」


375: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:14:56.05 ID:DpR3cl+90



―――6階 廊下


奈緒「加蓮、まだやるのかー? もういいだろー」

加蓮「んー、じゃあこの階を回ったらね」

奈緒「この階は回るのかよ……」

社長「……何をしているんだ、お前たちは」

奈緒・加蓮『社長⁉』

社長「それはライブの衣装か? なぜそれを着てこんな所にいる?」

加蓮「え、えーっとですね―――」


―――説明中


社長「―――なるほどな。……社内で宣伝してどうする」

奈緒「あたしもそう言ったんですけど……」

社長「はぁ……、まあ好きにしろ。だが、あまり遅くならないうちに帰宅しろよ」

加蓮「あ、はい……社長って意外と優しいよね」

奈緒「確かにそうだな」

社長「……ああ、そういえば神谷」

奈緒「なんですか?」

社長「くくっ、中々いい笑顔だったぞ」

奈緒「? なんの話ですか?」

社長「この写真だ」

奈緒「写真?……これさっき加蓮が撮ったやつじゃん⁉」

加蓮「あれ? どうして社長が?」

社長「本田から送られてきた」

奈緒「未央の奴、なにしてんだ⁉……いや、そもそもなんで未央がこの写真のデータを……加蓮! 未央に送ったな⁉」

加蓮「うん。未央というより、事務所のみんなに送ったけど」

奈緒「あたしの恥ずかしい写真をみんなに送るなーっ!」

社長「その台詞は誤解を招きそうだな」

奈緒「い、今すぐそれ消してください社長!」

社長「こんな面白――もとい、可愛い写真を消せるはずないだろう?」

奈緒「今、面白いって言いかけましたよね⁉」

社長「アイドルらしくていいじゃないか。その調子で頑張れよ、神谷。……くくくっ」

奈緒「ニタニタ笑いで頑張れとか言われても、馬鹿にされてるとしか思えないんですけど!」


376: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:15:30.76 ID:DpR3cl+90



―――事務所


未央「あ、戻って来た」

P「やっとか。どうだった?」

奈緒「最悪だ……なんで社長まで……恥ずかしさで死ぬ……」

P「出てった時と変わってなくね⁉」

加蓮「これは別のことだから、大丈夫」

P「別って何だ」

加蓮「それよりプロデューサー、みんなは?」

P「もう遅いし、帰らせたよ。残ってるのは寮組の未央と幸子だけだ」

幸子「戻ってくるの遅いですよー。待ちくたびれました」

みく「ごめんね、幸子チャン。お詫びにこれあげるにゃ」

幸子「……なんでおせんべいなんですか?」

加蓮「プロデューサー。奈緒、もうこの衣装は恥ずかしがってないよ。人前でも普通にしてたから」

P「そうなのか?」

奈緒「恥ずかしくなくはないぞ……我慢してるだけだ」

加蓮「我慢できれば十分」

未央「かみやん、大丈夫そうじゃない?」

P「そうだな。それで、宣伝もちゃんとしてきたのか?」

美嘉「バッチリ☆」

みく「おばちゃんから、おせんべい貰ったよー」

幸子「あ、このおせんべい、そういうことですか」

ありす「私も、なぜかお菓子を貰いました」

まゆ「プロデューサーさんにおすそわけです♪」

P「お、サンキュ―――って、ハロウィンか! 宣伝しに行ったんじゃないのか⁉」

楓「宣伝していたら、なぜかみなさん色々とくださったんです」

P「楓さんまで貰ったんですか……仮装だと思われたのかな」

加蓮「でも、わりと興味持ってもらえたと思うよ」

P「それは良かったな。……身内だけど」

奈緒「ライブ当日、身内しかいなかったりしないよな……」

P「笑えないこと言うな! ちゃんとこれまでPR活動してきたんだから、それなりには来てもらえる!……多分」

奈緒「多分って言ったし!」

P「いや、100パー保証は出来ないからなぁ……」

未央「大丈夫、きっと来てもらえるって。最悪、もし誰もいなくても、私たちがいるしね!」

奈緒「未央……ライブ見に来るのか?」

未央「そこから⁉ 行くに決まってるじゃん! ね、さっちー?」

幸子「はい。カワイイボクが、ちゃんと見に行ってあげますよ」

未央「もちろん、他のみんなも一緒にね。だから、お客さんが0だったりはしないから、安心して、かみやん」

奈緒「そっか……サンキュな」


377: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:16:11.15 ID:DpR3cl+90



―――そして、ライブ前日 アイドル寮 奈緒の部屋


奈緒「……いよいよか」

加蓮「……いよいよだね」

みく「……いよいよにゃ」

ありす「……いよいよですか」

まゆ「……いよいよです」

奈緒「いよいよいよいよ、うるさいな!」

未央「初めに言ったの、かみやんじゃん」

奈緒「そうだけど、続けとは言ってないぞ⁉」

幸子「みなさん、いよいよ明日がライブですね」

加蓮・みく・ありす・まゆ『いよいよ……』

奈緒「もういいって!」

未央「もしかしてみんな……緊張してる?」

みく「ぎくり。な、何言ってるのかにゃー?」

ありす「そ、そんなことないですよー?」

幸子「いや、どう見ても緊張してますよ」

まゆ「わ、分かっちゃいますか」

加蓮「あはは……当たり。すごく緊張してるよ」

未央「やっぱりそうなんだ。私もそうだったなー」

加蓮「未央も?」

未央「デビューライブの前日は、緊張して中々眠れなかったもん」

まゆ「へぇ……未央ちゃんでも緊張したんですね」

未央「そりゃするよー」

奈緒「そういえば前にライブ行った時も、緊張してるって言ってたな」

未央「そうだったっけ? まあ、何度やっても緊張はするよ。でも、それに飲まれちゃ駄目だよ、みんな。上手くコントロールしないとね」

奈緒「未央が……未央が先輩っぽいこと言ってる!」

未央「驚くとこじゃないよ⁉……ていうか、かみやんは緊張してないの? みんなと比べると、わりといつも通りな感じだけど」

奈緒「ふっ、あたしは緊張なんてしてない」

未央「嘘⁉ すごいね、かみやん!」

加蓮「奈緒、さっきからその貧乏ゆすりやめてくれない?」

奈緒「……え、そんなのしてた?」

未央「思いっきり緊張してるじゃん!」

奈緒「バレたか……そ、そりゃ、あたしだって緊張するよ」


378: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:16:40.23 ID:DpR3cl+90



未央「なんかみんな心配になるなぁ……集まっといてなんだけど、今日はもう解散しよ。早いうちに寝たほうがいいよ」

奈緒「そ、そうか。そうだな。じゃあみんな、自分の部屋に帰れー」

加蓮「うーん……よし、そうしよ」

ありす「ね、眠れるでしょうか」

まゆ「でも寝ないと……」

みく「こうなったら、羊を1万匹くらいまで数えまくるにゃ」

幸子「逆に目が冴えそうですね、それ」

未央「それじゃあね、かみやん。おやすみー」

奈緒「おやすみー」


《ガチャ―――バタン》


奈緒「さて、じゃあとっとと寝ようかな。……寝られるか分かんないけど」


《ガチャ―――》


奈緒「? 誰か忘れ物でも……」

加蓮「―――よいしょ、よいしょ」

奈緒「加蓮⁉ な、なんで布団なんか持ってきてるんだ⁉」

加蓮「よい、しょっと……ふぅ。なんでって、ここで寝るからに決まってるじゃん」

奈緒「いや勝手に決めるなよ!」

加蓮「じゃあ奈緒、今日は一緒に寝ようよ」

奈緒「寝ようよって……まあ、別にいいけどさ」


379: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:17:21.81 ID:DpR3cl+90



―――数分後


奈緒「電気消すぞー」

加蓮「はーい」


《ピッ》


奈緒「じゃ、寝るか」

加蓮「寝られるの?」

奈緒「……寝られなくても、寝るしかないじゃんか」

加蓮「寝られそうにないよねぇ……」

奈緒「もしかして、それで一緒に寝ることにしたのか?」

加蓮「そういうこと。1人だと、どんどん緊張してっちゃう気がして」

奈緒「そっか……それもそうかもな」

加蓮「というわけで……えいっ♪」

奈緒「ひゃんっ⁉ な、何だいきなり⁉」

加蓮「大げさだなぁ……手を握っただけじゃん」

奈緒「だから握る前に言えよっ!」

加蓮「ごめんごめん。ね、このまま繋いでていい?」

奈緒「……いいけど」

加蓮「ありがと。なんかこうしてると、落ち着く気がするんだ」

奈緒「……あたしもちょっと落ち着いた気がする」

加蓮「でしょ?」

奈緒「うん。……そういえばさ、加蓮」

加蓮「なに?」

奈緒「ニュージェネのライブの時にした話、覚えてるか?」

加蓮「覚えてるよ、もちろん。奈緒がへこんでた時のでしょ?」

奈緒「そ、そうだよ」

加蓮「ほっぺぷにぷにの」

奈緒「それは言わなくていいよ!」

加蓮「あははっ。それで、あの時の話がどうかした?」

奈緒「いや、あたしたちのスタートラインがあそこならさ……デビュー目前の今は、どの辺りなのかな?」

加蓮「うーん、そうだなぁ……まだ全然じゃない? ちょっと進んだくらい。下手すると一歩進んだだけかもね」

奈緒「そこまで進んでないの⁉ さすがにもうちょっと進んでるだろ!」

加蓮「どうかなぁ……確実に言えることは、ニュージェネはまだまだ遠いってこと」

奈緒「う。それは否定できない……でも、このまま突っ走っていけば、いつか追いつけるよ」

加蓮「……追いつけるかな。目標は遠いよ? 止まっててくれないしさ」

奈緒「なら、ニュージェネより早く走ればいいだけだろ?」

加蓮「……そうだね。うん、そうかも」

奈緒「そう考えると、明日のライブはスピード上げるのにちょうどいいよな。……なんか、緊張よりもワクワクの方が大きくなってきたかも」

加蓮「ふふっ……私、奈緒のそういうとこ、好きだよ」


380: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:18:10.40 ID:DpR3cl+90



奈緒「すっ⁉ そ、そういうこと言うの、恥ずかしいからやめろぉ!」

加蓮「えー? なんでー? 奈緒のこと、好き好きだーい好きっ♪」

奈緒「うぁ―――っ! や、やめろって言ってるだろーっ⁉ からかうなーっ!」


《ガチャッ!》


未央「うるさいよーっ! みんな眠れないでしょーっ!」

奈緒「あっ⁉ わ、悪い、未央」

未央「……って、なんで2人で寝てるの?」

加蓮「んー、明日ライブだから、なおかれん2人で仲良く寝ようと思って。その方が緊張も薄れるしさ」

未央「なるほどねー……でも静かにしなよ? みんなただでさえ眠れないだろうに、余計に眠れなくなっちゃうからさ」

奈緒「ごめん、気を付ける」

未央「2人も早く寝なねー。でもユニットで寝る……はっ⁉ みくにゃんは美嘉ねーもかえ姉さまも寮にいないから……よーしっ!」


《―――バタン》


奈緒「……なあ、加蓮。今、未央の奴最後に……」

加蓮「多分、みくの所に行ったよね……」



みく『にゃーっ⁉ なんで布団持ってきたの、未央チャン⁉』

未央『みくにゃんが寂しくないように、私が一緒に寝てあげるよ!』

みく『どうしてそうなるの⁉』

未央『ついでにさっちーも連れてきたよ!』

幸子『どうしてボクまで⁉』



奈緒「やっぱり……」

加蓮「まあ、みくの緊張が薄れていいんじゃない?」

奈緒「そうだといいけどな」


381: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:18:47.09 ID:DpR3cl+90



―――みくの部屋


幸子「……あの、狭くないですか?」

みく「2つの布団に3人で入ってるんだから、そりゃそうだよ」

未央「もう一つ敷けたらなー」

幸子「すみません。ボク、自分の部屋で寝ていいですか?」

未央「何言うの、さっちー! みくにゃん1人じゃ可哀想でしょ!」

みく「別に大丈夫だよ⁉ いつも1人で寝てるよ⁉」

未央「みくにゃん、無理しなくていいって。私とさっちーが、ちゃんと一緒に寝てあげるから!」

みく「話聞いてないにゃ!」


382: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:19:13.12 ID:DpR3cl+90



―――まゆの部屋前


ありす「……」


《コン、コン―――》


まゆ『……ありすちゃん?』

ありす「⁉」


《ガチャ―――》


ありす「……ど、どうして分かったんですか?」

まゆ「なんとなくです」

ありす「そ、その……眠れなくて……」

まゆ「……今日は、一緒に寝ましょうか?」

ありす「あ……。……はい、お願いします」


383: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:19:44.20 ID:DpR3cl+90



―――美嘉の家 美嘉の部屋


美嘉「莉嘉。本当に明日来る気?」

莉嘉「もちろん! お姉ちゃんのデビューライブだもん!」

美嘉(莉嘉が来るとなると、絶対に失敗できないなぁ……プレッシャーが増すよ)

莉嘉「? どうかしたの?」

美嘉「……なんでもないよ。楽しみにしてな、莉嘉。最高のライブを見せてあげる☆」

莉嘉「うん!」


384: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:20:11.29 ID:DpR3cl+90



―――楓の家


楓(デビューライブかぁ……ライブって、どんな感じなんだろう?)

楓「卯月ちゃんたちのライブを見たことはあるけれど……自分でやるのとは、全然違うわよね」

楓(美嘉ちゃんとみくちゃんと一緒に立つステージ……どうなるのかしら?)

楓「……楽しみね」


385: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:20:44.75 ID:DpR3cl+90



―――奈緒の部屋


加蓮「奈緒。未央にも言われたし、もう寝よっか」

奈緒「……もうからかうなよな」

加蓮「別にからかってないって」

奈緒「嘘つけ」

加蓮「手は……繋いだままでいい?」

奈緒「……うん。おやすみ、加蓮」

加蓮「おやすみ、奈緒」


386: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:21:29.72 ID:DpR3cl+90



―――翌日 ライブ会場


凛「奈緒たち、大丈夫かな? 緊張してないといいけど」

卯月「どうだろうね……」

未央「もしまだ緊張してたら、私とさっちーの爆笑コントで緊張をほぐすから、大丈夫!」

幸子「そんなの準備してませんよね⁉」

奏「2人なら、アドリブで出来るんじゃない?」

幸子「無茶言わないでください!」

未央「なら、あーちゃんとのコンビで天然漫才を」

藍子「天然漫才? なんだか、体に良さそうですねっ」

未央「天然水とかとは違うから!」

幸子「既に出来てる⁉」

杏「そもそも、お笑いやる必要ないでしょ」

きらり「でもでも、2人の漫才すっごく面白いよ、杏ちゃん」

杏「面白いとか関係ないって……」

凛「……さて、ここに奈緒たちが――」



奈緒『いや、なんであたしなんだよ⁉』



凛「? 奈緒の声だ」

卯月「どうしたのかな?」

凛「入ってみよう」


387: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:22:10.53 ID:DpR3cl+90



《コンコン、ガチャ―――》


凛「みんな、応援に来たよ」



奈緒「それなら、まゆの方が適任だろ!」

まゆ「私もそうしたいんですが……」

加蓮「まゆだと、意味が変わっちゃうでしょ」

まゆ「……そういうことみたいです」

奈緒「くぅう……で、でも――」

楓「奈緒ちゃんが適任だと思うわ」

美嘉「奈緒ちゃんはアタシたち2期生のリーダーなんだからさ」

奈緒「2期生なんて単語初めて聞いたんだけど⁉」

みく「とにかく任せたにゃ」

ありす「私たちは遠くから見守っていますので」

奈緒「お前ら、押し付けたいだけだろ!」



卯月「? なんの話かな?」

凛「さあ……?」

未央「みんなー、応援に来たんだってば―!」

奈緒「え? あっ、いつの間に⁉」

藍子「今のは、なんの話ですか?」

加蓮「悪いけど内緒。今はね」

奏「ふぅん……なんだか意味深ね」

杏「見た感じ、全然緊張してなくない?」

みく「してるよー」

ありす「でも、もうそれほどでもないかもしれません」

幸子「確かに昨日に比べると、そんな感じですね。どうしたんですか?」

まゆ「……どうしてでしょう?」

幸子「ボクがそれを訊いてるんですけど⁉」

加蓮「緊張よりも、ワクワクが大きいから……だよね、奈緒?」

奈緒「な、なんであたしに振るんだ!」

美嘉「ま、せっかくのデビューライブ、楽しまなきゃ損だし☆」

楓「早くライブの時間にならないかしら」

卯月「み、みんなすごいです」

凛「もっと緊張してるかと思ってたのに……」


388: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:23:14.87 ID:DpR3cl+90



未央「しまむー、しぶりん……私たちの時とは時代が違うんだよ」

凛「まだ1年も経ってないよね」

未央「じゃあ違うのは器だとでも言うの、しぶりん⁉」

凛「そ、それは…………時代が違うよね、やっぱり。緊張しないのが、今のトレンドだよ」

卯月「? 凛ちゃん、緊張しないトレンドって何?」

凛「……。……卯月は深く考えなくていいから」

杏「みんな、ただ能天気なだけじゃないの?」

奈緒「なんてこと言うんだ!」

加蓮「まさか……奈緒の能天気が感染った?」

美嘉「そんな……!」

みく「悪夢にゃ!」

奈緒「さもあたしが感染源みたいな言い方するなよ! あたしは別に能天気じゃないだろ!」

楓「能天気……天気が悪いと、雨がうぇざーっと降るわね。ふふっ」

奈緒「楓さんも相当じゃないか⁉」

まゆ「楓さんは能天気と言うより……」

ありす「天然の方が近いかと」

楓「奈緒ちゃん、何言うてんねん」

奈緒「楓さんが何言ってるんですか!」


《コンコン》


P『入るぞー』


《ガチャ――》


P「なんか随分賑やかだな」

奈緒「ほら、ナンバーワン能天気が来たぞ! 感染源こいつだろ!」

P「いきなりなんの話だ⁉ お前、俺の扱いぞんざいにもほどがあるだろ!」

加蓮「あれ、プロデューサーが来たってことは……もうすぐ?」

P「そうだよ。……お前ら、準備出来てるか?」

奈緒「とっくに出来てるよ」

加蓮「いつでも大丈夫」

P「そうか……じゃあ、行くぞ!」



奈緒「おう!」加蓮「うん!」美嘉「オッケー☆」楓「行きましょう」みく「ゴーにゃ!」ありす「分かりました!」まゆ「はい、プロデューサーさん♪」



389: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:24:38.14 ID:DpR3cl+90



―――ステージ裏


P「奈緒、加蓮、まずはお前たちだ。……恥ずかしがって、歌えなかったりするなよ?」

加蓮「しないでよ?」

奈緒「大丈夫だよ!」

P「よしっ、じゃあ行ってこい!」

奈緒「ああ、行ってくる!」

加蓮「行ってくるね、プロデューサー!」



奈緒「それじゃ、加蓮」

加蓮「うん、奈緒」





『……行こうっ!』





そして、あたしたちは輝くステージへと駆け上がった……!










―――SAY☆いっぱい! 輝く……輝く、星にな-れっ! 運命のドア開けよう―――今、未来だけ見上げて!


390: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:25:34.61 ID:DpR3cl+90



―――なおかれんライブ終了後 ステージ裏


奈緒・加蓮『楽しかったーっ!』

P「お疲れ! じゃあ次は、まゆとありす。2人とも、大丈夫か?」

ありす「……はい」

まゆ「大丈夫です、プロデューサーさん」

P「……なんか堅いな」

奈緒「任せろ、プロデューサー」

P「ん?」

加蓮「ねぇ2人とも。ちょっと右手を上げてくれる?」

ありす「はい?」

まゆ「こうですか?」

加蓮「オッケー」

奈緒「それじゃ―――」


《パァン―――!》


奈緒「はい、交代」

加蓮「次、任せたよ?」

ありす「あ……はいっ!」

まゆ「ふふっ、任されました♪」

P「よし……行ってこい!」



ありす・まゆ『いってきます!』



391: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:26:13.72 ID:DpR3cl+90



―――観客席



―――夢みたいに綺麗で泣けちゃうな、これから沢山イイコトあるよ



卯月「ありすちゃんとまゆちゃんのライブも、すごくいいね」

凛「うん。さっきの奈緒と加蓮も。……うかうかしてられないね、私たちも」

未央「もう、しぶりんは真面目だなぁ。ライブの時はそんなこと考えてないで、思いっきり楽しもうよ!」



―――もし手を伸ばしたら届くかな……明るい空、見つけた一筋の流れ星



凛「……それもそうかも。たまにはいいこと言うね、未央」

未央「たまには⁉ もっと沢山言ってるよー!」

卯月「あはは……」


392: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:26:45.91 ID:DpR3cl+90



―――ステージ裏


まゆ・ありす『お、終わりましたー!』

P「お疲れ! それじゃあ最後は――」

美嘉「アタシたちだね☆」

みく「待ってました!」

楓「ステージに、上がりましょう」

ありす「あ、ちょっと待ってください」

美嘉「ん? なーに、ありすちゃん?」

ありす「そ、その……手を……」

美嘉「あ、さっき奈緒ちゃんたちとやってたやつ?」

みく「そうだね、みくたちもやろっか」

楓「じゃあはい、ありすちゃん」

ありす「! まゆさんも」

まゆ「はい、分かってますよ」


《パァン―――!》


ありす「交代、ですっ」

美嘉「うん、バトンタッチ☆」

まゆ「最後、お願いします」

みく「任せるにゃ!」

楓「綺麗に締めてくるわ」

P「じゃあ3人とも……」



美嘉・みく・楓『いってくるね☆(いってくるにゃ!・いってきます)』



P「先に言われた⁉……いってらっしゃい!」


393: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:27:32.95 ID:DpR3cl+90



―――観客席



―――たとえ、孤独が滲み始め足が震えていても……遠い日の約束―――叶えなきゃ掴まなきゃ絶対!



莉嘉「お、お姉ちゃん……」



―――自由が歪み始め、歌の中舞い上がる……未来に響かせて―――勝ち取るの、この歌で絶対!



莉嘉「……ちょーかっこいいっ! すっごーいっ! さっすがお姉ちゃん!」



―――掴め! starry star!



莉嘉「よーし、決めた!……アタシもやるっ☆」



394: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:29:01.63 ID:DpR3cl+90



―――デビューライブ終了後 楽屋


《ガチャ―――》


P「みんな、ライブお疲れ―――」

凛「しっ、プロデューサー」

P「へ?」

凛「……寝てるから」



『……くー……』



P「ぜ、全員寝てるのか?」

卯月「ライブが終わって、緊張の糸が切れたみたいです」

未央「やっぱり、昨日はあんまり眠れてなかったみたいだね」

幸子「……未央さん。みくさんが眠れなかったの、ボクたちのせいなんじゃ……」

未央「き、緊張で眠れなかったんだよ! むしろ私たちがいた方が眠れてたと思うよ!」

幸子「そ、そうですよね! きっとそうです!」

藍子「みんな、ぐっすりですね」

奏「ええ、幸せそうな顔」

杏「なんだか、杏も眠くなってきた……寝よ」

きらり「もう、杏ちゃんったら……」

P「やれやれ……」



P「……お疲れさま。最高のライブだったぞ、お前たち」





奈緒「……にへへ……」

加蓮「……ふにゅぅ……」





第10話 Star!!


 終わり


395: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:30:28.28 ID:DpR3cl+90



―――数日後 事務所


奈緒「……」

P「……奈緒、今日ずっと俺のこと見てないか?」

奈緒「⁉ べ、別に見てないぞ? 気のせいだろ」

P「そうか……? ならいいけど」

奈緒「はぁ……」

加蓮「奈緒、いい加減にしなって」

美嘉「早くしてったら」

奈緒「だったら自分でやれよ! なんであたしなんだよ!」

凛「どうしたの?」

みく「ちょっとね」

加蓮「さあ、もう行っちゃえ」

奈緒「待て! ここで⁉ みんないるんだけど!」

ありす「別にいいじゃないですか」

奈緒「ありす、自分がやらないからって……!」

まゆ「奈緒ちゃん、やっぱり私がやりましょうか?」

奈緒「い、いいのか?」

加蓮「だからそれは駄目だって! あくまで私たちのなんだから!」

まゆ「……奈緒ちゃん、そういうことみたいです」

奈緒「くぅう……」

楓「プロデューサー、ちょっといいですか?」

P「はい?」

奈緒「楓さん⁉」

楓「いつまでもそうしていても、仕方ないわ」

加蓮「楓さんの言うとおり。そんな大したことじゃないんだから」

奈緒「うぅ……プロデューサー!」

P「な、なんだよ?」



奈緒「……こ、これ、受け取れ」



あたしは、プロデューサーに小さな箱を差し出した。


396: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:31:17.92 ID:DpR3cl+90



P「? なんだこれ?」

未央「あれ? なんだか既視感があるよ?」

卯月「まさかあれって……」

凛「……それ、チョコじゃないよね?」

奈緒「違うから! 凛たち3人の考えてることとは全然違う!」

P「まさかこれ、びっくり箱か⁉」

奈緒「それもちげーよ! そんなくだらないことするか!」

P「じゃあ、これ何だ?」

奈緒「……プレゼントだよ。あたしたちからの」

P「プレゼント? 奈緒たちからって……」

加蓮「だから、デビューしたばっかりの私たち7人からの―――」



加蓮「プロデューサーへの、お礼のプレゼントだよ」



P「……え」

奈緒「あー、その……前にプロデューサーのこと、特に好きじゃないって言ったけどさ」

P「あ、ああ」

奈緒「それは本音だ」

P「本音なのかよ!」

奈緒「で、でも、特に好きじゃないけど……感謝はしてる」

P「感謝……?」

奈緒「あんたがスカウトしてくれたから、アイドルやろうと思ったし……あんたがプロデュースしてくれたから、デビューライブも上手くいったし……」

P「……」

奈緒「だ、だからその……い、一回だけしか言わないからな!」


397: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:32:13.71 ID:DpR3cl+90
















奈緒「……いつもありがと、プロデューサーさん」















398: ◆mqlRkew9nI/5 2017/04/25(火) 22:35:00.42 ID:DpR3cl+90



P「!」

奈緒「~~~っ! も、もう無理! あたし帰るっ!」


《ガチャ―――》


加蓮「あ、ちょっと奈緒!……そういうことだから、いつもありがとね、プロデューサーさんっ♪ 奈緒、待ってよー!」

美嘉「サンキュ、プロデューサー! じゃねっ☆」

楓「いつもありがとうございます、プロデューサー。お先に失礼します」

ありす「その、感謝してます、プロデューサー。それでは」

みく「Pチャン、ありがと! ばいばーいっ!」

まゆ「プロデューサーさん、いつもありがとうございます♪ また明日」


《―――バタン》


未央「……怒涛の勢いだったね」

卯月「みんな改まってお礼を言うの、照れたんだよ」

P「……なんだあいつら、言い逃げかよ」

凛「プロデューサー……泣くほど嬉しかった?」

P「な、泣いてなんかないだろ⁉」

凛「じゃあ、そういうことにしておいてあげるよ」

P「だから泣いてないっての! 泣いて、ないけど…………め、滅茶苦茶嬉しい……っ!」

凛「……やっぱり、泣いてるじゃん」



 ほんとにおしまい


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