芽衣子「殺人事件ってことで来てみたけど……」

椿「かなり手酷く刺されてますね、被害者の方……可哀想に」ﾊﾟｼｬﾊﾟｼｬ

夏美「その割にめちゃくちゃ撮るわね」

椿「仕事ですから」

「私の仕事を取らないで下さいよ」

芽衣子「あっ、ありすちゃん！」

橘ありす「橘です！」


美里「まぁまぁ、お菓子あげるから落ち着いてよぉ」ﾋｮｲ

ありす「……」ﾊﾑﾊﾑ

ありす「」ﾊﾟｧｧｧ

5人(かわいい)

芽衣子「ありすちゃん、死亡推定時刻はどれくらいかな？」

ありす「んぐっ……えっと、昨日の午後1時から午後2時の間ぐらいですね。死因は失血死です。被害者の運転免許証もありました。それによると、この人は鷹富士茄子さん20歳。宝石商を営んでいるようです」

惠「家に鍵はかかっていたのかしら」

ありす「そっちは所轄の方にお願いします」

姫川友紀「池田署の姫川だよ！第一発見者によれば、家にはちゃんと鍵がかかってたみたい。鍵を持ってるのはその姪とガイシャの弟だけだって」


ありす「付け加えるならば、ピッキングされた形跡なんかもありませんでした。そもそも周辺の方も宝石商だと知らなかったようですから、強盗の可能性は低いのではないでしょうか」

芽衣子「ありがとう！その鍵を持ってる2人は来てくれた？」

ユッキ「もっちろん！こっちの部屋にいるからついてきて！」

ユッキ「この2人が鍵を持ってた人たちだよ。鷹富士さんのお姉さんの娘さんの白菊さんと、鷹富士さんの弟のPさん」

白菊ほたる「あ、あの……白菊です……」


P「Pです。姉に何があったんですか？」

芽衣子「お二人とも落ち着いてください。まずお姉さんですが、刺殺されていました。顔を含め複数回刺されていますから、犯人は相当茄子さんに恨みがあったと思います」

P「そんな！姉さんは誰かに恨みを買うような人じゃ……」

惠「残念だけどおそらく事実よ。犯人がパニックになったうえでの衝動的な殺人だったとしても、刺し傷が多すぎるわ」

Pほた「……」

芽衣子「言いにくいんだけど、昨日の午後1時ごろ、どこで何をしていたか教えてくれるかな」

ほたる「アリバイ調べ……ですか？」

夏美「そういうことになるわね。形式的なものだけど、正直に答えてちょうだい」

ほたる「……大山崎の博物館に行ってました……」

夏美「博物館にいたのね？」

ほたる「それが臨時休館になってて……ちょっと駅の近くをぶらぶらしてちょうどそのぐらいに大山崎駅から帰りました……」

椿「家はどちらですか？」

ほたる「芦屋の近くです……」

芽衣子「なるほど……アリバイとしては薄いかなぁ。Pさんは？」

P「僕は京都にさくらを撮りに行ってました」

椿「桜ですか……写真があったら、いただけますか？」

P「分かりました。カメラのデータをお渡しします」

夏美「ちなみにご自宅は？」

P「西宮のあたりです」

芽衣子「本当ならアリバイには十分かなぁ……白菊さんは何か証拠とかはある？」

ほたる「ごめんなさい……でも、ちょっと不思議なものを見たんです」

美里「不思議なものぉ？」

ほたる「大山崎駅のホームから、水色の見慣れない新幹線が見えたんです。ほんとのほんとなんです！」

芽衣子「水色の新幹線かぁ……普通に考えたら『さくら』か『みずほ』だよねぇ」

椿「でも『みずほ』も『さくら』も、新大阪までの運転のはずですよね。確かに不思議な話です」

惠「どういうこと？」

椿「白菊さんは阪急京都線の大山崎駅のホームから水色の新幹線を見たって言いましたよね。大山崎駅は新幹線の線路の隣にあるので、新幹線を見たこと自体はおかしくはありません。でも、大山崎駅は東海道新幹線の京都
駅と新大阪駅の間にあるんです。普通なら新大阪止まりの『みずほ』や『さくら』が走るはずがない」

惠「いるはずがない……ってことか」

参考　関西周辺の鉄道地図(一部)

美里「さっき調べたけど、そもそも九州新幹線が止まってるから、『みずほ』も『さくら』も運転中止だって」

夏美「普段の車両が使えなくなって代わりに走ったとかじゃない？飛行機では珍しい話だけど、無くはないわ」

芽衣子「まだ可能性があるよ」

惠「警部？」

芽衣子「白菊さんは見間違えたんじゃないかな。それが一番簡単な説明だと思う」

美里「そっかぁ……私、白菊さんに聞いてきますねぇ」

芽衣子「うん！私と惠は二人で国鉄に話を聞いてくるから、椿ちゃんと夏美さんはPさんのアリバイに怪しいところがないか調べて欲しいな」

椿夏美「了解！」

【芦屋の白菊家】

ほたる「違います……この新幹線じゃありません」

美里「ほんとにぃ？」

ほたる「はい……形は多分これだと思うんですけど、色が違います……。もっと色が水色っぽかったんです」

美里「でも、この新幹線がここを走ってるはずは無いんだよねぇ。それだったら嘘をついてるってことに……」

ほたる「嘘なんてついてません！」

美里「そうなんだぁ……うーん……」

美里(怪しいけど……嘘をついてる目じゃないんだよねぇ)

【西宮のP家】

P「はい、こちらです」ｼｬｼﾝﾜﾀｼ

椿「ありがとうございます……これは祇園のあたりですか？」ｼｬｼﾝｳｹﾄﾘ

P「そうです、他にも鴨川の近くなんかにも行ってきましたよ……ほら、これなんか」

椿「いい写真！玄関の新幹線の写真もですけど、カメラお上手なんですね」

P「ありがとうございます……刑事さんもカメラ、お好きなんですか？」

椿「そうなんですよ！最近新しいカメラを買って……」

夏美「椿ちゃんストップ」ﾊﾟｼﾝ

椿「あぅ」

夏美「じゃあPさん、私たちは失礼するわね」

P「あはは……お疲れ様でした」

椿「待って！Pさん、最後に一つだけいいですか？」

P「ドラマの特命係みたいなこと、本当に言うんですね。何ですか？」

夏美「ちゃんとした質問なのよね……？」

椿「……カメラ、どんなの使ってるんですか！？」ｵﾀｸﾉﾏﾅｻﾞｼ

夏美「」

P「カメラですか？ちょっと古い一眼レフですね、これです。いつもこれを使ってるんですよ」ｶﾒﾗﾜﾀｼ

椿「これプレミアついてるものじゃないですか！いいなぁ……」ｸﾞﾙｸﾞﾙ

椿(……？このカメラ、レンズに傷が……)

夏美「はいはい椿、帰るわよ」ﾋｷｽﾞﾘｰ

椿「まだ聞きたいことあったのに～！」ﾋｷｽﾞﾗﾚｰ

【大阪の国鉄運転指令所】

「室長の北野です。二日前に東海道新幹線でN700系7000番代ー『みずほ』や『さくら』用の列車を使った代行運転があったかどうか、ですね？」

「結論から申し上げますと、そのようなことはありませんでした。東海道新幹線はこの前の大雨の影響で博多行きの列車が新下関や広島止まりになったこと以外、通常通りの運行です」

惠「えっ」

芽衣子「遅延なんかも無かったってことですよね？」

「そうです。これで答えになりましたでしょうか？」

芽衣子「はい、ありがとうございます」

惠「ありすちゃんから連絡よ。Pさんの写真は加工とかはされてない、って……犯人は決まったわね」

芽衣子「うん……」

夏美「？警部、何か違和感があるの？」

芽衣子「私の勘なんだけど、白菊さんは嘘をついてないような気がするんだ」

惠「でも代行運転もしてないし、写真にトリックがあるわけでもないみたいだよ？」

芽衣子「白菊さんが犯人だとして、そんなに簡単にバレる嘘をつくのかなって思うな」

椿「確かに……でも慌ててしまってとっさに嘘をついてしまったのかも」

美里「私も嘘をついてない気がしたな。あの目は本当のことを言ってる目だったよぉ」

夏美「うーん……」

芽衣子「そうだ、私たちも一回大山崎駅に行ってみようよ！そこでほんとに『さくら』が来なかったらそこで白菊さんがクロだって分かるしさ」

【翌日・阪急大山崎駅】

ほたる「刑事さん、私の無実は証明されるんでしょうか……」

惠「それはあなたが嘘をついているか次第ね」

ほたる「嘘なんかついていません！」

芽衣子「まあまあ白菊さん、もうすぐ時間だし落ち着いて。惠ちゃんも色々言わない」

椿「来るのでしょうか……」ｶﾒﾗｶﾏｴ

ﾌｧｰﾝ

芽衣子「あ……」

ほたる「刑事さん！来ましたよ！水色の新幹線です！良かったぁ……」ﾍﾅﾍﾅ

美里「嘘ぉ！？」

惠「そんな……何で！？」

高森藍子「新幹線に興味があるんですか？」

芽衣子「興味というか、何でここを『さくら』が通ったのか知りたいんです。ご存じなんですか？」

藍子「はい♪皆さん、この間の大雨で九州にある新幹線の車両基地が水没したのは知っていますか？」

夏美「そういえばニュースになってたわね、それがどうしたの？」

藍子「そのせいで新幹線の整備ができなくなってしまったので、一部の電車を東海道新幹線の工場がある浜松まで移動させて検査をしているんです。とっても珍しいことだそうですよ」

椿「……でも、それなら山陽新幹線の基地に持っていけばいいんじゃないですか？広島や岡山にもありましたよね？」

藍子「山陽新幹線の一番大きい車両基地は博多にあるんですが、そこも被害が大きいらしくて……広島や岡山の工場はそちらの修理で忙しくなっちゃって、受け入れられるのが浜松しか無かったそうなんです」

藍子「ただ、明日からは吹田の基地に送るのでここで見られるのは今日が最後だそうです。皆さん、とっても運が良かったんですよ。私は新幹線が速すぎて撮るのに失敗しちゃいましたが」ｼｭﾝ

夏美「つまり……」

ほたる「今日来れなかったら、私逮捕されてたんでしょうか……」

惠「おそらくね。私と夏美さんは白菊さんが嘘をついてると思ってたから」

椿「傷つけてしまってごめんなさい」

椿(……？傷つける……傷……)

芽衣子「でもPさんにもアリバイがあるし……そのアリバイが嘘なのか、それとも強盗だったのかな？」

ほたる「おじさんが嘘をつくのは考えられないですね……あの人は嘘がとにかく苦手なんです」

椿(嘘がつけない……)

芽衣子「とにかく一回署に戻って、調べなおさn「あっ！」

夏美「！？」

美里「椿ちゃん！？」

椿「分かったんです！Pさんが桜の写真を渡した理由が！」

【関西国際空港】

P「ふぅ、飛行機の時間は……っと」ｷｮﾛｷｮﾛ

芽衣子「Pさん」

P「あ、刑事さん。どうしたんですか？」

夏美「貴方に逮捕状が出てるわ。署まで来てもらうわよ」

P「逮捕状？何故です？」

芽衣子「とぼけないで！鷹富士茄子さんを殺したのは貴方でしょ？」

P「っ……ぼ、僕には出来ませんよ。その日京都にさくらを撮りに行っていたんですから」

椿「ええ、確かにPさんはさくらを撮りました。……大雨のせいで臨時で復活している寝台特急『さくら』あたりでしょうけどね」

P「……」

椿「貴方のカメラのレンズには傷が入っていました。でも、そのカメラで撮ったはずの写真には傷が映り込んでいない……つまりあの写真はあなたのカメラで撮ったものではないんです。おそらく、他の誰かに頼んで撮ってもらった写真じゃないですか？」

芽衣子「貴方は嘘がつけないと、白菊さんは言っていました。だから貴方は実際にさくらを撮りに行ったんだよね。そこで寝台特急『さくら』を撮って、アリバイを聞かれても『さくらを撮りに行っていました』と答えられ
るように。確かに嘘にはならないよね、どの『さくら』かを言ったわけじゃないから」

惠「あなた、本当は午後1時頃に何をしていたのかしら？」

P「……姉は幸運な人でした。望めばすべてが手に入り、努力しないでも家業でぼろ儲け出来るような人。ただ、その幸運は周辺の人を不幸にして勝ち取ったものだったんです」

P「兄はそれに耐えられなくなって出ていきました。その先でほたるを授かってーその帰りに事故死しましたがね。父も母も、自分の運をことごとく吸われたあげくに死んでいます」

美里「何で貴方は生きていられたのぉ？」

P「僕も人並み以上には運が悪いですよ……おそらく僕まで殺してしまえば、姉の周りから運を吸い上げるべき人がいなくなるからでしょうね」

P「ほたるはそれでも姉に会いに来ました。運のいい親戚がいるので会いたいんです、って。姉が運を吸い上げて幸運になっているのかも知らないで！姉は笑っていました。これで運を吸い上げる対象が出来た、とでも言いたげに……」

芽衣子「だからって人を殺していい理由にはならないでしょ！それに、茄子さんを殺されて濡れ衣を着せられかけた白菊さんがもっと不幸になるって考えなかったの！？」

P「……僕は、僕は……！」

芽衣子「……誰もが幸せになる方法なんて、なかったんだよ」

ｶﾞﾁｬﾝ

ｶｰｯﾄ!　ｵﾂｶﾚｻﾏﾃﾞｼﾀｰ!　ｶｴｯﾃｷｬｯﾂﾉｼｱｲﾐｰﾖｯﾄ!

P「いやー、標準語にすんのキツいわー」ﾄｸｼｭﾒｲｸﾊｶﾞｼｰ

芽衣子「落ち着いた警部役大変だったよ……上手く出来てたかなぁ」

P「俺が見てた感じやと問題なかったで、お疲れ様」

茄子「」ﾆｺﾆｺ

ほたる「か、茄子さん……」

P「ﾋｴｯ」

茄子「怒ってませんよ～？被害者役も楽しかったですし」

P「……今度の打ち上げでの茄子さんの分の奢りでどうでしょう」

茄子「全員分で♪」

P「グッバイ財布……もともとそのつもりやったけどさぁ」

【そして放送翌日】

P「はい、はい、ありがとうございます……では失礼します」ｶﾞﾁｬﾝ

P「芽衣子、あのドラマやけど思ったより評判ええらしいから続編作るかもって」

芽衣子「ほんとっ！？やったぁ！」

P「ちなみにネットの反応はこんな感じや」ﾋｮｲ

芽衣子「なになに……」

『犯人Pやろ間違いない』

『ほたるちゃんが犯罪しようとしたら不幸にも失敗するもんな』

『それな、茄子さんを倒せるわけがない』　　

『慌てるほたるにほたほたしてきた』

芽衣子「キャスティングミス！！！」