1: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 22:28:11.21 ID:dSgg3BIH0
1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。
人は「深夜食堂」って言ってるよ。
……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。
ガラガラ
美希「こんばんはー、なの! マスター!」
マスター「おう、いらっしゃい」
この娘は、星井美希ちゃん。765プロって言うアイドル事務所に勤めてるアイドルさ。
美希「おにぎり!」
マスター「具は、どうするんだ?」
美希「えーっと……、たらこ、ある?」
マスター「あるよ」
美希「じゃあ、たらこで3つ作って欲しいの!」
マスター「……あいよ」
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3: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 22:34:48.51 ID:dSgg3BIH0
美希ちゃんは、いっつもおにぎりを頬張る。具は決まってるもんじゃない。
たまに注文されるバターおにぎりは、彼女以外の客にも好評だ。
マスター「……はい、お待ち」
美希「やった! 待ってたの~! いっただっきまーすっ」パクッ
美希「おいしいのーっ! やっぱりマスターのおにぎりは最高なの!」
ガラガラ
千早「…………こんばんは」
マスター「…………いらっしゃい」
美希「ちっ、千早さん? どうしたの?」
千早「美希、あなたこんな夜更けに大丈夫なの?」
美希「今日はこっちに泊まりだから関係ないのっ!」
彼女は、如月千早ちゃん。美希ちゃんと同じ事務所の、アイドルだ。
前にこの店に来た時には、その横にはプロデューサーが立っていたが、今日は彼女は一人だ。
マスター「ご注文は?」
千早「えっ……と、……オムライス、で」
マスター「あいよ」
4: >>2 ドラマしか見てないですが… 2013/01/30(水) 22:39:02.31 ID:dSgg3BIH0
フライパンに油をしいて、卵をとくボウルを用意する。
調理場から彼女たちの会話は聞こえていた。
美希「ねえ、千早さん」モグモグ
千早「なに?」
美希「どうしてオムライスなの? 確かに、マスターの卵料理は絶品だけど」
千早「……ええ、私、オムライスには思い出があるのよ。
――忘れられない、大切な思い出が」
美希「……弟さんとの?」
千早「っ……ぇ、ええ、そうね。ごめんなさい、突然言われたからびっくりして……」
美希「ううん、こっちこそごめんなさいなの。千早さんの弟さん……春香から聞いたことあるの。
もしかして、オムライスは二人で食べたご飯なの?」
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5: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 22:45:55.19 ID:dSgg3BIH0
千早「ええ、というか……母が、私と優……弟に、よく作ってくれたの」
美希「思い出の味、なんだね」
千早「そうね。弟は、もういないけど……。オムライスを作ってくれなんて、半分けんか別れしたみたいな母親には言えないから。
でも、ファミレスの味は私の思い出と……少し、ズレているの」
美希「だから、此処に来たんだね。……ハニーは、どうしたの?」
千早「プロデューサーと行った時、道を覚えたから。……今日は一人で歩いてきたのよ」
美希「そっか。765プロにも、このお店のファンが広がってるの。嬉しい、って思うな」
千早「前は、普通に豚汁定食だったけれど……。どうしても、今日食べたくなって」
美希「何かあったの?」
千早「今日、命日なのよ」
マスター「……お待ちどうさま、オムライスだ」
千早「ありがとうございます」
6: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 22:52:53.42 ID:dSgg3BIH0
千早ちゃんはスプーンを持って、ゆっくり、ゆっくりと一口ずつ食べ始めた。
四、五口ほど食べた所で「おいしいです」と言って笑った。
千早「美希、やっぱり此処のお店はおいしいわ」
美希「良かったの。美希も嬉しいな」
千早「本当に、おいしい。バターの加減も、チキンライスの甘さも、卵のふんわりとした感じも。
とっても、懐かしい」
美希ちゃんが最後の一つのおにぎりを食べ終わった所で、千早ちゃんはふと言った。
オムライスは半分ほど残っている。
千早「あの、マスター。これ、ラップに包んでもらっても良いですか?
墓前に、備えたくて」
マスター「いいよ。タッパーはあるのかい?」
千早「……はい」
美希「半分こ、するの?」
千早「昔から私と優は、一つのお皿を半分こしていたのよ。
きっと将来は、優が私の分までぜんぶ食べちゃって、それで…………って思ってた」
美希「……そうなんだ」
マスター「お待ちどう。美希ちゃんも、1000円ね」
千早「ありがとうございました、おいしかったです」
美希「美希、また来るね!」
千早ちゃんがピン札、美希ちゃんが二つ折りの千円札を机に置いて帰っていく。
ピシャン、と戸が静かに閉まった。
7: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 22:57:46.00 ID:dSgg3BIH0
―― 「優、来たよ」 ――
―― 「これね、お店のマスターに作ってもらったオムライスよ。お皿じゃなくて、タッパーの中だけれど」 ――
―― 「昔は、なんでも半分こしていて。楽しかったわね」 ――
千早「ほんと、楽しかった……」
千種「千早?」
千早「……母さん」
千種「……来ていたのね。それは、オムライス……かしら」
千早「……ええ。昔、よく作ってもらった」
千種「誰が作ったものなの?」
千早「よく行くお店の、マスター。母さんの味によく似ていて、とってもおいしかった」
千種「…………そう」
千早「ねえ、母さん」
千種「何?」
千早「私に、今度オムライスを作ってくれないかしら? そして……半分ずつ、食べない?」
8: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 23:03:42.87 ID:dSgg3BIH0
ガラガラ
美希「こんばんはー、なの」
貴音「今晩は」
マスター「いらっしゃい」
美希ちゃんは、相変わらず765プロの同業アイドルをよく連れてきてくれる。
アイドルにミーハーな客が、サインをねだってくるが彼女たちは断らずに笑顔で対応してくれている。
どうやら、プロデューサーの兄ちゃんに「深夜食堂の客はみんな仲間」って言われているらしい。
男客A「マスター、俺おにぎり!」
美希「あー、マネしないでほしいな! 美希もおにぎり!
今日の具は……食べるまで分からないような、マスターのおすすめ!」
マスター「あいよ。……そっちのお客さんは?」
9: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 23:08:01.16 ID:dSgg3BIH0
貴音「それでは、らぁめんをお願い致します」
マスター「醤油ラーメン?」
貴音「はい」
マスター「あいよ」
千早ちゃんは、あれ以来顔を見せなくなっていた。
美希ちゃんの話によると、母親のオムライスを食べることが出来たらしい。
マスター「……美希ちゃん」
美希「どうしたのマスター?」
マスター「……また、千早ちゃんは来てくれるかねぇ」
美希「来るよ」
……即答だった。
マスター「どうして分かるんだ?」
美希「だって、千早さん言ってたの」
―― 『今度は、半分じゃなくて。……まるごと、全部食べに行きたいわ』 ――
貴音「……ますたぁ。やはりわたくし、おむらいすに致します」
マスター「え?」
貴音「……わたくしも、なんだか味わいたくなりました。”懐かしい味”の、おむらいすを」
マスター「……あいよ!」
第一話『オムライス』
10: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/30(水) 23:10:40.05 ID:dSgg3BIH0
千早「今日は、オムライスを作る時のワンポイントアドバイスです」
千早「オムライスは、卵とチキンライスのバランスがよくなければ美味しくありません。
気をつけましょう」
千早「バターは計二つ。入れるタイミングは、フライパンに流した卵が少し固まってきた時が一つ目。
完成したオムライスのチキンライスの中心に埋めるのが二つ目。高カ口リーですが、とても美味しいです」
千早「オムライスの、ワンポイントアドバイスでした」
17: VIPにかわりましてNIPPERがお送りします 2013/01/31(木) 15:17:12.36 ID:eYIbg7+p0
楽しみに待ってる!
19: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:13:25.92 ID:K44s42Jz0
1日が終わり人々が家路へと急ぐ頃、俺の1日は始まる。
メニューは、豚汁定食・ビール・焼酎だけ。
あとは勝手に注文してくれたら、できるもんは作るよってのが俺の営業方針だ。
人は「深夜食堂」って言ってるよ。
……客が来るかって? それが、結構来るんだよ。
ガラガラ
響「はいさーい、マスター!」
あずさ「こんばんは~」
真「こんばんは!」
マスター「おう、いらっしゃい」
最近、嬉しいことだが765プロのアイドルがよく店に来るんだ。
一番最初に入ってきた、戸を開けた娘が、我那覇響ちゃん。沖縄から単身上京して来ているんだってさ。
響「いつもの、トマトリゾットで!」
あずさ「じゃあ、軽いおつまみと、ビールを~」
三浦あずさちゃん。765プロでは数少ない成人らしいけど、俺から見ればまだまだ若いお姉ちゃんだ。
真「ボクは……えーっと、カツサンド! みたいなの、出来ますか?」
菊池真ちゃん。実際にこうして見るのは初めてだ。よく食いそうだなぁ。
マスター「あいよ」
20: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:22:35.43 ID:K44s42Jz0
最初に作るのは、カツサンド。パンを用意し、カツにパン粉を付ける準備だ。
同時に、あずさちゃんのおつまみを作る。
冷蔵庫に小松菜とベーコンがあったので、バターで軽く炒めることにした。
ガラガラ
遠藤「おいっす、親父」
響「遠藤のおじさん、はいさーい!」
遠藤「おぉ、響ちゃん、あずさちゃん。あと、真ちゃん。よくテレビ見てるよ」
マスター「いらっしゃい」
厨房から入口を見ると、常連の遠藤さんが来ていた。
このへんの会社に勤めるサラリーマンの親父だ。765プロのアイドルとよく話し、相談相手になってやってるらしい。
遠藤さんがやって来ると、このめしやはたちまち、相談室に様変わりするんだ。
遠藤「俺は、とりあえずビール」
マスター「あいよ」
フライパンの上で踊る小松菜とベーコンが、バターと合わさって良い風味を奏でている。
やがて皿に盛りつけ、ビールを2杯。あずさちゃんと遠藤さんに、おつまみとビールを出した。
マスター「お待ちどう。遠藤さん、おつまみはあずさちゃんのオーダーだけど、サービスするよ」
遠藤「おう、嬉しいね。じゃあ、あずさちゃん。乾杯」
あずさ「はい、乾杯!」
21: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:30:54.07 ID:K44s42Jz0
カツサンドとトマトリゾットを出した時、ちょうど真ちゃんが遠藤さんと話していた。
遠藤「俺は、真ちゃんはそのままで充分いいと思うんだけどねぇ」
真「でも、ボクは今『王子様』のお仕事しか、来ないんですよ」ハムッ
遠藤「いやぁ、お仕事があるだけいいことだよ。
王子様の仕事を100こなせば、10ぐらいはお姫様のお仕事が来るだろう?」
響「そうだぞー。真は今のまま頑張れば大丈夫さ!」
あずさ「あらら、そういう響ちゃんはどうなのかしら~?」
響「ふふん、あずささん! 真、遠藤のおじさん。見くびらないで欲しいぞ! 自分、完璧なんだからね!」
遠藤「はいはい、響ちゃんの『完璧』は何遍も聞いてるよ」
響「うがーっ! 別に軽々しく言ってる訳じゃないぞ~っ!」
遠藤さんは黒縁の眼鏡をくいっと上げて、笑う。
遠藤「……まぁ、真ちゃんは……頑張りなさい。きっと大丈夫」
真「は、はい! ありがとうございます!」
こうやって、765プロのアイドルだけじゃない……他の客も、遠藤さんに諭されて元気を取り戻していく。
遠藤「さて、と。……そろそろ、帰るよ。お金置いておくから」
マスター「ああ」
遠藤さんは1000円札を置いて、ゆっくりと出て行った。
22: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:36:04.00 ID:K44s42Jz0
同じ柄なのに、お札の出し方やその折れ目は三者三様だったね。
真「カツサンド、本当に美味しかったです! ありがとうございます、マスター!」
あずさ「マスターや遠藤さんのお話を聞きながら、みんなと飲むお酒とおつまみは本当に美味しいです~。
今度、職場の事務員さんも連れてきてもいいですか~?」
マスター「ああ、いつでもいいよ」
響「それじゃあ、マスター。そろそろ帰るね! 一応自分達、前からこのお店に来たかったから、
明日は午前にオフを取ってたんだ」
マスター「そうか、ありがとうな」
真「それじゃあ、また来ます!」
あずさ「おやすみなさい~」
響「じゃあね、マスター!」
マスター「おう、また来いよ」
戸が閉まる。時計を見ると、もう四時半ぐらいだ。
近くのバーのおっちゃんは、五時過ぎから来ることもあるんだ。
それまでに、皿でも洗っておこうか。
23: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:42:07.14 ID:K44s42Jz0
P「響、本当に大丈夫なのか? その捻挫。
せめて、貴音と美希には伝えたほうがいいんじゃないか?」
響「大丈夫だぞ! 自分が迷惑かけるにはいかないから」
P「そうか……? じゃあ、何かあったらすぐに撮影、中止するからな。
『ヴァンパイアガール』のPV撮影は、いつにでも変えられるから」
響「うん! じゃあ、スタジオの方に行ってくるね。美希と貴音、いるんでしょ?」
P「ああ。気をつけて行ってこいよ」
――
響「おまたせー!」
美希「あーん、響ぃ、遅いの!」
貴音「待ちくたびれましたよ、響」
響「2人とも、待たせてゴメンね!」
貴音「いえ。……響、美希。実は、この撮影所のすぐそばに有名ならぁめん店があるのです。
仕込みの時間が3時からなので、食べに行きませんか?」
美希「さんせーなの! 貴音が言うってことは、きっとすっごく美味しいのっ!」
響「分かった! まだ12時半だし、大丈夫だよね!」
24: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:48:04.54 ID:K44s42Jz0
ガラガラ
響「…………こんばんは」
マスター「……いらっしゃい」
煙草を片手に新聞を読んでいると、響ちゃんが一人で入ってきた。いっつも友達と一緒にいるんだけどな。
そして、暗い表情をしている。コートの色も黒で、響ちゃんらしさがまるでなかった。
響「……え……っと、トマトリゾットで」
マスター「……あいよ」
トマトリゾットは、思われているよりも作りやすい料理だ。
そりゃあ、多少の仕込みは必要だけれど、それでも充分に作りやすく、味も整う。
暗く、下を向いたままの響ちゃんに料理を出した。
マスター「……お待ちどうさま」
響「……ありがとう、マスター。いただきます」
手を合わせて、スプーンで一口、一口とゆっくり食べていく。
響「おいしい。おいしいな。やっぱり」
マスター「…………どうしたんだよ」
響「えっと…………」
響ちゃんはスプーンをリゾットの皿に立てかけた。
25: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 22:57:37.97 ID:K44s42Jz0
響「自分、失敗しちゃったんだ」
マスター「……何を?」
響「この間自分、このお店に来たでしょ。あの次の日、右足を捻挫しちゃって」
マスター「それで?」
響「2、3日は特にダンスを踊ったりすることもなくて、なんともなかった。
なんとなく、痛みも引いてきている気がしたんだ。
でも、今日『ヴァンパイアガール』って曲のPV撮影があって。PVだから、当然歌って踊るんだ。
自分、捻挫だってことをプロデューサーにしか言わないで、一緒に撮影した美希と貴音に隠してたんだ」
響ちゃんはスプーンを持って、また一口ずつ食べ始めた。
響「撮影が始まるちょっと前、貴音が『スタジオの近くにあるラーメン屋に行きたい』って言ったんだ。
そこって3時から仕込みで、そうなると8時まで閉まってるんだけど、その時はまだ12時半ぐらいだったから、
余裕だと思って『一緒に行こう』って」
マスター「ああ」
響「それでも、捻挫がやっぱり、まだ治ってなくて。転んじゃって。それで焦って、声も出なくて。
でも自分、『まだやれます』って言い続けて……撮影が中止になったのは、3時すぎだったんだ」
マスター「……ラーメン、食べられなかったのか」
響「直接は言わなれなかったけど、きっと貴音……悲しんでた。
美希は励ましてくれたけど。自分、何にもできなかった」
26: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 23:03:18.67 ID:K44s42Jz0
マスター「別にさ、そんなに思いつめることないんじゃないかな」
響「……でも、自分」
ガラガラ
遠藤「よう。響ちゃんも来てたのか」
マスター「いらっしゃい」
響「……遠藤の、おじさん」
遠藤「おいおいどうした? 珍しく元気ないじゃねぇか。完璧じゃないのか?」
響「…………、……うん」
遠藤「…………ビール、もらえる?」
マスター「あいよ」
遠藤さんが「詳しく聞かせてほしい」と言って、響ちゃんが俺に話したことと同じ内容を言った。
ビールを出すと、遠藤さんは小さく会釈をした。
遠藤「難しく考えることないぞ」
響「えっ?」
遠藤「ラーメンが食えなかったのなら、今度貴音ちゃんを連れて行けばいいんだろ」
27: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 23:09:06.11 ID:K44s42Jz0
響「…………でも、きっと貴音は今日食べたかったって思うんだ」
遠藤「別に貴音ちゃんは、今日食うとか明日食うとか、そんなことにこだわってないだろう。
美希ちゃんと、響ちゃんとの3人で、ラーメンを食いたかったんだろ」
響「え……」
遠藤「今日食いたかったんだったら、夜にとっくに出かけてるさ。8時からは開いてるんだろ?」
響「うん」
遠藤「でも、きっと貴音ちゃんは食いになんて行ってないよ。だって、響ちゃんと食いたいんだから」
響「そう、なのかな」
遠藤「ああ。…………ところでさ、そのトマトリゾット。毎回食ってるよな。なんか意味とかがあるのか?」
響「えっと、これは……思い出の食事、みたいな」
遠藤「おふくろの味?」
響「ううん。自分、実家が沖縄なんだ。それで、アイドルになりたくて上京してきた時に、
東京の定食屋さんではじめて食べた食事なんだ。なんで定食屋にトマトリゾットが、って思って」
遠藤「そうか」
響「うん。…………どんな食べ物よりも、おいしかった。それ以来、自分を勇気づけたい時とか、そういう時に食べてるんだ」
28: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 23:16:16.65 ID:K44s42Jz0
遠藤「そういう味は、大切にしなさい」
響「うん、ありがとう、おじさん。……マスター。おいしかった。ごちそうさま」
マスター「おう、お粗末さま」
響「…………ちょっと、元気でたかも」
響ちゃんは1000円を取り出して、カウンターに置いた。
響「それじゃあ、マスター。遠藤のおじさん。また来るね」
遠藤「気をつけて帰れよ」
マスター「おやすみ」
響ちゃんは自分の頬を数回叩いて、「よし」と呟いて戸を開ける。
――開けた先に、貴音ちゃんが立っていた。
響「うわぁ! たっ、貴音……?」
貴音「響! ここに居たのですね……。携帯にも通じず、家にも居なかったので心配で……」
貴音ちゃんは自分の携帯を握り締めている。
響「あ、あの、貴音。今日、ラーメン食べられなくて、ごめんなさい」
貴音「え……? ……響。そんなことを、気にしていたのですか?」
響「そ、そんなことなんて言わなくてもいいだろ!」
貴音「いいえ、そんなことです。貴方が謝ることなんてないのです。
……わたくしはラーメンでなくても、響や美希と一緒に食事が出来れば。
二人の笑顔を見ることが、わたくしの一番の幸せです」
響「た、貴音……」
貴音「わたくしは今から、せっかくですのでこのお店でらぁめんを頂きます。
響。隣にいてくれませんか?」
響「……うんっ!」
第二話『トマトリゾット』
29: ネル ◆K8xLCj98/Y 2013/01/31(木) 23:18:21.03 ID:K44s42Jz0
響「トマトリゾットのワンポイントアドバイスだぞ!」
響「トマトリゾットを作るんだったら、やっぱり本物のトマトがいいかな!
2~3個買ってきて、ミキサーを使って上手く調理しよう」
響「ご飯にはもちろん水を入れるけど、べちゃべちゃにならないようにした方がいいぞ。
それでも、そのご飯が好きな人なら、適量で。要するに、好みってことさ」
響「トマトリゾットのワンポイントアドバイス、終わり! また見てねっ」
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